著者
佐藤 康史
出版者
札幌医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、骨髄間葉系幹細胞(MSC)を複製可能アデノウイルスのvehiclesとして用いたin vivo腫瘍ターゲッティング療法を開発することを目的とした。各種消化器癌に対してMSCが実際に腫瘍局所へ特異的かっ効率的に集積できるか否かにつき検討した。またtet on systemを組み込んだ複製可能アデノウイスルの作製を試みた。(1)in vivoマウス腫瘍モデルでの基礎的検討-MSCの腫瘍集積性の検討各種消化器腫瘍細胞として、MKN28,MKN45などの胃癌細胞株やhuh7,Hep3Bなどの肝臓癌細胞株を用いた。これらの細胞をnude mouseに対し皮下接種し生着後に1×10^5に調整したMSCを20日間に3回尾静脈投与した群と直接腫瘍内投与する群を設定した。さらにその2週間後に全身の臓器を含め摘出し凍結固定した。これらについて蛍光顕微鏡や坑MSC抗体(A02)を用いて腫瘍内に集積したMSCの割合と分布を検討した。全身の臓器および腫瘍を摘出し検討したところ、いずれも腫瘍特異的なMSCの集積がみられた。とくにHuH7において著明な集積がみられた。(2)tet on systemで制御可能な複製可能アデノウイスルの検討自らの複製に必要なEIAを癌特異的プロモーター(AFP)で制御し、しかもp53を不活化するE1B-55Kを欠失させた構造を有する複製可能アデノウイルスAdAFPep/Repを作製した.本virusを改変しE1Aの発現をtet on systemで制御するためTREとその下流にAFPepの転写因子であるHNF-1遺伝子を組み込んだアデノウイルスを作成しこれらをMSCに感染させたところ、Doxycycline添加により効率よく複製を開始した。これを用いin vivoでの有効性につき検討を行っている。以上のことから、各種消化器腫瘍の移植マウスモデルにおいて、MSCは腫瘍に集積可能でありこれにtet on systemで制御したAdAFPep/Repを搭載するシステムが可能であることが示された。
著者
塚本 徳子 角田 博子 菊池 真理 負門 克典 佐藤 博子 川上 美奈子 福澤 晶子 岡部 薫 向井 理枝 源新 めぐみ 平松 園枝 斎田 幸久
出版者
Japan Association of Breast Cancer Screening
雑誌
日本乳癌検診学会誌 = Journal of Japan Association of Breast Cancer Screening (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.239-246, 2007-10-30
参考文献数
9
被引用文献数
3 2

わが国で現在乳癌検診の中心はマンモグラフィで行われているが, 高濃度乳房である閉経前女性に対して超音波検診が注目されている。超音波検診の成績は過去多くの報告があるが, 日本乳腺甲状腺診断会議 (JABTS) によりまとめられた超音波検診の要精査基準に従って精度管理され行われたシステムでの報告はまだない。われわれは技師が検査を行い, 医師がこの要精査基準に従って判定した3年間の検診成績をまとめ, この体制での乳房超音波検診の有用性について検討した。<br>乳房超音波検査延べ受診者は17,089名であり, 約90%が50歳未満であった。判定は, カテゴリー1が8,289名 (48.5%), カテゴリー2が8,183名 (47.9%), カテゴリー3以上の精査対象者が616名 (3.6%) となった。このうち73.4%にあたる452名の追跡が可能であり, 48名 (0.28%) が乳癌と診断された。手術症例46例の中で早期乳癌は37例 (80.5%) あり, そのうちマンモグラフィでは検出できなかったものは16例と43%を占めていた。<br>乳房超音波検診の診断に際し, 乳房超音波診断ガイドラインを診断基準に用いることで, 有所見率の高いと言われている超音波検査でも精査率を上げ過ぎることなく早期乳癌の検出に寄与することができた。
著者
有馬 拓也 福元 俊 鹿嶋 雅之 佐藤 公則 渡邊 睦
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. PRMU, パターン認識・メディア理解 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.109, no.470, pp.1-6, 2010-03-08
参考文献数
5
被引用文献数
2

現在の家電製品等のシステムは,利用者が意識的・意図的に動かすものである.その結果,一部の利用者の意思のみが反映される場合がある.複数の利用者の内部状態を推定し,これらの総意によってシステムを制御すれば最大多数の最大幸福が実現できると考えられる.そこで,非拘束状態で撮影した映像から明度ヒストグラムとオプティカルフローを抽出し,部分空間法を用いた各個人の挙動認識を行うことにより各々の内部状態を推定し,それらを統計処理することでシステムの制御を行う手法を考案した.今回は,内部状態が挙動として表出しやすくかつ動作の個人差が少ない「暑い」「寒い」という状態を推定対象とし,多数決により制御目標を決定する方式を採用した.屋内環境における複数人での評価実験を行い,有効性を確認した.
著者
佐藤 修二 川端 弘治 野上 大作 川端 弘治 野上 大作
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

我々は、南北両半球に配置された二つの小口径望遠鏡に搭載した観測器(IRSF/SIRIUS+かなた望遠鏡/TRISPEC)を用いて、激変星、原始星、ブレーザー(活動銀河核)、γ線バースト等の現象について同時測光偏光観測した。その膨大なデータはかなたObsLog に保存されている。解析はこれからであるが、強度と偏光とも、数日間のタイムスケールで大きな変動を示す。また、南半球では、銀河磁場を研究している。星形成領域や銀河大域の磁場構造を明快に示した。
著者
佐藤 真行
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本年度は環境の価値の経済学的定式化とその測定手法の開発にとりくみ、それら環境評価手法に基いた環境政策に関する研究を行った。本年度は研究計画の最終年度にあたるため、これまでの研究蓄積を総括し、本研究課題の成果を論文にまとめ、学術雑誌等に投稿し掲載された。第一に、離散選択モデルを環境問題とりわけ建築廃棄物問題に応用した研究「建築廃棄物問題と住宅政策」が査読を経て『経済政策ジャーナル』に掲載された。これは昨年度の研究に基づくものであるが、今年度の改訂の際に住宅選択時の環境負荷にかんする消費者選好の多様性を分析するために、計量モデル(Random Parameter Logit Model)を選好パラメタの相関を含めるかたちに展開し、そうした選好の多様性をふまえて建築廃棄物問題と現状の住宅政策にかんする考察を行った。第二に、とりわけ情報の不完全性と繰り返される消費者行動と環境の認識を分析するための研究「環境・品質情報の信頼性と消費者行動」が査読を経て『国民経済雑誌』に掲載された。本研究では離散選択モデルと計数データモデルを併用することで、繰り返し選択と環境認識の関係を分析した。また、先の研究とあわせて、消費者選択の頻度によって情報の影響の差異があり、環境評価手法における注意点をあわせて整理した。第三に、情報の質と量が消費者行動に影響することが定量的に示した以上の研究を発展させ、情報の受け手側の性質に注目して情報過負荷現象の発生と抑制のメカニズムを分析する研究に着手した。本年度は、消費者への情報提供や教育・啓蒙活動の影響を分析する研究を行った。知識や関心が高くなければ環境情報は適切に処理されず選択における混乱(行動誤差)の原因になること、そして知識の提供や専門家とのコミュニケーションはそうした誤差を抑制する作用があることを示した。
著者
西沢 祐介 田中 寛人 吉田 勝俊 佐藤 啓仁
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
Dynamics & Design Conference
巻号頁・発行日
vol.2006, pp."108-1"-"108-5", 2006-08-06

非線形振動系とその複製に共通の不規則外乱を与えると,両者の応答が同期する現象が知られている.任意の初期値から同期状態へ到達するまでの収束時間は,パラメータ条件の選び方に大きく依存するが,未検討である.そこで本報では,このような収束時間のパラメータ依存性を,統計的等価線形化法によって定量評価してみる.具体例として,ランダム調和入力を受ける系(式(Al))と,狭帯域ランダム入力を受ける系(式(A2))を取り上げる.x+cx+kG(x_0+x;μ)=Q+P_<cos>(ωt)+sw(t) (A1) {x+cx+kG(X_0+x;μ)=Q+F(t) F+2ζω_nF+ω^2_nF=sw(t) (A2) G(x_0+x;μ)={x_0+x+μ (x_0+x&le;-μ) 0 (-μ<x_0+x<μ) x_0+x-μ (x_0+x&ge;μ)以下の数値例では,式(A1)に対してc=0.04, k=1,0, Q=0.3, P=0.2,μ=0.7, s=0.02とする.図A1は,式(A1)から求めた同期誤差の見本過程の一例を表わす.ω=1.07に対する図A1の(a)の結果では同期までの収束時間はT=195程度だが,ω=0.81に対する図A1の(b)では, T=18973程度を要する.このように,同期に至る収束時間にはパラメータ依存性がある.同期可能なパラメータを推定する常套手段として,式(A1)の系の最大リアプノフ指数を入力周波数ωの関数としてプロットしたのが図A2である.先ほどの条件ω=1.07,0.81に対する最大リアプノフ指数はそれぞれλ&ap;-0.102,-0.101となり,収束時間の変化は捉えられない.そこで,積率微分方程式を用いて式(A1)の分散応答を求めた結果を図A3の上段に示す.ω=0.77,0.92を跳躍点とする跳躍履歴現象が見られる.図A1の収束時間と比較すると,収束時間が短い条件ω=1.07は跳躍履歴現象の外部に位置し,収束時間が長い条件ω=0.81では内部に位置している.すなわち,積率微分方程式の跳躍履歴現象の有無によって,同期への収束時間を評価できる可能性が明らかになった.この仮説を確かめるため,図A3の下段に,サンプルiの初期値x_kに対する収束時間をT_i(x_k)とするときの平均収束時間〈T>= 1/(MN)Σ^M_<i=1>Σ^N_<k=1> T_i(x_k)を示す..M=100, N=5×5とした.収束時間が長い条件ω=0.81は,積率微分方程式の跳躍履歴現象の発生領域に含まれており,式(A1)の積率微分方程式の跳躍履歴現象は,同期の収束性が悪化するための十分条件を与えている.なお,式(A2)の場合には逆に必要条件を与える.
著者
佐藤 裕哉
出版者
広島大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

平成22年度は,以下の3点について取り組んだ。1)地図のラスター/ベクター変換と修正,2)データベース構築と修正,3)デジタル地図と被爆者データのGIS上での結合と修正である。1)については,爆心地から2~2.5kmの範囲のデジタイジングと属性入力を行った。結果として,約15,000軒分の家屋ポリゴンを作成し,1,000軒の地番コードと500軒分の世帯主名を家屋ポリゴンの属性として入力した。そのほか,道路線(ラインデータ)を作成した。また,平成21年度に作成した家屋ポリゴンと鉄道線,市内電車線,河岸線について,他の地図資料を参考に修正した。2)については,原爆放射線医科学研究所が保有する「原爆被爆者データベース」の被爆住所(地番)をコード化した。データベース内の地番まで住所が確認できる約20,000人分について,10桁の数字を附しデータベースに格納した。3)については,家屋ポリゴンとデータベースに附した地番コードにより,GIS上で自動的にマッチングできるように作業を行った。長屋など複数の建物に同一の地番が割り当てられている場合は,うまくマッチング出来ないことが明らかとなった。そのほか,昭和初期の広島市中心部のデジタル地図が成果として得られ(平成21年度と22年度の合計で約62,000軒分),貴重な地図資料を劣化しない形で保存することができた。また,このデジタル地図を作成したことにより,今後,他の空間データと重ねあわせて分析することが容易となり,原爆被害の実相解明につながる新たな知見へと結びつく可能性を持つ。一方で,家屋の高さや材質など入力する属性を増やすなど改善の余地も残されている。
著者
高橋 公海 佐藤 進也 中村 哲也 松尾 真人
出版者
人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 (ISSN:13479881)
巻号頁・発行日
vol.25, 2011

近年,SBM等のタギングシステムがユーザに浸透しつつある.タグにはタグ付け対象の特徴を客観的に説明する語が多く用いられてきたが,最近では「これはひどい」「あとで読む」等の主観的な語が用いられることも増えてきている.タグは,ユーザがコンテンツをどのように捉えているかを示すものであると考えられるため,この変化はコンテンツの捉え方の変化と考えることもできる.そこで本研究ではその変化を分析し,要因を探る.
著者
宮本 太郎 山口 二郎 空井 護 佐藤 雅代 坪郷 實 安井 宏樹 遠藤 乾 水島 治郎 吉田 徹 田中 拓道 倉田 聡
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究は大きく三つの領域において成果をあげた。第一に、日本の政治経済体制、とくに日本型の福祉・雇用レジームの特質を、比較政治経済学の視点から明らかにした。第二に、レジームを転換していくためのオプションを検討し、各種のシンクタンクや政府の委員会などで政策提言もおこなった。第三に、世論調査でこうしたオプション群への人々の選好のあり方を明らかにし、新しい政党間対立軸の可能性を示した。
著者
松井 和宏 佐藤 晴夫
出版者
人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 (ISSN:13479881)
巻号頁・発行日
vol.25, 2011

金融市場における自動取引戦略を探索するためには、 訓練時とテスト時で探索空間の形状が変化する問題に適切に対応する必要がある。 著者らはこの問題に対して、GAにおける個体評価に近傍評価法を 導入している。本研究では、この近傍評価法をさらに発展させるために、 探索空間中での近傍形状の拡張、及び近傍探索の高速化を検討する。 実験の結果、提案手法が良好な結果を示すことを確認した。
著者
馬場 忠雄 早島 理 佐藤 浩 丸尾 良浩 長倉 伯博 横尾 美智代
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

難治性の重篤な患者、末期状態の患者などを支える緩和医療のより望ましいあり方を構築するため、医学・医療を学ぶ者と宗教者が医学教育の場で共に学ぶことを通じて、両者が実践的に協働できるシステムを研究開発し、滋賀医科大学のカリキュラムで実践することができた
著者
佐藤 美佳
出版者
筑波大学
雑誌
筑波フォーラム (ISSN:03851850)
巻号頁・発行日
no.71, pp.49-51, 2005-11

平成17年3月1日から6月1日までの3ヶ月間、私は、大学教育の国際化推進プログラム(海外先進教育研究実践支援)により、「学習アドバイザー・特殊専門教育技法の習得」を目的として、南オーストラリア大学(University of South Australia)において教育・学習システムの調査を行いました。 ...
著者
小林 芳規 佐々木 勇 沼本 克明 月本 雅幸 鈴木 恵 原 卓志 山本 真吾 西村 浩子 佐藤 利行 山本 秀人 青木 毅 来田 隆
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

醍醐寺蔵宋版一切経6,104帖の悉皆調査により,角筆の書き入れを調べ,古代東アジアにおける言語文化の交流と影響関係を考察する目的の本研究は,2007~2009年に5回の現地調査を行い,書誌事項と共に角筆の有無を調べ,4,453帖に角筆による漢字と諸符号の書き入れを見出した。その精査は第二次調査を期している。又,東大寺図書館の調査で,唐代写経に角筆の梵唄譜とヲコト点様の単点・複点を発見し,新羅写経に角筆の新羅語の真仮名等と符号を発見して,解読を進めている。
著者
佐藤 海二
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

永久磁石を用いず,多層構造により高い推力-可動部質量比を有する精密・高速平面モータを実現することを目的に,まず基本となるアクチュエータ構造の課題を調べ,次にその結果を基礎に2種類の新たなアクチュエータ構造を提案し,その有効性を検証した.その結果,摩擦力低減の課題はあるが,それらが高い推力-可動部質量比を有する平面モータ用電磁アクチュエータや,簡易で応用範囲の広いアクチュエータとして利用できることがわかった.
著者
黒田 吉雄 内田 煌二 佐藤 美穂
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.75-82, 2001-12-25
参考文献数
16

筑波大学演習林が所在する,八ヶ岳東山麓の野辺山ケ原は冷温帯性ミズナラを主体とした,天然生広葉樹二次林が分布している。また,カンバ類が良く発達し混生林を構成しているが,本地にはブナの自生地が確認されていない。この原因解明のため,ブナ・ミズナラの開芽時期と晩霜が発生する時期について,1993年から1998年の6年間に渡って調査した。ブナの開芽は5月2日〜5月24日の間に起こり,開芽期間に22日間の差が認められた。一方,ミズナラの開芽は5月11日〜5月31日の間に起こり,開芽時期に20日間の差が認められ,平均9日(7日〜14日)ブナより遅いことが確認された。開芽日の日平均気温は,ブナで10〜13℃およびミズナラで11〜12℃,また,積算温度(6年間の平均値)も算出した。調査年により晩霜は5月9日〜5月28日の間に発生した。この晩霜発生期間は,ブナの開芽および開葉後にあたりそれが原因でブナの葉の枯死および枯死木も発生した。一方,ミズナラでは晩霜を受けない年もあったが,晩霜を受けても開芽直後および開葉後の葉には可視被害は殆ど認められなかった。このような両樹種の樹種特性の差が分布を規定しているものと推論された。
著者
佐藤 政良
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

ダムの設置による治水上の悪影響発生を回避するため、河川法に基づく標準操作規程があり、これをひな型として各ダムでは操作規程がつくられている。標準操作規程は、形式的には極めてよく整った内容をもっているが、現実にさまざまな問題が発生している。本研究は、予備放流の実施を中心に、農業用利水ダムにおける洪水管理のあり方を、実際の管理経験から検討した。多くのダムで、大雨の予想が出されてからの予備放流実施を、危険性が高いとして、あきらめており、その結果、本来の利水容量が減少、利水上の被害を発生させていることが分かった。羽布ダムにおいて、洪水発生と気象台からの大雨警報発令の関係を分析し、標準操作規程で想定しているような信頼を、気象台警報に置くことは危険であることを明らかにした。ダムで洪水が発生したとき、予備放流の実施に十分な条件を備えた警報は、全体の15%にすぎないので、ダム独自の予備放流実施基準の開発が必要である。羽布ダムで洪水が発生した過去の全事例で、予備放流が実施できる時間的余裕を考慮した時、気象台予報は、常に80mm以上の値であった。そこで、逆に、そのような予測が出されたときは必ず予備放流を実施するという基準を提言し、利水上の危険性の観点から、その採用の現実性を検証した。1976年から1991年の5-9月に出された80mm以上予測249事例を、半旬別に分け、過去の貯水池運用実績から、満水運用を原則にした場合の予備放流実施必要回数を求めると、十分な安全側の仮定を設けても年当たり1.3回にすぎない。小規模の出水を考えて、10cm水位低下を保証すれば、さらに治水上の安全度が高まり、かつ利水上の危険を減らすことが可能である。