著者
萩原 早紀 栗原 一貴
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.1_52-1_62, 2016-01-26 (Released:2016-03-26)

本論文では,俗に“コミュ障”と呼ばれている人間の性質に注目し,その中で他人と視線を合わせられない症状をもつ人々を社会福祉学的な観点から支援するためのシースルー型HMD を使用したシステムの提案を行う.この“コミュ障”支援システムは,彼ら/彼女らが他人と視線を合わせられないというコミュニケーション上の問題を緩和・改善するために,顔検出技術と視覚情報提示により相手の顔を隠したり,視線をそらす癖を改善するように指示したり,視線の挙動の客観的なデータを提示したり,コミュニケーション上の危険状態が発生した場合その場から脱出する手段を与えてくれる.このシステムのプロトタイプを実装し,評価した結果,いくつかの機能は有効に働き,今後の改善点が得られた.
著者
西田 伸 川原 一之 安河内 彦輝 江田 真毅 小池 裕子 岩本 俊孝
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.3-10, 2022 (Released:2022-02-09)
参考文献数
22

宮崎県西臼杵郡高千穂町上村の藤野家と,同じく高千穂町土呂久・佐藤家に保管されていた「熊の手足」の資料についてDNA解析を行い,情報の少ないツキノワグマ(Ursus thibetanus)九州個体群の遺伝的特徴について調査した.聞き取り調査から,明治中期~大正初期に祖母山系で捕獲されたと推測された佐藤家資料において,ミトコンドリアDNA コントロール領域648bp(ハプロタイプ:KU01)の解析に成功した.KU01は西日本系群に含まれる新しいタイプであった.先行研究の結果と合わせて考えると,絶滅したとされる九州個体群は他国内集団とは遺伝的に分化した独自の地域集団を形成していた可能性がある.
著者
千原 一泰 木村 幸弘 本定 千知 竹内 健司 定 清直
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.197-202, 2013 (Released:2013-08-31)
参考文献数
17
被引用文献数
3 4

Spleen tyrosine kinase(Syk)は,福井大学医学部において単離された非受容体型チロシンキナーゼである.SykはIgE受容体活性化を介したマスト細胞のヒスタミン放出やサイトカイン産生,マクロファージのファゴサイトーシス,破骨細胞の活性化,さらにB細胞の分化や活性化に必須の役割を担っている.また,最近の研究からある種の癌や自己免疫疾患,真菌やウイルス感染との関連も明らかになってきた.Sykが細胞機能の根幹に関わる重要な分子であることが次々と明らかとなるにつれ,その阻害薬の開発と種々の疾患に対する臨床応用への期待が高まっている.このような強い要望に応え,これまでに多くのSyk阻害薬が開発されてきた.しかし,そのすべてが臨床治験にまで至らなかった.ところが近年,新たなSyk阻害薬が開発され,アレルギー性鼻炎や関節リウマチへの有効性が脚光を浴びている.特にR788(フォスタマチニブ)は経口Syk阻害薬として開発され,米国において第III層試験が実施されている.本稿ではSykの発見の経緯,構造と生理機能を踏まえた上で,新しいSyk阻害薬について概説したい.
著者
ジョヨンジュン 岩崎 敦 神取 道宏 小原 一郎 横尾 真
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.2445-2456, 2012-11-15

本論文では不完全私的観測付き繰返しゲームの均衡を分析するプログラムを提案する.不完全私的観測付き繰返しゲームは,プレイヤが相手の行動についてノイズを含むシグナルを観測し,そのシグナルを他のプレイヤは観測できないという特徴を持つ.こうしたゲームは人工知能や経済の分野において様々な適用領域を持つため,大きく注目されている.しかし,このゲームにおける均衡を求めるには,非常に複雑な統計的推論が必要になるため,従来難しい未解決問題として知られていた.近年,均衡における振舞いを有限状態オートマトン(finite state automaton,FSA)で記述し,部分観測可能マルコフ決定過程(partially observable Markov decision process,POMDP)の理論を用いることで,あるFSAが均衡を構成するかどうかを明らかにできることが示された.しかし,その具体的な実装方法や実際の問題へ適用するためのプログラムは提供されていない.そこで本論文ではまず,標準的なPOMDPソルバのラッパとなるプログラムを開発する.このプログラムでは私的観測付き繰返しゲームの記述とFSAを入力として,そのFSAが対称的均衡を構成するかどうかを自動的に確認できる.さらに,このプログラムを繰返し囚人のジレンマに適用し,k-期相互処罰(k-MP)と呼ぶ新しいFSAのクラスを発見した.k-MPにおけるプレイヤは,初めに協力し相手の裏切りを観測するとそれ以降自分も裏切るが,続けてk回裏切りを観測すると元に戻り協力する.このプログラムを用いて状態数3以下のFSAを全探索した結果,繰返しゲームにおける観測構造パラメータのいくらかの範囲で,2-MPが他の純粋戦略均衡より優れており,従来よく知られている均衡である無限期罰則のトリガ戦略(grim-trigger)よりも効率的,つまり高い平均利得を実現することが分かった.The present paper investigates repeated games with imperfect private monitoring, where each player privately receives a noisy observation (signal) of the opponent's action. Such games have been paid considerable attention in the AI and economics literature. Since players do not share common information in such a game, characterizing players' optimal behavior is substantially complex. As a result, identifying pure strategy equilibria in this class has been known as a hard open problem. Recently, Kandori and Obara (2010) showed that the theory of partially observable Markov decision processes (POMDP) can be applied to identify a class of equilibria where the equilibrium behavior can be described by a finite state automaton (FSA). However, they did not provide a practical method or a program to apply their general idea to actual problems. We first develop a program that acts as a wrapper of a standard POMDP solver, which takes a description of a repeated game with private monitoring and an FSA as inputs, and automatically checks whether the FSA constitutes a symmetric equilibrium. We apply our program to repeated Prisoner's dilemma and find a novel class of FSA, which we call k-period mutual punishment (k-MP). The k-MP starts with cooperation and defects after observing a defection. It restores cooperation after observing defections k-times in a row. Our program enables us to exhaustively search for all FSAs with at most three states, and we found that 2-MP beats all the other pure strategy equilibria with at most three states for some range of parameter values and it is more efficient in an equilibrium than the grim-trigger.
著者
阿保 勝之 樽谷 賢治 原田 和弘 宮原 一隆 中山 哲厳 八木 宏
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B2(海岸工学) (ISSN:18842399)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.I_1116-I_1120, 2012 (Released:2012-11-15)
参考文献数
13
被引用文献数
2

The production of Nori (Pyropia yezoensis) in the Seto Inland Sea is getting lower because of the bleaching of Nori which is caused by nutrient deficiency. In this study, we examined effects of nutrient discharge on Nori aquaculture area in Kako River estuary. In the aquaculture area, nutrient discharge from the river, sewage treatment plant and industrial effluent sustained the Nori production in the winter season. A numerical simulation estimated the behavior of the riverine water and revealed the effects of nutrient discharge on the nutrient environment of the aquaculture area. We also evaluated the effects of moderate operation of the sewage treatment plant on the nutrient environments. We demonstrated the increase of nutrient flux in the aquaculture area and figured out the effective area of the moderate operation.
著者
小原 一成
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.115, no.9, pp.437-447, 2009 (Released:2010-03-10)
参考文献数
55
被引用文献数
3 1

近年の高密度地震観測網整備に伴い,南海トラフから西南日本に沈み込むフィリピン海プレートの境界付近で,様々なスロー地震が検出されている.巨大地震発生域の深部では,数日間継続するプレート境界固着すべりとしての短期的スロースリップイベント,周期20秒に卓越する深部超低周波地震,2 Hzに卓越する深部低周波微動が,全長約600 kmの帯状領域に沿って複数のセグメントに分かれ,半年あるいは3ヶ月など周期的に発生する.また,南海トラフ陸側の付加体内部では周期約10秒に卓越する浅部超低周波地震が発生している.これらのスロー地震は,浅部では付加体変形過程,深部では沈み込むフィリピン海プレートの海洋地殻あるいは付加体堆積物での脱水分解反応や変成作用と関わっている可能性があり,プレート沈み込み帯における地質体形成や流体循環の現場を反映するものとして注目される.
著者
庵 翔太 砂山 渡 畑中 裕司 小郷原 一智
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集
巻号頁・発行日
vol.2018, pp.3F2OS12b03, 2018

<p>近年,ソーシャルメディアの利用者の増加によって,多くの人々がオンラインでのコミュニケーションを行っている.しかしながら,昨今ソーシャルメディアにおける不適切投稿によって生じるトラブルが問題となっている.こういった現状を考えると,オンラインでの対話を行う際に,読み手の感情を考慮した文章作成を行うことは,良好な人間関係を構築する上で重要であると言える.そこで本研究では,文章を入力とし,書き手が読み手から良い印象を受ける文章の作成を支援することを目的とする.このために,好意と悪意を表す単語の可視化機能や文章修正を促す機能を実装した.実験の結果,本システムによって読み手に良い印象を与える文章の作成を支援できることがわかった.</p>
著者
間嶋 寛紀 赤井 純治 茅原 一也 中牟田 義博 松原 聡
出版者
Japan Association of Mineralogical Sciences
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.138, 2003 (Released:2004-07-26)

新潟県青海・糸魚川地域のヒスイ輝石岩中にはヒスイ輝石岩形成以降に形成された二次的な脈が多く存在し,ここからはSrを主成分とする鉱物が多く産したが,蓮華石もその一つである 蓮華石(rengeite)Sr4ZrTi4 (Si2O7) 2O8は新潟県西部,青海・糸魚川地域の蛇紋岩メランジ中に含まれるヒスイ輝石岩から発見された(Miyajima et al.,2001).蓮華石は単斜晶系に属し,格子定数はa=13.97(1),b=5.675(7),c=11.98(1)Åである. 今回新潟県青海町産白色ヒスイ輝石岩を調べている中で二次的な脈の中から蓮華石様鉱物を見出した。肉眼あるいは双眼実体顕微鏡下では淡灰色から暗青灰色の色を示し長さ1mm以下の脈状集合体または長さ0.2mm以下の短柱状自形結晶をなして産する.共生鉱物は脈を埋めて産するソーダ沸石と,初生的に形成されたジルコンである.ヒスイ輝石は0.5mm以下の自形から半自形で,しばしば脈状に著しい破砕を受けている.この蓮華石様鉱物の短柱状の形態はこの試料以外ではほとんど見られず,他の試料では蓮華石は放射針状の結晶集合体をなすことが多い.本試料は偏光顕微鏡下では濃青色から淡褐色の強い多色性を示すものと,多色性を示さないものとがあり,短柱状の単結晶の柱面に平行にzoningしているものが多い.通常の薄片の厚さではわからないが,イオン研磨により極めて薄くした薄片ではクロスニコルでバンド状の組織が認められることがある.この蓮華石様鉱物は非常に小さいため,イオン研磨にて試料を作り,透過型電子顕微鏡で解析した.EDSによる定量分析では組成はSiO2=23.0,TiO2=28.3,Fe2O3=0.4,SrO=41.3,ZrO2=6.7,Nb2O5=0.4 wt.%という値が得られた.電子線回折では蓮華石のd001周期が2倍の位置に回折スポットを示し,いくつもの回折パターンの特徴から蓮華石の多形,斜方晶系相と解釈される.Auを標準としたEDパターンの解析から,この鉱物の格子定数はa=14.0,b=5.7,c=21.9Åである.この斜方晶系単位格子は,輝石,角閃石等と類似の,単斜晶系単位格子が格子レベルでの双晶を作った格子関係にある.高分解能像では双晶構造に対応する像が解像される.なお,蓮華石の原構造ともいうべきperrierite (Ce,La,Ca,Sr)4FeTi4 (Si2O7) 2O8,chevkinite(Ce,Ca,Th)4(Fe,Mg) (Ti,Mg,Fe) 4(Si2O7)2O8には斜方晶系の報告はされていない.この蓮華石様鉱物については現在ガンドルフィーカメラ,XMA他でさらに検討中である.
著者
菅原 一秀
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会誌 (ISSN:09135693)
巻号頁・発行日
vol.84, no.5, pp.337-340, 2001-05-01
参考文献数
5

視覚障害者が独力で印刷文書を読むことができるシステムを紹介する.従来のこのようなシステムは印刷された文章の音声への置換え機能を提供するだけなので,先頭から順に音声を聞くことしかできず,ユーザが読みたいところに素早くアクセスすることができなかった.この問題は見出しや段落など文書の論理的な構造を利用することにより解決できる.ユーザインタフェースとしては論理構造-この場合はツリー構造-を渡り歩くためのコマンドが必要となる.我々はこの方式を雑誌を読む課題に適用した.表紙による雑誌の判別や,目次構造の利用,ページ番号の取得,構造化された文書の管理などの機能も含め,雑誌からの総合的な情報取得のためのシステムを作り上げた.
著者
菅原 一秀
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.371-372, 1995-09-20

視覚障害者が日常的な印刷情報に簡単にアクセスできるためのシステムの研究開発を行なっている。出力は音声又は点字によるので不要な情報は飛ばして、必要な情報に効率的にアクセスできることが特に重要である。そのためにスキャナから入力された文書画像のレイアウト解析を行ない、論理構造を抽出して利用する。本稿では雑誌を読む場合及び請求書を読む場合の手順を想定し、効率的なアクセスのために必要な技術を検討する。また、レイアウト解析から得られる情報と、文字認識の内容から得られる情報を組み合わせて文字列をグループ化し、文書の論理構造を抽出する手法を提案する。文書画像から論理構造を抽出する研究は文書処理の効率化を目指して行なわれてきた。これらの論文ではいずれも対象を技術論文や、特許公報などの専門的文書に限っており日常的な、雑誌、請求書などの文書についてはこれまで対象外であった。
著者
石川 哲郎 高田 未来美 徳永 圭史 立原 一憲
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.5-18, 2013-05-30 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
2

1996〜2011年に、沖縄島の266河川において、外来魚類の定着状況と分布パターンを詳細に調査した結果、13科に属する30種1雑種の外来魚類を確認した。このうち、温帯域から熱帯域を含む様々な地域を原産とする合計22種(国外外来種19種、国内外来種4種)が沖縄島の陸水域で繁殖していると判断され、外来魚類の種数は在来魚類(7種)の3倍以上に達していた。繁殖している外来魚類の種数は、20年前のデータと比較して2倍以上に増加していたが、これは1985年以降に18種もの観賞用魚類が相次いで野外へ遺棄され、うち10種が繁殖に成功したことが原因であると考えられた。外来魚類の分布は、各種の出現パターンから4グループに分けられた:極めて分布が広範な種(カワスズメOreochromis mossambicusおよびグッピーPoecilia reticulata)、分布が広範な種(カダヤシGambusia affinisなど4種)、分布が中程度の広さの種(マダラロリカリアPterygoplichthys disjunctivusなど5種)および分布が狭い種(ウォーキングキャットフィッシュClarias batrachusなど20種)。外来魚類の出現頻度と人口密度との間には正の相関が認められ、外来魚類の出現パターンと人間活動との間に密接な関係があることが示唆された。外来魚類は、導入から時間が経過するほど分布を拡大する傾向があったが、その速度は種ごとに異なっていた。特に、日本本土やヨーロッパにおいて極めて侵略的な外来魚類であると考えられているモツゴPseudorasbora parva、オオクチバスMicropterus salmoidesおよびブルーギルLepomis macrochirusの分布拡大が遅く、外来魚類の侵略性が導入された環境により異なることが示唆された。沖縄島の陸水域において新たな外来魚類の導入を阻止するためには、観賞用魚類の野外への遺棄を禁ずる法規制の整備と共に、生物多様性に対する外来生物の脅威について地域住民に啓発していくことが重要である。
著者
金 泓奎 大原 一興 小滝 一正
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.68, no.565, pp.183-191, 2003
被引用文献数
1 1

Homeless people have built shacks and settled down in Shibuya-ku / Miyashita Park. In this paper I tried to investigate the need for community, especially through the participatory research by the homeless people themselves in this park. It shows that the homeless people living in the park have formed neighborhood relation and this relation contributes to sufficiency of their basic human needs, house construction through mutual support, cooperative approach for the life rebuilding. Further, it shows that they have practiced many kinds of housing activities through the homeless peoples' autonomous council, which they established, and that they also express much interest in joint resettlement. Important needs for the homeless are not only shelters, but also improvement in their living environment based on autonomous community while living together. Therefore, as a policy, preparation of systems for enabling them to practice such kind of their autonomous activities is more necessary than institutionalization.
著者
桑原 一良
出版者
新見公立短期大学
雑誌
新見公立短期大学紀要 (ISSN:13453599)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.1-10, 2000-12-25

元皇太子妃ダイアナがパパラッチの追跡によってあたかもキツネ狩りに遭遇したキツネのように死去した。このダイアナのあまりに悲惨な死を,神話学的,記号論的に解釈し,さらに同年英国で提案されたキツネ狩り禁止法案を重ね合わせると,ハンティングスポーツの終焉が見えてくることを考察した。
著者
野村 若見 昇 近藤 信二 合原 一幸
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
信学技報
巻号頁・発行日
pp.NLP93-67, 1994
被引用文献数
2

食器洗い機における2リンクノズルの挙動を決定論的カオスの観点から解析した.2リンクノズルは自由に回転できる2つのノズルから構成されており,周期的でない複雑な動きを示す.この2リンクノズルの動きを画像処理により検出し,時系列データに基づく解析を行なった.具体的には,画像処理により得られた時系列データから2リンクノズルの力学系を表すアトラクタを再構成し,1)ポアンカレ断面2)サークルマップ3)リアプノフ指数4)フラクタル次元の計算を行なった.これらの計算の結果はすべて,2リンクノズルの挙動が決定論的カオスから生成されていることを示していると考える.また,実際の食器を用いた洗浄能力の評価実験では,周期的な挙動を示す従来のノズルよりもカオス的な挙動を示すノズルの方が洗浄能力が高くなるという結果が得られた.
著者
西浦 博 合原 一幸
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.797-803, 2009
被引用文献数
1

新型インフルエンザ流行が世界的に拡大している.今冬および来年度以降の流行に備えてワクチン製造が必要だが, 製造可能なワクチン総数には上限があり, 同時に季節性インフルエンザのワクチン製造も求められる.本研究は, ワクチン製造資源を最も合理的に新型インフルエンザに配分する数理的手法を提案する.新型インフルエンザ単独の流行閾値条件に近いワクチン接種割合(あるいはそれ以上)を達成できるとき, 全資源を新型インフルエンザに費やすことは最適でない.モデル想定とパラメータ推定値が再流行を十分に記述できると仮定すると, 来年度以降のワクチンの年間最大製造量5000万人分の82.2%を新型インフルエンザに配分することで全死亡者数が最少に抑えられる.2009年度は, 製造可能な新型インフルエンザのワクチン総数に上限があるが, 新型インフルエンザの再生産数が季節性のそれの0.9倍以上ならば, 年度内に残る製造資源の全てを新型インフルエンザに費やすことが適切と考えられる.[本要旨はPDFには含まれない]