著者
小松 美彦 大谷 いづみ 香川 知晶 竹田 扇 田中 智彦 土井 健司 廣野 喜幸 爪田 一寿 森本 直子 天野 陽子 田中 丹史 花岡 龍毅 的射場 瑞樹 皆吉 淳平
出版者
東京海洋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

米国で誕生し日本に導入されたバイオエシックスの特性を検討した。すなわち、文明論、歴史、メタ科学、経済批判、生権力の視点が稀薄ないしは欠落していることを剔抉し、日本の生命倫理の改革の方向性を検討した。成果は共著『メタバイオエシックスの構築へ--生命倫理を問いなおす』(NTT出版、2010)にまとめた。また、バイオエシックスが導入された1970~80年代の日本の科学・思想・宗教・政治状況を、文献輪読やオーラルヒストリー調査などを通じて考察した。以上は、国内外の研究にあって初の試みであり、書評やシンポジウムなどで高く評価された。
著者
天野 祐吉
出版者
日本マス・コミュニケーション学会
雑誌
新聞学評論 (ISSN:04886550)
巻号頁・発行日
no.35, pp.166-172, 285-284, 1986-04-30

Advertisements are, so to speak, "sketches of the unconscious" of people's everyday lives. And because of being "unconscious", they sometimes have more reality than intentional sketches. If we regard advertisements as "diaries of the age", then we see them not only as sourses of news information about commodities but also as sketches of ordinary people's everyday lives in ordinary words and seen through the goods they advertise. Advertisers order adpersons to sell goods, and adpersons always have to take advantage of ordinary people's ordinary desires. These pressures make advertisements sketches of ordinary people's everyday lives. If advertisements fail to grasp the "new", then at that very moment they lose all value. Japanese poet Junzaburo Nishiwaki said that "Life is a concept created by literature." We may rightly say that what we refer to as "the masses" is an image created by advertisements. Of course, the vital image of the masses appears not only in advertisements, but it is in them that the masses present their most journalistic form. It seems almost impossible to capture the masses without advertisements which depict ordinary people's lives along with their feelings and make them visible. Nevertheless, it is far from an easy matter to capture the vital image of the masses without debasing them by superficial interpretations because what appear only in expressions often lose their vividness when discussed by words. If we are to capture "the masses merely in the advertisements", then we may have to create some methods of expression which are free from the already established academic ones.
著者
天野 恵美子
出版者
秋田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

海外市場において広く受け入れられ、各国固有の食文化との相互作用の中で独自の変容を遂げてきた日本食の「普及と現地食文化との融合過程」を明らかにするため、1980年代から北米および中国市場で事業を行ってきた複数の食品企業のマーケティングについて文献調査および現地ヒアリング調査を行った。市場参入に際して、現地市場(生活習慣や商慣習等)に精通している事業者と共同でマ十ケティング活動を行い、製品開発・販売段階においては現地の食嗜好や食習慣を調査し、現地消費者に受容されるよう適応化(マーケティング戦略の変更・修正)努力を行っていた。また市場開拓・普及期においては、「異文化・外来食」として知られていない食品そのものの認知度を高める地道なプロモーション活動や調理方法などについての啓蒙活動など、新規市場参入ゆえに必要となるマーケティング努力もあった。注目すべきは、食品企業が市場拡大を見据えて、「外来食」に対して先入観のない子ども世代の味覚形成にはたらきかけ、「次世代の顧客獲得」を目指すマーケティング活動を積極的に展開してきたことであり、日本食を提供する従来型の飲食店だけではなく、海外出店を加速させてきたコンビニエンスストア(CVS)が、日本の食(おにぎり、弁当、寿司、おでん等)を紹介する有力なチャネルとして現地に定着し、日本食普及の1大拠点となってきているということである。こうしたマーケティング手法やCVSの動向については、今後も継続的に検証・分析していく必要がある。以上、文化伝播・交流経路としての食品企業のマーケティング研究を通じて、食の異文化接触と受容、普及にともなって生ずる現地食文化との融合、現地食文化の変容という国際化時代の食の今日的位相を検証した。
著者
多田 學 天野 宏紀 神田 秀幸 金 博哲
出版者
島根医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

近年、本態性(老人性)痴呆症の発症や病態のメカニズムが明らかにされるにつれ、脳機能低下を予防させるために、より早期に精神機能の低下の兆候を特定することに注目が集まってきている。従来我が国において実施されてきた痴呆症対策は、痴呆がある程度のレベル以上に進行してしまっているため、改善が極めて困難な状態の痴呆症に対する医療・リハビリテーションによるケアであった。そこで、我々は島根県H町在住の初老期以降(50歳以上)の地域住民について、二段階方式診断法を用いた軽症痴呆症の評価法及び脳活性化対策の有効性を検討し、次のような結果が得られた。1)性・年代別かなひろいテスト得点では、女性において加齢による得点の低下が見られた。2)本研究では二段階方式診断法を用いて参加者58名のうち前痴呆8名、軽症痴呆4名であった。3)かなひろいテストの得点とMMSの得点との相関係数は0.6868で、正の相関が認められた。4)脳活性化対策実施後で60歳代男性を除いて全ての性・年代別で教室前のかなひろいテスト得点を上回った。5)脳活性化対策の継続実施は教室前の状態に比べ痴呆状態を改善しうることが明らかになった。特に、対策開始後2年間継続によって、かなひろいテスト平均得点の上昇がピークに達することが分かった。6)ライフスタイル調査では、重点対策前と対策開始1年後で参加者の日常生活に、ADLや対外的な行動に大きな割合の変化は無かった。7)参加者の痴呆に関する意識では、対策開始後1年でアンケートに14名全てが「自分は痴呆にならないと思う」と回答した。
著者
荒野 泰典 池内 敏 飯島 みどり 天野 哲也 老川 慶喜 上田 信
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

(1)研究会第1回研究会(パスカル・グリオレ氏)、第2回研究会(高橋公明氏)、第3回研究会(曹喜〓氏)、第4回研究会(上白石実氏)、第5回研究会(阿諏訪青美氏)、第6回研究会(安原眞琴氏)、第7回研究会(位田絵美氏・田中葉子氏)、第8回研究会(申東珪氏)、第9回研究会(出口久徳氏)、第10回研究会(郭麗氏)、第11回研究会(パティ・カメヤ氏)、第12回研究会(ジャン・ヒュセイン・エルキン氏・ミハエル・キンスキー氏)(2)シンポジウム平成12年7月22日「16世紀前後における文化交流の諸相」(報告:岸野久氏、村井早苗氏、ユルギス・エリソナス氏)、平成13年10月31日〜11月2「日本文化の境界と交通」(スミエ・ジョーンズ氏、田中健夫氏による基調講演のほか、4つのセッション「異文化交流の諸相」「都市」「男の女・女の男-ジェンダーの境界」「絵画と文字」に、8ヶ国24名の報告者とコメンテーターの参加を得、また、のべ約200名の一般の参加者を含めて活発な議論を行った。)、平成14年6月29日「遊女の声を聞く-中世から近世へ-」(報告:小峯和明氏、渡辺憲司氏、菅聡子氏)(3)調査平成12年度対馬調査、北海道西海岸調査、韓国出土絵画資料調査、ワシントン調査、福岡調査、鬱陵島調査、長崎・五島調査、台湾・沖縄調査平成13年度中国青島・韓国西岸調査、ベトナム調査、中国調査、マカオ調査平成14年度インドネシア調査、ソウル・済州島調査、サハリン・極東ロシア調査、スペイン調査、対馬調査、(4)日本学研究所年報の発刊上記の成果の報告を中心に、第1号(2002年3月刊)、第2号(2003年3月刊)を発刊。また、当科研の成果を中心に第3号、第4号を2003年度中に発刊する予定である。
著者
山崎 千恵 天野 絵里子
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.75-80, 2010-02-01

資料保存環境整備部会の活動を中心に,京都大学の図書館における資料保存活動について具体的に報告する。資料保存環境整備部会は,「資料保存環境の点検調査と基準・指針の提示」「資料保存に関する情報の提供と支援(ウェブサイト,職員研修等)」「資料の劣化対策」をその使命とし,2007年に設置され,各種研修や情報の共有化,啓発活動を行っている。部会が設置された背景として,職員が自発的に始めた資料保存ワークショップの活動や,海外での貴重な研修体験を紹介しながら,最後に,専門的な知識や予算が少なくても「できることから」始めることが資料の保存にとって重要であることを提言する。
著者
天野 美紀 上原 邦昭 熊野 雅仁 有木 康雄 下條 真司 春藤 憲司 塚田 清志
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.915-924, 2003-03-15
被引用文献数
11

映像の編集とは,素材映像の中から編集に用いることができるショットを選択し,それらを接続する作業である.これらのショットの接続の仕方は無限に存在する.しかし,作者側の意図することを視聴者に正確に伝えることを目的として編集した場合,ある普遍的な規則が存在する.これを「映像文法」と呼ぶ.本稿では,編集作業を支援することを目的として,映像文法に基づいた自動編集システムを提案する.本システムでは,まず,素材映像からショットの切り出しと,切り出した個々のショットに対して属性値の付与が行われる.次に,映像文法をルール化したプロダクションシステムを用い,推論を重ねることによって,属性値を付与された素材映像集の中から適切なショットを選択し編集を行うようになっている.The video editing is a work to produce the final video with certain duration by finding and selecting appropriate shots from material videos and connecting them.In other to produce the excellent video,this process is generally conducted according to the set of special rules called ``video grammar''.In order to make video grammar applicable,the metadata such as shot size or camera work included in shots have to be extracted and indexed.The purpose of this study is to develop an intelligent support system for video editing system where these metadata are extracted automatically and then the video grammars are applied to them.
著者
森下 博 天野 要 四ツ谷晶二
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.40, no.9, pp.3337-3344, 1999-09-15

代用電荷法はラプラス方程式の高速で高精度な近似解法として知られている. しかし 調和関数を基本解の1次結合で近似するという方法の原理から ポアソン方程式には適していないと考えられてきた. 最近 この代用電荷法の利点を生かしたポアソン方程式の数値計算法が提案された. その方法は ポアソン方程式の解を特解と調和関数の和に分解し 前者を基本解で表現して数値積分し 後者を代用電荷法で近似する というものである. その有効性は数値実験的にも検証されている. しかし 同時に この方法には特解の数値積分に要する計算量が少なくないという大きな問題が指摘されていた. 特解の数値積分はポアソン方程式の解の精度を決める鍵ともなっている. 本稿では この特解の数値積分の問題に注目して 改良されたポアソン方程式の数値計算法を提案し その有効性を数値実験的に検証する. 具体的には 特解の数値積分法として (1)極座標を導入して対数ポテンシャルがら生じる特異性を取り除き (2)積分領域を境界値がなめらかな範囲で問題の領域を含む円領域に拡張し さらに (3)数値積分公式として 偏角方向には台形公式を 絶対値方向には二重指数関数型数値積分公式 (DE公式) を採用する. 数値実験の結果 実際に非常に精度の高い特解を得ることができる. 最終的なポアソン方程式の数値解の精度も大幅に向上し 計算時間も短縮される. ここで注意すべきは 積分領域の拡張によって台形公式・DE公式という積分公式の優れた特徴が十分に発揮されるということである. この方法の基本的な考え方は3次元問題にも適用可能である.The charge simulation method is known as a rapid and accurate solver for Laplace's equation, in which the solution is approximated by a linear combination of logarithmic potentials. It has been regarded as being unsuitable for Poisson's equation. However, a feasible method was recently presented for Poisson's equation making the best use of the charge simulation method. A particular solution is first obtained by numerical integration of the logarithmic formula. The problem is now reduced to Laplace's equation, which is approximated by the conventional charge simulation method. But, the method requires too much computation in the numerical integration of the particular solution, which is also a key to the accuracy of final results. In this paper, we propose an improved numerical method for solving the Dirichlet problem of Poisson's equation paying special attention to the numerical integration of the particular solution. We (1) remove the singurality caused by logarithmic potential by using the polar coordinate system, (2) extend the integral domain to a disk including the original problem domain, and (3) apply Trapezoidal formula and Double Exponential formula to the numerical integration. The combination of (1)縲鰀(3) results in high accuracy of the particular solution and the final results, and also in a reduction of the computational cost. The basic idea of the method is applicable also to three dimensional problems.
著者
天野 健作
出版者
一般財団法人 アジア政経学会
雑誌
アジア研究 (ISSN:00449237)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.55-68, 2015-06-30 (Released:2015-07-07)
参考文献数
54
被引用文献数
3

The confrontation between China and India concerning water resources in the Brahmaputra River (known as “Yarlung Zangbo” in Chinese), which flows through both countries, has been deepening in recent years. There have also been diplomatic negotiations between the two countries. This study aims to analyze the conflict and cooperation over the Brahmaputra’s waters.First, the study describes the South–North Water Transfer Project, a multi-decade Chinese infrastructure mega-project that aims to channel the abundance of fresh water from southern China to the more arid north through canal systems. One development included in a western route of this project involves expanding the Brahmaputra. Ten dams have already been completed on this river, and China plans to build the world’s largest dam, even larger than the Three Gorges Dam, on the Brahmaputra. India fears that the project will have a significant impact on the lower river region.Second, the study considers both India’s protest as a lower riparian country and China’s reaction as an upper riparian country. Even though India’s fisheries industry and ecological system are affected by Chinese development on the river, China did not publicly acknowledge its development activities until 2010. Instead it pursued what could be called a silent strategy. Since admitting the project’s existence, China has sought to minimize the impact on downstream countries. However, the initial silent strategy has clearly amplified distrust on the Indian side.Third, the study considers steps toward a cooperative relationship between the two countries. Although there is no binding legal agreement, China and India have established an expert-level committee and provided hydrological information to each other. They have also signed a memorandum of understanding that will guide expansion of their cooperative relationship.As a guide to future work, the study indicates the immaturity of international standards and law to settle a conflict concerning an international river. In this respect, it is important to analyze the applicability of “the Convention on the Law of the Non-Navigational Uses of International Watercourses,” which entered into force in August 2014. Furthermore, the study indicates that there is a third country, Bangladesh, with concerns regarding the Brahmaputra’s resources. A water allocation agreement has been signed between India and Bangladesh.When we emphasize only the aspects of conflict taking place regarding this international river, it appears that two large Asian countries are heading toward a collision. However, as shown in this study, China and India are trying to build a cooperative relationship. This situation can be perceived as a case study in international trust-building.
著者
岡田 里奈 近藤 美左紀 梅田 浩司 古澤 明 天野 格
出版者
特定非営利活動法人 日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.91-98, 2023-06-30 (Released:2023-07-27)
参考文献数
25

The Zenikame-Menagawa tephra (Z-M) has been reported from distal terrestrial settings in the southern Hokkaido, with those erupted from Zenikame volcano, and provides an important stratigraphic marker for paleoenvironmental reconstructions of marine isotope stage 3 (MIS 3). We use both major element (EPMA) and trace element (LA-ICP-MS) analyses on proximal and distal Z-M shards to make the correlations to explosive eruptive events. Proximal stratigraphic succession is divided into deposits of two main eruptive phases with pyroclastic fall (Z-Mpfa) followed by pyroclastic flow (Z-Mpfl). The Z-Mpfl and Z-Mpfl deposits are geochemically distinct and thus their origins can be different. Considering geochemical characteristics of glass shards, the distal Z-M in the Tokachi district, located about 200 km west of the source volcano, can be identified as ash fall deposits associated with the Z-Mpfl eruption.
著者
天野 郁夫
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.44-49, 1983-10-20 (Released:2011-03-18)
被引用文献数
2
著者
端詰 勝敬 岩崎 愛 小田原 幸 天野 雄一 坪井 康次
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.303-308, 2012-04-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
22

広汎性発達障害は,他の精神疾患を随伴しやすいことが報告されている.しかし,摂食障害の随伴については不明な点が多い.今回,われわれは摂食障害と自閉性スペクトラムとの関連性について検討を行った.84名の摂食障害患者に対し,自己記入式質問紙による調査を実施し,健常群と比較した.摂食障害は,健常群よりも自閉性スペクトル指数(AQ)の合計点が有意に高かった.病型別では,神経性食欲不振症制限型が「細部へのこだわり」とAQ合計点が健常群よりも有意に高かった.摂食障害では,自閉性スペクトラムについて詳細に評価する必要がある.
著者
千葉 友樹 高橋 幹雄 黒木 友裕 和田 一樹 天野 健太郎 桑山 絹子
出版者
公益社団法人 空気調和・衛生工学会
雑誌
空気調和・衛生工学会大会 学術講演論文集 令和元年度大会(札幌)学術講演論文集 第6巻 温熱環境評価 編 (ISSN:18803806)
巻号頁・発行日
pp.37-40, 2019 (Released:2020-10-31)

暑熱環境下で頸部を冷却する実験での生理量測定結果と、頸部を冷却しない実験での生理量測定結果とを比較し、更に人体モデルを用いた解析による検討を行った。実験では、頸部を冷却しない条件に対し、頸部を冷却した条件において、皮膚温度が相対的に低くなり、発汗量が少ない傾向が表れ、血圧が有意に高くなった。更に、人体熱モデルと循環系モデルにより計算を行った結果、上記のような傾向を定性的に再現することができた。
著者
吉田 裕人 藤原 佳典 天野 秀紀 熊谷 修 渡辺 直紀 李 相侖 森 節子 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.156-167, 2007 (Released:2014-07-03)
参考文献数
17
被引用文献数
5

目的 在宅高齢者を対象とした介護予防事業の効果を経済的側面から評価することを目的とした。方法 新潟県与板町において平成12年11月に実施された高齢者総合健康調査(対象は同町65歳以上の全住民1,673人)には1,544人が応答した(応答率92.3%)。この結果を受けて,同町では交流サロン,転倒予防教室,認知症予防教室などの介護予防事業を立ち上げながら,「住民参加」を理念とした介護予防活動を推進してきた。 平成16年 3 月の時点で同町在住が確認できた70歳以上で高齢者総合健康調査に応答し,平成13年から平成15年の 3 年間に介護予防事業に参加した146人を介護予防事業参加群,同じく70歳以上で高齢者総合健康調査のデータを有しているが,介護予防事業に参加したことがない846人を介護予防事業非参加群と定義した。その上で,2 群間における平成12年度から15年度までの老人医療費(国民健康保険または被用者保険からの給付+自己負担分)および介護費用(介護保険からの給付+自己負担分)の推移を観察し,介護予防事業による費用抑制効果を算出した。また,一般線形モデルにより,性,ベースライン時の年齢,総費用(医療費+介護費用)もしくは健康度(老研式活動能力指標得点,総合的移動能力尺度)を調整した総費用を算出し,事業参加による独立した影響を評価した。結果 月 1 人あたり平均医療費は参加群では減少した(平成12年度51,606円/月→平成15年度47,539円/月)が,非参加群では増加した(同41,888円/月→同51,558円/月)。月 1 人あたり平均介護費用は両群とも増加したが,増加の程度は参加群ではわずかであった(参加群,平成12年度507円/月→平成15年度5,186円/月,非参加群,同8,127円/月→同27,072円/月)。非参加群に比べた参加群の総費用の増加抑制の総額は 3 年間では約4,900万円と算出された。 また,交絡要因調整後の総費用の増加抑制の総額は最も大きな場合,年平均で約1,200万円/年,同じく介護予防事業の純便益は約1,000万円/年であった。これは介護予防事業の独立した効果と考えられた。結論 新潟県与板町において平成12年度から展開されてきた介護予防事業は,参加者のその後の医療費や介護費用の伸びを大きく抑制し,費用対効果の極めて優れた保健事業であることが示唆された。