著者
谷 浩明
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.69-73, 2006 (Released:2006-05-24)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

セラピストが臨床で用いる教示とフィードバックの学習効果について概説する。教示はその注意をinternal focusではなく,external focusに向けさせるのが学習に効果的である。external focusの特徴を持つ外在的フィードバックについても,教示と同様,学習効果が高いが,こうした言葉による介入は,学習者自身の潜在的な学習を阻む危険をはらんでいる。また,従来とは異なる考え方として,自己決定の要素を含んだ練習方法を紹介する。
著者
奥谷 浩一
出版者
札幌学院大学総合研究所 = Research Institute of Sapporo Gakuin University
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 = Journal of the Society of Humanities (ISSN:09163166)
巻号頁・発行日
no.109, pp.1-36, 2021-02-26

謝花昇は沖縄の近代社会運動の先駆者である。明治期の沖縄では,いわゆる「琉球処分」によって琉球王国が廃止されて行き場を失った貧窮士族の救済を目的として,「杣山」の開墾事業が開始される。沖縄県庁の高等官・技師謝花昇は,沖縄県知事奈良原繁のもとで「杣山」開墾の事務取扱主任としてこの事業を推進する立場に立っていた。しかし,謝花と奈良原との間に潜在的にあった齟齬と対立が次第に顕在化する。謝花がこの開墾事業を純粋に農民と貧窮士族の救済のために遂行しようとし,期限付き無償貸与と「杣山」の森林環境に対する配慮という条件下で推進したが,時の権力者奈良原の側はそうではなかったからである。奈良原はこの開墾事業を土地整理事業の前段階と見なし,土地整理が終了した後は開墾地を払い下げて私有化することを目論んでいた。両者の対立は,やがて土地整理事業の推進過程で,奈良原側が「官地民木」を謳い文句にして農民たちを欺瞞し,彼らの反対と抵抗を押し切って,「杣山」を官有林に組み入れる政策を行うに及んで,決定的になる。これに対して謝花が主張したのが「民地民木」論である。そのために謝花は県庁を退職してこれと闘うことになる。謝花のこの「民地民木」論は敗北した。しかし,農民たちが自前で保護・管理・育成し,彼らの生活の糧でもあった「杣山」は農民たちによって共同所有されるべきだという彼の「民地民木」論は,現在のわが国の森林政策の行き詰まりと国有林の危機,これによる森林環境の国土保全力の低下,そして森林を地球的規模の公共財と考えるさいに,多くの手掛かりと暗示とを提供してくれるように思われる。本論文では,この「民地民木」をめぐる謝花昇の闘いの軌跡を追求するとともに,現在の環境論または環境思想から見た場合の彼の「民地民木」の意義を考察することにしたい。
著者
袴田 優子 田ヶ谷 浩邦
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.277-295, 2011 (Released:2017-02-16)
参考文献数
74

認知バイアスは,不安・抑うつの強い者が情報処理の過程で示す特定の偏り(バイアス)である。たとえば,抑うつの強い者は両義にとれるような曖昧な出来事を否定的に解釈する傾向にあったり,不安の強い者は否定的な刺激により注意を払いやすい傾向にあったりする。こうした傾向が著しい場合,うつ病や不安障害の発症・維持に密接に関与すると考えられてきた。この認知バイアスを緩和する「認知バイアス調整(CBM)アプローチ」は,従来の認知バイアス測定プログラムを改変して開発された,コンピュータに基づく新しい治療プログラムである。最近のメタ分析によりCBMは,不安や抑うつ症状を改善するうえで有効であったことが示されている。さらにCBMの効果は,プログラムのパラメータ設定(例:刺激の提示時間や種類)によって大きく影響されることも示されている。そこで本稿では,認知バイアス測定プログラムの精緻化および効果的なCBMプログラムの開発を目指し,最近報告された複数のメタ分析の知見を基に,認知バイアスを検出あるいは緩和するうえで最適なパラメータ設定を整理することを目的とする。
著者
青山 善充 紺谷 浩司 池田 辰夫 石井 紫郎 河野 正憲 瀬川 信久 加藤 雅信 松下 淳一 植田 信廣 三谷 忠之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本科研費による共同研究においては.10国立大学法学部(北大・東北大・東大・名大・阪大・香川大・岡山大・広島大・九大・熊本大)が.最高裁の方針により廃棄の運命にあった明治初年から昭和18年確定分までの民事判決原本を.各地の裁判所から暫定的に移管をうけたのを契機として.この貴重な史科群の保存利用に関し、多面的な検討を行った.具体的には.本研究会に4分科会を設け(外国法制研究、恒久計画測定.保存対策.プライヴァシ-.データベース).それぞれが核となって検討を重ねた結果、以下の知見を得た:1.民事判決原本に関する外国法制調査ヨーロッパ諸国(ドイツ・フランス・イギリス・イタリア・北欧).アメリカ合衆国.韓国.台湾.パナマといった諸国において.民事判決原本が如何なる機関において.如何なる期間保存され.どのように利用に供されているかを.現地調査やヒヤリングをも含めて調査した.この結果、国立の公文書館において.行政・立法の公文書とあわせて現用をおえた司法府の公文書を保存し.利用に供するのが一般的であること.そのシステムは.日本に比して発達した公文書館制度と表裏をなしていることが明確になった.2.日本における民事判決原本恒久保存施設の模索上記1に得た比較法的知見を踏まえて9民事判決原本の恒久的保存利用施設として如何なる機関が適切であるかを検討したところ.大学での保管はあくまで暫定的でイレギュラーな緊急〓措置であり.国立公文書館・国立国会図書館といった既存施設にもそれぞれ難点があるので.やはり.(名称はともあれ)司法資料を収容する国立の文書館を新設するのが筋であるという結論に達した.なお.このことと.民事判決原本を地域的に一箇所に集中するか地方分散とするかは.必ずしも必然的に結びつくものでないということが了解された.3.大学保管中の保存対策2の恒久保存施設に民事判決原本を移管するまで.3乃至4年間をめどに大学が保管の責務を負うのであるが.その間の保存対策について.史料保存学専門家の意見をきいて.協議し.空調・防虫対策・保安措置等について.各大学に助言を行うことができた.4.大学保管中の利用ガイドライン策定大学保管中に.大学は.可能な限り民事判決原本を学術利用に供することが移管に関する最高裁との協定からも望ましいが.これには.史料の性質上.プライヴァシ-保護を中心とする微妙な配慮を必要とする.これらの点を考慮しつつ.本研究会は.学術利用と事件当事者による閲覧との二類型を念頭においた詳細な利用ガイドラインとそれに応じた利用申請書式を策定し.それを.各保管大学で使用することとした.5.民事判決原本のデータベース化これまで民事判決原本へのアクセスを困難にしてきた最大の理由は.その検索の困難性にあった.この点は.民事判決原本に含まれるデータをデータベース化することによって大きく改善される.と同時に.原本自体を画像入力することによって.貴重な原本の損耗を防止できる.この見地から.フィージブルな民事判決原本データベースを模索した結果.明治23年までの判決原本を全文画像入力し.これに.最小限の項目データを付して検索の便を図ることが最善であるとの結論に達し.国際日本文化研究センターがこの作業を引き受けることとなった.
著者
神谷 浩夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100198, 2012 (Released:2013-03-08)

1.本発表の目的 発表者はこれまで,海外で働く若い現地採用の日本人女性を中心に調査を実施してきた.1980年代初頭のバブル崩壊以降,国内労働市場は二極化が進展する一方,これまで以上に流動化が進んだ.それと同時に,海外で働くことが大きなブームとなった.こうしたブームを支えたのは,現地採用で雇用される未婚の女性であった.最近では,現地採用として海外で就職する日本人は女性だけでなく男性にも広がりつつある.そこで本研究では,シンガポール,サンフランシスコ,ホーチミンで実施したこれまでの調査をふまえながら,2011年2月にバングラデシュで行った現地で働く日本人若者の調査結果を報告する.2.バングラデシュの特徴 バングラデシュは世界の最貧国のひとつに数えられることが多く,海外からの民間投資額も多いわけではない.むしろODAなど政府関連の援助による投資が主流である.そのため2010年の外務省海外在留邦人数調査統計によれば,バングラデシュに住む日本人は569人,そのうち長期滞在者が504人,永住者が65人である.長期滞在者の内訳は,民間企業関係者が101人,同居家族が20人,政府関係職員が131人,同居家族が66人,その他が97人,同居家族が58人となっている.つまり民間企業関係者よりも政府関係職員の方が多い.近年日系企業の進出が活発化していると言われているが,その水準は低位に留まっている. 一方,シャプラニールやマザーハウスに代表されるように日本人によるNGOや社会的企業の活動がバングラデシュで活発に繰り広げられている.さらに,グラミン銀行やBRACなどマイクロクレジットが世界的に注目されるようになり,BOPビジネスも脚光を浴びるようになっている.2010年には,ユニクロがグラミン銀行と提携してソーシャルビジネスを開始し,安い賃金を生かした縫製産業が成長を遂げつつある.3.調査結果の概要 当該国において日本企業の進出が進むには,日本への送金が可能となる制度枠組みの整備が重要である.ダッカで実施した現地調査では,16人の男女から話を聞くことができた(表1).ヒアリング結果を要約すれば,①高学歴の人が多い,②未婚の男性が多い,NGOや社会的企業などの職に就いている人が多い,といった特徴が浮かび上がった.なお,その他の詳細な結果については,当日に報告する.
著者
稲田 務 新谷 浩 河合 裕太郎
出版者
泌尿器科紀要刊行会
雑誌
泌尿器科紀要 (ISSN:00181994)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, 1955-09

1)オロナイン軟膏を性病予防の目的で船員に使用した.2)使用者に於ては3・1%O淋疾患者を出したが,不使用者からは約4倍の11.8%の淋疾患者を出した.しかし其の使用方法に注意すれば,更に良い成績を収める事が出来ると思う.・、3)非淋菌性尿道炎患者は,使用者では1,6%であつたが不使用者では約2倍の3%であつた.4)硬性下疸及び軟性下疸患者は使用者の中には皆無であつたが,不使用者では2名宛の患者を出した.5)試験管内では淋菌を初めとして他の非淋菌性尿道炎起炎菌に対して,オロナイン軟膏は長時間では勿論短時間内でも充分なる殺菌作用を有する事を知つた.6)オロナイン軟膏は殆んど副作用無しに性病予防の目的を達し得る.1) We used Oronine Ointment on sea-crews for the purpose of preventing venereal diseases, and in nearly all cases we got perfect success without any second reaction. 2) Among those to whom this ointment were applied, 3.1 % of them got gonorrhoea, while 11:8 % of the unapplied got gonorrhoea. 3) 1.6% of the applied got N.G.U., while 3 % of the unapplied got the same disease. 4) In vitro, the Oronine Ointment showed a sufficient sterilizing power upon gonococci and other bacilli in a short time.
著者
神谷 浩夫
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.221-237, 2002 (Released:2017-05-19)
被引用文献数
3

これまで日本の医療に関する研究では,社会的な平等性の重視が日本の医療の特色であると指摘されてきた.しかし空間的な観点からみると,自由診療制度を採用している日本では医療資源の地域的な不均衡が生じている.本稿では,精神科診療所の立地パターンを把握し,近年における大都市で精神科診療所が急増している背景とその意味を明らかにしようと試みた.まず,日本の戦後における精神医療の変遷を概観し,現在の精神医療制度が形成されてきた過程を考察した.戦後の日本では「社会防衛」の観点から低コストで患者を収容するために民間精神病院が大量に建設され,その多くは市街地から離れたところに立地した.精神医療が次第に開放医療,地域医療へと向かう中で精神科診療所も増えていったが,それはターミナル駅周辺の地域に開設されることが多かった.1980年代後半に入ると,診療報酬制度の度重なる改訂によって次第に精神科診療所の経営が安定するようになり,診療所の開設が相次ぐようになった.開設された診療所の多くは,従来のターミナル駅指向,駅周辺の商業ビル指向,商業地区.繁華街指向というパターンを強めるものであり,その背景には,利便性を重視して立地する診療所側の要因とともに,通院していることを周囲に知られたくないという匿名性を優先する患者側の要因も存在していた.こうした診療所立地の傾向は,アメリカにおいて精神病退院患者が都市計画規制の緩やかなインナーシティに集積している傾向と類似していた.
著者
浅見 泰司 神谷 浩史 島津 利行
出版者
東京都立大学都市研究センター
雑誌
総合都市研究 (ISSN:03863506)
巻号頁・発行日
no.69, pp.187-199, 1999-09

道路ネットワークを分類する実験結果から、道路ネットワークの知覚的認知度指標を構築した。特にグリッドパターン特性と放射パターン特性を記述できるG指標とR指標を提案した。分析の結果、道路ネットワークパターンを記述する上で本質的な要素として、道路の平均幅員と平均ノードオーダーが重要であることが示された。Perceptive similarity of road networks is expressed by distance measures based on the experiment to classify networks. Several indices are calculated to explain the distance measure, among which G-index and R-index are proposed to express the extent of grid pattern and radial pattern. The average width of roads and the average order of nodes are found to be essential factors to explain the difference in road network patterns.
著者
奥谷 浩一
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学総合研究所紀要 = Proceedings of the Research Institute of Sapporo Gakuin University (ISSN:21884897)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.59-69, 2015-03

丸山眞男の『日本政治思想史』は戦後の日本思想史研究の画期をなす業績のひとつである.しかし,その後の日本思想史研究の蓄積は,この著作の時代的制約とさまざまな問題点とを明らかにしつつある.丸山は,東アジアの思想圏全体を俯瞰することなく,儒教と朱子学を我が国の封建制社会の支柱となった思想体系とのみみなし,江戸時代初期に強固に確立されたこの思想体系が荻生徂徠などの思想のインパクトを受けて解体され,これと並行して近代的意識が形成されたと解釈する.こうした理解は,この時代の複雑で豊かな思想空間を単純な図式によって把握し,限られた射程の準拠枠によって評価するものである.本論文では丸山のこうした日本思想史論の問題点をアウトラインにおいて提示する.Masao Maruyama's Nihon Seiji Shisoshi Kenkyu ("Studies on the Intellectual History of Tokugawa Japan")is among the landmark studies that were published after Japan's defeat in World War II on the history of Japanese thought. However, an array of studies on the history of Japanese thought following the work of Maruyama have elucidated various problems in, and wartime constraints on, this work. Maruyama did not expand his vision to look at other East Asian thought,and he regarded Confucianism and a Neo-Confucian school called the Chu Hsi School as the system of thought that had become the mainstay of Japanese feudalism. According to Maruyama, the system of thought that was solidified in the early Edo era was later broken down under the influence of the thought of Sorai Ogyu and others concurrently with the formation of a modern consciousness. This grasp of the history of thought in the Edo era presents a simplistic picture of the complex thought and the varied thinkers of those days, and Maruyama's frame of reference is not large enough to evaluate the thought of the Edo era. This study outlines some of the issues in Maruyama's studies on the history of Japanese thought.教養教育Liberal Arts
著者
丸谷 浩明
出版者
日本テレワーク学会
雑誌
日本テレワーク学会誌 (ISSN:13473115)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.4-10, 2010-10-01 (Released:2018-06-11)
被引用文献数
1

テレワークは,大規模感染症,地震,風水害等の危機事象の発生時における企業・組織の重要業務の継続を図るために,有効な対策になることが期待されている.ただし,通信回線や電力などのライフライン被害が懸念される災害では,本社拠点と個々のテレワーク拠点との間の通信の確保に十分留意する必要がある.また,危機事象の発生時にテレワークの利用を急拡大するには,設備面,情報セキュリティ面,労働条件面などで,十分な事前準備が不可欠である.このため,訓練の実施により問題点の解消をはかり,また,できるだけ平常時にも活用していくことが望まれるであろう.
著者
恒次 祐子 芦谷 浩明 嶋田 真知子 上脇 達也 森川 岳 小島 隆矢 宮崎 良文
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.8, pp.347-354, 2005 (Released:2007-04-13)
参考文献数
11
被引用文献数
2 1

5種類の味と香りの異なるチョコレートに対する主観的快適感と被験者の性別およびパーソナリティの関係を検討したところ, 以下の結果が得られた.1) 女性群においては,i) チョコレート全体に対する快適感が男性群よりも有意に高いこと, ならびに個別のチョコレートについては, 苦みを強くしたチョコレートにおいて快適感が男性群よりも有意に高く, オーク材抽出物を添加したチョコレートにおいても高い傾向にあることが認められた.ii) 快適感に対する男性性ならびに女性性の有意な正の影響が認められた.2) 男性群においては,i) 快適感に対するタイプA型傾向の有意な正の影響が認められ, 特性不安の有意な負の影響が認められた.3) チョコレート別の快適感とパーソナリティとの関係について,i) 男性群においてはオーク材抽出物添加チョコレートの快適感と女性性との間に有意な正の相関が認められた.ii) 女性群においてはオーク材抽出物添加チョコレートならびに甘みを強くしたチョコレートの快適感と男性性との間に有意な正の相関が認められた.以上により, チョコレートの快適感に評価者個々人のパーソナリティが影響を与えていることが明らかとなった. 今後個人の価値観や好みを重視したチョコレートの創造を検討していく上で, 有用な示唆を与えるものと考えられる.
著者
由井 義通 若林 芳樹 中澤 高志 神谷 浩夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.139-152, 2007 (Released:2010-06-02)
参考文献数
39
被引用文献数
1 2

日本の女性を取り巻く社会的・経済的状況は過去数十年の間に急激に変化した.そうした変化の一端は,働く女性の増加を意味する「労働力の女性化」に現れている.とりわけ大都市圏ではシングル女性が増大しているが,それは職業経歴の中断を避けるために結婚を延期している女性が少なくないことの現れでもある.この傾向は,1986年の男女雇用機会均等法の成立以降,キャリア指向の女性の労働条件が改善されたことによって促進されている.その結果,日本の女性のライフコースやライフスタイルは急激に変化し,多様化してきた.筆者らの研究グループは,居住地選択に焦点を当てて,東京大都市圏に住む女性の仕事と生活に与える条件を明らかにすることを試みてきた.本稿は,筆者らの研究成果をまとめた著書『働く女性の都市空間』に基づいて,得られた主要な知見を紹介したものである.取り上げる主要な話題は,ライフステージと居住地選択,多様な女性のライフスタイルと居住地選択,シングル女性の住宅購入とその背景である.
著者
パン ティ ビン 神谷 浩夫 朴 順湖
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.69-94, 2013-05-28

近年,結婚のために韓国に移住するベトナム人女性が急増している。ベトナム人女性結婚移民者の渡韓が母国の家族の経済状況を改善したことは,すでにベトナムにおける多くの研究で明らかにされている。しかしながら,ベトナム人女性結婚移民者自身の韓国での経済状況に関する研究は少ない。そこで本稿では韓国在住のベトナム人花嫁の経済状況に関する調査をおこなった。最初にベトナムと韓国の間の結婚移動の実態を明らかにし,次いで韓国での豊かな生活に対するベトナム人花嫁の期待と実際の彼女たちの韓国での生活の違いを明らかにする。渡韓以前,ベトナム人女性結婚移民者は自分自身の経済状況を改善し,また母国の家族を支えるためにも韓国で豊かな経済状況を獲得することを期待している。しかしながら,彼女たちが結婚した韓国人の夫の多くは社会-経済的に韓国社会の最下層の階級に属しているため,ほとんどのベトナム人女性結婚移民者は渡韓後に経済的な困難に直面していることが明らかとなった。最後に,ベトナム人女性結婚移民者自身が韓国における自分たちの経済状況をどのように評価しているのかを分析した。彼女たちの声からは,期待したほど母国の家族に送金できないため,多くのベトナム人女性結婚移民者が韓国での経済状況に失望していることが明らかとなった。韓国におけるベトナム人女性結婚移民者の経済状況の改善と結婚生活の安定には,夫の一定の所得水準に加えて,彼女たちの語学力の向上と適切な就業機会が必要であると考えられる。