著者
仲井 まどか 姜 媛瓊
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

バキュロウイルスは、昆虫のみに感染するDNAウイルスであり害虫防除資材として世界中で使用されている。また、タンパク質の発現ベクターとしても利用されている。これまで、約600種のバキュロウイルスが報告されているが、詳細な感染過程や遺伝子の機能が明らかにされているのは、タイプ種を含む一部のウイルス種に限られている。その主な理由は、特に顆粒病ウイルスなどバキュロウイルスの多くの種で感染可能な培養細胞がないため、組換えウイルスが作製できないからである。リバースジェネティクスによる遺伝子機能解析には、特定の遺伝子を破壊した組換えウイルスを用いるが、組換えウイルスの作製には感染可能な培養細胞が必要であり、これまで感染可能な培養細胞のないウイルス種の遺伝子の機能解析はできなかった。そこで本課題は、培養細胞を用いずに組換えバキュロウイルスの構築法を開発することを目的とした。主な成果は、バキュロウイルスのゲノムに大腸菌の複製起点を導入することにより大腸菌内で遺伝子組換えを可能にするバックミドDNAの作製法を確立したことである。
著者
深澤 まどか
出版者
京都府立医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

THP-1細胞、及びマウス単球-マクロファージを用いて、グレリン受容体(GHS-R),レプチン受容体(Leptin-R)の遺伝子ノックダウンにてグレリン、レプチン各々の作用が抑制され、また細胞内シグナリングにおいて、ERK1 のノックダウンで炎症-凝固に関するシグナリングが抑制され、AKTのノックダウンで炎症-凝固系のシグナリング(具体的にはトロンビン刺激に対して組織因子の発現)の活性化が抑制された。また、薬剤及び抗体によりマウス血中の単球と好中球数を抑制後、Vitroで遺伝子ノックダウンした単球及び好中球をマウスに静注後の実験的肺梗塞の生存率、塞栓率の変化を観察したところTissue Factorの発現が抑制されることで、生存率、塞栓率の改善を見た。詳細に関しては、更なる検討を予定している。
著者
田垣 正晋
出版者
大阪府立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

市町村障害者基本計画における、質問紙調査の自由記述データ、グループインタビュー、ワークショップの記録といった質的データの活用方法を、いくつかの自治体の実例をもとに検討した。分析手法としてはKJ法のみならず、テキストマイニングを適宜組み合わせたほうが、調査実施者の「アカウンタビリティ」の維持には有効と考えられた。調査結果は「事実」の同定というよりも、関係者が新しいストーリーを生み出す題材として、質的データは重要であることがわかった。
著者
中村 洋介
出版者
公文国際学園中等部・高等部
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

丹沢山地の標高1,000m以上に分布するブナ林の衰退状況を把握し、その要因について地形学的、気候学的に明らかにすることを目的に調査した。調査は現地踏査、植生調査および1960年代から現在までの空中写真の判読である。調査対象地域はおもに丹沢山地の畔ケ丸-大室山-蛭ケ岳-丹沢山-塔ノ岳の主稜線部である。調査の結果、おもに西向き・南向き斜面でブナの枯損・枯死が多く、風の通り道となる鞍部でも顕著であった。この西向き・南向き斜面には主稜線部でササ草原が多いことが判読され、この周辺においてもブナの枯損・枯死が多くみられた。冬季の踏査では、ブナの枯損・枯死がまとまってみられる場所や西向き・南向きのササ草原で相対的に積雪量が少ない、または積雪がほとんどないことが明らかになった。空中写真により1960年代から現在までのブナ林周辺の植生変化を判読すると、かつてはブナ林であったと推測される落葉広葉樹林が西向き・南向き斜面で減少し、ササ草原が拡大していることが明らかとなった。丹沢山地玄倉川流域の主稜線部では、現在でも崩壊地が多く分布し、崩壊地の谷頭はササ草原になっていることが多かった。このような崩壊地の谷頭でブナの枯損・枯死がみられる。崩壊地の谷頭では風が集まるため相対的に強風になることが多かった。丹沢山地の風向分布は、冬季は季節風由来の西風が多く、ササ草原上の偏形樹も西風を示していた。夏季は南風が卓越していた。現在、主稜線部でブナが立ち枯れている南西向き斜面と健全なブナ林が広がる北東向き斜面において年間の気温をデータロガーによって観測中である。現地踏査では、ブナハバチによるブナの葉の食害が5月を中心に多く見られ、この食害が西向き・南向きの風衝地側で多いことが認められた。食害に遭っているブナでも風上側の北または東側のブナの葉は健全である。
著者
奥野 喜裕 村上 朝之
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、クローズドサイクルMHD発電の実用化に向けて、「MHD発電機の実用高度化」研究を戦略的に推進した。衝撃波管駆動MHD発電実験装置、および高精度電磁流体数値シミュレーションを駆使して、類似の発電システムの中では世界最高の発電出力密度を達成するとともに、発電機形状の改良による発電性能の向上を実証し、理論的裏付けとともに,更なる性能向上に向けての確度の高いロードマップを提示することができた。
著者
大森 保 藤村 弘行
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

サンゴ礁における炭酸系変動の時系列観測により、瀬底島サンゴ群集は二酸化炭素濃度=945ppmvに達すると石灰化速度がゼロになること、および、アラゴナイト飽和度が1(平衡状態)となる結果が得られた。IPCC報告書の数値予測モデルによれば、早ければ21世紀末以降に、大気中の二酸化炭素濃度が950ppmvレベルに達し、アラゴナイト質骨格を形成する海洋生物の生存が極度に脅かされ、サンゴ礁生態系激変の可能性が示唆される。サンゴ飼育水槽実験により、光ストレス・農薬・有害化学物質ストレスに対する代謝応答(光合成・石灰化)、枝状サンゴの骨格形成における量元素(Sr, Mg, U)の取り込み応答、稚サンゴの骨格形成の応答等について解明した。さらに、サンゴの骨格形成における基質タンパク質の効果について解明した。
著者
黒田 龍二
出版者
神戸大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

主要な調査は厳島神社及び宮島の門前町の調査とし、比較対象として愛媛県大三島の大山祇神社とその周辺を調査した。近世においては厳島神社周辺には門前町が発達し、非常に栄えていた。その様子は、いくつかの厳島図屏風によって具体的に知ることができる。厳島図屏風の検討を通じて、建築的な描写から信頼性が高いのは、松本山雪筆の厳島図屏風(東京国立博物館蔵)で、17世紀の作である。町は神社の東側に発達し、町屋ほ平入、板葺でウダツをもつ町屋形式である。厳島においては社殿、町の構成、寺院、社家の居住地と屋敷がいずれも江戸時代の形態をよく残し、町の地割に関しても中世末期の地割が残る可能性が高い。一方、大三島は中世から三島水軍の拠点として栄え、門前町も形成されている。しかし、中心社殿は中世の物が残っているが、その他は厳島のように江戸時代以前の景観を残していない。まず町並みは近代以降の建物がほとんどである。社家、社僧の居住地は伝承があるのみで、実体としてはなくなっている。この差異の生じた原因としては、江戸時代に厳島は大三島よりも庶民の観光の地として発達したことが大きく関係していると考えられる。今後は、このような庶民信仰の観光地として発達する要因は神社の性格と関係があるのか。大三島の社僧と厳島の神官、社僧は異なる性格のものなのか。厳島神社と大山祇神社の本殿形態は大きく異なるが、その原因は何か。厳島神社の建築史的研究は多いが、大山祇神社の研究はほとんど行われておらず、このような地方における大型本殿の研究を、社会のあり方などと関連させて深化させる必要があることが分かった。
著者
渡邊 洋
出版者
山形大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

本研究の実績概要を以下に示す。研究初年度でもあり、雪氷物性の計測や使用機器の特性把握を目的とした雪密度計測を行った。・雪密度の制御に係る実験計測技術の獲得を目的として、雪に見立てた人工雪(大型製氷装置で製作したフレークアイスをアイススライサーで粉砕したもの)の雪氷物性値を1ヶ月に亘って連続観測した。その結果、この雪密度は概ね0.35〜04を推移し、比較的含水性の高い人工雪の生成が可能であることが判った。・加えて、室内実験に用いる低密度の人工雪は、冷凍庫で製作するブロックアイスをアイススライサーで粉砕することにより、雪密度0.25〜0.3程度の人工雪を生成できることが判った。・サンヨー製の大型製氷器に貯蔵されるフレークアイスは、生成直後の氷密度と時間経過を経た後の氷密度に相違があり、気温変化の過程にも依るが増加する傾向にあることが判明した。よって、実験用の人工雪の生成には注意(特に温度と密度の管理)が必要であることが判った。・力学的な加圧(約3kg/cm^2)による雪密度変化では、繰り返し載荷(8回程度)により、0.3程度の雪密度は0.8(氷板に相当)近くまで上昇することが判った。(ホイールトラッキング試験器による室内実験観測)・雪山で保存した雪の雪密度は、3ヶ月経過後の6月には0.6程度にまで自然上昇することが判った。本研究による雪密度制御では、0.7〜0.8程度の密度増加を目指す必要がある。
著者
佐藤 篤司 和泉 薫 力石 國男 高橋 徹 林 春男 沼野 夏生
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
特別研究促進費
巻号頁・発行日
2005

日本各地に甚大な被害をもたらした平成18年豪雪について、本研究では、大気大循環場と降雪特性、積雪特性の広域分布と雪崩災害、生活及び建築関連雪害、予測技術と軽減方策の四つの研究課題を設定し調査研究を実施した。大気大循環の調査からは、寒気の南下は38豪雪に次ぐ規模であり、特に12月は冬季モンスーン指標が過去50年で最大となったこと、それには熱帯域の影響も示唆されることなどの特徴が明らかになった。その結果、1月初旬に既に最深積雪に近い積雪を各地で記録した。この時点の広域での積雪分布を調査したところ、新潟県上中越から長野、群馬両県境にかけての山間部を始め、東北、中部、中国地方でも特に山間地域に多量の積雪が集中していたことがわかった。山間地での降積雪は必然的に雪崩を誘発し、数多くの乾雪表層雪崩の発生をみた。本研究では死者の出た秋田県乳頭温泉での雪崩を始め、多くの現地調査を行いその発生要因を調査した。また、広域の一斉断面観測により、早い時期からの積雪増加が高密度で硬い雪質をもたらしたことが観測され、それが生活関連雪害にも反映したことが推測された。生活関連雪害では、死者(交通事故を除く)の圧倒的多数(3/4)は雪処理中の事故によるものであった。その比率は56豪雪時(1/2)と比べて増加していること、多くは高齢者で全体の2/3をしめ、70歳代が群を抜き、高齢者が雪処理に従事せざるを得ない状況などが読み取れた。また、56豪雪と比べて家屋の倒壊による死者が多く、老朽家屋に高齢者が住んでいて被害に遭遇するという構造がうかがえた。さらに本研究では、積雪変質モデルを使った雪崩危険度予測を行い、実際の雪崩発生と比較検討するとともに雪崩の危険性によって長期間閉鎖された国道405号線に適用する試みや冬季のリスクマネジメントに関する調査等を実施し、雪氷災害の被害軽減に有効な手法についての研究も行った。
著者
樋口 重和
出版者
秋田大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

冬季に日照量の少ない東北地方の積雪は光の反射や拡散機能を持っており,それによる光曝露量の増加は,冬季の生体リズムの遅れを改善する効果が期待できる.本研究は冬季の積雪の前後で,朝の光曝露量と生体リズムの位相の変化を調べることを目的とした.実験は日照量が少ないことで知られる秋田県で実施し,被験者はインフォームドコンセントを得た大学生13名(22.3±1.3歳)であった.積雪前の実験は平成16年12月に実施した.被験者は連続する17日間,光曝露量を含むアクチグラフの記録を行い,10日目と17日目に人工気象室で生体リズムの位相を調べるための実験に参加した.生体リズムの指標には,暗条件下でメラトニンの分泌が始まる時刻とした.実験期間中,被験者は普段の睡眠覚醒習慣に従って規則的な生活をおくり,午前9時までに通学するように指示が与えられた.積雪後の実験は平成17年1月に実施し,積雪前と同じ実験手順で行った.目に入ってくる明るさ(目の位置での鉛直面照度)が積雪によってどの程度違うかを同じ天候状態で比較したところ,積雪無しに比べて積雪有りでは約2倍の明るさになることが分かった.被験者が実際に早朝に曝露された明るさも積雪前よりも積雪後に有意に高かった.しかし,生体リズムの指標であるメラトニンの分泌開始時刻には積雪の前後で有意な差は認められなかった.本研究より,積雪後は光の反射や拡散によって光曝露量が増加することが明らかとなったが,今回用いた実験条件では,積雪による光曝露量の増加は生体リズムに影響を及ぼさなかった.この原因として,被験者が自然光に曝露される時間が通学時に限られており,曝露時間が短かったことがあげられる.今後,長い時間を屋外で過ごすような条件を想定して検討する必要があると思われる.
著者
荒川 圭太
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

化石燃料の消費によって大気中に放出された硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)による酸性雨・酸性霧は地球規模の環境問題である。降雨などに混じる酸性物質(硫酸、硝酸など)が直接的もしくは間接的に植生や農作物の生産性・品質に少なからぬ影響を及ぼすことが懸念される。降雨の酸性化と同様に雪氷の酸性化(酸性雪)も徐々に進行している。酸性雪は冬期間かつ寒冷地域での気象現象であるため、酸性雨に比べてその関心度は低い。酸性雪は地表面に留まる時間が長いため、酸性雪に覆われた植物は、氷点下温度と酸性物質による複合的環境ストレスを長期間にわたって被ることになる。そのため、酸性雪は融雪後の植物の生長に影響を及ぼす環境要因のひとつと考えられるが、酸性雪による植物への影響やその応答性について検証した例は見ない。そこで本研究では、酸性雪によるストレスを実験室レベルでシミュレーションし、酸性雪による越冬性植物の傷害発生機構を解析して酸性雪耐性付与への分子基盤の構築を目指した。これまでに、越冬性作物である冬小麦を用い、酸性雪ストレスをシミュレーションする実験系を構築して酸性雪ストレスに対する冬小麦緑葉の応答性を調べてきた。その結果、酸性物質(硫酸)存在下で凍結融解処理することによって冬小麦緑葉の生存率が低下するのは、共存する硫酸が凍結濃縮されることによって生じるpH低下が主たる要因であることを明らかにした(Plant and Cell Physiology誌に掲載予定)。しかし、酸性雪ストレスによる越冬性作物の傷害発生の分子機構を詳細に解明するまでにはまだ至っていない。今後も当研究課題に関連した生理学的・生化学的解析を継続し、越冬性植物の分子育種による酸性雪耐性の付与や酸性雪耐性品種の選抜による生産性向上・植生回復などへ応用するための分子基盤の構築を試みる所存である。
著者
鈴木 喬 内海 英雄 川端 成彬 大矢 晴彦 大垣 真一郎 佐藤 敦久
出版者
山梨大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

本研究は,質的に安全かつ健康な飲料水を確保するため,近年ますます問題となってきた水道水中の細菌,ウィルス,臭気,硝酸イオン等の有害成分を殺菌あるいは除去するための高度の改善技術を創製しようとするものである。1.ウィルス指標としてのバクテリオファ-ジとオゾンによる不活化 ウィルス制御技術の開発に当たっては,各種病原ウィルスの消毒手法に対する感受性の相違を十分考慮にいれなければならない。このためには,不活化効率を精確に定量できる「基準となるウィルス」が必要であり,また,そのウィルスはその使用が容易で安全なものであることが求められる。「基準となるウィルス」として,RNA大腸菌ファ-ジ(QB)を活用可能であることを見出した。また,オゾンによるQBの不活化では,5sec以内の急激な不活化の後反応がほぼ停止するように見えるが,ある一定のQB濃度で反応が止まるのではなく,一定の不活化率に達して止まることが観察された。2.細菌・ウィルス用非塩素殺菌剤の開発本殺菌法はイオン交換膜電気透折法において限界電流密度(Ieim)以上の高電流密度電気透折時に起こる中性攪乱現象を逆に活用し,生成した酸であるH^+イオンと塩基であるOH^ーイオンの相乗作用により水中の大腸菌を殺菌せんとするものである。0.1MーNaCl水溶液に大腸菌を10^81cm^3の濃度で懸濁させた試料水について殺菌効果と中性攪乱現象の関係を検討した結果,Ieim(0.81Adm^2)の約1.6倍である1.35A/dm^2の条件では透折開始7分前後に採取した処理液から生菌率は0%であり完全に殺菌されていることが判明した。すなわち,この結果は中性攪乱現象が起きる高電流密度領域で透折した場合にのみ強力な殺菌効果が得られることを示している。
著者
伊藤 繁
出版者
岡崎国立共同研究機構
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

従来の分光法あるいは室温EPR法では測定が困難であった、緑色植物の光化学系2酸素発生反応に働くMn原子、及び特殊なキノン、Z、の反応中心内部での存在部位を極低温EPR法を用いて明らかにした。Z分子と外部溶液中に加えた常磁性イオンDysprosiumとの相互作用の強さが両者間の距離の-6乗に反比例し、後者の濃度に比例する事を利用して、Z分子が膜外側表面から約45オングストローム内側表面から約15オングストロームの距離に存在しており、内側表面には33Kd,24Kd,18Kdの3種のタンパク質が結合してDysprosiumがZ分子の近傍に結合するのを妨げている事を明らかにした。また同じ方法をチトクロームb-559に適用してこのチトクロームのヘムが膜表面からやはり15オングストローム程内側に存在する事を明らかにした。 光化学系2の電子受容体として働くキノン(Qa,Qb)と鉄原子の相互作用をやはり極低温EPRで測定、解析した。これらのキノンが共に鉄原子と相互作用している事、Qbは電子伝達阻害剤オルトフェナントロリンやDCMUの結合により鉄原子との相互作用を失い、これらの阻害剤と鉄原子の相互作用が新たに出現するので、これらの阻害剤がQbの結合部位にはいり反応を阻害している事を光化学系2粒子、及び光化学系2反応中心コア複合体を用いてあきらかにした。またpH,酸化還元電位依存性の測定により、この鉄原子の存在環境の特性をあきらかにした。光化学系1反応中心においては、反応中心クロロフィルP700の近傍のクロロフィルの配列状態、光化学系1に存在するがその機能が明確にされていなかったヴィタミンK1が電子受容体として働き、逆反応を妨げ効率のよい光化学反応を行わせていることを明らかにした。
著者
中村 振一郎
出版者
株式会社三菱化学科学技術研究センター
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

理論計算が最大限に効果を発揮すれば実測では得難がたい展開が可能である。本研究は理論およびシミュレーション計算科学を活用し、実験との融合によってもたらされる知見を獲得し、過去、全く予想されなかったジアリールエテンの極限性能の発見につながる解析結果を提供することを目的として、フォトクロミック化合物の用途開発を目的として開始した。メモリー素子など既に試された用途でなく、隠れた特性を引き出すのは基礎研究であり計算科学である。最も大きな成果は、三重項を経てフォトクロミック反応が起こるという仮説を計算によって得られたポテンシャル面が検証したことである。系間交差を可能にする要因として、これまでに知られていた重原子でなく、蛍光色素にリンクしたベンゼン環の回転によってスピン自由度の交換が可能であることが示唆された。さらに穐田教授(同領域内の実験研究者)らが合成したFe, Ru錯体についても、三重項が関与して反応が進行していることを、おなじく非経験的分子軌道計算によって裏付けつつある。スピン-軌道相互作用、ポテンシャル面の詳細など、さらに幾つかの点の詰めが終ればこの結果から、磁性に深く関与した応用用途を提案できるであろう。現在執筆中である。次に来る成果は、宮坂らが観測している量子ビートQBの解析である。励起状態の半古典ダイナミクス計算によって、確かにS1励起状態がビートを与えるように振動していることが計算から明らかになった。置換基依存性、開閉反応の量子収率との関係を考察して執筆開始予定である。最後に、松下教授(同じく同僚域)のPt系が示すフォトクロミック反応のメカニズムについても解析を始めた。この課題はこの領域ならではの難問である。おそらく、これまでの既存のパターンの反応機構とは全く違うメカニズムが予想される。
著者
佐倉 緑
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

コオロギを用い、体表物質によって引き起こされるオス同士の闘争行動の発現に触角からの入力が関与することを明らかとした。また、脳内の一酸化窒素(NO)とオクトパミン(OA)シグナルの阻害により、敗者の攻撃行動の回復がそれぞれ促進、抑制されることがわかった。触角への体表物質の刺激により脳内でNOが増加すること、NOにより脳内のOA量が減少することから、体表物質-NO-OAというシグナル経路が脳内に存在すると結論づけられた。
著者
大串 和雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、1973年9月11日のクーデターに至るチリの民軍関係を、軍の側に焦点を当てて考察したものである。本研究の一つの焦点は、アジェンデ政権(1970~73年)に先立つフレイ政権期(1964~70年)に現れた、軍の規律逸脱行動である。チリの伝統的民軍関係では、立憲秩序の尊重(文民統制)と、軍内での規律の厳守(上官の命令への絶対服従)という二重の規律が機能していた。しかしフレイ政権の後半に、主として低給与と装備・補給品不足の不満を原因として、中堅・下級将校の抗議行動が現れた。この抗議行動はこれまで充分に研究されてこなかったが、非常に大きな拡がりを持っていたことが確認された。フレイ期の抗議行動の動機は非政治的で利益集団的なものであったが、いったん、二重の規律が破られると、それが政治的規律逸脱行動に発展するのも容易になった。また、抗議行動によって軍人と文民の双方が軍が持っている力を再認識することになり、文民から軍への働きかけも増加した。フレイ政権後半から始まるチリ政治の両極化と暴力の増大はアジェンデ政権期に加速化し、軍を政治化させるとともに、もともと軍が持っていた反共意識を先鋭化させた。人民連合の革命を支援する軍内秘密組織も結成されたが、圧倒的多数の将校は反政府感情に煮えたぎった。クーデター派が海・空軍で優位を確立した後も、陸軍総司令官がクーデターに反対であるため、なかなかクーデターには踏み切れなかった。上官への服従の伝統がまだ強く残っていたため、クーデターを強行すれば少なからぬ陸軍の部隊が総司令官の命令に従い、クーデター派と政府派の軍の間で内戦になる恐れがあったからである。結局、1973年8月下旬に陸軍総司令官が辞任し、クーデターに道が開かれた。
著者
鄭 仁星 工藤 雅之
出版者
国際基督教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

オンライン協働学習は、議論を展開させ複雑で認知的にも活発な議論を行うことが判っており、対面式の協働に比べ、高い学習効果があることも判っている。しかし、この利点を活かすためには、綿密に設計され円滑に進行、サポートされなければならない。本研究では、4つのストレス要因が同定され、オンライン協働環境における教授方略として、異質グループの利用、学習者の相互理解を促す機会の提供、特に課題に対して自己効力の低いものには認知負荷量を増大させない課題の設定、ワークトエグザンプルの使用した課題の構成・難易度の調整が提案された。
著者
幹 康
出版者
拓殖大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

ガラスを爪などで引っ掻いたときに発生する背筋がゾッとするような音,これを「生理的不快音」と呼び,この種の音の物理的特性を明らかにすべく,この音の解析,合成を試みた.まず,この種の音が摩擦振動によって発生することに着目し,摩擦振動系の物理モデルを構成し,その運動方程式の解を求めた.これを記述するいくつかのパラメータ(物体間の摩擦係数,引っ張り速度等)を変化させることにより,モデルの挙動が変化することを確認した.特に,その変化は,不連続的に起こり,その境界領域ではカオス的な挙動を示すことも明らかになった.さらに,上記パラメータに一定の乱数を注入することによって,より現実的な音の合成が可能となることを確認した.不快音の本質ともいえるスティック・スリップの不規則性はこの乱数の与え方に依存するものであり,これが不快音合成の鍵となると思われる.1秒間程度の解を求め,スティック・スリップの変動を確認すると共に,聴感上の印象も確認した.この解はインパルス列として与えられるが,最終段階として,ガラス板自体のインパルス応答を別途採取し,それを畳み込むことによってガラス板に対する摩擦振動音の合成を試みた.現段階では,ガラス板のインパルス応答を採取する環境と方法に問題が残されており,必ずしも満足いくデータが得られていない.ガラスのインパルス応答は単に音の色付けを行なっているだけなのか,あるいは,その時間的変化等に不快性をもたらす要因が含まれているのかどうかを含め,問題が残されている.
著者
横山 泰 生方 俊
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

代表的な熱不可逆フォトクロミック化合物であるジアリールエテンは、ヘキサトリエン部位が光環化する際に二つの不斉炭素を生じる。ヘキサトリエン部位の周辺に不斉炭素を導入すると、環化で生じる不斉炭素の絶対立体配置が片方に偏って、ジアステレオ選択的なフォトクロミズムを生じる。我々は、ヘキサトリエンの末端に不斉炭素を導入した化合物1を合成し、不斉炭素の周辺に働くアリリックストレインを立体配座のパイロットとして用いて、88%から94%deと、高いジアステレオ選択的フォトクロミック閉環反応を実現してきた。しかし、用いる複素芳香環の接続位置を3位から2位に変えた化合物2では、比旋光度変化は13000と大きいものの、ジアステレオ選択性は47%deと大きく低下した。そこで、電子反発を有効に働かせることができるために高い選択性を示すであろう分子3を設計し、合成を行った。その結果、3の光環化におけるジアステレオ選択性は90%deまで向上した。それに伴って、光反応に伴う比旋光度変化は9530の変化を示した。この結果は、J.Org.Chem.に掲載された。さらに、アリリックストレインを働かせるパイロット置換基を両側のベンゾチエニルエテンにつけた化合物を合成したところ、ビスベンゾチエニルヘキサフルオロシクロペンテンの化合物4ではジアステレオ選択性は98%de、比旋光度変化は142goを示した。残念なことに、同じ置換基をつけたビスナフトチエニルエテン5、ベンゾチエニル基とナフトチエニル基をもつもの6、については、光反応性が極端に低下し、紫外光照射によってわずかな着色体を与えるのみであった。
著者
許 南浩 阪口 政清 片岡 健
出版者
岡山大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

REIC/Dkk-3発現アデノウイルスベクター(Ad-REIC)のスキルス胃癌への適用スキルス胃癌は進行が早く腹膜やリンパ節に転移しやすい難治性のがんの一つである。現在、本がん種を標的とした有効な治療法がない。本年度では、Ad-REICのスキルス胃癌への有効性を検討する目的で、胃がん腹膜播種動物モデルを新規に開発した。Ad-REICを服腔内に投与したところ、胃がん細胞株の腹膜播種の有為な抑制が観察された。これは、Ad-REICの直接効果(がん細胞特異的細胞死誘導)とAd-REICにより誤標的された正常細胞を介した間接効果(正常細胞がIL-7を産生してNK細胞の活性化を誘導)によることが明らかとなった(論文準備中)。Ad-REICの改良Ad-REICによるアポトーシス誘導作用を高めるために、強力な遺伝子発現システムを独自に開発した。結果、従来のプロモーター(CAGやCMV)を用いた遺伝子発現システムに比較して顕著な遺伝子発現増強効果(各種遺伝子で、100倍から1000倍)が達成された。このシステムをAd-REICに組み込むことにより、現存のAd-REICを上回る治療効果が期待できる(論文準備中)。分泌REIC/Dkk-3タンパク質の機能の解明分泌型REIC/Dkk-3も免疫系を介した間接的抗腫瘍効果を示す。REIC/Dkk-3の発現組織と分泌されたREIC/Dkk-3を積極的に取り込む細胞の同定を行ったところ、分泌されたREIC/Dkk-3は末梢血単球の樹上細胞様細胞への分化・増殖を制御している可能性が示唆された。REIC/Dkk-3ノックアウトマウスの作製癌抑制遺伝子REIC/Dkk-3の主要ドメインであるEXON 5、6を全身性にノックアウトしたマウスの作成を行っていたが、2009年10月に、ホモノックアウトマウスの作成に成功した。