著者
渡辺 公三 玉井 和哉 吉田 耕志郎
出版者
Japan Shoulder Society
雑誌
肩関節 (ISSN:09104461)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.47-49, 1992

We set up Isometric exercises for patients with a glenohumeral joint contracture to do. The series of exercises consists of an abduction and an external rotation every 5 seconds, and internal rotation movements with a 5-second-rest interposed between each movement.<BR>The patients were ordered to keep their shoulders in the neut r al position while doing these exercises. We demanded that they do these exercises for about 10 minutes, twice a day at least.<BR>No patients had any local analgesics injected into their subacromial bursanor glenohumeral joint during this 4-week-isometric contraction exercise period.<BR>Loxoprofen sodium was prescribed as a painkiller when the patients wanted it.4 weeks later, we investigated the effects of these exercises in the relief of pain and recovery of motion.3 levels of pain were used in this study: better, no change, worse, compared with the pain the patients had when they started these exercises. The range of motion was indicated in total degrees of flexion, abduction and external rotation.<BR>Considering a margin of error, a 20-degree-increase or even from the beginning was considered as an -Improvement- and a 20-degree-decrease or even was considered as an -Aggravation-.<BR>We investigated 29 patients' 30 shoulders aged 56.9 years old on average. A relief of pain was observed in 64% of the patients and a recovery of motion in 67%.
著者
渡辺 久雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.34, no.12, pp.631-649, 1961

本研究の目的は,条里制起源が,これに先行する肝晒地割にあることを明らかにし,中国の肝晒地割形式が,朝鮮を経て,古墳時代にわが国に伝来し,条里制の基盤となつたことを,地割形式およびGeo-magnetochronologyの成果より明らかにすることにある.その:解明の順序は1)条里制と5刊百地割, 2) 東亜における磁石・磁針の問題,3)兵庫県下における条里遺構の復原とGeomagnetochronologyの応用とする.<br> (1) 古い地積単位の残存から,条里地割に先行する一種の地割の存在を考える立場は早くからあつた.しかしそれがいかなるものか,いつ頃実施されたものかについては必ずしも明確にされていなかつた.この点に関して,筆者は条里先行地割が,中国の井田・肝階地割と同系のものと考え,その証明として,地割形式を尺度および進法の変遷から検討した,<br> (2) この種の先行地割方式が,いつ頃わが国で開始されたかという,本論文の表題である起源論について,この種の先行地割が古く阡陌地割と呼ばれていた点から,地割の経緯線は常に東西と南北を指している筈だと考え,中国における古代の方位決定法,ならびに磁石・磁針の問題の解決から出発した.その結果,わが国へも,古墳時代すでに司南と呼ばれる一種の簡易Compassが渡来し,阡陌地割の施行に利用されている可能性を認めた,<br> (3) 条里遺構の復原に関して,筆者の年来の疑問点の一つは,条里地割における経緯線方向の区々なることにあつた.その理由に関する従来の解釈に疑義を持つとともに,あらたな解釈として,磁針を用いたことによつて生.じた当時の地磁気偏角に原因すると仮定した.そのテストとして,兵庫県下における条里地割の経緯線方向の測定値を,近年著しく発達したGeomagnetochronologyの偏角永年変化表に照合し,地割が紀元3世紀より6世紀にわたつて施行されたことを知つた.また結果において,河系ごとに地割施行に関する地域的類型の存在をも認めることができた.<br> 最後にGeomagnetochronlogyが,本論文の起源論の根幹をなすものであるだけに,その客観妥当性を若干の吏実との照合によつて試みた.もちろん100%の妥当性があるか否かは,史実自体の側にも問題がある限り明言できぬが,かなり高い信頼度を認めることができた.しかし今後,全国各地における条里地割への適用をはじめ,各方面における妥当性の検証が必要である.
著者
渡辺 祐邦 WATANABE Yuho
出版者
北見工業大学
雑誌
北見工業大学研究報告 (ISSN:03877035)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.109-152, 1973-10

This paper aims to make clear some obscure points in the birth of Hegel's famous metaphor "Master and Slave". Investigations are made on 1)its origins in Hegel's early theological writings,2)its prime form in his attempts at philosophical system in the Jena period and 3)related ideas behind the metaphor. The results are : 1.Figures of the slave and the term "Slavery" in the early writings are not of the same meaning as in the later works. They are only an analogy and used for expressing political and religious alienation. He borrowed this usage from the contemporary literature of politics which he read in his youth. 2. In the system of Jena period,"Mastery and Slavery" is a category for the primitive relation of individuals,which is natural but not yet true,and is only a personal overwhelming by violence. 3.In the Phenomenology of Mind,it is a metaphor and not a category of any real social status. It has a pedagogical meaning and relates with many important philosophical ideas of his time,e.g. the ideal of human education of Aufklarung, the cultural forming (Bildung),J. Steuart's theory of the economical dependence of individuals in the civil society,and the reminiscence of the Greek democracy.
著者
野田 伸司 渡辺 実 山田 不二造 藤本 進
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.891-897, 1981-12-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
11

生体試料中のNDVおよびワクチニァウイルスに対するイソプロパノール (IP) の不活化作用を検討した.IPは各種の生体試料により, 強い不活化阻害作用を受けるが, 試料の状態により不活化阻害の傾向には, 大きな違いが認められた.血清, 尿および脱線維血液等の液相において, エタノールの場合と同様に, IPの濃度の低下と共セこ, 試料による不活化の阻害が強く示された.しかし, 脱線維血液と同じ水分を含む凝固血液中のウイルスに対しては, 50~80%に不活化の至適濃度が示され, いずれの試料中のウイルスに対しても, 高濃度ほど強い不活化効力を示したエタノールとは, 不活化阻害の機序を異にすることが推測される.乾燥血清中のウイルスは, エタノールの場合と同様に, 40%前後の比較的低濃度のIPにより, 最も効果的に不活化された.エンベロープウイルスに対しては, 生体試料中においても, IPは効果的な殺ウイルス剤と考えられるが, 含水, 乾燥いずれの状態にも対応できる実用的な濃度としては, 50%が適当と思われる.
著者
渡辺 明良 市川 雅人 小林 靖枝 青野 真弓 長田 能央 林 譲也 三谷 嘉章 芦田 弘毅
出版者
特定非営利活動法人 日本医療マネジメント学会
雑誌
医療マネジメント学会雑誌 (ISSN:13456903)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.667-670, 2006-03-01 (Released:2011-03-14)
参考文献数
8

現在の病院経営において, 病院経営マネジメントスタッフのキャリア開発は実務面の重要な経営 課題であるにもかかわらず, 研究面ではあまり注目されてこなかった.そこで本稿は, 国内および海外, 特に米国の病院経営マネジメントスタッフのキャリア開発等に関する先行研究のレビューを行うとともに, 国内・海外の病院に対してインタビューを中心とした事例調査を実施し, 病院経営マネジメントスタッフのキャリア開発の現状について報告する.その結果, 国内では病院経営マネジメントスタッフに求められる役割や能力や資格などに関する研究が不足していることが示された.事例調査からは, 階層別研修を中心に置いた病院内部の育成が中心であり, 病院経営マネジメントスタッフに求められる役割や能力や資格を明確に定義した上で採用や育成を行っている事例は見られなかった.一方, 海外の事例調査では, 病院経営マネジメントスタッフの役割は病院経営全般のマネジメントとしてその資格や処遇が明確に定義されており, キャリア開発は自己責任に基づくことが明らかになった.また, MBA (経営学修士) やMHA (病院経営管理学修士) などの教育機関での専門教育との連携がとられており, これらが経営マネジメントスタッフの資格要件として, キャリア開発上重要な役割を果たしている事がわかった.
著者
竹林 純 高坂 典子 鈴木 一平 中阪 聡亮 平林 尚之 石見 佳子 梅垣 敬三 千葉 剛 渡辺 卓穂
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.63-71, 2020-04-25 (Released:2020-04-27)
参考文献数
9
被引用文献数
1

本研究では,2017および2018年に実施した食品の栄養成分検査の技能試験について報告する.2017および2018年調査では,それぞれ65および73機関の参加が得られ,参加機関の70%以上は栄養成分表示に関する収去試験を担当しうる公的機関であった.調査試料の食品形態は畜肉ソーセージであり,調査項目はタンパク質,脂質,灰分,水分,炭水化物,熱量,ナトリウム,食塩相当量,カルシウム(2018年のみ),鉄(2018年のみ)であった.義務表示項目である熱量,タンパク質,脂質,炭水化物,食塩相当量の1つ以上について報告結果が不適正と考えられた機関は,2017年調査では全機関の11%および公的機関の9%であり,2018年調査では全機関の15%および公的機関の13%であった.機関間の報告値のばらつきを示す指標であるRSDrは,タンパク質=2%,脂質=3%,灰分=2%,水分=0.5%,炭水化物=9%,熱量=1%,ナトリウム(食塩相当量)=4%,カルシウム=7%,鉄=7%程度であった.特に,炭水化物のRSDrが大きく,炭水化物の表示値が数g/100 g以下の食品の収去試験においては,無視できない機関間差が生じる可能性を考慮する必要がある.
著者
八田 宏之 東 あかね 八城 博子 小笹 晃太郎 林 恭平 清田 啓介 井口 秀人 池田 順子 藤田 きみゑ 渡辺 能行 川井 啓市
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.309-315, 1998-06-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
20

この研究では, 大学および職域においてhospital anxiety and depression scale (HAD)の日本語版の妥当性と信頼性を検討した.大阪府と京都府において, 1983年に, 106名の学生と62名の勤労者を対象に調査は行われた.信頼性を決定するために, アイテム間相関と内的一貫性を求めた.STAIとSDSを用いて共存的妥当性を調べた.両者の集団において, 感情障害の頻度は19〜26%であった.Cronbachのα係数は, 不安尺度に関して0.8であったが, 抑うつ尺度に関しては0.5以上であった.HADの不安尺度とSTAI得点とのSpearmanの係数は, 学生の場合0.65であり, 勤労者の場合0.63であった.HADの抑うつ尺度とSDSとの同係数は学生の場合0.46であり, 勤労者の場合0.50であった.HAD日本語版は, 女性において感情障害スクリーニング法として有用であると考える.
著者
福岡 講平 柳澤 隆昭 渡辺 祐子 鈴木 智成 白畑 充章 安達 淳一 三島 一彦 藤巻 高光 松谷 雅生 西川 亮
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.387-391, 2015 (Released:2016-02-06)
参考文献数
11

【緒言】脳幹部腫瘍は, 極めて予後不良な疾患であり, 生存期間の延長に寄与したと証明された化学療法は, 未だ存在しない.今回我々は,放射線治療後再進行を来した脳幹部腫瘍に対する低用量持続経口エトポシド療法の投与経験を報告する.【方法】当院で加療した脳幹部腫瘍症例に対し,後方視的に経口エトポシド療法の効果および有害事象に関し検証した.【結果】対象症例は,11例で,診断時年齢中央値5歳(3–10歳),男女比は1:10であった.10例が画像所見のみで診断し,1例が他院にて生検施行され,膠芽腫と診断された.診断から中央値7か月(2–19か月)で放射線治療後の腫瘍再進行を認め,経口エトポシドが開始になっていた.経口エトポシドへの治療反応性に関しては,画像所見が改善,または変化無であった症例は,画像評価の行われた9例中3例であったのに対し,臨床症状は11例中8例で改善または維持,ステロイド投与量は投与中であった8例のうち,2例で中止,2例で減量を行うことができた.エトポシド投与期間は,中央値6か月で,最長24か月投与が可能であった症例も認められた.症例の全生存期間は,中央値19か月(6–38か月)であった.【結語】脳幹部腫瘍,放射線治療後再進行例において,経口エトポシド療法により明らかに臨床症状の改善が得られる症例が認められ,試みるべき治療方法であると考える.
著者
耒代 誠仁 中川 正樹 馬場 基 渡辺 晃宏
雑誌
じんもんこん2011論文集
巻号頁・発行日
vol.2011, no.8, pp.93-98, 2011-12-03

本稿では古代木簡解読を支援する画像処理および字体検索の高度化に関する我々の研究について述べる.画像処理の改善は,汚損・破損した古代木簡の可読性を高め,高精度な字体抽出を実現するために重要である.我々はカラーチャネルおよび周波数に関する分析結果を踏まえ,木目,腐食に有効な画像処理を実現した.また,木簡解読支援システムのユーザインタフェースを改良し,画像処理の実施に必要な操作を簡素化した.字体検索については,テンプレートを増やすと共に形状特徴抽出の改善を行い,検索精度の改善を実現した.
著者
渡辺,伸一
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究
巻号頁・発行日
no.7, 2001-10-31

環境の保護は,社会的に重要な課題である。しかし,環境保護の実際をみると,学術的な重要性や,保護が生み出す受益のために,特定の少数者に過重な負担や受忍を強いる例が散見される。「奈良のシカ」の事例は,こうした問題がみられてきた典型例である。奈良のシカは,「奈良公園の風景の中にとけこんで,わが国では数少ないすぐれた動物景観をうみ出している」とされる天然記念物であり,奈良における最も重要な観光資源の一つでもある。が,当地では,このシカによる農業被害(「鹿害」)を巡り,シカを保護する側(国,県,市,春日大社,愛護会)と被害農家との間での対立,紛争が長期化し,1979年には被害農家による提訴という事態にまで至ってしまった。本稿では,まず,鹿害問題の深刻化過程をみた後に,紛争長期化の背景を,「シカが生み出す多様な受益の維持」「保護主体間の責任関係の曖昧性」「受苦圈と受益圈の分解」「各保護主体にとっての保護目的の違い」等に着目しながら検討した。鹿害訴訟の提訴と和解(1985年)は,被害農家が長期に亘って強いられてきた状況を大さく改善させる契機となった。しかし,この新しい鹿害対策も,十分には機能してこなかった。そこで,後半では,鹿害対策の現状に検討を加えた上で,依然として問題の未解決状態が続いている理由と問題解決への糸口について考察した。
著者
石井 信之 浜田 信城 渡辺 清子
出版者
一般社団法人 日本歯内療法学会
雑誌
日本歯内療法学会雑誌 (ISSN:13478672)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.26-29, 2008 (Released:2017-12-30)
参考文献数
10

Abstract : Hypochlorous acid is a weak acid with the chemical formula HClO. It forms when chlorine dissolves in water. HClO is an acid involving a polyatomic ion. HClO is used as a bleach, oxidizer, deodorant, and disinfectant. CampherTM contains 80% HClO and is used as a food disinfectant, deodorant, air cleaner, and in instrument and package cleaner systems. The purpose of this study was to examine the efficacy of CampherTM as a root canal irrigant in endodontics. Both pH 6.5 and pH 7.0 CampherTM were examined for bactericidal effect and cytotoxicity. Obligative anaerobic bacteria were completely inhibited by applying CampherTM for 1 minute, and facultative bacteria was inhibited 10−2~10−3 by CampherTM for 1 minute in bactericidal effect. The growth of oral epithelial cells was not affected by CampherTM for 48 hours. Both bactericidal effect and cytotoxicity did not vary with the different pH of CampherTM. These results suggested that CampherTM has a bactericidal effect and no cytotoxicity, and could be useful as a root canal irrigant.
著者
宮﨑 茂明 石田 康行 河原 勝博 渡辺 将成 屋嘉部 愛子 平安 堅吾 濱野 友生 常盤 直孝 加藤 浩 鳥取部 光司 帖佐 悦男
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.703-708, 2013 (Released:2014-01-21)
参考文献数
16

〔目的〕投球動作における体幹回旋運動と肩甲帯周囲の筋活動の関連性を検討することである.〔対象〕高校の野球部投手(疼痛既往肩8名,コントロール10名)とした.〔方法〕検討項目は投球動作時の胸郭および骨盤回旋角度とその変化量,表面筋電図周波数解析による肩甲帯周囲の筋活動(平均周波数とその差分)とした.〔結果〕疼痛既往肩の投手は,胸郭回旋角度の変化量ではコッキング期に有意に低値を,加速期に有意に高値を示した.骨盤回旋角度の変化量はコッキング期に有意に低値を示した.肩甲帯周囲の筋活動はコッキング期に僧帽筋下部線維,前鋸筋で有意に低値を示した.〔結語〕投球障害肩の発生要因として,体幹回旋運動減少と肩甲帯周囲の筋収縮リズムに生ずるインバランスにより,肩関節への負荷が増大した可能性がある.
著者
渡辺 優奈 善方 裕美 石田 裕美 上西 一弘
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.89-97, 2016 (Released:2016-09-06)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

【目的】本研究は,1年以上授乳を続けた女性における,妊娠初期から授乳期および卒乳後までの鉄栄養状態の実態を明らかにすることで,妊婦,授乳婦への栄養指導に活用できる資料を得ることを目的とした。【方法】対象者は授乳期間が1年以上であった女性30名とし,妊娠初期(妊娠5~12週),出産時,産後1ヵ月,産後6ヵ月,産後1年,卒乳後(卒乳後3~6ヵ月)の6時点を解析対象とした。妊娠初期から卒乳後までの鉄関連指標(赤血球数,ヘモグロビン濃度,ヘマトクリット値,血清鉄濃度,フェリチン濃度)および鉄摂取量の推移,卒乳後フェリチン濃度に関連する指標の検討を行った。【結果】赤血球数,ヘモグロビン濃度,ヘマトクリット値および血清鉄濃度は,妊娠期に低下したが産後1ヵ月で回復し,卒乳後まで変化はみられなかった。妊娠期に低下したフェリチン濃度は,産後1年までに徐々に回復傾向を示したが,卒乳後には再び妊娠初期よりも低値となった。また,妊娠初期から卒乳後まで鉄摂取量に変動はなかった。卒乳後のフェリチン濃度は,月経再開からの期間と負の相関(r=-0.424,p=0.020),妊娠初期のフェリチン濃度とも正の相関(r=0.444,p=0.014)がみられた。【結論】フェリチン濃度は,妊娠期に低下し産後1ヵ月では回復しないが,授乳継続により,その間に漸次増加する傾向がみられた。これより,授乳期に積極的な鉄摂取を促すことで,産後の鉄貯蔵を増加させることが期待できる。
著者
濱田 哲 松原 雄 遠藤 修一郎 山田 幸子 家原 典之 中山 晋哉 伊丹 淳 渡辺 剛 坂井 義治 深津 敦司
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.42, no.7, pp.541-545, 2009-06-28 (Released:2009-09-15)
参考文献数
6
被引用文献数
1

症例は,69歳女性で,食道癌手術目的で入院,初回血液透析終了後から発熱を生じるようになった.種々の原因検索の結果,先発医薬品(以後先発品),後発医薬品(以後後発品)両者の含めたメシル酸ナファモスタットが原因であることが分かった.詳細に臨床症状を検討した結果,両者では副作用発現様式に明らかな相違が認められた.後発品の場合,使用回数とともに発熱までの時間が短縮し,血圧低下も合併するようになった.一方,先発品に変更後は後発品と同様に発熱は認められたが,透析終了後一定時間を経過して生じるようになり,アナフィラキシー症状は認められなかった.この相違に対して可能な限りの血清学的検索を行った.DLSTでは後発品使用後116日目に陽性,先発品は128日目に陰性,以後は両者とも陰性であった.先発品でメシル酸ナファモスタットに対するIgE抗体は陰性,IgG抗体は陽性であった.後発品では抗体検索システムが確立されておらず測定不可能であった.以上の結果を総じて,透析関連性の発熱の原因としてメシル酸ナファモスタットが原因であること,先発品・後発品で明らかに発症状況に差があり,発症機序が異なっていることが示唆された.先発品ではIgGによる免疫反応が発熱の原因であると推測された.しかし後発品のアレルギー症状と免疫反応との関連が発症機序の理解に重要であると考えられたが,原因検索システムが整備されておらず解明できなかった.本症例のように,先発品,後発品両者の間で,アレルギー症状発現様式に相違があることを,詳細に分析した症例報告は検索した範囲内では認められなかった.後発品においても先発品同様副作用の原因検索システム構築が重要であることを指摘する上でも貴重な症例であると考えられた.