著者
澤田 剛 MALIK A.K. MALLIK A.K.
出版者
熊本大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

環境科学、食品科学、臨床医学などの分野で重要な物質の幾何異性体を、高速液体クロマトグラフィによって分離、分析することは、分析化学の分野で重要な課題である。本研究では、高選択的な逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)に利用可能な、新奇な交互共重合ポリマーシリカハイブリッド型充填剤を開発することを目的としている。平成24年度は、分子ゲルを形成するL-グルタミド脂質を末端に導入し、アミド基を高密度で配向制御した超薄膜シリカ微粒子(si1-FIP)を合成し、RP-HPLC充填剤としての可能性を検討するとともに、これまでの研究成果をまとめて、図書の1章として発表した。Si1-FIPは、L-グルタミド脂質を合成してアミド基を置換後、アミノイソプロピルトリメトキシシラン(APS)修飾シリカ表面に導入して合成した。Si1-FIPを充填剤としてRP-HPLCを行った結果、多環芳香族類、特に、o-,p-ターフェニルの分離において高い形状選択性を示した(α_p<-/o-Terpheny1>=24.9)。また、これまでの研究成果を総括した結果、電荷移動相互作用を利用したN-マレイミド-オクタデシルアクリル酸エステルの交互共重合体や分子ゲル構造を利用した超薄膜を形成することで、アミド基やカルボニル基を高密度で配向制御した超薄膜が形成できることを見いだした。超薄膜シリカ微粒子をRP-HPLCの充填剤に利用することで、トコフェノール類やステロイド類、多環芳香族類をそれぞれ高い形状選択性を示した。特にトコフェノール異性体では、25min以内で完全分離が可能となった。これはL-グルタミド脂質部位とアミド基による水素結合、カルボニルπ相互作用等の弱い相互作用の多点集積化により、形状認識能が向上したためと考えられる。
著者
芳賀 京子
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究は古代ギリシアで祀られていた神像を、アイスキュロスにならい、神話にさかのぼる由来を持ち圧倒的な神性を備えていた「古き神像」と、アルカイック時代以降に彫刻家が新しい大理石彫刻・ブロンズ鋳造技術を用いて制作した「新しき神像」に二分し、それぞれの神性の特質について文献資料や現存する礼拝像の詳細な調査により考察するものである。その結果、前者の神性は強力だが接触的・限定的で、像の力が神の意志とは無関係に機能したのに対し、後者は像が神のダブルイメージとして機能することで視覚的かつ広範囲に力を及ぼし得たこと、その「新しい」神性を意識的に礼拝像に賦与したのがフェイディアスだったことが明らかとなった。
著者
戸水 吉信
出版者
金沢大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

学習指導要領の改訂に伴い,数学的な活用力を育てる授業のあり方についてこれまで研究をすすめてきた。本研究の目的および意義は,日常生活における身の回りの事象を数学的にモデル化し,数学的手法を用いてそれらの問題を解決する生徒の成功体験モデルを増やし,数学的な活用力を育てる授業モデルとして,データベース化をすすめることである。また,データベース化したものを冊子にまとめ,市内中学校へ配布すると共に,本校ホームページにアップすることで,より多くの数学指導者とそれらを共有し,さらによりよい授業のあり方について検討をすすめることができると考え,実践を行った。その実践内容は以下の通りである。(*)は,研究費で購入した電子黒板を用いた実践である。また,実践全般にわたって,研究費で購入したプリンタ・スキャナ複合機を用いて,生徒が書いたレポートの電子データベース化を行った。(1)6月単元「連立方程式」での実践買い物ゲームと問題づくり(2)8月データベースづくり(昨年度までの研究実践に基づいて)(3)9月単元「1次関数」での実践ダイヤグラムのシミュレーションと問題づくり(*)(4)10月単元「平行と合同」での実践デジタルカメラでの取材と電子データベース(*)(5)11月単元「平行と合同」での実践合同な黄金三角形づくりゲーム(6)1月単元「確率」での実践確率実験とシミュレーション(*)(7)2月単元「資料の活用」での実践問題解決型の課題設定の工夫これらの実践に,昨年度までの次の5つの実践を加えて,研究の成果を「数学的活用力を育てる授業のあり方~指導事例集~」という冊子にまとめた。(8)降雨時のトンネルの点検の必要性を,その降水量から正負の数を用いて解決する(9)等式の変形を利用して,まんじゅうの詰め方を考える(10)2次方程式を利用して条件にあった牛乳パックを作る(11)作図を用いて,鉄道建設の問題を解決する(12)相似な図形の性質を用いて,地図上の所要時間の問題を解決するこの冊子は金沢市内中学校に,5月の中学校数学教育研究会で配布する予定である。また,その冊子をPDF化したファイルを,本校数学科のページにアップした。
著者
宮崎 眞
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、(1) 複数の人が役割を分担する共同活動の中で言語行動の始発を促すより効果的なスクリプト・スクリプトフェイディング(以下、S・SF) 法の開発、(2)S・SF 法の特長を生かした新たな般化促進法、(3) スクリプトを自らが管理し活用する自己管理法の開発、である。対象者は5 名の知的障害を伴う自閉症者であった。制作やゲーム等の活動の中で、会話行動を指導した結果、S・SF 法により、会話行動が促進されることと学校において会話の頻度が著しく増加した。スクリプトの新たな提示法としてタブレット端末による提示法を開発し、有効性が確認できた。
著者
土岐 精一 雑賀 啓明
出版者
独立行政法人農業生物資源研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

高等植物における相同組換えを利用した遺伝子ターゲッティングの高効率化をめざし、相同組換えを活性化する化学物質を探索した。相同組換え頻度を計測することができるシロイヌナズナのモデル実験系を用いて237種類の化学物質を評価した結果、相同組換え頻度を向上させると考えられる化学物質が15種類選抜された。また、DNAの二重鎖切断(DSBs)処理で顕著な発現誘導を受けることが知られているRad51遺伝子の発現解析の結果、特に効果が高いと思われる3種類の化学物質はDSBsを誘導しない可能性が示唆された。
著者
小田切 優樹 丸山 徹 渡邊 博志
出版者
崇城大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

本研究では標的分子をBRに絞り込み、BR捕獲型HSAドメインの設計と新規BR除去療法としての有用性を評価するため、以下の検討を行った。得られた知見を要約する。(1)進化工学的手法であるファージディスプレイ法を駆使してBRの詳細な結合部位の同定を可能にし、さらに1.6×105個の変異体の中からBR高親和性HSAドメインII変異体を拾い上げることに成功した。(2)今回作製した新規BR尿中排泄促進剤pan3_3-13は、抗体製剤よりも製造コストが低く、従来の血液浄化法の基盤を成す血液透析に替わり、侵襲性の低い新たな血液浄化法の道を拓くことが大いに期待される。
著者
近藤 俊明
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

新たに開発した花粉一粒の直接遺伝解析を用いて、個々の訪花昆虫に付着した花粉一粒ごとの遺伝的組成を評価することで、東南アジア熱帯雨林の一斉開花現象における送粉システムの解明を試みた。その結果、東南アジアの熱帯雨林では、アザミウマを中心とした食物連鎖網に基盤をなす他殖種子の生産によって森林の更新が行われていることが明らかとなった。
著者
長澤 和也 DANNY Tang
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

わが国では近年,気温の上昇ばかりでなく,周辺海域における海水温の上昇が観測されており,地球温暖化が現実のものとなりつつある。水産分野で早急に対処しなければならないのは,地球温暖化による漁業生産への影響評価である。本研究では,1)沖縄産亜熱帯性魚類に寄生するカイアシ類の分類学・生態学的特性を明らかにするとともに,2)地球温暖化に伴う彼らの本土侵入を予測し,わが国の水産養殖業における病害虫としての彼らの影響を評価することを目的とする。本年度も,昨年度に引き続き現地での標本採集を行って同定するとともに,地球温暖化に伴って本土に侵入する種を推測した。得られた知見は以下のとおり。(1)沖縄県沿岸・近海で漁獲された海水魚を入手して寄生虫学的検査を行い,得られた寄生性カイアシ類の同定を行った。大きな研究成果として,アマダイ類の鰓に寄生するカイアシ類を新科Pseudohatschekiidaeとして認め,記載した。(2)人工飼育下(水産研究機関・水族館)の海水魚を調べ,寄生性カイアシ類の同定を行った。ハタ類からレペオフテイルス属の1種,ジンベエザメからプロシーテス属の1種が採集された。後者の分類・同定には混乱が見られたので,形態を詳細に観察して,この問題を解決した。また,前者は亜熱帯性で,水産養殖上重要なハタ類に特異的に寄生し,重度寄生の場合には宿主の斃死を招くほど病害性が高いことが判明した。
著者
川平 浩二 岩坂 泰信
出版者
富山工業高等専門学校
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

オゾンホ-ルと温室効果の相互関連について、主としてデ-タ解析により研究を行ない,以下のような研究成果が得られた。南極域の春,10月を中心に生じるオゾンの急激な減少であるオゾンホ-ルは,1980頃に顕著になって以来年々減少し,1991年には史上最低値のオゾン量ガ観測されている。この減少の直接的要因は,フロンガスに含まれた塩素が,ー85・C以下の気温のとき生じる極成層圏雲の氷滴の表面上で不均一反応によって急激に増加し,オゾン消失反応の触媒作用を行なうことによる。したがって,オゾンホ-ルが何故1980年頃から顕著になり,今後どのように推移していくかを考えるとき,気温の長期変化がどうなっているか,それと合わせて大気の循環にどのような変化が見られるかを明らかにすることが必要である。本研究では,米国の国立気象センタ-(National Meteorological Center)が解析した,1979年から1988年の10年間の高度場より,気温と風を求めて解析を行なった。月平均値に関して,以下の点が明らかになった。1.オゾンの急激な減少の生じる高度(10ー20km)で,極夜期間に長期の1方的な気温低下がみられることから,温室効果による成層圏の冷却と考えた。この傾向は,10年間にわたり,かつ極夜期間はオゾンによる加熱が働かないため、気温低下は力学効果か温室効果によるが、力学効果は2ー5年の周期をもつことから,温室効果による。2.月平均の帯状風の1980年代の変化を求めた。意外なことに,オゾンホ-ルの発達と対応がみられなかった。年々振動はあるが、長期の一方的変化は,見いだせなかった。ところが,1970年代年期初期との比較を行なうと,冬から春にかけてのどの月についても,極域では近年風が弱まり,一方60・S付近の中緯度では逆に,風が強くなっている。さらに,大規模波動の振幅を比較すると,近年は著しく弱くなっている。このことは,オゾンホ-ルの発達を促す循環の変化が,1970年代の半ばごろに確立し,現在まで続いているという,新しい知見をもたらした。その他の解析と合わすと,温室効果に伴う循環奉の変化が起こっており,しかもその変様相は,徐々にではなく,ある期間に比較的急激に起こったといえる。この結果から,オゾンホ-ルの発達は,温度効果による成層圏の気温 低下と循環の変化が先行して生じ,その発達の基本条件を作ったとの,1987年に提起した筆者の独自見解を支持するものといえる。特に,温室効果による循環の変化は,この研究が初めて明らかにしたといえる。
著者
桜井 成 藤岡 昭三
出版者
理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

1.ブラシノステロイドの新たな生合成経路ニチニチソウ培養細胞の内生ブラシノステロイドとして、これまでに同定された6位にケトン基をもつ一連のブラシノステロイドのほかに、6-デオキソ系のブラシノステロイドの存在を見い出した。このことは、先に我々が実証した6位がまず酸化されてからブラシノステロイドが生成する経路、"早期C6酸化経路"、とは異なる新たな経路も、この培養細胞で働いていることを示している。重水素ラベルの6-デオキソ系ブラシノステロイド中間体を培養細胞に与え、その代謝をGC-MS分析により追究した結果、6-デオキソティーステロンが、3-デヒドロ-6-デオキソティーステロン、6-デオキソティファステロールを経て6-デオキソカスタステロンに変換された後、6位が酸化されてカスタステロン、ブラシノライドが生成する'後期C6酸化経路"が明かとなった。2.シロイヌナズナ(アラビドプシス)のブラシノステロイド生合成変異株最近、ブラシノステロイドを欠損したアラビドプシスの矮性変異株が見い出され、det2変異株については、DET2遺伝子が哺乳動物のステロイド還元酵素とホモロジーのあることが明かにされている。J.Choryのグループと共同研究により、det2変異株と野生株との内生ステロイドを調べたところ、det2ではカンペスタノールのレベルが野生株に比して著しく低く、det2変異株は、ブラシノライド生合成の最初の前躯体であるカンペステロールをカンペスタノールに変換する段階が欠損しているものと推定された。今後、これら変異株を用いた解析により、ブラシノステロイドの生合成酵素やその発現調節に関して分子レベルでの追究へ展開を図りたい。
著者
林 洋一 富田 新
出版者
いわき明星大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究の結果から、メール相談が対面面接と異なる学生の相談ニーズに応え得る可能性を秘めていることが明らかになった。メール相談を、対面の学生相談とは異なる新しい相談チャンネル、もしくは新しい学生支援システムとして、キャンパス内に位置づけていくことは可能であると思われる。一方、メール相談の限界や問題点も明らかとなった。メールのみではクライエントに対する正確な見立てが難しいこと、書き言葉であるため支援者側に対面面接以上に労力が要求されること、緊急介入の難しさ、クライエント側からの中断が容易に生ずること、中断後のフォローが難しいこと、対面面接へのつなぎの難しさ等である。とりわけクライエントの文章読解力や文章作成能力により、メール相談の展開や支援効果に大きな違いが生じてきてしまう点は、メール相談で安定した支援効果を得にくくしている要因の1つであると思われた。
著者
藤田 慎也
出版者
群馬工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、グラフ理論の連結度の分野における頂点分割問題に関するThomassen予想の解決に向け、禁止部分グラフの研究視点からその部分的解決に取り組んだ。その結果、当該分野において有用な結果を多数得ることが出来た。
著者
宮川 栄一
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

公共財の完成に向けて2人の個人が交互に努力(コスト)を投入し合うというゲームを理論的に解いた。既存研究とは違い,相手がどれだけ公共財の完成に熱心かが不確実にしか分からないというケースを考えた。均衡を1つ求めることに成功した。公共財に必要な努力総量が比較的小さい場合には均衡が一意であることも証明した。均衡において公共財は徐々にしか完成しないことが分かった。必要な努力総量が少ない場合でも公共財の完成に長時間かかる場合があることも分かった。
著者
渡辺 均
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

市販の屋上緑化薄層基盤土壌では,降雨や灌水によって施工初期から土中の栄養塩類の流出が確認された。土厚10cmの屋上緑化薄層基盤土壌1m2に換算すると438~688リットルの降雨もしくは灌水によって,土壌中のほとんどの栄養塩類が流出することが推計された。さらに,その土壌素材ごとに栄養塩類量を調査したところ,バーク堆肥に含まれる栄養塩類が最も流出していることが確認された。屋上緑化薄層基盤土壌はパーライト,ピートモス,ゼオライトを主体とした配合にすることで,シバの生育と品質を維持させながら,栄養塩類の流出量を低減できることが明らかとなった。
著者
上宮 成之
出版者
成蹊大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2000

廃棄物のエネルギー転換プロセスにおけるゼロエミッション化を目指すには、廃棄物の焼却・ガス化などのエネルギー変換プロセスのみならず、処理に伴い二次的に排出される廃棄物の処理・再資源化プロセスについて、マテリアルフロー・エネルギーフローを総合的に把握・評価することが必要である。本研究では、都市ゴミの収集から減容・無害化処理、金属回収処理までを、輸送をも考慮して評価し、一連のプロセスにおけるゼロエミッション化の可能性およびその効果を検討した。都市ゴミ1t処理したときのCO_2排出量を算出した結果、減容・無害化工程における排出量は全体の80-93%を占め、これらの工程のシステム全体に対する負荷が極めて大きいことがわかった。すなわち、システム全体から見ると、金属回収工程の占める割合は小さく、金属回収をすべきとの解釈をすることができる。また、発電により熱回収しエネルギー変換をすることにより、システム内で使用する電力のすべてを賄え、さらには余剰電力を売電することでシステム内に関わるCO_2排出量は全て相殺されることがわかった。さらに、LCA手法に新たな評価指数を導入して評価した。資源の確認可採埋蔵量の逆数と定義したエネルギー資源枯渇係数および金属資源枯渇係数を用い評価した結果、エネルギー資源枯渇係数は発電による削減効果が大きく、また金属資源枯渇指数の方がエネルギー資源枯渇指数よりも1桁大きい値となることが明らかとなり、金属資源の回収の重要性が半定量的に把握できた。ユーティリティ起因のCO_2排出量の他に、地域性や価値などの問題も含めて取り扱い方に大きな隔たりがある土地資源、エネルギー資源と金属資源について、これらの重要な評価軸を適切に選択し2軸平面図に描く手法により、簡易的ではあるが、多面的な評価が可能となり、意志決定に際し有効な手段となることを実証した。
著者
金子 啓祐
出版者
愛媛大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

Ca^<2+>/calmodulin依存性プロテインキナーゼ(CaMK)はすべての真核生物に存在し、動物では神経機能の調節、植物においては微生物との共生の制御にかかる。一方で、真菌類におけるCaMKの機能はほとんどわかっていない。これまで我々は担子菌Coprinopsis cinereaの新規CaMK遺伝子CoPK12を同定した^<(1)>。CoPK12は担子菌キノコ特有の活性化機構を有しており、その活性がC. cinereaの菌糸成長と関わることが示唆された。当該年度では、CoPK12が担子菌キノコ特有の細胞内局在を示すCaMKであることを明らかにした。菌糸細胞を細胞分画したところ、CoPK12は菌糸細胞の細胞膜に局在していた。一方で、内在性プロテアーゼによって生じる46kDaの分解断片は細胞質に局在していた。in silico解析によりCoPK12はN-ミリストイル化を介した脂質修飾を受けることが推測された。そこで、放射性同位体を用いたin vitroN-ミリストイル化アッセイによりCoPK12のN-ミリストイル化の可能性を調べたところ、CoPK12は有意にN-ミリストイル化を受けることが明らかになった。酵母細胞に発現させたCoPK12は細胞膜に局在したが、N-ミリストイル化部位を変異させたところ、細胞内局在が細胞質に変化した。このことから、CoPK12はN-ミリストイル化を介して細胞膜に局在するCaMKであることが示唆された。CaMKの多くは細胞質に局在することが知られており、N-ミリストイル化を受けるCaMKは前例がない。さまざまな生物種のCaMKのアミノ酸配列を用いてアライメント解析を行ったところ、担子菌キノコのCaMKが特異的にN-ミリストイル化を受けることが示唆された。一方で、担子菌キノコのCaMK間でN-ミリストイル化周辺のアミノ酸配列がほとんど相同ではなかった。このことから、担子菌キノコのCaMKの膜局在は、それぞれの遺伝子が独自に進化したことによるものだと考えられた。これらのことから、CoPK12の膜局在化は担子菌キノコ特有の現象であることが強く示唆された。(1)Kaneko K. et al. Siochim. Biophys. Acta 1790 (2009) 71-79.
著者
小島 泰友
出版者
東京農業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

2007-08 年の食料危機における EU や NAFTA 加盟国の主要農産物の需給や貿易動向をみる限り、地域経済統合や自由貿易協定は、地域内の食料安全保障を確保する意味で、加盟国間では有効に機能していたと考えられる。しかし、地域経済統合や自由貿易協定は、EU のトウモロコシの域外輸入の急増や小麦の域外輸出の減少、米国のメキシコへのトウモロコシ輸出の増加とそれに伴うアフリカへの同輸出の減少など、食料危機において域外の農産物輸入国へ負の影響を与える可能性がある。
著者
井澤 鉄也
出版者
電気通信大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

長期間の身体トレーニング(TR)は脂肪細胞の脂肪分解反応を増強させる.この現象は脂肪細胞のサイクリックAMP(cAMP)以降の酵素であるタンパクキナーゼ(PK)やホルモン感受性リパーゼ(HSL)の活性が増強するためであると考えられている.しかしながら,PKやHSL自身の活性はTRによって増強せず,未だその実体は捉えられていない.脂肪分解反応はcAMP以外にもCa^<2+>やカルモジュリン(CaM)によっても修飾されている.本研究においてはTRによる脂肪分解増強効果をCa^<2+>/CaM系とPKとの関係を検討した.TRによってラット脂肪細胞の脂肪分解反応は著明に増強した.TRラットおよびその対照群の脂肪分解反応はCaM阻害剤であるW-7で有意に抑制された.その抑制作用はTR群において有意に大きかった.このことからTRによる脂肪分解反応の増強機構にCa^<2+>/CaM系に大きく修飾されている可能性が示唆された.そこでさらにPK活性に及ぼすW-7の影響を検討した.細胞抽出液中のcAMPによるPK活性はTR群で低下する傾向にあった.このcAMPによるPK活性はW-7によって両群共に有意に抑制されたが,その抑制率はTR群(31.5%)で対照群(18.9%)に比較して有意に大きかった.このことから,TR群の脂肪細胞のcAMPによるPK活性の調節はCa^<2+>/CaM系に大きく依存していることが明らかになった.また,TRラットの脂肪細胞では細胞内Ca^<2+>濃度が有意に高く,これがCa^<2+>/CaMにより大きく修飾されているPK活性の調節に役だっている可能性も示唆された.
著者
杉 達紀
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

TgMAPK1がトキソプラズマの生態に果たす役割を解析するために、TgMAPK1の染色体位置上に変異を導入した。発現誘導が可能である、Destabilizing Domain (DD)タグをタンパク質N-末に融合した形で発現するように組換に成功した。DDタグが付加されたTgMAPK1はDDタグの低分子リガンドであるshield-1存在下において、濃度依存的にタンパク質の蓄積量の増加した。Shield-1の処理により強発現となったDDタグ融合TgMAPK1は原虫の生育を止めたことから、DD-TgMAPK1がDDタグの存在により機能を損なっていることが示唆された。HAタグをN末に付加したTgMAPK1に種々の変異を導入した配列により、原虫が持つTgMAPK1位置でノックインした原虫を作成した。低分子化合物であるBKIの一つである1NM-PP1による感受性が変化する感受性決定アミノ酸位置が、G, A, T, F, Yのそれぞれのアミノ酸に置換された変異体を作出した。Alanineを感受性決定アミノ酸に持つTgMAPK1をコードする組換原虫RH/TgMAPK1Aは、1NM-PP1により低濃度(100nM以下)で増殖が阻止されたのに対して、Tyr。sineを持つTgMAPK1をコードする組換原虫RH/TgMAPK1Yは耐性を獲得していた。1NM-PP1処理時において、核のDNA量の変化についてフローサイトメトリーで観察した。その結果RH/TgMAPK1AとRH/TgMAPK1Yともにゲノム複製の完了を示す細胞内DNA量2Nまでは相違なく進んだが、RH/TgMAPK1A (1NM-PP1感受性株)においては核分裂および細胞分裂期の進行を示す1NのDNA量を持った細胞が減少した。これは、TgMAPK1がDNA合成以降の細胞周期の中でチェックポイントとして働いていることを示唆している。
著者
佐原 寿史 山田 和彦 長嶋 比呂志 伊達 洋至 清水 章
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

ブタをドナーとする異種移植は、ドナー臓器不足に対する有力な解決策となる。腎臓や心臓では2か月超える異種臓器の生着が得られる一方、異種肺移植の生着は数時間から数日に留まる。本研究では、ブタ肺をヒト血液で灌流するex-vivoモデルやカニクイザルへ同所性左肺移植を行うモデルによって、GalT-KOブタ肺が超急性期の肺機能不全を回避しうること、ドナーへの一酸化炭素投与による血管内皮保護効果を介して、術後微小血管障害軽減が得られた。しかし異種移植肺は術後3日以内に血栓性微小血管障害による機能不全を呈したことから、長期効果を得るためには新たな遺伝子改変ブタを用いた治療方針の開発が望まれる結果となった。