著者
成田 龍一
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.15-33, 2017-05

戦後における日本文化の歴史的な研究のいくつかの局面に着目し、その推移を考察する。まずは、1980年代以降の特徴として、A「文化」に力点を置くものと、B「歴史」に比重を多く日本文化研究の二つが併存していることを入り口とする。Aは「日本文化論」、Bは「日本文化史」として提供されてきた。A(日本文化論)は、対象に着目し、叙述はしばしばテーマ別の編成となるのに対し、B(日本文化史)は通時的に論を立てることに主眼を置く。このとき、本稿で扱う1980年ごろまでは、双方ともに素朴な実在論に立つ。1980年ころまでは、AもBも、「日本」と「日本文化」の実在をもとに、それぞれ「論」と「歴史」を切り口としていった。AとBとの相違は、前者が日本、日本文化に肯定的であるのに対し、後者が批判的であるという点にとどまる。ことばを換えれば、日本、日本文化を論ずるにあたり、双方ともにアイデンティティとして、日本、日本文化をみていたということである。そのため、AとBとが近接する動向も見られる。だが、1980年代以降は、双方は文化と歴史への向きあい方が大きく異なってくる。言語論的転回が日本文化研究にも波及し、素朴な実在論が成立しなくなるなか、Aはあえて日本、日本文化を自明のものとし、それをテーマへと分節するのに対し、Bは日本、日本文化が自明とみえてしまうカラクリを問題化していくのである。そしてBは構成的な日本、日本文化の概念が、どのような画期をもち、どのようにそれぞれの時期で「日本なるもの」「日本文化なるもの」を創りあげたかに関心を寄せる。本稿は、こうして日本文化研究の推移を、文化論と文化史、実体論と構成論を軸として考察することにする。このとき、それぞれが日本文化を礼賛する見解と、「批判」的な議論と、日本文化を礼賛し「肯定」する議論として論及されることにも目を配る。
著者
小西 有美子 佐藤 寿晃 佐藤 孝史 長沼 誠 鈴木 克彦 成田 亜矢 藤井 浩美 橋爪 和足 内藤 輝
出版者
コ・メディカル形態機能学会
雑誌
形態・機能 (ISSN:13477145)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.65-69, 2011 (Released:2015-11-18)
参考文献数
15

健常男性8名(20-45歳)の右上肢を対象に、肘屈曲角度による前腕回外力の変化について調べた。被験者は、肩外転90°、屈伸0°、内外旋0°、前腕中間位にして上腕と前腕を台の上に載せ、肘を伸展位(0°)から10°毎に130°まで屈曲した状態で、等尺性収縮による最大の回外を行い、その回外力を計測した。回外力は、伸展位で3.9±1.2(平均±標準偏差)kg、10°位で4.5±1.2 kg、20°位で5.1±1.1 kg、30°位で6.2±1.1 kg、40°位で6.8±0.9 kg、50°位で7.7±1.1 kg、60°位で8.5±1.2 kg、70°位で8.3±1.4 kg、80°位で7.7±1.3 kg、90°位で7.3±0.9 kg、100°位で6.5±1.6 kg、110°位で6.0±1.7 kg、120°位で5.4±1.5 kg、130°位で4.8±1.2 kgとなった。回外力は伸展位から60°位までの屈曲で増加、70位°以上の屈曲では減少すること、肘の屈曲角度により回外力は2倍以上変化することが示された。この要因として、肘屈曲に伴う上腕二頭筋の筋線維の長さの変化や停止腱の角度の変化が考えられた。
著者
谷口 雄大 猪俣 俊光 杉野 栄二 成田 匡輝 今井 信太朗 新井 義和
雑誌
第80回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2018, no.1, pp.323-324, 2018-03-13

私の研究は, 青春18きっぷを用いた列車の鈍行移動において, 1日でどこまで遠く移動することができるかを計算するものである.例えば東京駅を出発駅とした場合, 普通列車や快速列車のみを利用し, 1日の列車の運行時間内で移動できる駅を探索する.この場合, 大阪駅や仙台駅などが1日で移動可能である.東京駅を出発駅とした例では, 上記のような駅が離れていればいるほど良い結果だと言える.より良い結果を得るために, 探索方法を考案し, それに基づく探索プログラムの実装を行った.そしていくつかの駅を出発駅とし, 探索を行った.この探索で算出された経路がどれだけ有効であるかを示す.以上が本研究である.
著者
成田 淳司
出版者
日本経済学会
雑誌
The Economic Studies Quarterly (ISSN:0557109X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.62-71, 1991-03-20 (Released:2007-10-19)
参考文献数
20

It is widely held that the life-cycle hypothesis of consumption is not accepted by Japanese data. However, this view is not founded on firm evidence. In this paper, the life-cycle hypothesis of consumption is tested using cohort data instead of cross-section data. Consumption function of Ghez-Becker type is applied to our data. The hypothesis is proven to be accepted.
著者
北村 明彦 阿部 巧 藤原 佳典 新開 省二 清野 諭 谷口 優 横山 友里 天野 秀紀 西 真理子 野藤 悠 成田 美紀 池内 朋子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.134-145, 2020

<p><b>目的</b> 高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施が進められる中,生活習慣病やフレイル関連の各因子が地域在住高齢者の自立喪失に及ぼす影響の強さ(ハザード比)と大きさ(寄与危険度割合)を明らかにする。</p><p><b>方法</b> 群馬県草津町において,2002~11年の高齢者健診を受診した65歳以上の男女計1,214人(男性520人,女性694人)を対象とし,平均8.1年(最大13.4年)追跡した。自立喪失は,介護保険情報による要介護発生または要介護発生前の死亡と定義した。生活習慣病因子として,高血圧,糖尿病,肥満,腎機能低下,喫煙,脳卒中・心臓病・がんの既往等を,機能的健康の関連因子として,フレイル区分,低体重,貧血,低アルブミン血症,認知機能低下を採り上げた。フレイル区分は,phenotypeモデルの5つの構成要素(体重減少,疲弊,活動量低下,歩行速度低値,握力低値)のうち3項目以上該当をフレイル,1~2項目該当をプレフレイルと定義した。Cox比例ハザードモデルを用いた回帰分析により,各要因保有群における自立喪失発生の多変量調整ハザード比(HR),集団寄与危険度割合(PAF)を算出した。</p><p><b>結果</b> 自立喪失発生者数は475人(要介護発生372人,要介護発生前死亡103人)であった。対象者全体でみると,自立喪失の多変量調整HRはフレイル,プレフレイル,認知機能低下,脳卒中既往,喫煙において1.3~2.2倍と有意に高値を示した。自立喪失のPAFは,プレフレイルが19%,フレイルが12%と他の要因に比し高率であった。男性では自立喪失のPAFは,プレフレイルが19%と最も大きく,次いで喫煙が11%であり,女性では,フレイル,プレフレイルがともに18%,腎機能低下が11%であった。前期高齢者では,フレイル,プレフレイルの他に脳卒中既往,貧血,低アルブミン,認知機能低下,喫煙,糖尿病における自立喪失の多変量調整HRが有意に高く,自立喪失のPAFは,プレフレイルが18%,フレイルが13%,喫煙が11%であった。</p><p><b>結論</b> 高齢者健診の受診者を対象とした検討の結果,自立喪失に寄与する割合が最も大きい要因はフレイル,プレフレイルであった。前期高齢期からフレイル予防,ならびに生活習慣病の予防・改善を図ることが集団全体の自立喪失の低減に寄与すると考えられた。</p>
著者
江⽊ 盛時 ⼩倉 裕司 ⽮⽥部 智昭 安宅 ⼀晃 井上 茂亮 射場 敏明 垣花 泰之 川崎 達也 久志本 成樹 ⿊⽥ 泰弘 ⼩⾕ 穣治 志⾺ 伸朗 ⾕⼝ 巧 鶴⽥ 良介 ⼟井 研⼈ ⼟井 松幸 中⽥ 孝明 中根 正樹 藤島 清太郎 細川 直登 升⽥ 好樹 松嶋 ⿇⼦ 松⽥ 直之 ⼭川 ⼀⾺ 原 嘉孝 ⼤下 慎⼀郎 ⻘⽊ 善孝 稲⽥ ⿇⾐ 梅村 穣 河合 佑亮 近藤 豊 斎藤 浩輝 櫻⾕ 正明 對東 俊介 武⽥ 親宗 寺⼭ 毅郎 東平 ⽇出夫 橋本 英樹 林⽥ 敬 ⼀⼆三 亨 廣瀬 智也 福⽥ ⿓将 藤井 智⼦ 三浦 慎也 安⽥ 英⼈ 阿部 智⼀ 安藤 幸吉 飯⽥ 有輝 ⽯原 唯史 井⼿ 健太郎 伊藤 健太 伊藤 雄介 稲⽥ 雄 宇都宮 明美 卯野⽊ 健 遠藤 功⼆ ⼤内 玲 尾崎 将之 ⼩野 聡 桂 守弘 川⼝ 敦 川村 雄介 ⼯藤 ⼤介 久保 健児 倉橋 清泰 櫻本 秀明 下⼭ 哲 鈴⽊ 武志 関根 秀介 関野 元裕 ⾼橋 希 ⾼橋 世 ⾼橋 弘 ⽥上 隆 ⽥島 吾郎 巽 博⾂ ⾕ 昌憲 ⼟⾕ ⾶⿃ 堤 悠介 内藤 貴基 ⻑江 正晴 ⻑澤 俊郎 中村 謙介 ⻄村 哲郎 布宮 伸 則末 泰博 橋本 悟 ⻑⾕川 ⼤祐 畠⼭ 淳司 原 直⼰ 東別府 直紀 古島 夏奈 古薗 弘隆 松⽯ 雄⼆朗 松⼭ 匡 峰松 佑輔 宮下 亮⼀ 宮武 祐⼠ 森安 恵実 ⼭⽥ 亨 ⼭⽥ 博之 ⼭元 良 吉⽥ 健史 吉⽥ 悠平 吉村 旬平 四本 ⻯⼀ ⽶倉 寛 和⽥ 剛志 渡邉 栄三 ⻘⽊ 誠 浅井 英樹 安部 隆国 五⼗嵐 豊 井⼝ 直也 ⽯川 雅⺒ ⽯丸 剛 磯川 修太郎 板倉 隆太 今⻑⾕ 尚史 井村 春樹 ⼊野⽥ 崇 上原 健司 ⽣塩 典敬 梅垣 岳志 江川 裕⼦ 榎本 有希 太⽥ 浩平 ⼤地 嘉史 ⼤野 孝則 ⼤邉 寛幸 岡 和幸 岡⽥ 信⻑ 岡⽥ 遥平 岡野 弘 岡本 潤 奥⽥ 拓史 ⼩倉 崇以 ⼩野寺 悠 ⼩⼭ 雄太 ⾙沼 関志 加古 英介 柏浦 正広 加藤 弘美 ⾦⾕ 明浩 ⾦⼦ 唯 ⾦畑 圭太 狩野 謙⼀ 河野 浩幸 菊⾕ 知也 菊地 ⻫ 城⼾ 崇裕 ⽊村 翔 ⼩網 博之 ⼩橋 ⼤輔 ⿑⽊ 巌 堺 正仁 坂本 彩⾹ 佐藤 哲哉 志賀 康浩 下⼾ 学 下⼭ 伸哉 庄古 知久 菅原 陽 杉⽥ 篤紀 鈴⽊ 聡 鈴⽊ 祐⼆ 壽原 朋宏 其⽥ 健司 ⾼⽒ 修平 ⾼島 光平 ⾼橋 ⽣ ⾼橋 洋⼦ ⽵下 淳 ⽥中 裕記 丹保 亜希仁 ⾓⼭ 泰⼀朗 鉄原 健⼀ 徳永 健太郎 富岡 義裕 冨⽥ 健太朗 富永 直樹 豊﨑 光信 豊⽥ 幸樹年 内藤 宏道 永⽥ 功 ⻑⾨ 直 中村 嘉 中森 裕毅 名原 功 奈良場 啓 成⽥ 知⼤ ⻄岡 典宏 ⻄村 朋也 ⻄⼭ 慶 野村 智久 芳賀 ⼤樹 萩原 祥弘 橋本 克彦 旗智 武志 浜崎 俊明 林 拓也 林 実 速⽔ 宏樹 原⼝ 剛 平野 洋平 藤井 遼 藤⽥ 基 藤村 直幸 舩越 拓 堀⼝ 真仁 牧 盾 增永 直久 松村 洋輔 真⼸ 卓也 南 啓介 宮崎 裕也 宮本 和幸 村⽥ 哲平 柳井 真知 ⽮野 隆郎 ⼭⽥ 浩平 ⼭⽥ 直樹 ⼭本 朋納 吉廣 尚⼤ ⽥中 裕 ⻄⽥ 修
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
pp.27S0001, (Released:2020-09-28)
被引用文献数
2

日本集中治療医学会と日本救急医学会は,合同の特別委員会を組織し,2016年に発表した日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG2016)の改訂を行った。本ガイドライン(J-SSCG2020)の目的は,J-SSCG2016と同様に,敗血症・敗血症性ショックの診療において,医療従事者が患者の予後改善のために適切な判断を下す支援を行うことである。改訂に際し,一般臨床家だけでなく多職種医療者にも理解しやすく,かつ質の高いガイドラインとすることによって,広い普及を目指した。J-SSCG2016ではSSCG2016にない新しい領域(ICU-acquiredweakness(ICU-AW)とPost-Intensive Care Syndrome(PICS),体温管理など)を取り上げたが,J-SSCG2020では新たに注目すべき4領域(Patient-and Family-Centered Care,Sepsis Treatment System,神経集中治療,ストレス潰瘍)を追加し,計22 領域とした。重要な117の臨床課題(クリニカルクエスチョン:CQ)をエビデンスの有無にかかわらず抽出した。これらのCQには,日本国内で特に注目されているCQも含まれる。多領域にわたる大規模ガイドラインであることから,委員24名を中心に,多職種(看護師,理学療法士,臨床工学技士,薬剤師)および患者経験者も含めたワーキンググループメンバー,両学会の公募によるシステマティックレビューメンバーによる総勢226名の参加・協力を得た。また,中立的な立場で横断的に活躍するアカデミックガイドライン推進班を2016年版に引き続き組織した。将来への橋渡しとなることを企図して,多くの若手医師をシステマティックレビューチーム・ワーキンググループに登用し,学会や施設の垣根を越えたネットワーク構築も進めた。作成工程においては,質の担保と作業過程の透明化を図るために様々な工夫を行い,パブリックコメント募集は計2回行った。推奨作成にはGRADE方式を取り入れ,修正Delphi法を用いて全委員の投票により推奨を決定した。結果,117CQに対する回答として,79個のGRADEによる推奨,5個のGPS(Good Practice Statement),18個のエキスパートコンセンサス,27個のBQ(Background Question)の解説,および敗血症の定義と診断を示した。新たな試みとして,CQごとに診療フローなど時間軸に沿った視覚的情報を取り入れた。J-SSCG2020は,多職種が関わる国内外の敗血症診療の現場において,ベッドサイドで役立つガイドラインとして広く活用されることが期待される。なお,本ガイドラインは,日本集中治療医学会と日本救急医学会の両機関誌のガイドライン増刊号として同時掲載するものである。
著者
北川 晃 成田 晶子 山本 貴浩 池田 秀次 泉 雄一郎 萩原 真清 太田 豊裕 石口 恒男
出版者
日本脈管学会
雑誌
脈管学 (ISSN:03871126)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.163-168, 2017-11-10 (Released:2017-11-10)
参考文献数
7
被引用文献数
3

四肢は動静脈奇形の好発部位であり,血管内治療の果たす役割は大きい。その理由として,表在(皮下)病変,深部(筋・骨)病変のいずれにも経動脈的,経静脈的あるいは直接穿刺によるアプローチが比較的容易であることがあげられる。また,硬化療法を併用する場合,硬化剤の中枢静脈への流出を防止し,標的血管内に長時間停滞させることがポイントとなるが,そのための血流コントロールを確実に行うことが可能である。病変の解剖,血流動態を正確に評価し,症例に応じた適切な治療方法を選択することが,治療効果の向上と合併症の予防に重要である。
著者
齋藤 繁 林 重成 成田 拓郎 加藤 泰道 大塚 元博 荒 真由美 成田 敏夫
出版者
公益社団法人 日本金属学会
雑誌
日本金属学会誌 (ISSN:00214876)
巻号頁・発行日
vol.83, no.10, pp.372-377, 2019-10-01 (Released:2019-09-25)
参考文献数
11

A diffusion-barrier coating layer (DBC) was formed on a Ni-22Cr-19Fe-9Mo alloy by Al-pack cementation at 1000℃ followed by heat treatment at 1100℃.The thermal cyclic oxidation behavior of the DBC system was then investigated. The thermal cycle oxidation tests were conducted at 1100℃ in air for 45 min, each followed by 15 min at room temperature. Electron probe micro-analysis (EPMA) was performed to determine the microstructure and concentration profile of each element between the substrate and the coating layer.The DBC system showed good thermal cycle oxidation property. The layer structure between the substrate and the coating layer after thermal oxidation cycling is discussed with respect to the composition paths plotted in the Ni–Cr–Fe and Ni–Cr–Al phase diagrams. The coating layer structure after 100 cycles of 45 min at 1100℃ consisted of the γ- and α-phases of the Ni–Cr–Fe system and the β-phase of the Ni–Cr–Al system. The coating layer structure after 400 cycles of 45 min at 1100℃ consisted of the γ-phase of the Ni–Cr–Fe system and the β-phase of the Ni–Cr–Al system. In contrast, the coating layer structure after 900 cycles of 45 min at 1100℃ consisted of the γ-phase of the Ni–Cr–Fe system.
著者
小田 桂吾 吉田 和歌子 藤沼 絢子 児玉 真知子 鈴木 恒 吉田 怜 成田 崇矢 馬見塚 尚孝 金森 章浩 宮川 俊平 平野 篤
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3P3435, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】膝前十字靱帯(以下ACL)再建術後、再度ACL断裂を受傷した症例について調査し、今後のリハビリテーション(以下リハ)プログラム及び予防プログラムについて検討することを目的とする.【対象および方法】平成15年4月から平成20年9月までの期間に、当院で自家半腱様筋腱(および大腿薄筋腱)を用いた解剖学的二重束でACL再建術施行例のうち経過観察可能であった155名(男性70名,女性85名,平均年齢24±10歳)のうちACL再受傷した4名を対象とした.調査項目はACL再受傷発生頻度,性別,年齢,競技種目,競技レベル,再受傷期間,受傷機転について検討した.なお本研究は当院の倫理委員会の審査を受け、承認されたものである【結果】全手術例に対するACL再受傷発生率は2.6%であった.症例の性別,年齢,競技種目は男性1例(24歳、サッカー、JFLチーム所属).女性3例(16~17歳、バスケットボール部所属で全国大会出場レベル1例,県大会出場レベル1例、ハンドボール部所属,県大会出場レベル1例)で再受傷期間は165±47日であった.【考察】再断裂した症例は1例(女性,バスケットボール部全国大会出場レベル)を除いて競技復帰前に受傷していた.移植腱の成熟および骨の癒合は3~6か月程度要すると報告されていることから、この時期のリハは筋力の回復状況や膝固有感覚の回復を考慮したプログラムを実施すると同時に危険肢位等のリスク管理を十分患者に理解させ、再断裂を未然に防ぐことが重要である.また2例は部活動以外のアクシデントで再断裂している.スポーツ活動中だけでなく日常生活レベルでのリスク管理の指導も十分行う必要性がある.以上のことは以前から報告されているが、改善されていない理由として患者本人の病態意識の低さだけでなく、再断裂した症例は全て初回も再受傷も非接触型で受傷していることから我々のリスク管理を含めた予防トレーニングの指導力不足も関係しているのではないかと考える.また当院では術後6カ月でBIODEXを用いた筋力検査を行い患健比マイナス15%以内、H/Q比60%以上を競技復帰の目安にしており今回、競技復帰後に再断裂した症例はこの目安をクリアし順調に筋力が患健比約90%回復していたにも関わらず再断裂に至ってしまった.当院のACLのリハは筋力検査の結果を競技復帰の目安にし、術後平均約8か月でリハ終了としているが、まだ競技復帰に対して不安感を持っていながら、この時期を境に今まで行ってきたリハのプログラムを終了していたことが誘因のひとつであると推察した.