著者
長野 俊一
出版者
岩手大学人文社会科学部
雑誌
言語と文化の諸相
巻号頁・発行日
pp.321-334, 1999-03-10

結婚で大団円を告げ、その先は、語るべきことがもはや何も残されていないかのような恋物語あるいは恋愛小説を拒否することからトルストイの小説『家庭の幸福』《Ceмeйнoe cчacтиe》は始まる。結婚は物語の最終章ではなく序章にすぎない。トゥルゲーネフの中編『アーシャ』を「ゴミ屑」1) と日記に記した作家に言わせれば、過去の恋愛小説は「まったくの戯言」2) だ。ジャンルとしてのロマン主義的恋愛小説そのものが死を宣告され、その終着点から真実の物語が新たに書き下ろされる。
著者
濱尾 章二
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.1-7, 1993-03-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
7
被引用文献数
10 11

ウグイスの雄の個体識別が,さえずりによってどの程度可能であるかを検討した.調査は1990-91年に新潟県妙高高原で行った.2羽の雄のさえずりについて分析したところ,人が聞いて異なるパターンだと思われた場合には明らかに異なるソナグラムが,同じパターンだと思われた場合には互いに大変よく似たソナグラムが得られた.25羽の雄のさえずりの聞こえ方を調べたところ,30のパターンが認められ,各個体が用いるパターンの組合せはほとんどの個体の間で異なっていた.これらのことから,ウグイスではさえずりによる個体識別がある程度可能であろうと思われた.
著者
鄭 鎭〓 金 泰勲 李 忠和
出版者
一般社団法人 日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.493-502, 1994-10-05 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
3

韓国の赤・黄色森林土壌群,暗赤色森林土壌群の分類体系を確立するために,これらの土壌群の分布が予想される西南海岸に隣接する丘陵地および底海抜山地ならびに中北部および東南部の低山地を対象として217個所の標準調査値を選定し,土壌断面の形態的特徴,土壌の理化学的性質,土壌型別の林木成長を分析した結果,以下のことが明らかになった. 1)赤・黄色森林土壌群は,明赤褐色〜赤褐色のA層と赤褐色のB層をもつ赤色森林土壌亜群および黄褐色〜褐色のA層と黄褐色〜黄橙色のB層からなって赤色森林土壌亜群より黄色味が濃い土色を呈する黄色森林土壌亜群に分類される. 2)暗赤色森林土壌群は,暗赤色のA層と赤褐ないし明赤褐色のB層をもち石灰岩を主な母材にする暗赤色土壌亜群と,暗褐色のA層と暗赤褐色のB層をもち堆積砕屑岩類を主な母材にする暗赤褐色土壌亜群に分類される. 3)赤・黄色森林土壌群および暗赤色森林土壌群は地形条件による水分環境,土壌構造の差異,土壌層位の発達程度,土色の差異によってそれぞれ3土壌型に分類できる. 4)赤・黄色森林土壌群のうち,黄色森林土壌亜群は赤色森林土壌亜群に比べてシルト,液相率,有機物含量,有効態リン酸含量,交換性塩基,塩基飽和度が若干高かった.暗赤色森林土壌群についてみると,暗赤色森林土壌亜群のほうが暗赤褐色森林土壌亜群に比べ,粘土, pH, CEC,交換性塩基含量,塩基飽和度が著しく高かった.また,赤・黄色森林土壌群と暗赤色森林土壌群の間では,砂およびシルト含量,固相率,透水性,有機物含量,交換性イオン含量,塩基飽和度に顕著な差があることがわかった. 5)同じ森林帯での土壌群間の森林の成長量は暗赤色森林土壌群が赤・黄色森林土壌群より良好な成長がみられた.また,同一土壌群の土壌型間でも成長の差が認められた.これらの結果は,森林土壌の土壌群および土壌型の分類が林木の成長予測に有効であることを示すものであった.
著者
COOKSON Simon
出版者
桜美林大学
雑誌
桜美林論考. 言語文化研究 (ISSN:21850674)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.17-33, 2011-03

1990年1月25日、アビアンカ航空52便は、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港へ着陸を試みたあとに、燃料切れで墜落した。いくつかの要因が墜落に関わっているが、その中には言語的要因も含まれる。そのためにこの事故は、ICAO(国際民間航空機関)によって、操縦士と管制官の航空英語能力の向上を、世界規模で目指すプログラムを立ち上げる必要性を訴えるために引用された。そして、2011年3月5日より、このプログラムの適応が開始された。本稿では、この事故を「スイスチーズ」の事故原因モデルを使って分析した。このモデルは、Reason(1990)が提唱したもので、後にWiegmannとShappell(2003)によって改定されたものである。分析結果は、言語的要因の重大性を確認するとともに、数々の言語以外の重大要因を示唆した。特に、ストレス、疲労、文化的要因が、フライト・クルーのコミュニケーションに影響を与えたことを明らかにした。
著者
八木 明男 近藤 克則 早坂 信哉 尾島 俊之
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.67-73, 2019 (Released:2019-10-26)
参考文献数
13

背景・目的 抑うつは高齢者の生活機能低下の原因の一つであり、その予防は公衆衛生上の重要な課題である。本研究では縦断デザインにより高齢者の浴槽入浴頻度と抑うつ傾向発症 ( 以下、うつ発症) との関連を評価することを目的とした。方法 日本老年学的評価研究2010年度版、2013年度版の両質問用紙に回答した高齢者のうち、日常生活動作が自立し、2010年度調査時点でGeriatric Depression Scale (GDS) 4点以下であった4,466人 ( 男性2,159人、女性2,307人) を対象とした。2013年度調査でのうつ発症 (GDS 5点以上) を目的変数、2010年度調査時点での浴槽入浴頻度 ( 夏と冬それぞれ) を説明変数とし、共変量として年齢、性、婚姻状況、就労状況、等価所得、教育年数、治療中の病気の有無を用い、ポアソン回帰分析により解析した。結果 新規うつ発症は、夏の週0-6回で14.1% 、週7回以上で11.5% 、冬の週0-6回で15.1% 、週7回以上で10.8% に生じた。多変量解析の結果、週0-6回を基準とした週7回以上でのうつ発症率比 (95% 信頼区間) は夏で0.84 (0.71-1.00) 、冬で0.77 (0.65-0.91) であった。考察 浴槽入浴頻度が高い高齢者では新規うつ発症が少ないことが示された。高齢者の浴槽入浴はうつ発症の予防につながる可能性が示唆される。
著者
河村 葉子 辻 郁子 杉田 たき子 山田 隆
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.170-177, 1997-06-05
参考文献数
11
被引用文献数
4

ステンレス製器具及び食器からの鉄, クロム, ニッケル, 鉛及びカドミウムの溶出について検討を行った. 溶出した鉄, クロム, ニッケルにおいては, 溶出溶媒では水<4%酢酸<0.5%クエン酸, 溶出条件では室温24時間<60℃30分間<95℃30分間<沸騰2時間の順に, 溶出量が多くなった. 市販及び使用中の器具及び食器について, 4%酢酸で60℃又は95℃30分間の溶出試験を行ったところ, 新品では鉄50~1,110ppb, クロム5~28ppbの溶出が認められたが, 使用中の製品では検出頻度, 検出値ともに低く, 繰り返しの使用により溶出量が低下するものと考えられた. また, 鉛は使用中の製品1検体から検出されたが, 25ppbと微量であった. 一方, カドミウム及びニッケルはいずれの製品からも検出されなかった.
著者
平松 祐司 北村 豊 長谷川 雄一 堀米 仁志
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

「ビタミンK低含有納豆様大豆食品」の開発を実施した。従来の研究のような納豆の発酵プロセスの改質にこだわらず、納豆粘性物質水溶液を利用して納豆風味を保持し、この水溶液に紫外線を加えてビタミンKおよび納豆菌を低減した大豆食品の加工を目指した。並行してビタミンK低産生納豆菌株の同定を実施した。粘性物質を粉末化したものを蒸煮大豆に還元し、納豆風味の大豆加工食品を作成した。1)粘性物質水溶液中のビタミンKの分解特性の解明、2)粘性物質水溶液中の納豆菌の熱特性の解明、3)粘性物質の乾燥特性の解明のための評価、さらにボランティアによる摂食試験を実施した。
著者
今村 浩一郎 濱住 啓之 佐伯 暖 岡 重雄 渋谷 一彦 佐々木 誠 金井 隆夫
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.25, no.7, pp.53-58, 2001-01-30
被引用文献数
16

地上デジタル放送におけるSFNを放送波中継で実現する場合、中継放送所の送受アンテナ間の回り込みによる発振や信号の劣化が大きな問題となる。この回り込み対策として、回路的に回り込みを打ち消す回り込みキヤンセラ、ならびに、低サイドローブ特性を有する平面受信アンテナの開発を行っている。本報告では、平成12年5月に東北地区の地上デジタル放送研究開発用共同利用施設である白石中継局において行った放送波中継SFN実験の結果について述べる。実験は、回り込みキヤンセラと平面受信アンテナを使用し、送受アンテナ非分離の形式で行った。この実験において、回り込み波の強さが親局波よりも強い条件下でも、安定に中継できることを確認した。
著者
和田 信哉 中川 裕之 岩田 耕司
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.69-80, 2017 (Released:2020-01-26)
参考文献数
21

本稿は,算術から代数への移行に関し,「初期の代数」の観点から算数へアプローチする研究の一環として,小学校第3学年「□を使った式」の授業構成について実証的に検討するものである。具体的には,児童の□の意味,式の見方,演算の相互関係の認識それぞれの変容を分析し,そこで現れる代数的推論を同定し,それらの変容とのかかわりを明らかにすることを目的とした。その結果,本授業構成では,一般的な指導とは異なり□を一般数として導入することで,児童たちは自然と□を使っていた。また,□の意味や式の見方,演算の相互関係の認識が相互作用的に変容して高まる姿がみられた。そしてその高まりには,代数的推論が密接にかかわっていることを示した。
著者
大瀧 真俊
出版者
日本農業史学会
雑誌
農業史研究 (ISSN:13475614)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.23-33, 2015 (Released:2017-03-23)

This paper focuses on the horse as the stockbreeding directly connected with military demand in modern Japan, and describes how the requisition and replenishment of horses were carried out in wartime. Through the analysis, this study makes clear following four points: 1) Military horses mobilized by the Japanese Army during World War II amounted to 500-600 thousands. It was not practiced suddenly, but had been prepared elaborately by improving Japanese horse's blood for thirty years over, with abundant investment of state capital and economical patience of farmers breeding or keeping horses. 2) When the Sino-Japanese war began in 1937, the Army requisitioned about 220 thousands of horses. It caused many problems especially in horse-using area such as Kanto region, the steep rise in price of buying and borrowing horses, hard work of left ones, and substitution of cattle, and so on. 3) The government carried out the horse-replenishing project immediately, which encouraged to import colts of isolated islands to horse-requisitioned areas with brokerage and subsidy for transportation. Its scale was insufficient to cover the shortage of farming horses, but it had an effect to modernize and rationalize the conventional distribution of horses on the other hand. 4) According to a horse-breeding research at that time, the farmers replenishing either colt or cattle for requisitioned horses were forced to work harder than before, but they couldn't avoid their cash flow became worse in the next year. It showed that horse requisition was impossible without bad influence for farming managements.
著者
阿部 千恵 村上 賢一 藤澤 宏幸
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.136-142, 2016 (Released:2016-04-20)
参考文献数
20
被引用文献数
4

【目的】急性期脳卒中患者の筋厚を測定し,その経時的変化について検討した。【方法】発症後24時間以内の初発脳卒中患者の麻痺側,非麻痺側の筋厚(外側広筋(以下,VL),前脛骨筋(以下,TA)),周径(大腿周径5 cm,大腿周径10 cm,下腿最大周径)を1病日から連続して7病日,その後14,21,28病日に測定した。【結果】VL,TA の筋厚減少は両側で2病日から生じ, 28病日まで減少が継続した。二元配置分散分析の結果,病日と測定肢の間に交互作用は認められなかったが,VL,TA は病日において主効果が認められた。周径では,病日と測定肢の間に交互作用は認められなかった。大腿周径はともに病日と測定肢において主効果が認められ,下腿周径は病日に主効果が認められた。【結語】急性期脳卒中患者では,廃用症候群が非常に早期から生じ,麻痺側・非麻痺側両方に筋萎縮をもたらしている可能性が示唆された。