- 著者
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佐藤 正志
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集 2010年度日本地理学会春季学術大会
- 巻号頁・発行日
- pp.216, 2010 (Released:2010-06-10)
1.はじめに
現在の日本においては,公部門の財政の縮小を狙いとした行財政改革が国の主導によって推進されている.地方行財政改革では NPM(New Public Management)と呼ばれる,効率化策と同時に,参加する主体も民間企業に限定されず,住民やNPOといった非営利組織との協働を図ることによって新たな公共空間の形成を目指す,公民連携の概念の導入が進められている.
しかし,国によって進められている公共経営の方針転換が全国の自治体で画一的に導入されるわけではないと考えられる.各自治体は,内在する社会経済構造や,政治構造といった地域特性に応じて公共経営を展開するため,国の政策の受容は地域特性に応じて異なると考えられる.
この点を踏まえ,本研究では,国が進めた行財政改革策が地方自治体によってどのように受け入れられているのか,導入状況や連携の構築状況の地域差を把握することによって,地域特性に応じた地方行財政改革の影響を予察する.
対象として,地方行財政改革の中で新たに導入され,行政と非政府組織の間での連携による公共経営を目指した「指定管理者制度」を取り上げる.
2.指定管理者制度の特徴と自治体での導入状況
指定管理者制度は,2003年9月に地方自治法を改正する形で導入された,公の施設管理運営に関する新たな公民連携の手法である.指定管理者制度の特徴として,(1)行政または公的な目的を持つ団体に限定されていた施設管理運営を,民間企業やNPO法人でも可能にした点,(2)民間企業やNPO法人が,サービスや料金を自由に設定できるように変更した点があげられる.すなわち,施設運営において民間企業やNPO法人を導入することで,効率化とサービスの効果の向上を両立させることを目指した策である.
本発表では,日経産業消費研究所が実施した2006年4月1日付調査「自治体における指定管理者制度導入の実態」を用いて,全国の都市および東京特別区715市区での導入動向を確認する.まず,各市区での導入状況および民間企業,NPO法人の選定状況を確認すると,導入状況やNPO法人選定状況では大都市圏に集中する傾向は見られなかった.対して,民間企業では,首都圏を中心にした大都市圏で選定比率が高まる傾向が見られた.この動向を踏まえると,民間企業の選定においては都市圏内での企業の存在が大きく選定に影響を及ぼすと考えられる.
3.自治体別の民間企業・NPOの選定状況と域内外関係
次に,本発表で対象とする都市を,都市圏および人口数別に9に類型化し,各類型の民間企業およびNPOの選定先の状況を確認した.結果として,三大都市圏をはじめとした大都市圏の都市では,近接した地域の企業との取引を行っていることが示される.反面,県庁所在地を中心に,地方都市では,100km以上離れた民間企業を選定する比率が高まることが示される(図1).この背景には,地方都市における専門サービス業者を中心とした民間企業の不在が同一市区外の企業との取引に影響していると考えられる.
他方,NPOの選定状況は,90%以上の選定先が同一市区内である.同一市区外のNPO法人の選定は,特定のNPO法人に限定されており,大半が地域に根ざした活動に対応していることが示される.
こうした現況を踏まえるならば,分権化の理念において自律的かつ地域に見合ったサービスへの転換が図ることが望ましいとされる.しかし,実態としては専門分野を中心に域外への民間企業へ依存している点を踏まえると,他律的な公共経営に陥る可能性がある点が示される.