著者
小林 祥泰 小黒 浩明 卜蔵 浩和 山口 修平
出版者
島根大学(医学部)
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

高齢者の転倒に重要な因子と考えられる歩行時の危険予知能力を、事象関連電位および機能的MRIで明らかにするために、昨年に引き続き以下の研究をおこなった。被験者が実際に歩いている感覚を持つような、仮想現実空間を実現した歩行動画ビデオを昨年の段階で完成した(ソフト開発会社との共同作成)。動画ビデオの中には、歩行を妨害する刺激、すなわち突然接近する自動車やボールなどの場面を音と共に挿入した。本年度はこの刺激を用いて事象関連電位P3の測定を行った。まず若年の健常者において基礎的な検討を行った。被験者は動画中の標的刺激(アニメの犬)に対してボタン押しを行い、課題実行中の事象関連電位を測定した。そして妨害刺激に対する事象関連電位も記録し、標的刺激の反応と比較した。脳波は頭皮上16カ所から記録し、事象関連電位の頭皮上の分布も検討した。その結果、標的刺激に対する事象関連電位P3は潜時301ms、振幅13.3μVで頭頂後頭部優位に出現した。一方、妨害刺激に対する事象関連電位P3は潜時320ms、振幅11.4μVで前頭部優位であった。予期しない新奇な刺激に対する生体の反応は、定位反応(orienting response)として知られており、事象関連電位では新奇性関連P3が出現する。今回の妨害刺激に対する事象関連電位P3は、その潜時や電位の頭皮上の分布の検討結果から、新奇性関連P3と同様の反応を見ていると考えられる。その後さらに、歩行障害を呈する種々の神経疾患患者(パーキンソン病、進行性核上性麻痺、多発性脳梗塞等)での測定を行った。実際に歩行は行わないため、事象関連電位の測定は全例で可能であった。その結果、一部の患者で妨害刺激に対する事象関連電位の低下、遅延を認め、本システムによる測定が、歩行時の様々な危険物に対する認知能力の定量的評価に使用できる可能性が示唆された。今後さらに転倒の客観的指標との相関を検討することで、疾患との関連、脳内病変部位との関連、一般認知機能、特に前頭葉機能との関連、さらに歩行障害に対する治療の効果などの検討に応用が可能である。機能的MRIに上る検討も今後の課題であるが、妨害刺激に対する反応の脳内神経ネットワークの詳細が明らかになることが期待される。
著者
伊藤 驍 渡辺 康二 北浦 勝 塚原 初男 長谷川 武司
出版者
秋田工業高等専門学校
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1990

3年間にわたって資料収集・調査観測した結果について整理し、成果の取りまとめを行った。雪の観測と並行して研究を進めているため現在も一部作業継続中のものがあるが,今年度の主要実績は次の通りである。(1)前年度行った秋田県の雪崩危険箇所の調査解析に引続き,今年度は宮城県の場合について資料収集を行い,発生要因8つを抽出して日本海側と太平洋側に面した両県の危険度や地域的特徴について多変量解析を適用して比較検討した(伊藤)。(2)雪崩と同様,地すベりについても宮城県の危険箇所に関するデータを収集し,両県における危険度や地域特性を整理した。特に危険度の大きいところはいずれも特別豪雪地帯に位置し,比較的高標高地で長大な斜面をもつところに集中するということが判明した(伊藤)。(3)地すベり冠頭部での雪気象観測を引続き行った。またこの観測における問題点を解決し,データ収集のテレメタリングシステムを確立させた。本研究によって開発された観測システムは次年度より横手市で採用されることが内定した(長谷川,伊藤)。(4)雪崩発生要因の一つとして斜面雪圧を重視し観測を行ってきた。この雪圧は斜面上の局所的凹凸地形に大きく影響され,山形県内ではこの地形のところで地すべりと雪崩危険箇所が重複していることが確認された(塚原)。(5)積った雪が融けて融雪水をもたらし脆弱な地盤を形成するが,この融雪機構を熱収支法や気象作用等によって説明し,地盤にいかに浸透するかを積雪層タンクモデルを使って解明した。この数値シミュレーションは実際の観測と良く合うことを検証し,福井等北陸地方の融雪地すベり発生機構のモデルとして整理した(渡辺)。(6)石川県内の雪崩事例を対象に雪崩の運動論を適用し,雪崩防護工に作用する衝撃力や雪崩の通り道について数値シミュレーションを行い良好な結果を得た。特に雪崩抵抗係数を慎重に取ること,雪崩の到達地点は地形の拘束を強く受けることなどをモデルを使って明らかにした(北浦)。
著者
遠藤 辰雄 高橋 庸哉 児玉 裕二
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

世界中の降雨の大部分は、それをもたらす上空の雲に0℃以下の温度領域が十分に含まれており、そこでは酸性雪の形成が支配しているはずである。しかもこの降雪は、採取した時に、降雪粒子の種類・大きさ・結晶形など形成過程の履歴の情報を知ることが出来るので、雨滴の場合より解析的な追跡が可能である。さらに、それらの最も効率のよい成長様式は、霰などの雲粒捕捉成長と雪片などを形成する気相成長とその併合過程の組み合わせによる様式の2つに大別される。しかも、この成長様式は、成長の初期に、いずれかに決定されると、途中で乗換がほとんどできないと考えられるものであり、この研究ではこの2つの様式について降雪試料を化学分析してみた。その結果、雲粒捕捉成長と気相成長による降雪は、それぞれ、硫酸塩と硝酸塩をを他の成分に比べて、顕著に卓越して、含有していることが明らかにされた。しかもそれらをもたらす降雪雲の雲システムから推定すると、前者は、都市である札幌でも郊外の石狩および遠隔地の母子里においても、ほとんど同じ程度の割合で、高い濃度で、検出されることから、いわゆる長距離輸送されて、雲粒に取り込まれて、溶液反応で酸化が促進したものと考えられる。また、後者は落下速度が遅く、かつ下層の風が弱い時に卓越する、降雪様式であること、さらに、札幌や石狩における、下層が陸風で明らかに汚染された気流の中を降下するときに、高い濃度が検出され、母子里では低い値であることから、雲底下の人為起源の汚染質を取り込んだものと判断される。後者の降雪に含まれる硝酸イオンは自動車の排気ガスが主な発生源と考えられるが、さらに、第2、第3番目を常に占める成分は、非海塩性の塩素イオンとカルシュウムイオンであり、発生源として、ゴミの焼却と路面のアスファルトの分散が考えられる。
著者
深澤 大輔 富永 禎秀 飯野 秋成 持田 灯
出版者
新潟工科大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

ローコスト化を目指して二重屋根にして行った平成10年度の融雪実験では、積雪層下部に毛管現象によって融雪水が2cm程度吸い上げられ、表面張力によって下面に水幕を作ってしまうため、気温が氷点下になると融雪水が再凍結し、障害を生じた。そこで、平成11年度の実験では、メッシュの断面形状を水平から垂直に変更して行ってみた。その結果、各メッシュ毎に雪がめり込み、10cm程度垂れ下がるようになり、雪表面積が大幅に増加することにより融雪スピードが早まることが確認された。しかしながら、垂れ下がった状態で気温が氷点下になるとやはりその先端部分が再凍結してしまうため、その解決が課題として残った。この研究は、「密閉した雪山と水槽内における融雪が驚くほど良かった。」ことから始まっているが、それは「積雪層内のパイプが障害となって積雪層に粗密が生ずるために空洞が発生し、雪粒子間の空隙に通気が生じることからその空洞の表面の雪が融雪し、次第に拡大して雪室を形成した。また、この雪室は外気と遮断されていたため、その内部の気温は0℃よりも下がることはなく、逆にプラス気温時には温室効果が働き、再凍結が起きずに融雪が促進された。」ことが、この3年間の実験研究によって類推可能になった。このようなことから、「融雪水が再凍結するのを防止するために積雪で密閉される二重屋根とし、屋根雪の自重でその空洞部分にメッシュ毎に雪が自然に垂れ下がり、雪表面積を拡大させ、融雪を促進させる。」ことが効果的である。今回の最大の課題であった積雪層内部にもたらされる融雪エネルギーは、ゆっくりと伝わる外気ないし日射などによるもので、太陽からの電磁波放射の影響は小さいと考えられた。
著者
川本 義海
出版者
福井大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

まず道路管理者、交通管理者および道路利用者から指摘された問題点に対するハード面(道路構造面)における対策はそれほど進んでいなく抜本的な改善は困難な状況を把握し、とくにソフト面での対応の重要性を確認した。次にソフト面において対策の要点と考えられる雪道の情報提供による交通マネジメントの方法を提案するために、運転者に有効とされる情報内容、情報入手媒体、情報入手タイミングを検討した。その結果、移動中のタイムリーかつ正確な交通情報の必要性が明らかとなり、とくに道路上で提供されている道路交通情報板が重要であることが確認された。そこで現在提供されている情報の諸問題のうち、これまであまり指摘されることのなかった提供される情報のあいまいさおよび運転者の認識不足に着目し、情報提供側の改善点はもちろん、運転者側の改善点も明らかにすべく、運転者に対して情報の正確な認識と判断の観点から、運転者に対するアンケート調査を通じて提供されている情報に対する運転者からみた評価のランク付けをおこなった。あわせて従来体系的に整理されることのなかった情報の内容をそのレベルに応じて規制、警戒、指示、案内の4つに分類した。これら情報の分類と評価ランクという概念を用いて道路交通情報板で提供されている内容の標示方法の是非、内容の是非についても検討できる基準を提示したとともに、標示の組み合わせによる効果的な情報提供の具体例についても提案した。これにより、情報提供者側の意図と運転者の理解の差を少なくすることが可能となり、より分かりやすく有効な情報提供と享受による冬期の道路交通マネジメントに資することにつながることを示した。
著者
白岩 孝行 中塚 武 立花 義裕 山縣 耕太郎 的場 澄人
出版者
総合地球環境学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

ランゲル山のコアについて、表層から深度100mまでの解析・分析を実施した。内容は、水素同位体比(0-50m)、主要イオン(0-50m)、ダスト濃度(0-80m)、X線精密密度(0-100m)、トリチウム(0-50m)である。微量金属濃度については、ローガン山のコアについて測定した。以下、上記の解析・分析から明らかになったことを箇条書きでまとめる;1.ランゲル山コアの0-50mの深度では、水素同位体比、ダスト濃度、トリチウム濃度に明瞭な季節変動が見出された。濃度のピークは水素同位体比が夏、ダスト濃度とトリチウムが春と判断された。2.ランゲル山のX線精密密度の深度方向への偏差値は、水素同位体比の変動と良く一致し、水素同位体比の重いピークに偏差の小さいピークが重なる。このことは、春から夏にかけて生じる間欠的な降雪が密度変動を大きくしていると考えられ、密度のような物理シグナルでも季節変動を記録していることが明らかとなった。3.ランゲル山コアのダスト濃度は春に高く、その他の季節に低い季節変動を示す。ダストフラックスは2000年以降増加傾向にあり、これは日本で観測された黄砂現象の増加傾向と一致する。4.ランゲル山コアのトリチウム濃度は明瞭な季節変動を示し、濃度のピークが晩春に現れる。この変動は対流圏と成層圏の物質交換に起因すると考えられ、春の低気圧性擾乱の指標になる可能性が見出された。5.ランゲル山のNaの年フラックスは冬のPDOインデックスと良い相関があり、長周期気候振動の指標となることが示された。6.微量金属分析はローガンコアの1980-2000年にかけて実施された。年間の鉄フラックスは数μg/平方mから80μg/平方m程度で変動しており、その原因として黄砂と火山噴出物があることが示された。7.ローガン山と北部北太平洋の西側に位置するウシュコフスキー山の両方で得られコアの涵養速度を比較したところ、逆相関の関係が認められ、これがPDOと連動していることが明らかとなった。
著者
村本 健一郎 椎名 徹 播磨屋 敏生 長野 勇
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

降雪雪片は雲内で発生した氷晶が成長し,さらにいくつも併合して落下してきたものである。この落下中の氷粒子や雪片の併合には,これらの形状や落下運動が関与している。降雪現象は,雲物理学に関しての考察だけではなく,リモートセンシングや通信,最近の地球気候モニタリング分野などの多様な工学的応用にも重要である。また、電磁波伝搬における減衰には、降雪現象が大きく関係する。降雪の研究で主に使用される観測機器の一つとしてレーダがある。降雪のレーダ観測は、レーダ反射因子Zと降雪強度Rとの間の関係式に基づいている。この降雪のZ-R関係式を決定するためには、ZとRのそれぞれを短い時間間隔でしかも高精度で測定しなければならない。しかしながら、短時間間隔かつ高精度で測定可能な降雪測定システムは、これまで開発されていなかった。そこで、画像処理手法を用いた降雪の物理的パラメータを測定する新しいシステムを開発した。落下中の雪片の映像を画像処理して、粒径、落下速度、密度を計算した。また、降雪強度は、画像データから計算するとともに、電子天秤から直接重量を測定する方法でも求めた。更に、これらの観測と同期して、小型Xバンド・ドップラーレーダを用いて受信電力も測定した。Xバンド波の減衰と降雪強度との間の関係を調べると同時に、雪片の物理的特徴量との比較も行った。これらの実験から、電波減衰には、降雪強度だけでなく雪片の粒径分布や密度も関係することがわかった。
著者
中島 皇 竹内 典之 酒井 徹朗 山中 典和 徳地 直子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

温帯のスギと広葉樹が混交する天然林において総合的な調査を開始した。森林の動態の解明を大きな目標として、森の動きと働きを明らかにするのがこの研究の目的である。今回は特に物質の動きに注目して、今後の研究の基礎固めを行った。12年間に3回の毎木調査を行ったことにより、集水域が約8haある天然林の大まかな動きが捉えられた。小径の広葉樹ではソヨゴ、リョウブの枯死が多く、ソヨゴは常緑であるため冬の積雪の影響を大きく受けて「幹裂け」の状態を示しているものが多く見られた。流出物調査では北米で報告されている量と同程度の値が観測され、渓流水質調査では過去の観測データと比較すると硝酸濃度の上昇傾向が見られるなど、新たな知見が得られた。他方で、いろいろなイベントが森の動きに大きく影響を及ぼしており、そのイベントが生じた直後でなければ、なかなか影響を顕著に見つけられないことも事実である。この点は流出水量・流出リター量・渓流水質においても同様で、イベント時の現象を詳細に捉え、解析することが、今後の大きな課題である。毎木(成長量・枯死量)、樹木位置図、流出水量、流出リター量、渓流水質などの調査はいずれも時間と労力を必要とするもので、多くの人の力が必要である。森林という人間などよりはるかに長寿命の生物と付き合うためには、長期的な戦略と長期的なデータに裏付けられた息の長い調査・研究が今後とも必要である。
著者
白岩 孝行 田中 教幸
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

北太平洋で発現する十年〜数十年周期の気候変動(DICE : Decadal and Interdecadal Climatic Event)の過去500年間に及ぶ変動周期と変動する気候・環境要素を、1998年にカムチャツカ半島ウシュコフスキー氷冠で掘削された全長212mの雪氷コアを用いて解明した。山岳地域に発達する氷河は、流動機構が複雑なため、表面に堆積後の歪みが著しい。このため、同氷冠の動力学を解析的手法、数値計算によるシミュレーションの二つから追求し、歪みを除去するための力学モデルも開発した。酸素・水素同位体比に見られる季節変動を用いて、表面から深度120mまでの年代を±2年の精度で決定した。その上で、解析的な力学モデルを用いて各深度の積算歪み量を算出し、同位体の季節変動によって定義される年層を表面相当の値に換算した。その結果、過去170年間に及ぶ涵養速度および酸素・水素同位体比の時系列データを雪氷コアから抽出した。上で取り出した時系列データについて、スペクトル解析を行って、変動の卓越周期を算出した。その結果、涵養速度には32.1年、12.2年、5.1年、3.7年の周期、酸素同位体比には11.5年と5.0年という周期が検出された。これら二つの時系列データは、Mantuaらによって定義された北太平洋のレジームシフトを示すPDOインデックスと負の関係にあり、北米沿岸のSSTが高い温暖期にはカムチャツカ半島で涵養速度が遅く、SSTが低い寒冷期にはカムチャツカ半島で涵養速度が速いことが判明した。
著者
青木 幸一
出版者
福井大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

電極上に電解合成した導電性高分子膜は、電気化学的なスイッチングにより、導電体(酸化体)と絶縁体(還元体)との間で相変化を起こす。イオン性溶液中で還元膜を電気化学的に酸化すると、電極に接した部分はイオンの放出または取り込みを伴って電子導電体になり、それ自身が電極として作用する。その結果、導電層が電極表面から溶液/膜界面へ向かって成長すると考えられ、本研究室では、この成長を導電層伝播機構と名付けて理論的に取り扱い、成長速度を測定してきた。導電膜を還元すると、膜全体にわたって均一に絶縁体化することがわかった。それ故、膜の酸化還元を繰り返すと、膜の電極近傍では酸化状態、溶液に近い側では還元状態をとる。すなわち、イオンの膜への取り込み量に動的分布を作ることができる。この分布をマクロ的に拡大するため、電極から引き剥した膜の一端に別の電極を取り付けてスイッチングを行うと、膜の長さ方向に酸化と還元体の分布が形成できた。ポリアニリン膜における電位と導電種の濃度との関係をスペクトロメトリーにより測定したところ、大きなヒステリシスのために、不可逆性が重要な問題になった。酸化方向の膜の変化では、電位の変化速度に依存しなかったため、平衡に近い状態が得られた。電位と導電種の対数濃度との関係はネルンスト式で表される直線からはずれ、ある電位で急激に折れ曲がることが分かった。この電位はパーコレーション閾値電位と考えられ、電極と電子的につながった酸化体と電子的につながらない酸化体との線形結合によってネルンストプロットを説明した。また、誘導電流を利用した抵抗測定に成功した。現在、そのpH依存性について実験が進行中である。
著者
植木 貞人
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1990年11月の噴火開始以来実施してきた精密重力測定データには,地下のマグマの運動とは無関係な種々の"雑音"が含まれている.そこで,今年度は,これらの雑音の特性を解明し,その影響を定量的に評価するための研究をおこなった.具体的な内容は以下のとおりである.1.火山活動静穏期の重力変化を明らかにするため,1995年8月,重力計3台を用いて重力測定を実施した.2.このデータをも含めて,CG-3型重力計の感度係数の誤差を見積もった.その結果,CG-3型重力計の感度係数には公称値の1〜14x10^<-4>の誤差があり,個々の機械によって大きく異なっていること,G型重力計に比較して数倍誤差の大きなものもあることが初めて明らかにされた.このことは,火山地域のような重力差の大きな地域における測定では,使用する重力計が異なること100μgalにも達する測定差が生じるということを意味しており,重力変化を論じるためにはその補正が不可欠であることを示している.3.これまで溶岩ドームの成長による地形変化の影響を定量的に見積もってきたが,本年度は新たに,山麓での火砕流堆積物による谷の埋設,山腹でのガリ-の発達による地形変化の影響を,デジタルマップを作成して定量的に見積もった.その結果,山腹・山麓部の地形変化による影響は,測定誤差をやや上回る20μgal程度であることが判明した.4.地下水変動の影響を解明するために,地下水面自動測定システムを整備した.しかし,まだ実験中であり,実際の地下水変動データに基づくその影響の評価は,来年度の課題として残された.地下水変動の影響が定量的に評価できれば,地下のマグマの運動に起因する真の重力変化を抽出することが可能になる.
著者
宮本 比呂志
出版者
佐賀大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

今年度は歯性感染症患者10例の排膿を用い、遺伝子法と培養法で検出菌の比較を行った。唾液の菌叢解析には、基礎疾患がなく口腔内に疾患のない健常者10名の唾液を用いた。歯性感染症患者の排膿は、滅菌スワプもしくは穿刺吸引で膿汁を採取した。培養法には4種の培地(羊血液寒天,BTB,チョコレート寒天,ブルセラ半流動)を使用し、37℃,好気および嫌気条件で培養した。一方、遺伝子法は試料からDNAを抽出し,16S ribosomal RNA遺伝子の一部(約580b p)をPCR法で増幅した。得られたPCR産物を大腸菌にクローニングした後,塩基配列を決定した。決定した配列はBLASTを用いて相同性検索を行い,菌種を同定した。健常者の唾液はすべての被験者においてStreptococcus属が最も多く検出された。優占菌は、個人差はあるもののStreptococcus属,Neisseria属,Actinomyces属,Granulicatella属,Gemella属,Prevotella属であった。排膿では、培養法と遺伝子法とで検出菌が一致したのは10症例中1症例のみであった。培養法では10症例中4症例において起炎菌が同定できなかったが、遺伝子法ではすべての症例において起炎菌が推測できた。遺伝子法は、従来の培養法では検出困難とされるVBN菌も含めた試料中の細菌叢を網羅的にかつ短時間で検出可能であった。本研究で開発した方法が、口腔内という常在菌が多数存在する中から起炎菌を同定する際に有効であり、口腔常在菌の変動解析に十分使用できることが確認された。生活習慣病のリスクアセスメントツールが確立できた。
著者
竹内 淑恵 大風 かおる
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

市場の成熟化、競合環境の激化に伴い、新製品のコミュニケーション活動に十分な予算を投下できない企業では、製品パッケージによる消費者への情報伝達の重要性が認識されている。しかしながら、パッケージ情報がどのように、またどの程度消費者に処理されるのかは解明されていない。本研究では、パッケージの評価尺度とパッケージ・コミュニケーションモデルを開発し、実証分析を行った。あわせて「パッケージ評価尺度」に基づいて、架空ブランドの製品パッケージを作成し、「売れる製品パッケージ」開発のあり方を検討した。
著者
丹沢 哲郎
出版者
静岡大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本年度は、約1週間にわたりBSCS本部を訪問し、BSCS設立後カリキュラムが出版されるまでの約5年間(1958-1963)の関連資料収集をまず行った。収集資料は300ページを超える量となり、スタッフ間の書簡、会議議事録、報告書、書籍等から収集を行った。そして、BSCSのディレクターであるJanet Carlsonや、カリキュラム開発センター・ディレクターのPamela Von Scotterらと意見交換を行った。彼らからは、この意見交換の中でも各種の参考文献を紹介してもらい、帰国後古書店等を通じて貴重な資料収集を行うことができた。続いて、これら収集資料の分析を行った結果、「BSCSのカリキュラム開発の方針決定に関しては、初代ディレクターであるArnold Grobmanが決定的な役割を果たしていたこと、またSteering Committeeがその重要な会合に位置づけられていたこと、さらに各種のマスコミ報道を巧みに利用しつつ科学的リテラシーの考え方も取り入れた方針を確定していったこと、しかし科学的リテラシー概念をかねてより強く主張していたPaul Hurdが、実はBSCS内ではそれほど大きな影響力を及ぼしていなかったこと」などが明らかとなった。
著者
黒柳 米司 浅野 亮 稲田 十一 小笠原 高雪 金子 芳樹 菊池 努 佐藤 考一 玉木 一徳 吉野 文雄 山田 満
出版者
大東文化大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

(1)米国の対ASEAN政策の積極化、(2)中国の存在感の顕著な増幅、(3)日本の存在感の長期的凋落、および(4)「地域としての東アジア」の顕在化などという方向で変容する地域国際環境の下でASEANは、(1)「ASEAN憲章」の採択・発効、(2)インドネシア民主主義の確立などの成熟を示したものの、(3)タイの軍事クーデター、(4)タイ=カンボジア武力衝突、(5)ミャンマー軍政の民主化停滞など、後退局面がこれを上回りつつある。
著者
床谷 文雄 村上 正直 伊達 規子 栗栖 薫子 高阪 章 大槻 恒裕 村上 正直 大久保 規子 長田 真里 内記 香子 栗栖 薫子 高阪 章 大槻 恒裕
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

EU(欧州連合)による経済的、政治的統合の過程が深化し、EU加盟国内の国家法、司法制度の運用に強い影響を及ぼしている。専門家を招聘し、研究会で検討を進めたところ、EU主導による統一的な私法制度の形成に向けた動きが、契約法のみならず、家族法、国際私法においても具体化しつつあることが明らかとなった。EUによる規範形成の効果は、スイス、ノルウェーといった非加盟欧州国へも実質的に及ぶうえ、豪州、ニュージーランドといったアジア・太平洋諸国にも影響し、東アジアでも共通経済圏、共通法形成への胎動がみられる。
著者
船越 資晶
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

「研究の目的」に記載した通り、本研究は、(1)社会的な討議/闘技に開かれた過程において、(2)差異/再分配の承認をめぐる実践が展開される、したがって(3)非基礎づけ主義的なアイロニズムの地平に立つ、ポストモダンの法体制論へと批判法学を鍛えることを目指すものである。今年度は、「研究実施計画」に記載した通り、上記内容のうち(3)「地平」研究を中心としつつ、(1)「過程」研究および(2)「実践」研究を同時並行的に実施した。(3)について具体的には、前年度に引き続き批判法学の法的思考論「法的思考の系譜学」の再検討を行い、ニーチェ/ウェーバー的視点から現代の法的思考を把握する理路を深化させた。同時に、批判法学運動史についても検討を行い、現代の法的地平がアイロニズムに満たされたものであることをいわば理論外的視点からも明らかにするよう努めた。これらの成果は、現代の法体制がよって立つポストモダンの精神史的地平がどのようなものかをより重層的な仕方で明らかにするものである。(1)について具体的には、前年度に引き続き批判法学の法社会理論「ピンク・セオリー」を鍛える作業を行い、同理論をポスト・マルクス主義的法理論として把握する理路を解明し終えた。この成果は、まさしく批判法学に基づく法体制の記述を可能とするものである。また、(2)について具体的には、前年度に引き続き批判法学の実践論「脱正統化プロジェクト」の再検討を行うとともに、ダンカン・ケネディの法学教育論についても検討を行った。これらの成果は、批判法学の実践論の意義と射程をより十全な形で明確にするものである。
著者
水野 慎士
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

我々が開発している仮想彫刻・版画システムの機能・表現手法の改良を行うと共に,一般の人々に実際に使用してもらうことでシステムの検証・評価を行った.仮想彫刻および仮想木版画では切削,彩色,版画摺工という作品制作の各工程において,筆圧タブレットを利用して操作の強さを考慮した操作を実現した.三次元仮想彫刻に対する彩色では,筆圧と彫刻表面形状を考慮しながら色と水分量の情報を持つ絵の具を対話的に塗布することが可能となった.そして仮想版木表面に水分量を様々に変化させた絵の具を塗布することで,絵の具の色と水分量,版木形状,ばれんの操作具合の相互作用によって生み出される浮世絵などの多版多色摺り木版画を仮想空間内で忠実に再現することが可能となった.また筆圧タブレットに対応した仮想彫刻・木版画システムのプロトタイプを構築して,コンピュータやCGの専門家ではない人に実際にシステムを使用してもらって評価を行った.実験では,多くの被験者にとって筆圧タブレットによる仮想彫刻操作はマウスに比べて直感的な操作が可能で,操作感覚も実際の彫刻に近いと感じることがわかった.また操作力と変形量の関係を変化させることで,素材の固さの違いを感じ取ることができるという結果を得た.ただし,タブレットペンが滑りすぎることや,音や削り屑などが出ないなど,実際の彫刻との細かな違いが彫刻としての操作感覚を損ねているという意見もあり,これらの問題を解決する必要がある.仮想銅版画システムでは銅版画制作物理モデルの改良に加えて,様々な銅版画手法の濃淡の解析を行い,より実世界の銅版画に近い画像の合成を実現した.特に代表的な銅版画手法の一つであるメゾチントでは目立てた銅版をスクレッパーとバニッシャーで削ることで濃淡表現を行うが,それぞれの使用頻度に応じた中間表現方法を提案して,操作の違いによる銅版表面状況の変化とそれに基づく版画画像の濃淡の変化を実現した.これらの研究内容は,論文や国内外の会議で発表した.
著者
佐野 輝男 千田 峰生 種田 晃人 R.A. Owens
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ノンコーディングRNA病原体"ウイロイド"の自己複製能と病原性をRNAサイレンシングの観点から解析した。ウイロイド感染植物に誘導されるウイロイドを標的とするRNAサイレンシングにより、ウイロイド分子は少なくとも5箇所のホットスポットが標的となり分解され、多様なウイロイド特異的small RNAが宿主細胞内に蓄積することを明らかにした。ウイロイドは想像以上に複雑な機構でRNAサイレンシングの標的になっていると考えられるRNA配列の類似性を基に2次構造を予測する新しいプログラムを開発し、RNAの自己複製と分子構造の関連性を解析するための基盤を構築した。
著者
福田 直樹
出版者
静岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究は,対象とする市場メカニズムをこれまでに研究を進めてきた組合せオークションメカニズムに絞り,超高速組合せオークションメカニズム起動エンジンの超大規模化とさらなる動作の高速化を実現した.特に,本研究開始時点で開発済みの高速勝者決定近似アルゴリズムを,より一般的な問題形式である複数ユニットオークション(1つの種類の商品が複数個存在する場合)に対応させたプロトタイプアルゴリズムの開発と,クラウドコンピューティングインフラ上での活用が期待される資源割当機構と超高速処理技術を組み合わせることで,商業利用可能な水準に向けた性能と利便性の向上を行った.