著者
岩﨑 秀紀 廣野 恵一 市田 蕗子 畑崎 喜芳 藤田 修平 谷内 裕輔 久保 達哉 永田 義毅 臼田 和生 仲岡 英幸 伊吹 圭二郎 小澤 綾佳
出版者
特定非営利活動法人 日本小児循環器学会
雑誌
日本小児循環器学会雑誌 (ISSN:09111794)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.237-243, 2016

<i>LMNA</i>遺伝子は,核膜の裏打ち蛋白であるLamin A/Cをコードし,心筋・骨格筋・末梢神経の障害,皮膚疾患など多彩な疾患の発症に関与する.<i>LMNA</i>変異には,拡張型心筋症や伝導障害,心室性不整脈の合併が多いとされ,これらの心不全・伝導障害に対して心臓再同期療法(Cardiac resyncronization therapy; CRT)の有用性の報告が散見される.本症例は乳幼児期発症の先天性筋ジストロフィーの女児で,遺伝子検査で<i>LMNA</i>変異を認めた.8歳以降,徐々に心機能が低下し,完全房室ブロックや非持続性心室頻拍を認め,13歳時より心房細動,徐脈および心不全が進行し,入退院を繰り返すようになった.14歳時に,伝導障害を伴う高度徐脈を合併した心不全に対して,経静脈的に両心室ペースメーカ植込み術を施行し,心不全症状の改善が得られた.<i>LMNA</i>関連心筋症は成人期以降に徐脈性不整脈・心不全や突然死を呈することが多く,成人例でのCRTの有用性が報告されているが,本症例のように小児期発症例においてもCRTの有用性が示唆される.
著者
橋本 裕子 高田 真希 坂巻 たみ 久保 暢宏 村嶋 恵 大堀 菜摘子
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会年会論文集 (ISSN:21863628)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.293-294, 2011
参考文献数
1

東北大震災により引き起こされた原子力発電所の放射線漏れに対し,関東地方でも子育て中の母親を中心に不安が蔓延した.連日報道される科学情報の量は非常に多いことから,このような漠とした不安や被災者に対する風評被害の原因は,科学情報の量ではなく,それらに対する理解の不足であると仮定し,理解の深まりが不安の解消あるいは軽減につながることを目的に大人向けイベントを開発・実施した.本イベントでは,放射線の基礎知識を理解するために,放射線の観察や計測の体験,不安や疑問の質問時間を設けるなど,体験性と双方向性を重視したプログラムとなるよう工夫した.約一ヶ月間で,関東地方の児童館を中心に15回開催し,311名の参加者があった.そのうち約200名のアンケートを解析した.その結果,参加者の中心は20〜30代の女性であり,印象に残った内容は,会場の放射線量の測定,簡易実験,基礎講義,Q&Aの順に続き,観察や体験の重要性が示唆された.また,本イベントにより,放射線の基礎理解が進み,不安はある程度軽減されたものの,子どもを対象とした同様のイベントと比較すると,軽減量は少なく,大人に対する科学教育において,変化や影響を促すためには,知識習得以外にも必要な要素があることが,課題として明らかになった.
著者
村上 健太郎 上久保 文貴
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.820, 2005

大阪府南部から和歌山にかけての沿岸部は,温暖な地域として知られ,暖温帯から亜熱帯地域にかけて生育する植物の分布北限となっている。特に,年平均気温15℃,年最低気温平均値-3.5 ℃の等値線はヒガンバナ科ハマオモトの分布限界であり,ハマオモト線として知られている。しかし,近年,年間を通して気温は上昇傾向にあり,今後植物分布に大きな影響を及ぼす可能性がある。そこで本研究では,近年の気温上昇にともなって,大阪府周辺のハマオモト線付近を分布限界とする植物の分布について調べ,気温変化との関連を考察した。まず,1938年に描かれたハマオモト線に近い19府県の1980年代以降の気象観測所データと1990年代初めまでに作成された各県植物誌による植物分布データを,市民向けに開発された地理情報分析支援システムMANDARAに入力し,ミミズバイ,タイミンタチバナなど30種の分布限界域における気温データをえた。次に,大阪市立自然史博物館および兵庫県立人と自然の博物館のハーバリウムにおいて,大阪府および兵庫県の上記南方系植物30種の採集地および採集年代を調べ,1980年代以前と1990年代以降で,分布に差があるかを調べた。その結果,ヤナギイチゴなど,一部の種では,分布が北上している可能性が示唆された。また,先述した分布限界域の気温データを用いて,これらの植物の大阪府付近での現在の分布限界域について推定すると,多くの植物が現状では京都市付近まで分布拡大可能であると推定された。本研究でとりあげられた種のうち,自生個体が京都市付近にまで分布拡大している例は少ないが,都市域の石垣などの人工物に適応しているイヌケホシダや京都市内の二次林に移入したアオモジなど,人為によって持ち込まれた可能性が高い種については,大阪府_から_京都市において確実に分布を拡大している。今後は,各種の分散力やハビタットの選考性に関する調査を行い,より正確な分布拡大予測を行いたいと考えている
著者
小久保 秀之 山本 幹男 河野 貴美子
出版者
国際生命情報科学会
雑誌
国際生命情報科学会誌 (ISSN:13419226)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, 2008

キュウリ切片に手かざしなどの非接触ヒーリングを行うと、施術したキュウリ試料から生じるバイオフォトンの発光強度が増大する。この非接触ヒーリングの物理機序を調べるために、キュウリ試料に市販の磁気健康器具によって静磁場(180mT)、交番磁場(80mT、50Hz)、パルス磁場(最大値0.6T、パルス幅2.5ms)の処理を各30分間行い、非接触ヒーリングのデータと比較した。結果、静磁場、交番磁場刺激では発光強度の変化はなかった。また、パルス磁場刺激では発光強度の低下はあったものの(Wilcoxon、p=0.047、両側)、非接触ヒーリングの場合とは時系列変化の仕方が異なった。キュウリ試料に対する非接触ヒーリングの作用機序は、磁気刺激の場合とは異なると考えられた。
著者
徳永 由太 高林 知也 稲井 卓真 中村 絵美 神田 賢 久保 雅義
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.I-106_2-I-106_2, 2019

<p>【はじめに】膝関節周囲の悪性腫瘍による大腿四頭筋の広範囲切除によって膝関節伸展筋力は大幅に低下し,椅子からの立ち上がりや歩行などの日常生活動作に影響を及ぼすことが報告されている.一般的には,大腿四頭筋が膝関節伸展作用を発揮すると考えられているが,一部の先行研究ではハムストリングス(HAM)が膝関節伸展作用を発揮する可能性が提示されている.しかし,どのような姿勢でHAMが膝関節伸展作用を発揮するのかは明らかとなっていない.そこで本研究は,数理モデルを用いてHAMが膝関節伸展作用を発揮できる姿勢を明らかすることを目的とした.</p><p> </p><p>【方法】身長1.8 m,体重80 kgの対象者を仮定し,体幹,大腿,下腿から構成される矢状面リンクモデルを構築した. HAMの膝関節屈曲および股関節伸展モーメントアーム(MA)はOpenSimのGait2392モデルで報告されており,HAMの筋張力を決定すれば,HAMによる膝関節屈曲および股関節伸展モーメントは一意に決定できる.本研究では10Nmの膝関節屈曲モーメントが発揮されるようにHAMの筋張力を設定した.膝関節を屈曲0度~90度,股関節を伸展30度~屈曲90度の範囲内で変位させ,順動力学シミュレーションを実施した.なお,純粋なHAMの作用を確認するため重力の影響がない姿勢を仮定した.HAM機能の判定には,シミュレーション開始時と終了時の膝関節屈曲角度の差を用いた.先行研究において,HAMが膝関節伸展作用を発揮するためには,HAMの股関節伸展MAが膝関節屈曲MAに比較して大きい必要があると報告されている.そのため,股関節伸展MAを膝関節屈曲MAで除した値(MA比)も算出した.上記の解析はScilab 6.0.0によって実施した.</p><p> </p><p>【結果】HAMは膝関節屈曲7~0度かつ股関節屈曲2~62度(条件1),膝関節屈曲44~90度かつ股関節伸展30~屈曲50度(条件2),の2つの条件下で膝関節伸展作用を発揮した.条件1では膝関節角度が小さいほど,条件2では膝関節屈曲角度が大きいほど膝関節伸展作用が強くなる傾向にあった.また,MA比が大きい場合でも,HAMが膝関節伸展作用を発揮しないこともあった.</p><p> </p><p>【考察】本研究の結果より,HAMの膝関節伸展作用の発揮はMA比の大小だけでは説明できないことが明らかとなった.先行研究において,筋の力学的作用はリンクシステムの姿勢により変化することが報告されている.本研究においても,姿勢の影響によりHAMの力学的な作用が修飾されている可能性が考えられた.</p><p> </p><p>【結論】本研究は2つの条件下においてHAMが膝関節伸展作用を発揮する可能性を提示した.この結果から考えると,条件1・2におけるHAMの膝関節伸展作用をうまく活用することが出来れば,大腿四頭筋の機能不全を有する者であっても,椅子からの立ち上がりや歩行などの日常生活動作を円滑に遂行できる可能性が考えられた.</p><p> </p><p>【倫理的配慮,説明と同意】本研究は数理モデルを用いた順動力学シミュレーションによる検証のため,倫理的配慮および説明と同意に該当する内容は含んでない.数理モデルに必要なパラメータは先行研究で報告されたものや既存のモデルを参照しているため,個人を特定する内容は含まれていない.</p>
著者
久保田 貴之 中島 早紀 漁田 俊子 漁田 武雄
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

中島・漁田・漁田(2015)は,再認弁別におけるビデオ文脈依存効果が手がかり負荷の増大にともなって消失することを示し,手がかり負荷の増大にともなう手がかり強度の低下をアウトシャイン原理の影響と推測した。本研究は,この推測の妥当性を検証することを目的とし,同じ手がかり負荷のもとでも,項目手がかり強度を下げることでビデオ文脈依存効果が生じるかを調べた。実験は,中島ら(2015)の手がかり負荷18条件の材料および手続きを踏襲したが,項目の提示時間のみ,中島ら(2015)の4秒/項目から1.3秒/項目に変更した。実験の結果,手がかり負荷が同じであっても,項目の提示時間が短い場合には再認弁別においてビデオ文脈依存効果が生じた。この結果は,中島ら(2015)の推測の妥当性を高めるとともに,ビデオ文脈依存再認がアウトシャイニングを支持することを意味している。
著者
長岡 和磨 降籏 隆二 久保 英之 鈴木 正泰 権 寧博 内山 真
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.124-130, 2021-06-01 (Released:2021-05-31)
参考文献数
14

症例は81歳男性。X−10年頃より夜間の中途覚醒時に小動物が天井の鴨居を走るなどの幻視が出現した。X−5年頃からは夜中に大声を出す, 就寝中にベッドから転がり落ちるなどの異常行動がみられた。経過中に他院で薬物治療を受けたが改善は乏しかった。精査加療目的にX年10月紹介受診。終夜睡眠ポリグラフ検査で無呼吸・低呼吸指数36.0回/時間であり, 筋活動の低下を伴わないレム睡眠を認めた。ドパミントランスポーターシンチグラフィーは両側基底核の集積低下は正常下限であり, α–シヌクレイノパチーに属する神経変性疾患の初期として矛盾しない所見であった。123I-MIBG心筋シンチグラフィーで心臓/縦隔比の低下を認めた。病初期のため持続的で著明な記憶障害は認めないものの, レビー小体型認知症の初期と診断した。閉塞性睡眠時無呼吸症候群に対して, CPAP治療を導入し, レム睡眠行動障害に対してクロナゼパム, レビー小体型認知症に対してドネペジル塩酸塩による薬物療法を行い, 症状の改善を認めた。治療経過よりCPAP治療の導入は, レム睡眠行動障害の異常行動に対する薬物治療の反応性を改善した可能性が考えられた。今後レビー小体型認知症による認知機能低下がより顕在化する可能性に注意する必要があると考える。
著者
古川 智一 中野 博 平山 健司 棚橋 徳成 吉原 一文 須藤 信行 久保 千春
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.790-798, 2011
参考文献数
51
被引用文献数
1

閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea:OSA)は,のちに患者であることが判明した新幹線運転士の居眠り運転にみられるように,その社会的インパクトから最近注目されるようになった.また,OSAと合併症である高血圧,心血管障害,脳卒中との関連についても,多くの研究結果から明らかにされてきている.OSAの主症状であり日常的によくみられるいびきは,いびき症者のみならずベッドパートナーの睡眠も妨げるため重要な問題である.質問紙を用いた主観的ないびきと心血管障害との関連が過去の疫学研究によって報告されているが,そのいびきはOSAの代理指標とされ,OSAのないいびき症の臨床的意義についてはあまり注目されていなかった.しかし,最近の研究でいびきがOSAとは独立して眠気や血圧上昇に関与することが示唆されており,今後その臨床的意義について明らかにされることが望まれる.
著者
長谷川 嘉哉 久保田 進子 稲垣 俊明 品川 長夫
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.201-204, 2001-03-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
10
被引用文献数
4 8

音楽療法は, 老年医学を含めた様々な領域で研究使用されている. しかし音楽療法の科学的メカニズムは, あまり検討されておらず, より客観的な指標が必要とされている. そこで, 音楽療法前後のNK細胞の活性および量, T細胞およびB細胞量, 内分泌学的検討を行った. これらは音楽療法前後1時間で検討した. 対象は特別養護老人ホームの入所者19名 (男性6名, 女性13名, 平均年齢78.6歳) とした. 対象者の基礎疾患は, アルツハイマー型老年痴呆9名, 脳血管障害後遺症7名, パーキンソン病3名であった.NK細胞活性は音楽療法の1時間後で統計学的に有意な上昇を認めた. 音楽療法1時間前後で総リンパ球数に有意な変化は認めなかったが, リンパ球のサブセットのNK細胞比率は, 統計学的に有意な上昇を認めた. T細胞およびB細胞量の比率に変化は認めなかった. 内分泌検査では音楽療法前後のアドレナリンの変化は統計学的に有意な上昇を示した. ノルアドレナリン, コルチゾール, ACTHは有意な変化を示さなかった.肉体的侵襲の低い音楽療法で, 運動と同様にNK細胞の活性および量のいずれも上昇したことは極めて有益なことであると考えられた. これらの変化が臨床的にいかなる影響があるか明らかではないが, 音楽療法のさらなる可能性を示唆するものであった.
著者
久保 康隆 平田 治 稲葉 昭次 中村 怜之輔
出版者
japan association of food preservation scientists
雑誌
日本食品低温保蔵学会誌 (ISSN:09147675)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.79-83, 1996-05-30 (Released:2011-05-20)
参考文献数
19
被引用文献数
1 3

The rates of C2H4 production in peach and banana fruits stored under 3 % O2 decreased by approximately 60% and 50% respectively compared to those stored in air. 1-aminocyclo-propane-1-carboxylic acid (ACC) oxidase activity in both fruits did not change during low O2 and subsequent air storage, when measured in the disks incubated under air condition. Low O2 treatment increased slightly ACC contents in both fruits. However, the increase in ACC content in peaches was much less compared to the calculated increase based on the result of the inhibition in C2H4 production, on the assumption that low O2 atmosphere would not affect the conversion of s-adenosylmethionine (SAM) to ACC. When ACC oxidase activity in excised flesh tissues from peach, banana, cucumber, and eggplant was measured under various O2 concentrations, the activity was distinctly O2-dependent. Our results suggest that inhibition of C2H4 production by shortterm low O2 treatment is mainly due to inhibition of ACC oxidase activity, not due to decrease in amount of the enzyme. The inhibitory effect of low O2 on C2H4 production in peach fruit might be partly due to inhibition of the conversion of SAM to ACC.
著者
西川 祥子 久保 満佐子 尾崎 嘉信
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.102, no.1, pp.1-6, 2020-02-01 (Released:2020-04-01)
参考文献数
29
被引用文献数
3

コナラ林におけるナラ枯れの進行過程とナラ類およびクリ(以下,ナラ類としてまとめる)の動態を明らかにするため,島根大学三瓶演習林の1 haのコナラ林で2001年から2018年の17年間のナラ類の生残および枯死,胸高直径の変化を調べた。ナラ枯れが確認された2012年から2014年の各年は枯死個体の分布も調べた。その結果,ナラ枯れ発生前は,ナラ類の小径木が枯死するものの胸高断面積合計は増加し,ナラ枯れの発生に伴い減少に転じた。ナラ枯れ発生初期の2012年と2013年はナラ枯れにより直径に関係なく枯死し,ナラ枯れが蔓延した2014年は小径木で枯死しやすく,ナラ枯れは谷で発生しやすかった。2013年と2014年は各1年でナラ枯れ発生前の5年分に近い本数が枯死した。2001年に426本あったナラ類は2018年に212本になり,ナラ枯れによる枯死率が18.1%,その他の要因による枯死率が32.2%と17年間ではナラ枯れによる枯死木の方が少なかった。しかしナラ枯れによって,短期間で枯死木が増加することに加え,大径木も枯死することで森林構造が大きく変化すると考えられた。
著者
川久保 和子 尾島 喜代美 小谷 千晴
出版者
足利大学看護実践教育研究センター
雑誌
足利大学看護学研究紀要 = The bulletin of science of nursing research (ISSN:24350176)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.67-77, 2020

【目的】改正法成立後の脳死・臓器移植に関する先行研究を概観し,また,看護師が実際の移植現場で感受した内容や意識を明らかにすることで,看護師に必要となる支援について示唆を得る。【方法】医学中央雑誌Web 版,CiNii を用い,「脳死」「臓器移植」「看護」をキーワードに過去10 年間の文献を検索し研究動向を検討した。さらに,研究条件を満たした6 文献の内容を検討した。【結果】先行研究を年次別にみたところ年々減少傾向にあり,看護師自身に向けられた研究は少なかった。文献内容から,看護師は移植医療に対する戸惑いや複雑な感情を抱いていた。また,臓器提供マニュアルを読んだことがない割合が多く,知識不足により看護実践の場面で消極的な態度となっていた。【結論】移植医療に携わり職務遂行と人間の生死との狭間で苦しむ看護師に対し,看護師自身が抱える困難を表出できる支援が必要である。また,移植医療に対する知識獲得と,看護師自身が死生観について考え続けていくことが重要である。(著者抄録)
著者
久保田 泉
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学論文集 (ISSN:03896633)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.243-246, 2013

気候変動影響への適応策に関する国際制度設計において,途上国への資金供与問題が注目されている。本研究では,適応関連資金配分の優先順位づけをいかに行うかについての示唆を得るため,京都議定書下の適応基金と「気候変動影響への対応力強化のためのパイロット・プログラム」(PPCR)の運用状況を,対象国/プロジェクトの選定に着目して比較検討した。その結果,適応基金の被支援プロジェクトのホスト国は,脆弱国への支援が謳われているにもかかわらず,各種指標で脆弱国リストの上位に入っていない国が多いことがわかった。今後の適応関連資金メカニズムには,脆弱性に着目したPPCR 類似の資金配分方法を確保することが重要である。
著者
小守林 靖一 久保 慶高 幸治 孝裕 西川 泰正 小川 彰 小笠原 邦昭
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.291-294, 2013-07-25 (Released:2013-07-25)
参考文献数
7
被引用文献数
1

要旨:44歳,男性.頭全体の痛みを自覚し独歩受診.精査上くも膜下出血や脳梗塞は認めなかったが,左椎骨動脈解離を認め,2カ月おきに画像追跡を行い,半年後に左椎骨動脈の閉塞を確認した.なお,反対側の右椎骨動脈には異常所見は認めなかった.その後も画像追跡を行ったが,両側椎骨動脈には変化がなかった.最終画像追跡から2カ月後,左椎骨動脈閉塞から25カ月後に突然くも膜下出血を来した.右椎骨動脈-後下小脳動脈分岐部より近位側に紡錘状動脈瘤を認め,出血源と診断した.血行再建を伴った根治手術を企図したが,肺炎を合併したため待機手術の方針となった.2週間後に再出血を来し,死亡した.これまでの報告では,一側の椎骨動脈解離の自然閉塞または治療による閉塞後に対側の椎骨動脈解離によるくも膜下出血を来す期間は,14日以内であったが,本症例のように2年以上の長期経過後でも反対側椎骨動脈に解離が出現し,出血することがありうる.
著者
谷本 丈夫 劉 岩 里道 知佳 大久保 達弘 二瓶 幸志
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.1-12, 1996-09-15
参考文献数
23
被引用文献数
5

奥日光における森林衰退の実態とその原因を明らかにする目的で,空中写真と踏査により衰退地域の確認や地形との対応,代表的な枯死域から健全域に移り変わる場所の毎木調査を行い,枯死の形態や樹形と地形,土壌などの立地環境要因との関係を検討した。衰退・枯死の発生時期と原因を特定するため,枯死木に近接する生存木の年輪成長経過を調べ,主に台風との関連を解析した。酸性雨・霧の樹木や土壌への影響についても枝葉の変色などを観察した。これらの要素から森林衰退・枯死現象と立地環境との関係,衰退をもたらした原因について考察した。その結果,調査域で観察された枯死木はいずれも小枝が枯れ落ち幹や大枝のみが残る白骨状あるいは倒木になっており,ほぼ同じ形態であった。枯死木の存在する地形は,南東斜面で風の吹き抜ける場所,あるいは北西斜面でも尾根上部で南東風の吹き抜ける位置で,環境条件が類似していた。年輪解析の結果,奥白根山のダケカンバ,赤城のカラマツでは強風域において完全枯死,やや風の弱くなった場所においては枝の折損時の成長減少,その後,枝の再生によると思われる回復が見られた。念仏平,皇海山などの亜高山性針葉樹林では上層林冠の破壊にともなう前生稚樹の成長促進時期が同調し,とりわけ1982年の台風の襲来と一致していた。これに対し山頂風衝部では矮性化したシラベ類が枯れており,旗棹のように変形した樹形から常風的な季節風が枯損の原因と判定された。薙,崩壊地の周辺では季節的な常風に加えて土壌の崩落にともなう根浮き,倒木などでの枯損がみられた。これら以外ではコメツガやシラベ類に寒風害によって葉裏が褐色に変色した個体や落葉現象が認められたが,樹木全体が枯れる現象はなかった。したがって,奥日光の森林衰退は立地環境に対応して発生する風害を引き金とする,亜高山の森林における更新形態の一つであると判定された。