著者
浜守 杏奈 露久保 美夏 大倉 哲也 香西 みどり
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.27, 2015

【目的】近年,大麦に含まれる&beta;-グルカンによる健康効果が注目されており,大麦は米よりもデンプン分解酵素の活性が高いこと,米と大麦の混炊においてそれぞれの単独炊飯よりも還元糖量が増加すること等を明らかにしてきた。しかし,米と大麦の混炊中に酵素がどのように移動し,どこで糖生成に関与しているかについては明らかになっていない。本研究では&beta;-アミラーゼ欠損品種である日本晴と大麦の混炊を行い,大麦の&beta;-アミラーゼの炊飯中の挙動を調べることで混炊における糖生成のメカニズム解明の一助とすることを目的とした。 <br>【方法】90%搗精米(日本晴),75%搗精丸麦(モッチリボシ)を試料とした。官能評価により混炊割合および加水量を決定した。生試料および炊飯後試料から成分抽出液を調製し,ソモギーネルソン法,フェノール硫酸法およびHPLCにより各種糖量を測定した。酵素活性測定は大麦粗酵素液を可溶性デンプンに反応させ,加水分解活性を測定し,&beta;-アミラーゼ活性はメガザイムのキットを使用した。炊飯途中の米・麦粒および炊飯液から粗酵素液を調製し,&beta;-アミラーゼのポリクローナル抗体を使用し,酵素の有無をイムノブロット法により調べた。免疫染色では混炊および単独炊飯した際の米粒を4%PFAで固定後凍結切片を作成し,蛍光顕微鏡観察により&beta;-アミラーゼの局在を調べた。 <br>【結果】官能評価より米と大麦の混炊においては混炊割合50%,加水比が米重量に対し1.5,麦重量に対し1.8となった。イムノブロット法の結果より混炊の1時間浸漬中にすでに大麦の&beta;-アミラーゼが炊飯液に溶出し,さらに米粒内に浸入すること,40℃まで粒内に留まり,60℃で再び溶出することが明らかになった。免疫染色の結果でも,大麦の&beta;-アミラーゼは1時間浸漬中に米粒の表面付近に存在していることが示唆された。<br>
著者
木村 孝子 山澤 和子 堀 光代 長屋 郁子 横山 真智子 辻 美智子 川田 結花 土岐 信子 長野 宏子 西脇 泰子 山根 沙季
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.27, 2015

【目的】日本各地には、各地域の自然環境の中から育まれた食材を中心とした日常食または行事食がある。しかし現代は、地域の伝統的な料理が親から子へ伝承されにくい傾向にある。そこで1960~1970年頃までに定着してきた岐阜県岐阜地域の郷土料理と、その暮らしの背景を明らかにするために聞き書き調査を実施した。<br>【方法】日本調理科学会「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」調査に参画し、岐阜県岐阜地域の本巣市、山県市、瑞穂市を調査した。対象者はその地で30年以上居住した60歳代~80歳代女性9名で、家庭の食事作りに携わってきた人である。<br>【結果】農業が主であった本巣市・瑞穂市では、日常食は米、小麦、自家栽培された作物を中心に朝はご飯、味噌汁、漬物、昼は農作業のため弁当(白飯、梅干しや紅しょうが、芋の煮物)、農作業の合間には「みょうがぼち」、夜は雑炊に漬物を食した。混ぜご飯の「おかきまわし」もよく食べられた。山県市は急峻で石灰質の土地のため、白飯は貴重であり、飯に小麦粉を混ぜてこね、みょうがの葉で巻いた餅を食した。里芋や芋茎、干した里芋の葉、手作りのこんにゃくを使った料理、味噌も家で作り、芋を使った味噌煮は日常食であった。本巣市、山県市では大根の古漬けをしょうゆや味噌味の煮物にしていた。伝え継ぎたい家庭料理には、みょうがぼち、芋もち、里芋の煮っころがし、芋茎の酢の物や煮物、おばこ煮、十六ささげの味噌和え、千石豆の胡麻和え、桑の木豆のフライ、ねぐされもち、おかきまわし、味噌煮などがある。
著者
綾部 園子 堀口 恵子 神戸 美恵子 永井 由美子 阿部 雅子 高橋 雅子 渡邊 静
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.31, 2019

<p>【目的】日本調理科学会平成24〜26年度の特別研究で,次世代へ伝え継ぐ資料とし群馬県内で聞き書き調査を行い報告した。その後の追加調査や刊行資料調査も含め,群馬県の家庭料理の副菜の特徴について報告する。</p><p>【方法】平成25年〜27年に群馬県内の8地域において,各地域2名以上(60 歳〜80 歳代,居住年数 40 年以上)の調査対象者に対して面接調査を行った。面接は特別研究の方法に従い,調査の同意を得た上で,調査票に沿って対話したものを記録した。その後,嬬恋村・片品村において追加調査を行った。</p><p>【結果および考察】群馬県は首都圏に近く気候にも恵まれ,いろいろな野菜が生産され,旬には山菜やきのこなどの利用も多い。これらの野菜を使って多様な野菜料理が作られているが,中でも「きんぴら」はそれぞれの家庭の味つけで鍋いっぱいに作る常備菜で,おかずはもちろん麺類の「こ」としてもよく登場した。また,自宅でとれた野菜をたっぷり入れたみそ汁は副菜を兼ねるもので,牛蒡,大根,にんじん,里芋,ねぎなどの野菜に油揚げ,豆腐,こんにゃく等をいれたけんちん汁はその代表ともいえる。野菜の煮物にはさつま揚げなど「買ったもの」を入れることも多かった。漬物(ぬか漬け,梅干し,沢庵,白菜づけ,紅しょうが,らっきょう,きゅうりの味噌漬け,きゅうりやなすの塩押し,山菜漬け,きのこ漬け等)はそれぞれ自家製の野菜を樽で漬けた。ゆでた野菜はうどんの「こ」にする他,お浸しや胡麻よごしとしても食べた。大根葉,切り干し大根,いもがら,ぜんまいなどの乾燥野菜や切り昆布は戻して煮物にした。野菜の天ぷら,花豆などの煮豆,特産のこんにゃくを使った田楽や白和えも来客時や日常食として食されている。</p>
著者
松下 純子 武田 珠美 後藤 月江 遠藤 千鶴 高橋 啓子 有内 尚子 長尾 久美子 金丸 芳
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.23, pp.137, 2011

【目的】日本調理科学会特別研究「日本各地の調理文化の地域性」の一環として、「行事食」調査を行った。徳島県における行事食の認知、摂食、調理状況などを把握し食生活の現状を考察することを目的とした。<BR>【方法】対象は徳島県在住の大学生およびその保護者、一般人502名とし、留め置き法によりアンケート調査した。この中から、徳島に10年間以上在住の252名を集計対象とした。人日から大みそかまでの正月を除いた行事と春祭り、秋祭りを取り上げ、認知度、食経験、よく食される料理などを30歳未満、30歳~50歳未満、50歳以上の3年齢区分に分類してクロス集計し、カイ二乗検定を行った。<BR>【結果】行事食でどの年齢区分でも認知度の高いものは、上巳、端午の節句、土用の丑、クリスマス、大みそかで85%以上であった。その他、50歳以上では人日、春分の日、彼岸の中日などでも高い認知度を示した。逆に、どの年齢区分でも重陽の節句、春祭りは30%未満であり低い値であった。食経験は人日、上巳、端午の節句、七夕、土用の丑、盂蘭盆など、多くの行事で50歳以上が他の年齢区分に比較して高かった。月見、クリスマス以外の行事食では、年齢区分間に食経験で有意差が認められた。年代が高くなるにつれ食されていたものは、節分「いり豆」、春分の日と彼岸の中日の「ご飯・だんご」、端午の節句「ちまき、柏餅」、土用の丑「うなぎの蒲焼き」、月見「だんご」などであった。どの年齢区分でもよく食されていたものはクリスマスの「ケーキ」、大みそかの「年越しそば」であった。年末行事であるクリスマス、大みそかは認知度および食経験からも行事として定着していたが、季節ごとの行事は年代が低くなるほど希薄化していることが判明した。
著者
間宮 貴代子 小出 あつみ 阪野 朋子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.32, 2021

<p>【目的】たまり醤油は、豆味噌と並ぶ愛知県の代表的な調味料である。本研究では、たまり醤油についてのイメージや認知度、使用方法についての意識調査を実施した。また、たまり醤油の使用用途を広げる目的で菓子の商品提案を試み、その特性と嗜好性を検討した。</p><p>【方法】調査対象者はN女子大学の学生318名(平均年齢20.5歳)で自記式質問紙調査を実施した(回収率100%、有効回答率94%)。菓子は、イチビキ㈱製のたまり醤油を使用して5品目(フィナンシェ、チョコレート、ドーナツ、ワッフル、キャラメル)を調製し、栄養価を求めた。官能評価はパネル16名(女性、平均年齢42.4歳)が6項目を5点尺度の採点法、嗜好性を順位法で評価した。得られたデータは<i>Excel</i>で集計し、意識調査の結果は<i>x<sup>2</sup></i> 検定(2×2分割表、n×m分割表)、官能評価結果は<i>Tukey</i>の多重比較検定および<i>Newell&MacFarlane</i>を行った。統計的有意水準は5%で示した。</p><p>【結果】たまり醤油の認知度は43%で、イメージは「味が濃い」の68%が最も多く、使用度は26%と少なかった。たまり醤油の認知度と使用度は、本人や母親が愛知県出身者のほうが、愛知県外出身者より有意に多かった。たまり醤油を使用する人は、刺身に使う人が80%と多かったが、愛知県の三河地域出身者に煮つけやたれなどにも使用する傾向がみられた。たまり醤油を知っている人では、刺身にたまり醤油を使う人は38%と少なく、醤油を使う人が66%と最も多かった。たまり醤油を使用した菓子5品目の官能評価の結果、たまり特有のとろみや濃厚なうま味などの特徴を活かし、新規性もあり好まれることが認められ、さらに工夫することで商品化に繋がる可能性が示された。</p>
著者
新澤 祥惠 川村 昭子 中村 喜代美
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.32, 2021

<p>【目的】石川県における行事食の特徴あるものを検討した。</p><p>【方法】平成25〜27年に実施した「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」の聞き書き調査(穴水町、金沢市、野々市町、白山市、小松市、白峰村)及び文献等により検討した。</p><p>【結果】1)「あえのこと」は田の神様に感謝をするものとして能登一帯で今も行われている行事で地域の季節の食材で調理された料理が用意され、田の神様をもてなした後、家族の直会が行われる。 2)「報恩講」は浄土真宗の行事であり、多くは小豆汁が用意されるが、白峰村ではなめこ汁が作られ、これに、大盛りのごはんと厚揚げ、堅豆腐や山菜などを使った精進料理が用意されている。 3)「祭り」の料理としてえびすがあり、金沢、加賀では塩魚を使った押しずしが作られた。 4)「婚礼」の料理として鯛に炒りおからを詰めて蒸した唐蒸しがある。特に婚礼では大鯛を一対腹合わせに盛り付けて供される。また、五色生菓子が準備される。これは、日・月・山・海・里にみたてた5種の菓子を近所や親戚に配るものであるが、徳川家より玉姫が輿入れした題に献上されたものといわれる。 5)「氷室」は江戸時代、冬に雪を氷室に貯蔵し、旧六月朔日に氷室を開きこれを江戸の将軍家に届け、庶民はこの時期収穫される麦で饅頭を作ったという故事にちなみ、現在は7月1日に白、赤、緑の饅頭やはぜ、ちくわを食べている。 6)正月の雑煮は能登、金沢、加賀で差異がみられる。おせち料理で地域性のあるものとしては、棒だらの煮付け、ぶりなます、鮒の甘露煮があり、能登ではあいまぜも準備される。正月菓子としては前田家の家紋梅鉢にかたどった紅白の最中に砂糖をまぶした福梅(ふくんめ)や福徳がある。 以上、石川県では、信仰にちなんだ行事と武家文化に影響された行事食がみられた。</p>
著者
河野 俊夫 山本 由徳 疋田 慶夫
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.24, 2012

(目的)本研究では、食用カンナ澱粉のもつ高い粘度特性を活かした新食感パスタを提供することを目的として、主原料の小麦粉に一定程度の割合の食用カンナ澱粉を混ぜ合わせた食用カンナ澱粉パスタの試験製造を行い、その品質評価を行った。(供試材料および方法)食用カンナ澱粉は、台湾赤系統(No.10とNo.13)の根茎を電気ミキサーですり潰し、二重にした100mesh布で絞り出し乾燥させたものを用いた。小麦粉100gに対して15, 30, 45gの食用カンナ澱粉を添加し、水9g、オリーブオイル6g、塩0.2gと合わせ手捏ねで生地を作成した。これをパスタローラーにより2mm厚とし、フェットチーネカッターを用いて6.5mm幅の生パスタに成形した。(結果)食用カンナ澱粉を配合したパスタの表色は小麦粉のみを主原料とするパスタに比較し、くすんだ色を呈した。しかし、a*値は2.5~5.0、b*値は20~28で、色調は変わらない値であった。咀嚼モードでパスタ押圧時の見かけヤング率を計測した結果、食用カンナ澱粉を用いたパスタは、0.23~0.50N/mm<sup>2</sup>の値を示し、小麦粉のみのパスタの0.24~0.3N/mm<sup>2</sup>に比較し、少し硬い食感となることが分かった。弾力性値、咀嚼性値も、見かけヤング率の結果を反映し硬い食感値を得た。小麦粉のみのパスタとの比較による食味官能評価(-2~+2評価)では、つやは+0.2~0.55、なめらかさは0~+0.67、においは+0.11~+0.66といずれも小麦粉のみのパスタよりもプラスの評価を得た。
著者
渡邊 幾子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.30, 2018

【目的】レンコンは徳島県の特産物であり収穫量も全国上位である。しかし、規格外品や傷つき青果市場へ出荷できないものは廃棄されている。これら未利用資源は環境への配慮から有効活用する取り組みが進められ、手軽に利用でき保存性の高いレンコンパウダーが開発された。本研究では、レンコンおよびレンコンパウダー(以下、パウダーとする)に関するアンケート調査を実施するとともに、パウダーを配合した食品を調製し、その嗜好性について検討した。<br><br>【方法】徳島県在住者を対象として、2017年6月から7月に自記入方式でアンケート調査を実施した。レンコンの特産品としての認知度、パウダーの認知度、イメージや食べてみたい料理などについて調査結果を集計、分析をした。徳島県鳴門市産のパウダーを配合した蒸しパン(0%、10%、15%)とお好み焼き(0%、10%、20%、30%)を調製し、本学学生および教員をパネルとして5段階評点法による官能評価を実施した。<br><br>【結果】アンケートの有効回答数は132枚であった。レンコンは82.6%の者が特産品として認知していたが、パウダーの認知度は33.3%と低く、パウダーが普及していないことが示唆された。イメージとしては、「様々な料理に使えそう」、「手軽」といった良い意見がある一方、「においが強そう」という悪い意見もみられた。食べてみたい料理は、「天ぷら」、「お好み焼き」、「パン」、「あんかけ」など粉類に混ぜる料理やとろみをつける料理が挙げられた。官能評価の結果、蒸しパンでは0%配合が最も好まれたが、お好み焼きでは全ての項目(外観、香り、味、食感および総合評価)において10%配合の評価が高かった。お好み焼きはパウダーを有効活用できる一品であると考えられた。
著者
後藤 月江 三木 章江 川端 紗也花 高橋 啓子 坂井 真奈美 松下 純子 長尾 久美子 近藤 美樹 金丸 芳
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.29, 2017

【目的】伝統的な郷土料理は、生活に喜びを与え、家族や地域社会の絆を深めてきた。しかし近年、輸入食品の増加、食の外部化、核家族化により、郷土の料理を家庭で作る機会が減り、伝統的な地域の食文化が親から子へ伝承されにくい傾向にある。本研究では聞き取り調査により徳島県の日常または伝統的な行事で作られていた「おやつ」について報告する。<br />【方法】徳島県を県中央部、県西部、県南山間部、県南沿岸部、吉野川北岸の5地区に分け、聞き取り調査を実施した。今回は徳島県の家庭料理における各地域の「おやつ」について検討を行った。<br />【結果】全地域で食べられているのは「おへぎ・あられ」と「ういろ」、「干し芋」、「柏餅」であった。「おへぎ・あられ」は餅を搗いたときにおへぎ・あられ用に色粉やヨモギ、キビ粉などと砂糖を入れて作り、よく乾燥させて保存し食べられている。「ういろ」は米粉と餡を合わせて練り蒸して作る。4月3日の桃の節句(旧暦)の遊山箱には欠かせないおやつであった。「干し芋」は茹でて干したものと生の輪切りを干したものがあり、そのまま食べたり、小豆と一緒に煮た「いとこ煮」にして食べる。サルトリイバラの葉で挟んだ「柏餅」は、米粉の生地で餡を包んだ白い柏餅と餡を生地に練り込んだ柏餅がある。また、吉野川北岸や県中央部では小麦粉の生地で餡を包み、サルトリイバラの葉の上に乗せて蒸した団子が柏餅として食べられていて、その餡にはそら豆を用いていることが特徴的であった。また県南山間部では、「はんごろし」と呼ばれるおはぎ(蒸したもち米の粒が半分潰れるくらい搗くことに由来する)が親しまれており、餡はササゲのこし餡である。
著者
渡邊 幾子 植田 和美
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.22, pp.211, 2010

【<B>目的<B>】ういろうは蒸し菓子の一種であり、小田原、名古屋、山口などの特産品として知られている。徳島県では寛政年間に和三盆糖で蒸し菓子を作り桃の節句に食したのが始まりとされる「阿波ういろう」がある。そこで、アンケート調査を行い「阿波ういろう」に対する認識を把握するとともに物性測定および官能検査からその品質特性と嗜好性を検討した。<BR>【<B>方法<B>】徳島県在住者を対象に2008年5~7月に質問紙法によるアンケート調査を実施した後、「EXCEL太閤」を用いて集計し解析を行った。主な調査項目は「阿波ういろう」の嗜好、イメージ、伝承意欲などである。次いで、徳島県下で販売されている「阿波ういろう」10種類(A~J)を試料として破断強度、色彩、糖度を測定した。また、本学学生をパネルとして官能検査(評点法)を実施した。<BR>【<B>結果<B>】アンケート調査の有効回答者数は354名であった。「阿波ういろう」の知名度は76.6%、飲食経験者は68.9%であった。飲食経験者の76.0%が「好き」「まあまあ好き」と答えており、嗜好では性別による有意差(p<0.05)がみられた。そのイメージは「美味しい」「素朴」「徳島の伝統菓子である」が上位を占めていた。「伝承していきたい」は49.2%を示し、35.4%が回答した「作ってみたい」では年齢間で有意差(p<0.01)があった。物性測定からは、試料間により破断強度、色彩、糖度に差異がみられた。官能検査の総合評価には、外観、味、甘さの好ましさが影響していると考えられた。また、破断強度の値が極端に高い3試料と低い1試料では官能検査の食感(嗜好)も低くなっていた。
著者
原 夕紀子 飯島 久美子 香西 みどり
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成23年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.76, 2011 (Released:2011-08-30)

目的緑色野菜に含まれるクロロフィル系の色素は、加熱により分解、変色しやすいため、調理過程を予測するには色と物性両方の定量的把握が必要である。本研究では、ゆで加熱・炒め加熱・揚げ加熱による野菜の色と硬さの変化を定量的に扱い、これらの単独加熱に炒め加熱を加えた組み合わせ加熱において、色と硬さの変化を予測し、最適条件の設定を行った。さらに「油通し」に代わる前処理法として「湯通し」の効果を検討した。 方法試料としてピーマンを用い、ゆで加熱では70~99.5℃、炒め加熱と揚げ加熱では100~190℃の各温度で加熱し、色(色差計,-a*/b*)と硬さ(テクスチャーアナライザー)を測定し、-a*/b*を緑色度とした。各温度における色の変化と軟化の速度定数を求め、試料の色と硬さの変化を予測し、実測値と比較した。ゆで加熱後に炒め加熱(湯通し)を、また揚げ加熱後に炒め加熱(油通し)を行い、単独加熱で算出した色の変化と軟化の速度定数から、組み合わせ加熱における試料の色と硬さの変化を予測し、実測値と比較した。 結果いずれの加熱操作も、加熱初期段階に緑色度の増加がみられ、その後に退色が起こるため、2段階で解析した。100℃における緑色度増加の速度定数はゆで>あげ>炒め、退色はあげ≧ゆで>炒め、軟化の速度定数は、あげ>ゆで>炒めの順に大きかった。単独加熱の結果を用いて、組み合わせ加熱における試料の色と硬さの変化を予測し、実測値と比較した結果、ほぼ一致した。また、「湯通し」は「油通し」より、炒め時の外観が良好で、簡便な前処理としての利用が期待でき、実際の調理における油通しや湯通しを用いた組み合わせ加熱への本法の応用可能性が示された。
著者
冨岡 佳奈絵 松本 絵美 岩本 佳恵 髙橋 秀子 長坂 慶子 魚住 惠 菅原 悦子 村元 美代 渡邉 美紀子 佐藤 佳織 阿部 真弓
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.32, 2021

<p>【目的】岩手県の伝統的な家庭料理を次世代に継承することを目的に地域ごとに聞き書き調査を行った。その中から、行事食の特徴と地域による違いについて報告する。</p><p>【方法】調査は、岩手県を7地域(県北・県央・中部・北上高地南部・県南・沿岸・奥羽山系)に分け、平成24〜26年に実施した。対象は、地域に30年以上居住している61〜96歳の女性18人とし、昭和30〜40年代の食事と、この頃から伝わる家庭料理について聞いた。その調査結果から、行事食の特徴について比較検討した。</p><p>【結果】正月の雑煮は、しょうゆ仕立ての角もちが基本で、沿岸では「くるみ雑煮」、県南では「ひき菜の雑煮」、かつて沿岸北部では、雑煮ではなく「まめぶ」のところがあった。雑煮のほか、沿岸では「氷頭なます」、県北では「手打ちうどん」があった。桃の節句には、県央・北上高地南部では「ひなまんじゅう」「きりせんしょ」、中部では、くるみを散らした「ごまぶかし」があった。田植えの小昼(おやつ)に、北上高地南部では「小豆まんま」があった。県南では、農作業の節目ごとに餅を食べ、冠婚葬祭にも餅は欠かせず、婚礼の際は「餅本膳」があった。一方、県北では、冠婚葬祭に「手打ちそば」だった。盆には、沿岸・北上高地南部・奥羽山系では「てん(ところてん)」、さらに奥羽山系では「カスべの煮つけ」があった。御大師様の日には、県南では「果報団子」があった。年取りには、全域で「なめたがれいの煮つけ」がみられ、沿岸では「干し魚(はも)入りの煮しめ」、奥羽山系では、ぜんまいの一本煮や凍み大根、身欠きにしんの入った「煮しめ」があった。各行事において、その時季の地場産物や気候風土をいかした食材を調理し、地域・家庭で継承されていた。</p>
著者
木之下 道子 木下 朋美 大山 典子 山下 三香子 久留 ひろみ 進藤 智子 山﨑 歌織 新里 葉子 森中 房枝
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.32, 2021

<p>【目的】鹿児島県は、奄美群島などの島しょ部を含み南北600kmに渡る。温帯から亜熱帯気候に属し自然豊かで食材の変化に富み、南方の国々等の影響を受けながら食文化が発達してきた。昔から続く鹿児島の行事食を次世代に伝え継ぐ目的で本調査を行った。</p><p>【方法】平成24〜26年に鹿児島の行事食について聞き書き調査した内容に加え、郷土誌やふるさとの食のレシピ集等を併せて資料とした。</p><p>【結果】餅が貴重だった時代、鹿児島の正月料理には里芋を用いる風習があった。正月飾りに里芋と餅を並べたり、子孫繁栄を願った「八つ頭の雑煮」に「かしわのうま煮」「煮豆」「刺身」「なます」「干し柿」など手作りの家庭の味を楽しんだ。年始客のもてなしには「焼き海老の雑煮」「春羹」「こがやき」なども加えられた。奄美群島ではおせち料理や雑煮に代わって、「餅の吸い物」「刺身」豚または鶏の吸い物からなる「三献」が大切にされる。七草粥は7歳の子供の成長を地域ぐるみで見守る行事としての意味合いがある。桃の節句に欠かせないちらしずしは「さつますもじ」と呼ばれ、祝菓子としての「軽羹」「高麗餅」「いこ餅」「小豆羹」「木目羹」などの蒸し菓子が作られてきた。端午の節句では、もち米を木灰汁につけ、竹の皮で包んで3時間以上煮た「あく巻き」が作られる。また、サンキライの葉で包む「かからん団子」肉桂の葉で包む「けせん団子」「ふっの餅」(よもぎ餅)などもある。盆料理は「かいのこ汁」や「といもがらのなます」「糸瓜のそうめん汁」「落花生豆腐」と「鼻つまん団子」などが特徴的だ。秋の収穫を祝う行事では「煮しめ」や「山芋のおとし揚げ」などもある。以上のように鹿児島に根付く独特の行事食が多く見受けられた。</p>
著者
辻 美智子 堀 光代 西脇 泰子 木村 孝子 長屋 郁子 坂野 信子 長野 宏子 山澤 和子 山根 沙季 横山 真智子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.29, 2017

【目的】岐阜県に伝承されている家庭料理の中で、おやつとして食べられている料理の特徴についてまとめることを目的とした。<br />【方法】日本調理科学会特別研究「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」のガイドラインに沿い、岐阜県の家庭料理について平成24年~27年に聞き書き調査を行った。調査対象地域を岐阜、西濃、中濃、東濃、飛騨の5圏域に分類した。対象者は調査地で30年以上居住し、家庭の食事作りに携わった43名である。聞き書き調査の結果からおやつに関する料理を抽出し、圏域別に特徴をまとめた。<br />【結果】岐阜圏域の「みょうがぼち」は、空豆餡を小麦粉生地で包み、茗荷の葉を巻き、蒸して作られ、初夏の食材を活かし田植えの合間に食されていた。西濃圏域の今尾地区の「竹寒天」は、竹神輿の材料である竹の中に寒天液を流し込んで作られ、左義長に出されていた。中濃圏域では初午の「まゆだんご」や端午の節句や田植え休みの「ぶんだこ餅」など、米や米粉に砂糖や小豆を加えたおやつを作り、ハレの日に食されていた。中濃・東濃圏域では、新米の収穫時期に「五平餅」が作られ、来客時にも供されていた。東濃圏域の「からすみ」は、米粉に好みの味(黒砂糖、抹茶、胡桃、紫蘇など)を加えて蒸したものであり、桃の節句には欠かせないものであった。また、秋には特産の利平栗を用いた「栗きんとん」や「栗蒸し羊羹」も親しまれていた。飛騨圏域の「甘々棒」はきな粉を主原料とした飴菓子であり、かつて寒冷地の農業普及に大豆の栽培が奨励され、大豆を美味しく食べる工夫がされていた。内陸県である岐阜県のおやつは、田畑や山などで収穫される季節の食材を活かし、小麦粉・米・米粉に砂糖、小豆などを用い、折々の喜びを食にも込めていた。
著者
柘植 光代 時友 裕紀子 阿部 芳子 松本 美鈴 坂口 奈央
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.29, 2017

【目的】山梨県で食べられてきたおやつ/間食を主材料(小麦粉、米粉、もち米、とうもろこし粉、いも類、その他)で分類し、地域による特徴をまとめた。<br />【方法】日本調理科学会特別研究「次世代に伝え継ぐ家庭料理」のガイドラインに沿い、山梨県の生活環境と家庭料理について平成25~27年に聞き書き調査を行った。峡北(北杜市)、峡中(甲斐市)、峡西(南アルプス市)、峡東(山梨市)、峡南(南部町)、東部(上野原市)、富士五湖・富士山麓(山中湖村)を調査対象地とした。<br />【結果】間食の名称にはナカイレ、オチャ、オヤツ、オコジュウ、ヨウジャなどがあり、地域により違いがみられた。<br /> 主材料が小麦粉のおやつには薄焼き、ねじり菓子や酒まんじゅう、米粉のおやつには砕米を利用した薄焼きや、上新粉を利用したまんじゅう、かしわもち、草もちなどがあった。もち米を蒸して搗き、きな粉と黒蜜をかけた「あべ川もち」は盆の時期に食べられ、節分の豆とひなあられを使う「おしゃかこごり」は灌仏会で用いられるなど、もち米を使ったおやつは行事食の場合が多い傾向にあった。とうもろこし粉を用いた料理は北杜市や上野原市でもみられたが、特に山中湖村ではとうもろこし粉の料理が昔から常食されており、もろこし団子やもろこしまんじゅうがおやつとしても食べられていた。<br /> さつまいもやじゃがいもを用いたおやつも多く、「いものこ」(南部町)はさつまいもを輪切りにし、ゆで、中心部に開けた穴にわらを通して乾燥させた保存食品である。食べる際に水で戻して砂糖で煮る方法は特徴的な調理方法と考えられる。じゃがいもの小いもを揚げたり煮たりするおやつも各地でみられた。桃のシロップ煮やしょうが糖など、生産地特有のおやつもあった。
著者
次田 一代 村川 みなみ 渡辺 ひろ美 加藤 みゆき 川染 節江
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.32, 2021

<p>【目的】香川県の伝統的家庭料理を暮らしの背景とともに記録し、それを次世代に伝え継ぐことを目的とした。</p><p>【方法】県内各地の食生活改善推進委員協力のもと、その地域に30年以上居住し、家庭の食事作りに携わった60歳以上の人を対象として、日本調理科学会作成の調査様式に従い、2013年12月〜2015年3月に聞き取り調査を行った。</p><p>【結果・考察】調査から得られた香川県内の行事食は以下の通りである。①正月:あんもち雑煮、②春の初めに豊凶を占う祭礼:甘酒、押し抜きずし、ばらずし、ゆだめうどん、③ひな祭り:よもぎ餅、ひなあられ、わけぎ和え、④端午の節句:ちまきやかしわ餅、赤飯、⑤鰆の収穫時(4〜5月頃):鰆の押し抜きずし、カンカンずし、⑥半夏生:半夏のはげ団子、打ち立てうどん、⑦夏の土用:どじょう汁、⑧盆:米粉団子にあんをまぶしたもの、⑨秋祭り:ばらずし、天ぷら、酒の肴にあじの三杯、しょうゆ豆、⑩ため池の水抜き後(12〜2月頃):てっぱい、⑪小豆島にて農村歌舞伎の時(5月頃):わりご弁当。このように、さまざまな食材を用いた多彩な行事食が一年を通して食べられてきた背景には、香川県の地理・気候・風土の関与が大である。香川県は県土のおよそ半分に平野が広がり、温暖な気候であるため、米の裏作に小麦が栽培され、降水量が少ないことからため池が多く、その水ぬき作業などを共同で行ってきた。瀬戸内海では季節に応じた漁業も盛んである。行事食はこれらの農水産物や作業と関わり、貴重な米や麦の有効利用、季節ごとに収穫される大根、まんば、なんきん、いも、豆等の野菜、ため池や川の淡水魚、沿岸部での鰆、たい、ちぬを使った料理も見られた。これらの行事食を、今後も伝えていくことが重要であると考える。</p>
著者
井上 絵里香 大窪 綾 杉本 佳奈美 佐野 友恵 益田 理奈 喜多野 宣子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.18, pp.170, 2006

<BR>【目的】近年、社会・経済構造の変化により、家庭における食生活は急速に変化している。その変化の中で、家庭や地域独特の行事食が衰退の一途をたどる懸念がされている。行事食の中でも行事菓子の伝承実態について全国調査されたものは極めて少ないことから、今後の食文化伝承を教育目標とする食育における行事菓子の位置づけや方向を考えるための基礎データを得る目的で、全国の行事菓子の認知度や実施度について調査を行うことにした。<BR>【方法】11都道府県の大学、短期大学、専門学校の学生1309名を対象とし、行事菓子についての認知度や実施度に関するアンケート調査を行った。調査時期は2005年7月、配布、回収は各学校を通して行った。回収率は90.4%、1165名を有効データとした。なお、検定方法はΧ<SUP>2</SUP>検定を用いた。<BR>【結果および考察】アンケートの結果、認知度が高い行事菓子は、実施度も高い傾向となった。しかし、認知度は高いが実施度が低い行事菓子については、衰退が懸念された。 また、全体的に実施度が高い行事菓子は、クリスマスケーキ、バレンタインチョコ、節分豆などの行事自体にイベント性が高いものや、千歳飴や雛あられ、柏餅など、子供に関係のある行事菓子であった。よって、子供のころから慣れ親しんだ行事菓子は、大人になっても継続して食されるのではないかと考えた。今後、学校給食や食育の授業などを通して、幼少期から行事菓子に慣れ親しむ機会を増やすだけでなく、伝承する立場の親世代についても、行事菓子について理解を深め、体験できる機会を提供する必要性があると考えられた。
著者
成田 亮子 白尾 美佳 赤石 記子 伊藤 美穂 色川 木綿子 宇和川 小百合 大久保 洋子 香西 みどり 加藤 和子 佐藤 幸子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.32, 2021

<p>【目的】平成24,25年度特別研究「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」に基づき、昭和35〜45年頃に食べられていた東京都における家庭料理について聞き書き調査を実施し、次世代に伝え継ぐ家庭料理における行事食の特徴を検討した。</p><p>【方法】東京都23区(台東区・世田谷区・中野区・杉並区・品川区・板橋区・練馬区)、都下(日野市・奥多摩町)、島しょ(新島・式根島)の3地域に分け、70歳以上の都民を対象に、家庭料理を聞き書き調査した。その結果より正月、節分、桃の節句、端午の節句、七夕、お盆、土用、お彼岸、月見、七五三、大晦日などの行事食について抜出した。</p><p>【結果・考察】正月は雑煮が食べられていたが、23区と都下でも地域によって食材が異なり特徴がみられた。お節料理では、黒豆、紅白なます、昆布巻き、数の子、きんとん、田作りなどが重詰めにされて食べられていた。節分では23区でイワシの焼き魚、煎り豆、都下で福茶が飲まれていた。桃の節句では蛤の潮汁、ひなあられ、端午の節句では島しょでしょうぶ、いももち、お彼岸ではぼたもちの他に、都下で海苔巻きずし、いなりずしが食べられていた。お月見では月見団子の他に島しょであおやぎ、七五三では都下で、とりの子餅、大晦日では23区で年越しそば、すき焼きなども食べられていた。不祝儀や仏事では23区で白和え、島しょでひら、忌明けだんごが食べられていた。ひらは祝儀と不祝儀で盛り付け方を区別して用いていた。東京23区、都下では行事食で食べられているものは現在と変わらないものが多かった。島しょでは特徴があるものがみられた。聞き書き調査を行い、昭和35年ごろから現在まで行事食は変わらず受け継がれていることが分かった。</p>
著者
荒田 玲子 仙土 玲子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成28年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.13, 2016 (Released:2016-08-28)

【目的】茨城県の家庭料理を調査する中で、茨城県太平洋沿岸の鉾田市、鹿嶋市、神栖市で昭和30年代に食され、その主材料が入手困難になったり、高価な食材になっても、食べ継がれているイルカ料理と、背黒イワシやサンマで作られるごさい漬けについて、現在の調理法、食べられ方について聞き取り、その調理法と食べられ方を明らかにすることをこの調査の目的とした。【方法】イルカ料理を現在も作り食べている鹿嶋市のHさん、神栖市のIさんにその調理法と食べ方について聞き取りを行う。また、調理をしていただき、写真と筆記で記録する。ごさい漬けに関しても、昔から現在までの調理法と食べられ方についてYさんとIさんに聞き取り調査を行う。また、この地域のスーパーで品揃えを調査し聞き取りも行う。【結果】イルカは現在茨城県沖では漁が行われておらず、冬になるとこの地域の店に並ぶイルカは、『岩手産のいしいるか』であった。味には癖があり、他の肉類より高価で入荷も限られる。イルカ料理の愛好者は年配者に多く、入荷するとあっという間になくなるとの事である。脂肪の層と赤身の層が一層ずつの独特の肉をキューブ状に切り、血抜きをして、牛蒡などと一緒に砂糖と醤油で煮込む方法は素朴で長年の食経験と調理経験に裏付けられた合理的なものであった。ごさい漬けは、昭和30年頃豊富に漁獲した背黒イワシを秋の終わりに大根と共に漬けこみ、正月に食べたものであったが、背黒イワシが手に入りにくくなり、主材料を秋刀魚などに変えて作ったり、昔ほど食塩を多く使わなくなり、本年の冬のように暖冬だと、低塩では上手く保存して発酵させることが難しくなってきているようである。食環境の変化が、料理の形を変えていき、否応なく変化し、廃れていく料理があるという例を見たように思う。