著者
横畠 和宏 森国 麻里 小林 誠治 西森 大地 安井 正顕
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1212, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに】劇症型心筋炎は急性心筋炎の中でも重篤な臨床経過をたどるが,回復すれば遠隔期予後は比較的良好とされている。基本的治療は炎症極期における循環動態の破綻を的確に補助し,自然治癒を待つとされており,長期間不動状態となるが,その後の心臓リハビリテーション(以下,心リハ)経過の報告は少ない。今回,劇症型心筋炎症例に対して炎症極期離脱後より介入し,退院後も継続して心リハを行った症例を経験したので報告する。【方法】症例は51歳男性,感冒症状持続にて当院紹介入院。入院後急激に心機能低下,Vfを認めICU入室し,IABP,PCPS導入,大量γグロブリン療法,カテコラミン治療開始となる。2病日にLVEF10%,CCI0.7L/min/m2となった。7病日より左室壁運動は徐々に改善を認め,8病日PCPS離脱,10病日IABP抜去,14病日人工呼吸器離脱,15病日より心リハ開始となった。バイタル,自覚症状をモニタリングしつつ離床を開始した。介入当初より四肢骨格筋の筋力低下を認め,離床に併行して筋力トレーニングを実施した。18病日より歩行開始,23病日に500m連続歩行可能となり病棟ADLは自立,24病日よりエルゴメーターによる有酸素運動を開始した。28病日にCPXを施行し32病日に自宅退院となった。運動耐容能低下や労作時の易疲労は持続しており,退院後2ヶ月間週1回ペースで心リハを行い,運動,生活指導を継続,CPXにて運動耐容能の再評価を行った。【結果】心リハ介入前LVEF20%,CRP1.36mg/dlと左室収縮能,炎症反応は炎症極期に比べ改善傾向であり,退院前LVEF55%,退院2ヶ月後LVEF62%と左室収縮能は正常化した。心リハ介入前後でBNP1102.7→19.6pg/dlと改善を認めた。CPXは退院前AT8.6ml/min/kg,VE/VCO2 slope38.7,退院1ヶ月半後AT11.6ml/min/kg,VE/VCO2 slope28.7と改善傾向を認めたが,end pointは下肢疲労感であった。【考察】本症例は劇症型心筋炎による左室収縮能の低下における末梢循環不全に加えて,炎症極期における鎮静・筋弛緩剤の使用,長期不動によるdisuse atrophyを認めており,筋力や運動耐容能の低下を来たしていた。ICU生存退室者において筋力が著明に低下していることが報告されており,本症例においても同様の筋力低下が問題点に上げられた。本症例の心リハを進める上で,左室収縮能や炎症反応などの疾患特有のリスク管理のもとの離床プログラムに加えて,早期から継続的な筋力トレーニングの実施が,機能障害やQOLの低下予防に有用であったと考えられる。炎症極期離脱し,左室収縮能は退院時には改善を認めたが,筋力低下や運動耐容能の改善には時間を要し,退院後の心リハ継続の重要性を示唆する症例であった。
著者
井口 壽乃 森脇 裕之
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.3_81-3_88, 2022-01-31 (Released:2022-02-05)
参考文献数
28

本研究の目的は,名古屋市で 1989 年から 1997 年に全5回開催された国際ビエンナーレ「アーテック」(ARTEC)の歴史的意義を明らかにすることにある。アーテックが開催されたおよそ 10 年間は、インターネット社会の到来以前の高度情報社会を背景としたアートとデザインの転換期にあたる。この展覧会の意義は,いわゆる現代芸術の一つのジャンルとしての「メディアアート」の形成にとどまらず,1980 年代から国が主導する地域産業の高度化に寄与する特定事業構想に基づいて名古屋市が推進する「デザイン都市名古屋」の文化政策に貢献したことが指摘できる。 本稿では,第1にアーテックと同時に開催された世界デザイン博覧会および世界デザイン会議 ICSID と名古屋市の地域的課題の関連を考察する。第2に,アーテック企画者の森茂樹と山口勝弘に注目し,ハイテクノロジー・アート国際展からアーテック開催までの過程における彼らの役割を明らかにする。第3に,名古屋市の都市政策,および通産省の政策とハイテクノロジー・アートの関係を考察する。最後に,アーテックは国と地域経済,都市のイメージづくりと文化創造,そして芸術の国際化が複雑に関連した文化事業であったと結論づけた。
著者
宮脇 裕 村井 昭彦 大谷 武史 森岡 周
出版者
一般社団法人 日本基礎理学療法学会
雑誌
基礎理学療法学 (ISSN:24366382)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.50-55, 2022 (Released:2022-10-17)
参考文献数
25

運動主体感(Sense of agency)とは,自分が自分の運動を制御しているという感覚を指す。この感覚は,運動の感覚フィードバックに対しフィードバック制御を駆動する役割をもち,感覚入力と運動出力を紐付けるMediator の役割を担っていると考えられている。運動主体感の誘起には,運動に伴う内的予測などを含む感覚運動手がかりと,運動に直接関連しない知識や信念などの認知的手がかりが関与する。手がかり統合理論によると,状況に応じたこれら手がかりの信頼性に基づき,運動主体感への貢献度を決める重み付けが変化する。この理論に基づき,我々は運動制御時に感覚運動手がかりと認知的手がかりがどのように利用され運動主体感が導かれるのか,その重み付け変化(i.e., 手がかり統合戦略)の実態について検証を進めてきた。これらの研究成果を中心に,本稿では,運動主体感について運動制御との関係性を概観し,手がかり統合理論の観点からそのメカニズムを議論する。
著者
梅田 剛利 太田 剛 浅岡 壮平 森 康浩 嶋谷 頼毅 手島 信貴 宮川 創 馬場 武志
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.88, no.1, pp.19-24, 2017-02-25 (Released:2017-04-06)
参考文献数
19
被引用文献数
1

ブナシメジ廃菌床(以下,廃菌床)が泌乳牛用発酵混合飼料(発酵TMR)の原料として利用可能であるかを検討するため,ホルスタイン種泌乳牛4頭に廃菌床を乾物あたり8%含む発酵TMR(廃菌床区)あるいは含まない発酵TMR(対照区)を給与した1期14日間の試験を行い,2期目には処理を反転した.発酵TMRは発酵品質を調査し,TMRの粗濃比,水分含量,有機物含量,粗タンパク質含量およびNDFom含量は両区でそろえた.廃菌床を添加した発酵TMRの発酵品質は良好であり,廃菌床区の乳成分は乳タンパク質率が対照区と比べて低かった(P<0.01)ものの,乳タンパク質生産量は有意差が認められず,乳脂肪率と乳糖率は対照区と比べて有意差が認められなかった.廃菌床区の乾物摂取量および乳量は対照区と比べて有意差が認められなかった.これらのことから,ブナシメジ廃菌床は発酵TMRの原料としての利用可能性が示された.
著者
森口 恒一 笠原 政治 山田 幸宏
出版者
静岡大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

研究期間の前半の1996、97年度は、現地調査を中心に行い、1998年度は3年間のとりまとめの年のために基本的には調査報告書作成にあてた。この期間中に、森口は、フィリピン共和国のカガヤン州バブヤン島のバブヤン語、バタネス州バタン島のイヴァタン語、イトバヤット島のイトバヤット語、サブタン島のイヴァタン語イサモロン方言、台湾の南投縣仁愛郷のブヌン語の言語学的現地調査を、山田は、バタネス州イトバヤット島のイトバヤット語の現地調査を、笠原は、台湾の嘉義縣のツォウ族、屏東縣のルカイ族、台東縣のプュマ族の人類学的調査を行った。森口は、基本的には民話、伝説、お伽話のテキストを録音、記述し、翻訳、文法的分析を行った。また、山田は、ことわざ、迷信、言い伝え、格言等の記述、翻訳及び分析を行った。笠原は、ルカイ族の系譜をもとにこの部族の中での支配者階級(貴族)への身分の変化を分析した。一方、ツォウ族では、外部のブヌン族のツォウ族への同化の現象を発見し分析を行った。論文としては、'96,'97年の調査で森口が発見したバタネス州サブタン島の漁師ことばと台湾のヤミ族のことばとの関係を「「ヤミ族とは何処の部族なる乎」-フィリピン側の資料に基づいたヤミ族」(『台湾原住民研究』第3号pp.79-108)にまとめ、笠原は、ルカイ族の聞き書き資料と台湾領有の時代の古い資料の対照を行い「伊能嘉矩の時代-台湾原住民初期研究史への測鉛」(『台湾原住民研究』第3号pp.54-78)にまとめた。森口、山田、笠原3名は、1996、97、98年度の海外調査の報告書としてNarratives,Beliefs and Genealogies.(Shizuoka University)を出版した。その内容としては、3年間の調査をもとに森口は、イバタン語の伝説・民話集を、山田は、イトバヤット語の迷信・タブーを、笠原は、ルカイ族の系譜に関する論文、資料集を作成した。
著者
長井 麻希江 森河 裕子
出版者
日本産業看護学会
雑誌
日本産業看護学会誌 (ISSN:21886377)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.24-30, 2019-10-02 (Released:2019-11-21)
参考文献数
18

【目的】本研究の目的は,集団認知行動療法を基盤としたストレスマネジメント行動促進プログラムを立案し,IT 企業の新入社員を対象に介入,評価することである.【方法】ストレスに関する講義とグループ討議により各自のストレス状況改善アクションプランを立案し,その後日記をつけるというプログラムを立案した.新入社員56 名を対象に実施し,介入前後の職業性ストレス,ストレス反応,コーピングを調査した.【結果】全プログラム参加者は22 名(39.3%,男性18 名,女性4 名)だった.①全対象者の介入前後における各指標の有意な変化はなかった.②アクションプランに取り組んでいた群とアクションプランに関する記載がなかった群に分けて比較したところ,取り組んでいた群の感情表出コーピングが有意に高まっていた.【結論】講義,グループ討議,セルフモニタリングというストレスマネジメントプログラムは,感情表出の行動変容が起こる可能性がある.
著者
村上 元 森元 隆文 西山 薫 池田 望
出版者
札幌医科大学保健医療学部
雑誌
札幌保健科学雑誌 = Sapporo Medical University Sapporo Journal of Health Sciences
巻号頁・発行日
no.7, pp.25-30, 2018-03

妄想的観念はその主題に基づいて分けることができる.負の感情価の主題を持つ観念は被害妄想的観念となり,正の感情価の主題を持つ観念は誇大妄想的観念となる.妄想的観念は主題の相違によりその発生メカニズムが異なると想定されている.そこで,本研究では,被害妄想的観念は「疎外」「被害」の主題を持つ観念で,誇大妄想的観念は「被好意」「庇護」「他者操作」「自己肯定」の主題を持つ観念で構成されると想定し,各6つの主題に対する感情と原因帰属の影響を検討した.対象は統合失調症患者48名であり,全ての対象に妄想的観念チェックリスト,原因帰属尺度,気分調査票短縮版による測定を実施した.その結果,正あるいは負の感情価の主題を持つ妄想的観念ごとに抑うつや怒りなど共通する影響要因が存在した一方で,各6つの主題ごとに異なる影響要因も存在した.以上のことから,妄想的観念の主題に応じた介入を展開することが望ましいと言える.
著者
前田 豊樹 三森 功士 牧野 直樹 堀内 孝彦
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
pp.2318, (Released:2018-10-26)
参考文献数
22

これまで温泉治療が様々な疾患に療養効果があることは示されてきたが,一般的にどのような疾病に予防効果があるのかは示されていない.また,温泉入浴の禁忌症は示されているものの,某かの疾病の発症を促進する可能性についても知られていない.このような状況を踏まえて,筆者らは,平成24年度から3カ年間,65歳以上の高齢別府市民2万人を対象に,温泉の利用歴と各種疾患の既往歴に関するアンケート調査を実施し,その解析結果を先頃論文報告した.結果は,性別によって分かれており,温泉入浴が,男性においては,心血管疾患の予防に寄与し,女性では,高血圧に予防的に働くが,膠原病などの発症には促進的に働く可能性などが示唆された.このように,温泉は必ずしもすべての疾患の予防に働くわけではなく,一部促進する場合もあり得ることが伺えた.この疫学調査から伺える予防的効果には,温泉の効能としては期待されてこなかったものやこれまで示されてきた効能に反するものが含まれている.本編では,様々な疾患に対する温泉の予防効果と治療効果のずれという観点から,アンケートによる疫学調査をレビューする形で紹介したい.

1 0 0 0 OA 青森県の物産

著者
青森県 編
出版者
青森県
巻号頁・発行日
1917
著者
辻川 敬裕 木村 有佐 森本 寛基 佐分利 純代 光田 順一 吉村 佳奈子 森 大地 大村 学 椋代 茂之 杉山 庸一郎 平野 滋
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.117-120, 2022 (Released:2022-10-31)
参考文献数
14
被引用文献数
2

生命・機能予後の改善をめざし,口腔癌を含む局所進行頭頸部癌に対する導入化学療法・免疫療法を検証する臨床試験が国内外で複数進行している。1切片から14マーカーを可視化・定量化可能な多重免疫染色により,頭頸部癌においてリンパ球系優位,低免疫細胞,骨髄系優位の3種類の免疫特性の存在が示され,これらの免疫特性が免疫療法のみでなく,導入化学療法の効果と関連することが示唆された。免疫特性をふくむ組織バイオマーカーに基づいて適切な症例選択が可能になれば,口腔癌における将来的な導入化学・免疫療法や術式を含む治療方針の最適化が期待される。
著者
田村 良一 森田 昌嗣
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.13-22, 2006-11-30 (Released:2017-07-11)
参考文献数
15
被引用文献数
4

本論文は,熊本県阿蘇郡小国町の地域ブランドを構築していくための端緒として,小国町と他の九州圏内11地域を対象として,地域イメージの構造などについて検討したものである。観光地の選定において「全体的なイメージが良い」ことが重視されていることがわかった。住民,一般者,来訪者を対象とした小国町の地域イメージと,一般者のみを対象とした12地域の地域イメージに関するアンケート調査の結果を因子分析した。その結果,地域イメージは文化度,親近度,閑静度の3因子で捉えられることがわかった。また前者の分析から,住民に比較して一般者,さらには来訪者の小国町に対する評価が高いことがわかった。後者の分析から,一般者を性別・観光年齢層別の4グループに分類して比較すると,小国町は評価のバラッキが大きく,因子空間上の付置の様子からも大きな特徴がないことがわかった。小国町から想起されるものやイメージとして,「杉」「温泉」「ジャージー牛乳」などが高頻度であげられたことから,これらをタッチポイントとして有効に活用することで,地域イメージの構築に結びつくと考えられた。
著者
陳 奕均 城山 英明 杉山 昌広 青木 一益 木村 宰 森 晶寿 太田 響子 松浦 正浩 松尾 真紀子
出版者
環境経済・政策学会
雑誌
環境経済・政策研究 (ISSN:18823742)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.1-11, 2022-09-30 (Released:2022-11-04)
参考文献数
49

本稿では,近年,海外で急速に発展してきた持続可能性移行(サステナビリティ・トランジション)という研究分野に着眼し,当該分野における主な理論的枠組みである戦略的ニッチ・マネジメント論(SNM),重層的視座(MLP),トランジション・マネジメント論(TM)とその研究動向をまとめた.関連した概念を明確にしたうえ,日本の研究機関による事例研究への応用例を紹介し,日本の文脈を踏まえた今後の研究課題を提示する.
著者
宮内 海峰 森 信人 志村 智也 建部 洋晶 宮下 卓也 今井 優樹 二宮 順一
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B2(海岸工学) (ISSN:18842399)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.I_949-I_954, 2022 (Released:2022-11-01)
参考文献数
8

本研究は,日本周辺海域において地域的な海面水位変化をもたらす現象の特定とその量的影響を行った.海洋における幅広い時空間スケールの現象を考慮するために,日本沿岸の潮位観測値,水平解像度100km格子で長期間計算された全球気候モデルMIROC6過去気候アンサンブル,および水平約10km格子の海洋再解析データFORA-WNP30の解析を行った.さらに水平20km格子で日本周辺海域の海洋流動シミュレーションを実施した.得られた結果から,太平洋で最も卓越する海面水位変動要因はENSOであり,その影響で黒潮流域では1年あたり約10cmの振幅が生じることが分かった.一方で日本沿岸地点は外洋の変動がそのまま反映されないため,振幅は黒潮流域よりも小さく,最大で約5cmであることがわかった.