著者
大髙 崇
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.34-51, 2022-06-01 (Released:2022-07-27)

教育のICT活用が本格化する中、放送局に保存される膨大な数の放送アーカイブを、授業等で利用するニーズが高まりつつある。本稿の主眼は、放送局等から教育機関に放送アーカイブを提供するうえで課題となる権利処理の問題に注目し、著作権法の新たな権利制限規定の私案を提示ながら、その妥当性を検討することにある。私案は、放送アーカイブのうち権利処理が難しく、一般の市場で入手困難なものを、「絶版」として再定義し、それらを授業等の目的と限定的な範囲での配信であれば権利制限とするものだ。国際的な手法「スリー・ステップ・テスト」にもあてはめ検討し、私案の妥当性を確認した。併せて検討した拡大集中許諾制度の効果と課題も示す。また、仮に私案が実現しても、学校のネットワーク環境や認証システムなど、ほかにも課題はある。しかし、それらの課題を克服すれば、放送アーカイブが多くの社会的ニーズに貢献する可能性を指摘する。
著者
安部 春香 髙橋 弘一 冨永 美穂子
出版者
一般社団法人 日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.254-263, 2017 (Released:2017-12-21)
参考文献数
16

甘藷の切干しは長崎県の多くの地域で「かんころ」と呼ばれている。「かんころ」の呼称は長崎県外にも存在するが,製造工程を含め同じものであるかは不明瞭である。そこで本研究では,西日本を中心に長崎県内外における「かんころ」の製造工程および甘藷の切干しの呼称とその分布状況を明らかにすることを目的とした。 甘藷の切干しの有無やその呼称などに関して西日本の海岸沿いの府県,市町村などの行政庁,教育委員会,計691ヶ所を対象として,甘藷の切干しに関する質問紙調査を郵送法により実施した。長崎県内の2地域ならびに県外8地域において,地域食文化に精通していると考えられる質問紙回答者を中心に「かんころ」の製造工程や呼称などに関するインタビュー調査を行った。 長崎県内調査においては,「かんころ」の製造工程は同じであったが,調査地域間で使用する器具や「干し棚」の構造に違いが見られた。甘藷の切干しの呼称は「干しいも」が最も多く,西日本全体に広く分布していた。「かんころ」は九州北部から瀬戸内海沿岸地域にかけ帯状に広がっていた。「かんころ」は甘藷の切干しに関連した呼称であったが,その製法は調査地域間で異なっていた。
著者
北澤 純 髙橋 健太郎
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.96-101, 2018 (Released:2018-12-07)
参考文献数
14

精神疾患合併妊娠における新生児予後を後方視的に検討した.対象は平成22年1月から27年5月の期間における滋賀医科大学産婦人科のてんかんを除く精神疾患合併母体より出生した新生児90例である.NICU入院,新生児離脱症候群(NWS)発症の有無,乳児院への入所の有無と関連する因子を調べるため,母体年齢,薬剤の種類,併用薬剤数,罹病期間,薬剤の自己中断の有無に関してMann-WhitneyのU検定およびFisherの正確確率検定を行った.多重ロジスティック解析では,独立変数を年齢,併用薬剤数,罹病期間,薬剤の自己中断の有無とした.精神疾患の内訳はうつ病27例,パニック障害20例,統合失調症19例,双極性障害9例,不安神経症5例,摂食障害5例,強迫性障害3例,適応障害1例,身体表現性障害1例だった.児が新生児期にNICUへ入院した症例は21例(23.3%)だった.NICU入院と関連する因子は三環系・四環系抗うつ薬の使用(P=0.0094),抗不安薬の使用(P=0.0157),併用薬剤数(P<0.0001)だった.NWSを発症した症例は7例(7.8%)だったが,NWS発症と関連する因子は年齢(P=0.0423),SSRIの使用(P=0.0023),三環系・四環系抗うつ薬の使用(P=0.0372),併用薬剤数(P=0.0003)だった.乳児院入所症例は4例(4.4%)だったが,乳児院入所と関連する因子は内服薬の自己中断の有無(P=0.0204)だった.多重ロジスティック解析では,NICU入院と最も関連する因子は併用薬剤数だった(オッズ比5.862,95%CI;1.784~19.259).乳児院入所と最も関連する因子は薬剤の自己中断だった(オッズ比13.12,95%CI;1.078~159.609).これらのリスクのある症例では,妊娠前から精神疾患のコントロールを十分に行うこと,妊娠中も内服の自己中断はしないよう指導し注意して妊娠経過を観察すること,出産後に向けてNICUスタッフやソーシャルワーカーなどの関係スタッフと連携を取ることが重要と考えられた.
著者
金澤 富美子 菊川 あずさ 金丸 善樹 髙澤 千智 大類 伸浩 丸山 聡 柳田 保雄 小林 朝夫 柏崎 利昌 藤田 真敬
出版者
航空医学実験隊
雑誌
航空医学実験隊報告 (ISSN:00232858)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.1-13, 2017 (Released:2017-05-25)
参考文献数
17
被引用文献数
2

Pilot fatigue, which causes 21% incidents in US Civil Aviation, 25% lethal accidents in US Air Force's night tactical flight, and 12% lethal accident in US Navy, has been recognized as an insidious threat through out aviation. Despite our recognition of fatigue, no guideline was published until 2011, due to its difficulty in objective assessment. Recently, objective assessment for fatigue has been partly established and contributed to open guidelines. National Institute for Occupational Safety and Health (NIOSH) published guidebook as "Plain language about shiftwork" in 1997. Aerospace Medical Association published position paper as "Fatigue countermeasures in aviation" in 2009. International Air Transport Association (IATA), International Civil Aviation Organization (ICAO), and International Federation of Air Line Pilots’Association (IFALPA) published "Fatigue Risk Management System (FRMS) Implementation guide for operators" in 2011. Those guidelines says that aviation-related fatigue is caused by disorder of sleep and circadian rhythm. Psychomotor Vigilance Task (PVT) or Motion logger watch (Actigraphy) are recommended for objective assessment of fatigue. Best counter measures for shift work and aviation related fatigue are adequate sleep. We review those guidelines and discuss applicability for safe flight in Japan Air Self-Defense Force.
著者
髙橋 亮太 岡田 唯男 上松 東宏
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.213-219, 2019-12-20 (Released:2019-12-27)
参考文献数
37
被引用文献数
3 3

1980年代頃から「複数の慢性疾患をもつこと」は「multimorbidity(多疾患罹患)」と呼ばれ,近年のプライマリケア研究において重大なテーマとなっている.高齢化と共にmultimorbidity患者は増加し,性別,社会経済的地位の低さ,精神疾患合併との相関が示されている.また,死亡率上昇,QOL (quality of life)低下等の健康アウトカムへの負の影響が示唆され,受診回数増加,ポリファーマシー等の患者負担増加や,救急受診,予定外入院,医療費上昇等の医療資源利用への影響がわかってきている.一方で介入方法はエビデンスによる十分な裏付けがない.本総説は国内外の質の高い研究論文を中心にmultimorbidity研究の現状を俯瞰し,研究上の課題を指摘すると共に,それらを踏まえ,臨床現場におけるmultimorbidity患者へのアプローチ方法の提案を行う.
著者
髙山 善光
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.358-376, 2018

<p>これまで呪術を説明すると考えられてきた「類似」は、認知科学の発展によって、普遍的な認知機能の一つであることが明らかにされ、呪術に限定されるものではないということがわかってきた。このため、呪術の知的世界の特徴を理解するためには新たな理論が必要であり、この新しい理論の形成に向けて、「思考の現実化」という考えを私は以前提出した。本論では、この「思考の現実化」という理論を深めることで、近代「呪術」概念の定義の問題を乗り越え、新しく「呪術」を定義してみたいと考えている。近代呪術概念の特徴は包括性にあり、その包括性は、「呪術」が宗教的認識によって現実化された推論を意味しているということに起因していると主張したいと思う。</p><p>近年の呪術概念に関する議論は、大きく二つの潮流に分けることができる。まず一方には、この近代的な呪術概念を放棄すべきだと考える研究者がいる。そして他方で、やはり保持すべきだと主張する研究者がいる。本論ではまず、この矛盾は、前者の研究者が、近代的な呪術概念の包括性に対する理解を欠いていることに起因しているということを論じた。そして次に、この包括性は、「呪術」が推論という普遍的な要素を指しているということに関係があると議論した。</p><p>しかし、この呪術的な推論には、宗教的である一方で、科学的にも判断されるというさらなる問題がある。この問題を解くために、次に、宗教的認識という独自の理論を用いた。結論として、私は、近代的な呪術概念は、この宗教的認識によって現実化されている推論のことを指している概念だと結論づけた。そのために、呪術は、宗教的認識あるいはその推論的な側面のどちらに注目するかによって、宗教的にも、科学的にもなり得ると論じた。</p>
著者
木川 大輔 髙橋 宏和 松尾 隆
出版者
首都大学東京大学院経営学研究科経済経営学会
雑誌
経済経営研究 (ISSN:2434690X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-22, 2020-03-20

This paper reviews the theoretical background and recent trends within ecosystem research. Although the concept of an ecosystem is attracting attention these days, its definition remains ambiguous. Thus, we aim to clarify what makes ecosystem so ambiguous, and what makes ecosystem different from other research streams — the real features. The results of our reviews highlights that is based on the fact that ecosystem has developed from two different perspective : “Organizational Approach (given the existence of a central actor (leader) responsible for the overall value proposition of the ecosystem, leaders can connect directly with complemental actor to control and coordinate them directly)” and “Structural Approaches (an agreedupon interorganizational relationship that does not assume the existence of a central actor (leader) which does not necessarily link actors directly)” and that “structural approach” has developed by incorporating various elements. We also derive that the ecosystem concept is characterized by “Multilateral, nongeneral, non-hierarchical complementarity”.
著者
北村 泰佑 後藤 聖司 髙木 勇人 喜友名 扶弥 吉村 壮平 藤井 健一郎
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.7, pp.499-503, 2016 (Released:2016-07-28)
参考文献数
25
被引用文献数
3 4

患者は86歳女性である.入院1年前より認知機能低下を指摘され,入院2週間前より食思不振,幻視が出現し,意識障害をきたしたため入院した.四肢に舞踏病様の不随意運動を生じ,頭部MRI拡散強調画像で両側基底核は左右対称性に高信号を呈していた.血液検査ではビタミンB12値は測定下限(50 pg/ml)以下,総ホモシステイン値は著明に上昇,抗内因子抗体と抗胃壁細胞抗体はともに陽性であった.上部消化管内視鏡検査で萎縮性胃炎を認めたため,吸収障害によるビタミンB12欠乏性脳症と診断した.ビタミンB12欠乏症の成人例で,両側基底核病変をきたし,不随意運動を呈することはまれであり,貴重な症例と考え報告する.
著者
髙阪 悌雄
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.28-42, 2017

<p>1985年,幼い頃からの障害者に給付されていた障害福祉年金が障害基礎年金に統合され,無拠出と拠出に同額の障害年金が支給されることとなった.財政支出削減の目的で積極的な行政改革が行われていた時期,保険の原則を超えた障害福祉年金の増額が行われた背景を,東京青い芝の会の機関誌,当事者運動活動家の白石清春への聞き取り,国会議事録,年金局長山口新一郎の評伝などに基づき明らかにすることが本稿の目的である.結論として,本稿では4点のことが明らかになった.(1)当事者参加の研究会や障害者団体の要求が障害者所得保障改善の内容を含む障害者計画策定につながった.(2)障害者団体の政府・行政への柔軟な対応により,行政と共同で所得保障に関わる政策を作り上げることができた.(3)年金局長であった山口新一郎の貢献があった.(4)家と施設から離れ所得保障を求めた脳性マヒ者達の主張に強い説得力があった.保険の原則を超えた新たな所得保障制度誕生の背景には,国際障害者年という時代の下,障害者団体と行政官僚の力強い動きがあった.</p>
著者
重松 亨 髙橋 巌 青木 俊夫 金桶 光起 関根 章智 宮脇 琢磨 前田 聡 伊藤 満敏
出版者
日本高圧力学会
雑誌
高圧力の科学と技術 (ISSN:0917639X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.22-30, 2019 (Released:2019-04-10)
参考文献数
13
被引用文献数
1 4

Unpasteurized draft sake has a potential market value, since it shows fresh flavor and fruity taste, compared with conventional thermal pasteurized sake. However, the actualization of the market value of draft sake is restricted by its short shelf life due to deterioration of flavors and taste by the over-fermentation by sake-yeast, as well as by remaining enzymes produced by koji-mold. Recently, we have developed a new sake brewing process with high hydrostatic pressure (HHP) treatment as a non-thermal pasteurization. Using this process, a prototype HHP-treated sparkling type draft cloudy sake, namely AWANAMA, was brewed. This prototype sake remains the sensory properties like draft sake, but avoiding deterioration by over-fermentation. In this report, we described the development of the new sake brewing process, results of marketing research by domestic and international exhibitions, and the still-remaining research objectives undergoing.
著者
佐藤 三佳子 前村 公彦 髙畑 能久 森松 文毅 佐藤 雄二
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.182-185, 2012-04-15 (Released:2012-05-31)
参考文献数
26
被引用文献数
4 3

カルノシン,アンセリンを高濃度に含有する鶏肉抽出物の摂取が,中高齢者の筋力にもたらす影響を検討した.中高齢者20名を2群に分け,鶏肉抽出物をそれぞれ一日量に1 500 mg(カルノシン,アンセリンの合計量として225 mg)もしくは0 mgを4週間継続摂取させた.摂取期間の前後に,等速性膝最大伸展力,膝最大屈曲力,および開眼片足立ちの保持時間を測定した.その結果,鶏肉抽出物群において,有意な膝最大伸展力の向上,開眼片足立ち保持時間の延長が認められた.これらの結果より,カルノシン,アンセリンを含有する鶏肉抽出物の摂取は,中高齢者の筋力の向上に有効であると考えられた.
著者
吉田 将雄 角嶋 直美 籔内 洋平 滝沢 耕平 川田 登 島田 清太郎 木村 英憲 佐藤 辰宣 塩月 一生 髙田 和典 岸田 圭弘 今井 健一郎 伊藤 紗代 堀田 欣一 小野 裕之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.622-629, 2020-05-24

●「考える内視鏡診断」のポイント・十二指腸は部位によって背景粘膜の構造が異なることを認識する.・隆起表面の大部分が周囲と同様の非腫瘍粘膜に被覆されており,粘膜下腫瘍(SMT)様隆起の形態を呈することを確認する.・通常観察では,SMT様隆起の辺縁の性状,病変のサイズ,色調,陥凹の有無,陥凹の境界,びらん・潰瘍形成の有無,単発・多発,病変の硬さ・可動性について観察する.・通常観察において粘膜表面に変化がみられた場合には,拡大内視鏡観察を行い,病変表面の腺管構造と血管構造を観察する.・超音波内視鏡検査(EUS)では,病変の存在する層,周囲の層構造との連続性,病変の境界,病変内部のエコーレベルや性状について評価する.