著者
山本 洋司 朴 光来 中西 康博 加藤 茂 熊澤 喜久雄
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.18-26, 1995-02-05
被引用文献数
14

Nitrate concentration and δ^<15>N value in the groundwater in Miyakojima islands, Okinawa, were measured during 1992-1993. Waters from the shallow and the deep wells at ten separate sites were sampled. Mineral contents and natural nitrogen isotope abundance (δ^<15>N) were analyzed using liquid chromatography and the mass spectrometry (Finnigan MAT 252). Except for the waters which were directly influenced by sea water invasion, most of the groundwater showed small variations among their mineral contents and δ^<15>N values. Average nitrate nitrogen concentrations were 1.4-l1.5 mg L^<-1> and average δ^<15>N values were+4.3-+9.7‰. From the nitrate concentration and δ^<15>N value observed, the type of groundwater could be categorized into four groups, such as high δ^<15>N and high nitrate, high δ^<15>N and medium nitrate, low δ^<15>N and medium nitrate, and low δ^<15>N and low nitrate, reflecting the main source of nitrate contamination, such as animal and domestic waste, animal waste and soil organic matter, soil organic matter and chemical fertilizer, and chemical fertilizer, respectively. It was discussed that the lowest δ^<15>N value was higher than the δ^<15>N value of the chemical fertilizers used in this islands ( -3.9- -1.4‰). Therefore, considerable amounts of nitrogen must be lost by ammonium evaporation or denitrification after fertilization.
著者
山本 富久 中曽根 英雄 松沢 康宏 黒田 久雄 加藤 亮
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.399-404, 2005-04-10 (Released:2008-01-22)
参考文献数
51
被引用文献数
1 1

The study area was located in the Makinohara collective tea fields in Shizuoka, Japan. There are flourishing tea industries in this area. The quality and level of the groundwater were observed from Jun. 2002 to Sept. 2003 and examined on the basis of hydrogeology. The Makinohara plateau comprises of clay layers between gravel beds. It yielded discontinuous water qualities caused by perched water in a geological structure. The average concentrations of T-N and NO3-N in the surface water were 26.4 mg·l-1, 23.8mg·l-1, respectively. In contrast, for the groundwater, these concentrations were 17.2 mg·l-1 and 12.6 mg·l-1, respectively. The average concentrations of T-P were 0.012 mg·l-1 in the surface water and 0.022 mg·l-1 in the groundwater. This difference is caused by the dilution effect and release of phosphorus from on aquifer. The annual groundwater effluent loads of nitrogen and phosphorus from the catchments of the Makinohara plateau were 406 t·y-1 and 0.7 t·y-1, respectively.
著者
澁谷 啓 加藤 正司 鳥居 宣之 河井 克之 川口 貴之 齋藤 雅彦
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

中越地震や能登半島地震で発生した地盤災害は, 地下水位の高い盛土に集中していた. 一方, 豪雨による盛土崩壊も後を絶たない. 兵庫県で発生した台風による補強土壁の崩壊事例では, 雨水の浸入により盛土本体が弱体化したことに加えて, 盛土背部で水位が急激に上昇し, 補強土壁盛土全体が押し流された. この種の地盤災害軽減のためには, 盛土内および周辺への雨水の浸入を決して許さないことが肝心である. 本論文では, 盛土を囲むようにジオシンセティックス排水材をL型に配置し, 鉛直に設置した排水材で受けた浸透水を盛土底部に水平に設置した排水材に流すことにより盛土外へ速やかに排水させる方法であるジオシンセティックスを用いたL型排水盛土防水工を新たに提案した.
著者
加藤 照之 松島 健 田部井 隆雄 中田 節也 小竹 美子 宮崎 真一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

北マリアナ諸島のテクトニックな運動を明らかにするためのGPS観測と2003年5月に噴火活動を開始したアナタハン島の地質学的な調査を実施した.GPS観測は2003年1月,同年7月及び2004年5-6月に実施,以前の観測データとあわせて解析を実施した.今回は,1回のみ観測が実施されていた北方の3島を中心とした観測を実施した.西マリアナ海盆の背弧拡大の影響が明瞭に見て取れるものの,北方3島については,繰り返し観測の期間が短いせいか,必ずしも明瞭な背弧拡大の影響は見られない.アナタハン島噴火の調査は2003年7月及び2004年1月に実施した.2003年7月の調査では,噴火はプリーニ式噴火から水蒸気爆発に移行し,一旦形成された溶岩ドームが破壊されたことが分かった.2004年1月調査で計測した噴火口は,直径400m,深さ約80mであり,火口底には周囲から流れ込んだ土砂が厚く堆積し,間欠泉状に土砂放出が起きていた.2003年7月には最高摂氏300度であった火口の温度が2004年1月には約150度と減少し高温域も縮小した.カルデラ縁や外斜面には水蒸気爆発堆積物が厚く一面に堆積しているものの,大規模噴火を示す軽石流堆積物層等は認められない.このため,アナタハン島の山頂カルデラの成因は地下あるいは海底へのマグマ移動であると推定される.この噴火についての地殻変動を調査するためにGPS観測を強化することとなった.火口の西北西約7kmに位置する観測点では,連続観測を開始したほか,2004年1月には島の北東部に新たな連続観測点を設置して観測を行っている.2003年1月と7月の観測データの比較では,水平成分がほとんど変化せず沈降約21cmが観測された.観測された地殻変動は主に噴火によるマグマ移動によって引き起こされたと考えられ,マグマ溜まりが噴火口の直下よりも島の西端にある可能性を示している.
著者
木下 裕一郎 吉沢 滋 種市 修浩 加藤 貴文 降旗 浩司
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会ソサイエティ大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.1996, no.2, 1996-09-18
被引用文献数
2

デジタル磁気記録読出し波形を数ビット(bと略)毎に切出し、ニューラルネット(NNと略)に学習、認識させるニューロ弁別(この様に略)はNNの学習能力により、干渉波形を学習させる事で高密度弁別が可能となり、NNの未学習入力も認識する汎化能力により、記録密度変動にも強い特徴を持つ。この二つの特徴とその実現可能性はシミュレーションですでに示した。また、この方法は従来の1b波形中の1点の振幅或は位相で判断するのではなく、数bの波形全体で判断するいわば波形弁別なので、高周波正弦波雑音や、幅の狭いパルス雑音に強い特徴的な雑音弁別特性をも持つ事がわかっている。しかし、ランダム雑音では1点の雑音レベルでなく入力する全サンプリング点での雑音レベル:ランダム雑音波形が問題なので、取扱いが難しくこれまでエラーレート評価ができないでいた。ここでランダム雑音エラーレートの問題点、線密度と雑音の関係、研究手法等について、まだ模索中ではあるがこれまでの考察結果を述べる。
著者
佐古井 智紀 都築 和代 加藤 信介 大岡 龍三 宋 斗三 朱 晟偉
出版者
社団法人空気調和・衛生工学会
雑誌
空気調和・衛生工学会論文集 (ISSN:0385275X)
巻号頁・発行日
no.126, pp.1-10, 2007-09-05
参考文献数
11

本報では,第1報,第2報の前後,左右,上下に不均一な温熱環境下で得たデータを基に,椅座,定常人体の全身快適感,頭および全身の暑さに伴う不快感,膝先(下腿と足)および全身の寒さに伴う不快感を,局所皮膚温と局所乾性放熱量で表す実験式を提案した.全身快適感の式では,均一に近い条件で快適性が高く,左右,前後の不均一性が強くなると快適性が低くなる.頭および全身の暑さに伴う不快感,膝先および全身の寒さに伴う不快感の式では,「暑さ」または「寒さ」に伴う頭,膝先の不快感が,全身としてはその逆の状態である「寒さ」または「暑さ」によって緩和される.基礎実験と異なる着衣,上下に不均一な条件において検証実験を行った.全身快適感の実験式は,被験者全体の平均値を予測したものの,より詳細に見ると,上下の不均一性を適切に評価できていない点も認められた.頭および全身の暑さに伴う不快感は検証実験においてほとんど見られず,実験式もそれを再現できた.膝先および全身の寒さに伴う不快感は,女性の予測値が高過ぎ,男性の予測値が低過ぎたものの,被験者全体の平均値,および男性,女性,被験者全体,それぞれにおける不快感の順を予測できた.
著者
加藤 一郎 平賀 紘一 西条 寿夫 近藤 健男 武田 正利
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は中枢神経系を含む全身で非ケトーシス型高グリシン血症・脳症の原因蛋白質であるH蛋白質を欠損するマウスを作製し、高グリシン血症・脳症の成因や病態を明らかにすることにある。平成16年度の研究は以下の通りに順調に進行した。1.マウスのグリシン開裂酵素系H蛋白質遺伝子のエキソン1周囲に2か所のloxP部位を導入したキメラマウスを5匹得た。うち2匹が変異遺伝子のgerm-line transmissionを示した。2.上記マウスとCre Recombinase遺伝子導入マウスを交配して、loxP間のエキソン1を含むゲノムDNA領域を欠損したH蛋白質遺伝子ヘテロ欠損マウスを得た。3.抗H蛋白質ポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロット解析では、ヘテロ欠損体でH蛋白質が50%に減少していることが確認された。4.次にホモ欠損マウスを得るためにH蛋白質遺伝子ヘテロ欠損マウス同士を交配し、その子孫のgenotypeをPCR法およびサザンプロット法で解析した。ホモ欠損マウスは全く得られなかった。ヘテロ欠損体では出生直後に体内出血・体幹異常を示す異常個体が散見された。5.さらに胎生14日目までさかのぼって胎児を遺伝子解析すると、野生型26:ヘテロ欠損33:ホモ欠損0であった。ヘテロ欠損体はメンデル則で予想される数より少ない傾向が見られた。本研究の結果、H蛋白質遺伝子ホモ欠損マウスは全く発生できないか、極めて早期に胎生致死となっていることが示唆され、本蛋白質がマウスの正常発生に必須であることが、はじめて明らかになった。今後H蛋白質が50%に減少しているヘテロ欠損マウスを用いて、H蛋白質がさまざまな臓器ストレスに対する耐性獲得に果たす役割の検討が可能になった。さらに薬剤誘導可能な、あるいは臓器特異的なCre Recombinase遺伝子発現マウスとの組み合わせにより、条件特異的なH蛋白質欠損マウスを作製し肝臓や脳、心臓などの主要臓器におけるH蛋白質の生体内機能を深く探求することができる。
著者
長谷川 政美 加藤 真 湯浅 浩史 池谷 和信 安高 雄治 原 慶明 金子 明 宝来 聰 飯田 卓
出版者
統計数理研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

マダガスカル固有のいくつかの生物群について、その起源とこの島における多様化の様相を明らかにする分子系統学的研究を行った。(1)マダガスカル原猿類(レムール類)とアフリカ、アジアの原猿類との進化的な関係を、ミトコンドリアのゲノム解析から明らかにし、レムール類の起源に関して新しい仮説を提唱した。(2)テンレック類についても分子系統解析によって、その起源とマダガスカルでの多様化進化を明らかにする研究を行った。テンレックについては、前肢運動器官の比較解剖学的解析を行い、この島における適応戦略を探った。(3)マダガスカル固有のマダガスカルガエル科から、アデガエル、マントガエル、イロメガエル3属のミトコンドリア・ゲノムを解析し、この科がアオガエル科に近縁であることを示した。(4)マダガスカル固有のバオバブAdansonia属6種とアフリカ、オーストラリアのものとの進化的な関係を、葉緑体ゲノムの解析から明らかにした。マダガスカルの6つの植生において、植物の開花を探索し、それぞれの植物での訪花昆虫を調査した。いずれの場所でも、訪花昆虫としてマダガスカルミツバチが優占していたが、自然林ではPachymelus属などのマダガスカル固有のハナバチが観察された.このほか,鳥媒,蛾媒,甲虫媒なども観察された。マダガスカル特有の現象として、長舌のガガンボ類Elephantomyiaの送粉への関与が、さまざまな植物で観察された。Phyllanthus属4種で、ホソガによる絶対送粉共生が示唆された。マダガスカルの自然と人間の共生に関する基礎的知見の蓄積のため、同国の海藻のフロラとその利用に関する研究、及びマングローブ域に特異的に生育する藻類の生育分布と交雑実験による生殖的隔離に基づく系統地理学的解析を行った。マダガスカル南西部漁村の継続調査から、生態システムと文化システムの相互交渉を浮かび上がらせた。
著者
加藤 内藏進 松本 淳
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

1.GAME特別観測年であり長江流域の大洪水の起きた1998年6月下旬には,前線帯南方の亜熱帯高気圧自体はゆっくりと遷移しながらもそこでの東西の気圧傾度は維持され,水蒸気輸送を担う下層南風も持続した。この時期は,冬までの顕著なエルニーニョからラニーニャに転じた直後であったが,モンスーン西風の熱帯西太平洋域への侵入やそこでの対流活動は抑制された。2回の長江流域での大雨期は,そのような状況下での熱帯西太平洋域での対流活動の季節内変動の一連のサイクルに伴ったものである点が明らかになった。2.大陸上の前線帯でのメソα低気圧は,1991年,1998年の事例で示されるように,中国乾燥地域の影響を受けた総観規模低圧部に伴う北向き流れと亜熱帯高気圧に伴うそれ(より北へ水蒸気を輸送)とが合体して活発化した梅雨降水帯の中で,降水系がメソαスケールへ組織化されることによって形成されるという過程の重要性を明らかにした。つまり,かなり異なるスケール間の現象の受け渡しで,全体として梅雨前線帯スケールの水循環が維持されるという側面があることになる。3.年によっては春の時期から日本付近の前線帯へ向かって比較的大きな北向き水蒸気輸送が見られるが,東南アジアモンスーンが開始する前の時期(例えば3〜4月)には,中緯度の傾圧帯の中での現象であり,亜熱帯高気圧域内の現象である梅雨最盛期の水輸送システムとはかなり質的に異なる点が分かった。4.冷夏の1993年7月後半〜8月中旬にかけて,西日本を中心に,台風の北上と梅雨前線双方の影響を受けて降水量が大変多くなった。これは,15N付近を145Eから120Eへ向けてまとまりながら西進する対流活動域(〜130Eで最も強まる)が,台風の発達・北上,及び,その後の梅雨前線への水蒸気輸送,という一連のサイクルを引き起こしたこと,それに対して,春からの弱いエルニーニョの影響が季節進行の中での履歴を通して重要な役割を果たしていたことを明らかにした。5.秋雨前線帯での雲活動は,梅雨前線帯以上に東西方向の偏り方の年々の違いが大きい。これは,熱帯西太平洋域の海面水温の特に高い領域は,気候学的には9月頃に最も東方まで広がっているため,夏の熱帯の対流活動のアノマリーの履歴によって,9月の対流活動域の東西の偏りが大変大きくなりやすく,前線帯の南側の亜熱帯高気圧による下層南風強風域の東西方向の年々の偏りが大きいためであることが分かった。6.地球規模の大気環境の変動に対する東アジア前線帯の応答過程の理解を深めるために,1997/98年エルニーニョ時の顕著な暖冬への移行過程を調べた。その結果,地球規模でのアノマリーへの応答が通常11月頃に起こる急激な冬への進行を阻害することでエルニーニョが大きく影響したことを明らかにした。
著者
加藤 照之 木下 正生 一色 浩 寺田 幸博 神崎 政之 柿本 英司
出版者
東京大学
雑誌
地域連携推進研究費
巻号頁・発行日
1999

本研究は,海面に浮かべたブイいGPSを搭載して陸上基地局との間でRTK解析を実施することにより海面高の実時間監視を実現し,襲来する津波を沿岸への到達前に検出して津波防災に役立てるシステムを構築しようとするところに究極の目的がある.このために過去に実施してきた基礎実験をうけ,本研究課題においては大船渡市と連携して,同市沖にGPS津波計を敷設し,1年間の長期実験を実施したものである.平成11年度に開始された本研究では,同年度中にシステムの設計を行い,平成12年度にGPSブイ及び周辺システムを製作・構築し,平成13年1月23日に大船渡市長崎地区沖に敷設して実験を開始した.陸上基地局はブイから約1.6km離れた場所に設置した.特小無線によってデータをブイからリアルタイム伝送し,基地局におかれた小型計算機でRTK処理を施すと共に,計算結果は専用電話回線によって大船渡市役所と同市消防署に伝送されて実時間監視に役立てられた.初期不良や時折の観測・解析の中断はあるものの,1年を経た現在でもほぼ順調に稼動している.実験の途中の平成13年6月25日未明には前日のペルー沖で発生した地震津波をとらえるのに成功した.このときの振幅は10-20cmであった.本実験によって「GPS津波計」がほぼ当初の目的とした1cm程度での検出が可能であることを実証した.また,解析データを準リアルタイムにホームページ上で公開することにより誰でもどこでも気軽に海面の様子を知ることが可能となった.なお,今後実用化に向けてはいくつかの課題を解決すべきであることも明らかとなった.例えば,より沖合いに展開するために10km超の長距離RTKで1cm程度の精度を達成すること,水深の深いところでのブイの安定作動と長距離データ伝送,津波の自動判別アルゴリズムの開発などである.今後こうした課題を解決して真に防災に役立つシステムを完成させたいと考えている.
著者
A Cardenas 加藤 隆浩
出版者
南山大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本研究の課題は、メキシコの多文化主義的教育を教条的になぞることではなく、その実践のなかに見え隠れする「綻び」の原因を明らかにすることであった。そこで、研究代表者らは初年度には、教育現場で使われる教科書の分析を多文化主義、多文化共生に注目して行い、2年目には先住民文化と国民文化とがどのように関係づけられ、それがインディヘニスモに裏づけられたメキシコ版多文化主義を基盤とする国民国家の形成にどのような形でかかわるかを公立小中学校の教員からの聞き取り調査をもとに見てきた。その結果、生徒と最も接触の多い教員に注目すると、彼らの語る多文化教育の理念と実践との問に大きな乖離があり、それは教育環境を整えるための財政支援不足ゆえのことであるという認識があることが分かった。研究期間のうちの2年を教育現場を中心に調査研究を進めてきたが、最終年度の今年は、その問題を国がどのように認識しているかを教育行政に直接携わり、自ら政策を立案し実践していく国民教育省(SEP)の官僚からの聞き取りにより調査した。そこで明らかになったのは、これまでに幾度となく多文化教育の理念を練り直され、それが啓蒙活動に利用できるような形で冊子、著作として纏められ教員や保護者に無料配布されてきたこと、またその理念に合わせたさまざまな副教材が作成され、教育現場で使用されていること、しかし、そうした実践のための膨大な人的・財政負担(近年、減少傾向にはあるが)にもかかわらず、期待されるような結果が出ていないという厳しい現状があること、その原因は、然るべき教授法を身につけた教員がほとんどいないという点を教育省の官僚らが認めていることなどであった。要するに、「綻び」は教育現場でも官庁でも共通に認識されているが、前者では予算不足を原因とし、後者では現場の教員に責任を転嫁しているように見える。もちろん「綻び」の責任の所在がどこにあるかが問題ではなく、それにどのように対処すべきかが重要である。そのためには、立場を超え、多文化教育の「綻び」に真摯に向き合う必要と思われる。本研究を実施する中で研究代表者らにとって驚きであったのは、多文化教育の理念に関する研究は膨大にあるのに、その「綻び」に関してはほとんどなかった、という点である。この問題の分析は、まだ始まったばかりということである。なお本研究では、家庭教育にも注目し、家庭学習用として安価で売り出されているモノグラフィアにも注目した。
著者
御子柴 道夫 長縄 光夫 松原 広志 白倉 克文 清水 昭雄 大矢 温 加藤 史朗 清水 俊行 下里 俊行 根村 亮 坂本 博
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

18世紀後半から19世紀前半までのロシア思想史を、従来の社会思想史、政治思想史に偏る研究視点から脱し、それらを踏まえたうえで、狭義の哲学思想、宗教思想、文学思想、芸術思想の多岐にわたる面で多面的に研究してきた。その結果、従来わが国ではもっぱら思想家としてしか扱われてこなかったレオンチェフの小説にスポット・ライトが当てられ、逆に小説家としてしか論じてこられなかったプラトーノブやチェーホラが思想面からアプローチされた。またロシア正教会内の一事件としてわが国ではほとんど手つかずだった賛名派の騒動が思想ないし哲学面から解釈された。さらに象徴派の画家やアヴァンギャルド画家が哲学あるいは社会思想史の視点からの考察の対象となった。と同時に、これらの作業の結果、ロシアでは文学、芸術、宗教儀礼、あるいは社会的事件さえもが思想と有機的に密接に結びついているのではないかとの以前からの感触が具体的に実証されることとなった。また、文化のあらゆる領域を思想の問題としてとらえた結果、当該時期のロシア思想史をほとんど遺漏なく網羅することが可能になった。この基本作業をふまえて、いくつかのテーマ--近代化の問題、ナショナリズムとグローバリズムないしユニヴァーサリズムの問題、認識論や存在論の問題などが浮上してきた。分担者、協力者各自の研究の中で当然それらのテーマは咀嚼され発展させられてきたが、今後はこれらのテーマを核に、この4年間で蓄積された膨大な素材を通史的に整理し止揚する作業を継続してゆき、書籍として刊行して世に問うことを目指す。