著者
井上 亮太郎 金本 麻里 保井 俊之 前野 隆司
出版者
日本感情心理学会
雑誌
エモーション・スタディーズ (ISSN:21897425)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.91-104, 2022-12-30 (Released:2023-02-28)
参考文献数
43

This study is to focus on factors on well-being and ill-being at work, and to develop a scale to measure quantitatively states of employees’ well-being. The proposed scales consist of the well-being scale (7 factors: 67 items) and the ill-being scale (7 factors: 62 items) at work, which will be positioned as subcategories of existing scales on the subjective well-being such as SWLS (Diner et al., 1985) and Maeno’s four factors of happiness (Maeno, 2013). Identified factors are expected to be used in the fields of career development for individual employees and human resource management, in order to improve the state of well-being and ill-being at work.
著者
伊藤 尚 前田 義信 谷 賢太朗 林 豊彦 宮川 道夫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.117-130, 2012 (Released:2013-03-18)
参考文献数
12
被引用文献数
2

ジニ係数は標本間格差を評価する代表的な指標のひとつである.しかし,ジニ係数は全標本が非負であることを前提としているため,負の標本を含む標本間格差を評価することは出来ない.Chenらはこの場合でも標本間格差を評価できるようにするためジニ係数の拡張を試みた.しかし彼らの提案した拡張ジニ係数は全標本の合計が0以下である場合において標本間格差を評価することが不可能であった.そこで本論文では,負の標本を含む場合および全標本の合計が0以下の場合においても標本間格差を評価するために,ジニ係数の幾何的表現の拡張を提案する.提案された拡張ジニ係数では負の標本を含む場合および全標本の合計が0以下の場合においても標本間格差を評価することが可能であり,全標本が非負である場合において拡張ジニ係数は従来のジニ係数と一致する.さらに,拡張ジニ係数の代数的表現を検討し,得られた代数的表現から本論文で提案する拡張ジニ係数が母集団原理と拡張移転原理を満たすことを示す.
著者
川平 正博 中村 文彦 嶋田 博文 西 真理子 岩坪 貴寛 塩満 多華子 前田 弘志 大迫 絢加 宮崎 晋宏 久住 勇介 村田 明俊 大迫 浩子 堀 剛
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.61-66, 2023 (Released:2023-02-21)
参考文献数
22

骨転移診療では,骨関連事象(SRE)の発症予防,早期診断,治療が重要となる.骨転移に対して多職種チーム介入を行うことで,生存期間延長やADL改善が期待できるか後方視的に検討した.2020年8月~2022年7月まで当院で骨転移カンファレンス(BMB)を実施した進行がん患者75名を,SRE発症前後のBMBによるチーム介入別に2群に分け,比較検討を行った.両群ともにチーム介入後にNRSは改善したがPSの改善はなく,両群で生存期間に差は認めなかった(15.3 vs. 9.0カ月,HR: 0.74,95%CI: 0.42–1.29,p=0.29).当院BMBでは発症したSREに対しては早急にチーム介入できていた.しかし,当院BMB後のSRE発症割合は22.6%であり,今後はSRE発症予防に積極的に取り組む必要がある.
著者
阿部 敬悦 上原 健二 高橋 徹 大滝 真作 前田 浩 山形 洋平 五味 勝也 長谷川 史彦
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.104, no.1, pp.10-18, 2009 (Released:2016-01-18)
参考文献数
21

生分解性プラスチックは,発酵により生産が可能である有機酸とアルコールを原料とするものであり,現状の石油系プラスチックに代わるものとして期待され,生産量が拡大している。本稿は,著者らが行っている,麹菌が生分解性プラスチックを効率的に分解するメカニズムの学術的な検討と,伝統的な麹利用技術を本プラスチックの分解に生かす新たな処理システムの構築につき,詳細な解読をしていただいた。
著者
前島 信也
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.634-637, 2017-03-20 (Released:2018-01-16)
参考文献数
4

The Jōdo sanbukyō ongishū 浄土三部経音義集 was written in 1237 by Kyōsaibō Shinzui 敬西房信瑞, who studied under one of Hōnen’s 法然 disciples. It contains analysis of terms in the three major sutras of Pure Land Buddhism.In Japan, there are nine kinds of manuscripts and three kinds of printed books. In this paper, I mention their bibliographic information and compare them, focusing on their marginalia. I therefore attempt to classify these sources.
著者
道前 洋史 若原 正己
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.52, 2005 (Released:2005-03-17)

卵は多くの母性因子を含むことから、そのサイズがエピジェネティック発生過程を通じて後の形質発現に大きな影響を与えることが知られている。すなわち、遺伝子型の違いだけでなく、発生機構自体も表現型多型の要因となる。本口演では、卵サイズと可塑的形質がエピジェネティック発生過程を通じて強く相関しているため、可塑的な反応性に制約がもたらされる例を報告する。 近年報告されている表現型可塑性は、自然選択の対象となり、多様な環境変化への生物の適応的反応と解釈されている。北海道に生息する有尾両生類エゾサンショウウオでは、その幼生期間に頭部顎軟骨が著しく肥大した可塑的形態Broad-headed morph(頭でっかち形態)が誘導される。この形態の誘導要因はエゾサンショウウオ幼生にとって大型餌動物である同種幼生やエゾアカガエル幼生の高密度化である。この事実はBroad-headed morphが大型餌動物の効率的捕食への適応的反応であることを示している。したがって、集団間での選択圧の違いがBroad-headed morph発生率の変異を引き起こすことは容易に推測される。我々は、異なる幼生密度の集団間でBroad-headed morph発生率が大きく異なっており、幼生密度が高い集団ほどBroad-headed morph発生率が高いことを示した。しかし、同時に卵サイズを調べた結果、Broad-headed morph発生率は卵サイズに依存したものであった。すなわち、Broad-headed morph発生率の集団内及び集団間変異は、卵サイズの変異によるものであった。このような結果は、現在の生態学的アプローチによる表現型可塑性の研究に対して、発生学的アプローチの必要性を訴えているものである。
著者
前原 都有子 藤森 功
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【背景】肺炎の日本人の死因の第5位であり、肺組織への好中球浸潤や肺浮腫を伴う肺機能の低下を特徴とする。中でも、誤嚥や敗血症を起因とする急性肺障害は、40%の死亡率を示すが、有効な治療法はない。肺炎患者の気管支肺胞洗浄液中でプロスタグランジンF2α(PGF2α)の産生量が増加することが報告されているが、その機能は分かっていない。本研究では、急性肺障害におけるPGF2αの機能解析を目的とした。【方法】野生型マウスに塩酸(2 µl/g)を気管内に投与することで肺炎モデルを作製した。PGF2αの阻害剤であるAL8810は塩酸投与の1時間前に腹腔内に投与した。塩酸投与6時間後に、肺機能および炎症の評価を行った。【結果・考察】生食投与群に比べ塩酸投与群では、肺機能の低下を伴い、気管支肺胞洗浄液中への好中球の浸潤および浮腫形成が促進した。また、TNF-αやIL-1β、IL-6の遺伝子発現量が顕著に増加した。AL8810の前処置は、肺機能の低下および好中球の浸潤をさらに促進させたが、炎症性サイトカインの遺伝子発現量には影響を与えなかった。免疫組織化学染色によりPGF2αの受容体が気管支上皮細胞および肺胞マクロファージに発現していることが明らかになった。さらに、肺の伸展能を制御するサーファクタントプロテインBの遺伝子発現量がAL8810投与により顕著に低下した。これらの結果から、PGF2α受容体の阻害は、肺の伸展能を制御するサーファクタントの産生を減少させ、血管透過性を促進させることで、肺機能の低下および肺浮腫を促進させ、急性肺炎を悪化させることが示唆された。
著者
前中 久行
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.48-55, 2001-03-30 (Released:2009-12-17)
参考文献数
6
被引用文献数
7 3

ある植物が, その植物固有の性質として雑草性をもっているとしても, 人間活動を妨害していなければ現実の雑草ではない。自然環境の構成要素として, 人間が植物に求めている役割には, 植物が存在することで生じる機能, 景観・緑環境の形成要素, 文化財や生活のアメニティ要素, 生物的自然要素がある。農耕地では雑草である植物が, 市街地においては, このような働きを果たすこともある。代表的な場面が, 地面が植物で被われることが, 第一義的に意味をもつ, 芝生地やのり面である。現実に大阪府下の公園緑地の芝生地には, スズメノカタビラ, シマスズメノヒエ, シロツメクサなどが優占する。踏みつけ強度のやや低いと思われる草地では, 出現する種類数が増加し, ニワゼキショウ, カタバミ, セイヨウタンポポなどが出現するようになるなど, 利用の実態に応じた芝生ができあがっており, 多様なレクリエーション活動に役だっている。造成後時間をへたのり面で, 出現頻度が比較的高いものは, 当初の緑化草種ではなく, ススキ, セイタカアワダチソウ, チガヤ, メリケンカルカヤなど, 後から侵入した植物であるが, これらも, 土砂流出防止や裸地の視覚的遮蔽などの効果をもっている。セイタカアワダチソウを, 6月から9月まで時期をかえて刈り取った場合, 成長シーズンの終わりの地下部の現存量は, 地下部への蓄積が開始される8月に刈り取ったときに最も小さくなった。6月刈の場合, 開花時期は無刈り取りとほぼ同じであった。7月刈はややおくれて11月上旬に開花し, 草丈は約60cmであった。6月刈や7月刈では, 花序, 草丈ともに小型化したために, 通常の見苦しさがなく観賞にも耐える状況であった。
著者
柴田 真裕 田中 綾子 舩木 伸江 前林 清和
出版者
防災教育学会
雑誌
防災教育学研究 (ISSN:24359556)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.19-30, 2020 (Released:2021-10-19)

日本の小学校,中学校,高等学校の防災教育の実情と課題についてアンケート調査によって明らかにした。 結果は次のとおりである。 1)防災教育を実施していない学校が非常に多く,その割合は,小学校が約20%,中学 校が約30%,高等学校が約40%であった。 2)ほとんどの学校で,防災教育の年間実施回数は,1 回から3 回程度であり,体系的な 教育がなされていない。 3)文科省が求めているような各教科による防災教育はほとんど行われていない。 4)教員の防災に関する知識が不足している。 5)防災教育教材の多くが受け身型の授業のための教材であり,教員が使用したくなるア クティブラーニング教材が少ない。
著者
前嶋信次著
出版者
岩波書店
巻号頁・発行日
1952
著者
長谷川 雄紀 岡本 隆嗣 安東 誠一 前城 朝英 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.623-629, 2019-08-16 (Released:2019-09-26)
参考文献数
20

脳腫瘍はさまざまな機能障害を引き起こし日常の活動や参加を制限する.脳血管疾患などと同様にリハビリテーション医療の役割の重要性は認識されているが,回復期リハビリテーションにおける入院管理の検討は不十分である.過去の報告や当院に入院した脳腫瘍患者に関するデータをもとに回復期リハビリテーション病棟における留意点や対応の検討を行った.良性の髄膜腫が多く,全体として入院リハビリテーション治療での有意な機能的改善を認めたが,合併症の治療や検査で急性期病院への転院を要することがあった.機能や生命の予後を考慮した入院リハビリテーション治療だけでなく,検査や合併症,後療法日数の管理などで急性期病院との連携や退院後支援を含めた包括的リハビリテーション医療体制の構築が望まれる.
著者
前田 照夫 續木 靖浩 磯部 直樹
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

現在中国全土におけるジャイアントパンダ(パンダ)の生息数は約1,000頭,この数は年々減少しており,やがては絶滅の可能性がある。このパンダ絶滅を回避するため,本研究は,パンダの人工繁殖に関する現在の問題点を整理し,パンダの人工繁殖に関する国際学術研究(日中共同研究)の企画を行うことを目的として,パンダの人工繁殖に取り組んでいる日本および中国における代表的な施設を調査した。その結果,(1)自然交配における雄と雌の相性と自然交尾不成立の問題(2)精液採取法の問題(3)精液の凍結保存法の問題(4)雌の発情鑑定の問題がパンダの人工繁殖における重要な点であると考えられた。先ず(1)に関して,複数の雄雌を飼育している場合でも,自然交配がうまくいかず,ましてや1ペアしか飼育していない動物園等の施設では自然交尾が成立する可能性が極めて低く,人工授精の必要性が明確となった。(2)については,現在雄に麻酔を施し,電気刺激法で精液を採取する方法が採用されているが,今後は人工膣を装着した犠牝台の改良も含め,雄にストレスを与えない形での精液採取法の開発が必要であると考えられた。(3)については,依然として古典的な精液保存液が使用されており,斬新な凍結保存液の採用が必要であると考えられた。(4)に関して,雌の発情回数が極めて少なく(通常1年間に1あるいは2回)また,交尾可能な発情期間が短い(2日程度)ため,自然交配あるいは人工授精適期が判断できないところに問題であることが明確となり,性ホルモンのアッセイを含め今後の改良が期待されている最大の問題点であると考えられた。以上の調査結果を基に,国際学術研究の企画書(科学研究費補助金(海外学術調査)を含む)を準備し,応募する予定である。
著者
北村 美紀 森 恵美 前原 邦江
出版者
一般社団法人 日本母性看護学会
雑誌
日本母性看護学会誌 (ISSN:1345773X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.9-16, 2022-10-28 (Released:2022-10-29)
参考文献数
16

本研究の目的は、生後4か月までの双子の親の子育てにおけるソーシャル・サポート体験を明らかにすることであった。双子の親22名を対象に半構造化面接を行い、質的帰納的に分析した。その結果、8テーマ:【双子の子育て奮闘中の私への自分時間の享受】、【双子の子育て奮闘中の私に対する寄り添いへの感謝と不満】、【連携・協働による双子一人ひとりを尊重した私なりの子育てへの自信】、【双子の子育ての協働・巻き込みに対する申し訳なさと感謝】、【私と双子の子育てに関する専門的・情報的支援に対する満足と要望】、【双子の親同士の交流による子育て体験の共有と情報の活用】、【私たち夫婦なりの双子の子育てにおける協働の自信】、【双子の子育てに対する私たち夫婦なりの多様な資源の活用】が見出された。双子の親やその家族に対し、妊娠期から産後の子育て生活に関する具体的な情報提供、支援の必要性の理解促進、悩みや不安を相談できる場の提供等の看護支援の必要性が示唆された。
著者
堀江 朋彦 今田 奈津夫 榊原 夢太郎 厚見 秀樹 丹羽 徹 松前 光紀
出版者
公益社団法人 日本放射線技術学会
雑誌
日本放射線技術学会雑誌 (ISSN:03694305)
巻号頁・発行日
pp.2023-1324, (Released:2023-02-14)
参考文献数
27

【目的】本研究の目的は,呼吸性運動による脳脊髄液(cerebrospinal fluid: CSF)動態の描出を想定したdynamic improved motion sensitized driven equilibrium steady-state free precessionの最適な空間分解能と時間分解能を調べることである.【方法】健常ボランティア9名の正中矢状断面を対象に三つの撮像条件(A:空間分解能0.49×0.49×5 mm, 時間分解能1000 ms,B:0.49×0.49×5 mm, 430 ms,C:0.78×0.78×5 mm, 200 ms)による描出の違いを調査した.まず,第三,第四脳室のCSFおよび橋のsignal-to-noise ratio(SNR)を算出した.次に,呼吸性運動により10 cm/s以上で流れるCSFと10 cm/s以下で流れるCSFの信号強度比(signal intensity ratio: SIR)を算出した.更に吸気SIRと呼気SIRの差を求めた.更に,①中脳水道を中心とした第三,第四脳室に生じる流れの存在,②呼吸による流れの変化について,7名の技師による3段階の視覚評価により調べた.【結果】SNRは,いずれもAが最も高く次いでBそしてCの順に小さくなった.第三,第四脳室のCSFではAとBおよびAとCの間に有意差があったが,BとCには有意差はなかった.呼吸性運動によりCSFの信号強度は変化した.第三脳室のSIRは吸気で高く呼気に低くなり,逆に第四脳室のSIRは吸気に低く呼気で大きくなった.各SIRはいずれもAとCおよびBとCの間に有意差があった(p<0.05).吸気SIRと呼気SIRの差は,第三,第四脳室ともにBが最も高く次にAそしてCが最も低く,AとCおよびBとCの間に有意差があった(p<0.05).中脳水道を中心とした第三,第四脳室に生じる流れの存在に有意差はなかった(p=0.264).一方,呼吸による流れの変化には撮像条件による有意差がありBが他より高値となった(p<0.001).【結語】最適な空間分解能は0.49×0.49×5 mm, 時間分解能は430 msであった.また本法では,位相分散を利用するため空間分解能と時間分解能の関連に注意した条件設定が重要なことが示唆された.
著者
前田 豊樹 三森 功士 牧野 直樹 堀内 孝彦
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.82, no.2, pp.41-47, 2019-05-31 (Released:2019-06-19)
参考文献数
22

これまで温泉治療が様々な疾患に療養効果があることは示されてきたが,一般的にどのような疾病に予防効果があるのかは示されていない.また,温泉入浴の禁忌症は示されているものの,某かの疾病の発症を促進する可能性についても知られていない.このような状況を踏まえて,筆者らは,平成24年度から3カ年間,65歳以上の高齢別府市民2万人を対象に,温泉の利用歴と各種疾患の既往歴に関するアンケート調査を実施し,その解析結果を先頃論文報告した.結果は,性別によって分かれており,温泉入浴が,男性においては,心血管疾患の予防に寄与し,女性では,高血圧に予防的に働くが,膠原病などの発症には促進的に働く可能性などが示唆された.このように,温泉は必ずしもすべての疾患の予防に働くわけではなく,一部促進する場合もあり得ることが伺えた.この疫学調査から伺える予防的効果には,温泉の効能としては期待されてこなかったものやこれまで示されてきた効能に反するものが含まれている.本編では,様々な疾患に対する温泉の予防効果と治療効果のずれという観点から,アンケートによる疫学調査をレビューする形で紹介したい.