著者
河野 昌仙
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

1次元の厳密解と鎖間結合が弱い極限からの近似法とを組み合わせた方法によつて、異方的2次元フラストレート系の磁場中で現れる準粒子について調べた。その結果、今回得られた準粒子は、通常の磁性体の準粒子として知られているマグノンや1次元系の準粒子とは異なる様々な特異な性質を示すことが明らかになった。特徴的は振る舞いとして、磁化に強く依存した波数におけるスピン密度波型の非整合秩序、複数の準粒子による磁場中のクロスオーバー、高エネルギー領域に現れる強いスペクトル強度をもつモードなどを挙げることができる。これらの振る舞いは、通常の線形スピン波理論では説明することができず、また、発現メカニズム、動的構造因子の形状、秩序化の有無、次元性、統計性などにおいて1次元系の準粒子とは異なる。これらの特徴的振る舞いは、その発現メカニズムに起因している。つまり、通常のスピン波理論では、マグノンは自発的対称性の破れによって安定化するのに対し、今回の準粒子は1次元準粒子の鎖間ホッピングによつて形成される結合状態とみなすことができる。したがつて、発現メカニズムはマグノンよりもむしろフェルミ液体で現れる集団励起のものに似ており、基底状態の対称性の破れに依らず、個別励起間の多粒子プロセスによつて生じる。この意味で、今回得られた準粒子は、異方的2次元のスピン液体または、1次元準粒子であるプサイノン、反プサイノン、2-ストリングの準粒子の液体とみなすことができると考えられる。また、今回得られた準粒子描像によって、異方的三角格子反強磁性体Cs_2CuCl_4の磁場中で観測されていた様々な異常な振る舞いを統一的かつ定量的に説明することに成功した。
著者
池野 英利 村岡 智之 西垣 浩也
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. MBE, MEとバイオサイバネティックス
巻号頁・発行日
vol.97, no.45, pp.91-97, 1997-05-16

ミツバチは2つの刺激を組合せて与えることによって,連合学習を獲得することが知られている.この学習メカニズムは,刺激の受容から行動の制御に至る神経回路の最も基本的な記憶機能であり,連合学習という立場で神経系の機能を統一的に捉えることができると考えられる.ミツバチのパターン識別についての行動実験では,分岐路の片側に餌が置かれたY字迷路により訓練が行われる.本研究では,連合学習を基に,このY字迷路におけるミツバチのパターン識別から行動制御に至る神経機構を数理モデルで記述した.これにより,Y字迷路におけるミツバチの行動について,時間的変化を含む解析が可能となった.
著者
幾留 秀一
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲 (ISSN:09155805)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.416-428, 1979-09-25
被引用文献数
1

1975年と1976年に高知県土佐郡土佐山村において, 4月から10月まで, 月2回, 10時から15時まで, ハナバチ類の種類構成, 相対頻度, 季節消長および訪花性を知るために, 生態的調査を行なった.1. 採集されたハナバチは, 合計6科12属42種701個体であった.2. 種類数における優勢なグループは, コハナバチ科(Halictidae)とヒメハナバチ科(Andrenidae)であり, 個体数における優勢なグループは, コハナバチ科, ケブカハナバチ科(Anthophoridae)およびミツバチ科(Apidae)であった.優占種としては, Ceratina japonica, Tetralonia nipponensis, Bombus diversus, Lasioglossum mutilumおよびB. ardensの5種が認められた.この結果と他地域(高知平野, 吉備, 美並および札幌)での調査結果を比較考察した.3. 季節変動では, 種類数においてコハナバチ科, ヒメハナバチ科およびケブカハナバチ科による晩春のピークが, 個体数において, 春のケブカハナバチ科, 初夏のミツバチ科とヒメハナバチ科による春から初夏にかけての大きなピークと, 初秋のコハナバチ科とケブカハナバチ科, 秋のミツバチ科, コハナバチ科およびミツバチモドキ科による初秋から秋にかけての小さなピークが, それぞれ認められた.また, 優占5種のうち, C. japonica, B. diversusおよびL. mutilumの3種はほぼ全期間を通して, T. nipponensisとB. ardensは春から初夏の期間のみに, それぞれ訪花活動を行なっていた.4. 被訪花植物として, 23科54種が認められた.ハナバチの訪花頻度の高い植物は, キク科, ユキノシタ科およびマメ科で, 訪花個体数の62.4%を占めた.ハナバチ各科の訪花性の特徴について述べた.また, 被訪花度の高い上位の植物種は, レンゲ, ウツギ, ヒメジョオン, ツツジおよびヨメナであった.さらに, ハナバチ優占種の各種植物への訪花度について述べた.
著者
平野 博之
出版者
岡山理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

「太陽熱を蓄える池」という意味のソーラーポンドを利用し,各種施設の暖房用熱源としての利用の可能性について,実験と数値解析の観点から検討を行った.実際に用いたポンドは,塩水の上に淡水を置き,太陽光を塩水に蓄熱するという塩濃度勾配型とよばれるものを用いた.このポンドでは,塩水と淡水の間の濃度勾配層が蓋の役割を果たすために蓄熱が可能となる.検討の結果,太陽熱の20%程度の量を蓄熱することが可能であることがわかった.
著者
登倉 尋実 緑川 知子 登倉 尋実
出版者
奈良女子大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

実験1)平成8年度の実験で両大腿部加圧時に唾液消化能力への被服圧の影響が大きいことがわかったので、今回は両大腿部に10mmHg,2mmHg,30mmHgの圧力を加えて加圧量により唾液消化能力・自律神経機能がどの様な影響を受けるかを調べた。被験者の両大腿部に血圧測定用カフを巻いただけの非加圧期間30分の後、60分カフに空気を送り加圧を行った。唾液消化能力の低下がすべての加圧時に、唾液分泌速度の低下、唾液中アミラーゼ濃度の低下が20mmHg,30mmHg加圧時に見られた。唾液中カルシウム濃度の上昇が30mmHgで、コルチゾール濃度の上昇は20mmHgで顕著に見られた。光に対するボタン押し随意反応時間は20mmHg、音に対する随意反応時間は30mmHg加圧時に遅延する傾向が見られた。皮膚圧迫により心臓における副交感神経活動の有意な亢進と交感神経活動の抑制が認められ、心拍数は有意に減少した。今回の加圧量と加圧部位においては交感神経系地域性能のより、加圧が唾液腺への副交感神経活動を抑制していたことが示唆された。実験2)実験において唾液腺への副交感神経が加圧により抑制されていることが示唆されたので、今回はさらに加圧によるストレスが唾液腺に影響を与えた可能性があると考え、ストレス下での加圧を試みた。ストレスとして環境温35±0.5°C,相対湿度60±3.0%の人工気候室内で暑熱負荷を行い体温調節反応も併せて測定した。その結果加圧時には発汗量が抑制され深部体温の上昇度が有意に多くなった。唾液中コルチゾール・尿中カテコールアミン類・アンケートによる疲労感・不快感が加圧時に上昇を示した。唾液分泌量の減少が認められた。以上のことから、被服圧は加圧部位における直接的な影響からは計り知れない生理的影響を,自律神経系ストレス系を通して体中に生じていることが示唆された。
著者
古川 智恵子 豊田 幸子
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要 (ISSN:02867397)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.1-10, 1982-03-31

北設楽地方において,戦前までに着用された女の仕事着について調査した結果,農家の一日の生活時間は,生活即労働といっても過言ではない程で,農作業の場と日常生活の場を,明確に分けることは困難であった.したがって,女の人の仕事着はどの地域においても,家居の時や,仕事の種類によって丈を自由に調節し得る和服の長着物に腰巻,半幅帯のワンピース形態で順には手拭い,仕事によって前かけをつける点に共通性がみられた.これが仕事着の主流であり,又ふだん着の役目をも果していた.稲武町,設楽町,津具村地域では,上記形態に加え水田作業時には股引を,畑作,山仕事にはたつけやもんぺ等を着用する人もみられた.これらは足さばきや,腰の前屈身などの動作に適応する股下構造に機能的な工夫のみられる下半衣を着用する点に地域差がみられた.また袖の形態では,筒袖,鯉口はどの地域にもみられたが,てっぽう袖,平袖は東栄町,豊根村以外の地域にはみられなかった.このように,股引やもんぺにみられる股下のまち構造,および袖の形態がたすき1本にて容易にかえ得ること,袖下のみを縫い直すことによって袖形態を自由にかえ得ることの出来る経済性と簡易性,また着丈の調節のみで作業目的に合わせ,作業動作を機能性のすぐれたものにしていること等は,農村の人々が何代にもわたって着用し,その生活体験から改善,工夫を加えてきたものだけに尊く,その発想が現代のズボン式もんぺや作業衣の袖形態に連綿と受けつがれているのを見るとき,その当時の人々の生活の知恵に今更ながら感心させられるのである.今回の調査により,当時の自給経済の中で,綿を作り,糸を紡ぎ,染色し,布を織り,家族の者の着物を一手に引き受けて,裁ち縫いし,さらに農作業という重労働をも担ってきた女達の強さ,勤勉さにあらためて感銘を深めた次第である.引続き次報では第二次大戦以後,社会経済情勢の動きに伴う北設楽の農村変貌の中での仕事着について調査報告を行なう.
著者
田村 淳二 高橋 理音
出版者
北見工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、基本的に電力系統に接続しないスタンドアローン形のウィンドファームを想定し、風力発電出力を用いて電気分解装置により水素製造を行うシステムの設計を行った。具体的には、固定速風力発電機から成るシステム、交流励磁形誘導発電機から成るシステム、永久磁石形同期発電機からシステムを対象として、風力発電機、電解槽、蓄電装置の協調制御により水素を発生するシステムを構築し、それぞれの性能を検証した。
著者
柳川 秀雄 小早川 信一郎 片山 康弘 杤久保 杤久保
出版者
東邦大学
雑誌
東邦醫學會雜誌 (ISSN:00408670)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.291-298, 2004-09-01

目的:光学部エッジデザイン,支持部の形状がそれぞれ異なるシリコーン製眼内レンズ(IOL)を用いて,後嚢混濁面積の差異,後嚢への水晶体上皮細胞(LEC)の遊走の程度について比較検討した。方法:白色家兎(51羽)に4種類のIOLを嚢内移植した。IOLは全てキャノンスター社製で,スリーピースでラウンドエッジ(3PRE)のAQ2013Vとシャープエッジ(3PSE)のAQ310NV,ワンピースでラウンドエッジ(1PRE)のAA4203Fとシャープエッジ(1PSE)の改良型IOLの4種類である。超音波摘出術施行3週間後に眼球を摘出し,後嚢混濁面積の解析,LECの観察を行った。結果:AQ2013V群,AA4203F群のそれぞれの混濁面積はAQ310NV群や改良型IOL群に比べ有意に大きかった。1P両群で,支持部におけるLECの増殖抑制が認められた。また,3PRE群や1PRE群のほぼ全眼に,IOL後面へのLECの遊走が認められたのに対し,3PSE群や1PSE群では遊走抑制が認められた。結論:シリコーン製IOLにおいて,シャープエッジデザインのものは後発白内障抑制に効果が期待できる。シャープエッジの1P型IOLは,(1)支持部におけるLECの増殖抑制と,(2)エッジにおけるLECの遊走抑制が期待でき,後発白内障抑制に効果的であることが示唆された。
著者
清水 裕彦 猪野 隆 武藤 豪 嶋 達志 佐藤 広海 大森 整 北口 雅暁 舟橋 春彦
出版者
名古屋大学
雑誌
学術創成研究費
巻号頁・発行日
2007

J-PARC スパレーション中性子源に、基礎物理学のための冷中性子ビームライン BL05 を建設・整備した。光学デバイスにより精密に制御された中性子ビームを用い、中性子寿命の高精度測定をはじめとする物理実験が行われている。超冷中性子の高密度輸送法などの開発は従来の限界を超える測定を可能にする。物質研究においても磁気集光光学系を用いた極冷中性子小角散乱や共鳴スピンエコーなど新たな測定法を開発した。
著者
近藤 康久
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

研究課題である縄文時代網漁の再評価に向け、第2年度は地理情報システム(GIS)によるデータ解析を中心に、以下の通り研究を実施した。1縄文遺跡・漁網錘データベースの拡充を図った。これは今後の考古学の研究基盤を整備したという点において重要な意義を有する。この中から、これまでに少なくとも354遺跡から11,657点の漁網錘が出土している東京湾西岸帯を重点分析対象地域に選定した。2上記の数量は、(1)遺跡ごとの発掘面積のちがいと(2)自治体間の調査頻度のちがいに起因するバイアスを被っている。そこでまず(1)を補正するために、遺物検出率と遺跡の未掘面積・発掘面積比から遺跡あたりの遺物存在期待値を求める方法を考案した。次に(2)の問題を空間的自己相関分析の手法を用いて検証した結果、存在期待値は報告実数にみられた自治体間のバイアスを低減する方向に作用することが明らかになった。3対象地域内の自然遊歩道でGPS歩行実験を行い、その結果に基づいて分析地域に適用する移動コスト推定式を設定した。この式を用いて錘具出土地点から谷筋沿いに最寄りの大規模集落を特定するアロケーション分析を行い、大規模集落の漁撈活動領域を推定した。その上で、集落領域ごとの錘具の特徴を調べたところ、海岸に近づくほど土器片錘の比率が増し、上流にさかのぼるほど石錘の比率が増すというパターンを明確にとらえることができた。4解析結果を総合的に検討した結果、時間的には土器型式の細別段階レベル、空間的には1kmメッシュレベルの精度で、縄文時代網漁業の時空間動態を復元することに成功した。特に西南関東では、縄文前期の黒浜式期以降段階的に発展した網漁業が、中期中葉の勝坂I式期から中期後葉の加曽利EII式期にかけて極相に達し、後期初頭の称名寺式期の一時的な落ち込みと後期前半堀之内I式期の回復を経て、低調に転じることが明らかになった。
著者
渡邉 孝男 猿渡 英之
出版者
東北文教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

日中韓の成人、 園児等地域住民を対象に陰膳法の食事調査で採取した検体によりてケイ素摂取量の測定を実施した。(1)日本国内の飲料水中のケイ素は九州と東北地方に20 mg/Lを越す高濃度地域が認められた。食事中ケイ素摂取量は数十mgと推定されるが、飲料水のSi高濃度地域は食事摂取量の50%を越すことが示唆される。日本のケイ素濃度は中国よりも全体的に高い。(2)園児の爪中のケイ素等各種元素の測定を実施した。元素濃度は個人、園間での変動幅が大きい。
著者
田中 健一
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学 (ISSN:00303674)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.164-169, 2010-03-01

本稿では,都市における施設サービスへのアクセスを時間軸を導入して記述するモデルを構成し,首都圏鉄道網と駅間移動データを用いて各駅の立ち寄り易さを分析する.具体的には,退社後の帰宅途中に一定時間サービスにアクセスし決められた時刻までに帰宅可能な人数をサービス利用可能者数と捉え,サービスの提供場所と開始時刻の双方が利用可能者数に与える影響を分析する.分析結果から,JR山手線の各駅は時空間的な立ち寄り易さが際立って高いことが明らかになる.このモデルを基礎として,時空間領域における配置問題として一般化する方向性を示し,今後の展望について記述する.
著者
原田 純孝
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

「平成の農地改革」を標榜した2009年の農地制度改正について、その課題並びに内容と特徴を農政改革の全体的な文脈のなかで分析し、(1)農地貸借の自由化により農地制度の方向性が逆転したこと、しかし、(2)それが農業の構造改革にどう寄与するかは未知数であるうえ、制度改正自体も「道半ば」の状態にあり、(3)その行きつく先の如何(とくに所有権取得の自由化の成否)によっては、土地法制全体にかかわる様々な問題が生じうることを明らかにした。
著者
高田 正三
出版者
神戸大学
雑誌
神戸大学医学部紀要 (ISSN:00756431)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.43-58, 1991-07

脊髄損傷者に,社会復帰後の生活状況をアンケート調査し,社会復帰に影響を及ぼす要因を検討した。対象は頸損54例,胸損43例,腰損21例の計118例で,退院後,87%が自宅生活をし,日常生活動作や車いす動作で介助を要するものが,それぞれ41%,31%で,介助者の多くは配偶者・親・子供で86%を占め,介助者のうちの65%が50才以上であった。社会福祉サービスの利用は19%と低く,住宅改造は72%,就労は41%,有配偶者率は51%で,11%が結婚し,11%が離婚していた。車の保有率は76%で,免許証取得者は73%であった。脊髄損傷者の社会復帰に影響を及ぼす要因は,損傷部位,年齢も大きな因子であるが,介助者の存在・住宅改造の有無・就業の有無・運転の可否・配偶者の有無などの社会的要素も大きく関与し,これらは個人的努力はもちろん,社会的合意のもとに,公的制度により解決が図られるべきものと考える。
著者
小島 宏建
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2008

生体組織透過性の高い近赤外光を利用し、実験動物を生かしたまま生体内分子を画像化する方法、あるいはそれを発展させた診断法を確立すべく、社会的にも動脈硬化など各種病態との関連について関心の高い酸化ストレス、活性酸素種を主なターゲットとして必要な蛍光プローブ分子の設計と合成、そしてその応用を行い、生体中で活性酸素種の可視化に成功した。このことは今後の画像診断薬創製の有用な知見となる。
著者
大町 真一郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

自ら移動して環境の情報を積極的に取得して行動する知能ロボットへの応用を想定し、映像を用いた実環境中の物体の頑健でかつ高速な探索法を開発することを目的として研究を行った。高速化を実現するために、画像を多項式で表現する手法、および、多項式を用いて探索を高速に行う方法を開発した。まず、画像を関数で適切に表現する手法について検討した。様々な関数形を調査した結果、多項式により画像を十分な精度で表現できることが分かった。ただし、多項式で近似する際に最小二乗法等の良く知られた方法を用いたのでは計算誤差によって適切な近似画像が得られないことも確認された。そのため、直交多項式を用い、直交多項式の完全性を利用して画像の近似を内積計算で実現する手法を開発した。次に、画像を近似する多項式と入力画像との類似度計算を効率よく行う手法を検討した。その結果、多項式の係数ごとに類似度を計算し、それを足し合わせることで、高速に類似度計算を行う手法を開発した。実験を行い、従来の高速化法と比較して、提案手法がはるかに高速であることを確認した。ところで、一般に画像パターン認識では単一の画像を用いるよりも、複数の画像を用いて統計的に適切な認識結果を得る方が一般に性能が良い。これらを考慮し、提案手法を部分空間法に適用する手法を提案した。部分空間法では、複数の学習パターンからそのパターンを表わす基底を構築し、基底への射影成分を求めることで認識を行なう。これにより認識精度が向上するだけでなく、一般に基底は低周波成分の多いパターンとなるため、多項式による近似精度も向上させることを可能とした。さらに、本手法の考え方を、代表的な信号処理の手法である連続ウェーブレット変換の高速計算に応用した。多項式を用いた内積計算の高速化法を拡張し、連続ウェーブレット変換に必要な積分計算を高速化する手法を開発した。