著者
太田 浩子
出版者
東京女子大学
雑誌
東京女子大學附屬比較文化研究所紀要 (ISSN:05638186)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.95-104, 1986

Tatsu no ko Taro [Taro the Dragon Boy] is an lengthy imaginative children's story written by MATSUTANI Miyoko. Into this story the author has woven legends on Koizumi Kotaro who controls water, transmitted in Shinshu [Nagano Prefecture], as well as a number of legends and folk tales of other parts of Japan. It is a representative work of postwar Japanese juvenile literature which has been continuously finding new readers among the Japanese children since its first publication in 1960. Taro, the hero of the story, is a spirited boy, born of a mother who had been transformed into a dragon. He wrestles with animals. He expels ogres who have been tormenting people. He cultivates the paddy field and harvests rice. Through these and other experiences, he grows and comes to entertain an aspiration that, by draining a lake, he can create a vast track of new arable land for people of poor mountain villages. With the help of his dragon mother, he manages to realize this dream by demolishing mountains to let the water of the lake escape into the sea. A central thread of this story of growth is the hero's tenderness. Folk tales and legends which are transmitted orally tend to become fragmentary, and their characters are often stereotyped. MATSUTANI Miyoko, the author, came across the legends of Koizumi Kotaro in Shinshu during her journey to search and record folk tales. On the basis of them but with a hope to "make the Taro [i.e. Kotaro] of Shinshu into a Taro of entire Japan, " she lavished her imaginative power on the creation of the hero, Taro, the dragon boy with a great success. The plot and the growth of the hero are closely knit in this story, and the cheerful optimistic hero is given a unique credible personality. Aiming at creating a new literary work which is at the same time anchored firmly in tradition, the author has managed to create in this story an attractive hero who strikes a responsive chord in the hearts of all children. She also has taken great pains to devise a suitable "narrative" style in order toallow children to have an easy access to the world of folk tales through it. In this essay, through the examination of the author's intention, the characterization of the hero, and the style, I have tried to demonstrate that Tatsu no ko Taro really succeeds in building a bridge between the world of folk tales and the children of today, which, in my opinion, is one of the important roles Japanese juvenile literature can play.
著者
太田 雅夫
出版者
初期社会主義研究会
雑誌
初期社会主義研究 (ISSN:09130845)
巻号頁・発行日
no.22, pp.229-233, 2010
著者
太田 亘
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.1-35, 2020-07-15 (Released:2020-07-15)
参考文献数
45

証券市場において大口投資家は,流動性および価格発見に影響を与える.大口投資家が発注するとき,他の投資家および私的情報を保有する情報投資家も同じタイミングで発注することで,売買が活発になり,価格発見が行われてボラティリティが高くなる,という集中仮説,および大口投資家がしばらく発注しないと予想されるとき,情報投資家が発注することで価格発見が行われてボラティリティが高くなる,という締切仮説が考えられる.本稿では,日本銀行を大口投資家として,REIT購入前後の取引について,公表情報を用い,2つの仮説を検証した.分析結果は2つの仮説と整合的であるとともに,大口投資家が発注するとき流動性が向上し,しばらく発注しないと予想されるとき流動性が低下することがわかった.大口投資家の発注は,他の投資家の戦略的行動を通じて,発注時のみならず非発注時にも流動性および価格発見に影響を与えている.
著者
佐藤 豪 池永 雅一 俊山 聖史 太田 勝也 上田 正射 板倉 弘明 津田 雄二郎 中島 慎介 遠藤 俊治 山田 晃正
出版者
日本外科系連合学会
雑誌
日本外科系連合学会誌 (ISSN:03857883)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.38-42, 2019 (Released:2020-02-29)
参考文献数
20

症例は51歳,男性.開腹歴はなし.腹痛,嘔吐を主訴に当院救急外来を受診した.来院時,腹部は膨満し,臍下に間欠的自発痛と圧痛を認めた.前日の夕食にしゃぶしゃぶを食べていた.腹部単純X線検査では小腸ガスの貯留と鏡面像を認めた.腹部造影CTで絞扼所見を認めなかったため,胃管減圧チューブを留置して緊急入院した.翌朝,腸管拡張の改善がなかったためイレウス管を留置した.その後2日間経過観察したが,腹部症状の改善が乏しかったために緊急手術を施行した.拡張した腸管の先端で軟らかい腫瘤を触知し,腸を切開して摘出した.術後に再度問診を行い,入院前夜に大量に摂取した木耳(きくらげ)による食餌性イレウスと診断した.木耳による食餌性イレウスは本邦でこれまで報告がなく,若干の文献的考察を加えて報告する.
著者
太田 肇
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第87集 日本の経営学90年の内省と構想【日本経営学会90周年記念特集】 (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.82-89, 2017 (Released:2019-09-26)

企業の関わる事件や事故などの不祥事が発生するたびに「管理の強化」が唱えられ,対策がとられる。しかし,同種の不祥事が後を絶たないばかりか,同じ組織体のなかで不祥事が繰り返される場合もある。その背景には,日本型組織の特徴が深く関係している現実がある。日本型組織の特徴として,非公式組織と公式組織の二重構造,職務の不明確さ,ならびにそこから生じる圧倒的に組織優位な組織と個人の力関係,集団無責任体制があげられる。それが存在するため,企業不祥事のなかでもとくに組織的性格の強い不祥事の場合,管理強化がプレッシャーと集団的機会主義を生み,不祥事防止に逆効果となるのである。したがって不祥事の防止には,日本型組織の特徴を踏まえた対策をとる必要がある。現実的な対策として,短期,中期,長期の3レベルの提案を行った。
著者
菅原 渉 河野 澄夫 太田 英明
出版者
japan association of food preservation scientists
雑誌
日本食品低温保蔵学会誌 (ISSN:09147675)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.3-9, 1987-03-20 (Released:2011-05-20)
参考文献数
11
被引用文献数
1 2

生栗の6カ月以上の長期貯蔵を目的に低温貯蔵試験を行った。1. 1℃ポリエチレン包装区は, カビ・萌芽等の不良果の発生が6カ月貯蔵でも6%と少なかった。一方, 5℃以上の貯蔵区は不良果の発生が甚しく, 5℃貯蔵でも3~4カ月が貯蔵限界であった。2. 貯蔵中, シヨ糖含量の増加と澱粉含量の減少が認められた。この現象は低温貯蔵区ほど著しかった。このショ糖含量の増加により官能評価において高い評点が得られた。3. 総フェノール含量, 硬度, 色調, 官能評価等の測定項目においても, 1℃区 (PE) での貯蔵中変化は, 5℃以上の貯蔵区に比べ際立って少なかった。以上より, 1℃, PE貯蔵により6カ月以上の長期貯蔵が可能であると考えられると同時に, 貯蔵に伴うシヨ糖含量の増加による甘味の改善という副次的効果が確認された。
著者
佐藤 禎紀 柏原 昭博 長谷川 忍 太田 光一 鷹岡 亮
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第33回全国大会(2019)
巻号頁・発行日
pp.1P3OS2103, 2019 (Released:2019-06-01)

Web調べ学習では,Web空間を探索して与えられた課題(初期課題)に対して網羅的,体系的な学習が求められる.一方Web空間では,学ぶべき項目や順序(学習シナリオ)は与えておらず,学習者は学習課題に対する知識構築と次に学ぶべき課題の展開を並行して行うため,認知的負荷が高い.筆者らはWeb調べ学習におけるプロセスをモデル化したWeb調べ学習モデルを提案し,そのモデルに沿った学習を促すシステムiLSBを開発した.一方で学習者はiLSBを用いても初期課題と関係ない課題を展開する場合があり,学習シナリオの診断が必要である.しかし一般的な,解となるシナリオと学習者のシナリオの比較による診断は学習者の主体性を阻害してしまう.そこで本研究では,Web上の関連データをリンク付けしたLOD(Linked Open Data)を用いて,学習者の主体性を阻害せず課題展開を診断することで,より妥当なシナリオ作成を促す手法を提案する.また,本稿では提案手法の評価実験を行った.その結果,提案手法は学習者の課題展開への見直しを促し,妥当なシナリオ作成に有効であることが示された.
著者
大平 昌彦 青山 英康 吉岡 信一 加藤 尚司 太田 武夫 吉田 健男 長谷井 祥男 大原 啓志 上畑 鉄之丞 中村 仁志 和気 健三 柳楽 翼 五島 正規 合田 節子 深見 郁子 板野 猛虎
出版者
The Japanese Society for Hygiene
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5-6, pp.502-509, 1970-02-28 (Released:2009-08-24)
参考文献数
18

In a restricted area of the northern part of Okayama Prefecture, Yubara Town, an outbreak of SMON (subacute myelo-optico-neuropathy) was observed from the beginning of 1967. An epidemiological investigation has been made on this outbreak and the results are as follows:(1) Concentration of cases occurred in the summer of 1968, though cases have been reported sporadically in the area from the beginning of 1967. The incidence ratio against the population was 659/100, 000 during 22 months.(2) The incidence was the highest in summer and the ratio in females was 3 times higher than in males. Concerning age group, males showed a peak in the thirties, whereas in females many cases were evident between the twenties and sixties.(3) Relatively enclosed districts are apt to expand over a period of time. Cases which occurred in neighboring families as well as those within the same families tend to give the impression that the disease coule be infectious.(4) Among the cases, a close contact relation was observed.(5) Physical exhaustion before the onset of the disease was observed to be 43.2% among the total cases.(6) In occupational analysis, a higher rate was revealed among workers who had close human relations such as hospital workers and public service personnel.(7) The tendency to other diseases of the nervous system as well as those of the digestive organs was checked by inspecting receipts of the National Health Insurance from the beginning of 1965. Nothing related to SMON was recognized before the outbreak.(8) Diseases of the intestinal tract and tonsillitis were observed in higher rates in the history of the patients.(9) The investigation of environmental conditions has revealed the fact that there is a higher rate of incidence in families who do not use service water compared to those who do.
著者
池谷 真 ALEV CANTAS 太田 章 櫻井 英俊 森実 飛鳥 佐藤 貴彦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

将来の再生医療や創薬研究に資する安全な間葉系幹細胞をiPS細胞から効率的に得る方法を確立するため、異なる3つの細胞系譜(神経堤細胞と神経細胞と中胚葉細胞)を経由して間葉系幹細胞を誘導するゼノフリーの方法の開発を行った。また、同一ロットの細胞を大量に得るため、中間段階の細胞の拡大培養・凍結保存法の開発を試みた。誘導された間葉系幹細胞の品質は、骨・軟骨・脂肪への分化能で比較・評価した。神経堤細胞と中胚葉細胞を経由した分化誘導法の確立に成功し、神経細胞を経由した分化誘導法の確立には一部成功した。拡大培養については神経細胞について成功し、神経堤細胞、中胚葉細胞、間葉系幹細胞については一部成功した。
著者
太田 大介
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.215-220, 2020 (Released:2020-04-09)
参考文献数
8

総合病院総合病院心療内科を訪れる原因不明の身体症状を有する患者は,これまでに受診した医療機関での説明に納得がいかなかったり,本人の望むレベルでの症状改善が得られなかったり,またそのためにドクターショッピングを重ねてきた方々であり,そのような患者のニーズに応えるには,初診時にある程度の時間をかけて,患者の解釈モデルとこちらへの期待を聴取し,必要に応じて検査を行い,身体科医としての経験に基づきこちらの患者理解を伝え,その上で,患者の期待に対する現実的な治療目標を設定する必要がある.忙しい外来では再診時に十分に時間をかけることが難しいが,診察時間が短いことは必ずしも悪いことではない.短い診察時間のもとで患者も治療者も重要課題を意識するため,治療目的を志向しやすくなり患者が治療者に過度に依存的になるなどの退行を防止することができる.そのような短い診察時間の中では,治療者が話しすぎないよう留意することで患者が自分の話を聞いてもらえたという満足度もあがる.患者が主役であることを意識させることで治療者への依存が適度に抑制される.そのような短い診察の繰り返しのなかでは,治療の継続性が治療的に重要な役割を果たしており,安定した治療構造自体が患者の精神状態や身体症状を安定させる働きを持っている.原因不明の身体愁訴の背景にある抑うつ,不安,認知機能低下,患者自身の身体的な衰えなどの諸要因を意識しながら,患者自身の健康な部分を伸ばしていくことも重要である.「この症状さえなければ」と症状に固執しがちな患者に対して,症状の原因検索はほどほどに,症状のためにうまくいかなくなっている日々の生活全般を整えていくことに目を向けるように促していく.日々の生活全般を可能な範囲で整えていくことで,やがては身体症状も改善するという見通しを伝えることが重要である.
著者
太田 亘
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
pp.420001, (Released:2020-04-24)
参考文献数
45

証券市場において大口投資家は,流動性および価格発見に影響を与える.大口投資家が発注するとき,他の投資家および私的情報を保有する情報投資家も同じタイミングで発注することで,売買が活発になり,価格発見が行われてボラティリティが高くなる,という集中仮説,および大口投資家がしばらく発注しないと予想されるとき,情報投資家が発注することで価格発見が行われてボラティリティが高くなる,という締切仮説が考えられる.本稿では,日本銀行を大口投資家として,REIT購入前後の取引について,公表情報を用い,2つの仮説を検証した.分析結果は2つの仮説と整合的であるとともに,大口投資家が発注するとき流動性が向上し,しばらく発注しないと予想されるとき流動性が低下することがわかった.大口投資家の発注は,他の投資家の戦略的行動を通じて,発注時のみならず非発注時にも流動性および価格発見に影響を与えている.
著者
井筒 直樹 福家 英之 山田 和彦 飯嶋 一征 松坂 幸彦 鳥海 道彦 野中 直樹 秋田 大輔 河田 二朗 水田 栄一 並木 道義 瀬尾 基治 太田 茂雄 斎藤 芳隆 吉田 哲也 山上 隆正 中田 孝 松嶋 清穂
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-22, 2008-02

科学観測用に使用されているゼロプレッシャー気球には,昼夜のガス温度差により夜間に浮遊高度が低下するという根本的な問題がある.これに対して,排気口がなく体積変化がほとんどないスーパープレッシャー気球は,バラストの必要がないため浮遊時間を大きく延ばすことが可能となる.しかし,皮膜に要求される強度が大きいため,小型の球形スーパープレッシャー気球を除いては実用化ができていなかった.我々は,この問題を解決することができるLobed-pumpkin 型気球を考案し,試験開発を行ってきた.多くの地上膨張試験,実際の飛翔環境における加圧破壊試験を繰り返した結果,設計上および製造上に多様な問題があることがわかり,順次これらの解決を図った.その結果,要求される性能を有するスーパープレッシャー気球の設計および製造方法が確立された.
著者
太田 茂雄 松坂 幸彦 鳥海 道彦 並木 道義 大西 晃 山上 隆正 西村 純 吉田 健二 松島 清穂
出版者
宇宙科学研究所
雑誌
宇宙科学研究所報告 特集 (ISSN:02859920)
巻号頁・発行日
no.34, pp.1-15, 1997-03

低温性能に優れたポリエチレンフイルムの出現により, プラスチック気球による宇宙科学の観測は大幅な進歩を遂げてきた。気球の容積も10^6m^3級のものが実用化され, 2∿3トンの観測機器を搭載して高度40km程度の観測が行われるようになってきた。最近ではその成功率はほぼ100%に近い。ポリエチレン気球は優れた安定性を持っているが, ゼロプレッシャ気球であるために夜間気球内のガス温度が低下して, バラストを投下せねば一定高度を保つ事はできない。バラストの投下量は緯度にもよるが, 日本のような中緯度の上空では一晩に10%弱のバラスト投下が必要である事がこれまでの数多くの実験で確かめられている。したがって数日間の浮遊の後には, バラストは使い果たし, 観測を続けることはできない。この欠点を避けるために提案されたのがスーパープレッシャ気球である。スパープレッシャ気球は内圧のかかった気球で, 夜間気球内のガス温度が低下しても, 内圧が低下するだけで容積は変わらず, 水平浮遊の高度を保つ事ができる。バラストの投下が不必要で, 長時間にわたる観測が可能になる。ただし, 内圧がかかるために気球被膜はゼロプレッシャ気球に比べて, 強度の高いものが必要となり, またガスの漏洩があってはならない。最初に着目されたのはポリエステルフイルム(マィラー)である。ただし, マイラーはポリエチレン気球に比べると低温性能がわるく, また気球製作も難しいので, 現在のところ実用上は5000m^3程度の小型の気球のものにとどまっている。より性能の優れた気球用フイルムの研究は現在世界各国で行われており, 近い将来, 高性能の気球が出現し, 観測項目によっては人工衛星にくらべて極めてコストパーフォーマンスのよい気球が出現するものと考えられている。わが国では, クラレ社のEVALフイルムに着目し, その性質を調べると共に, 実際に気球を試作してその性質を調べている。EVALフイルムの際立った特徴はマイラーとほぼ同じ程度の強度を持つと同時に, 熱接着が可能な事, 特異な赤外線吸収バンドを持っている点である。スーパープレッシャ気球の材料として有望である。また同時に, 赤外線吸収バンドの関係で, 夜間での気球内ガス温度の低下がポリエチレン気球に比べてほぼ半減し, バラストの消費量が著しく節約できる事が期待出来る[1]。1996年の初めに小型のEVAL気球の試験飛翔を行なったが, その結果は良好であった。今後, 更に小型気球の飛翔試験を行い, 大型化して長時間観測のための優れた性能を持つ長時間観測用の気球を完成したいと考えている。ここではまず長時間観測システムの現状を概括する。ついでEVALフイルムについての特性, 特に熱接着法, 低温における接着強度と赤外の吸収バンドについて述べる。最後に昨年行われた, 試験飛翔の結果の解析, ついで将来のEVAL気球の展望について触れる事とした。資料番号: SA0167081000

1 0 0 0 OA エバール気球

著者
太田 茂雄 松坂 幸彦 鳥海 道彦 並木 道義 大西 晃 山上 隆正 西村 純 吉田 健二 松島 清穂 OHTA Sigeo MATSUZAKA Yukihiko TORIUMI Michihiko NAMIKI Michiyoshi OHNISHI Akira YAMAGAMI Takamasa NISHIMURA Jun YOSHIDA Kenji MATSUSHIMA Kiyoho
出版者
宇宙科学研究所
雑誌
宇宙科学研究所報告. 特集: 大気球研究報告 (ISSN:02859920)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.1-15, 1997-03

低温性能に優れたポリエチレンフイルムの出現により, プラスチック気球による宇宙科学の観測は大幅な進歩を遂げてきた。気球の容積も10^6m^3級のものが実用化され, 2∿3トンの観測機器を搭載して高度40km程度の観測が行われるようになってきた。最近ではその成功率はほぼ100%に近い。ポリエチレン気球は優れた安定性を持っているが, ゼロプレッシャ気球であるために夜間気球内のガス温度が低下して, バラストを投下せねば一定高度を保つ事はできない。バラストの投下量は緯度にもよるが, 日本のような中緯度の上空では一晩に10%弱のバラスト投下が必要である事がこれまでの数多くの実験で確かめられている。したがって数日間の浮遊の後には, バラストは使い果たし, 観測を続けることはできない。この欠点を避けるために提案されたのがスーパープレッシャ気球である。スパープレッシャ気球は内圧のかかった気球で, 夜間気球内のガス温度が低下しても, 内圧が低下するだけで容積は変わらず, 水平浮遊の高度を保つ事ができる。バラストの投下が不必要で, 長時間にわたる観測が可能になる。ただし, 内圧がかかるために気球被膜はゼロプレッシャ気球に比べて, 強度の高いものが必要となり, またガスの漏洩があってはならない。最初に着目されたのはポリエステルフイルム(マィラー)である。ただし, マイラーはポリエチレン気球に比べると低温性能がわるく, また気球製作も難しいので, 現在のところ実用上は5000m^3程度の小型の気球のものにとどまっている。より性能の優れた気球用フイルムの研究は現在世界各国で行われており, 近い将来, 高性能の気球が出現し, 観測項目によっては人工衛星にくらべて極めてコストパーフォーマンスのよい気球が出現するものと考えられている。わが国では, クラレ社のEVALフイルムに着目し, その性質を調べると共に, 実際に気球を試作してその性質を調べている。EVALフイルムの際立った特徴はマイラーとほぼ同じ程度の強度を持つと同時に, 熱接着が可能な事, 特異な赤外線吸収バンドを持っている点である。スーパープレッシャ気球の材料として有望である。また同時に, 赤外線吸収バンドの関係で, 夜間での気球内ガス温度の低下がポリエチレン気球に比べてほぼ半減し, バラストの消費量が著しく節約できる事が期待出来る[1]。1996年の初めに小型のEVAL気球の試験飛翔を行なったが, その結果は良好であった。今後, 更に小型気球の飛翔試験を行い, 大型化して長時間観測のための優れた性能を持つ長時間観測用の気球を完成したいと考えている。ここではまず長時間観測システムの現状を概括する。ついでEVALフイルムについての特性, 特に熱接着法, 低温における接着強度と赤外の吸収バンドについて述べる。最後に昨年行われた, 試験飛翔の結果の解析, ついで将来のEVAL気球の展望について触れる事とした。