著者
小池 隆史 高橋 優宏 古舘 佐起子 岡 晋一郎 岩崎 聡 岡野 光博
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1026-1031, 2021-11-20

はじめに 舌下免疫療法(sublingual immunotherapy:SLIT)はアレルギー性鼻炎の根治的治療であるアレルゲン免疫療法の1つである。本邦ではスギ花粉症に対して2002年以降に厚生労働省研究班による臨床研究がスタートし,多施設でのSLITの有効性が確かめられ,2014年にスギ花粉症に対して保険適用された1,2)。 従来の皮下免疫療法(subcutaneous immunotherapy:SCIT)と比較して,重篤なアナフィラキシー反応誘発の可能性がきわめて低く,入院を必要とせず自宅での施行が可能であることが特長である3)。しかし,局所的な副反応の発生はSCITよりも多いと報告されており,アナフィラキシーの発生報告も皆無ではないため,SLIT実施にあたっては,かかりつけ医に加え,患者自身も起こりうる副作用とその対策の概要を理解することが求められる3)。また,副反応への対応については『鼻アレルギー診療ガイドライン』にも記載されているが,副反応改善後のSLIT再開の時期や,投与量,投与法の調整などについては,まだ現場の医師の裁量によるところが大きい4)。 今回われわれは,飲み込み法にてSLITを導入後の早期にアナフィラキシーを生じたが,症状改善後に減量したうえで吐き出し法にてSLITを再開した結果,アナフィラキシーを再発せずに経過良好となった症例を経験したので報告し,文献的に考察する。
著者
古谷 昭雄 山口 眞由
出版者
学校法人 天満学園 太成学院大学
雑誌
太成学院大学紀要 (ISSN:13490966)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.151-156, 2007-03-31 (Released:2017-05-10)

毛髪は法医学上、個人識別を行う基本的事項としてきわめて重要である。今回は毛髪の物理学的性状について引張強度と伸張率について年齢群別正常標準値の算出を行った。引張強度については、正常標準値の結果から10歳-19歳の年齢群を最高値に、以後の年齢群については加齢にともなって漸減の傾向がみられ、60歳以上では最低値を示した。男女とも幼年期には弱いが、少年期、青年期に強く、壮年期、老年期に近づくにつれて次第に弱くなっていった。伸張率については正常標準値の結果から10歳未満から加齢にともなって増大し、60歳以上では最高値を示した。加齢とともに少しずつ増大し、60歳以上で最高値を示したことは加齢が進むにつれて水分の吸収がよくなり、しなやかで弾力性がよくなってくるのではないかと推測される。今回の引張試験により個人識別が容易にできる可能性がある示唆をあたえてくれた。
著者
山田 充哉 石橋 亮 河村 功一 古丸 明
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.76, no.5, pp.926-932, 2010 (Released:2010-11-01)
参考文献数
31
被引用文献数
6 13

日本に分布するマシジミとタイワンシジミの類縁関係を明らかにするため,形態,両種の倍数性,mtDNA の配列情報を分析した。殻色によりマシジミ,タイワンシジミ黄色型及び緑色型に識別したところ,何れにおいても 2 倍体と 3 倍体が確認された。mtDNA のチトクローム b 塩基配列に基づく系統樹では 2 クレードが確認されたが,形態,倍数性の何れとも対応しなかった。また,両種に共通するハプロタイプが認められた。従って,両種は遺伝的に識別不可能であり,別種として扱うかどうかについては再検討が必要と考えられる。
著者
山本 健 片岡 厚 古山 安之 松浦 力 木口 実
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.320-326, 2007 (Released:2007-11-28)
参考文献数
7
被引用文献数
6 8

紫外線から可視光線(278~496 nm)を波長幅約20 nmに分光して6樹種の木材に照射し,照射光の波長と材の変色との関係を調べた。照射前のCIELAB色空間におけるL* 値が70以上,a*値が8未満の淡色材には,紫外域での暗・濃色化と,可視域での明・淡色化が見られた。厳密には,暗・濃色化と明・淡色化の境界波長は樹種によって異なり,針葉樹では,境界波長が広葉樹よりもやや長波長側に見られる傾向があった。一方,照射前のL* 値が70未満,a* 値が8以上の濃色材の変色パターンは複雑であったが,抽出処理後の照射では,淡色材の変色傾向にやや近づく傾向が見られた。照射前の木材の色調と分光照射による変色の関係について,照射前のL* 値が小さい材ほど短波長の光でL* 値が減少から増加に転じ,照射前のa* 値が大きい材ほど短波長でa* 値が増加から減少に転じる傾向があった。しかし,b* 値にはこのような関係は見られなかった。
著者
塩見 直子 鈴木 英子 松谷 弘子 加古 幸子
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.205-217, 2021-07-27 (Released:2021-10-16)
参考文献数
42

大学病院の看護師のバーンアウト予防を意図し,職業的アイデンティティとバーンアウトの関連および職業的アイデンティティの高い者の特徴を明らかにした。調査協力の得られた関東圏の大学病院4施設に勤務する看護師長,助産師,非常勤看護師を除く全看護師2926名を対象として,Maslach Burnout Inventory Human Service Survey (MBI-HSS),看護師の職業的アイデンティティ尺度,短縮版3次元組織コミットメント尺度を使用した無記名自記式質問紙調査を実施した。有効な回答を寄せた看護師1452名を解析の対象とした。解析対象者の年齢(平均値±標準偏差,以下同じ)は32.53±9.56歳,臨床経験年数は9.49±8.36年であった。MBI-HSSの総合得点は,11.93±2.68点,職業的アイデンティティの合計点は61.92±8.40点であった。重回帰分析の結果,「職業的アイデンティティ」とMBI-HSSの総合得点との関連が認められ(β=-0.257, p<0.01),職業的アイデンティティが高い者は,バーンアウトしにくいことが明らかになった。職業的アイデンティティが高い者は,①年齢,臨床経験年数が高く,配偶者や子どもがあり,職位が副師長・主任であることが多く,②「病院はキャリアを支援してくれる」,「現在の給与に満足している」,「休みの希望が通りやすい」など組織を肯定的に評価する割合が高く,③「情動的コミットメント」,「継続的コミットメント」,「規範的コミットメント」の点数が高く,④「組織は個人の価値観を理解してくれない」,「今の職場を辞めたい」,「今の仕事を辞めたい」と回答する割合が少なかった。これらの職業的アイデンティティの高い者の特徴を参考に人材を育成していくことは,看護師のバーンアウト予防につながると考える。
著者
古賀 英也
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.111, no.1, pp.51-67, 2003 (Released:2003-11-19)
参考文献数
61
被引用文献数
7 6

西南日本出土の縄文時代から現代に至る頭蓋骨682個についてクリブラ·オルビタリアを, また626個体の歯列についてエナメル質減形成を肉眼観察し, それぞれの出現頻度を調査した。両ストレスマーカーは共に小児期から思春期頃にかけて最高頻度に達し, 以後は年齢と共に減少する傾向が見られた。クリブラ·オルビタリアは現代人の35.4%が最高で, 最低は博多の天福寺近世人の2.4%であった。また, エナメル質減形成は原田近世人で87.0%の最高値を示し, 最低は北部九州弥生人の15.2%であった。このストレスマーカーには西日本各地の弥生集団間でかなりの違いが見られたが, 縄文人に較べて特に北部九州弥生人で低下傾向が認められた。以上の各時代, 地域集団において, ハリス線を含めた3種のストレスマーカー間の相関を調べたところ, クリブラ·オルビタリアとエナメル質減形成の間に弱いながらも有意の関連性が認められた。
著者
井上 芳光 近藤 徳彦 上田 博之 石指 宏通 近江 雅人 古賀 俊策
出版者
大阪国際大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

発汗能力は,思春期前では性差はみられず,思春期以降に男女とも増大するものの,その程度は女性が男性よりも小さかったため,若年者では女性が男性より低かった.発汗能力は男女とも加齢に伴い低下し,その性差は80 歳代で消失する傾向だった.若年者では短期間の運動トレーニング・暑熱順化に伴う発汗能力の改善の程度にも性差(男>女)がみられた.長期間運動トレーニングに伴う発汗能力の改善は,子供や高齢者が若年者より小さかった.女性の少ない発汗量は,体液の損失を最小限に抑えようとする生物学的意義が窺えた.なお,男性の運動トレーニング・暑熱馴化・加齢による発汗能力の変化は性ホルモン・成長ホルモンとは関連しなかった.
著者
糸井川 高穂 村田 智明 古賀 誉章 山田 昭徳
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.56-64, 2018-04-15 (Released:2019-07-12)
参考文献数
12
被引用文献数
1

本研究の主な目的は,判別の容易なエレベータの開閉ボタンのデザインを提案し効果を検証することである.そのために,大学生を被験者とした3種類の実験を行った.エレベータの開閉ボタンのデザインを構成する要素として,イラスト,地の色,イラストの色,サイズ,振り仮名を設定した.イラスト毎の判別の容易性を明らかにする一つ目の実験では,三角および人をテーマとしたイラストで誤判別が生じやすいことがわかった.デザインの因子毎に判別の容易性を明らかにすることを目的とした二つ目の実験では,イラストでは顔,地は白,開ボタンのみ幅を1.25倍としたデザインが最も判別を容易にすることがわかった.判別の容易性を高める因子の効果の検証を目的とした三つめの実験では,各要素の最適組み合わせだけでなく,一般的なイラストの部分最適化においても,誤判別を低減させる効果を得た.以上より,本研究では,エレベータの開閉ボタンの判別を容易とすることを目指したイラストを提案するとともに,そのイラストを含むデザインを構成する要素毎の判別の容易性を明らかにした.
著者
黒澤 大輔 村上 栄一 古賀 公明 小澤 浩司
出版者
一般社団法人 日本脊椎脊髄病学会
雑誌
Journal of Spine Research (ISSN:18847137)
巻号頁・発行日
vol.12, no.6, pp.840-850, 2021-06-20 (Released:2021-06-20)
参考文献数
80

仙腸関節障害の多くは保存療法で解決するが,一部難治化した症例では仙腸関節固定術を要すことがある.低侵襲仙腸関節固定術のためのデバイスが開発されたことで,手術治療可能な腰臀部痛として仙腸関節障害が注目されるようになり,欧米を中心に手術件数が急増している.術後の成績を左右する因子として最も重要なのが,仙腸関節障害の確定診断である.本邦では日本仙腸関節研究会が診断アルゴリズムを提唱しており,最終的に仙腸関節ブロックで70%以上の疼痛軽快が得られれば確定診断に至る.低侵襲仙腸関節固定術として,iFUSEインプラントシステムⓇ(SI-BONE社,US)が欧米では最も多く使われ,多くの報告で成績が良好である.本邦で行われたパイロットスタディにおいて,手術の簡便さと低侵襲性が優れていることが確認できたが,側方アプローチによる骨盤内血管,神経損傷のリスク,高齢女性では仙骨側でのインプラントの緩みにより長期的な成績が不良となる可能性があることが分かった.インプラントが緩んだ際には,同じ側方アプローチでの低侵襲revision手術が困難であるため,慎重に手術の適応を選ぶべきであると考えられた.
著者
伊藤 良作 長谷川 真紀子 一澤 圭 古野 勝久 須摩 靖彦 田中 真悟 長谷川 元洋 新島 溪子
出版者
日本土壌動物研究会
巻号頁・発行日
no.91, pp.99-156, 2012 (Released:2013-07-30)

日本産ミジントビムシ亜目1科2属2種およびマルトビムシ亜目6科(2亜科を含む) 19属63種1亜種について,同定に必要な形質について説明するとともに,検索図と形質識別表を示し,種類別の特徴を解説した。識別のための主な形質は体の色と模様,体形,特殊な体毛,小眼の数,触角の長さと各節の比率,触角第3,4節の分節数,雄の触角把握器,触角後毛の有無,雄の顔面毛,脛跗節の先の広がった粘毛の方向と,各肢の粘毛の数,脛跗節器官の有無とその形態,爪(外被,偽外被,側歯,内歯の有無)や保体(歯や毛の数)の形態,跳躍器茎節の毛の形質,端節の形態,雌の肛門節付属器,胴感毛の数と配置などである。
著者
古賀 吉道 光来 健一
雑誌
研究報告コンピュータセキュリティ(CSEC) (ISSN:21888655)
巻号頁・発行日
vol.2023-CSEC-100, no.55, pp.1-8, 2023-02-27

システムの脆弱性を完全に取り除くことは困難であるため,侵入検知システム(IDS)を用いて対象システムを監視する必要がある.しかし,システムの異常を検知するホストベース IDS は監視対象システム上で動作するため,安全に実行することが難しい.例えば,システムが改ざんされると IDS が正確なシステム情報を取得することはできなくなる.これまで,汎用 CPU の機能を用いて安全に IDS を実行する様々な手法が提案されてきたが,安全性や柔軟性などの面で問題があった.本稿では,Intel SGX とシステムマネジメントモード(SMM)を組み合わせることで,より安全かつ柔軟に IDS を実行することが可能なシステム SSdetector を提案する.SSdetectorはIDS を保護するために,SGX が提供する隔離実行環境のエンクレイヴ内で IDS を実行する.エンクレイヴ内ではシステムのメモリデータを安全に取得することができないため,SMM で動作する BIOS 内のプログラムを呼び出してメモリデータを取得する.SGX 仮想化をサポートした KVM を用いて VM 内に SSdetector を実装し,IDS が監視に用いる proc ファイルシステムに必要なシステム情報を取得する性能を調べた.
著者
新川 弘樹 井上 孝志 藤田 尚久 野尻 亨 古谷 嘉隆 黒田 敏彦 仲 秀司 安原 洋 和田 信昭
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.59-63, 2001 (Released:2011-06-08)
参考文献数
18
被引用文献数
3 3

V-P (脳室・腹腔) しゃんとの腹腔側ちゅーぶが直腸に穿通し, 肛門より脱出した稀有な1例を経験したので報告する. 症例は74歳の男性. 他院で脳内出血後の正常圧水頭症に対し, V-Pしゃんとを施行された. 10か月後, 髄膜炎で当院脳外科に入院, 抗生物質投与により軽快していた. 入院3か月後, 肛門よりしゃんとちゅーぶが脱出しているのを発見され, 当科紹介となった. 腹部には圧痛, 腹膜刺激症状を認めず, 白血球数6,400/mm3, CRP1.9mg/dlと炎症反応は軽度で, がすとろぐらふぃん ®による注腸造影X線検査で造影剤の漏出は認めなかった. 大腸内視鏡検査ではちゅーぶは肛門縁から10cmの直腸右側壁を穿通していた. 腹膜炎所見がないことから, 経肛門的にちゅーぶを抜去した. 1週間後の注腸検査で造影剤の漏出がないことを確認し, 経口摂取を再開した. V-Pしゃんとちゅーぶの消化管穿通はまれであるが, 注意すべき合併症の1つと考えられた.
著者
岩﨑 恵 庄古 知久 吉川 和秀 安達 朋宏 齋田 文貴 赤星 昂己 出口 善純
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.55-63, 2019-02-28 (Released:2019-02-28)
参考文献数
20

field amputationは非常にまれであるが,時間的猶予のない傷病者には救命の切り札となり得る。海外の災害では四肢切断による救助例も報告されているが,現状の東京DMATに切断資機材はない。目的:当センターにおけるfield amputationプロトコルの策定。方法:わが国のfield amputationに関する文献を医学中央雑誌で検索しその実態について調査する。 同時に海外のプロトコルや報告例も調査する。結果:わが国では過去8件の現場四肢切断実施報告があり,受傷機転は機械への巻き込まれ事案が多い。約半数で切断資機材は後から現場に持ち込まれている一方,米国では出動に関するプロトコルや資機材リストが存在した。結論:field amputationは救命のため必要な場合があり,出動段階から考慮することで救出時間短縮につながる可能性がある。出動段階から適切な対応が取れるようにプロトコルを策定すべきである。
著者
渡邊 三津子 遠藤 仁 古澤 文 藤本 悠子 石山 俊 Melih Anas 縄田 浩志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.265, 2020 (Released:2020-03-30)

1. はじめに 近年,大野盛雄(1925〜2001年),小堀巌(1924〜2010年),片倉もとこ(1937〜2013年)など,日本の戦後から現代にいたる地理学の一時代を担った研究者らが相次いで世を去った。彼らが遺した貴重な学術資料をどのようにして保存・活用するかが課題となっている。本発表では,故片倉もとこが遺したフィールド資料の概要を紹介するとともに,彼女がサウディ・アラビアで撮影した写真の撮影場所を同定する作業を通して,対象地域の景観変化を復元する試みについて紹介する。2. 片倉もとこフィールド資料の概要 片倉が遺した研究資料は,フィールド調査写真,論文・著作物執筆に際してのアイデアや構成などを記したカード類,フィールドで収集した民族衣服,民具類など多岐にわたる。中でも,写真資料に関しては,ネガ/ポジフィルム,ブローニー版,コンタクトプリントなど約61,306シーンが確認できている(2018年12月現在)。本研究では,片倉が住み込みで調査を実施した経緯から,写真資料が最も多く,かつ論文・著作物における詳細な記述が遺されているサウディ・アラビア王国マッカ州のワーディ・ファーティマ(以下,WF)地域を対象とする。3. 片倉フィールド調査写真の撮影地点同定作業 本研究では,以下の手順で撮影地点の同定をすすめた。1) 調査前の準備(写真の整理と撮影地域の絞り込み) まず,写真資料が収められた収納ケース(箱,封筒,ファイルなど)や,マウント,紙焼き写真の裏などに書かれたメモや,著作における記述を参考に,WF地域およびその周辺で撮影されたとみられる写真の絞り込みを行った。次いで,WF地域で撮影されたとみられる写真の中から,地形やモスクなどの特徴的な地物,農夫などが写り込んでいる写真を選定し,現地調査に携行した。2) 現地調査 2018年4〜5月,2018年12月~2019年1月,2019年9月の3回実施した現地調査では,携行した写真を見せながら,現地調査協力者や片倉が調査を行った当時のことを知る住民に,聞き取り調査を行った。 次に,撮影地点ではないかと指摘された場所を訪れ,背景の山地,モスクや学校などの特徴的な地形や地物を観察するとともに,周辺の住民にさらなる聞き取りを行った。 聞き取りや現地観察を通して撮影地点が特定できた場合には,できるだけ片倉フィールド調査写真と同じ方向,同じアングルになるように写真を撮影するとともにGPSを用いて緯度・経度を記録した。なお,新しい建築物ができるなどして同じアングルでの撮影が難しい場合には,可能な限り近い場所で撮影・記録を行った。3) 現地調査後 調査後は,調査で撮影地点が同定された写真を起点として,その前後に撮影されたとみられる写真を中心に,被写体の再精査を行い,現地調査で撮影地点が同定された写真と同じ人物,建物,地形などが写り込んでいる写真を選定し,撮影同定の可能性がある写真の再選定を行った。一連の作業を繰り返すことで,片倉フィールド調査写真の撮影地点の同定をすすめた。4. 写真の撮影地点の同定作業を通した景観復元の試み 撮影地点が同定された片倉のフィールド調査写真と、現在の状況との比較,および1960年代以降に撮影・観測された衛星画像との比較を通して,およそ半世紀の間におこった変化の実情把握を試みた。例えば衛星画像からは、半世紀前にはワーディに農地が広がっていたのに対して,現在では植生が減少していることなどを読み取ることができる。一方で,集落では住宅地が拡大し,道路が整備された。このような変化の中、地上で撮影された写真からは,以下のような変化を読み取ることができる。例えば,1960年代の集落には,日干しレンガの平屋が点々とあるだけであったが,現在は焼成レンガやコンクリートを使った2階建以上の建物が増えた。一方で,集落内のどこからでも見えた山はさえぎられて見えなくなった。また,次第に電線が張り巡らされ,1980年代以降電化が進んだ。また,1960年代当時は生活用水をくむために欠かせなかった井戸は,配水車と水道の普及により次第に使われなくなった。発表では,実際の写真を紹介しながら,フィールド写真を用いた景観変化復元の試みについて紹介する。 本研究はJSPS科研費16H05658「半世紀に及ぶアラビア半島とサハラ沙漠オアシスの社会的紐帯の変化に関する実証的研究」(研究代表者:縄田浩志),国立民族学博物館「地域研究画像デジタルライブラリ事業(DiPLAS)」,大学共同利用機関法人人間文化研究機構「現代中東地域研究」秋田大学拠点の研究成果の一部である。また,アラムコ・アジア・ジャパン株式会社と片倉もとこ記念沙漠文化財団との間で締結された協賛金事業の一環として事業の一環として行われたものである。
著者
嶺井 聡 貝沼 茂三郎 坂元 秀行 玉城 直 友利 寛文 梁 哲成 仲原 靖夫 古庄 憲浩
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.141-145, 2019 (Released:2019-12-20)
参考文献数
15

苓桂朮甘湯は茯苓,桂皮,朮,甘草の4つの生薬から構成され,陽証で気逆と水毒を伴う病態で,起立性調節障害などの自律神経の機能調節障害,特に副交感神経優位から交感神経優位な状態への調節が上手くいかない場合などに用いられる。今回,自律神経の調節障害と考えられた3症例に対し,苓桂朮甘湯が有効であったので報告する。 症例1は運動後や仕事終了前後に出現する頭痛,症例2は夕方から出現するふらつきや冷汗,症例3は仕事終了後や休日に出現する頭痛が主訴であったが,いずれの症例も交感神経優位の状態が長く続いた後に,副交感神経優位な状態に自律神経の調節障害が原因と考えられた。また3症例いずれも陰証や水毒を示唆する所見に乏しく,今回の検討から水毒の所見がなくても,陽証で気逆の所見に加え,交感神経優位から副交感神経優位な状態に自律神経の調節障害に苓桂朮甘湯が有効である可能性が考えられた。