著者
薮崎 紀充 石山 聡治 宇田 裕聡 江坂 和大 末永 雅也 伊藤 不二男
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.71, no.10, pp.2611-2614, 2010 (Released:2011-04-25)
参考文献数
11

症例は47歳,男性.糖尿病,慢性腎不全による透析歴があり,今回は肺化膿症のため当院内科入院中であった.腹痛・嘔吐の精査で腹腔内膿瘍による小腸イレウスと診断し,緊急手術を施行した.術中所見は回盲部・ダグラス窩に膿瘍を認め,回腸が強固に癒着していた.回腸にわずかな穿孔部を認め,小腸穿孔による腹腔内膿瘍と考えられた.病理組織検査では回腸粘膜上に横川吸虫を認め,周囲には広範な浅い潰瘍と高度の好酸球浸潤が見られた.以上の所見から横川吸虫症による腸炎が穿孔の主因と考えられた.横川吸虫症の多くは無症状であるが,寄生数が増えると腹痛・下痢などの症状を呈するとされる.しかし,われわれの調べ得た範囲では,本例のように小腸穿孔を発症した報告は本邦初であり,文献的考察を加えて報告する.
著者
伊藤 拓
出版者
明治学院大学心理学会
雑誌
明治学院大学心理学紀要 = Meiji Gakuin University bulletin of psychology (ISSN:18802494)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.63-74, 2014-03-28

ソリューション・フォーカスト・ブリーフセラピーには,よく用いられる4つの質問があり,それらはさらに「既にある解決」を尋ねる質問と「未来の解決」を尋ねる質問に分けられる。本研究の目的は,セラピストが(1)この4つの質問(ミラクル・クエスチョン,例外探しの質問,スケーリング・クエスチョン,コーピング・クエスチョン),(2)「既にある解決」を尋ねる質問(例外探しの質問,コーピング・クエスチョン,スケーリング・クエスチョン),および(3)「未来の解決」を尋ねる質問(ミラクル・クエスチョン,スケーリング・クエスチョン)を用いる際に,共通して注意している点を明らかにすることであった。8名の日本人セラピストへの面接調査を通して収集された伊藤(2012)のデータが用いられ,分析はKJ法によって行われた。まず,4つの質問を用いる際に,セラピストが注意している点の共通点は,これらの質問を尋ねる適切なタイミングを見定めることであり,それから,Clが回答した内容の具体化,詳細化,明確化に取り組むことであった。次に,「既にある解決」を尋ねる質問を用いる際に,セラピストが注意している点の共通点は,クライエントが回答した過去の経験を,成功したものとしてクライエントが認識するのを促進することであった。さらに,「未来の解決」を尋ねる質問を用いる際に,セラピストが注意している点の共通点は,この質問がクライエントに使用可能かを判断することであった。以上の結果をもとにソリューション・フォーカスト・ブリーフセラピーの質問を効果的に行うためのポイントが論じられた。
著者
伊藤 貴昭
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S46018, (Released:2022-09-09)
参考文献数
8

本研究では対象指示コミュニケーション課題を用いて,図形を伝達するための説明とその正答数ならびに共感性との関連を検討した.大学生29名に対象指示コミュニケーション課題を実施し,同時に共感性尺度に回答させた.その結果,大学生の正答数はそれほど高くないことが示された.また,共感性については自己指向的な認知傾向である「想像性」と正答数との間に負の相関関係が見られた.本研究の結果は,情報を伝達するための説明を促す際の留意点を示唆している.
著者
伊藤 剛 武藤 俊 宇都宮 正志
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.93-101, 2022-10-26 (Released:2022-10-29)
参考文献数
65
被引用文献数
1

房総半島の上総層群の下部更新統東日笠層に挟在する礫岩中のチャート礫から,放散虫及びコノドントが産出した.放散虫(Praemesosaturnalis sp. cf. P. heilongjiangensis)とコノドント(Mockina sp.)の同定に基づくと,このチャート礫は後期三畳紀(中期~後期ノーリアン期)の年代を示す.本チャート礫は当時後背地に分布していたジュラ紀付加体に由来すると考えられる.
著者
伊藤 恵子
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.1-11, 2012 (Released:2013-09-18)
参考文献数
32
被引用文献数
1

本稿は、自閉症スペクトラム障害(ASD)児の指示詞理解における非言語情報の影響を調べることを目的とした。対象は10名のASD児、対照群は10名の定型発達(TD)者であった。方法は、まず言語教示のみで、つづいて言語教示と異なる対象に視線を向けて、最後に言語教示と異なる対象に指さしをして指示対象を特定する指示詞理解実験を行った。その結果、ASD児はTD者に比べ、話し手の非言語情報を指示対象特定の手がかりとして活用しない者が多く見いだされた。これには、話し手の視線方向の特定や、視線からの話し手のコミュニケーション意図の理解などが関連していると推察され、語用論的能力とも深くかかわる可能性があった。このように対人的情報の処理に多くの困難を抱えるASD児の語用論的能力への支援に際し、その場に即した適切な言語や話しことばの獲得といった表層的行動を扱うだけでは十分でなく、言語獲得の基礎になる社会性の育成への働きかけの重要性が示唆された。
著者
伊藤 寿茂
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.219-222, 2006-12-01 (Released:2008-03-21)
参考文献数
11
被引用文献数
3 4

日本に帰化した淡水魚カダヤシGambusia affinis の塩分耐性を水槽内で調べた。飼育水の塩分を様々な上昇幅で24時間毎に上げていき, その生残率を調べた。1日で海水濃度まで上げた水槽では, 殆どの個体が死亡したが, 3日以上かけて徐々に塩分を上げた水槽では, その生残率は大幅に高まり, 海水に高い適応性のある魚種であることが確認できた。カダヤシは汽水域や海水域を一時的に生活場所と出来, 海水域を介して分布を拡大する可能性が示された。
著者
宗澤 岳史 伊藤 義徳 根建 金男
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.123-132, 2007-09-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
4

入眠困難にかかわる認知的要因のひとつとして、入眠時認知活動(pre-sleep cognitive activity:PCA)は重要な役割をもつとされる。本研究は、PCAの程度を測定する指標として、入眠時認知活動尺度(the Pre-Sleep Cognitive Activity Scale:PCAS)の作成と信頼性、妥当性の検討をおこなったものである。PCASは、因子1:ネガティブな考え事・感情、因子2:眠れないことへの不安、因子3:眠れないことがもたらす影響への心配、の3因子で構成されており高い信頼性が認められた。また、他尺度との相関を検討することにより妥当性の確認をおこなった。本研究結果は、PCASの信頼性と妥当性を示すものとして十分なものであった。本研究で作成されたPCASは、今後の入眠困難の認知的側面の研究に、その有用性が期待できる。
著者
中村 誠宏 寺田 千里 湯浅 浩喜 古田 雄一 高橋 裕樹 藤原 拓也 佐藤 厚子 孫田 敏 伊藤 徳彦
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.1816, 2019-11-08 (Released:2020-01-13)
参考文献数
17

北海道中川郡音威子府村から中川町を結ぶ全長 19.0 kmの一般国道 40号音威子府バイパスの建設が 2007年から始まっている。北海道大学中川研究林を通過する区間では、周辺地域のトドマツ及びミズナラ、シナノキ、オヒョウなどが生育する北方針広混交林生態系に対してより影響の少ない管理手法の開発が検討されている。 2010年より検討を開始し、翌年より施工手法や装置の開発、施工対象予定地での事前調査を行った。 2013年に試験施工を行い 2014年よりモニタリングを開始した。本研究では表土ブロック移植に注目して、 1)これまでより安価な表土ブロック移植の簡易工法の開発、 2)すき取り表土と比較して簡易表土ブロック工法が施工初期の草本層植生や土壌動物群集に与える影響、 3)それらの回復について 2014年と 2015年の 8月下旬に調査を行った。本工法では装置開発を最小限にして、一般的に用いられる建設機械を利用したことから、施工費が大幅に削減された。表土ブロック区では在来種の被度がより高かったが、すき取り土区では外来種の被度がより高かったため、植物全体の被度は処理間でそれ程大きな違いはなかった。ヒメジョオンのような 2年生草本の種数はすき取り土区でより多かったが、多年生草本と木本の種数は表土ブロック区でより多かったため、植物全体の種数は表土ブロック区でより多かった。さらに、移植元の植物相との類似度も表土ブロック区でより高くなった。一方、リター層も土壌層も土壌動物の個体数は表土ブロック区でより多く、種数も表土ブロック区でより高かった。リター層を除く土壌層のみ表土ブロック区において移植元の土壌動物相との類似度がより高くなった。本研究の結果から、開発した表土ブロック移植の簡易工法は植物と土壌動物に対して早期の回復効果を持つことが示された。
著者
深町 珠由 伊藤 由香 中川 正宣 前川 眞一
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.123-139, 2004 (Released:2004-04-16)
参考文献数
22

従来の相互作用論におけるパーソナリティは質問紙法で測定され,動態的相互作用という時系列変化過程を測定していなかった。本研究は,コンピュータ制御による相手との相互作用過程から動態的個人特性を測定し,従来の質問紙法による静態的指標と比較した。課題では,コンピュータ内の相手が反省エネ行動を繰り返し行う中で,被験者に省エネ行動と相手との友好関係維持という二律背反の目標を与えた。対人協調・非協調行動と対人友好感情評定値の時系列変化を測定し,この2変数相関を個人で求めて動態的個人特性とみなし,得点から高・低群に分類し,各群の代表的時系列特徴を主成分分析で求めた。実験条件には,相手が反省エネ行動を反復することを共通として,相手の攻撃的口調条件と非攻撃的口調条件とを設定した。結果として,対人友好感情評定値の時系列変化が動態的特性の高・低群と各実験条件とで変化傾向が異なり,相手の表面上の口調の影響と,口調と反復される反省エネ行動との一致感の認知の影響を受け,それが時間経過で変化する傾向が示された。動態的指標と静態的指標とを比較したところ,実験条件を通じて一貫した相関は確認されず,動態的指標が質問紙法で測定できない独自の個人特性を表現している点が示された。今後も動態的相互作用に基づく個人特性の測定研究が多くなされる必要がある。
著者
永井 明彦 中川 裕揮 伊藤 孝行 田辺 孝二
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1_2, pp.39-56, 2013-01-31 (Released:2017-10-21)
参考文献数
47

1990年頃より世界では特定した用途での市場標準を目指した特定用途向けLSI(ASSP)を製品化しているファブレス半導体ベンチャーが大きく躍進を遂げている。一方で日本の半導体メーカを見ると,大手半導体メーカはASSPへの取り組みが充分とは言えず,他方でファブレス半導体ベンチャーでもASSPの成功例が少ない。このような状況で,事例のファブレス半導体ベンチャーは,特定ユーザ企業及び半導体商社と協調し,ASSPが市場標準となって,大きな事業収益に結びついていた。そこで本稿は日本のファブレス半導体ベンチャーが抱える課題を明らかにした上で,事例の成功要因を分析し,ファブレス半導体ベンチャーが市場参入する機会を得るための1つの方法を提案する。
著者
伊東 輝夫 柑本 敦子 内田 和幸 伊藤 宗磨 チェンバーズ ジェームズ 椎 宏樹
出版者
Japanese Society of Veterinary Anesthesia and Surgery
雑誌
日本獣医麻酔外科学雑誌 (ISSN:21896623)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.12-16, 2022 (Released:2022-09-22)
参考文献数
26

雑種猫、15歳、避妊雌が外耳道腹側の皮下腫瘤を訴えて来院した。唾液腺腫瘍が疑われ、その後も増大した。49日目に、耳下腺の腹側端から突出する腫瘤を外科的に切除した。病理組織検査、組織化学染色、チトクロームCの免疫染色の結果から、腫瘤はオンコサイトーマと診断された。術後17ヶ月経過した現在も再発や転移は認められていない。本症例は術後に長期生存した猫の耳下腺オンコサイトーマの初めての報告である。
著者
伊藤 嘉浩
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会誌 (ISSN:09187324)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.1-16, 2020-06-15 (Released:2020-07-03)
参考文献数
43

本稿では,税制度とそのエコシステムに関する優れたビジネスモデルがどのように創造されるのかというイノベーションのプロセスにおいて,創発的ビジネスモデルが生まれることを,ふるさと納税の事例を調査分析して明らかにした.分析の結果,本稿のふるさと納税とそのエコシステムのビジネスモデルの創造プロセスは,①事前の経緯や背景,②税制度の分析的計画と施行,③当初の施行,④創発的ビジネスモデル,⑤税収入の大幅増加と完成,の5段階プロセスとなっており,④は想定外の東日本大震災での制度利用の段階と,返礼品充実と仲介サイトの起業による好循環の創発の段階の2段階になっていた.考察では,①創発的ビジネスモデルの概念の公制度への拡張,②公制度の創発的ビジネスモデルの論理と実践の知見,③本稿の事例の意義について明らかにした.
著者
伊藤 真人
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.125, no.9, pp.1353-1357, 2022-09-20 (Released:2022-10-01)
参考文献数
3

新生児聴覚スクリーニング (新スク) は全国で87.6%の新生児に実施されているが, 新スクでの難聴疑い (Refer) 後の確定診断時期や, 確定診断後の言語獲得, 特に音声言語獲得のための最適な療育体制の整備は立ち遅れていると言わざるを得ない. これは, 本法では医療, 療育, 政策など全般にわたる難聴児への介入の体制整備が不十分であることが原因である. 難聴幼少児の療育の問題点は次第に行政にも知られるところとなり, 国会議員有志や難聴診療・療育関係者, 文部省・厚生労働省を交えた検討が2017年から行われ, その提言を経て, 2018年度に長崎県主導で厚生労働省平成30年度障害者総合福祉推進事業「人工内耳 (CI) 装用難聴児に対する多職種による介入方法の実態調査」が行われた1). さらに2019年4月10日に設立された国会議員による難聴対策推進議員連盟における検討により, Japan Hearing Vision が策定され, 難聴児対策の提言がなされた. これを受けて, 厚生労働省は難聴児の療育に関する科学研究費補助金研究を公募し, GC-16 公募研究課題「聴覚障害児に対する人工内耳植込術施行前後の効果的な療育手法の開発等に資する研究」の一環として, CI 後の適切な療育手法にかかるガイドラインの作成が行われた. ガイドラインの対象者は, 耳鼻咽喉科医, 小児科医, 言語聴覚士, 聴覚特別支援学校教員, および児童発達支援センターや児童発達支援事業などの指導員を含めた, 全ての難聴児および青年の診療・療育に携わる従事者である. ガイドラインでは, Ⅰ. 新生児聴覚スクリーニング, Ⅱ. 先天性サイトメガロウイルス感染症, Ⅲ. 難聴診断後の療育, Ⅳ. 人工内耳植込後の療育, Ⅴ. 先天性高度難聴青年の療育について, エビデンスに基づく推奨を記載した. 聴覚障害児の療育がガイドライン等により最適な方法で行われれば, CI 装用後の言語獲得効果もさらに向上することが期待される. その結果, 厚生労働行政における「障碍者の社会参加の機会の確保」にとって大きな利益をもたらすものと考えられる.
著者
李 成喆 島田 裕之 朴 眩泰 李 相侖 吉田 大輔 土井 剛彦 上村 一貴 堤本 広大 阿南 祐也 伊藤 忠 原田 和弘 堀田 亮 裴 成琉 牧迫 飛雄馬 鈴木 隆雄
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0161, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】近年の研究によると,心筋こうそく,脳卒中など突然死を招く重大な病気は腎臓病と関連していることが報告されている。クレアチニンは腎臓病の診断基準の一つであり,血漿Aβ40・42との関連が示されている。また,糖尿病を有する人を対象とした研究ではクレアチンとうつ症状との関連も認められ,うつ症状や認知症の交絡因子として検討する必要性が指摘された。しかし,少人数を対象とした研究や特定の疾病との関係を検討した研究が多半数であり,地域在住の高齢者を対象とした研究は少ない。さらに,認知機能のどの項目と関連しているかについては定かでない。そこで,本研究では地域在住高齢者を対象にクレアチニンが認知機能およびうつ症状とどのように関連しているかを明らかにし,認知機能の低下やうつ症状の予測因子としての可能性を検討した。【方法】本研究の対象者は国立長寿医療研究センターが2011年8月から実施した高齢者健康増進のための大府研究(OSHPE)の参加者である。腎臓病,パーキンソン,アルツハイマー,要介護認定者を除いた65才以上の地域在住高齢者4919名(平均年齢:72±5.5,男性2439名,女性2480名,65歳から97歳)を対象とした。認知機能検査はNational Center for Geriatrics and Gerontology-Functional Assessment Tool(NCGG-FAT)を用いて実施した。解析に用いた項目は,応答変数としてMini-Mental State Examination(MMSE),記憶検査は単語の遅延再生と物語の遅延再認,実行機能として改訂版trail making test_part A・B(TMT),digitsymbol-coding(DSC)を用いた。また,うつ症状はgeriatric depression scale-15項目版(GDS-15)を用いて,6点以上の対象者をうつ症状ありとした。説明変数にはクレアチニン値を3分位に分け,それぞれの関連について一般化線形モデル(GLM)を用いて性別に分析した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得た上で,ヘルシンキ宣言を遵守して実施した。対象者には本研究の主旨・目的を説明し,書面にて同意を得た。【結果】男女ともにクレアチニンとMMSEの間には有意な関連が認められた。クレアチニン値が高い群は低い群に比べてMMSEの23点以下への低下リスクが1.4(男性)から1.5(女性)倍高かった。また,男性のみではあるが,GDSとの関連においてはクレアチニン値が高い群は低い群に比べてうつ症状になる可能性が高かった1.6倍(OR:1.62,CI:1.13~2.35)高かった。他の調査項目では男女ともに有意な関連は認められなかった。【考察】これらの結果は,クレアチニン値が高いほど認知機能の低下リスクが高くなる可能性を示唆している。先行研究では,クレアチニン値は血漿Aβ42(Aβ40)との関連が認められているがどの認知機能と関連があるかについては確認できなかった。本研究では先行研究を支持しながら具体的にどの側面と関連しているかについての検証ができた。認知機能の下位尺度との関連は認められず認知機能の総合評価指標(MMSE)との関連が認められた。しかし,クレアチニンとうつ症状においては男性のみで関連が認められたことや横断研究であるため因果関係までは説明できないことに関してはさらなる検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】老年期の認知症は発症後の治療が非常に困難であるため,認知機能が低下し始めた中高齢者をいち早く発見することが重要であり,認知機能低下の予測因子の解明が急がれている。本研究ではクレアチニンと認知機能およびうつ症状との関連について検討を行った。理学療法学研究においてうつや認知症の予防は重要である。今回の結果は認知機能の低下やうつ症状の早期診断にクレアチニンが有効である可能性が示唆され,理学療法研究としての意義があると思われる。
著者
伊藤 千尋 戸嶋 一郎 大脇 成広 清水 猛史
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌 (ISSN:24357952)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.71-75, 2021 (Released:2021-08-31)
参考文献数
23

放線菌症は,Actinomyces属により腫瘤性病変を形成する疾患である。症例1は74歳男性。2ヵ月前からの嗄声,1ヵ月前からの嚥下困難と咽頭痛を主訴に紹介受診した。喉頭内視鏡検査で,右梨状窩に潰瘍を伴う腫瘤を認め,造影CTでは下咽頭,頸部リンパ節,肺,副腎に造影効果を伴う腫瘤があり,PET-CTで同部にFDG集積を認めた。下咽頭病変の生検から放線菌症と診断した。関節リウマチに対し使用していたメトトレキサート内服を中止し,アンピシリン点滴を6週間行い全ての病変は消失した。その後アモキシシリン,続いてクリンダマイシンを10ヵ月間内服した。症例2は64歳男性。10日前からの咽頭痛と口臭を主訴に紹介受診した。喉頭蓋に白苔を伴う腫瘤を認め,生検で放線菌症と診断した。生検1週間後には喉頭蓋病変は自潰し,縮小した。アモキシシリンを3ヵ月間内服した。2症例とも再発なく経過している。
著者
古矢 志帆 伊藤 貴之
出版者
芸術科学会
雑誌
芸術科学会論文誌 (ISSN:13472267)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.120-129, 2009 (Released:2009-10-09)
参考文献数
19
被引用文献数
4 5

スカラ場とベクタ場を同時に,かつ三次元的に可視化する試みは,さまざまな観点から研究の余地があると思われる.例えば気象シミュレーションの分野では現在でも,スカラ場(気温・気圧など)とベクタ場(風向)を二次元的な手法(断面上の等高線や矢印など)で可視化する事例が多い.しかし二次元的な可視化結果からは,気象現象の立体的なメカニズムを理解するのが難しい場合が多い.本論文では,等値面と流線を用いてスカラ場とベクタ場を同時可視化するための,流線自動選択手法を提案する.本手法ではまず,複数の等値面を選択表示する.続いて本手法では,多数の流線を一時的に生成し,それらの見かけを評価し,上位に評価された流線を選択表示する.その際に本手法は,等値面による遮蔽を低減すること,流れ場の特徴を示す渦などの現象を効果的に表現すること,を考慮して流線を選択する.結果として本手法は,視点に依存せずに等値面を選択し,視点に依存して流線を選択する.