著者
森 典彦
出版者
The Society of Fiber Science and Technology, Japan
雑誌
繊維学会誌 (ISSN:00379875)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.P227-P232, 1995-06-10 (Released:2008-06-30)
参考文献数
7
被引用文献数
1 2
著者
湯田 智久 大住 倫弘 前岡 浩 森岡 周
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1328, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】Complex regional pain syndrome(CRPS)患者や脳卒中患者の障害側上肢には浮腫が生じ,浮腫は関節可動域制限や疼痛と関連することが報告されている(Shimada 1994,Isaksson 2014)。浮腫の原因は自律神経障害や静脈欝血とされることが多いが,明確な成因や治療手段は明らかにされていない。Moseley(2008)は,身体所有感が浮腫に関連することを示唆しているが,これらの関連は調査されていない。そこで本研究では,身体所有感の生起プロセスの調査を行う実験手法とされているラバーハンド錯覚(Rubber Hand Illusion:RHI)を用いて,身体所有感の変化が手容積に与える影響について調査することを目的とした。【方法】対象はRHIが未経験の健常成人21名(男性12名,女性9名,平均年齢26±3.85歳)とした。RHIとは隠された本物の手と偽物の手(Rubber Hand:RH)が同時に刺激されると,RHが自己の手のように感じる身体所有感の錯覚現象である。今回は2分間(1Hzの速度)絵筆による触刺激を隠された本物の左手とRHに同時に与える同期条件,交互に刺激を与える非同期条件,RHのみに刺激を与える視覚条件の3条件(各7名)に振り分けた。手容積の測定は,RHI前後で手容積計を用いて行った。客観的な錯覚の評価として,Skin Conductance Response(SCR)と脳波を測定した。SCRはProcomp2(ソートテクノロジー社)を用い,右第2,3指に貼付した電極間の電位差を測定し,RHI後にRHへ針刺激を与える場面を見せ,その直後から5秒間のSCRの最大振幅とした。SCRの振幅が大きい程RHへの錯覚が強く,身体所有感が低下していることを表している(Armel 2003)。脳波は高機能デジタル脳波計Active two system(Bio semi社)を用い,拡張10-20法に準じた電極配置による64電極にて安静座位,RHI時の60秒間を測定した。解析対象chはC3,C4とし,RHI時のα帯の平均パワー値を安静時のα帯の平均パワー値で除し,そのLog値をα帯の変化量とした。なお,Log比が負の値である程身体所有感の低下を表している(Evans 2013)。また,自律神経活動の変化の指標としてRHI前後で皮膚温,情動喚起の指標としてRHI後に不快情動の測定も行った。皮膚温はProcomp2(ソートテクノロジー社)を用いて,左第2指掌側で30秒間5set計測し,その平均値とした。不快情動はNumeral Rating Scaleを用いて測定した。統計解析は,各パラメータの条件比較を一元配置分散分析(多重比較検定法Bonferroni法)を用いて行った。また,手容積変化率との関連要因を検討するために,全被験者の各項目間の相関分析をPerson積率相関係数にて求めた。その後手容積変化率を目的変数に,C4Log比,SCR,皮膚温変化量,不快情動を説明変数として重回帰分析(変数増減法)を行った。有意水準は5%未満とした。【結果】手容積は条件内比較で有意差を認めなかった。手容積の変化率(%)は同期条件で0.31±1.41,非同期条件で-0.42±1.66,視覚条件で0.6±0.6であり,条件間においても有意差を認めなかった。SCR,C3Log比,C4Log比は条件間で有意な差を認めなかったが,同期条件のSCRで最も高値を示した。相関分析において,手容積変化率は皮膚温変化量(r=.44,p<.05),不快情動(r=.55,p<.01),C4Log比(r=.5,p<.05)と正の相関を認めた。また,皮膚温変化量はC4Log比と正の相関(r=-.44,p<.05),SCRと負の相関(r=-.53,p<.05)を認め,C4Log比は不快情動と正の相関(ρ=.61,p<.01),SCRと負の相関(r=-.46,p<.05)を認めた。重回帰分析の結果では,不快情動(標準偏回帰係数:0.47,p<.05)が抽出された。【考察】SCR,脳波で条件間の差を認めなかった。Honma(2009)らは本研究の視覚条件と同様の条件にて身体所有感の錯覚が生じることを報告しており,本研究では同期条件以外の被験者でも錯覚が生じていたことが考えられる。これらは手容積変化率で条件間の差を認めなかった要因として考えられる。しかし,相関分析でC4Log比と手容積の間に関連を認めていることから,本結果はRHIの実施方法の差異ではなく,身体所有感の低下が手容積の減少に関連することを示している。また,C4Log比と不快情動に相関を認め,重回帰分析で不快情動が抽出されたことは,身体の錯覚に関連した不快情動の喚起は手容積の増大に影響することを示唆している。【理学療法学研究としての意義】本研究結果は,浮腫の発生要因として末梢の影響以外にも,自己の手に対する知覚的側面や情動的側面が影響することを示唆しており,浮腫に対する理学療法介入の一助になると考える。
著者
森田 亜紀 早川 文代 香西 みどり
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.107, 2020-07-01 (Released:2020-08-09)
参考文献数
26
被引用文献数
1

パンの品質は主に外観,香り,食感,風味から総合的に判断されるが,中でも香りは消費者のパンの嗜好性を左右する重要な品質要因とされている.パンの香りの評価方法として官能評価や香気成分分析などがあるが,パンの香りのイメージを専門家以外で共有することは難しい.本研究では,パンの香りの官能特性を明らかにし,色彩評価による結果と合わせて考察した. パンに含まれる7成分を添加した香りの異なるワンローフ成形の食パンを調製した.パンの香りの強さや質の違いは,10語の評価用語による9段階評定尺度法を用いた評価により表現できた.またPCCS表色系の新配色カード199を用いてパンの香りのイメージに合致する色を選択させたところ,パンの香りは橙,乳に由来する香りは黄と相関があった.また,焼成で生じる香りは明度の高い方向で表現された. 本評価法を利用することにより,パンの香りは言葉で表現可能なだけでなく色彩により可視化できる可能性が示され,より消費者にもわかりやすくパンの香りを伝える手段として提案できた.
著者
森川 みき 金光 祥臣 塚本 宏樹 森川 昭正 富岡 佳久
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.200-205, 2016 (Released:2016-05-19)
参考文献数
8
被引用文献数
1

症例は,牛乳アレルギーおよび気管支喘息既往歴を有する6歳女児.インフルエンザB型に罹患し,ラニナミビルオクタン酸エステル水和物吸入粉末剤(イナビル®)を使用後にアナフィラキシーを起こした.プリックテスト並びに薬剤刺激好塩基球活性化試験を実施したところ,イナビル®と添加剤の乳糖水和物に陽性を示し,ラニナミビルオクタン酸エステル水和物は陰性を示した.本症例では,添加剤の乳糖に夾雑する乳タンパク質がアレルゲンとなった可能性が考えられ,その同定を試みた.ウェスタンブロット(WB)により,添加剤の乳糖水和物中からβ-ラクトグロブリン(β-LG)が検出され,その分子量およびin vitro実験の結果から糖鎖付加体であると推定した.さらに患者血清を用いたWBの結果から,本症例のアレルゲンが,糖鎖付加されたβ-LGである可能性が高いと判断した.本研究は,吸入粉末製剤の添加剤乳糖が乳アレルギーを起こす危険性を示す結果となった.本症例のようなインフルエンザ患者は,気道過敏性が亢進しているため特に注意が必要である.
著者
岡部 知太 平野 一 前之園 良一 中森 啓太 藤原 裕也 南 幸一郎 上原 博史 能見 勇人 稲元 輝生 東 治人
出版者
一般社団法人 日本移植学会
雑誌
移植 (ISSN:05787947)
巻号頁・発行日
vol.57, no.Supplement, pp.s356_2, 2022 (Released:2023-02-23)

2020年より現在に至るまで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威をふるう中、コロナワクチン(以下ワクチン)の有効性が報告されている。一般人と比べて移植患者のワクチンに対する抗体反応は低いが、腎移植患者が一般人より発症リスクが高いとは断定できない。今回当院通院中の腎移植患者に対するワクチン接種によるCOVID-19発症予防の有効性に関して、文献的考察を踏まえて報告する。追跡できる範囲で2015年より現在までの当院腎移植患者に対して、ワクチン接種のアンケートを行い、回答のあった66名に対して解析を行なった。3名を除く全員が2回以上ワクチン接種を行っている。解析患者の内、5名がCOVID-19を発症した。重症1名、中等度1例、軽症3例である。重症例は、非ワクチン接種者であり、罹患後人工呼吸器下での呼吸管理を行ったが、死亡に至った。その他4名は、後遺症なく軽快した。本邦では、報告時点で約890万人の陽性報告があり、国民の約7%が罹患したことになる。当院におけるワクチン接種群において、COVID-19発症率は6.3%であり、腎移植患者が発症しやすいとは断定できない結果であった。また非ワクチン接種群3人のうち1名がCOVID-19を発症し、重症化したことを考えると、ある一定の重症化予防効果は示唆される。免疫応答が弱いことが報告されている腎移植患者にとって、ワクチンを複数回接種することは、COVID-19発症率、重症化を低減できると考える。
著者
末廣 吉男 森谷 裕司 山口 京子 夏目 恵美子 井上 保介 武山 直志 中川 隆 野口 宏
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.375-379, 2010-06-30 (Released:2023-03-31)
参考文献数
8

近年,臨床検査関連団体や学会が認定する専門臨床検査技師制度の普及により,専門分野に特化した臨床検査技師が増加している。しかし,救急医療に関連した専門臨床検査技師制度の整備は遅れている。当院では,緊急検査担当の臨床検査技師が救急蘇生外傷治療室にて検査関連業務を実施することで,医師による検査依頼から結果確認までの時間(TTAT:Therapeutic turn around time)を従来と比べ約22分間短縮した。救急蘇生外傷治療室における初療時検査は,病態把握や治療方針決定のために実施されるものであり,医師が最も必要としている検査結果を推測し,的確な検査項目について結果報告することが重要である。これらを実践するため,救急医療に携わる臨床検査技師にはさまざまな疾患に対応するための幅広い臨床検査知識や技術のほかに,救急医療の基礎知識および技術の習得が必須であると考える。救急医療における臨床検査技師の専門性とは,積極的に救急医療の現場へ介入して検査関連業務を実施し,検査依頼から結果確認までの時間を短縮するとともに,医師や看護師が本来業務に特化できるように業務支援することであると考える。
著者
森 孝夫 渡辺 泰三 土佐 哲也 千畑 一郎 岩野 君夫 布川 弥太郎
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本釀造協會雜誌 (ISSN:0369416X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.111-114, 1981-02-15 (Released:2011-11-04)
参考文献数
9
被引用文献数
3 4

タンニンをリガンドとする吸着体, すなわち, 固定化タンニンについてその重金属イオンに対する吸着特性および醸造用水の除鉄を検討し, 次のことを明らかにした。固定化タンニンは鉄イオン, 銅イオン, 鉛イオンなどをよく吸着した。鉄イオンについては, 第一鉄イオン, 第二鉄イオン, キレートした鉄イオン, 有機酸存在下の鉄イオンはよく吸着したが, フェリクリシンは余り吸着しなかった。固定化タンニンの鉄イオン吸着容量は用いた鉄イオンの種類, 濃度, pHによって変化した。固定化タンニンに吸着した鉄イオンは0.5N塩酸によって溶出され, 再生された固定化タンニンは安定に反復使用できた。鉄イオンを10~40ppb含む某酒造場の用水の場合, 固定化タンニン・カラムの容積の8,500倍量の用水を流しても流出液中の鉄イオンは10ppb以下にとどまった。
著者
田中 隆 森川 英雄 安広 矩明 木下 裕宣 虎渓 邦孝 佐藤 博信 市橋 正嘉 河口 忠彦 坂部 孝
出版者
The Japan Broncho-esophagological Society
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.215-219, 1979-06-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
5

In 66 cases with esophageal achalasia who were treated in the authors' clinic during the last 20 years from 1958 to 1978, 22 cases had a history of respiratory complaints. Five cases out of the 22 had been treated for chronic bronchitis or bronchitis, the pertinent symptoms of which had apparently occurred from aspiration of ingested food into the bronchus. Cardioplasty was performed on these 5 cases mainly using the modified Girard's technique with successful results. In this report, the clinical courses of the 5 cases were presented with special reference to chest X-ray findings, preoperative care and anesthetic techniques.
著者
森田 剛成 原 敬和 見世 大作 軸丸 祥大
出版者
The Kansai Plant Protection Society
雑誌
関西病虫害研究会報 (ISSN:03871002)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.29-34, 2012 (Released:2012-09-01)
参考文献数
14
被引用文献数
12 7

広島県尾道市浦崎地区のイチジク圃場(14圃場)において,キクイムシが関与した本病の拡大と土壌の病原菌汚染の推移を調査した。2006年の初発以降,地域内におけるキクイムシの加害圃場率および本病による枯死樹発生圃場率が徐々に増加し,2010年には64.2%および21.4%にそれぞれ達した。圃場内の加害樹率および枯死樹率はキクイムシの加害初発から増加し,3年から4年後には,最大で87.8%および45.2%にそれぞれ達していた。キクイムシに加害された全ての樹では加害履歴に関係なく,木部から病原菌が検出された。また,キクイムシに加害されたイチジク樹の株元周辺土壌では,病原菌が検出される確率が高かった。一方,キクイムシが加害していない樹の木部や株元周辺土壌からは病原菌が検出されなかった。別の室内実験により,広島県のキクイムシ個体群は病原菌を保持しており,キクイムシの孔道由来のフラスから病原菌が検出されることが示された。これらの結果から,キクイムシが介在する場合,本病が激害化することが本研究で示された。今後は,各イチジク産地において本病の侵入経路をキクイムシに注目して確認するとともに,キクイムシの駆除を目的とした防除技術の開発が必要である。
著者
森 大地 板木 雅俊 岩佐 恭平 大濱 慎一郎 北川 知佳 田中 貴子 池内 智之 河野 哲也 津田 徹 神津 玲
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.305-310, 2023-08-31 (Released:2023-08-31)
参考文献数
19

【目的】慢性呼吸器疾患患者の要介護度は過小評価される傾向にあり,患者の不満が多いと報告されている.今回,認定結果に対する不満の有無とその関連因子について検討した.【方法】通所リハビリテーションを利用する慢性呼吸器疾患患者を対象とした.認定結果への不満の有無で2群に分け,比較検討を行った.患者特性,身体機能,ADL(BI,NRADL),呼吸困難,呼吸機能,心理状態を調査・解析し,不満の有無を従属変数としたロジスティック回帰分析を行った.【結果】解析対象は31例で,不満なし群(21例),不満あり群(10例)であった.ロジスティック回帰分析の結果,NRADL(オッズ比0.914,95%CI 0.852-0.980)が不満の有無と有意な関連を認めた.【結論】認定結果への不満にはNRADLが関連しており,NRADLの点数を考慮することで,要介護度の過小評価を是正できる可能性が示唆された.
著者
森 恵里子 井上 歩 園山 和代 宮川 大樹 後藤 希 山田 雅 國嶋 憲
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.497-504, 2023-08-31 (Released:2023-08-31)
参考文献数
5

京都市立病院では,2020年9月より臨床検査技師が救急室で業務を行っている。その主な業務は,検査業務,診療補助業務,その他業務があげられる。配置導入時には人員確保の問題などがあったが,短時間の滞在から開始し,現場の意見を取り入れながら徐々に業務や配置時間を拡大することができた。配置から約1年後に実施した医師・看護師対象のアンケートでは,臨床検査技師の救急室配置は必要だとする回答が90%以上を占めた。また臨床検査技師による救急室での静脈路確保についても必要だとする回答が85%以上を占めた。アンケートで肯定的な意見が多数であった要因としては,救急室で他職種と協働するなかで,臨床検査技師の有用性が認知されてきた点が大きい。今後も臨床検査技師として,検査に関する専門性を活かしながら,従来の枠にとらわれない幅広い業務を行い,多方面で患者に貢献できる存在を目指していきたい。
著者
阿部 志保 森 貴久
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.50-60, 2016-04-05 (Released:2019-04-25)
参考文献数
26

コナラシギゾウムシCurculio dentipesやクヌギシギゾウムシCurculio robustusなどのシギゾウムシ類はブナ科堅果の内部に産卵し,幼虫は産み付けられた堅果のみを資源として利用し成長する.成虫の体サイズは幼虫期の成長量によって決まるので,メスは産卵の際に資源を評価していることが期待される.また,1個の堅果を複数のシギゾウムシ類幼虫が利用したり,他種の幼虫も利用することがある.このとき堅果内の資源は限られているため,堅果内に複数個体が存在した場合,競争が生じることになる.したがって,雌は産卵の際に産卵個数や他種の昆虫の存在などに応じて堅果を選択し,競争を低減させている可能性がある.本研究ではクヌギ堅果を用い,シギゾウムシ類の雌が産卵する時に選択する堅果の大きさと脱出幼虫の数と大きさの関係について,同種他個体や他種個体の存在との関連について明らかにし,シギゾウムシ類雌の堅果選択と産卵戦略について考察した.2012年11月と2013年11月に野外でクヌギ堅果を無作為に収集した.堅果は直径と長さを計測した後,個別に仕切られたケースの中に入れ,研究室にて保管した.堅果から脱出してきたシギゾウムシ類幼虫は,個体数と重量を記録した.また,2013年に収集した堅果については脱出してきた他種の昆虫の記録も行った.結果は,シギゾウムシ類が産卵した堅果はしなかった堅果に比べて大きく,球体に近い形状をしていた.また,大きな堅果にはより多く産卵をしており,堅果の大きさと幼虫の重量には弱い相関があった.シギゾウムシ類幼虫が複数個体脱出した場合,幼虫の平均重量は1個体のみの場合と比べて小さいが,脱出個体が多くなっても1個体あたりの平均重量は減少しなかった.また,4個体以上が脱出してきたときの幼虫重量の変動係数は2–3個体のときよりも大きくなった.他の昆虫の存在はシギゾウムシ類の幼虫の数や重量に影響しなかった.これらの結果は,シギゾウムシ類の雌は産卵の際に堅果の大きさを評価することで,利用個体数が他種昆虫を含めて複数いても,幼虫1個体あたりの重量が大きく減少したりばらついたりすることがないように産卵できていることを示している.ただしこの調整は,1個の堅果の利用個体が4匹以上になると不十分になり,利用する昆虫の間に重量のばらつきが大きくなる.以上から,シギゾウムシ類の雌の産卵戦略として,堅果の大きさを評価して産卵することで幼虫間の資源競争を低減して幼虫の大きさと個体数をコントロールし,適応度の増加を図っている可能性が示唆された.
著者
堀内 昭作 湯田 英二 中川 昌一 森本 純平 我藤 雄
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.225-235, 1990 (Released:2007-07-05)
参考文献数
10
被引用文献数
3 2

‘ハヤシ系ウンシュウ’に‘セキトウユ’, ‘バレンシアオレンジ’, ‘ダンカン’グレープフルーツ, ポンカン, ‘セミノール’の5種•品種を交配し, 得られた種子の形状の差異により, 発芽可能な受精胚を含む種子を識別する方法を確立した.受精胚を含む種子の形状の特徴は, 扁平で凸凹が少なく, 比較的大きく充実していた. 胚の特徴は1種子内に1~数個存在しており, 種皮の縫線と2枚の子葉の合一する線とが一致し, 珠心胚の子葉とは異なる色を呈するものが多い, などである.どの五つの交配組み合わせにおいても, この特徴を持つ種子が存在した. また, 胚数には花粉親の影響が認められ, とくに, ‘セキトウユ’にその影響が強かった.これらの種子より生じた実生の葉の形状を珠心胚実生の葉と比較検討したところ, 明らかな差異が認められ, 交雑実生であることが確認できた.‘バレンシア’オレンジを母本に同様に5種•品種を交配した場合には, この特徴を持つ種子は出現しなかった.さらに, 32種•品種の自然受粉した種子について, 同様の特徴のある単胚種子の出現を調査したところ, 種•品種により大きな差異が認められたので, これらの品種をA型(単胚率10%以上), B型(単胚率0~10%), C型(単胚率0%)の3型に分類した.AおよびB型の種•品種は, 本研究で開発した種子の形状による受精胚を含む種子の選抜法を利用すれば母本として育種親に用いることが可能である.ウンシュウミカンを母本に用いた本実験では, この方法を用いることにより, 5交配組み合わせの種子662個から119個の交雑実生を得ることができた.
著者
中山 亜紀 篠本 祐介 佐々木 克典 米田 稔 森澤 眞輔
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.181, 2010 (Released:2010-12-01)

化学物質のリスク評価方法は現在大きな転換を求められている。 放射線のリスク評価が広島・長崎の原爆生存者調査という膨大なヒトのデータに基づいているのに対し、化学物質のリスク評価の多くは動物実験に頼ってきた。しかし、コスト・時間・動物倫理の面から、in vitro毒性試験に基づいたリスク評価の開発が望まれている。 そこで我々は、「放射線等価係数」という概念によるリスク評価方法を提案したい。 この方法ではin vitro毒性評価試験系により対象物質の毒性を等価な放射線量に換算した放射線等価係数を決定し、さらに対象物質のターゲット臓器における曝露量と放射線の発がん確率からその臓器における発がんリスクを推定するものである。 DDT及びX線について行ったin vitroトランスフォーメーションアッセイから肝臓がんリスクを評価したところ、Slope Factor(1mg/ kg 体重/日の用量で生涯にわたり経口曝露した時の発がんリスク)として0.143~0.152が得られ,US.EPAの呈示するSlope Factorと比較して良好な値であり、「放射線等価係数」によるリスク評価方法が妥当である可能性を確認した。
著者
新熊 悟 小林 信彦 前田 真紀 森戸 啓統 北村 華奈 浅田 秀夫 宮川 幸子
出版者
日本皮膚科学会大阪地方会・日本皮膚科学会京滋地方会
雑誌
皮膚の科学 (ISSN:13471813)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.169-174, 2007 (Released:2010-12-06)
参考文献数
20

57歳,女性。解離性障害による昏迷状態のため経口摂取が不可能となり,当院精神科に入院中,顔面にびまん性の紅斑・浮腫が出現した。その後,口囲に鱗屑が付着するようになり,びらん・膜様鱗屑を伴う紅斑が急速に全身に拡大した。Nikolsky 現象陽性。迅速凍結切片により表皮浅層での裂隙形成を確認し,staphylococcal scalded skin syndrome(SSSS)と診断した。起炎菌はMRSAであった。アルベカシンの点滴静注により皮疹は速やかに治癒した。成人SSSSの鑑別診断として最も重要な疾患は中毒性表皮壊死剥離症型薬疹であり,両疾患を病理組織学的に鑑別する迅速診断法に習熟する必要がある。
著者
楠田 哲士 森角 興起 小泉 純一 内田 多衣子 園田 豊 甲斐 藏 村田 浩一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.109-115, 2002 (Released:2018-05-04)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

飼育下ブラジルバク(Tapirus terrestris)雌2頭から週1回の採血を行い,エンザイムイムノアッセイ(EIA)法により血漿中プロジェステロン(P4)濃度を測定した。P4濃度の周期性から発情周期は約4週間であることが推察された。また,国内の動物園におけるこれまでのブラジルバク出産例を調査した結果,出産は年間を通して見られたが,3月から6月にかけてピークが存在した。P4動態からは明確な繁殖季節は存在せず,周年繁殖が可能であると考えられたが,年間の出産数に偏りが見られることを考え合わせると,気候的要因によって繁殖が影響を受けていることが示唆された。