著者
竹内 栄
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ニワトリの雛や成鶏雌にみられる保護色パターン, 及び成鶏雄に特徴的な婚姻色パターンが, ASIP遺伝子の同一プロモーターの働きによって形成されることが明らかになった。これは, 体色における性差発現の分子機序に関する初めての成果である。また, ニワトリ視床下部におけるASIP発現は, 絶食負荷や高エネルギー食負荷により変動しないことから, 摂食制御以外の機能を持つか, 変異に起因する異所発現である可能性が示唆された。
著者
葛西 康徳 吉原 達也 西村 安博 松本 英実 朝治 啓三 小川 浩三 芹沢 悟 朝治 啓三 吉村 朋代 小川 浩三 芹沢 悟 林 智良 平野 敏彦 南川 高志 北村 麻子 桑山 由文 ゲアハルト チュール エヴァ ヤカブ シーマ アヴラモヴィッチ アデレ スカフーロ ヴォルフガング エルンスト トーマス リュフナー
出版者
大妻女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

イサイオスの法廷弁論11番及びデモステネスの法廷弁論43番、キケローの法廷弁論「カェキーナ弁護論」を素材として法廷演劇を行うことを構想し、その問題点を検討した。裁判過程全体の再構成を通して、「法」が証人や証拠と同様に位置づけられるという「事実としての」「物としての」法という仮説を提出した。裁判から古代法を見直すことが法の理解を根本から問うことになるという新しい方法論の可能性を示した。
著者
鈴木 邦夫
出版者
電気通信大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

本研究の目的は, 三井物産・三菱商事などの総合商社の生成と運動の歴史を分析し, それによって過去および現在の総合商社の基礎理論を提示することである.この課題を達成するため, 本年度において以下の作業をおこなった.1.世界において初めて生成した総合商社である三井物産の活動を分析することが基礎理論を提示するための不可欠の研究であるという観点から, 三井物産の分析を中心におこなった. その際, 三井物産会社資料中の「回議箋」(戦前分)に綴られている各部・各課・各視点提出の議案について, その件名リストを作成した. この作成のため, 謝金を使ってアルバイトをやとった. 「回議箋」所収の議案が莫大な数に達するため, 件名リストの作成は中途までしかおこなえなかったが, 今後も引続きおこなう予定である.2.大阪府立中之縞図書館所蔵の貿易商社名リスト(戦前)などをコピーと筆写により収集し, これをもちいて日本における外国製品の商品別・会社別・国別進出状況を分析し, さらに三井物産, 三菱商事などの日本商社とサミュエル商会・ジェームスモリソン商会などの外国商社の対抗状況を分析する場合の基本的データとして利用するため, 日本商社リストと外国商社の商号リストを作成した.3.日本および諸外国における貿易・生産の状況を参照するため, 貿易・生産に関する基本図書を購入した.
著者
森田 利仁
出版者
千葉県立中央博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

海棲巻貝サザエ約300個体について、殻の成長方向に障害物(シリコンゴム)を付着させる実験を行った結果、殻の成長に、次のような迂回反応が認められた。1.障害物が成長ルートの上部(殻頂側)に存在するとき、殻口は障害物に衝突する直前に下方(反殻頂)側に向き、障害物を下から迂回し、迂回後に再び上方に向かって成長する。2.障害物が成長ルートの下部(反殻頂側)に存在するとき、殻口は障害物に衝突後、一時前方への成長を停止し、その間殻口が外側に膨張する。その後、下方迂回をしつつ障害物を乗り越える。この二つの迂回パタンはともに、殻成長の方向を決定するのに、頭足塊が殻口の外に伸びる方向が強く関与していることを示唆している。このことを証明するために、あらかじめ内在的に決定されている付加殻の成長形が、頭足塊の伸び方向によって変形されるという、単純な数値計算上のモデルを立て、殻成長と障害物への反応をシミュレーションした。その結果、1.付加殻の成長形がたとえ巻き成長にあらかじめ決定されていなくても、頭足塊による変形によって、巻貝類が一般的に有する規則的な密巻き螺旋成長を生成できることが示された。2.この頭足塊による変形のみで生成された殻成長パタンは、障害物に対する下方迂回パタンを示すことも示された。以上の実験とシミュレーションの結果から、巻貝類の殻の巻き方には、殻口(直接的には殻を作り出す外套膜組織)に対する頭足塊の力学的な押し付け効果が、重要な影響を与えていることが明らかとなった。このことから、頭足塊と殻口との接触が避けられない生息姿勢で殻を成長させる巻貝類が、螺管どうしが重なる、密巻き型の巻き方しか有さないという形態進化のパタンを、古典的な適応進化の結果とする解釈ではなく、むしろ巻き方進化における発生上の制約として解釈することができる。
著者
竹内 栄
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

鳥類ではオスが派手な婚姻色を示し,雌は地味な保護色を示すことが広く知られている。しかし,この羽装色の性差を作り出す仕組みはわかっていなかった。本研究では,おかやま地どりを用い,この問題の解明を試みた。その結果,ニワトリの羽装色が,羽が形成される羽包内の局所ホルモン系(メラノコルチン系)により制御されていることが判明した。また,ニワトリの羽装色はオス型がデフォルトであり,メスでは卵巣由来のエストロジェンがASIP(アグーチシグナルタンパク)の産生を制御することでメス型の羽装色を作っている可能性が示唆された。さらに,本研究では羽形成の仕組みを解明するために重要と考えられる新規の遺伝子が同定された。
著者
日向 一雅
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

平成7、8年度にわたり、奈良円成寺の「円成寺縁起」・「弥陀霊応伝」・「知恩院縁起」・「円成寺伽藍宝物略縁起」・「円成寺略言志」の調査と翻刻、内容の検討をおこなうとともに、中将姫説話の検討を行った。その成果は明治大学人文科学研究所紀要に発表するところである。「円成寺縁起」と「弥陀霊応伝」は内閣文庫と東京大学史料編纂所にそれぞれ明治期の写本があるが、内閣文庫本は漢字カタカナ交じり文に直され、特定の字を誤読しているが、東大史料編纂所本は大本の美麗な影写本である。「円成寺縁起」と「弥陀霊応伝」は同一人の筆跡であり、ともに慶長十七年(1612)直後の成立と見られる。内容は「円成寺縁起」が円成寺の正史というべきもので、鑑真に従って来朝した虚瀧和尚による創建から慶長十七年までの寺史を記す。「弥陀霊応伝」は円成寺の本尊阿弥陀如来に帰依した十六人の僧侶たちの深い信仰生活を記す。「知恩院縁起」は円成寺と知恩院の略史、並びに師命によって僧侶二人が文明十三、十四年(1481〜2)に朝鮮に渡り、大蔵経を請来した経緯を記す。この時の航海記録である二合船日記の残簡が存する。これらは従来その内容を紹介されることのなかった資料であり、近世における縁起として、また朝鮮との交流史料として特色のある貴重な資料であるといえる。中将姫説話については、これが『観無量寿経』の韋提希夫人の説話の翻案として成立し、後に継子譚と習合して独自な成長を遂げたことを検証した。この中将姫の極楽往生を演出するのが当麻寺の迎講であるが、円成寺においては十二世紀末に四天王寺から菩薩面などを譲り受けて、池上に橋を渡して迎講を行ったという。これは大変珍しい形式で「二河白道」との習合を示すとみられる。
著者
中村 恵子
出版者
福島大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、電子レンジ加熱における食塩添加の影響を明らかにすることを目的としている。昨年度は液体モデル試料を用い、食塩添加試料では蒸発に使われるエネルギーの比率が高く、温度上昇速度は小さいことを明らかにした。本年度は、まず添加する食塩濃度の影響について、0〜20%の塩化ナトリウム溶液50〜2000mlを用いて確認した。その結果、食塩濃度の増加に伴って吸収するエネルギ量ーは減少すること、試料平均温度の上昇速度は小さくなることが明らかになった。次に、固体モデルを用いて実験を行った。0あるいは1%塩化ナトリウムを添加した10%コーンスターチゲル(200ml)を調製し、電子レンジで加熱したところ、食塩添加ゲルの蒸発量は多く吸収エネルギー量は少ないという、液体モデルと同様の結果が得られた。加熱直後の試料内部温度を比較したところ、食塩添加試料は試料外縁部が、無添加試料では中心部が高温となり、温度ムラの表れ方が正反対であることが明らかになった。これは、食塩の添加によって試料内のマイクロ波の半減深度が極端に小さくなったためと推察された。最後に、食塩添加試料の加熱効率を改善するために、(1)加熱途中で試料を撹拌する、(2)ラップフィルムで表面を覆う、ことの有効性について、0及び20%塩化ナトリウム溶液(500ml)を用いて検討した。その結果、いずれの操作も吸収エネルギー量自体は増加しないものの、水分蒸発に使われるエネルギー比率は減少したため、温度上昇速度は大きくなり、加熱効率は改善された。
著者
壇辻 正剛 新保 仁 堂下 修司 梅崎 太造 大西 雅行 土岐 哲
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

日本語音声に対するIPA(the International Phonetic Alphabet,国際音声記号、国際音声表記、国際音声字母、国際音標文字)表記の基準作成を求めて、人文系と工学系の研究者が協力して研究を推進した。音声学的側面、音韻論的側面などの言語学的側面および日本語教育などの語学教育的側面、音声の音響分析、音声認識、音声合成などの音響工学、音声情報処理的側面など様々な方面からの研究を統合することによって、日本語音声の記述にIPAという一種のグローバルスタンダードを導入する基盤を確立した。分析対象の音声資料の収集に関しては、既存の音声データベースを活用するだけでなく、独自に音声データの録音、収集、編集を行なった。アンケート調査の結果、相違の著しかった音声を中心に、精緻な音響分析を施し研究の進展を図った。また、比較検討のため他の諸言語の音響分析も行った。主観的な判断に傾きがちであった聴覚印象に頼る音声転写に音響分析を積極的に活用して客観的な基準の作成に努め、定量的な比較や定性的な比較が可能になる新たな音響素性の導入を提案した。また、日本語教育や障害者教育など教育の現場にどのようにIPA表記の問題を活用していくのかを各側面より検討した。その成果の一部をコンピュータ支援型日本語教育システムの開発に導入することが可能になった。IPAのコンピュータ処理に関して、従来のIPAの数値コードの問題点を指摘すると共に、改善案としてより合理的な新たな数値コード化の導入を提案した。さらに、音声合成や音声認識など音声情報処理の分野にIPA表記の問題を導入し、日本語の合成音の記述、表記に関して基準を提供した。音声認識に関しては、特定言語にとらわれない記号系の利用としてIPAを利用する研究を進めるなど、各分野の研究の進展とIPAの応用に新しい側面から視点を与える研究を推進した。
著者
中尾 欣四郎 MENGA Kiluki NDONTONI Zan 田上 龍一 冨永 裕之 知北 和久 ZANA Ndontoni KWETUENDA Menga Kuluki MENGA kuluki
出版者
北海道大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

東アフリカのリフト湖であるキブ湖とタンガニーカ湖はいずれも世界有数の深湖である。両湖の深水層の安定状態の差異は湖史の違いに左右されている。キブ湖は南緯2度,東経29度に位置し,多雨な赤道気候帯に属している。湖の流域は北方のニヤムラギラ,ニーラゴンゴ,ミケーノ,カリシンビ火山群の活動により,エドワード・キブ地溝の地穀構造単位が分断されている。現在,湖は南端からルジジ川によって流出し,約150km下流のタンガニーカ湖に注いでいる。キブ湖の形成は50〜100万年B.P.で,タンガニーカ湖の2,000万年B.P.に比べて,新しい地穀構造運動に寄因している。湖面積は2,376km^2,湖を含む流域面積7,300km^2で,最大水深485m,平均水深240mと落ち込みの激しい湖盆形状はリフト湖の特徴の一つである。然し,キブ湖は最終氷期が終わる約1万年前までは,湖水位は現在より300m低い水準にあったことが,湖底堆積物から明らかである。また,湖底から発生し,堆積物起源のCH_4ガスの^<14>C年代は約1万年前であり,湖の拡大期と一致している。湖は水温構造から見て熱帯湖であり,表水層の深度は60〜90mで,この下面で,22.8℃〜22.9℃まで低下した水温はこれ以深では,湖底までゆるやかに上昇し,450m水深で,26.0℃を示している。なお,表水層下の深水層水温は経年的変動は認められず,極めて安定したメロミクテック傾向を示している。湖の水質はC1^<-1>が30〜68ppmで、SO_4^<-2>は2〜10ppmと低濃度であるが,Alkalinity(CaCO_3)やHardness(K+Na)が深水層で著しく高濃度となる。例えば,Alkalinityは,表層水630ppmから,底層水で3,200ppmと著しく増加する。流入河川では,北方の溶岩帯から流入する河川水の593ppmを除いて,すべて53ppm以下の低濃度であることからみて,湖底より火山活動に伴って供給された塩類である。さらに,同湖底から二酸化炭素(CO_2)とメタン(CH_4)ガスが供給されている。ただ,両ガスともに,深水層の水圧下では不飽和状態にあり,溶解度は30%を越えない。なお,常圧下では2.19リットルの試水から4.05リットルの混合ガスが発泡した。混合ガスの存在比は,CO_2が74%,CH_4が18%を占める。
著者
渡辺 輝夫 藤井 義明 播磨屋 敏生 福田 正己 川村 信人 宇井 忠英
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究は1996年2月10日午前8時頃,国道229号線の豊浜トンネル古平側(西側)坑口上部の急崖が崩落し,バスの乗員,乗客と自家用車の運転手20名が圧死した事故に関係する斜面崩落とその災害に関する調査研究である.地質,地形,地球物理,凍結岩盤の物性,気象などに関する研究がまとめられた.すでに1996年9月14日に,豊浜トンネル崩落事故調査委員会が調査報告書を北海道開発局局長に提出しているため,本研究は,その報告内容をふまえ,1996年10月以降に実施した.研究は,復旧工事との関係で今後永久に観察出来なくなる崩落斜面下部の観察を最重点として行なわれた.岩盤表層の凍結深度の変化と気象の関係を岩盤の凍結前から観察することも重点的に行なった.さらに,岩盤崩落の機構に関する考察を深めた.その結果,岩盤下部の表面構造は上部とは違っていることを明らかに出来た.また,崩落面下部では火山レキの破断が特徴的に見られたが,岩石圧裂引張実験から,6MPaで破断することが明らかとなった.これは,岩石上部に少なくとも300mは累重しなければ破断が生じない圧力である.したがって,レキの破断は特殊に応力がかかるか,地質時代にさかのぼる長い時間の出来事であると考えられる.研究はハイアロクラスタイト中の火山岩の全岩化学組成やスメクタイトの鉱物組成も明らかにした.岩石の応力解析の研究は,崖の鉛直面では粘着力の失われたある長さ以上の初期不連続面が不安定に成長すること,水平面では2次連続面が生じ,自由面に達することを明らかにした.凍結一融解の実験は調査地域の気象が岩石の脆弱化を招くことを明らかにした.地質の研究は,地質構造に規制された地下水の浸透面と枝わかれパイプ状の流路と地下水圧が崩落面の形成に関係し,過去の落石も同様の経過で崩落したものと推測された.
著者
横山 智
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究で扱う納豆様の無塩発酵大豆食品(ナットウと記す)の起源や伝播経路に関しては、これまで数多くの議論が交わされてきたが、未だに明らかになっていない。そこで本研究では、これまでの議論を踏まえつつ、東南アジアとヒマラヤのナットウに焦点をあて、ナットウを製造する民族の食文化、製法、利用方法を調査した。その結果、各地のナットウの共通点と差異から「ナットウの発展段階論」を提示した。さらに、ナットウの形状に着目して地域分類を行ない、それらを総合的に考察した上で東南アジア大陸部とヒマラヤの4 地域で独自にナットウが発祥したとする仮説を打ち出した。
著者
坂本 澄彦 晴山 雅人 細川 真澄男 高井 良尋 大川 智彦 堀内 淳一
出版者
東北大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1992

基礎研究に於いては低線量全身照射とBRMとの併用によって免疫賦活効果が増強されるか否かの検討が行われた。先ずOK-432に就いてWHT/Htマウスの偏平上皮がんでは、照射2日前に投与した場合に、TD50アッセイによる実験結果は低線量全身照射による免疫賦活効果が増強される事が示された。又、C3H/Heマウスの繊維肉腫を使用し、腫瘍成長曲線を用いてOK-432と低線量全身照射の併用効果を検討した実験でも同しような結果が得られた。一方、放射線照射によるサイトカイン産生能に及ぼす影響を検討しているが、未だ予備実験の段階であるが、IL-2産生能は0.1Gy,1Gy,3Gyの全身照射で何れも強く抑制され、TNF産生能は3Gyで約2倍に増強されていると言う結果を得ている。次にがん細胞膜に於けるYH206矢CEAのような腫瘍関連抗原、主要組織適合抗原の1つであるMHC Class-I及び接着分子の最も代表的なICAM-Iが放射線照射によって高まる事が分かった。次に、臨床研究に於いては、I及びII期の非ホジキンリンパ腫94例の解析を行い、全身及び半身照射と局所照射の併用群と局所照射単独群との効果が比較検討された。その結果は全身または半身照射併用群では、未だ観察期間は十分ではないが、I期、II期共に明らかに良好な結果を予想させるものがある。組織型をintermediate gradeに限定すると併用群と非併用群との間に統計的有意差が認められている。次に、低線量全身または半身照射が行われた肺癌、子宮頚癌、食道癌、悪性リンパ腫などについて、その副作用を検討したが、全例で白血球、リンパ球、血小板の著明な減少とか、悪心、嘔吐などの副作用は認められない事、が明らかになった。次年度には悪性リンパ腫以外の腫瘍に対する全身照射と局所照射の結果が、出てくる予定である。
著者
小島 毅 横手 裕
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

この研究プロジェクトは、宋元時代における儒教と道教との関係について概要を提示することをめざして行われた。この目的を果たすため、わたしたちはある儒者による『老子』の注解を取り上げた。その著者林希逸は、宋代において『老子』に注をつけた唯一の道学者である。わたしたちは若い研究者数名と共同でその注釈全文を現代日本語に翻訳した。この作業を進めながら、林希逸が儒者としての視点から『老子』をどう扱ったかについて仔細に検討を加えた。林希逸は、老子が残した文言を内丹の修養のための手引きと見なす学者たちに対して異論を提起している。彼によれば、こうした見方とは対照的に、『老子』は政治的なテクストである。林希逸は老子がしばしば比喩的表現を用いているとする。『老子』に見えるそれらの文章が事実を述べたものとみなしてしまうと、真意を捉えることはできない。儒者として、林希逸はそうした比喩が政治に携わる者たちに深い真理を示唆したものだと解釈する。その点で、彼は道教の教説を天下太平実現のために役立つものとしていた。この態度は朱熹のような道学者たちとは異なるが、道学に属さない他の儒者たちと似た傾向を持っている。林希逸の見解はのちに多くの支持者を得ることとなり、彼の注解は東アジアで何百年間も読み継がれた。わたしたちは注解の詳細な情報を集め、データベースを作成し、日本語に訳した。この成果を活用し、より深い研究をめざして今後ともこのプロジェクトを継続するつもりである。
著者
小宮 正安
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

19世紀半ば、オーストリア(またそれを中心としたハプスブルク帝国文化圏)においては「音楽国家オーストリア」というキャンペーンが盛んになり、その象徴的存在として注目を浴びたのがモーツァルトであった。またこの頃から、オーストリアの重要な政策の一つとして観光がクローズアップされ始め、モーツァルトはオーストリアの観光における中心となって現在に至っている。本研究では、このような「モーツァルト・ツーリズム」とでも呼ぶべきオーストリアの観光政策の歴史を文化史の側面から検証しつつ、そこから演繹されるモーツァルト・イメージ、オーストリア・イメージの形成、ならびに我が国のツーリズムへの応用の可能性を探った。
著者
大槻 勤 大野 かおる
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

環境の変化が崩壊定数(半減期)に最も現れやすいと予想される核外電子捕獲(Electron Capture(EC)崩壊は核外の1sや2s電子が原子核に捕獲されて崩壊する。本研究者らはフラーレン(C_<60>)内にEC崩壊核種である^7Beを内包させることに成功したことにより、^7Beの半減期測定が可能となった。本研究ではフラーレンという特殊な環境にある^7Beの半減期がどれほど変化するか調べることを目的とする。本年度までに、フラーレン中の^7Beの半減期がヘリウム温度の環境下でどれほど変化するかを調べた。また、ベリリウム金属中でも^7Beの半減期がヘリウム温度でどれほど変化するかを調べた。分子動力学計算を駆使して^7Beの原子核位置での電子密度を調べ、実験・理論両面から核外の電子状態がEC崩壊にどれほど影響を及ぼすか解明した。その結果、以下の研究成果が得られた。1)金属ベリリウム中の^7Beの半減期は室温で53.25日、C_<60>中の^7Beの半減期はT=5Kで52.45日であった。この半減期の差異は約1.5%短く、これまでの観測で最大の達いとなった。2)^7Beをドープした金属ベリリウムをT=5Kに冷却した場合と室温中の場合では約0.3%後者の方が半減期が長くなることが分かった。3)密度汎関数理論・局所密度近似(LDA)に基づき、研究分担者(大野)が開発した全電子第一原理計算手法(全電子混合基底法)を用いて、各々の実験のケースに沿った原子核位置での電子密度を決定した。これらの成果はアメリカ物理学会誌等に投稿中である。
著者
森長 真一
出版者
日本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

シロイヌナズナ属の野生植物であるハクサンハタザオを対象に、現生個体と過去から現在にかけて採取されてきた標本個体の全ゲノム比較を通じて、時空間的に変動する適応遺伝子の網羅的な解析をおこなった。現生個体の解析においては標高適応を担う遺伝子を、標本個体の解析においては時間的な環境変化に対応する適応遺伝子を探索した。これらの解析結果に基づき、集団間にみられる適応遺伝子の機能・種類・数の異同から、環境変化に対する野生植物集団の進化的応答について議論した。
著者
尾里 建二郎 木村 稔
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

脊椎動物における背腹構造の形成機構は発生学上の焦点の一つである。メダカDa(double analfin)変異体は、胴部、尾部において背側が腹側化している表現型を示す突然変異体である。本研究ではDa変異体原因遺伝子のポジショナルクローニング単離を行った。1)メダカ遺伝的連鎖地図の作成とDa遺伝子のマッピング:メダカ遺伝的連鎖地図を作成したところDa遺伝子は連鎖群VIIIにマップされた。Da遺伝子を挟む形で両側に存在するもっとも近いマーカーとDa遺伝子との物理的距離は144kb、及び360kbであった。これは染色体歩行を開始するにあたり十分近い距離であると考えられた。2)整列化コスミドライブラリーの作成:Da遺伝子近傍のマーカーから染色体歩行を開始し、物理的地図を作成するために、HNI系統を利用してメダカコスミドライブラリーを作成した。平均インサート長40.2kbのものが約12万クローン(メダカハプロイド6ゲノム分に相当)384穴マイクロタイタープレート上に整列化した。これらをスクリーニングしてDa遺伝子近傍の2個のマーカーを含むコスミドクローンを得ることに成功した。3)Da遺伝子近傍の物理的地図の作成:このコスミドクローンをプローブとして、メダカ間期核に対してFISHを行い、これらのマーカーが物理的にも近接して存在していることを顕微鏡下で明らかにした。そこで、これら2個のマーカーから染色体歩行を開始し、BACクローンとコスミドクローンを用いて、Da遺伝子を完全にカバーするコンティングマップを完成させ、Da変異を含む最小領域の決定を行った。その結果、70〜250kbの範囲内にDa変異が含まれていることが明らかになった。これによってDa遺伝子は、1個のBACクローンでカバーされることが期待された。
著者
鈴木 康弘
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

阪神淡路大震災以降の活断層調査結果の集大成として、平成16年度末、全国を概観した地震動予測地図が地震調査研究推進本部によって作成され、活断層のデータベースも取り纏められた。しかし、その基礎データのひとつである活断層評価については、質・量とも十分とは言えず、今後に行うべき調査研究の内容に関して議論が続いている。本研究は、今後の活断層調査研究のあり方(モデル)を地理学の立場から具体的に示すために、被害軽減に真に役立つ(1)高精度な活断層位置情報の取得法、(2)強震動予測の基礎となる累積変位量(平均変位速度)計測法、(3)地震前後の変位量の面的把握法の提案を行い、活断層情報の有効な統合・公開に向けた「活断層GIS」のモデルを構築することを目指した。その結果、平成18年度までに方法論の整備をほぼ終え、活断層webGISを構築し、試験データ(糸静線北部地域の調査結果)を登録することに成功した。この間、平成17年度からは、文部科学省による糸魚川-静岡構造線活断層に関する重点的調査観測プロジェクトが始まり、研究代表者はこの中で変動地形学的調査を担うこととなったため、現地調査を含む詳細な新知見が数多く得られることとなった。本科研費による研究により開発された活断層GISのシステムは、重点調査観測プロジェクトによって整備されることになる糸静線活断層全域の変動地形学的調査データを統合・公開するための基礎技術として、今後も活用されることになる。
著者
山本 徹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

脳血行動態が信号強度に反映する測定手段であるファンクショナルMRI(f MRI)と近赤外分光測定(NIRS)を同時に行うことで、脳神経活動に伴う脳血行動態の解釈をより確実にすることを目的とた。まず、(1)微細な脳血行動態測定のための高空間分解能f MRIにおけるアーチファクトの低減を目指した。次いで(2)f MRIとNIRSの同時測定を行い、2つの異なる情報から脳血行動態の解釈を行った。(1) f MRI画像における熱的ノイズ強度を基に画像ノイズを評価する指標を確立した。この指標により、アーチファクトの主な要因として考えられる体動・拍動・呼吸などの生理的揺動の影響を定量的に評価した。その結果、撮像後の画像処理で行われる動きの補正は画像空間分解能が粗いと不十分であり、十分な補正を行うためには1mm×1mm程度の空間分解能が必要であることが判明した。さらに、呼吸による影響は大部分が呼吸に連動した頭部の動きであることがわかり、不随意的な体動と共に動きの補正処理によりそれらの影響が低減することが確認された。(2) MRI装置に複数のNIRS用プローブを装荷し同時測定を行い、手指対立運動による脳活性化を測定した。f MRIで描出されるBOLD効果を反映した領域はNIRSで測定されるデオキシヘモグロビン(deoxyHb)変化と対応している傾向が認められた。NIRS測定ではオキシヘモグロビンとdeoxyHbの変化はover compensation的変化を示す部位が顕著であったが、夫々の変化が現れる部位は多少ずれる傾向があり、動脈と静脈の分布の違いを反映している。さらに、脳神経活動に伴う脳血行動態のさらなる精密測定を行うためには、NIRSの3次元的把握(画像化)によりf MRIでの描出領域との対応解釈を進めていくことが求められる。
著者
松尾 誠紀
出版者
関西学院大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、他人が発生させた法益侵害に事後的に関与した者の罪責に関する全体的な理論的枠組みを構築することを最終的目標としながら、特にその第一階段として、事後的な関与時における(当初の正犯に対する)共犯成立の可否について検討することを目的とするものである。その目的の達成のためにはまず、基礎的研究としての共犯の処罰根拠論、承継的共犯論、犯罪の終了時期に関する個別的な調査。検討が欠かせない。そのため初年度は、それら三つの検討課題それぞれに特化した調査・検討に取り組んだ。本年度はそれを受けて、各個別的検討課題に関する基礎的研究を継続する一方、それと並行して、各個別的領域に関するそれぞれの検討結果を統合させ、「共犯成立の時間的限界」に関する詳細な基礎づけに向けた研究に取り組んだ。上記の徹底した取り組みの結果、共犯成立の時間的限界を基礎づけるに際しては、犯罪の終了時期ないし共犯の処罰根拠論の視点に基づく類型化が有効であるとの示唆を得た。現在、名誉毀損罪及び競売入札妨害罪の犯罪終了時期に関する重要な判例が相次いで公刊物に掲載されたことを契機に、学説において特に犯罪の終了時期に関する論考が盛んに発表されている公刊物に掲載されたことを契機に、学説において特に犯罪の終了時期に関する論考が盛んに発表されている状況である。そこで、本研究の最終的成果は、それらの論考に関する検討をも果たした上で速やかに公表する予定である。他方、本研究過程で得られた中間的研究成果についてはすでに、故意作為犯に対して事後的に関与した後行不作為犯の罪責を扱う下記業績に取り入れたかたちで公表している。従前の学説においては、事後的関考者をめぐる罪責自体への関心が低調であったことから、本研究の成果が有する価値は決して小さくない。