著者
木俣 元一
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

12世紀末から13世紀中期にかけての西欧における聖顔(ヴェロニカ)信仰の成立及び展開の諸様相を『詩編』や『ヨハネ黙示録』等の写本をはじめとする美術作品やテクストに基づいて詳細に跡づけ、イギリスで発展した理由や意義を当時の歴史的背景である終末に関わる思想やアングロ=サクソン以降の地域的伝統との関連で考察して、ヴェロニカのイメージと祈祷文が位置づけられる個人的祈念における宗教的実践の諸相を明らかにした。
著者
小嶋 章吾 嶌末 憲子 大石 剛史
出版者
国際医療福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、地域包括ケア推進に不可欠な多職種連携のために、とちぎソーシャルケアサービス従事者協議会の活動を研究対象とし、ソーシャルケア職能団体基盤型IPWのモデル構築を行なうことを目的とした。その結果、①先行研究より、IPWにとって葛藤対応の重要性が明らかとなった。②同協議会のコアメンバー及び介護支援専門員を加えた16名を対象として実施した連携スキル向上研修の前後比較により、7カテゴリー、18項目からなるIPWコンピテンシーのうち、合意形成の努力の増加が有意に確認できた。③グループワークのリフレクションにより、多職種連携強化のための職能団体基盤型IPWの政策提言機能を実証することができた。
著者
妹尾 裕彦
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

極度の貧困を抱えているのみならず、ときに内戦下にある破綻国家(脆弱国家)の発生を如何に防ぐべきか。またこうした国々で進められている平和構築が後戻りせず持続可能となるためには、どのような条件が必要なのか。本研究では、破綻国家とは「開発の失敗」であり、またこの開発の失敗の一因が、熱帯産一次産品の価格低迷にあるという観点から、こうした価格低迷による国家の破綻の実態、ならびにこの国家の破綻を防ぎうる諸方策の可能性と射程について検討した。
著者
秡川 友宏
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本萌芽研究では、「視覚障碍者自身がバーコードを利活用する」という目的を達成するため、(1)端末の改良,(2)パッケージの工夫,(3)情報の充実を並行して行った。(1)は、バーコード発見の画像処理アルゴリズム,賞味期限を読み上げるスキャナ,現状の携帯で使用可能な読み取り補助具を開発した。(2)は、製造コストの増加なしに位置特定を可能とする手法の実証と、デザインガイドの配布を行った。(3)は調理法とアレルゲンなどの付加情報を管理可能とした。蝕知パッケージは2014年後半に実際に市場に登場することが内定しており、これにあわせて試作システムを手直しして順次公開し、成果を一般に還元する予定である。
著者
伏田 幸夫 原田 真市
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

アンギオテンシンIIを介した細胞の増殖や間質の線維化および抗アポトーシスが胃癌の腹膜播種の成立に関与していると予想し、そのメカニズムの解明および治療への応用が可能か否かを検討した。その結果、胃癌組織中のアンギオテンシンII濃度は正常胃組織と比較して有意に高濃度であり、腫瘍周囲に浸潤した肥満細胞から発現されるmast cell tryptaseによって生成されることが明らかとなった。また、アンギオテンシンIIの受容体であるAT1は胃癌原発巣や腹膜播種巣に高率に発現していた。肥満細胞の機能を抑制し、かつTGFbの機能も抑制するトラニラストおよびAT1アンタゴニストのcandesartanを用いてマウス腹膜播種モデルにおいて播種が抑制されることを解明した。
著者
高木 邦子
出版者
聖隷クリストファー大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

新卒者のリアリティ・ショック軽減や離職防止のために、就職先となる福祉現場と福祉職養成機関がそれぞれ取り得る方策を提案した。結果、福祉現場にはソーシャル・サポートの提供が、教育機関には、社会的スキル教育、職業への動機づけ促進が求められることが示唆された。さらに現場と教育機関が連携し、福祉職志望者や内定者に対する現場経験の促進・提供が必要であることが示唆された。
著者
村井 宏栄
出版者
椙山女学園大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、中世という日本語書記法の多様性が最も拡大化した時期において、漢字片仮名交じり文の書記法を調査し、小字仮名の用法とその他文字分節方法との関わりの解明を目指したものである。本研究においては特に親鸞関係資料に注目し、『三帖和讃』においては「大字仮名+小字仮名」の表記種連続において小字仮名「ニ」への偏りが見られること、また『西方指南抄』の同仮名連続においては、同字反復が語頭に偏るのに対して重点(踊り字、「ヽ」)が非語頭に集中するという明確な分布を示し、仮名遣いの問題とともに言語分節の標示という点から統一的な説明を示した。
著者
伊藤 淑子
出版者
大正大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

女性の知性と論理性が美徳であるとは認められなかった時代に、果敢な声を挙げたマーガレット・フラーの著作を丁寧に分析することが本研究の目的であった。フラーの主著であり、アメリカのフェミニズムの先駆的な本であるにもかかわらず、屈折した論理展開と引用を多用する英語表現の難解さによって、日本ではあまり読まれてきたとはいえない『19世紀の女性』を日本語に訳し、研究期間中に出版した。フラーの主張には矛盾がないわけではない。本質主義的な性差を否定し、徹底した個人主義を貫きながら、フラーは理想的な人間関係の構築と社会改革を唱える。『19世紀の女性』以降の仕事も含め、フラーのキャリア形成を分析した。
著者
浦川 宏 綿岡 勲
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

諸外国からの商品と差別化できる繊維染色加工技術の開発をめざし、インクジェット染色法における基礎研究から技術開発までの一連の検討をおこなった。従来の蒸気で蒸す染料固着の代替として、2枚の熱した鉄板で固着処理をおこなう乾熱固着法での染色機構を明らかにし、天然染料では処理時間の短縮だけでなく従来法よりも濃色に染めうる手法であることを見いだした。またインクジェットを用いた天然染料の金属媒染の検討もおこなった。
著者
前田 樹海 山下 雅子 北島 泰子 辻 由紀 古澤 圭壱
出版者
東京有明医療大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

明らかな生命徴候の変化によらず近い将来の患者の死期を予見できる看護師の存在ならびに、かかる看護技術の特性、獲得様式を明らかにするために調査を実施した結果、(1)このような患者の死期を認識した経験のある看護師は経験年数との有意な関連が認められること、(2)生命徴候の明らかな変化によらない患者の死の予見のほとんどが看護記録に残されていないが「その予感を他のスタッフや家族に話した」「他のナースからその予感について聞かされた」など、確認可能な事実を以て事前にその死を予感していたケースがあること、(3)看取り以外にも、せん妄、転倒・転落などのリスクを暗黙的な技術で評価している可能性が示された。
著者
小宮 正安
出版者
横浜国立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、数あるヨーロッパの都市の中でなぜウィーンのみに「音楽都市」というイメージが具わり現代に至っているのかというテーマについて、観光事業を切り口として文化史的にアプローチした。とりわけ研究の最終年度にあたる今年度は、包括として次の4点を明らかにした。・ ハプスブルク帝国は、統一ドイツの覇権を巡ってプロイセンと熾烈な競争を展開し、その際「ドイツ芸術の護り手」として自らの優位を広く知らしめるため、ドイツ美学の中でもとりわけ重んじられていた音楽に着目し、首都ウィーンを「音楽都市」としてアピールした。・ この流れがオーストリア共和国にも受け継がれた。共和国は、国のアイデンティティを確保し、観光立国として繁栄させるために、「音楽都市ウィーン」のイメージを広め、数多くの観光客を誘致することを必須の課題とした。・ 特に第二次世界大戦以降、共和国が自治権を取り戻し、中立国として再出発するに及び、「音楽」による平和的文化交流の場として「音楽都市ウィーン」のイメージがクローズアップされるようになった。さらに1960年代以降における観光産業の隆盛により、「音楽都市ウィーン」のイメージはさらに強固なものとなった。・ ただしマス・トゥーリズムヘの迎合一辺倒ではなく、利便性に富んだ資料館や図書館を作ったり、音楽をテーマにした企画展を開催したりと、専門家や音楽愛好家のニーズにも応える幅広い政策が、官民の協力によっておこなわれている。これは我が国の文化事業にとっても、重要な示唆となる状況に他ならない。
著者
駒田 致和
出版者
福井大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

哺乳動物の大脳皮質の形成においては、適切な時期に適切な数の細胞が増殖・分化することが重要である。近年、終脳背側においてはradial glial cell(RGC)のほかに、intermediate progenitor cell(IPC)が存在していることが報告されている。我々は終脳背側のHedgehogシグナルが神経幹細胞の増殖や生存、分化を制御していることを報告し、さらに本研究では、特にRGCのIPCや神経細胞への分化、さらにはIPCから神経細胞への分化を調節していることを示した。その作用は胎生16. 5日においてより顕著であり、細胞周期を調節することによってRGCからIPC、さらには神経細胞への分化を制御している可能性がある。ヒトの大脳皮質では2、3層が高度に発達している。IPCは主にこの領域の神経細胞を産生することから、本研究は高次脳機能の形成や精神疾患の発症のメカニズムの解明に寄与することができる。
著者
岩清水 伴美 鈴木 みちえ 三輪 眞知子
出版者
聖隷クリストファー大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

A市をモデル地区に保育者の認知的スキルに働きかける虐待予防と支援技術向上プログラム開発とその評価をすることを目的に研究を実施した。教育プログラムは、保育者への調査をもとに作成した。プログラム内容は、虐待への理解、虐待による子どもへの影響、保護者への支援方法、子どもへの支援方法、事例検討である。教育プログラムを受講した40名の保育者は、受講前後の調査により虐待の知識と虐待対応の意識は有意に高くなり、子どもへの対応の視点も具体化した。
著者
井口 雅一 池井 寧 佐藤 誠 伊福部 達 廣瀬 通孝 舘 すすむ
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本研究の目的は、平成7年度に発足する重点領域研究「人工現実感に関する基礎的研究」の計画案を策定することである。本重点領域には、人間と仮想世界の関わり方に応じて4つの研究分野を設けている。これらの分野ごとに研究分担者の会合が開催され研究項目の設定や具体的な研究の進め方について議論が行われた。本重点領域では、各分野において専門的議論を進展させると同時に横断的視点を総合することで、基礎学問としての体系化を図ることを目指している。このため現在までに4つの分野の研究班の代表者による打ち合わせ会を開催し、各分野の分担と連携に関する意見交換を行なった。ここでは本重点領域が申請された時点以来の技術的展開も踏まえた議論が行なわれ、分担領域相互の再度の調整が行なわれた。この結果に基づいて、各分担領域の研究計画調書が起草され提出されている。さらに、本重点領域研究の総括班に参加予定の研究者を招いた研究会合を開催し、学際的な視点からの情報提供を受け、新たな研究項目の洗い出しも行なっている。これらの結果を総合して、本重点領域全体についての研究計画書が作成された。また、本重点領域研究が発足した後の全体会議の開催予定や、研究成果の公開の方法等についても、既に議論を開始している。その中で主要な会合や公開シンポジウムについての具体的な日程の調整や、研究予算の管理事務の方針などの運用面の検討も行なわれた。これらの結果により、重点領域研究の円滑な推進のための最終的なグランドデザインがまとめられている。
著者
奥村 剛
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

ソフトマターの先駆的研究でノーベル物理学賞を受賞した故de Gennes教授は、枝葉末節に目をつぶる独特の手法により、様々なテーマの研究を行い、シンプルな物理的本質を鮮やかにえぐりだした。そして、この研究手法を絵画における印象派主義にたとえ、物理学における印象派の精神を提唱した。本研究は、この精神に基づき、2次元バブルなどの濡れ・表面張力現象と、ソフトフォーム固体(クッション材)などの構造を持つ物質の破壊・強度、さらに、粉粒体について研究し、周辺異分野・化学工業・製品開発現場にも成果を還元され得るシンプルで直感的な理解を示した。その成果の一部は新聞・子供向け雑誌を通して一般社会にも還元された。
著者
陸 君 田浦 秀幸
出版者
京都文教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

この4年間、両研究者は前回科研費の調査方法を改善し、毎年の9月に一週間ほど、上海師範大学・外国語学院の英語学部にて、英語師範専攻の学生を中心に、入学から卒業まで、現地の縦断調査(TOEFL模試、教室内でのエスノグラフィカル・スタディー、学生と教員にインタビユー、学部長らとの会談等)を4回行った。また、最後の2年間は、学生の小・中・高校での実習現場も見学し、教員らとの懇談も実施した。最も印象的のは、見学した授業は全部英語で行い、教科書も系統的てした。調査結果は、二つの共著研究論文(立命館大学言語教育情報研究科に第1号と第2号)と一つの単著論文(京都文教大学人間学研究第14号)に掲載された。
著者
伴 周一
出版者
日本大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

箱の底面を透明または穴を開け撮影面とし、この箱に書籍を半分開いた状態で保持し、箱上部に取り付けたカメラから1頁を撮影する、アマチュアユーザーでも簡単に使用可能な書籍撮影専用装置を発明した。この方法を用いた箱形書籍デジタルアーカイブ作成用撮影装置の研究を行った。多数の書籍に対応した装置を研究し、アマチュアユーザーによるモニターテストも行った。その結果、この装置は誰でも簡単に多くの書籍のデジタル化が行えることがわかった。またタブレットPC・スマートフォンのカメラ機能やwifi通信機能をもつデジタルカメラを有効活用することで、撮影と同時にデータ処理が行えることがわかった。
著者
家中 茂
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

沿岸域資源管理と「里海」再生の活動及び放置された人工林の再生と「小さな経済」創出の活動について考察した。そして、多様なステークホルダーの関与をつうじて里海の多面的機能が生み出されているプロセスについて示した。また、専業化・産業化とは別に、副業的な関わりを多様に生み出すことで、森林と人との関係性が再創造されるプロセスについて示した。資源管理論から生業論へ、そして「ローカルなマーケット」論への展開が重要である。
著者
藤本 悦子 安藤 詳子 寳珠山 稔 菊森 豊根 福山 篤司 有田 広美 大島 千佳 永谷 幸子 竹野 ゆかり 間脇 彩奈 佐伯 街子 今井 常夫 阿部 まゆみ
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

リンパ浮腫を来した患肢のリンパ動態とCDTの効果を明らかにし、その成果に基づいて効果的なケアプログラムを開発する。動物とリンパ浮腫患者を対象とした2つのアプローチで行った。前者ではICG-PDEシステムを用い、in vivoでリンパを追跡した。後者ではMR画像から水分の貯留部位を同定した。両者共にCDTを施行し、CDTの効果を明らかにした。両アプローチから、リンパは特異的な分布を示すこと、CDTには浮腫を軽減する効果があることが明らかになった。さらにラットでは、正常時にはないリンパの排出ルートが出現し、これが浮腫の軽減に寄与していることが示唆された。これまでとは違ったケアが考えられた。
著者
中里 まき子
出版者
岩手大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

まず、ジャンヌ・ダルク処刑裁判を題材とする20世紀の文学作品(ジャン・アヌイ『ひばり』(1953)、ベルトルト・ブレヒト『ルーアンのジャンヌ・ダルク処刑裁判1431年』(1954)、ティエリー・モールニエ『ジャンヌと判事たち』(1949)等)を体系的に取り上げ、「ジャンヌ・ダルク処刑裁判記録」をはじめとする歴史資料との比較を試みることにより、各作家の創作の独自性を浮かび上がらせた。続いて、ジョルジュ・ベルナノスがエッセー『戻り異端で聖女のジャンヌ』(1929)において寡黙なジャンヌ・ダルクを提示したことに着目し、言語をめぐる同作家の問題意識との関連性を考察した。