著者
津田 正史
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

マクロリド化合物Amphidinolide類は、海産扁形動物ヒラムシ(Amphiscolops sp.)の体内に共生する渦鞭毛藻Amphidinium sp.が生産するマクロリドであり、培養腫瘍細胞に対して強力な細胞毒性を示すことが知られている。これまでマクロリド生産能をもつAmphidinium sp.の検出・同定は、藻体抽出物を化学的に分析することにより行ってきた。しかし、Amphidinium sp.のマクロリド生産性が高くないことに加えてAmphidinium sp.自体の増殖速度が遅いことから、細胞を分離してから検出し、大量培養を行うまでに半年以上を要していた。そこで今回、目的とするAmphidinium sp.をより迅速に探索する方法論を検討した。当研究室で保有するAmphidinium sp.5株について系統解析を行ったところ、マクロリドを生産する株としない株は、異なる系統に属することが分かった。そこで、これらの18S rDNA配列を比較し、マクロリド生産能をもつ株に特異的なBELAU2-BELAU9プローブ、それと同位置を増幅させ、生産能をもたない株に特異的なCARTE2-CARTE9プローブ、および両株に共通する部分を増幅させるBC2-BC9プローブの3種を設計し、各種分析法を用いて迅速探索法を検討した。渦鞭毛藻Amphidinium sp.(Y-71株)の培養藻体のトルエン可溶画分より、新規マクロリドAmphidinolide C2を単離し、スペクトルデータの解析に基づいて化学構造を帰属した。一方、沖縄県恩納村真栄田で採取した無鳥類ヒラムシAmphiscolops sp.より、単細胞分離した渦鞭毛藻Amphidinium sp.Y-100株を大量培養し、得られた藻体のトルエン抽出物より、培養腫瘍細胞に対して強力な殺細胞活性を示す新規マクロリドAmphidinolide B4とB5を単離した。スペクトルデータの詳細な解析に基づいてこれらの化学構造を帰属した。抗腫瘍性を示す26員環マクロリドAmphidinolide Hの結晶構造は、21位水酸基とエポキシ酸素との間で水素結合を形成した、全体として長方形な分子形状を有しており、同じく26員環マクロラクトン構造をもつAmphidinolide Bの結晶構造と極めて良く似た結晶構造であることが知られている。Amphidinolide Hの構造活性相関と活性発現の分子機構解明の一環として、本化合物の溶液中での安定配座を検討した。
著者
中島 寛
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究では、界面層制御した高品質な絶縁膜/Ge構造形成技術を確立すると共に、Ge-On-Insulator (GOI)チャネル層の物性を解明することを目的としている。平成21年度は、(1) 絶縁膜/Ge構造形成、(2) GOIチャネル層の結晶性評価、の研究を実施し、以下の成果が得られた。(1) Ge-MOS構造として、Ge表面をSiO_2/GeO_2の2層膜でパッシベーションする手法を検討した。GeO_2及びSiO_2膜の役割はそれぞれGe表面のダングリングボンド終端化及びGeO_2中への不純物(水や炭化水素)混入防止にある。この2層パッシベーション膜を大気暴露無しで形成する手法を開発した。この新規な界面層形成手法を用いれば、低い界面準位密度(4×10^<11>cm^<-2>eV^<-1>)のMOS構造が実現できる。この独自技術は良質なGe-MOS界面構造形成のための手法として有用であることを実証した。(2) Ge濃度が15~90%のSiGe-On-Insulator (SGOI)およびGOIを酸化濃縮法で作成した。これらの試料にリン(P)を固相拡散してソース/ドレインを形成し、バックゲート型MOSFETを作成した。試料の電気特性から閾値電圧を求め、イオン化アクセプタ濃度(NA)を算出した。その結果、NAのGe濃度依存性は、Hall効果法で求めた正孔濃度(p)の依存性と異なることを示した。即ち、低Ge濃度領域では、NAが10^<16>cm^<-3>以上であるのに対して、pは約2桁低い。一方、高Ge濃度領域では両者はほぼ一致する。この相違は、酸化濃縮過程で生じる欠陥が深いアクセプタ(A)として働き、Ge濃度の増加に伴い、Aのエネルギー準位が価電子帯側ヘシフトする事で説明できる。このエネルギーシフトをホール効果の温度依存性から明らかにした。
著者
影山 太郎
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

英語と日本語における語彙の意味構造と構文的用法の検討を通して,動詞・名詞・形容詞を柱とする総合的なレキシコン(辞書)理論の開発を行い,14篇の論文を3部構成にして研究成果報告書をまとめた。第I部「統語論とレキシコン」(3篇)では,形態論の規則が語彙部門だけでなく統語部門でも成立すること,語と句の境界に「語+」という特別の範疇が存在すること,項の受け継ぎ現象が動詞の語彙概念構造および名詞の特質構造によって説明できることを明らかにした。第II部「動詞の意味構造とレキシコン」(5篇)では,動詞の自他交替が反使役化,脱使役化,使役化,場所表現の取り立てなどの意味操作によって行われることを示し,英語と日本語の相違を明らかにした。また,語彙概念構造における物理的位置と抽象的状態の表示形式に基づいて,言語体系と心理的外界認知とが異なることを明らかにした。第III部「名詞・形容詞の意味構造とレキシコン」(6篇)では,名詞および一部の形容詞の意味を検討し,語彙概念構造を特質構造に組み込む表記方法を提示した。これによって,動詞が名詞化された場合などで,動詞の意味構造と名詞の意味構造のつながりが明確化される。また,一般的な語形成規則によるのではなく,言語の創造性によって生じる偶発的な造語を特質構造で処理することを検討した。更に,英語が特質構造内部の主体役割や目的役割にかなり自由に言及できるのに対して,日本語はそのような意味操作が乏しく,複合語などの形態を重視することを指摘した。しかし名詞・形容詞に関する考察はまだ荒削りで,今後,副詞などの品詞も含めて更に精緻化を進めていく必要がある。
著者
千秋 博紀
出版者
東京工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、天体衝突によって作られた蒸気の塊(以下衝突蒸気雲と呼ぶ)の内部で進行する化学反応系を、数値的にシミュレーションし、どのガス種が、どれだけ作られるのかを求める。衝突蒸気雲は、形成直後はきわめて高温・高圧だが、急激に膨張・冷却する。高温・高圧の条件下では化学反応の速度は速く、容易に化学平衡が達成される。これに対し、膨張・冷却が進むと、化学平衡はもはや達成されなくなる。従来の研究では、膨張過程のある瞬間で化学反応がクエンチ(停止)すると考え、単純に衝突蒸気雲の膨張のタイムスケールと、ある化学種がかかわる反応のタイムスケールとの比較から、膨張・冷却後の衝突蒸気雲の組成を見積もってきた。本研究では昨年度までに、開発した1次元球対称モデルを用いて得られる結果について、ガス成分の種類や量について議論を重ね、論文の準備を行ってきた。しかし一連の議論の中で、蒸気雲中の化学反応ネットワークは、系全体がサブシステムに細分化されてゆき、サブシステムの中で局所平衡が達成されるように進むことが明らかになってきた。この描像は従来考えられていたものとは異なっており、この性質をうまく使うことでガス種同士の相対存在度から逆に衝突条件を求めることができるようになるかも知れない。ただし、どのガス種組合せでサブシステムを構成するようになるのかは、温度圧力条件(衝突条件)だけでなく、初期組成にも依存する。本研究では今後も、衝突蒸気雲が地球システムに与える影響を議論するための、幅広いパラメタ空間でのシミュレーションなどを続けてゆく。
著者
永野 元彦 小早川 恵三 政池 明
出版者
福井工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

超高エネルギー宇宙線を観測する方法として、超高エネルギー宇宙線が大気中で作る空気シャワー中の電子が窒素分子を励起して発する蛍光を、遠く離れた場所に設置した望遠鏡で観測する方法が実施されている。また観測有効面積をより大きくするため、国際宇宙ステーションに望遠鏡を設置し観測するEUSO計画が日、欧、米の共同研究として推進されている。これらの観測で宇宙線のエネルギーを決定するには、大気中での電子による窒素分子の発光効率が基本であるが、十分なデータは存在しなかった。本研究は大気を模したチェンバー内で、電子による発光効率、発光時間の気圧依存性を測定することを目的とする。実験は、放射性同位元素^<90>Sr→^<90>Y→^<90>Zrのβ崩壊を利用して行った。N^+_2及びN_2の主な発光波長315,337,357,381,391,400nmを中心としたバンド幅10nmの干渉フィルターをとりつけた6波長領域で測定をおこなった。本測定中に乾燥空気中の値が従来の結果とかなり差があることが判明したため、乾燥空気中での再測定をおこない、結果をAstroparticle Physicsに投稿した。主な結果は以下のとおりである。(1)バンド幅中に2本のラインが入っている場合には、それぞれの観測光子数と発光時間の気圧依存性から、二成分解析をおこない、計7本のラインにつき発光効率及びその密度、温度依存関数のパラメータを決定した。(2)宇宙線観測に必要な300-410nmでの発光光子数は1気圧、20℃の大気中で、1電子、1mあたり3.75±0.15である。この値はこれまで実験で使用されていた値より17%大きい。(3)この結果を使うと、Fly's EyeやHiRes実験で決めた宇宙線のエネルギーは平均10%大きく見積もっている。
著者
竹野 忠夫 中村 祐二 朱 学雷 西岡 牧人
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

現在,大きな環境問題の原因として挙げられるすすに関して,その生成機構および抑制方法は見つかっておらず,未だ不明な点が多い.すすはNOxと並ぶ2大燃焼排出物であり,火炎中のその生成機構を理解することは我々人類にとって重要な課題である.これまでの研究報告によれば,すすはその前駆物質であるPAH(多環芳香族炭化水素)からできるとされているが,PAHの生成機構さえも十分に理解されていない部分が多い.そこで本研究では,対向流拡散火炎中を対象として,数値計算および実験を通じてPAHの生成機構を理解することを目的とする.まず平成10年度においては,約100種の成分と正逆500組の素反応を考慮したHai-Wangにより開発された化学反応機構を用いた数値計算により,PAHの中で最も重要な働きを示すベンゼン生成に関する知見を得た.その結果,C3系の反応物がPAHの基であるベンゼン環の生成に最も顕著であることがわかった.平成11年度においては,対向流拡散火炎中のベンゼンおよびその生成に関わると言われているC3系およびC4系の成分に着目し,それらの濃度測定をGC/MS(ガスクロマトグラフィー/質量分析計)を用いて行った.また得られた実験結果と数値計算で得た知見との比較・検証を行った.その結果,数値計算ではベンゼンおよびC3,C4系炭化水素の量を約半分以下にしか見積もらないことがわかった.また,ベンゼン生成領域は数値計算よりも定温領域に移り,それがすす発生に関係した影響であることも指摘できた.しかしGC/MSで得られる情報もまだ十分ではないので,上記で推測されたすす生成に関する物理を確実に述べるには,実験装置の工夫,または数値計算において別の反応モデルを用い,より総合的な評価をする必要がある.
著者
菅原 隆
出版者
八戸工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

苛酷環境下におけるコンクリートの耐久性を向上させる事はコンクリートの研究者にとって至上命題となっている。寒冷地における歩車道ブロックは凍結融解の作用や凍結防止剤の散布により表面剥離や崩壊などの被害が急増している。ここでは、コンクリート製品の一つである歩車道ブロックを対象として、コンクリートの耐久性を向上させる要因を明らかにすることを研究目的として、申請計画書に基づいて各種実験・研究を行った。3年間に亘って研究を行った結果をまとめると次のようなことがいえる。(1)コンクリート工場製品に透水型枠工法が適用できるかどうかについて検討した。試作した透水型枠と透水性シートを組み合わせることでコンクリートの表層部を強化でき、品質の良いコンクリートを製作できることがわかった。(2)透水型枠工法によって製作した歩車道ブロックの表面は透水性シートを使用した事により綺麗さが格段に向上した。また、水セメント比の低下や表層部の緻密化によってコンクリート表層部が強化され、凍害に対する劣化が抑制されることを明らかにした。(3)塩化物の浸入によるスケーリング抵抗性も透水型枠工法を用いることで向上し、歩車道ブロックの上面・側面ともにスケーリング量は大きく減少することを明らかにした。(4)コンクリート工場製品にかかわらず、コンクリート構造物の高耐久性、高機能性を考慮した時には透水型枠工法が有効な工法の一つである事を明らかにした。以上のように、凍害や塩害などを受けやすい苛酷な環境下にあるコンクリートはその表層部を強化してやることで劣化を抑え、かつ耐久性を向上させる事ができる事を明らかにした。また、透水型枠工法はコンクリート工場製品やコンクリート構造物などの表層部を強化できる有効な手法の一つであることも明らかにした。
著者
小川 博久 神田 伸生 岩田 遵子 杉山 哲司 樋口 利康 岡 健 小川 哲男
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、現代の学校において、子ども達が学校生活を快適に過ごしているか、学校は子ども達にストレスの無い生活の場を提供しているか、といった問題意識を追究するために、幼稚園や小学校においてフィールドワークを行い、自由な活動の場である遊びに焦点をあて、子ども達の姿を追い、その実態を分析することによって、現代の学校(幼稚園を含む)の課題の解決の方向を探ったものである。当初、小学校における学校の余暇時間における子どもの遊びに着目していたが、学校の居場所性を追求するためには、結局、子ども達の学校生活全体を把握せざるを得ず、われわれの課題は、小学校においては、学級における個と集団の問題を焦点にフィールドワークを続けることになった。その結果、この研究を通して明らかになったことは、幼稚園の室内遊びにおいては、室内に遊びのコーナーの設定がなされ、そこで日常的に繰り返し遊びを続けることで、幼児たちの間に同型的同調や応答的同調の「ノリ」が生成し、遊びが盛り上がり、幼児たちに成立する遊びの内部的秩序感覚(「ノリ」)を通して、個と集団のよき関係が成立すること、同じことが園庭では、エンドレスリレーやサッカーにおける循環や応答の動きのパターンを通して言えることが明らかとなった。また、小学校におけるフィールドワークからは、以下の点が明らかになった。現代の学校の本質として、教授活動を中心に、学業成績の階層的序列化によって、子ども達の能力も差異化され、特に「問題児」は、学級から排除される可能性をはらんでいるが、学級の個と集団の関係が子どもたちにとって豊かな居場所性を獲得するためには、物的・空間的環境の豊かさによって、子ども達の身体的同調を図るよりもこ教師と子どもとの間の相互的な言語コミュニケーションによって「ノリ」を確立することが重要であることが明らかとなった。
著者
宗岡 寿美
出版者
帯広畜産大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

本年度は調査の最終年度にあたるため,調査事例の少ない十勝地方を対象として,水田地域における農業用水(畑作流域河川)・水田排水および畑作地域における雨と雪の水質成分について調査した。また,釧路・根室地方における酪農流域河川の土地利用と水質環境についての経年調査をもとに,北海道東部の畑作・酪農流域河川の水質水文的評価に供した。なお,本研究では,主として窒素とリンを指標として評価・考察を進めた。まず,水田地域における農業用水(畑作酪農流域)はT-N濃度≒0.41〜3.7mg/L,T-P濃度≒0.11〜0.5mg/L,一方,水田排水はT-N濃度≒0.24〜5.0mg/L,T-P濃度≒0.06〜0.54mg/Lとなり,施肥・代かき直後を除いて,水田は河川水質を汚濁するものではないと考えられる。帯広畜産大学構内における降水中の窒素・リンについてみると,降水量は1170.0mm,T-N濃度=0.55mg/L,T-P濃度=0.021mg/L,pH=5.8であり,降水からの窒素のインプットはT-N=643.5kg/km^2・yである。酪農流域河川の水質濃度は,酪農流域・改修河川の2流域でT-N濃度=1.36mg/L・1.64mg/L,酪農流域・自然河川ではT-N濃度=1.03mg/L,林野流域・自然河川ではT-N濃度=0.29mg/Lとなった。北海道東部における畑作・酪農流域河川の水質環境を保全するとき,汚濁負荷発生源の除去・抑制が優先課題となる。しかし,汚濁負荷発生源が同程度の場合には,自然河川が有する水質浄化機能や河畔域の緩衝帯による汚濁物質の河川への流入抑制効果などを積極的に発揮すべく,土地利用を再構築していくことが必要であろう。
著者
河村 公隆 渡辺 興亜 中塚 武 大河内 直彦
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究では、グリーンランド(Site-J)で採取した氷床コア中に生物起源の脂肪酸を検索し、炭素数7から32の脂肪酸を検出した。海洋生物起源の脂肪酸(C_<12>-C_<18>)の濃度は、1930-1950年代に高く1970年代にいったん減少した後、1980年代に増加することがわかった。濃度増加が認められた時代は、温暖な時期に相当しており、この時期には海氷の後退と低気圧活動の活発化によって海水表面からの大気への物質輸送が強化されたものと考えられる。また、シュウ酸(炭素数2のジカルボン酸)から炭素数11までのジカルボン酸を検出した。ジカルボン酸の炭素数分布の特徴は、コハク酸(C_4)がほとんどの試料で優位を示したことであったが、19世紀以前は優位でなかったアゼライン酸(C_9)が20世紀になって急激な濃度増加をし、1940年代に大きなピークを示した。アゼライン酸は生物起源の不飽和脂肪酸の光化学反応によって選択的に生成される有機物であることから、この結果は、海洋生物由来の有機物の大気への寄与がこの時期に大きく増加したことを示すとともに、それらが大気中で光化学的に酸化されたことを意味する。南極H15アイスコア中にUCM炭化水素やPAHを検出したことにより、人為起源物質が南極氷床まで大気輸送され、保存されていることが明らかとなった。これらの濃度は1900年以降増加しており、この結果はグリーンランドアイスコアの傾向と一致した。このことから、1900年代以降、全球的に大気中の人為起源物質が増加したことが示唆された。不飽和脂肪酸や低分子ジカルボン酸の組成比から推定された大気の酸化能力は、過去350年間において大きく変動したと考えられる。アゼライン酸とその前駆体である不飽和脂肪酸の濃度比は、1970年代以降急激に増加しており、南極における対流圏の光化学的酸化能力が、1970年代以降、成層圏オゾン濃度の現象に対応して増大している可能性が示唆された。
著者
高橋 庸哉 佐藤 昇
出版者
北海道教育大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

1.「雪」に関するコンテンツの拡充セスナー機から撮影した流氷写真・ビデオ、クリオネや降雪粒子のビデオ、ヒグマなどに関するページを制作した。また、「降ってくる雪」中の「ルーペで見てみよう!」コーナーを視覚的なものに改良した。2006年度のトップページアクセス数は11万4千余件であった。2.学校教育現場での実践と内容の妥当性検討雪に関する関するコンテンツを利用した授業等を行い、その内容妥当性の検証を進めた。また、前年度に制作したLAN対応リアルタイム気象データモニタリングシステムを市内小学校4校に展開し、実地試験を進めた。2006年12月に札幌市内小学校の研究授業を行った。3.教育現場でのコンテンツ利用の促進方法の実施雪の学習に関する教員向けセミナーを実施し、全道各地から53名の参加があった。雪たんけん館を活用した模擬授業及び授業作りワークショップ、雪たんけん館やITをどう生かすかをテーマとした討論・講演などを行った。事後アンケートによると、セミナー内容に関する満足度は5段階評価で4.5、参加者の98%が教室ですぐに使える情報があったと答えた。また、天気情報と大気の実験に関する小学校教員ワークショップを企画・実施した。4.コンテンツ利用状況調査札幌市内小学校(209校)を対象としたアンケートを行い、次の結果が得られた:a)Webページ「北海道雪たんけん館」を使った実践を行った学校が12%あった,b)「雪」を教育素材として、どう思うかも問いに対して、70%は取り上げるべきと答えた。また、これまでに4回実施した雪の学習研究会参加者のうち小学校教員にコンテンツ利用状況に関するアンケートを実施した。31%が北海道雪たんけん館を授業で使ったことがある、あるいは同僚が使っているのを見たと答えた。実際に授業で活用し得るコンテンツであることが示された。
著者
小野 健吉 山梨 絵美子
出版者
奈良国立文化財研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

近代京都画壇で活躍した3人の日本画家の作庭について、それぞれ、以下のような成果を得た。(1)山元春挙:(1)春挙は、芦花浅水荘の庭園を機能的にも形態的にも琵琶湖と一体のものとしてデザインした。(2)庭園は建築と平行して施工された。(3)施工は、当初、京都の庭師・本井政五郎、その後、大津の庭師・木村清太郎が引き継ぐ。(2)橋本関雪:(1)関雪は、蟹紅鱸白荘にはじまり、白沙村荘,走井居、冬花庵と、生涯、建築や作庭に情熱を保ち続けた。(2)建築や作庭も、絵画と同様の創作と見なしていた。(3)白沙荘の施工は、青木集、本田安太郎などの庭師がおこなったが、細部にわたり、関雪の指示があった。(4)関雪の庭園には、中国の文人趣味に対する傾倒や歴史的教養主義がうかがえるが、明治大正時代に京都で主流をなした写実的風景式庭園のはんちゅうに入るものといえる。(3)竹内栖鳳:(1)霞中庵庭園の築造は、従来いわれていた大正元年ではなく、大正3年頃の可能性が大きい。(2)庭園のデザインは、建築同様、栖鳳の考案によるものである。施工にたずさわった庭師は本井政五郎である可能性がある。(3)霞中庵庭園は、芸生の広がり、カエデの樹林、流れ外部景観(嵐山)などで構成され、その平明さ、軽快さは、栖鳳の画風と一脈通じるものがある。上記の各画家の作庭を観察すると、関雪・栖鳳については、作庭と画風に共通性が見出せるが、春挙の芦花浅水荘は大和絵風の明るさ・のびやかさがあり、峻厳な画風とはやや趣を異にする。しかし、その春挙にしても、写真に熱中したという写実を重んじる基本的な態度が、その作庭の中に着取できる。
著者
小林 俊一
出版者
新潟大学
雑誌
自然災害特別研究
巻号頁・発行日
1985

昭和61年1月26日23時頃、新潟県西頚城郡能生町柵口地区を権現岳(標高1108m)から発生した雪崩が襲い、住家11棟が全半壊し、被災した35人の中の13人が死亡する大惨事となった。翌27日の調査の結果、降雪中で権現岳は見えず発生地点の確認はできなかったが、デブリの状態、家屋内の雪の侵入状況、樹木の枝の破断面の観察から判断して新雪表層雪崩であることがわかった。その後の総合的な調査の結果次のことが明らかとなった。(1)雪崩は権現岳頂上付近で発生した「面発生乾雪表層雪崩」である。(2)雪崩の規模は10〜25万【m^3】の雪が崩落。デブリの体積は10〜30万【m^3】。(3)雪崩の流走距離は発生点からデブリ末端まで水平距離で約2km、崩落斜面の角度は約45度、流走斜面は約10度の緩斜面である。(4)雪崩の速度は崩落斜面下端で最大となり約50〜60m/s、被災家屋付近で約35〜45m/sの高速けむり型表層雪崩である。(5)被災家屋付近で、雪崩による衝撃力は2t/【m^2】以上と推定される。(6)樹木の被害状況から雪崩風を伴い、土地の言葉で「アイ」「ホウ」「ウワボウ」と呼ばれる種類の雪崩である。(7)雪崩発生のメカニズム:低温で弱風下で激しい降雪で、この場合の積雪は雪同志の結合力が弱く非常に不安定な状態であった。その直後に地吹雪が発生位の7m/s前後の強風となり、その結果不安定な雪の層が平衝を失って容易に崩落した。雪の中の2.5m深付近に弱層があったため大量の雪が崩落し大規模表層雪崩が発生した。大規模なほど雪崩は遠方まで流動する。(8)今回の雪崩の雪氷学的特徴:デブリの雪の性質が周囲の自然積雪状態と区別が困難である。この種の雪崩は、雪の変形が進まない中に、速やかな総合的調査が重要である。(9)この種の雪崩の防災工法の決め手はない。今後の研究が必要。
著者
川田 邦夫 小林 武彦 船木 實 酒井 英男 広岡 公夫
出版者
富山大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

南極氷床などに見られる火山灰を含む汚れ層は、しっかりした自然残留磁化をもっていることが知られており、その磁化の獲得機構を明らかにしようとするのが、この研究である。このため一方で、雪粒子に磁性をもつ岩石粉末を混ぜ、低温室に保持しながら地球磁場による磁化獲得の過程を時間毎に磁化測定と顕微鏡観察を行って調ベ、他方、北アルプス立山にある比較的古い氷体を残す雪渓の雪氷試料について自然磁化獲得の実際を調ベた。実験室の研究では自然雪や人工的にふるい分けした雪などに各種磁性物質の粉末を混入したものを初期試料とし、約-20℃、-10℃、-2℃等の条件下で保持したものを調ベたが、磁性粒子を含む雪氷の磁場方向への磁化獲得の機構は雪氷の変態に伴って磁性粒子がある時期に向きの自由度を持ち、その過程で磁場方向に向いた状態で定着するものという結果を得た。乾雪の場合、雪粒子の結合が丈夫になっていく過程では焼結によって変態が進行するが、最初無方位に弱く付着していた磁性粒子は水分子の表面拡散や昇華による結合部への移動に伴い、雪粒から離れて向きを変える機会を得、外部磁場による力を受けた状態で再付着したり、結合部のくびれた部分などに集まり気味に固定される。このことは少し厚めに製作したアニリン固定法による雪氷試料の薄片観察により確認できた。湿雪の場合、ざらめゆきへの変態となるが、雪粒子表面にある水膜によって磁性粒子は容易に自由度を得る。そして凍結・融解のくり返される中で雪粒同士の結合部のくびれや凹部に強く集合した状態で磁場方向に配向気味に固定されることがわかった。野外の雪渓で採取された試料は中緯度にある氷河や雪渓で見られる湿雪の変態によって氷化に至ったものと考えられる。現段階で詳細な結論までには至っていないが、汚れ層の部位に磁化の集中化が現われていて、氷体の流動に関わる知見を得る可能性をもつ。
著者
村本 健一郎 播磨屋 敏生 久保 守 藤田 政之 椎名 徹
出版者
金沢大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

雲の中で成長した雪結晶は自分の重みで落下が始まり,雲粒の中を落下していく途中で雲粒が雪結晶に付着して種々の形に成長するが,落下速度は遅いので,すぐに空間密度が高まり互いに接触する割合が高く,しかも枝の構造が機械的にからみやすいため,いくつもの結晶の合体した雪片となる.この雪片同士が衝突併合には,雪片輪郭線の複雑さや落下運動の不規則さが関与していることが報告されているが,実際に雪片同士が衝突した瞬間の映像は捉えられていない.また,雪片が複雑な運動を伴って落下する理由も十分には解明されていない.本研究では,できるだけ自然に近い状態で落下中の雪片の映像を録画するシステムを製作し,次にそれらの映像を画像処理技術を使って定量化し,降雪現象の物理的特性を定量的に解明するシステムを開発することを目的として以下の実験を行った.(I)降雪雪片撮影システムの開発できるだけ自然現象に近い状態で落下中の雪片を観測するために4m(縦)×5m(横)×13m(高さ)の観測塔内で,地面に対して水平方向に1台,および鉛直方向に4台のCCDカメラを設置し,降雪雪片の落下中の運動を2方向から同時に撮影するシステムを開発した.(I)降雪観測と解析実際に、降雪中の切片を5台のカメラで撮影した.撮影した画像から降雪雪片の形状と3次元的な落下運動軌跡を求めた.
著者
竹内 由香里
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

新潟県妙高山域に位置する幕の沢は,冬期の最大積雪深が4m以上になる多雪地である上,傾斜が沢の上流ほど急になり,源頭部では35〜40度と表層雪崩が発生しやすい地形になっているため,流下距離が2000〜3000mに達する大規模な雪崩がしばしば発生している.そこで本研究では,大規模な雪崩の発生条件を明らかにする目的で,幕の沢に雪崩発生検知システム,地震計およびビデオカメラを設置して雪崩のモニタリング観測を継続してきた.併せて雪崩堆積域近くの平坦地において気温,降水量,積雪深を1時間間隔で測定し,積雪断面観測も適宜実施してきた.これらのデータは,気象庁や他機関の気象観測点が少なくデータが乏しい多雪地域の山地で得られたものであるので,とりまとめて「森林総合研究所研究報告」に公表した.さらに,今冬期に幕の沢で発生した大規模な乾雪表層雪崩を検知することに成功した.この雪崩は2008年2月17日13時48分頃に発生したことが地震計の記録とビデオカメラの映像により確かめられた.そこで気象データにより積雪安定度の変化を推定し,滑り面となった積雪層の形成過程を解析するとともに,雪崩堆積量,到達距離についての現地調査を行なった.一般に,表層雪崩の発生危険度の目安となる斜面積雪安定度を算出する際には,せん断強度を平坦地の積雪密度から推定することが多いので,斜面と水平面の密度の関係を明らかにすることが必要である.そこで低温実験室内の人工降雪や露場における自然降雪について斜面傾斜による初期密度の比較を行なった.その結果,傾斜と初期密度の関係には降雪時の気象条件が大きく関わることが示唆された.さらにデータを増やして検討する必要がある.
著者
和泉 薫 小林 俊一
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

これまで日本で発生した雪泥流災害を新聞記事データーベース等から選択抽出し、それらについて現地調査を進め実態を明らかにしてきた。平成8年度に得られた知見を以下に記す。雪泥流の発生には、渓流内に雪が貯まっていることと、降雨や融雪による水量の急な増加が条件となる。渓流内の雪は、流水が少ないための自然堆積、雪崩の流下によるデブリ堆積、建物からの屋根雪落下や道路からの除排雪による人為的な堆積の三つに分けられる。このうち、雪崩のデブリが雪ダムとなって渓流を閉塞し、それが決壊して雪泥流になる場合には百mmオーダーの累計降雨量が必要であるが、渓流内の自然積雪の場合には数十mmオーダーの累計降雨量でも雪泥流化することがわかった。昭和43年2月11日滋賀県伊香郡余呉町で10棟が床下浸水となった雪泥流災害は、雪崩で川が堰止められそれが崩れて鉄砲水となったことによると気象庁要覧には記載されているが、実際は堰止めのため川水が溢れ、集落に流出したことが現地調査からわかった。富士山では最近4冬期連続してスラッシュ雪崩が発生しているが、古文書などの文献調査や近年の災害現地調査などにより、富士山で過去に発生したスラッシュ雪崩の16世紀以降の編年史がまとめられた雪泥流の対策としては、その物性の実験的研究から雪泥の流動性が含まれる水の量と関係することから、発生の初期の段階で水をできるだけすばやく抜いて流動性を低下させる方法が有効である。また、雪泥流の衝撃力の特性から、橋桁のように雪泥の凝集構造よりも小さいと考えられる構造物に対しては充分な強度を持たせることが必要なことが明らかにされた。
著者
WESTERHOVEN J.N アンソニー・スコット ラウシュ 笹森 建英 畠山 篤
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

巻頭論文では地域の歴史を概観し、文化の独自性について述べる。次に、高木恭藏作「婆々宿」を踏まえて、ラウシュは津軽地方の文化的・社会的な特徴を五感で分かるような例を利用しながら詳しく分析する。長部日出雄作「津軽じょんから節」は津軽三味線の演奏家の生涯についての物語である。オタゴ大学のジョンソン協力者は津軽三味線の最近の動向について調査し、若者にまで支持される津軽三味線の魅力の理由について明らかにしている。長部日出雄作「津軽世去れ節」は、津軽民謡に多大な影響を与えた伝説的な三味線奏者であった嘉瀬の桃(黒川桃太郎1886-1931)の生涯を追った小説である。これらの小説、また多くの文献に記述される4点の津軽民謡についてウェスタホーベンはその歌詞を英訳し意味を分析する。かつて盛んに歌われていた歌詞が歌われなくなった原因ついても考察している。長部日出雄作「雪の中の声」は霊能者のお告げによって、息子が母親に殺された話である。霊能者ゴミソ、イタコは津軽に特有な民間信仰である。笹森はこの両者の特質・差違を明確に示し、さらに第3の霊能者ヨリについても指摘している。笹森はこれらについて、先行研究を踏まえて、医学・心理学の面から鋭く考察している。畠山篤は津軽の鬼伝説を23の事例から分析することによって、後の大和朝による仏教、神道の鬼概念としてではなく、地域の古層にあった自然宗教の名残として鬼説話が存在していることを明らかにした。逆境に耐え抜く津軽人の精神力の強さを象徴している物語である高木恭藏作「相野」がこの報告書を終える。文献表は、英語による過去の研究にはなかった新しい資料が豊富に収集されており、付録,補遺では人名、地名、その他の語彙が詳細に解説されている。この報告書で始めて示された語彙も少なくない。英訳に関して、「婆々宿」以外はすべて初あての翻訳である。掲載した37点のカラー写真の大半はオリジナルの資料である。
著者
佐藤 修 大木 靖衛
出版者
新潟大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

1、新潟県下の降水の酸性物質の状況:新潟大学積雪地域災害研究センターで行った降水の化学分析結果、新潟県衛生公害研究所の発表した資料を整理し、酸性物質の降下状況を把握した。新潟県の山間部には3〜5g/m^2の硫酸イオンと1〜2gの硝酸イオンが降下している。硫酸イオンは冬の降雪期に多い特徴がある。雪の中の酸性物質は積雪期の温暖な日に流出する。2、沢水・湧水・河川水の変化:沢水・湧水の調査は花崗岩地帯で過去に分析結果のある丹沢湖の周辺で行った。現段階では、沢水・湧水に酸性降下物の影響は見られなかった。新潟県下の沢水の連続観測の機器は現在雪の下で、データ解析は今後のこととなる。河川の水の分析結果を、小林純が行った20年以上前の河川の分析データと比較した。分析誤差範囲内で両者は一致し、新潟県下の河川の流域では平均的な意味では、酸性降下物の影響で化学風化が活発になったとは見えない。3、土壌の酸性化調査:花崗岩地帯の土壌のpHは5〜6の範囲で普通の酸性の褐色森林土壌よりpHが高い。花崗岩地帯の崩壊地の土壌のpHが過去に測定された例は見あたらない。比較の対象がないので、酸性化したかどうかは今回の調査からは結論を出すことができなかった。4、まとめ:チェコ、ポーランド、ドイツでは酸性雨の影響で土壌が荒廃し、崩壊が起こっていると報告されているが、わが国では今回の調査ではその証拠はつかめなかった。おそらくわが国では影響が見られないのは、降水量が多いこと、地形が急峻で水が長時間とどまらないこと等が影響している。
著者
田崎 和江 沢田 順弘 鈴木 徳行 飯泉 滋 高須 晃 石賀 裕明
出版者
島根大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1989

ODPの伊豆・小笠原弧の深海底掘削が行なわれた後,昨年度は,船上での成果を“Proceedings of the Ocean Drilling Program(Vol.126)"にまとめ公表した。それに次いで,今年度は,各研究者が専門的な立場で,より詳細な陸上での成果を“Scientific Volume"にまとめた。さらに,日本人の研究成果は,地学雑誌,月刊「海洋」,月刊「地球」に特集号を組み,日本語でも成果を発表した。研究代表者の田崎は,これらの報告書,雑誌にすべて論文を投稿し,当補助金により購入した電子顕微鏡をフルに活用し,3年間で40編の成果を得ることができた。伊豆・小笠原弧の深海底堆積物のうち,特に,火山砂,軽石に注目しXRD,SEM,TEM,FTーIR,マイクロESCA等の機器類により,鉱物組成を検討した。その結果,火山性堆積物の中に,有機物の存在を認めた。スメクタイト,沸石などの熱水変質鉱物の中に,グロ-コナイトやセラドナイトが共存し,その化学組成は,CH,CO,CーCCooHの化学結合を持つことが明らかとなった。今まで,グロ-コナイトの生因の一つに有機物が関与するという説があったが,今回の研究結果で,それが証明された。さらに特筆することは,この火山性堆積物の中に,多量のバクテリア化石を,電子顕微鏡で明らかにしたことである。200℃前後の熱水の循環があり,火山ガラスや造岩鉱物が変質する中にバクテリアが存在し,化石化して保存されていた事実は,深海底にブラックスモ-カ-が存在していたことを示唆している。さらに,グロ-コナイトの生成に,バクテリアが関与していることも暗示している。深海底における物質循環において,有機と無機の境界は不明りょうであり,両者の相互作用により有機炭素からグラファイトが生成される過程も,電子顕微鏡により追跡することができた。これらの研究成果は,国際誌chemical Greologyに投稿した。