著者
伊藤 俊一
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

・室町幕府は、設立当初より寺社本所領や遠隔地武家領の保護という土地所有秩序の維持・再建を目指していたが、内乱の継続により、前線の守護に権限を与えざるを得ず、政策が実施されないという問題を抱えていた。・守護の在京は南北朝内乱期当初より断続的に見られるが、貞治年間以降の在京は、在京が継続すると共に、在京奉行人の登場に象徴される守護の在京政務機構の整備を伴っており、それ以前とは質が違う。・在京奉行人は、人夫や兵根米の徴収、役夫工米や即位段銭の徴収、寺社本所領をめぐる紛争処理などの業務を担当した。・在京奉行人の登場により、寺社本所領主はこのルートを通じて、所領・所役の問題を直接に守護へ訴えることができるようになる。守護関係者と寺社本所関係者との間の日常的な接触も増える。・守護の在京政務機構の登場により、室町幕府の命令が守護によって遵行されないという問題に一定の解決がもたらされ、室町期荘園制の秩序が安定した。・守護在京制の確立により、京都は幕府を中心に、寺社・貴族などの諸権門、各地方への足がかりを持つ守護とその配下が集住し、利害を調整する場となった。そのような「在京人」社会を統御する存在として「室町殿」が立ち現れたと考えられる。・以上の成果は、室町期荘園制の成り立ちと室町幕府の性格を再考する重要な契機と成り得る。
著者
小林 典子
出版者
大阪大谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

3カ年を通し、毎夏季海外調査を実施し、仏・英・独・米国等の14機関に厳重所蔵される聖母戴冠の画家系譜に関連する重要オリジナル全作品(13写本4板絵)の調査をほぼ完成することができた。その結果、この時期パリ写本彩飾挿絵工房において聖母戴冠の画家からブシコーの画家へと継承される系譜のうちに、油彩画完成を導く、彩色技法と顔料の抜本的革新が進行してきていることを明らかにした。その成果については、論文誌上や学会において発表を行った。
著者
福長 将仁 田淵 紀彦
出版者
福山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

動物ミトコンドリアゲノムは37 の遺伝子とひとつの制御領域から成っているものが多い。またこれらの遺伝子構成は比較的保存されていて大きな変化はない。しかしAcariformes に属するダニ類では遺伝子構成が再編されていることが我々の検索から明らかになったのでこの上目に属するダニ類を網羅的に検索、系統的関係を調べた。その結果この上目に分類されるダニ類においてミトコンドリアゲノムは独自の進化を遂げたことが推察された。
著者
佐藤 和夫 井谷 惠子 橋本 紀子 木村 涼子 小山 静子 片岡 洋子
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、日本が男女共同参画社会をめざすためには、男女共学、共修がどのように実施されるべきかについて、高校を対象に分析検討を行った。男女共学、共修は男女平等教育にとって必要な基礎的条件ではあるが、隠れたカリキュラムにおけるジェンダーに無自覚なまま共学、共修を実施しても、共学、共修がただちに男女平等教育には結びつかない。そのため、男女共学や共修の現状を明らかにしながら、男女平等をつくるための共学、共修とはどうあるべきなのかについて、以下の3つの調査領域における研究において析出した。1,福島県の男女共学化および共修の現状調査福島県は、男女共同参画社会の実現のための施策の一環として、長らく残っていた別学高校をすべて共学化した。その共学化実現過程や高校の現状について、聞き取りと観察および質問紙調査を組み合わせて分析、考察した。2,関西(大阪)の私立高校の共学化戦略と共学、別学の現状調査福島県とは対照的に公立高校はすべて共学だった大阪府では、私立高校が別学校を提供してきた。近年、共学化が進んでいる大阪の私立学校での別学、共学の経営戦略および生徒への質問紙調査によって、共学、別学の比較検討を行った。3,高校での体育共習の指導場面の観察調査男女共修の高校の体育の授業場面において、教師の声かけが生徒が男子か女子かで異なること、そこに教師のジェンダー観があらわれ、ジェンダーの利用と再生産が行われていることなどについて、授業観察の分析を行った。
著者
堀 準一 小椋 正
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

日本人一般小児に顎関節症がどの程度の発症頻度があるかを鹿児島大学のグループが1984年に調査した結果によると9.8%(10〜18才)であった。すなわち,10人に1人の割合で三大症状(顎関節雑音,顎関節部疼痛,開口障害)のうちどれか一つの症状があることが解った。また,顎関節症の初発症状は顎関節雑音であり,初発期は中学生で高校生になると激増することも解った。その後,多くの研究者による顎関節症の発症頻度についての報告がなされ,この疾患が増加傾向にあるといわれているが,調査の方法(アンケート調査,問診,臨床診査など)や症状(前期三大症状の他,頭痛や異常顎運動など)の取り扱い方の違いなどのため比較出来るものがなく,増加しているかどうかは解っていなかった。そこで今回著者らは,顎関節症の発症頻度が日本人一般小児において8年前より増加しているかどうかを同一の方法論によって確かめることにした。また,顎関節症の発症頻度に地域差や環境差があるかどうかを確認するために,東京都と8年前に調査した鹿児島市において行った。その結果によると,小学生(5,6年生)2.0%から8.0%,中学生8.1%から12.5%,高校生12.0%から17.2%へと全てにおいて増加していることが解った。さらに,顎関節症の発症頻度は東京都内中学生11.9%に対し,鹿児島市内中学生12.5%で,東京都内高校生17.6%に対し,鹿児島市内高校生は17.2%と殆ど差がなかった。しかし,東京都内と鹿児島市内の中学生,高校生ともに顎関節症の発症頻度は男子よりも女子が高頻度を示したが,統計的な有意差は示さなかった。以上のように,若年者顎関節症は地域差はないものの増加傾向にあることが確認されたことを考えると,この疾患の予防法を早期に確立する必要に迫られている事が解る。今後,この研究を継続し予防法を確立する予定である。
著者
森川 嘉一郎
出版者
早稲田大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本年度は、前年度に都内の男子高等学校で実施した調査よりも統制された条件で、かつ男女にまたがる標本を用いることにより、個室に反映された趣味の実態や因子をより精密に測定することを目標とした。前年度の調査ならびにそれに先立つ予備調査から得られた諸々の尺度に基づき、岡山の大学(国立・共学)にて、講師の協力を得て、学生に授業の一環として調査票を宿題の形で配布・集票した。調査内容は予備調査で有効と判断された諸項目の中から本人や両親の学歴、所得階層、職域などのフェイスシートを構成する質問7項目、並びに個室の和/洋、広さ、生活時間、ポスターやヌイグルミなど装飾品の種類別数量、電話やパソコンなどそこで使用されている電化製品の品目や使用時間、来客の頻度、清掃の頻度、物品の整頓状態などの個室の様態や使用状況に関わる質問27項目を抽出した。さらに個室の写真に代わる資料として、個室に飾られているポスターに描かれた人物・キャラクターなどの固有名・国名を書かせる記述回答式の質問を2項目と、幾つかの尺度に沿って順序づけられた典型的な個室の状態の図版と自分の個室を見比べて測定させる質問を4項目加え、計40項目で質問紙を構成した。結果において特徴的だったのは、個室におけるホビーの反映とテイストの反映とで男女の平均の相対的関係が逆になっており、男性はホビーを主体として自らの趣味を部屋に反映させるのに対し、女性はむしろ、テイストを主体とする傾向にあったという点である。これは自室の中の立体的装飾品の点数にも表れており、女性の方が男性より多い平均値が出ている。またこうした装飾品や部屋に反映されたホビーのモチーフについての記述解答をみてみると、マンガ・アニメ・ゲームなどの国内産キャラクターに関連する趣味では男性の方が女性より記述数が多く出ているのに対し、海外のキャラクターやスターの記述では逆に女性の方が多い。
著者
亀田 温子 池谷 寿夫 遠藤 恵子 入江 直子
出版者
十文字学園女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

1 公立高校の男女共学進行状況の動向研究・戦後の男女共学制度実施の中で、現在も公立高校の男女別学率が高いのは、宮城県、福島県、群馬県、栃木県、埼玉県など、北関東、東北地方の県である。しかし、1990年代以降15歳人口減少期に入り高校再編成計画のなかで、男女共学化への動きが具体的に進行している。本研究では、その実態をとらえた。・福島県については、1994年から始まった公立高校の男女共学化10年計画により2003年で、すべて男女共学校となった。その背景、実施のプロセス、推進に向けた市民運動の力、を分析。・宮城県、群馬県については、教育委員会の明確な方針と指導により学校再編計画により共学化進行計画が進みつつある。全部ではないが、いわゆるエリート校の共学計画も進んでいる。・埼玉県については、苦情処理委員会への苦情から「共学推進」の勧告が出される形で、問題が顕在化した。同窓会などを中心に強い共学反対運動が展開した。高校再編計画でも実質的に女子高が統廃合になるケースはあるものの、共学方針は出されぬまま、戦後50年を経てもエリート校の男女別学を存続する「現状維持」体制としている。2 大学共学化把握のための資料作り戦後の大学に見る男女共学化、近年共学化の動きをとらえる資料作りをおこなった。3 ドイツ・アメリカの動向研究・ドイツについては、新たな男女共学ついての動きをドイツの男女共学の中心的研究者であるヴィーラントの協力を得、現地調査を行うことから現在の状況をとらえた。・アメリカについては共学大学における女子学生の支援プログラムから、実際の動きを捉えた。
著者
手塚 甫
出版者
北里大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

本課題の根本史料たる小学校教員養成学校卒業生の成績証明書に関し.昨年度その所在を確認しておいたが、本年度、現地に赴き、ウイーン市の小学校男子教員養成学校及びヴィーナー・ノイシュタット市の小学校教員養成学校に関し、1880年から1905年に至る全史科の写真撮影を完了した。合計約6000枚に及び、目下、その現像作業と平行して、鋭意整理を進めており、間もなく完了する。予定である.本卒業成績証明書には、卒業成績の他、出身地、信仰、父親の職業、奨学金取得の有無及びその額も記されており、これらを分析することによって、本課題の解明に大きな手懸りを得るものと期待している。なお数量的分析のみでなく、数人の指導的人物については、これまで伝記的に不明だった部分のいくつかを明らかにすることも出来た。尤もウィーン市の女子教員養成学校における当該期間の史料は、第二次大戦時の戦火によって焼失してしまったため完璧を期し得ないのは甚だ遺憾である。当面史料の分析を急ぎ出来るだけ早い機会にその成果を発表する予定である。なお、この分野に関する研究は、オーストリアに於ても手がつけられていないので、機会が得られれば是非ドイツ語でも発表したいと思っている.
著者
佐藤 和夫 汐見 稔幸 宮本 みち子 折出 健二 杉田 聡 片岡 洋子 汐見 稔幸 宮本 みち子 折出 健二 杉田 聡 片岡 洋子 山田 綾 小玉 亮子 重松 克也
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

男女共同参画社会を形成するにあたって不可欠な課題と言うべき男性の社会化と暴力性の問題を、ヨーロッパおよびアメリカ合衆国の研究と施策について、比較研究調査した上で、日本における男性の暴力予防のために必要な研究を行い、その可能性を学校教育から社会教育にまで広めて調査した。その上で、先進諸国における男性の暴力性の関する原理的問題を解明した。
著者
野口 隆子
出版者
十文字学園女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

平成17年度においては現職保育者及び実習生に対する調査研究をおこなった。まず第1に、保育者養成大学において初めて保育の場での観察実習をおこなった実習生80名を対象としたグループディスカッションを実施し、各グループのディスカッションの内容、実習経験と対話による学びについて検討をおこなった。第2に、保育の場で長期的な実習を経験した実習生13名及び幼稚園に勤務する現職保育者9名に対し、ビデオを用いた面接調査をおこなった。そして第3に、現場での学びがどのようにしておこるのか、そして実習指導について、保育者・実習生に対するインタビュー調査をおこなった。平成18年度・19年度には、これらの調査で得られたデータを分析し、国内外の学会において研究発表をおこなった。こうした面接調査・インタビュー調査は、保育における実践知の特徴を明らかにする上で重要であり、実習の経験や保育経験によって促される保育者の専門的発達の過程、メンターの役割やメンタリングの内容に関する基礎的知識を提供しうると考えられ、この点に意義があると考えられる。また、これらの調査から得られた知見をもとに、学び手が期待するメンター役割及びメンタリングを明らかにするための質問紙を作成した。この質問紙を用い、保育者養成大学で様々な実習を経験をした学生約120名を対象とした調査をおこなった。様々な園の文化によってメンター役割やメンタリング内容が異なっているが、その中で共通の要因が明らかとなった。メンタリングの場や内容、そして誰がメンターになるか、どのような指導をおこなうか、各々園が持つ文化があり、職場の制約も存在している。保育の場で実際に可能な指導とともに、成長を促すために必要となるメンタリングのタイプが示唆された。
著者
坂東 健二郎 松口 徹也 大西 智和 柿元 協子
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

Renin-Angiotensin系(RA系)は血液量と血圧を正常に保つシステムであるが、一部の器官では局所でACE(Angiotensin converting enzyme)がAII(Angiotensin II)を産生し、近傍のAT1(Angiotensin II type 1)受容体に働く組織RA系が存在している。我々は、骨芽細胞で組織RA系に必要な機能的AT1受容体、AT2受容体とACEの発現を確認した。骨芽細胞や軟骨芽細胞をAIIで刺激すると骨分化への影響は認められなかったものの、ERK、AMPK、Sykなどの細胞内シグナル分子が影響を受け、ケモカインの発現が促進された。骨組織中でAIIの局所濃度が高まれば、骨組織RA系が働くと考えられる。
著者
森 陽太
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

バテライト形炭酸カルシウムはその熱力学的不安定性から自然界にはほとんど存在しない。しかしながら100nm程度の一次粒子が凝集して二次粒子を形成していることから多孔質体であることが期待されている。材料利用を視野に入れた場合、生成メカニズムや粒子径の制御などその基礎的物性を知ることが重要になる。昨年度はこれらの基礎的物性について引き続き検討を行った。天然セルロースに対しTEMPO触媒酸化を適用することでセルロースミクロフィブリル表面にカルボキシル基を導入することができる。この試料に対し軽微な機械処理することで出発物質に応じた径を有するセルロースナノファイバーゲルが得られる。このセルロースナノファイバと形炭酸カルシウムを複合化についても研究を行った。複合化処理としては未乾燥のナノファイバーフィルムに塩化カルシウム水溶液と炭酸カリウム水溶液を交互に通過させることにより試料の作製を行っている。この試料ではフィルム表面での若干の炭酸カルシウム生成が確認されている。また、セルロースナノファイバーゲル中で緩やかに炭酸カルシウムを結晶成長させた場合、他の高分子ゲル中では見られない200μm程度の特異的な形状を有する結晶が得られた。この花弁状の結晶はセルロースナノファイバの径には依存せず、セルロースナノファイバのような高結晶性で商アスペクト比を有するゲル中で物理的拘束を受けることで特異的に生成すると考えられる。これらの詳細な生成メカニズムについては現在検討中である。
著者
添田 雄二
出版者
北海道開拓記念館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,北海道における小氷期の実態とそれに伴う自然災害の特徴を地質学的・考古学的手法によって明らかにし、それが自然界や人間社会に与えた影響についてまとめた。小氷期の北海道は寒冷化の影響によって、顕著な海退が起きていた。特に17~19世紀は、低地でも地下深部まで凍結していた。度重なる大雪や低温は、自然界の資源を減少させ、狩猟採集に大きく依存したアイヌ民族に深刻な影響を与えた。
著者
原武 哲
出版者
福岡女学院短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

野田宇太郎文学資料館に所蔵されている野田宇太郎宛の諸家の書簡は二千通以上に及んでいるが、その写真撮影と複写の作業は終了し、目下その解読と注解を作業しているところである。野田宇太郎が「文芸」「芸林間歩」「文学散歩」などの高踏的な雑誌編集にたずさわっていたので、文学者からの雑誌の原稿執筆に対する応答、著書贈呈に対する返事、出版社紹介の依頼、文学碑建立の打ち合わせ、文学散歩に関するものなど、当時の出版事情や作品制作の過程が知られて、大層興味深い。特に今年度は昭和23年8月5日付から37年9月2日付までの9通の注解作業を終了し、「福岡女学院短期大学紀要」第30号に発表したところである。森茉莉は鴎外の長女として、文豪から溺愛を受け、童女のまま大人になった天衣無縫さを持っていた。野田宛の九通の茉莉書簡は彼女が文壇で注目を浴びる以前の鴎外の遺子としてのみ存在が認められていた頃のもので茉莉の素顔が垣間見られて面白い。「芸林間歩」に原稿執筆を依頼され、鴎外の回想を執筆した時の経緯が綴られている。弟類が「世界」(岩波書店)昭和28年2月号に「森家の兄弟」を発表したために、茉莉・杏奴と絶交状態になったことも伺われる。茉莉が処女出版「父の帽子」(筑紫書房、昭和32年2月)を刊行した時の事情なども伺える書簡もある。「父の死と母、その周囲」(「父の帽子」所収)を書いた時、「父の死にます時のようすや、母と祖母や伯父達との間のことを公平に」書いたと述べつつ、「どうしても母の方に同情が深くはなりますが」と心の揺れを見せている。「兄弟に友に」では弟の類と不律とのことを書いたと言いながら、雑誌「日本」創刊号の「兄弟に友に」には二人の弟のことは全く触れていない。類との不和を公表することへのためらいが感じられる。第二随筆集「靴の音」の「凱旋」の題のことや「文芸」に掲載された「或殺人」のことなど、茉莉の小説制作にかかわる裏面が表わされている。野田宇太郎宛書簡の解読作業はまだ一部しか進んでいないので逐次、解読・注解・解説をほどこし、野田と当時の文壇との関係や大きく昭和文学史の潮流を見きわめたい。今後も書簡の調査を続けていくつもりである。
著者
市川 隆 高遠 徳尚
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

国立極地研究所を中心として日本が開発を進めている南極の氷床「ドームふじ」は標高が高く(3810m)、大気の透過率も高いと予想される。しかしシーイング等の天文学的条件に関するデータがない。そこで、ドームふじの天文学的気象条件(シーイング、測光夜数、背景光の明るさ)の調査を行うために、口径40cmの極地用望遠鏡を開発した。-80度で正常に動作するためには、できる限り同じ材質で熱膨張などの影響をさける必要がある。特にドームふじはきわめて厳しい環境にあるので、現地での調整はできる限り少なくしなければならない。そこで常温で調整した後、冷却化でも性能を維持する軸受けなどを開発した。また運搬と現地での組み上げを容易にするために、総量200kg余りある望遠鏡は5分割できる構造とし、最低2人での組み上げができることを確認した。本装置の極寒環境での性能を評価するために、平成20年2月に日本で一番寒い場所といわれる北海道陸別町に分解した望遠鏡を運搬し、現地で組み上げ実験観測を行った。最低気温は-23℃だったが、この極寒環境においても、望遠鏡、制御システムなど必要な観測装置は暖める必要もなく、正常に動作し、当初の性能が出ていることを確認した。その他、極寒で動作する機械部品、電気・電子回路の技術的検討、大型望遠鏡の雪上設置法の検討、シーイング測定装置DIMMの開発、SODAR乱流強度の微小熱擾乱への較正を行った。
著者
五十嵐 誠 望月 優子 高橋 和也 中井 陽一 本山 秀明 馬場 彩 望月 優子 高橋 和也 中井 陽一 本山 秀明
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

研究成果の概要:南極ドームふじ基地において掘削された氷床コアおよそ100m分についてイオン濃度分析を実施し、硝酸イオン濃度プロファイル中の十数箇所に超新星爆発起源と思われる高濃度スパイクを検出した。本研究ではこれらの発現年代を正確に推定するため、ドームふじ氷床コアの硫酸イオン濃度測定結果と大規模火山噴火年代との関連性を考慮して、誤差1年以内の氷の堆積年代(深度と年代の関係)を求めた。
著者
高木 健太郎
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

積雪寒冷地域における冬季の大気一土壌間の二酸化炭素輸送メカニズムを明らかにするために,雪面下の二酸化炭素濃度・温度プロファイルを測定するシステムを小型二酸化炭素濃度計と熱電対温度計,データロガー,タイマ,リレーにより構築し,北海道大学天塩研究林林内の森林伐採跡地に設置した.雪面からの二酸化炭素放出量を評価するために,三次元超音波風向風速計とオープンパス型CO_2/H_2O分析計を用いた二酸化炭素フラツクス観測システムを積雪内濃度プロファイル測定地点に隣接する場所に設置した.近接した場所において,融雪量,積雪深,地温の観測を行った.積雪による地温低下緩和によって冬季も土中の微生物による呼吸が行われ,土壌から積雪内部に二酸化炭素が供給されることが明らかになった。二酸化炭素は積雪内で下層ほど濃度が高くなる濃度勾配をもって分布し,弱風速時には雪面上の大気との濃度差が3000ppmに達した。一方,強風時には空気塊が積雪内部に進入し大気との濃度差が大きく減少した。以上の観測結果に基づいて,積雪を介した二酸化炭素の挙動について検討した結果,以下の関係を考慮することにより再現できることが明らかになった。1.指数関数的に地温に依存する地面からの二酸化炭素発生2.拡散則に従う積雪内部の二酸化炭素の雪面への移動(弱風速時:摩擦速度0.1ms-1以下)3.摩擦速度に比例する空気塊の移動による二酸化炭素の雪面への移動(強風速時:摩擦速度0.1ms-1以上)
著者
瀬川 高弘
出版者
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構(新領域融合研究センター及びライフサイエンス統合データベースセンター)
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

アイスコア試料からコンタミネーションを極力排除した遺伝子分析や,生物種同定のプロトコルを確立するための解析をおこなった.南極アイスコア中に含まれるバクテリアの16SrRNA遺伝子解析をおこない,バクテリア群集構造解析をおこなった.その結果,間氷期と氷期で検出されるバクテリアの種類や起源に大きな違いがあり,南極氷床アイスコア中バクテリアを古環境指標として利用できる可能性が示された.
著者
大薮 加奈
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

昨年度は主にパンジャブ系移民が主導権を持って広げていったバングラ音楽と文学の関係について研究したが、今年度はその他のインド系移民作家の作中に現れる音楽について研究した。一昨年度の歌詞中心、昨年度のリズム中心の精読から一歩すすめ、今年度は主題としての音楽を取り上げた。その過程で、Asian Dub FoundationやFun>Da>Mentalなど、イギリスで活躍するインド系ラップバンドを中心に、「怒れる移民2,3世」の政治的メッセージと、文学テキストの政治的メッセージの表現方法について比較した。ダンス・ミュージックの形をとるアジア系バンドの音楽は、その挑発的メッセージとはうらはらに白人ユースを取り込む明るく乗りやすいサウンドになっている。それは、ミドルクラスが読者である文学テキストの持つ言葉の魅力に近い。ただ、コミュニティーに根ざした音楽バンドのメッセージに比べて、若者が主題のクレイシの文学テキストでさえ意識的には中流階級(ミドルクラス)でありながら差別の対象となっている自分の外見や存在と距離を置こうとする作家のスタンスが見え隠れしており、メッセージは直接的でないことがわかった。今年度は昨年度に引き続き、移民の子供たちのコミュニティー音楽活動について、エジンバラ市を中心に調査した。コミュニティー音楽活動は、Asian Dub Foundation等のバンドを輩出しており、英国の移民文化にとって特に大切であるといえる。そこでは、自分たちの文化に根ざした音楽を伝えようという動きと、それを現在のイギリスにいる自分たちの音表現に変えていこうとする綱引きが常に存在していることが確認された。
著者
浅井 武 瀬尾 和哉 酒井 淳 笹瀬 雅史 河野 銀子
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、実験風洞と数値流体解析を基にしたスポーツ流体シミュレーターを、パーソナル・スーパーコンピューター上に開発した.さらに,実際のスポーツ科学,スポーツ工学問題の展開事例として、流体工学的観点からスポーツ技術を検討すると共に,スポーツボールやスポーツシューズを代表とするスポーツ用具の空力特性の解析や改良を試みた.サッカーボールの空力解析の場合,スポーツ流体シミュレーターを用いたCFD解析と風洞実験により,無回転のサッカーボールの空力係数を分析すると共に,四塩化チタンを用いた可視化手法により,実際に飛翔するボール後流の動態を検討し,サッカーボールの空力特性を明らかにした.CFDと風洞実験におけるレイノルズ数と抗力係数の関係をみると,亜臨界レンジで0.43程度,超臨界レンジで0.15程度を示し,サッカーボールの臨界レイノルズ数は,約2.2〜3.0×10^5であると考えられた.サッカーボールの抗力係数は,平滑球とゴルフボールの中間的特性を示し,ボールパネルは臨界レイノルズ数を減少させるという意味で,空気抵抗を下げていると考えられる.CFDと可視化実験において,ボールの低速時(5m/s)と高速時(29m/s)のボール周りの流れを比較すると,低速時では,境界層の剥離点が前方岐点より約90deg.に位置していたのに対して,高速時では,剥離点が前方岐点より約120deg.に後退していた.ボール直後の渦リングのような渦塊から発生周波数を計測し,Stを推定すると,平滑球のレイノルズ数4×10^4近傍のハイモード値約1.0と近い値であると考えられた.ボールが飛翔した後,ラージスケールの渦振動(渦塊の蛇行)が観察された.このメカニズムの詳細は不明であるが,渦振動が,サッカーボールの「ナックルエフェクト」に関連している可能性があると思われた.