著者
金澤 悠介
出版者
立教大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、コモンズの管理のありかたとそれに影響を及ぼす要因を計量的な手法により明らかにすることをつうじて、既存のコモンズ研究を刷新するような知見を獲得することである。『昭和49年全国山林原野入会林野慣行調査資料』に記載されている入会林野の事例をデータベース化し、計量分析を行ったところ、以下のような知見が得られた。(I)当時の入会林野の管理形態は、集落直轄型・権利流通型・半私有化型・古典的利用型の4つの類型に分類できる。(II)コモンズの管理形態には、人口構成や産業構成の変化といった社会変動が大きな影響を与えていた。
著者
後藤 直正 辻元 秀人 西野 武志 大槻 雅子
出版者
京都薬科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

セパシア菌(Pseudomonas cepacia)の外膜に存在する透過孔は,2つの異なるサブユニット(OpcP1およびOpcP2)により形成されているヘテロオリゴマー(OpcP0)であることを既に明らかにした。本年度の研究として,【.encircled1.】このサブユニットをコードする遺伝子のDNA塩基配列を明らかにすること,【.encircled2.】2つのサブユニットを精製し,それから元のオリゴマーを再構成すること,さらに【.encircled3.】それらを透過孔形成能を調べることを計画した。その結果,【.encircled1.】精製したOpcP1の部分アミノ酸配列から作成したDNAプローブを用いて,セパシア菌の染色体クローンバンクから,PCR法によりOpcP1断片を得た。このDNA配列は,数種のポーリンとの類似性を示した。また,OpcP2遺伝子についも同じ方法で研究を進めている。【.encircled2.】精製したサブユニットから,もとのオリゴマーを再構成することが出来た。また,精製したサブユニットの透過孔形成能を測定したところ,【.encircled3.】OpcP2では活性は観察されなかった。一方,OpcP1の活性は,もとのオリゴマーであるOpcP0の活性よりも高いことが分かった。これらの結果は,OpcP1によって形成された透過孔が,OprD2の結合により阻害されていること,さらに,緑脳菌(P.aeruginosa)のOprD2のゲート領域(孔の開閉を司る領域)とOpcP2の機能が類似していることを示している。遺伝子レベルでの研究は,その遂行のために克服すべき問題が幾つかあったために,本研究ではその解決に終始した。しかし,これは,今後の研究に大いに役立つものである。蛋白質レベルでの研究過程で明らかにしたOpcP0とOpcP2との類似性は,今後得られるであろう遺伝子レベルでの研究成果と相俟って,ポーリン研究に大きな情報を提供するものと期待される。
著者
藤井 恵子 藤井 智幸
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

近年日本人に不足しがちなミネラルや食物繊維を豊富に含み、また、食物アレルギーの主要原因食物(小麦、牛乳、卵など)を含まないパンが求められている。本研究ではアマランサス粉、ホワイトソルガム粉、もち粟粉とうるち粟粉をブレンドしパンを調製した。製パン性を検討した結果、ホワイトソルガム粉にアマランサス粉を25%混合したところ、ホワイトソルガム単独パンに比べ軟らかく内相にべたつきが認められた。もち粟粉とうるち粟粉の混合割合を変化させるとパンの比容積はほとんど変わらなかったが、もち粟粉の比率が高いほど軟らかいパンとなった。官能評価においても、イヌリンや豆乳を添加したパンは有意に好まれた。
著者
黒須 充
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

日本とドイツは今、共通の社会的課題を抱えている。本研究の遂行に当たり、日独の様々なスポーツ団体や組織を訪問し、現場の担当者や研究者と多くの話し合いを持つ機会を得た。そこで得られた知見は、日独のスポーツクラブとも、公的な補助金・助成金を受ける権利、税制上の優遇措置、公的施設をわずかの使用料で利用できる権利などが認められている一方、それに対してスポーツクラブが社会のために果たすべき義務も有している。スポーツクラブは会員の利益のために活動するだけではなく、同時に参加しない「第三者」あるいは社会全体に対しても公共の福祉を促進するために活動していかなければならないということである。
著者
福嶋 祐介 中村 由行 早川 典生
出版者
長岡技術科学大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

本研究の目的は下層密度流先端部の流動特性を乱流モデルにより解析し明らかにしようとすることである。下層密度流先端部の乱流構造、連行機構を明らかにするため、室内実験を行った。実験は淡水で満たされた水槽内に塩水を流入させて、下層密度流を形成させる。測定は密度流先端部に注目して行い、導電率計を用いて塩分濃度を測定した。また、流速の測定には水素気泡法を用いた。水路床勾配を変化させてこのような測定を行い、先端部の諸特性と水路床勾配、流入密度フラックスとの関係を調べた。このような室内実験により、代表的な密度フロントの一つである下層密度流先端部の流速分布特性と密度分布特性の変化を水理条件の変化と対応させて把握した。次に代表的な二方程式乱流モデルであるkーε乱流モデルを用いて下層密度流の非定常数値解析手法の開発を行った。数値解析手法としては、差分法、有限要素法等があるが、本研究ではこれらの手法に比べて数値的に安定であるとされ有限体積法を用い、基礎方程式である微分方程式を離散化する。数値解析はかなり複雑であり、その妥当性を検討するため、予備計算を行った。対象としたのは、下層密度流定常部である。この計算結果を下層密度流定常部の実験結果、及びkーε乱流モデルを用いた定常部の相似解と比較し、本解析手法の妥当性を確認した。この解析手法により、下層密度流先端部の数値解析を行い、その流動特性を調べた。計算結果として得られるものに流速分布と密度分布、先端部の形状が得られ、これらを実験値と比較し、解析結果が下層密度流先端部の流動特性をうまく説明できることがわかった。
著者
津止 正敏 斎藤 真緒
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究の焦点はケアとコミュニティである。介護者を中核として組織されるボランタリーなアソシエーション(会や集い等)が、ケア包摂型ともいうべき新たなコミュニティ開発の動力装置として機能するかという極めて実践的なテーマを設定した。近年増加が著しい男性介護者の会や集いにそのフィールドを求めた。活動への参与観察、主宰者へのインタビューや交流等を通して、介護者の会や集いは「ひとりじゃない」という確かな実感に溢れ、同じような立場の人との交流は、介護生活で失いつつあった社会との接点や連帯を修復する「場」となっていることが確認された。
著者
小林 進 鈴木 孝洋
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

キラルイミドを不斉補助基として用いるジアステレオ選択的反応は、複雑な骨格を有する標的分子の不斉合成において重要な手段として国内外で活用されている。本研究では本申請者がこれまでに開発した二種類のアルドール型反応に関し、(1)ビニロガス向山アルドール反応の改善、(2)不斉3級アルコールを含む1,2-ジオールの立体選択的合成法については、基質一般性の検討、(3)これらの方法論を活用した生物活性天然物の不斉合成への応用を行った。
著者
亀井 健史
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

現在わが国では、廃棄物処分の問題が社会問題化し廃棄物の有効利用が急務となっている。本研究では、産業廃棄物(廃石膏、石炭灰、高炉スラグ)からなる複合リサイクル材料の地盤改良材としての有効性を検討している。その結果、複合リサイクル材料の添加率の増加に伴って土の強度変形特性が大幅に改良され。エトリンガイト生成量や形状がその内部構造や強度発現過程と密接な関係があることを解明している。一方、地盤環境工学観点から重金属類(フッ素、六価クロム、カドミウム、鉛等)の溶出量が環境基準値を満足していることも確認し、本複合リサイクル材料のケ袁節材料としての有効性を学際的な面から実証している。
著者
入來 篤史
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

行動経済学はバブルを引き起こすと考えられるヒトの非合理的な行動の一部について説明することを始めている。たとえば、「貨幣錯覚」と呼ばれる現象は、インフレーション下で名目所得が増加すると実質所得は減っていても所得が増えたように錯覚することであり、購買行動を誘発することでバブルを引き起こすと考えられる。一方、神経経済学はバブルに関わるヒトの非合理的な行動を支持する神経基盤を明らかにしつつあるが、バブルが発生しているときに取引しているヒトの脳活動はこれまでに計測されていない。我々は、実際にバブルの様相を呈し破綻に至った投資会社の株式価格データを用いて、実際に株取引を行っているときの脳活動を計測した。被験者は取引により収益を最大化するよう求められ、参加の謝金が収益に依存することを理解して実験に参加した。実験の結果、バブル期の買い注文に関わる脳活動のなかで被験者の収益に相関するのは腹内側前頭前野(BA32)であった一方、売り注文に関わる脳活動のなかで被験者の収益に相関するのは外側前頭前野(BA10)であった。これらは我々の仮説を支持する。また、fMRI実験後に行った時間展望尺度アンケートの結果と相関するバブル期の買い注文の脳活動が左下頭頂小葉(BA40)に見られた。これらの結果から、下頭頂小葉で計算される株価の見通しが認知バイアスとして働くことで腹内側前頭前野の非合理的判断を誘導したのではないだろうか。もしそうであるならば、下頭頂小葉がヒトで大きく発達したことが、経済的な予測を可能にするのと同時にバブルという病理を生み出しているのかもしれない。
著者
山口 晋
出版者
目白大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究では,①地方都市の若者文化,とりわけ音楽文化と地域社会との関係,②大都市周辺地域における若者の転出入行動を場所感覚の観点から探求した。①については,フリーの野外音楽フェスティバルでは,日本最大規模の「上田ジョイント」の盛衰について,「上田ジョイント」の制度化と,オーガナイザーの「サブカルチャーからの卒業」をキー概念に分析した。②については,埼玉県戸田市における,転出入者の行動を調査票調査から明らかにした。その際には,転出入行動が顕著であったのが若年層であり,転出入先が戸田市に隣接する市に多いことが明らかになった。
著者
井上 祥史 伊藤 敏
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

仮想空間の中で疑似体験が可能な環境として, 磁場中の導体をマウスで触ってその中の電子の運動の仮想実験, 自分の脈拍と同期して動く心臓の表示, GPSを用いて古代遺跡を再現し鑑賞できる仮想現実システムなどを作成し, 教育利用に向けての評価を行った. またそれらの作成過程でUSB-IO を用いた制御教材およびImageJを用いた画像解析による運動解析の方法を提案し, 教材としての有用性を示した.
著者
吉松 梓 坂本 昭裕 渡邉 仁
出版者
駿河台大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究では、悩みを抱える思春期の青少年を対象に長期冒険キャンプを実践し、「身体」に着目してその意味を探ることを目的とした。研究1の質的分析の結果、「心と身体の関係性が変化する」プロセスとして「混沌とした心と身体」「心と身体のつながりや限界に気付く」「身体を入口として自分に向き合う」「自分の身体に自信を持つ」4段階が示された。また「心と身体の伴走者としてのスタッフ」「冒険プログラム特有の仲間関係を体験する」「原始的な自然の中でリアルな感情を抱く」など他者や環境との相互作用が影響していることが明らかになった。研究2の事例研究では、キャンプの体験が個性化の過程として意味があることが示唆された。
著者
磯田 桂史 伊藤 重剛
出版者
崇城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

明治初期、洋風建築が地方へ普及していく過程において、熊本県の場合、二つの伝播ルートがあった。長崎からの伝播ルートと東京からのルートである。当初、熊本側は、能動的に長崎ルートによって洋風建築を取り込み、そのため、東京ルートに数年先んじて伝播した。熊本県内に伝播してきた建築は、両ルートとも、明治10年代までは擬洋風建築であったが、明治20年頃相次いで本格的洋風建築が東京ルートによってもたらされ、それ以降、本格的洋風建築は県内に徐々に普及していった。
著者
井原 郁夫 鎌土 重晴 MUKHOPADHYAY Subhas Chandra
出版者
長岡技術科学大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

高温に加熱されている物体内部の3次元温度プロファイルを計測・モニタリングするための新しい超音波手法(超音波サーモメトリ)を創製し、この手法を高温場の材料加工プロセスに適用し、その有効性を実証することを目的とした開発研究を行った。まず、開発した超音波サーモメトリーの有用性を検証するために1次元温度プロファイリングにおける同定精度を理論的、定量的に明らかにし、それらを実験により検証した。次いで、同定精度の向上の方策として横波計測の使用について検討し、その有効性を実証した。さらに、汎用性の高い温度分布モニタリングを実現するために、回転体の内部および表面の温度プロファイリングについて検討した。最後に、本手法の実用化の観点から、鋳造プロセスモニタリングへの適用について検討した。
著者
村山 昌平 近藤 裕昭 三枝 信子 森本 真司
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

岐阜県高山市の冷温帯落葉広葉樹林において、炭素循環素過程の収支を評価するために、林内外の大気中CO_2濃度及びその酸素安定同位体比(δ^<18>O)、及びδ^<18>Oの変動要因と考えられる土壌中CO_2、降水、土壌水、水蒸気、葉内水のδ^<18>Oの系統的な観測を行った。得られた結果より大気中CO_2の^<18>Oの変動の特徴を明らかにし、その変動要因を考察するとともに、光合成、呼吸に伴う^<18>Oの同位体分別の変動を推定し、^<18>Oの収支からフラックス観測で得られる正味CO_2交換量を光合成と呼吸に分離評価する可能性について検討を行った。大気中CO_2のδ^<18>は、CO_2濃度と比べて複雑な日内変動を示したが、日中乾燥時には、光合成時のCO_2の^<18>Oの同位体分別が増大することに起因すると考えられる顕著なδ^<18>の増加が観測された。日中森林上で得られたCO_2のδ^<18>Oデータの季節変動は、冬季に低い値、春季に高い値を示したが、成長季は年々異なる変動を示した。成長季の変動については、相対湿度と負、日射量と正の有意な相関が見られ、夏季に湿潤であった年には初夏にδ^<18>Oは急減し、少雨で比較的乾燥した年には、初夏に最高値を示したのち緩やかに減少した。北半球中緯度の他サイトとの比較により、後者のような季節変動は、北米・ヨーロッパの多くのサイトで見られたが、前者のような変動は、モンスーンアジア域の特徴であることが示唆された。フラックス観測から推定された光合成・呼吸量と同位体分別を組み合わせてCO_2の^<18>Oのフラックスを推定し、林内1ボックスの収支モデルを用いて、観測されたCO_2のδ^<18>Oの変動と比較したが、推定された^<18>Oのフラックスから観測値の変動パターンを再現できず、光合成・呼吸量を精度良く分離推定するためには、森林内外の各層における素過程を再現する多層キャノピーモデルを用いた解析を行う必要があることが示唆された。
著者
竹内 あい
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は、複数の主体の意思決定がそれぞれの結果に相互に影響を与えるゲーム的状況において、他者のとる行動を推論する人としない人でどのように行動が異なるのか、実験を用いて検証することを目的としている。しかし、これまでの実験仮説は、過去の実験結果に基づくものであり、理論によって導かれたものではなかった。帰納的ゲーム理論、とくにKaneko and Kline(2009)の理論では、相手の状況について解らない場合(以下、NRS)は、他者の取る行動の推論の有無が行動に影響を与えず、一方で相手の状況について解る場合(以下、RS)は、これが行動に影響を与える。そこで、本年度は帰納的ゲーム理論に基づき実験仮説を立て、それを検証する実験を行った。具体的には、Kaneko & Kline(2009)の理論を囚人のジレンマに応用した実験を行った。理論に基づくと、NRSの場合、あるいはRSで相手のことを考えない場合には人々は協力をせず、RSで相手のことを自分と同じように考える場合は協力が生じると予測される。そこで、3種類の囚人のジレンマについて、それぞれRSとNRSの場合を比較する実験を行った。実験の結果、理論の予測通りNRSよりもRSの方がより協力が頻繁に観察された。これにより、他者の状況に関する情報がないため相手の取る行動を推論することが出来ない場合と、それが可能な場合との比較を行うことができた。また、より詳細な分析により、帰納的ゲーム理論の前提に関する分析を行うこともできた。これにより、今後の帰納的ゲーム理論の発展に寄与することが出来たと思われる。
著者
齋藤 弘一
出版者
宮城県警察科学捜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

○研究目的脱法ドラッグ等のスクリーニング分析において、IR分析は、迅速、簡便であり、GC/MSやLC/MSによる分析結果に対して相補的な情報が得られ、構造異性体の識別等にも有効である。しかし、IR分析によるスクリーニングのためには、前提条件として、薬物標準品の実測スペクトルデータが必要であるが、それらを網羅的に得ることは必ずしも容易ではない。そこで本研究では、違法薬物の化学的構造から、量子化学計算により、赤外吸収スペクトルを予測し、予測されたスペクトルにより違法ドラッグのスクリーニングが実現可能である否かを検討した。○研究方法包括指定薬物の化学構造から、非経験的分子軌道法を用いて、種々の基底関数により構造最適化を行った後、振動解析計算により、IRスペクトルを予測した。予測されたスペクトルについて、標準品の実測データとの比較を行った。赤外吸収スペクトルの予測計算には、Gaussianを用いた。○研究成果置換基の位置がo, m, pの構造異性体であるJWH-250、JWH-302、JWH-201について、基底関数としてB3LYP/6-311G (d, p)を選択して計算を行った場合、予測されたIRスペクトルは、実測されたスペクトルの違いを反映していることが認められた。しかし、ピーク波数には、振動の非調和性等に由来する系統的なずれがあり、単一のスケーリング係数では、実測スペクトルとのずれを、完全に一致させることは出来なかった。量子化学計算で求められるのは、分子1個の孤立系の場合であり、実際の試料では塩酸塩等で結晶構造を有しており、孤立系では赤外不活性であった結合が、結晶状態では赤外活性となりピークが増える場合もある。従って、赤外スペクトルの予測は、試料が気体状態の場合に、実測により一致すると考えられ、今後は、GC-IR等のように、試料中の単一成分ごとに気体状態のIRスペクトルが測定できる分析方法が望ましいことが示唆された。また、スペクトル検索アルゴリズムも、波数のずれを考慮した新たな手法の開発が望まれる。
著者
村松 泰子 大竹 美登利 直井 道子 福富 護 佐久間 亜紀 中澤 智恵 谷部 弘子 福元 真由美
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

ジェンダーの視点からの教員養成のあり方の検討に向け、現状と問題点の把握のため、教員養成系8大学の教員・学生両者を対象に実証的研究を行った。初年次に教員に対する質問紙調査(回答703名)、2年次に学生に対する質問紙調査(回答1209名)を実施、最終年次に両調査の結果を合わせ分析し報告書を作成した。調査内容は、教職観、大学教員の教育活動・学生観、学生の学習活動・大学教員観、教師-学生関係、ジェンダー観などである。結果の一部は、下記の通りである。1)大学教員の7割以上が小学校教師は、経済的に安定・大学院レベルの知識が必要としているが、女性教員の過半は女性向きとし、男性教員の過半はそう思っていない。2)多くの大学教員は、学生の学力・まじめさ・積極性・批判精神・将来性には性別による偏りはないと見ているが、批判精神と将来性は女性のほうが女子学生を高く評価している。3)学生は男女とも、男性教員に「専門的知識の深い人が多い」、女性教員に「まじめな人」「やさしい人が多い」というイメージをもつものが多い。4)一般的なジェンダー観に関して、大学教員では「能力や適性は男女で異なる」に男性の過半数は同意、女性の過半数は不同意など、性別による差が大きい。学生も性別により差が見られる。学生の多くが「男女の違いを認めあうことが大切」としているが、「義務教育でもっと男らしさや女らしさを大切に」教育することには多くが否定的である。5)義務教育段階での教師と児童生徒の関係について「毅然とした態度を取るべき」などの権威的な考え方は、女性より男性教員のほうがやや強く、ジェンダーバイアスが強い教員ほど強かった。学生でも、管理主義的な考え方が男子学生のほうにより強かった。以上の通り、大学教員では、ジェンダーに関わる態度や意識が性別により異なる面があり、学生では男女ともに、意識としては男女平等を志向しながらも、すでにジェンダーを内面化している傾向がうかがえた。
著者
麻生 和江 古城 建一
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

2003年4月からの知的障害者と大分大学学生とのダンスや福祉レクリエーション・サービスを通して、両者の「からだ」への意識変容を検証した。ダンス活動では、活動を進めていく中で、」大学生は戸惑いつつ,障害者との活動を進めていく過程で,知的障害者を観察し,健常者との違いを明確に把握することができた。他者と自分の違いを認識すること,他者の生を実感することは,健常者間でも求められる。しかしながら,知的障害者に実際に接することで,観念的でしかなかった「健常者」「知的障害者」の相違の根拠を認識することによって,自信を持って「他者と接する」ことができるようになった。それはまた自己の改革を導出することにもなった。知的障害をもつ人々の生活をみると,彼らはその障害の特殊性から,生きるための生活そのものも家族やボランティアや福祉施設等の組織的支援への依存度が高い。そういうわけで,福祉レクリエーションの掛け声は少しずつ高まっているとはいえ,生活のなかに,「こころとからだ」の楽しみを日常的に求めることは困難な状態に置かれている等の考察に至った。結論的には、知的障害者と大学生はダンス活動やレク・サービスを媒介とした交流で,「からだ」を実感する様々な体験を蓄積していき,お互いに生き生きとした「からだ」への認識を深めることができたと考えられる。
著者
岩尾 正倫 石橋 郁人 福田 勉
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

海洋天然物ラメラリンは、トポイソメラーゼIやプロテインキナーゼ(CDK, GSK-3, Pim1, DYRK1A, CLK等)を分子標的とする多機能性の抗がん物質である。本研究では、ラメラリンアナローグを用いた構造活性相関研究とドッキングシミュレーションによる阻害分子機構解析により、各分子標的に選択的な阻害剤を創製することを目的とした。その結果、ラメラリン骨格上の酸素官能基の適切な配置により、キナーゼ選択的(orトポI選択的)阻害剤の創製が可能であることが明らかになった。また、ラメラリン骨格C1-C11間の軸不斉に基づく16-メチルラメラリンNの二つのエナンチオマー間でキナーゼ阻害活性や選択性に大きな違いがあることも明らかになった。さらに、1位芳香環を置換したラメラリンN類縁体の多くが1位置換基の構造に依存して、キナーゼ阻害に有意な選択性を示すことも明らかになった。