著者
山内 宏太朗 渡辺 圭子 山本 和郎
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.209-218, 1994 (Released:2018-05-01)

近隣ストレス尺度構成のために,集合住宅に住む主婦(N=415)を対象に,質問紙法による社会学的調査を実施した。日常の地域生活(集住生活)で経験するトラブル・イベント全50項目(本分析では42項目),子どもの行為音,生活行為音,プライバシー・テリトリー,近所づきあい,及び,モラル・ルールの5カテゴリーから構成される「近隣ストレス尺度(暫定版)」を作成し,近隣ストレス度,地域生活行動,及び,住生活意識の各要因との間の関係について分析を行ない,以下の結果を得た。1.近隣ストレス-トラブル・イベント42項目の中で,音(騒音)に係わるイベントは一搬的に,発生率(イベントを経験する人の割合)が高く,同時に,反応率(そのイベントを経験する時に何らかの心理的困惑を経験感じた人の割合)が高かった。また,自分自身が発生させる(行為率)場合には周りに気がねをしやすい(気がね率)イベントでもあった。すなわち,音に係わるイベントは,集住生活では被害者にもなりやすく,また,仕方なく加害者になりやすいイベントであった。2.モラル・ルールは,発生(経験)率に対する反応率の割合が最も高く,全体として心理的困惑度が大きなイベントである一方,行為率は低かった。すなわち,実際のイベントの発生は少ないにもかかわらず,近隣の人びとがトラブル・イベントとして受け止めやすく,困惑度の高いイベントであった。3.近隣ストレス度(総得点)と5個のカテゴリー別ストレス得点を外的基準にし,生活行動と住生活意識に係わる諸要因を説明変数とした数量化理論Ⅰ類による分析を行なった。一般的に近隣ストレスの各項目に対して,居住年,対象者の年齢,居住階及びトラブルの対処法などの各要因の寄与が大きいことが見い出された。
著者
渡辺 祐基
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

チビタケナガシンクイは、わが国において、伐採後の乾燥竹材を食害する特に重要な昆虫種として知られている。本種は一生の大部分を竹材内部で過ごし、直接観察が困難であるため、総合的な防除策の確立に不可欠な生態や食害行動に関する知見がほとんどない。本年度は、X線CTおよびアコースティック・エミッション(AE)モニタリングを使用し、本種の生活史および食害行動の解明を試みた。デンプンおよび糖を含ませ、積層したろ紙を使用することで、容易に卵を採取することができた。孵化直後から羽化まで定期的にX線CT撮像を行うことで、幼虫の体サイズの変化や移動範囲、摂食量を定量的に明らかにした。幼虫の摂食活動を連続計測するために、幼虫の摂食活動に伴い発生する弾性波(AE波)の検出を利用したAEモニタリングを適用した。孵化直後の幼虫を個別に接種した材に対して、長期連続的にAEモニタリングを実施した結果、幼虫は各齢期においては連続的に摂食活動を行うこと、AE停止期は脱皮や蛹化に対応することが明らかとなり、幼虫の齢数を非破壊的に測定できるようになった。半数の幼虫は蛹化までに7齢を経過し、他の半数は8齢を経過したことが明らかになった。さらに、幼虫の摂食活動には一定の周期性が存在すること、AE振幅は齢期とともに増加することなどが明らかになった。X線CTおよびAEモニタリングを使用して、竹材内部における成虫の産卵行動の非破壊評価を試みた。AEモニタリングによって、産卵期間中の雌は昼夜を問わずほぼ連続的に穿孔活動を行うことが示唆された。X線CTによって、1個体の雌による合計産卵数および産卵に伴う食害の程度が定量化された。以上のように、本種のライフサイクルを通じた詳細な生活史および食害行動を非破壊的に明らかにすることに成功した。
著者
渡辺 信博 飯村 佳織 堀田 晴美
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.151-156, 2022 (Released:2022-04-23)
参考文献数
30

アルツハイマー病(AD)は,脳実質内(神経細胞周囲)にアミロイドβ(Aβ)が異常蓄積することが引き金となって生じると考えられている.近年ではまた,一過性脳虚血などの脳血管障害もADの危険因子のひとつに挙げられている.脳の神経細胞は虚血に脆弱であるが,血管拡張神経を刺激し脳虚血の程度を軽減させると,傷害されるニューロンの数が減少する.すなわち,虚血時の脳血管反応はADの病態に影響を及ぼすと推測される.Aβは脳実質内に加えて,脳表面を走行する軟膜動脈周囲にも蓄積することが知られている.本稿では,Aβ蓄積による脳血管機能への影響について,著者らの研究を含めながら紹介する.
著者
荒川 千恵子 三沢 浩 新井 啓一 三浦 史郎 渡辺 政利 新井 英明
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.203-214, 2000 (Released:2018-05-01)

本研究は公的集合住宅の建替時に,居住環境の連続性を確保するため,居住者から各人の「エピソード記憶」を聴き,建替計画に生かす手法の提案である。ふるさとに等しい住み慣れた団地に,彼らが喜んで戻れる計画手法がないからである。そこで4団地を対象に調査を行ない,「生活用語」を手掛かりにして記憶を引き出し,かつ自由記述で暮らしの状況をみた。加えて住まいの「空間用語」を使い,空間の良し悪しを聴いた。結果として,今までの計画では普遍性がないとして排除された個人の記憶を,建替時に活用し得ることが分かってきた。この手法は馴染みある団地の再建が期待でき,かつ居住者に計画への参加を広げる可能性も持っている。
著者
渡辺 大登 柗本 真佑 肥後 芳樹 楠本 真二 倉林 利行 切貫 弘之 丹野 治門
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, pp.1564-1573, 2022-10-15

自動プログラム生成(APG)の実現を目指し,生成と検証に基づく自動プログラム修正(APR)を転用した手法が提案されている.APRはバグを含むソースコードをすべてのテストケースに通過するように全自動で改変する技術である.APRを転用したAPGでは,初期状態のソースコードを未実装,つまり複数のバグが含まれていると仮定し,ソースコードの改変,評価,選択を繰り返してソースコードを目的の状態に近づけていく.一般的なAPRでは改変ソースコードの評価指標として,テストケース通過数がよく用いられる.この指標は単一バグの修正を目的とした場合には問題にならないが,複数バグの修正時にはコード評価の表現能力不足という問題につながる.よって,初期状態に複数バグの存在を仮定するAPGにおいては,解決すべき重要な課題である.そこで,本研究ではAPGの成功率改善を目的とした多目的遺伝的アルゴリズムの適用を提案する.また,多目的遺伝的アルゴリズムによる高い個体評価の表現能力を利用した,相補的なテスト結果の2個体を選択的に交叉する手法も提案する.評価実験として,プログラミングコンテストの問題80問を題材に提案手法の効果を確かめた結果,成功率の有意な向上を確認した.
著者
藤原 靖弘 村木 基子 木幡 幸恵 杉森 聖司 山上 博一 谷川 徹也 渡辺 憲治 渡辺 俊雄 富永 和作 荒川 哲男
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.3523-3528, 2011 (Released:2012-01-06)
参考文献数
14
被引用文献数
1

症例は31歳,女性,6年前より嚥下困難・食物のつまり感を自覚し,他院で内視鏡など検査するも異常を指摘されなかった.症状が徐々に増悪するため紹介受診.上部消化管内視鏡検査では食道胃接合部に一致して著明な狭窄を認めたが,明らかな腫瘍や粘膜不整を認めず,超音波内視鏡では主に粘膜層の肥厚を認めた.食道生検にて食道粘膜内に著明な好酸球浸潤とmicroabscess形成を認め,好酸球性食道炎と診断した.フルチカゾン嚥下療法により症状および内視鏡像・組織学的改善を認めた.好酸球性食道炎は本邦では稀な疾患であるが,典型的な症状と特徴的な内視鏡像より食道生検を施行することが早期診断に重要である.
著者
王 婷 渡辺 悌二
出版者
北海道地理学会
雑誌
地理学論集 (ISSN:18822118)
巻号頁・発行日
vol.95, no.2, pp.13-31, 2020-09-24 (Released:2020-10-05)
参考文献数
39
被引用文献数
1 1

山岳国立公園のおもなレクリエーション活動には登山と野営があり,登山者に提供される宿泊施設として野営場と山小屋が設置されていることが多い。野営場の適切な管理は,自然環境の保護・保全をすすめるために必要であると同時に,登山者に質の高い野営体験を提供するために重要である。本研究では,大雪山国立公園の高山帯に分布する,管理の行われていない野営場(正式呼称は「野営指定地」)に適切な管理を導入するために,野営場の予約制の管理制度が確立されている台湾の3 つの山岳国立公園を事例として,野営場の特徴を明らかにし,予約制管理の取り組みとその効果について調査を行った。 対象とした台湾の国立公園(国家公園)は,玉山,雪覇および太魯閣の3 つの国立公園で,まず,文献調査およびインターネット調査によって,これらの国立公園の野営場ならびに山小屋に関する情報を収集し,ArcGIS を使ってそれらの分布図を作成した。 次に,それぞれの国立公園の代表的な登山道沿いの宿泊施設(野営場および山小屋)の設置密度を計算した。その結果,登山道区間の長さ1 km あたりに設置された山小屋の数が少ないほど,野営場がたくさん設置されている特徴が見いだされた。また,玉山国立公園の登山道区間・八通関越嶺線では,登山道長1 km あたりの宿泊施設の設置密度が一番小さく(0.19 カ所/km),逆に山小屋の少ない太魯閣国立公園の登山道区間・奇萊東稜線で設置密度が一番大きかった(0.86 カ所/km)。台湾の山岳国立公園では,非公式野営場とオンライン予約の可能な野営場を組み合わせて配置することで,隣接する野営場の設置間隔を小さくし,個々の野営場面積を小さくすることに成功している。 さらに,これら3 つの国立公園で公園管理者に対して聞き取り調査を行った結果,それぞれの国立公園で異なる人数制限と予約制度が導入されていることが明らかになった。また,雪覇国立公園の宿泊施設利用者に対してアンケート調査を実施した。これらの調査の結果,予約制の管理制度の導入が野営場の混雑問題の軽減と野営体験の質の改善に役立っていることが明らかになった。しかし,無許可入園者の幕営による混雑がいくつかの野営場で問題となっているなど改善の余地が残されていることも明らかになった。 大雪山国立公園の高山帯には,土壌侵食と過剰利用が問題となっている野営指定地があり,こうした野営指定地では予約制度の導入が問題解決・軽減に有効であると考えられる。その際,太魯閣国立公園のように,今後,オンライン予約を必要とする野営指定地と予約のいらない野営指定地を組み合わせた緩やかな予約制度の導入が議論されるべきである。さらに,黒岳野営指定地のように利用者が多く土壌侵食の著しい野営指定地においては,テントパッドの設置のような能動的管理の導入が期待される。
著者
渡辺 亮 Ryo Watanabe
出版者
電気通信大学
巻号頁・発行日
2017-03-24

人間の皮膚感覚は,皮膚の機械的変形を伝える触覚(本論文では機械的変形を伝える感覚を狭義の触覚とする),温度感覚,痛覚等によって構成されている.このうち触覚については近年,バーチャルリアリティ(VR)等,さまざまな分野への応用もなされている.しかし温度提示の応用は,VRにおける皮膚感覚の一要素としての温度感覚の提示や,保温等による快適性の向上に限定され,いまだ発展途上の研究分野といえる.一方で温度提示は機械的な駆動部を必要とせず,また振動提示等と比べて低コスト,低エネルギーであるため,全身への情報提示に向いている可能性がある.これらのメリットを持ちながら応用が行われない理由として,これまでの温度提示が「温度そのものの知覚」に主眼をおいていたことが挙げられる.しかし,温度提示によってもたらされるものは温度そのものの知覚に限らない.温度感覚は温度の情報を伝達するのみならず,時としてほかの感覚を生起し,さらには人間の運動を誘発する.例えば痛み,痒みの感覚は必ずしも温度提示と不可分の感覚ではないが,伝達する神経は温度を伝達する神経と共通し,実際には温度感覚と不可分の関係にある.また近年の研究では,人間が物体を把持する力の調節に温度感覚が寄与することが示唆されている.このような温度感覚の運動および感覚に与える作用を考えれば,上述した振動等の触刺激提示に対する利点を活用することができるであろう.本論文は単純な温度情報の伝達にとどまらない,温度感覚がもたらす運動・感覚作用に注目し,特に医療福祉分野における応用を提案する.本論文ではこうした温度感覚が身体に与える作用を「純粋に感覚的なもの」,「身体運動に影響を与えるもの」の2つに分類した.温度感覚の身体作用については限定的にしか知られていないが,上記の分類それぞれについて「温度感覚による痛みの生起」と「温度感覚による運動調整」が挙げられる.「純粋に感覚的なもの」として挙げた温度感覚提示が痛みの感覚を生起する現象に着目すると,痒みの鎮静(鎮痒)への応用可能性がある.温度感覚はAδ線維とC線維によって伝達され,同じくAδ,C線維により伝達される痛み,痒みとも密接な関係をもつ.痒みは乾皮症や腎不全,糖尿病等様々な病気の症状として知られるが,なかでも日本国内に約35万人の患者を抱えるアトピー性皮膚炎は非常に重大な問題となっている.現在一般的な痒みの治療法は少なからず副作用の危険性を持つ.特に,アトピー性皮膚炎の治療薬として最も一般的なステロイド薬には多くの重篤な副作用が報告されている.この他の痒みを抑制する方法に,患部を掻きむしる,患部に痛みを与える等がある.いずれも鎮痒効果があることは検証されているが,皮膚を損傷し症状を悪化させる危険性が大きく,治療に用いることは難しいとされる.これに対して本論文では温度錯覚現象Thermal grill illusion(TGI)を用いた鎮痒を提案した.TGIは温冷2つの温度感覚提示によって痛みを生じる現象であり,皮膚を損壊せず痛みを提示することが可能であることから,副作用のない鎮痒手法になる可能性がある.ローラー型の温冷刺激部が皮膚上を回転することで時空間的に交互に温冷刺激を提示し,TGIを生起させるという手法を提案し,複数回の鎮痒デバイスの試作および鎮痒効果の実験を行い,一定の鎮痒効果を有するという結果を得た.またローラーを用いずにTGIを生じさせるために,温度感覚が触覚提示部位に転移する現象であるThermal Referral(TR)を用いる手法を検討し,TRによって転移した温度提示部にTGIが生じることを発見した.さらにTRが全身に適用できることを示した(第4章).「身体運動に影響を与えるもの」として挙げた温度感覚と把持力調節機能の関係に着目すると,温度感覚検査への応用可能性がある.近年の温度感覚研究では温度感覚の脱出した患者の把持動作に異常がみられることから,Aδ,C線維が伝達する温度感覚が運動機能に関与する可能性が示唆されていた.この知見は人間の温度知覚を,主観的な回答に依らない把持力の変化という客観的な形で表すことができる可能性が大きいことを示している.これまで温度知覚能力を計測する際には,患者の主観的な回答に頼る場合が多く,明確にその能力を計ることが困難であった.無意識的な運動調節が温度の知覚サインとなるのであれば,検診やリハビリの現場で温度,痛みを評価する際の指標としての運用が期待できる.本論文ではより直接的な温度提示と把持力調節の関係を探るため,物体の表面温度を動的に変化させることが可能なキューブ型のマニピュランダムを開発した.被験者が拇指,示指で装置を把持した際の,表面温度の変化に伴う把持力の推移を記録した.温度変化と把持力の関係性を検討したところ,物体表面の温度が増加すると把持力が減少するという関係性を認めた.健常者におけるこのような変化が温度覚由来の調節であることを確かめる目的で,温度感覚が脱失しているCIPA患者4名に同様の課題を行わせたところ,温度変化と把持力変化の間には関連性を認めなかった.また,実験を行った健常者は温度の変化を知覚した一方で把持力が変化したことを認識していなかったことから,温度の変化に伴う把持力調節は無意識的な調節であることが示唆された.これらの結果により,提案手法,デバイスが温度知覚能力の検査に応用可能であることを示した.次に把持動作についてみられた運動調節が姿勢や状況に依存しないものであるか検証を行った.手掌部における実験では温度と加重の推移に関連はみられなかった.これは把持動作に,「把持した物体を落さない」という明確な目的があるのに対し,手掌部の実験の場合明確な目的がなく加重調節の必要がなかったためと考えた.そこで立位という明確な姿勢調整の必要性を持つ条件を用いたが,温度変化と重心の推移の関係は不明確であった.しかし人間が立位姿勢をとるときの自然な重心動揺が実験条件に近いことから,周期をより大きく変更した実験を行った.その結果,温度変化時にわずかではあるが重心の偏りが生じることが示唆された(第5章).以上のように,本論文は温度感覚のもたらす「温度そのものの知覚」以外の身体作用に注目し,特に医療福祉分野における応用を提案した.温度感覚によって痛覚を生起するという現象を鎮痒に利用できること,温度感覚によって運動調整が生じるという現象を温度知覚機能検査に利用できることを示した.
著者
朝倉 伸司 佐々木 廉雄 足助 雄二 渡辺 弘規 加賀 誠 清水 ひろえ 川田 松江 播磨 晋太郎 長濱 裕 松田 道生
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.42, no.12, pp.947-953, 2009-12-28 (Released:2010-01-27)
参考文献数
19

透析施行に際して動脈―静脈吻合を設置すると,その局所でのblood accessは高ずり応力の存在する動脈系から中あるいは低ずり応力が働くと考えられる吻合部遠位側(心臓側)へと移行するため,吻合部周辺での血栓形成の機序は必ずしも単純ではないと考えられる.さらにPTA(percutaneous transluminal angioplasty)による圧ストレスが血管内壁上で血液凝固線溶機構にどのように関連しているか,あるいは動脈硬化病変が血栓形成にどのように影響するか等については,十分に検討されてきていないのが現状である.今回,われわれはPTA施行前後の当該シャント部位での血液凝固線溶関連因子の変動を検討し,血栓形成の初期に形成される可溶性フィブリン(soluble fibrin, SF)が15例中4例が著明に上昇していることを見出した.また,SFとともにトロンビン―アンチトロンビン複合体(thrombin-antithrombin complex, TAT)も上昇していたが,SFとは相関を示さず,両者の上昇は異なる反応によるものと推定された.SFはフィブリンモノマー1分子に対しフィブリノゲン2分子が結合した3分子複合体であることが示されており,そのフィブリンモノマーの中央に位置するE領域に接合している1対のalpha C globuleがトロンビンにより切断,遊離されることにより,alpha鎖(96-97)に存在するRGDドメインがフィブリンモノマーのE領域表面に露呈されること,また,これが細胞膜に存在し,フィブリノゲン受容体(fibrinogen receptor)として働くα5β1インテグリンおよびビトロネクチン受容体(vitronectin receptor)であるαvβ3をも巻き込みながら細胞伸展を促進することをわれわれはすでに報告しており,SFが単に血液凝固亢進を示す分子マーカーであるだけでなく,血管壁への血小板の強力な接着に貢献することが明らかになった.SFが著明に上昇していた4例(SF著明上昇群)では動脈硬化の指標であるpulse wave velocity(PWV)がSF非上昇群に比し有意に上昇していた.またSF上昇群は非上昇群に対しシャントトラブルの年間発生率が高いことから,SFの上昇はPTA後の血行動態,ことに血栓形成機序の解明ならびにシャントトラブル発生とその予後の予想に有用な分子マーカーとなることが期待される.
著者
江村 隆起 古村 眞 渡辺 栄一郎 尾花 和子 佐藤 毅
出版者
埼玉医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

無用の長物として扱われてきた虫垂は、安易に切除される傾向にあったが、虫垂の免疫学的な重要性が報告され、虫垂を失うリスクが知られるようになった。そこで、虫垂炎を予防し、虫垂を残していくことが重要である。近年、急性虫垂炎の虫垂内は、口腔内細菌であるフゾバクテリウム属菌が優勢であることが報告された。腸管内へ移行し難い口腔内細菌が、虫垂細菌叢で優性となる原因の究明が、虫垂炎の病態解明につながる可能性がある。そこで、口腔内細菌叢と虫垂炎の関連について検討し、口腔内環境改善による虫垂炎の予防法について検討する。
著者
天野 直樹 渡辺 優
出版者
一般社団法人 電気学会
雑誌
電気学会論文誌B(電力・エネルギー部門誌) (ISSN:03854213)
巻号頁・発行日
vol.128, no.10, pp.1194-1198, 2008-10-01 (Released:2008-10-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1 1

The restrictions of transportation are one of the major parameters for transformer design and affect the available capacity, various characteristics and even reliability. With the progress of increasing power demand, transformer size and weight have been increasing. However, in Japan the restrictions for size and weight in rail and road are strict, and several kinds of technology for transformer construction and transportation method have been developed to meet these requirements.One technology is the disassembled transportation method for transformer. Fortunately we have experienced three type disassembled transportation methods for Kamishiiba power station for approximately 50 years. This paper introduces a history on improvement of disassembled transportation technology and development of large power transformer.
著者
渡辺 和英
出版者
公益社団法人 精密工学会
雑誌
精密工学会誌 (ISSN:09120289)
巻号頁・発行日
vol.84, no.3, pp.239-242, 2018-03-05 (Released:2018-03-05)
参考文献数
4
被引用文献数
1
著者
渡辺 哲生
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.9-17, 2016-03-31 (Released:2016-06-23)
参考文献数
12
被引用文献数
9

扁桃周囲膿瘍, 深頸部膿瘍ともに致死性を有する疾患で耳鼻咽喉科医として理解しておかなければならない疾患である. 疾患の理解のためには浅頸筋膜, 深頸筋膜浅葉・中葉・深葉からなる筋膜と舌骨上と下に区分される間隙についての解剖を理解する必要がある. 傍咽頭間隙が深頸部の中心的な間隙であり, 縦隔と連続する間隙が臨床的に重要である. 扁桃周囲膿瘍, 咽後膿瘍, 傍咽頭間隙膿瘍, 顎下間隙膿瘍のいずれも治療の際に外科的治療,気道確保を念頭におかなければならない.
著者
渡辺 寛人
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.17-24, 2015-07-16 (Released:2018-03-28)
被引用文献数
1

東日本大震災以降,貧困問題への視点は薄れ,被災問題ばかりがクローズアップされている.しかしながら,被災者が抱える困難の性質は,被災によって一時的に生じた問題だけではない.むしろ,経済的困窮をはじめとする貧困問題としての性質が極めて強く現れている.こうした状況にもかかわらず,「最後のセーフティネット」である生活保護制度は,被災地においても十分に機能しているとは言えない.本稿は,筆者らが行なった仙台市の仮設住宅における生活実態調査をもとに,被災問題と貧困問題との重なりを明らかにしつつ,被災問題に限定されない普遍的な社会保障制度の構築が必要であるとの問題提起をしたものである.