著者
石川 諒 中野 尭雄 島 龍之介 清水 麻希 本間 芳和
出版者
公益社団法人 日本表面真空学会
雑誌
表面と真空 (ISSN:24335835)
巻号頁・発行日
vol.61, no.12, pp.797-801, 2018-12-10 (Released:2018-12-10)
参考文献数
19

Single-walled carbon nanotubes (CNTs) are light and highly tensile, which makes them a candidate material for space elevator. However, CNTs are not resistant to oxidant. We studied the damage of CNTs caused by exposure to ozone using several kinds of single-walled CNTs with varying crystallinity and morphology. We found a correlation between the initial crystallinity and resistance to ozone : high-crystallinity CNTs with a small number of defects were lightly damaged by ozone exposure, while highly-defective CNTs were further damaged. The thickness of bundling also affected the resistance to ozone. High-crystallinity CNTs forming a thick bundle were most resistant to ozone.
著者
高橋 信明 丹羽 倫平 中野 了輔 冨塚 一磨
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.4, pp.235-240, 2016 (Released:2016-04-09)
参考文献数
33
被引用文献数
1

抗体は,現在では医薬品創出に欠かせないフォーマットとして確立し,幅広く認知されている.だが,一口に抗体医薬といっても,複数の要素技術が採用されており,複合的な技術の蓄積が今日の繁栄を支えている.開発初期には,マウスで取得した抗体の抗原性が問題となっていた.この課題を,マウスなどの異種の動物由来の抗体を部分的にヒト抗体配列に置き換える,キメラ抗体技術や,ヒト化抗体技術,さらには,ファージディスプレイ法やヒト抗体産生遺伝子改変マウスなどによりヒト抗体を取得する方法を開発することにより克服してきた.一方,ADCC活性などの抗体本来の機能をさらに高めるポテリジェント(Potelligent®)技術や,新規機能を付加したバイスペシフィック抗体技術などを搭載した抗体薬品の臨床試験が進んでおり,徐々に上市され始めている.本レビューでは,現在までの抗体技術開発の経緯と将来の技術開発の展望を解説する.
著者
中野 允裕 ルルージョナトン 亀岡 弘和 中村 友彦 小野 順貴 嵯峨山 茂樹
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS)
巻号頁・発行日
vol.2011, no.6, pp.1-8, 2011-07-20

本報告では,音楽信号のような多重音を解析するための手法として,Bayesian nonparametrics に基づく音響信号スペクトログラムのモデル化方法を提案し,その構成法と推論について議論する.近年,非負値行列分解に代表されるようなスパース表現基づく音楽信号のモデル化が盛んに研究されている.その中で解決すべき二つの問題が注目を集めている.一つ目は楽器音が時間変化する多様なスペクトルを持つ点であり,もう一点は観測信号中に含まれる音源の数が一般的には未知なことである.さらに,楽器音の多様なスペクトルは音源数の推定を困難にし,また逆に音源数が未知であることによって一音一音がどの程度多様なスペクトルを持つか推定することを困難にしている.本報告では,これら二つの課題を同時に解消するために,信号の重畳を表す非負値行列分解型のスパース表現と時系列パターンを表現する隠れマルコフモデルを Bayesian nonparametrics 上で融合させたスペクトログラムモデルを提案する.This paper presents a Bayesian nonparametric latent source discovery method for music signal analysis. Recently, the use of latent variable decompositions, especially nonnegative matrix factorization (NMF), has been a very active area of research. These methods are facing two, mutually dependent, problems: first, instrument sounds often exhibit time-varying spectra, and grasping this time-varying nature is an important factor to characterize the diversity of each instrument; moreover, in many cases we do not know in advance the number of sources. Conventional decompositions generally fail to cope with these issues as they suffer from the difficulties of automatically determining the number of sources and automatically grouping spectra into single events. We address both these problems by developing a Bayesian nonparametric fusion of NMF and hidden Markov model (HMM).
著者
中野 美保
出版者
医学書院
雑誌
看護教育 (ISSN:00471895)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.678-681, 2010-08-25

はじめに 高齢者は加齢による機能低下に加えて,何らかの原因で長期臥床した場合,急速に日常生活能力が低下する。その結果,自尊感情の低下が生じ,生きる目的や意味が見出せなくなり,生活全体が活動性の低い状態になる。そうした状態を改善するためには,活動性を高め回復意欲を向上させるための,日常生活動作(以下,ADL)の自立に向けた援助が肝要となる。 S氏は70歳代後半の老年期の女性で,膵炎の再燃と寛解を繰り返し,入院8か月目となっていた。受持ち時,リハビリテーション(以下,リハビリ)が再開されたが「何もできない」「思うように立てない」「リハビリが進んでいるように全然感じない」等,否定的な言動が多くみられた。 今回担当した患者に対して,ADLの拡大に向けて,患者が喜びや楽しさを実感することができ,手指の巧緻性を高める指導・援助を行うことが有効であろうと考えた。そこで,遊びを交えたリハビリを行うことで,患者の回復意欲の向上が図られ,効果的にADLを拡大できる指導援助に取り組んだ。 このような「遊びリテーション」(三好春樹氏が提唱している,リハビリに遊びの要素を取り入れたもの)を取り入れることで,高齢者の回復意欲を喚起し,ADLを拡大させるための有効な手段になるかを,実践を通して明らかにしたいと考え,本主題を設定した。
著者
高雄 由美子 村川 和重 森山 萬秀 柳本 富士雄 中野 範 福永 智栄 上嶋 江利 真田 かなえ 佐藤 仁昭 前川 信博
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.11-16, 2010-01-25 (Released:2010-08-04)
参考文献数
15

ボツリヌス毒素療法は痙性斜頸に対しての有効性が報告されているが,痙性斜頸には明らかな頭位偏奇がなく慢性的な頸肩部の疼痛や随意運動障害が症状の主体である,いわゆる重度の肩こり症例も含まれる.今回われわれは,このような患者に対するボツリヌス毒素療法を施行し効果と安全性を検討した.症例は26症例(男性12症例,女性14症例),平均年齢58.6歳であった.ボツリヌス毒素(BTX-A)100 単位を肩から頸部にかけての持続性緊張状態にある筋群の筋腹に10~20単位/カ所で施注し,4週ごとに12週まで追跡調査をした.痛みとこわばりは視覚アナログスケールで評価し,SF-36によるアンケートを実施し,副作用を問診した.頸肩の痛みやこわばりはボツリヌス毒素投与によりすべての観察期において治療前と比較して有意に軽減した.SF-36のアンケートの結果からは,治療に伴うQOLの改善があまりみられなかった.副作用は4例で頸部の不安定性が出現したが,いずれも短期間で消失し重篤な副作用は認めなかった.ボツリヌス毒素療法は重度の肩こりの症状の軽減に対して効果的な治療である.
著者
中野 敦行 長山 優 山口 昌樹
出版者
ライフサポート学会
雑誌
ライフサポート (ISSN:13419455)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.63-67, 2013-08-10 (Released:2014-10-22)
参考文献数
20

The purpose of this research is to demonstrate the influence of odor to physiological reaction when a subject’s experience is taken into consideration as a factor. Ten normal Japanese adult male (22.1 ± 1.1 years, mean ± SD) were enrolled. A mixture of spices including coriander, fenugreek, and cumin by the same ratio was used as the standard sample. Commercially available curry powder was used as the excellent sample. Three salivary biomarkers such as amylase, orexin, and β-endorphin were measured during baseline, inhalation and post-inhalation periods. Our results indicated that (i) change of the salivary orexin levels by inhalarion of spice was agreed with the result of subjective evaluation, (ii) the excellent sample showed more remarkable changes in physiology reaction than that of the standard sample. It was thought that a functional spice which it not only backs up delicacy, but have an effect which pulls out sensitivity may be designed.
著者
中野 春夫
出版者
学習院大学人文科学研究所
雑誌
人文 (ISSN:18817920)
巻号頁・発行日
no.14, pp.79-95, 2015

近年の『十二夜』批評においてこの喜劇はしばしば「問題劇」あるいは「暗い喜劇」に分類され、アーデン第三版の編者は「とらえどころのない劇」とまで表現している。本論は『十二夜』をシェイクスピア時代の社会的コンテクストから分析し、この劇作品がもともとどのような喜劇であったかを指摘したい。『十二夜』を上演する娯楽産業の従事者たち、『十二夜』を描いた当の劇作家、そして1602 年頃の平日昼間にグローブ座で『十二夜』を観劇していた観客たちの多くが浮浪者と認定されかねないグレーゾーンで暮らしていた。本論は『十二夜』の登場人物たちが同時代の観客の同化を促すよう浮浪者のイメージと重なりあうように作り上げられ、劇中の小唄でも浮浪者の不安が語られる現象を指摘する。 Recent Shakespeare criticism has often mentioned Twelfth Night, or What You Will as 'a problem play', 'a dark comedy', or even 'an elusive play'. This paper aims to clarify the essence of the play as an Elizabethan comedy, focusing on its own social context. English society in the 16th century produced a potentially criminal minority technically termed vagabonds or rogues through a series of so-called Poor Laws. Being what were called 'common players', Shakespeare in his 'masterless' Stratford-upon-Avon years, his players, and the audience crowded in the Globe theatre who just moved into the metropolis for regular employment lived under the legal pressure of being branded vagabonds. This paper will illustrate that the main characters of the play were molded from stock images of vagabonds so as to allow audience to identity with and feel sympathy for them.
著者
田中 晢男 中野 敬介 仙石 正和 篠田 庄司
出版者
電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. B, 通信 = The transactions of the Institute of Electronics, Information and Communication Engineers. B (ISSN:13444697)
巻号頁・発行日
vol.85, no.12, pp.2063-2072, 2002-12-01
参考文献数
9
被引用文献数
5

セルラ方式ではすべての通信が基地局を介して行われるが,端末が建物の陰のなどのデッドスポットに入った場合,基地局と通信することができなくなることがある.本論文では,このような場合に,別の端末がデッドスポットに入った端末と基地局との間の通信を中継するアドホックリレー方式を検討し,その通信トラヒック特性を表す理論式を導く.この理論式の計算例から,端末の通信能力が比較的小さな場合でも,アドホックな中継により呼損率が改善され,運ばれる呼量も改善できることを示す.また,シミュレーションにより中継が二段だけで十分な場合があることを示す.これは上記理論式により多段中継の場合の通信トラヒック特性を推定できることを意味すると考えられる.
著者
中野 雅之
出版者
富山大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

当該年度、申請者はKAGRAの入射光学系、特にPre-stabilized laser(PSL)とInput mode cleaner(IMC)について開発とインストールを行ってきた。入射光学系は主干渉計に安定な光を送るためのサブシステムである。多くの安定化は光共振器を使って行われる。重力波観測機では強度や周波数の安定化されたレーザー光が必要不可欠であるが、当該年度は特に周波数安定化について、インストール、インテグレーションを行い、その性能評価まで完了した。KAGRAの周波数安定化システムは全部で3つの周波数参照を使った3stageの階層制御で行う。このうち、第一階層の周波数参照共振器であるReference cavity (RC)と第二階層の周波数参照共振器であるIMCは入射光学系の管轄である。PSL上に置かれるRCを使った1st loopでは、レーザー結晶に取り付けられたPZTやbroadband EOMにフィードバックし、レーザー周波数を制御し安定化する。RCの制御帯域は500kHz程度である。second loopではRCより大きく、共振器長も安定なIMCを周波数参照とし、さらなる安定化を行う。また、RCの方が安定な1Hz以下の低周波帯ではIMCの共振器長を制御する。 IMCの制御帯域は20kHz程度である。Reference cavity(RC)とIMCの制御は非常にロバストで、調整することなく1週間以上ロックし続けることができることは実証されている。また、現状では2kHz以上で要求値を達成していないが、達成のためのサーボフィルタの改善設計などを行い、要求値達成可能性を示した。
著者
中野 信子
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.93-108, 1984-03-01 (Released:2017-04-11)

ロバート・グレイブスは, 英国やアメリカでは著名な神話学者であり詩人である. しかし, わが国に於ては, その厖大な, しかも多岐にわたる作品の量にもかかわらず, なぜかあまり知られていない. さらに, アメリカや英国に於てさえ, ある人々は, 彼を白い女神にとり憑かれた多芸なる偶像崇拝者として, 敬遠しているきらいさえある. 実際, キリストの生涯を描いたフィクション「キング・ジーザス」が世に出た時, その白い女神信仰を基盤としてひき出された, 彼の並はずれた神話的キリスト学は, 当時の人々に強い衝撃を与えたであろうことは, 想像するに難くない. キリストの中に, 彼はユダヤ教のアポロ的教義とは対称的な, 女性原理の断片を発見したが, しかし, 彼の目には, それは甚だ不完全で, 人生の根本的な要素, つまり, 愛と憎しみの理念を欠いているように見えたのである. これは, グレイブスが, 彼の博学を駆使して, いかに自分のキリスト理解をおしすすめているか, その背景と発展の過程を追求した一考察である.
著者
佐藤 淳 中野 泰雅
出版者
国際ジオシンセティックス学会 日本支部
雑誌
ジオシンセティックス論文集 (ISSN:13446193)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.13-22, 1998

東武鉄道では、東武野田線の輸送力増強・混雑緩和および今後の輸送需要に対応するため、岩槻~春日部間(7.4km)の複線化工事を施工中である。<br>本工事区間には、高築堤区間(延長約600m・最大高さ約8.5m)があり、地質は有機質シルト・腐植土および凝灰質粘土から成る軟弱地盤である。また線路際には、民家が密集しているため、通常の土留擁壁による腹付線増は施工性、施工環境、経済性、工期等から問題があると考えられた。<br>そこで本工事では、近年採用実績が積み重ねられつつあり、且つ耐震性にも優れていると評価されている補強盛土工法を採用することとなった。<br>本論文では、軟弱地盤上における高築堤区間において、補強盛土工法による腹付線増を行うにあたっての経緯、検討結果および施工計画、方法等について述べることとする。
著者
杉森 一哉 沼田 和司 岡田 真広 二本松 宏美 竹林 茂生 前田 愼 中野 雅行 田中 克明
出版者
公益社団法人 日本超音波医学会
雑誌
超音波医学 (ISSN:13461176)
巻号頁・発行日
2019

<p><b>目的</b>:慢性肝疾患患者にガドキセト酸ナトリウム(gadolinium ethoxybenzyl diethylenetriaminepentaacetic acid: Gd-EOB-DTPA)での核磁気共鳴画像 (magnetic resonance imaging: MRI)(EOB-MRI)および造影超音波を施行して,早期肝細胞癌(early hepatocellular carcinoma: eHCC)や高度異型結節(high grade dysplastic nodule: HGDN)と再生結節(regenerative nodule: RN)の鑑別に有用な特徴的所見を調査した.<b>対象と方法</b>:最大径が1 cm以上でかつ病理学的に診断された平均腫瘍径がそれぞれ15.5 mm,15.1 mm,14.8 mmの早期肝細胞癌(100結節),HGDN (7結節),RN (20結節)を後ろ向きに検討した.これらの結節のEOB-MRI肝細胞相の信号強度所見と,造影超音波動脈相の所見を用い,RNに特徴的な所見について検討した.<b>結果</b>:早期肝細胞癌100結節中98結節は,EOB-MRIの肝細胞相で低信号(n=95),等信号(n=2),高信号(n=1)を呈し,HGDN 7結節は,低信号(n=6),または高信号(n=1)を呈し,造影超音波動脈相においてはいずれも求心性血管を認めた.早期肝細胞癌1結節では,EOB-MRI肝細胞相で低信号を呈し,造影超音波動脈相で遠心性血管と求心性血管の両方が観察された.RN 20結節中18結節と早期肝細胞癌の残りの1結節ではEOB-MRIで結節中心に小さな低信号域を伴い,周囲は高信号を呈した.残り2結節のRNでは肝細胞相で高信号のみを呈し,造影超音波動脈相で遠心性血管が観察された.結節中心部の小低信号域は,造影超音波動脈相では中央から辺縁に向かって走行する肝動脈とそれに伴走する門脈に一致していた.<b>結論</b>:EOB-MRI肝細胞相および造影超音波動脈相での中心部の血管構造所見は,RNに特徴的な所見である可能性がある.</p>
著者
李 雨桐 中野 拓治 中村 真也 山岡 賢 阿部 真己
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会論文集 (ISSN:18822789)
巻号頁・発行日
vol.87, no.1, pp.I_61-I_71, 2019

<p>連続流入間欠ばっ気活性汚泥方式の農業集落排水施設のBOD除去性能確保に関して, ばっ気槽1室のばっ気終了時のORP管理範囲100~125mVを明らかにするとともに, ばっ気装置散気方式, ばっ気強度, ばっ気時間等によるDO挙動特性とBOD除去性能確保に必要なばっ気終了時のDO濃度を把握した.総括酸素移動容量係数(<i>K<sub>L</sub>a</i>)にはばっ気槽の活性汚泥粘度が関与しており, ばっ気強度, 水温, MLSSを説明変数とする重回帰式から推定できることが確認された.BOD除去速度恒数はばっ気強度, ばっ気時間, 及び槽内水温を説明変数とする重回帰式から推定できることが示唆された.ばっ気強度(0.03 m<sup>3</sup>∙m<sup>-3</sup>∙mim<sup>-1</sup>)とばっ気時間(30min)を組合わせたばっ気槽の運転操作を通じて, 少ないばっ気空気量で高いBOD除去性能を得るなど農業集落排水施設の運転管理効率化が図られることが示された.</p>
著者
山嵜 輝 猪原 健弘 中野 文平
出版者
公益社団法人 日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
日本オペレーションズ・リサーチ学会論文誌 (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.286-301, 1999
参考文献数
7
被引用文献数
1

党派が形成されるような社会集団での投票による意思決定状況は, 従来, 協力ゲームの特別な形であるシンプルゲームで記述され, 社会選択へのゲーム理論的アプローチとして様々な研究がされてきた. 本論文では, 今まで考慮されてこなかった「意思決定主体の意見の柔軟性」を扱うために「投票者の許容範囲」という概念をシンプルゲームの枠組に導入し, また, 「意見調整ゲーム」や「敗因分析ゲーム」という, 投票状況の新たなモデルを用いることで, 「意思決定主体の意見の柔軟性」が意思決定に与える影響を調べる. 分析の結果, 1)従来のシンプルゲームを用いたモデルは, 本論文で提案する「意見調整ゲーム」の特別な形であること, 2)直接の投票では決定が得られない場面でも, 調整可能な意見が存在しうること, 3)複数の党派の意見の相違は十分な情報交換を行うことで解消できること, そして特に, 4)シンプルゲームの解概念として提案されているコアと決定案の間には「シンプルゲームのコアは各意思決定主体が後悔のない許容範囲を取ったときの安定した代替案の集合である」という関係が成立すること, が明らかになる.