著者
松永 宣史 山田 陽子 山田 加奈子 内海 健太 中南 秀将 野口 雅久 笹津 備規
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.362-368, 2011 (Released:2012-02-03)
参考文献数
13
被引用文献数
1

接触感染は,院内感染の最も主要な感染経路である.接触感染の防止には,患者や医療従事者が頻繁に触れる場所(高頻度接触表面)の汚染状況を把握し,医療従事者の病院内環境に対する意識を向上させる必要がある.本研究では,院内感染の主要な原因菌であるPseudomonas aeruginosa,メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA),およびSerratia marcescensについて,高頻度接触表面の環境調査を行った.2005年から2008年の4年間,のべ1,513試料から,MRSA 13株(0.9%),P. aeruginosa 69株(4.6%),およびS. marcescens 24株(1.6%)が検出された.検出された細菌の特徴を調査するため,抗菌薬感受性試験およびパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)を行った.その結果,環境分離MRSAの抗菌薬感受性と遺伝学的背景は,臨床分離株と類似していた.一方,環境分離P. aeruginosaおよびS. marcescensの80%以上が,調査した抗菌薬全てに感受性を示した.また,環境分離P. aeruginosaと臨床分離株の遺伝学的類似率は低いことが明らかとなった.したがって,高頻度接触表面に付着していたMRSAは患者や医療従事者由来株であり,P. aeruginosaおよびS. marcescensの大部分は,環境細菌であることが強く示唆された.さらに,細菌検出数の経時変化を調査したところ,初回調査時の18株/89試料(20.2%)が最も多く,調査2回目は7株/89試料(4.5%)と大きく減少した.これは,MRSAの検出数が著しく減少したことに起因していた.したがって,環境調査を行うことによって,職員の環境に対する意識が向上し,各部署における清掃および消毒が頻繁に行われるようになったと考えられる.
著者
中野 優 伊庭 裕 山田 陽 三浦 修平 今野 光彦 和田 卓也 丸山 隆史 八田 英一郎 栗本 義彦
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.25-29, 2020-01-15 (Released:2020-02-01)
参考文献数
18

症例は71歳男性.11年前に大動脈弁閉鎖不全症に対して大動脈弁置換術,1年前に急性A型大動脈解離に対して上行大動脈置換術がそれぞれ他院で施行されていた.今回,激しい心窩部痛を自覚し緊急搬送された.来院時の血圧70mmHgで,造影CTにて人工血管の末梢側吻合部の仮性瘤と仮性瘤内から右肺動脈への血流を認めたため,緊急手術となった.右腋窩動脈送血,右大腿静脈脱血で体外循環を確立して全身冷却を開始してから胸骨正中切開を行った.低体温循環停止,選択的脳灌流を確立して観察すると,末梢吻合部小弯側が約3cm離開していた.部分弓部置換術で再建し,また右肺動脈前面に穿通孔を認めたためウシ心膜パッチで閉鎖した.術後経過は良好で,22病日にリハビリ目的に転院となった.仮性瘤の肺動脈穿破による左-右シャントによる急性心不全のため血行動態が破綻し,緊急での再々開胸手術にて救命し得た1例を報告する.
著者
山田 陽滋 森園 哲也 増尾 安弘 梅谷 陽二
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集
巻号頁・発行日
vol.2002, 2002

人間の手とロボットハンドの間には, 動力学パラメータや可動範囲, さらにアクチュエータの特性や, 取得できる触覚情報などにさまざまな違いがある。これらの違いから, 人間の手に対してロボットハンドの機能や性能に制約が生じている。本研究では, 人間がロボットハンドと同等の機能や性能に関する制約のもとで, ハンドに対する教示を与えることを考え, これを達成する為のWearableなロボットハンドを提案する。提案の対象として, まず指一本に着目する。
著者
山田 陽子
出版者
広島国際学院大学現代社会学部
雑誌
現代社会学 (ISSN:13453289)
巻号頁・発行日
no.11, pp.3-14, 2010

本稿の目的は、ソーシャルネットワーキングを介した時間管理術の自主的勉強会における参与観察や参加者へのインタビュー調査をもとに、昨今の「自己啓発」の内実について明らかにすることである。調査の実施期間は2008年6月から2009年3月、インタビュー対象は大手企業勤務のシステムエンジニアやIT系の起業家である。近年、ビジネスマンの自己啓発や仕事の効率性・生産性の向上を目的とした諸々のテクニックの集積体は「時間管理術」や「ライフハック」といった名称で呼ばれることが多い。本稿では、時間管理術やライフハックとは何なのか、人々は時間管理術やライフハックに何を求め、どのような点に魅力を感じているのか、その社会的機能とはどんなものか、時間管理術やライフハックという知が人々をどのように結び付けているのか、時間管理術やライフハックという知が出てきた社会的背景はどのようなものか、時間管理術やライフハックと現代人の自己がどのように関連しているのか等について知識社会学の観点から明らかにする。In this paper, from a viewpoint of sociology of knowledge, I survey the aspects of worker's self-enlightenment today based on the qualitative research concerning the social networks of time management and life-hacks. Methods of self-enlightenment or of working with great efficiency for businessperson frequently are called "life-hacks". In this paper,I interviewed two systems engineers worked in world-wide electronic company and an entrepreneur. In this paper, the following the points at issue are examined."What is the life-hacks?,". "What are social functions of life-hacks?", "What are social backgrounds of life-hacks?", "How does the life-hacks connect people?" and so on.
著者
山本 篤志 福永 智栄 新沢 敦 堀江 延和 米谷 さおり 長濱 通子 藤原 進 山田 陽三 福永 淳 錦織 千佳子
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.133-139, 2018 (Released:2018-11-08)
参考文献数
18

ステロイド忌避を含む難治性のアトピー性皮膚炎(AD)患者で顔面に皮疹を有する12名を対象に,白虎加人参湯エキスに石膏末を加味した方剤を4週間投与し,AD 診療ガイドラインに基づく皮疹の重症度スコア,痒みVAS,生活の質(Quality of life)の指標であるSkindex-16および各種血液検査を行い,有効性を前向きに評価した。 また,どのような証(漢方医学的に把握した病態)に有効かを後ろ向きに調査した。 その結果,内服4週間で重症度スコアとSkindex-16の平均が有意に低下した。好酸球数,IgE 抗体,TARC 値は有意な低下を認めなかった。白虎加人参湯と同様で「暑がり」,「汗かき」の証を有する患者に有効であった。4週間という短期間で皮疹が改善したことより,ステロイド忌避を含む難治性アトピー性皮膚炎患者に使用する内服薬の選択肢の1つになりえると考えた。
著者
松井 知之 森原 徹 平本 真知子 東 善一 瀬尾 和弥 宮崎 哲哉 来田 宣幸 山田 陽介 木田 圭重 池田 巧 堀井 基行 久保 俊一
出版者
The Japanese Society of Physical Fitness and Sports Medicine
雑誌
体力科学 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.463-468, 2014-10-01 (Released:2014-10-02)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

Pitching motion is made up by three-dimensional whole body movement. Pelvic and trunk rotation movement is important for the prevention of throwing injuries. Throwing is not a simple rotation movement. Evaluation should reflect muscle strength, coordination, and pitching motion characteristics. We have devised throwing rotational assessment (TRA) similar to throwing as the new evaluation of total rotation angle required for throwing. The purpose of this study was to introduce the new method and to examine the characteristics of players with throwing disorders. The subjects were 76 high school baseball pitchers who participated in the medical check. Pain-induced tests were elbow hyperextension test and intra-articular shoulder impingement test. Pitchers who felt pain in either test were classified as disorder group. TRA evaluation was performed as follows. In the positions similar to the foot contact phase, rotation angles of the pelvis and trunk were measured. In the position similar to follow through phase, the distance between the middle finger and the second toe was measured. All tests were performed in the throwing and opposite direction. Twenty five pitchers were classified as disorder group. All TRA tests in healthy group were significantly higher in the throwing direction than in the opposite direction, but there was no significant difference in the disorder group. Disorder group had significantly lower average rotation angles of the pelvis and trunk in the throwing direction and rotation angle of trunk in the opposite direction than the healthy group. Restrictions on TRA reflecting the complex whole body rotation movement may be related to the throwing disorder. This evaluation is a simple method. It would be useful early detection of throwing disorder and systematic evaluation in medical check, as well as self-check in the sports field.
著者
五木田 麻里 山田 陽三 葉 乃彰 藤田 博己 夏秋 優
出版者
日本皮膚科学会大阪地方会・日本皮膚科学会京滋地方会
雑誌
皮膚の科学
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.186-190, 2017

60歳代,女性。発症の20日前に淡路島北部にて墓掃除,発症の10日前に六甲山南側の山麓部にて木の剪定作業を行った。8月中旬より発熱,全身の皮疹が出現したため,当科を受診した。初診時,体幹,四肢を中心に淡い紅斑が多発し,手掌や足底にも紅斑を認めた。また,下腹部に2ヶ所の刺し口を認めた。検査所見では白血球増加,血小板低下,CRP 高値,肝障害,CK 上昇を認め,ペア血清による Rickettsia japonica 抗体価の有意な上昇を認めたことより日本紅斑熱と診断した。ミノサイクリンの投与により皮疹は軽快したが,経過中に後頸部痛と四肢運動感覚障害が出現し,精査の結果,無菌性髄膜炎,多発単神経炎と診断した。その後,アジスロマイシンとシプロフロキサシンの投与でこれらの神経症状は軽快した。日本紅斑熱に神経障害を合併した例は自験例以外に5例報告があり,全例無菌性髄膜炎を認めたが多発単神経炎の合併は自験例のみであった。(皮膚の科学,16: 186-190, 2017)
著者
荒井 啓行 鈴木 朋子 佐々木 英忠 花輪 壽彦 鳥居塚 和生 山田 陽城
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.212-215, 2000-03-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
10
被引用文献数
5 10

Choline acetyltransferase 活性増強作用と神経栄養因子様作用を有する漢方処方の加味温胆湯 (KUT) を用いて, Alzheimer 病 (AD) への治療介入を試みた. 認知機能は, Folstein らの Mini-Mental State Examination (MMSE) スコアで評価し, その年変化を指標とした. Baseline MMSEは, KUT群 (20例) で18.6±6.8, コントロール群 (32例) で20.8±5.6であった. KUTは北里研究所東洋医学研究所薬局処方集第3版に基づき, 煎出し, 平均約1年間服用した. 悪心, 嘔吐, 下痢などのコリン作動性神経刺激症状は認められなかった. コントロール群では, MMSE年変化は4.1ポイントの悪化であったのに対して, KUT群では1.4ポイントの悪化であった (p=0.04). KUTの効果は漢方医学的ないわゆる証やApoE遺伝子型に依存しなかった. KUT投与前後で脳脊髄液tau値やAβ1-42値に有意な変動は見られなかった. KUTは, 少なくとも初期から中期にかけてのADにおいて進行抑制効果を有するものと考えられた.
著者
澤井 俊宏 新美 敦 山田 陽一 渡邊 和代 小関 健司 中井 英貴 本田 雅規 藤本 雄大 野阪 泰弘 上田 実
出版者
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
雑誌
日本口腔インプラント学会誌 (ISSN:09146695)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.97-102, 1996-03-31 (Released:2017-11-05)
参考文献数
10

In the severely atrophic maxilla, prosthetic rehabilitation is difficult. However, rehabilitation using osseointegrated implants with bone grafting can resolve this problem. Among the various methods of bone graft to the maxilla, sinus lift is commonly used. This report presents two cases of oral rehabilitation using osseointegrated implants with the sinus lift. In case 1, grafted bone was harvested from the mental region of the mandible, and implantation was performed at the same time as the autogenous corticocancellous bone block graft. In case 2, grafted bone was harvested from the alveolar bone in the anterior region of the mandible, and implantation was performed secondarily after the autogenous particulate bone graft. Bone biopsy for histological analysis was performed in the above two cases. In both cases, new trabecular bone was observed in the augmented sinus floor. However, the trabeculae were more dense on the alveolar side than in the central area. In the case with splintered bone, empty bone lacunae were seen in the grafted region.
著者
フリン ジェームズ R. Flynn James R. 山田 陽樹 Yamada Haruki 杉山 崇 Sugiyama Takashi
出版者
心理相談センター
雑誌
心理相談研究 : 神奈川大学心理相談センター紀要
巻号頁・発行日
vol.7, pp.49-57, 2015-03-31

この50年間,IQ上昇とテストの再標準化によって,知能指数70以下のアメリカ人の割合が劇的に変化してきた。さらには,知的障害の評価基準が,白人だけに対して標準化された70から,すべてのアメリカ人に対して標準化された70に変更された。実際,知的障害に分類した方が適しているとされる人の割合は,23人中1人という高値から213人中1人という低値に変化した。このような大きな変化があったにも関わらず,心理臨床家は何の反応も示さず,また,テスト発行者も十分な反応を示さなかった。適応行動の障害との相関関係において,知的障害のIQ評価基準はその根拠をまったく示していないと結論づけざるを得ない。この相関関係があればこそIQ評価基準が合理的であるといえるのであり,IQテストはやめて適応行動の障害の直接試験を支持することも十分考慮する必要がある。実際,心理士がクライエントのニーズに合わせてテストを実施することによって,人々は異なるIQテストからまったく違うスコアを得ることができるのである。資料
著者
永井 聖剛 山田 陽平 金谷 英俊 川上 直秋 西崎 友規子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第14回大会
巻号頁・発行日
pp.6, 2016 (Released:2016-10-17)

刺激の大小や速遅などの物理的性質と運動反応の強弱との間にみられる刺激—反応適合性は,オブジェクトに関する概念的性質に対しても生じる。したがって,刺激や運動反応についての性質は抽象化された単純情報次元(例えば,大—小)で共有されるものと考えられる。本研究では,刺激が示唆するパワーと発揮される握力という刺激-運動反応間での適合性について検討した。実験では乳幼児画像,レスラー画像,またはブランク画面が提示され,実験参加者には人物が提示されたき,事前に練習した最大筋力の50 %の出力で握力計を握るように求めた。結果から,非利き手に限り,レスラー画像に対して乳幼児画像よりも大きな握力が発揮されることを明らかにした。利き手では筋力のコントロールが非利き手に比べ正確にできるために,非利き手で大きな効果が出現したものと考察された。
著者
稲掛 伝三 山田 陽巳 瀬川 恭平
出版者
遠洋水産研究所
雑誌
遠洋水産研究所研究報告 (ISSN:03867285)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.53-81, 2001-03
被引用文献数
13

1995年、1996年の冬季に対馬海峡で記録型標識を装着、放流したクロマグロ幼魚105個体のうち、これまでに24個体を回収した。そのうち、放流後1年以上を太平洋で過ごしたと思われる5個体の標識データから、それらの回遊経路を人工衛星から観測された海洋構造と対比した。この結果、北西太平洋では春季に黒潮続流域を西進、夏季に三陸沖を黒潮分派に沿って北上、秋季に親潮前線に沿って東進、冬季に日付変更線付近の黒潮続流域に向かって南下、という海洋構造に応じた時計回りの回遊パターンが認められた。また、生息水温の昇温・降温にともない、クロマグロ幼魚が表層水温18℃前後の水塊へと移動する傾向が認められた。さらに春季ブルームの消長などクロロフィルa高密度域の推移も本種の回遊経路に影響を及ぼしていることが示唆された。
著者
永井 聖剛 山田 陽平
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第11回大会
巻号頁・発行日
pp.27, 2013 (Released:2013-11-05)

創造性には,広範かつ新しい枠組みから物事を捉え新規かつ独創的なアイデアを産み出す「拡散的思考」,制約や状況に基づきアイデアを産出する「収束的思考」の2成分が存在する。創造性を促進する要因として“気分状態”は主要な研究対象であるが,本研究では,認知情報処理は身体の状態や動作に影響を受けるとする“身体性認知(Embodied Cognition)”の枠組みに基づき,「腕を大きく回す動きが(小さく回す動きよりも)広範で拡散的な思考を導き,拡散的思考が促進されるか否か」を検討した。「実在しないコメの名前」を考えるという創造性課題を課し,事前に「○○ヒカリ」という典型的回答を5例提示した。実験の結果,腕回し動作の大小は回答総数には影響を与えなかったが,大きく回す群では小さな群よりも典型例に縛られない非典型的なアイデアの回答比率が高く,拡散的思考が促進されることが明らかとなった。
著者
馬場 俊輔 山田 陽一 日和 千秋
出版者
(財)先端医療振興財団
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究においては、培養細胞と生体吸収性足場技術を利用して、新生骨の力学的機能を考慮した足場を開発することにある。足場は、天然歯やインプラント周囲欠損部に対する治療において骨芽細胞の発育を促し、また細胞だけでは十分な量が得られない場合はそれらを補填するために用いるものであるが、現在市販されている足場であるハイドロキシアパタイトやリン酸カルシウム系材料は骨の再生能の点において満足できるものではなく、さらに骨細胞形成能においても評価できるものではない。これらの問題点は、自己由来の骨芽細胞と足場の組み合わせによって、細胞成長能を十分に促進させることができないことにある。さらに、これらの足場は、足場としての機能を考えた場合、生体に埋植後、一定期間に自分の骨に置き換わることを期待する生体吸収性足場ではないことから、吸収性が備わり、さらに内部の気孔性が高く、骨芽細胞や血管が進入しやすく、加えて口腔内で咬合力を負担しうる強度を有する構造でなければ、再生骨を機能的に評価することは困難である。今回の研究では、この問題を解決するために、エナメル質、セメント質、歯根膜、歯槽骨の起源である自己由来の未分化問葉系幹細胞(MSCs)と最適化設計した生体吸収性足場を用いて咬合支持に耐えられる培養骨を開発し、天然歯の周囲骨、歯槽骨はもちろんのことインプラント周囲の骨を再生させる点に特徴がある。今回の研究においては生体吸収性の足場を設計することにより、培養骨芽細胞の活性度に応じた足場材の構造を最適化することができ、より効率的骨再生に加え、創傷治癒、骨形成促進作用も期待できる足場を開発した。PRPと細胞の関係や、これまでの臨床研究の結果を参考にして、カゴ状の編み込み型足場に細胞を播種する計画を策定した。これは組織再生用足場としてPLA繊維1本で編み上げた織物構造体の足場で、カゴ形状で内部に空洞を有しており,ここに細胞を入れることにより細胞の着床率を上げ,大きな欠損部に用いる目的で作成したものであり、現在実用化されているものは細胞をスカフォールドの内部まで播種することが困難であるが,このスカフォールドは開口部を有しており,臨床時に内部に播種して必要寸法に切断することが可能で,手術時に欠損部に合わせて形成できる.また,スカフォールドと欠損部の界面で体液が循環できる構造となっている点で有用である。ここに播種する細胞の最適化を計るべく、細胞培養条件の検討も行った結果、足場に播種する細胞の接着効率だけからではなく、足場の力学特性も関与させる必要があることが明らかとなった。さらに、曲げ強度に問題があり操作性を向上させる必要から、PLA繊維の周囲にPCLのバインダーで強度を補った。また,ヒト問葉系幹細胞をかご型スカフォールドに接着させ、培養を行った。その結果、PLAで製造されたスカフォールドの生分解速度は遅く、細胞の増殖及び骨系への分化誘導が可能であったがスカフォールドは6ヶ月以上の長期に亘り外形を保持されたままであった。これらのことから、スカフォールドの吸収分解速度と培養骨芽細胞の骨再生速度の調節が重要な課題となったため、PLA繊維のin Vivoにおける挙動を確認するための動物実験をしたところ12週間で骨の再生が確認され足場の吸収も確認された。細胞のみの移植と比較しても良好な結果が得られた。
著者
梅谷 陽二 黄 声揚 山田 陽滋
出版者
豊田工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

本研究は,把持部に滑りセンサーを持つ自由移動型の作業用宇宙ロボットによって,外力駆動されていない慣性運動中の対象物体をできる限り非衝撃的に把持する方法を研究することを目的としている.まず,平成7年度では,掌中に囲い込んだ物体を出来るかぎり非衝撃的に把持するプロセスを考察した.すなわち,各指関節に等分に衝撃力や回転運動量の負荷が分散されるようなマニピュレータ・コンフィギュレーションを,仮想質量の概念と各関節に誘起される関節加速度の仮想ロータ慣性を導入することによって求めた.このような力学を用いて,各関節に等分に衝撃負荷が分散されるようなマニピュレータ・コンフィギュレーションの理論的に求めた.つぎに,回転運動検出用すべりセンサーを開発し,いくつかのプロトタイプを製作した.平成8年度は,まず既設の空気浮上ベッドを用いて2次元モデルによる総合的な実験を行なった.また,回転運動検出用すべりセンサーの試作も行なった.衝撃を緩和するための把持方法は,把握される物体が多くの指に囲まれ衝突を繰り返しながら次第に把持される,と言うプロセスである.しかし実際に把握できる対象物体はおそらく並進速度や回転速度き小さいものに限られるだろうと思われる.次に,回転検出用の滑りセンサーの開発は順調に行なわれた.この種の触覚センサーの共通的な課題は,どのような滑り感覚を知覚するのか,検出感度とレンジをどれほど要求するのか,そしてライフはどうか,である.宇宙用のセンサーでは,ライフは重要であるが本研究では未着手に終わった.しかし回転滑り用の十分な感度を持ったセンサは開発できた.