著者
小林 茂
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.52-66, 2006 (Released:2010-06-02)
参考文献数
63
被引用文献数
1 4

第二次世界大戦終結まで,日本がアジア太平洋地域で作製した地図を「外邦図」と呼んでいる.外邦図の多くは,旧日本軍が作製し,その性格からこれまで利用が限られてきたが,近年は景観・環境の長期的変化を考える上で重要な資料と考えられるようになってきた.ただしその利用にあたっては,東アジアの近代史を意識しつつ,作製過程や仕様,精度などを解明する作業が不可欠である.そこで本稿では,ここ数年間関係者の協力を得て研究を進めてきた成果を紹介する.外邦図の多様性に始まり,外国での秘密測量,台湾や朝鮮など旧植民地での地籍測量に伴う地形図作製,外国製図の複製や空中写真測量の発展など外邦図に関連する主要なトピックついて触れ,あわせて東アジア地域への技術移転にも言及する.
著者
石原 和弘 小林 哲夫
出版者
特定非営利活動法人日本火山学会
雑誌
火山. 第2集 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.269-271, 1988-10-31
被引用文献数
2
著者
大嶋 繁 山田 真理絵 根岸 彰生 大島 新司 齋木 実 小林 大介
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.175-178, 2016 (Released:2016-09-21)
参考文献数
4

薬剤師の在宅業務の充実を目的として, 在宅患者の症例を基に作成したシナリオおよび高機能患者シミュレータを用いた『フィジカルアセスメントアドバンス講習会』を行った. その際シナリオを用いた演習を行い, 薬剤師が在宅で実施すべき項目 (在宅業務必須項目) の実施率 (実施者数/受講者数) を, 訪問薬剤管理指導料の算定要件等を基に作成したチェックシートを用いて調査したところ, 項目ごとの差が大きかった. 本調査結果から薬剤師が在宅業務を実施する上で, 患者の生活を支えることを意識した薬学的管理業務のトレーニングの必要性が示唆された.
著者
各務 彰洋 花井 泰三 本多 裕之 小林 猛
出版者
公益社団法人日本生物工学会
雑誌
生物工学会誌 : seibutsu-kogaku kaishi (ISSN:09193758)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.387-395, 1995-09-25
被引用文献数
9

This paper deals with the quality modeling of Ginjo sake using a neural network (NN) and genetic algorithm (GA). A NN model was constructed to estimate 7 sensory evaluations concerning the quality of Ginjo sake from 18 chemical component analytical values. The performance index, J, of the NN model was significantly small compared with that obtained using multiple regression analysis (MRA). Using the model, analytical data on the chemical components was estimated from the 7 given sensory evaluation values by means of a genetic algorithm, which was employed as an optimizing method. It was found that almost all the estimated values coincided with the actual values within an error range of less than 0.3.
著者
小林 雄一郎
雑誌
じんもんこん2012論文集
巻号頁・発行日
vol.2012, no.7, pp.33-38, 2012-11-10

本研究の目的は,アソシエーション分析とクラスター分析を用いて,学習者による誤りの共起関係を明らかにすることである。具体的には,「ある誤りを犯す学習者は,他にどのような誤りを一緒に犯す可能性があるのか」という情報を大量に蓄積し,それらをいくつかの典型的なタイプへと統計的に分類する。
著者
小林 勇人
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.4, pp.144-164, 2007-06-23 (Released:2012-09-24)
参考文献数
33

本稿は,ジュリアーニ政権のもとで全米の約1割に相当する公的扶助受給者数を大幅に削減したニューヨーク市のワークフェア政策の特徴を明らかにする.ジュリアーニは,連邦政府による1996年福祉改革法成立後に抜本的な福祉改革を実施し,組織再編成を行うとともに情報管理システムを導入し,業績べ一スの民間委託契約を通して就労支援プログラムを展開した.同市の公的扶助制度の主要な就労促進プログラムには,「技能査定と就労斡旋斡旋(Skills Assessment and Placement: SAP)」,「雇用サービス就労斡旋 (Employment Services Placement: ESP)」, 「就労経験プログラム(Work Experience Program: WEP)」があった.SAPは公的扶助申請者に対して申請期間中に行われる就労斡旋プログラムであり,申請が受理されて受給者になると受給者にはESPによって就労斡旋プログラムが提供された.申請者や受給者はこれらのプログラムへの参加を義務付けられたが,民間団体の就労支援プログラムでも就労できない受給者は,WEPを通して市に雇われ就労義務を果たすことになった.SAPが申請者を就労へ迂回することで貧困者・失業者による福祉の申請を抑制した一方で,ESPでは雇用能力の高い受給者に有利なサービスが展開されたため,雇用能力の低い受給者はプログラムに滞留し,プログラムへの参加を拒めぼ公的扶助から排除されるに至った.
著者
小林 和男 古田 俊夫 石井 輝秋
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

日本海中央部の大和堆の北西麓、北大和堆との間に存在する断層崖の下部に転在する岩石片を海洋科学技術センターの運航する「しんかい2000」によって採取した。乗船した本研究代表者小林の目視観察およびビデオ記録の解析から、これらの岩石は母船「なつしま」の曵航テレビによって確認された近傍の崖から落下したものであることはほゞまちがいない。採取された7個の岩石(合計約5キログラム)のうち、3個は泥岩であって崖の表層をつくる堆積岩の破片である。あとの4個は密度が大きく、安山岩、デイサイト及び安山岩質玄武岩の熔岩で、日本列島のような島弧または大陸起源の岩石であることがわかった。一方、研究船白鳳丸のKH86-2航海(昭和61年4〜5月)において、大和堆東方の大和海盆中央に位置する拓洋第2海山から多量の火山岩がドレッジにより採取された。その岩石学的性質は現在分担者の1人石井と山下(大学院生)により研究中であるが、海洋中の海山に特有のアルカリ玄武岩であって、大和堆山麓の岩石とは明らかな差異がある。白鳳丸のこの航海では男鹿半島北西沖の日本海盆西翼の磁気異常が詳しく測定され磁気異常縞模様とそれを切る僞断層が同定された。また、拓洋第2海山などの上で測られた磁気異常はかなり大きい。これに対し、大和堆の上で見られる磁気異常はその山体の大きさに比すれば著しく小さく、大和堆をつくる岩石が磁化の小さい安山岩、デイサイト、花崗岩などから成ることを示すと考えられる。大和海盆の磁気異常は日本海盆ほど整列していないので、島弧火成活動が海盆底にまで及んでいると思われる。大和堆は現在の島弧活動が起こるには海溝から遠すぎるので、その火成活動は大和海盆拡大以前(おそらく15Ma以前)であったと思われる。
著者
小林 隆人 谷本 丈夫 北原 正彦
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 = Japanese journal of conservation ecology (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-12, 2004-06-30
被引用文献数
1

オオムラサキ(鱗翅目,タテハチョウ科)の保護を目的とした森林管理手法の確立に必要な資料を得るため,面積の広い森林が連続的に分布する栃木県真岡市下篭谷地区と都市化が進んで面積が狭い森林がパッチ状に分布する伊勢崎地区において,森林群落のタイプとその面積,寄主植物であるエノキの本数,エノキの根元で越冬する本種の幼虫の個体数,夏季における成虫の目撃個体数を調査した.両地区とも,アカマツ-クリ・コナラ林およびクヌギ,コナラ,針葉樹,タケの人工林などがパッチ状に分布し,アカマツ-クリ・コナラ林の面積率が最も高かった.本種の寄主植物であるエノキの母樹(樹高2m以上)は,森林地帯,農家の屋敷地,荒地に小集団で存在した.母樹の本数は両地区ともアカマツ-クリ・コナラ林で最も多く,他の森林群落および土地利用では少なかった.地区別の本数は下篭谷地区と比べて,伊勢崎では顕著に多かった.当年,1年生など発芽して間もないエノキの椎樹は,森林の部分的な伐採から1年ほど経た比較的新しい林縁部に見られた.下篭谷では,胸高直径が15cm以上25cm未満のエノキにおける本種の越冬幼虫の個体数が,他のサイズのエノキよりも有意に多くなったが,伊勢崎では幼虫個体数はエノキのサイズの間で有意に異ならなかった.一方,木の周囲の森林および落葉広葉樹二次林の面積と越冬幼虫の個体数との間には,両地区とも有意な正の相関が認められた.成虫の確認個体数は下篭谷地区で多く,成虫の多くはクヌギ林およびその付近で確認された.以上の結果から,落葉広葉樹二次林に対して土地利用の変換を伴う部分的な伐採を行うことは,エノキの密度を増加させる反面,本種の越冬幼虫や成虫の密度を減少させることが示唆された.このような両者の相反する生息条件を満たすには,クヌギ林とエノキが備わったある広さの落葉広葉樹二次林を伐期が異なる小班に区分することが必要である.
著者
藤本 修平 小林 資英 小向 佳奈子 杉田 翔
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11548, (Released:2019-02-12)
参考文献数
28

【目的】リハビリがかかわる医療機関Web サイトにおける医療広告ガイドラインの遵守実態を検証することとした。【方法】リハビリがかかわる医療機関のWeb サイトを抽出するため,国土数値情報(国土交通省)から東京都23 区内の医療機関を抽出し,医療機関名と住所を組み合わせWeb サイトの検索を行った(database: Google)。Web サイトの質を評価するために,医療広告ガイドラインを参考に6 項目評価した。【結果】診療科目で本来使用すべき「リハビリテーション科」という標榜以外の記載をしているWeb サイトは993 件中461 件(46.4%)であった。医療機関の名称の語尾に“センター”と標榜するもののうち,名称として認められていないものは47 件中38 件(80.9%)であった。【結論】本来医療機関の名称として認められていない標榜を採用している医療機関が多く,情報提供者は,医療機関に関する情報をより正確に説明する必要がある。
著者
黒須 一見 小林 寬伊 大久保 憲
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.345-349, 2011 (Released:2012-02-03)
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

結核患者を受け入れている施設ではN95微粒子用マスクの使用頻度は高く,毎回着用時にユーザーシールチェックを実施し,年1回程度定性的なフィットテストを実施する必要がある.ユーザーシールチェックは,着用者自身の感覚による影響があり,毎回実施していれば適切な使用ができているとはいいきれない.今回,医療機関における正しい呼吸器感染防護具の使用法の促進のため,N95微粒子用マスクの漏れ率に関する検討をおこなった.   JIS規格日本人標準人頭にN95微粒子用マスク9種類を着用させた状態で,労研式マスクフィッティングテスターMT-03型®を用いて漏れ率を各15回測定した.   更に,漏れ率の低値だった製品を選択して,同一製品間の漏れ率のばらつきを検討した.   その結果,国産製品と折りたたみ型製品がカップ型製品よりも漏れ率が低く,より密着性が高かった.微粒子測定器(particle counter)を使用して漏れ率を定量的に示すことで,日本人に適した種類やサイズを示すことが可能となった.   漏れ率の低かった3社製品について,同一製品間のばらつきを検討した結果,同一製品間のばらつきが少ないことが明らかとなった.
著者
小林 愛
出版者
麻布大学
巻号頁・発行日
2017-03-31

人と動物の関係に関する研究は、人と動物の心的つながりや、動物からの恩恵など今日までに様々行われている。特にコンパニオンアニマルからもたらされる恩恵は人と動物の日常的な関係から生じると考えられている。適切な社会化、人との良い経験、身体的接触は人と動物の関係の基礎であり、人と動物の情緒的つながりである絆の形成に寄与する。社会性の高い犬と比較し、猫は単独行動をする動物であることから、人から自由気ままな動物で、人に対して社交性がないという印象を受けている。しかし、近年人と猫の相互作用に関する研究が発展し、猫も人に対する社交性があり、人と直接的に関わりをもつことが明らかとなってきた。例えば、大人は猫に話しかけ猫が近づいてくるのを待つが、子どもは積極的に猫に近づくため、猫は子どもよりも大人を好むことが示されており、人側の関わり方により猫の行動が変化することが示されている。また、シェルターから猫を譲渡された飼い主に猫を選んだ理由を調査した研究では、猫の活発で友好的な行動を理由に挙げた飼い主が多く、猫の行動が飼い主の猫との関わりの起点となっていることが示唆されている。これらのことから猫との直接的な関わり方が人と猫の双方に影響し、関係性を変化させていくことが考えられた。そして関わりの場面における両者の行動学的ならびに生理学的な評価を得ることが、人と猫の関係の理解に重要と考えた。そこで本研究は人と猫の日常的な関わり方、特に人が猫をなでるという行為に着目し、人が猫をなでることによる人と猫への影響を生理学的に明らかにすることを目的とした。1章 日常的な人と猫の関わり方の調査と人から猫への愛着に関与する関わり方の抽出 愛着は幼児と母親の間で形成される情緒的絆の起点であり、個体間の関係性の根本をなす。人と猫においては、猫への愛着が高い飼い主は飼育放棄することが少ないことが報告されており、人と猫の間においても愛着を介した絆が存在する可能性がある。このことから、人と猫の両者の関係の評価として愛着に着目した。猫と飼い主の交流時間や交流内容が、家族構成や飼育環境の違いにより異なることが明らかとなっているが、どのような日常的な関わり方が猫への愛着に関係するかを明らかにした研究はない。第1章では猫の飼い主と猫の日常的な関わり方の調査研究を行い、飼い主の猫に対する愛着に関与した関わり方を明らかにすることを目的とした。猫の飼い主を対象にウェブにてアンケート調査を行なった。調査項目は4部構成であり、第一部は年齢や性別などの猫に関する基本情報17問、第二部は「猫に話しかけるか」、「猫は近づいてくるか」などの猫と飼い主の普段の関わり方についての21問、第三部は飼い主の猫に対する愛着34問、第四部は年齢や性別などの飼い主自身の基本情報の10問の回答を得た。有効回答数は602部であり、最も多かった関わり方は飼い主が「猫に話しかけること」(97%)であり、次いで「猫は飼い主になでられることが好き」(90%)であった。「飼い主が猫の要求を受け入れること」は61%、「猫とコマンドによる交流をする」は14%であった。「猫をなでる」と「猫の要求を受け入れる」は飼い主の猫への愛着に強く関与していた。この他にも「交流時間」、「猫が飼い主の近くにいる」、「コマンドによる交流」が愛着に関与しており、全て正の関連があった。第2章 猫をなでることによる人のストレス緩衝作用 第1章で明らかにした人の猫への愛着形成に関与する日常的な関わり方のうち、「猫をなでる」に着目した。これまでの研究でペットをなでることを含んだ交流は、人の血圧と心拍数の減少をもたらすことが報告されている。この効果が心疾患のリスクの軽減に寄与していると示唆されており、心疾患リスクの軽減の要因としてストレスの緩衝作用が考えられる。このことから猫との「なでる」を介した交流が人のストレスを軽減させると仮説を立てた。そこで第2章では、猫との交流が人のストレス負荷に与える生理的影響を調べた。 心疾患と猫アレルギーのない大学生11名(男性8名、女性3名、平均年齢21.1±0.3歳)を対象にした。11名のうち6名は供試猫と、5名は供試犬と普段から関わりがあった。実験の流れは20分の安静(pre)ストレス負荷として暗算(MA)5分、猫との交流、犬との交流、交流なしのいずれかを行う20分間の交流(Int)、15分安静(post)であった。3つの交流の順序はランダムであり、全て異なる日に行なった。本研究室で飼育している猫と犬各1頭が実験に参加した。人は唾液中コルチゾール濃度と心拍変動(HRV)、心理尺度(POMS2)、猫と犬をなでた時間を評価指標とした。また、猫と犬の評価も行いHRVと人になでられた時間を評価指標とした。HRV解析では時間領域解析を行いRR間隔であるRRI、自律神経全体の指標であるSDNN、副交感神経活性の指標であるRMSSDを算出した。RRI、SDNN、RMSSDはすべてpre、Int、post、に比べMAが有意に小さくなった。交流20分間のSDNNは交流なしよりも猫との交流で有意に小さくなった。唾液中コルチゾール濃度に有意差はなかった。POMS2の活気スコアの変化量は交流なしと比較し猫と犬との交流後で有意に高くなった。猫は人になでられていない時よりなでられている時にRRIが長くなった。猫のSDNNとRMSSDは人になでられている時となでられていない時で有意差はなかった。猫とは反対に、犬はなでられていない時はなでられている時に比べRRI、SDNN、RMSSD全てで有意に大きくなった。人になでられている時間と猫のRMSSDに正の相関がありSDNNとの相関関係はなかった。 以上の結果から、ストレス負荷課題は人にとってストレスとなり自律神経系を活性化させた。交流なしに比べ猫との交流でSDNNが小さかったことは、副交感神経活性には差がなかったため交感神経活性が抑制されたことが考えられた。従って猫との交流はストレス軽減効果がある可能性が示された。さらに猫や犬との交流により活気が増加したことから、猫と犬の交流は人のポジティブな気分を増加させることが示された。猫はなでられている時間が長いほどリラックスする、またはリラックスしているほど猫は人になでられることを受け入れることが考えられた。猫にとって人になでられることは、猫同士で行う相互グルーミングの役割となる可能性が考えられた。一方犬では、人になでられている時にリラックスせず自律神経系が活性化した。これは普段行なっている遊びやコマンドによる交流を期待していたことが考えられた。第3章 猫をなでることによる人の情動中枢への影響 2章で猫をなでることを含んだ交流により人のポジティブな気分の増加が示された。人は猫をなでるとき、猫の様子や行動を読み、猫のリラックスした状態を感じ「柔らかくて気持ちいい」などの情動が付随して起こることが予想される。このことから、猫をなでることは人の社会的情動の中枢に影響する可能性がある。社会的情動に関連のある脳部位として下前頭回に着目した。3章では猫をなでることが人の情動制御中枢に与える影響を明らかにすることを目的とした。 右利きで猫アレルギーのない麻布大学に在籍中の学生30名(男性10名、女性20名、平均年齢20.0±1.6歳)を対象に実験を行なった。猫は2章と同じ猫を用いた。頭部前頭葉に16ヶ所の血流量を評価できるNIRSを装着し、同時に胸部に心拍計を装着した。6つの接触課題(猫のぬいぐるみの背中に手を置く(TP)、猫のぬいぐるみを一定の速さでなでる(SP)、猫のぬいぐるみを自由になでる(FP)、本物の猫の背中に手を置く(TC)、本物の猫を一定の速さでなでる(SC)、本物の猫を自由になでる(FC))をランダムに行なった。各課題後に感情評価を行い、心拍データは心拍変動解析に用いRMSSDとSDNNを算出し自律神経活性を評価した。その結果、女性の右下前頭回ではぬいぐるみよりも猫に接触したときに活性が高くなった。さらに女性の右下前頭回の活性は人のRMSSDと正の相関、SDNNと負の相関があり、感情価はぬいぐるみよりも猫に接触したときに高かった。右下前頭回は表情やジェスチャーを見たときに活性することが報告されており、猫に触れたことにより活性した可能性がある。女性にとって猫に触れること、猫をなでることは快情動とリラックスを伴うことが示唆された。総合考察 猫をなでることは日常的に多く行われており、人の猫への愛着に関与することが示された。さらに、猫のリラックス状態と人になでられる時間は正の関係があった。これより猫がリラックスしている時になでることは直接的な関わりを長くすることにつながること、またはなでる時間が長いほど猫はリラックスすることが考えられた。そして人は猫をなでると快感情とリラックスを伴うことが示され、相互に作用していることが明らかとなった。人との良い経験と身体的接触は人と動物の絆形成に寄与することがいわれており、リラックスを伴う猫をなでる関わり方を繰り返すことは、人と猫の情緒的結びつきを生じさせる要因となる可能性が示された。男性への影響は検討の余地があるが、日常的に猫をなでることは人と猫の友好的な関係構築に有用であると考察した。
著者
反町 百花 小川 孔幸 松本 彬 惣宇利 正善 小板橋 るみ子 梶田 樹矢 明石 直樹 内藤 千晶 石川 哲也 小林 宣彦 宮澤 悠里 一瀬 白帝 半田 寛
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.60-65, 2023 (Released:2023-02-11)
参考文献数
15

症例は86歳男性。COVID-19に対するBNT162b2 mRNA COVID-19ワクチン2回目接種の35日後に左下肢,左上肢の腫脹と疼痛が出現し,近医を受診した。APTT延長を認め,当科に紹介緊急入院となり,FVIII: C 1.7%,FVIII inhibitor 152.3 BU/ml,ELISA法でFVIII結合抗体を検出し,後天性血友病A(AHA)と診断した。高齢でADLも低下していたため感染リスクの懸念から,PSL 0.5 mg/kg/日で治療を開始した。入院期間中に筋肉内出血,膝関節出血などの出血事象を認めたが,都度バイパス止血製剤(rFVIIa,FVIIa/FX)による止血治療を実施し,良好な止血効果を得た。PSL治療で第69病日に凝固能的完全寛解(cCR)を達成したが,PSL漸減とともにFVIII活性が低下し,3回目のワクチン接種後に腹直筋血腫を伴うAHAの再燃を認めた。本症例は,日本人初のCOVID-19ワクチン接種後のAHA報告例で,かつ抗FVIII結合抗体の存在が証明された世界初の症例である。
著者
結束 貴臣 今城 健人 小林 貴 本多 靖 小川 祐二 米田 正人 斉藤 聡 中島 淳
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.152, no.4, pp.187-193, 2018 (Released:2018-10-05)
参考文献数
14

肥満・メタボリックシンドロームの増加に伴い非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)はわが国に2,000万人程度と患者数が多い.NAFLDのうち1~2割が非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)へ,さらに肝硬変や肝蔵がんに至るとされておりその対策は非常に重要である.患者数は増加の一途を辿っているが,その病態は多岐にわたり有効な治療はいまだ食事・運動療法が中心である.NASHの組織像は,好中球浸潤が主体であり,その病態進展にはグラム陰性桿菌由来のエンドトキシンの関与が推察されてきた.NASH進展におけるエンドトキシンを介した腸肝連関における肝臓側の要因として肥満を呈する高レプチン血症がNASH患者のエンドトキシンに対する過剰応答は重要なファクターである.さらに腸管側の要因として腸管バリアー機能の低下による腸管透過性の亢進が問題となっており,これらによって門脈中のエンドトキシンの増加をきたす.次世代シークエンサーの登場により,NAFLD/NASHにおける腸内細菌叢が解明されつつある.腸内細菌の乱れが引き起こす腸管透過性亢進よる血中エンドトキシン上昇はNASH病態に重要であり,腸管透過性亢進の制御はNAFLD/NASH治療に新たな可能性を秘めているとわれわれは考えている.
著者
松本 良 奥田 義久 蛭田 明宏 戸丸 仁 竹内 瑛一 山王 梨紗 鈴木 麻希 土永 和博 石田 泰士 石崎 理 武内 里香 小松原 純子 Antonio Fernando FREIRE 町山 栄章 青山 千春 上嶋 正人 弘松 峰男 Glen SNYDER 沼波 秀樹 佐藤 幹夫 的場 保望 中川 洋 角和 善隆 荻原 成騎 柳川 勝則 砂村 倫成 後藤 忠則 廬 海龍 小林 武志
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.118, no.1, pp.43-71, 2009-02-25 (Released:2010-04-05)
参考文献数
46
被引用文献数
65 59

A number of extensive methane plumes and active methane seeps associated with large blocks of methane hydrates exposed on the seafloor strongly indicate extremely high methane flux and large accumulations of methane hydrate in shallow sediments of the Umitaka spur and Joetsu knoll of the Joetsu basin 30 km off Joetsu city, Niigata Prefecture. Crater-like depressions, incised valleys, and large but inactive pockmarks also indicate methane activities over the spur and knoll. These features imply strong expulsions of methane gas or methane-bearing fluids, and perhaps lifting and floating-up of large volumes of methane hydrate to the sea surface. High heat flow, ∼100 mK/m, deposition of organic-rich strata, ∼1.0 to 1.5%TOC, and Pliocene-Quaternary inversion-tectonics along the eastern margin of the Japan Sea facilitate thermal maturation of organic matters, and generation and migration of light-hydrocarbons through fault conduits, and accumulation of large volumes of methane as methane hydrate in shallow sediments. Microbial methane generation has also contributed to reinforcing the methane flux of the Joetsu basin. Regional methane flux as observed by the depth of the sulfate-methane interface (SMI) is significantly high, < 1 m to 3 m, when compared to classic gas hydrate fields of Blake Ridge, 15 to 20 m, and Nankai trough, 3 to 15 m. δ13C of methane hydrate and seep gases are mostly within -30 to -50‰, the range of thermogenic methane, while dissolved methane of the interstitial waters a few kilometers away from seep sites are predominated by microbial with δ13C of -50 to -100‰. Seismic profiles have revealed fault-related, well-developed gas chimney structures, 0.2 to 3.5 km in diameter, on the spur and knoll. The structures are essential for conveying methane from deep-seated sources to shallow depths as well as for accumulating methane hydrate (gas chimney type deposits). The depth of BSR, which represents the base of gas hydrate stability (BGHS), on the spur and knoll is generally 0.20 to 0.23 seconds in two-way-travel time, whereas the BSRs in gas chimneys occur at 0.14 to 0.18 seconds, exhibiting a sharp pull-up structure. The apparent shallow BGHS is due to the accumulation of large volumes of high-velocity methane hydrate in gas chimneys. The depth to BGHS is estimated to be 115 m on an experimentally determined stability diagram, based on an observed thermal gradient of 100 mK/m. Then the velocity of the sediments on the Umitaka spur is calculated to be 1000 m/s, which is anomalously low compared to normal pelagic mud of 1600-1700 m/s. This exciting finding leads to the important implication that sediments of the Umitaka spur contain significant amounts of free gas, although the sediments are well within the stability field of methane hydrate. The reasons for the existence of free gas in the methane hydrate stability field are not fully explained, but we propose the following possible mechanisms for the unusual co-existence of methane hydrate and free-gas in clay-silt of the spur. (i) High salinity effect of residual waters, (ii) degassing from ascending fluids, (iii) bound water effect and deficiency of free-waters, and (iv) micro-pore effect of porous media. All of these processes relate to the development of gas hydrate deposits of the Umitaka spur.(View PDF for the rest of the abstract.)