著者
太田 敏澄
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

Web上の社会情報学事典構築の研究に関し,社会情報システム学の観点に基づき検討を行った.成長する社会情報学事典のプロトタイプ・システムを開発し,メーリングリストを通じて事項の収集を行っている.この事典は,サイバー・コモンズの典型的な事例となっている.今後の課題は,社会情報学のためのモデル構築プラットホームを概念化し,ソシオ・インフォマティカを開発することである.ソシオ・インフォマティカは,電子的な文献の集積体を基盤とし,マルチ・エージェント・シミュレーションを行うことのできるプラットホームである.このプラットホームは,社会的ネットワークや人工社会に関心をもつ研究者の研究を支援することができるものと考えられる.さらに,同事典を閲覧する人,および同事典に情報や知識を投稿する人を支援するためめシステムとして,視覚化システムを開発した.このシステムは,社会情報学に関する最近の文献におけるパラグラフに着目し,そこでの用語間の関係に基づき,用語を視覚化するシステムである.また,モデル構築やシミュレーションを通じて,デマンド・チェーンについて検討するため,ベンダーと顧客との間を仲介する情報ネットワークにおけるマネジメント・システムの有効性を確認したこと,モバイル・コミュニケーションの特性を検討するため,学生を対象とする調査に基づきモデルのパラメータを推定することで,パーソナル・コンピュータのe-mail利用との比較を行い,モバイル・コミュニケーションの相手は,直観に反し,多様化しないことを確認したこと,ウイナー・テイク・オール現象を解明するため,商品の選択における集中化傾向についてモデル化を行い,情報チャネルの数が,集中化傾向を強めていることを確認したことなどの研究成果を挙げている.
著者
山田 政信 魯 ゼウォン 奥島 美夏
出版者
天理大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究は、日本産ブラジル系プロテスタント教会を主要な事例として次のテーマについて明らかにした。①ブラジルに帰還した夫婦の再適応戦略としての司牧活動。②ブラジル帰国と再適応:カンポグランデ・ホーリネス教会のケース。③デカセギ現象と日系宗教:マリンガ市の事例。④神の王国ユニバーサル教会の日本における展開。⑤ブラジル系プロテスタント教会の脱領域的なコミュニティ。⑥ヨーロッパのブラジル系プロテスタント教会(予備調査)。⑦日本の韓国系・インドネシア系プロテスタント教会。主たる成果は、雑誌論文3件、国内学会発表2件、海外発表2件(うち招待講演1件)、図書1件である。
著者
平山 勉
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

地方史資料を入手して基本的史実の整理・理解に努めた上で、資料残存状況を把握して、新たな仮説を検討した。区裁判所による商業登記公告などから県内会社の設立・増資・減資・解散・倒産のデータベースを構築し、郷土資料などの収集を通じて農家や商工業者などの株式投資行動を分析するとともに、地元紙に提供された株価情報などをもとに証券業者の機能を分析した。その上で、富山県在住満鉄株主のデータベースとの接続を図り、仮説の再検討を展開した。
著者
増田 元香 松田 ひとみ 橋爪 祐美
出版者
福島県立医科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、高齢者の睡眠覚醒障害に対する生活方法の提案を意図し、看護の観点である生活リズムの調整、すなわち活動と休息の適正化を目指した看護介入プログラムの開発である。前年度までに、地域在住の活動的な高齢者の日常生活の特徴として、定期的な運動習慣を有するものが多く、日常生活行動は自立し趣味や菜園作りなど活発に活動していること、そのような高齢者の夜間の睡眠の特徴としては、夜間の覚醒回数が1回以上の人がほとんどであったこと、再入眠の状況については個人差がわかった。また飲酒習慣がある高齢者では飲酒量と入眠までの時間と睡眠の質を示す睡眠効率との間に関連があることがわかった。また日内活動の調整の観点から日中の活動状況を分析すると、昼寝習慣の有無や所用時間に個人差がみられた。昼寝時間が夜間の睡眠の質に関連していると考え調べたところ、夜間のトイレ回数が多い人は少ない人に比べ有意に昼寝時間が長いことが明らかになった。これらの成果をふまえて高齢者の睡眠の質を高めるための看護を検討した。そのためには、日中の活動内容を十分に把握し、どのような活動の特徴を持っているか、夜間の睡眠の質に関係する夜間排尿の状況と再入眠の状態、飲酒習慣とその量や主睡眠までの状態を評価することが重要である。さらに昼寝習慣のみならず、昼寝時間の長さ、および夜間の覚醒回数を関連して観察し、さらに夜間の覚醒している理由について、排尿なのか、それ以外なのかを把握し看護する必要があると考えられた。しかしながら、高齢者の睡眠の質に関連する生活習慣や要因の出現には個人差が大きいため、一律化することよりむしろ、個別性の高いケアの必要性が高く、その充実を図ること、すなわちアセスメント項目や生活リズムの調整方法の選択肢の充実のが看護プログラムを開発する上で重要性であると示唆された。
著者
青山 弘之 末近 浩太
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、東アラブ地域各国の法制度ないしは主権国家としての領域を超越して展開する「非公的」政治空間に着目し、そこで繰り広げられる政治主体に関する情報を収集し、ホームページなどを通じて継続的に公開した。また収集した情報をもとに、「5.主な発表論文等」で列記した論文・論考を発表し、ムハーバラート、レジスタンス、シャッビーハ、官制NPOなどが同地域の政治において決定的な役割を担っていることを論証した。
著者
白谷 正治 寺嶋 和夫 白藤 立 佐々木 浩一 伊藤 昌文 杤久保 文嘉 斧 高一 後藤 元信 永津 雅章 小松 正二郎 内田 諭 太田 貴之 古閑 一憲
出版者
九州大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009-07-23

本取り纏め研究では、プラズマとナノ界面の相互作用ゆらぎに関する学術的成果を統合・発展させて、より汎用性のある学術大系に結びつけることを目的としている。計画研究代表者を研究分担者として、各計画研究における研究成果を取り纏めるとともに、領域内連携により表れた3つの研究項目に共通する基本原理を統合して体系化する。基本原理の体系化に際しては、すべての研究に関する議論を一度に行うと議論が発散する可能性があるため、ゆらぎ・多相界面・バイオというテーマを設定した個別の研究会を開催し研究分担者が成果を統合した後、シンポジウム等で領域全体での成果統合を行った。平成26年度に取りまとめた、平成21-25年度に新学術領域で得られた成果の概要は以下の様に要約される。これらの成果を成果報告書およびホームページで公開した。ゆらぎに関しては、超高精度トップダウンプロセスの確立(ゆらぎの制御)について、エッチングプラズマに関する実験とシミュレーションの研究グループが連携して、エッチング表面形状揺らぎの機構を解明した。ここでは、揺らぎ抑制法について、従来の物理量を一定にする方法から、物理量に制御した揺らぎを与えて抑制する方法へのパラダイムシフトを起こす事に成功した。また、高精度ボトムアッププロセスの確立(ゆらぎの利用)では、超臨界プラズマに関する実験とモデリングの研究グループの連携により、超臨界プラズマにおける密度ゆらぎ機構を解明し、従来法では得る事ができない高次ダイアモンドイドの合成に成功した。予想以上の顕著な成果として、気液プラズマに関する実験とモデリングの研究グループの連携により気液界面プラズマにおいてナノ界面が存在することを発見した(多相界面プラズマ)。また、高いインパクトを持つ成果として、バイオ応用プラズマ関連の研究グループの連携により、大気圧プラズマ反応系の世界標準を確立することに成功した。
著者
伊藤 一馬
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度は、前年度までの成果をうけて、以下のことを行った。まず、北宋の神宗期に将兵制が成立するまでの過程や背景を、対外情勢との関連に着目して検討した。北宋の将兵制は、決して画一的・均質的に成立したのではなく、陝西地域・河北地域8東南諸路のそれぞれで対峙する勢力への姿勢に応じた背景や過程をもって成立したことが明らかとなり、とりわけ、西夏と対峙して軍事衝突が頻発していた陝西地域は、北宋における軍事的な先進地域となり、その情勢は将兵制成立に見られる如く河北・東南地域にも影響を与えたことを確認した。このような軍事政策の観点に立てば、陝西地域は当時の国際情勢における「結節点」であったと言える。次に、黒水城遺趾から出土した「宋西北辺境軍政文書」中の「赦書」の語が見える109-28文書・109-98文書を手がかりに、南宋成立直後における中央政府と陝西地域の動向ならびに双方の動向を検討した。それにより、北宋から南宋への移行期に、金軍の侵攻に対して陝西地域は領域を維持し、建炎四年まで頑強に抵抗し続けていた。それを可能にしたのが、南宋成立直後における中央政府との連絡の復活であり、赦書という皇帝の"お墨付ぎ"を背景にした軍備再建であったのである。神宗期に成立した将兵制が、北宋末期から南宋初期に至るまで陝西地域で定着していたことは「宋西北辺境軍政文書」から明らかであり、このような将兵制が軍備の再建にも大きく寄与したと考えられるのである。
著者
田仲 一成 WU Zhen
出版者
財団法人東洋文庫
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

日本の祭祀芸能を中国との対比において研究することを目的とし、先に提出した実施計画に基づいて、重要な調査地点を順次に訪問し、フィールドワークを実施した。まず2011年5月、(1)高知県吉良川町の御田祭り、次に同年5月から6月にかけて、(2)岐阜県能郷の猿楽、(3)同高山市の春季祭礼、(4)奈良法隆寺の10年1度の聖霊会(行道行列)、(5)奈良春日大社の「呪師走りの翁」(6)大阪住吉大社の御田植神事などを、連続して調査記録した。また、2012年9月には、(7)奈良市豆比古神社の古式翁舞、(8)京都市宇治田原町の三社宮座神事を,同11月には、(9)愛知県東栄町小林の花祭りを調査した。これにより、日本の古代祭祀、中世祭祀、近世祭祀について、広く考察することができた。具体的に言えば、まず古代祭祀については、(4)法隆寺の聖霊会により、古代に大陸から日本に渡来した伎楽系の仮面の実態を考察し、さらに(5)翁芸の源流とみなされている法呪師による「呪師走りの翁」を考察して、日本芸能の基礎となる部分の理解を深めた。次に中世芸能については、(2)能の原始形態を伝える岐阜県能郷の猿楽、(1)夢幻能の初期形態を示す吉良川の小林の幽霊、(7)翁の中世的発展を示す奈良豆比古神社の3人翁舞、さらに(8)中世宮座の原初形態を示す宇治田原町の神事などを考察できた。さらに近世祭祀としては、岐阜高山市の操り人形の精巧な演出を考察し、近世町衆の祭祀芸能の典型を考察できた。これにより、2009年11月に研究を開始して以来、古代祭祀、中世祭祀、近世祭祀のすべてにわたり、展望を得た。今後は、これを踏まえて、(1)古代祭祀における大陸芸能の影響、(2)中世祭祀における宮座組織と中国の宗族組織との異同比較、(3)近世祭祀における市民社会の成熟度の目中比較などの課題にとりくみたい。また、日中両国語による報告書の刊行を計画している。
著者
山辺 規子
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、まずイタリア各地の都市について、実際に都市の称揚につながった都市の公共建造物、城壁、大きな教会(托鉢修道会教会、守護聖人の教会、司教座聖堂)などの景観を確認する。そのうえで、その景観の形成過程を調べ、さらにそれがいかに描かれているかを検討して、イタリア支配者層が持つ空間支配のありかたを示す。第二に、各都市に拠る支配者層が自らの支配権を誇示するために、職人や芸術作品、工芸品などの技術などを共有して、いわば支配者層の文化ネットワーク空間を構成することを検討した。
著者
宮田 仁美
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

TLR4は、最近肝線維化に関与していることが示され、水腎症モデルマウスにおける腎線維化にも関与しているのではないかと仮定し研究をすすめた。野生型、欠損、低発現マウスに分けて、片側尿管結紮にて水腎症マウスを誘導し血行動態的な変化、ならびに組織学的、分子生物学的な変化について比較を行った。欠損マウスならび低発現マウスにおいては、線維化の進行が有為に遅れたがその作用は早期に限られた。
著者
高橋 智 和田 恵次 堀 道雄 幸田 正典
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

左利き遺伝子を持つ卵が左利き遺伝子を持つ精子と受精するのを阻止する不和合性遺伝子を考えた遺伝モデルにより,左利きホモが存在しないということ魚類の飼育交配実験の結果を説明した.捕食者が逆の利きの餌を捕食する交差捕食により左右性の比率が振動するとき,グループ産卵を行う魚でこの不和合性は有利となり進化する.また,ペア産卵を行う魚では不完全な不和合性が進化する.
著者
上坂 充 中川 恵一 片岡 一則 遠藤 真広 西尾 禎治 粟津 邦男
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

医学物理および医学物理士のあり方については、日本医学物理学会、日本医学放射線学会、日本放射線腫瘍学会や厚労省関連の諸委員会にて長年議論されている。代表者らが主な活動の場としている日本原子力学会や日本加速器学会などに加わっている多くの学生、研究者、理工系大学教員が医学物理に興味を持ちその発展に参画したいと考えている。それらの方々が、放射線医療の新科学技術の開発研究を行っている。アメリカではこの40年で5,000人以上の医学物理士が単調増加的に誕生しているが、それには新技術の開発と普及が定常的に行われたことの証でもある。今の日本ではライナックを始め、国産治療装置が撤退し、輸入品に席巻されている。「研究開発型」医学物理士に掛けた思いは、輸入品のメンテナンスのみでなく、欧米のような機器開発を伴った医学物理の学問の創成と人材育成である。その議論の場を円滑に運営するため、日本原子力学会に「研究開発的医学物理」研究特別専門委員会を設立した。議論の対象として以下のテーマを設定した。1.イメージガイドピンポイント照射システム開発(1)X線・電子線(2)イオンビーム(3)中性子(4)レーザー、2.生体シミュレータ開発(1)DDS(Drug Delivery System、薬品送達システム)設計(2)人体線量分布高精度評価(3)薬剤流れの解析(4)治療計画の高度化、3.教育プログラムの充実と人材育成(1)欧米を目指したカリキュラム(2)大学院生の奨学金(3)ポスドク制度(4)留学。ここまで4回委員会(9月4日午前、28日、11月1日、2月28日午前)と2回の研究会(第6,7回化学放射線治療科学研究会、9月5日午後、2月28日午後)を開催し、上記テーマについて深く議論を行った。結果、1については白金が入ってX線吸収と増倍効果のある抗がん剤シスプラチンミセル、金粒子を手術して注入せず注射でがん集中させて動体追跡できる金コロイドPEG、シンチレータとPDT(光線力学療法)剤を一緒に送達してX線PDTを行う、3つのタイプのX線DDSの開発が始まったことが特記事項であった。また陽子線治療しながらPETで照射部が観察できる国立がんセンターの手法も画期的である。2については、粒子法による臓器動体追跡シミュレーションの可能性、CTのダイコムデータ形式からのシミュレーションメッシュデータ生成、地球シミュレータを使ったDDS設計など、日本に優位性のある技術が注目された。放射線医療技術開発普及のビジネス価値の定量分析(リアルオプション法など)も実用化に向けて有用である。教育体制につては、特に北大、阪大、東北大、東大にて整備されつつあった。これら革新的研究テーマと人材育成プログラムを、すでにスタートした粒子線医療人材育成プログラムのあとに用意すべきである。その際国際レジデンシー(研修生)など欧米機関との連携も重要である。アメリカMemorial Sloan Kettering Cancer Centerがその窓口としての可能性が高くなった。本活動は日本原子力学会研究専門委員会としてもう2年継続できることとなった。特定領域研究相当のものを立案してゆきたい。
著者
亀井 克之
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

毎年,中小企業が,後継者不足を理由に廃業している。老舗企業,同族企業の多くが中小企業である。社会問題化している事業承継問題について,本課題研究では, (1)リスクマネジメント理論の活用と, (2)現地調査に基づく日仏比較研究という,独自の手法によって研究を進め,最終年度における「中小企業の事業承継・日仏シンポジウム」主催を中心とする成果をあげて,事業承継におけるリスク・コミュニケーション(「事業承継にはどのようなリスクがあるのか」「そのリスクにどう対応するのか」に関する共通理解)の重要性を提言した。
著者
岩松 俊哉
出版者
(財)電力中央研究所
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

本研究では、自宅における居住者の室内温熱環境や内発的な熱環境調整行動と温熱快適感の許容限界との関係を明らかにすることを試みた。日頃の温熱環境、熱環境調整行動、温熱感覚の三者には深く関わりがあり、熱環境の調整を冷暖房の使用に依存している被験者と依存していない被験者で、快適とする許容限界温度に1~4℃程度の差があることが明らかになった。冷暖房を極度に使用せずに、快適と感じる温熱感覚が培われる生理的なメカニズムの解明と、個々人の温熱感を考慮した熱環境計画の重要性が示唆された。
著者
アメングアル・プリエゴ マリア・オルガ (2010-2011) アメングルアル・プリエゴ マリア・オルガ (2009)
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

脳は自己免疫血栓性疾患である抗リン脂質抗体(APS)の重要な罹患臓器である。通常の動脈硬化性疾患と比べると、APSでは心筋梗塞に比べて脳梗塞が圧倒的に多い。APSの血栓形成機序は、APS患者に存在する抗リン脂質自己抗体が内皮細胞や単球を活性化して向血栓状態にすることと考えられている。本研究では、血管内皮細胞の臓器特異性について注目し、APSにおける脳梗塞の血栓形成機序を解明することによって同疾患の特異的治療法を開発すおること目的とした。本年は材料に、ヒトの脳、肺、皮膚の小血管内皮細胞を用いた。これらの培養細胞に抗リン脂質抗体(ホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体:231D)を加えてインキュベートし、細胞からRNAを抽出してDNAアレイを用いてmRNA発現スクリーニングをおこなった。有意に発現が増加した遺伝子は、PLSCR4,Cenpk,Bhlhb5,Hmgn1,MAF,TNF,TRAF2,NOS3,RPs6ka6,IL-6、VCAM-1などがあった。しかし、これらの遺伝子発現に内皮細胞間の明らかな差はなく、脳由来微小血管内皮細胞に特異的な遺伝子発現上昇はみられなかった。検討した遺伝子発現のうち、抗プロトロンビン抗体によってもっとも有意に増強したのはNOS3(nitric oxide synthase 3)であった。NOS3の発現亢進は、患者由来のポリクローナル抗リン脂質抗体でも確認された。NOS3の遺伝子多型はアルツハイマー病や動脈硬化疾患と関連しており、脳血管障害の病態にNOS3がかかわる可能性がある。今回は抗リン脂質抗体によって誘導される脳血管内皮に特異的な分子は同定できなかったが、NOS3の活性をさらに検討することにより抗リン脂質抗体症候群に伴う脳血管障害のメカニズムを解明できる可能性を考えた。
著者
土岐 哲 鹿島 央 中西 久実子 山下 洋一 江崎 哲也 岡田 祥平
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本課題は、『非母語話者による日本語話し言葉コーパス(CSJ-NNS)』に収録するデータをさらに充実させ、構築されたコーパスを広く一般に公開する目的で行われた。音声データの収録や各種アノテーションの付与のみならず、個人情報を消去するなどして公開に向けて作業を行い、コーパスを頒布した。また、本コーパスと『日本語話し言葉コーパス(CSJ)』とを比較することにより、従来の日本語非母語話者音声研究に新たな視座を提示した。
著者
井田 靖子
出版者
津田塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、急速に都市化した近現代イギリスにおける「緑化」をめぐる人びとの思考の変化が、都市の住環境にどのように反映され表象されているかを考えるために、19 世紀から 20世紀初期のイギリスにおける緑の象徴的役割、 (人造植物も含む)観用植物や植物デザインなどを利用した私的空間の緑化と室内装飾との関連、労働者階級のための「合理的余暇」としての緑の働きなど、顕示的消費の対象としての植物のさまざまな役割を解明した。
著者
チャールズ ウィズ
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

仮想現実環境を使った迷路をナビゲートするプログラミング・ロボットは科学的推論を教えるのに有効ではないことが判明した。ロボットがどのように機能したか断定することを参加者に要求するタスクは仮説構成および保証の著しくより高い数値が検出された。ブルームのデジタル分類学は科学的学習の為の評価基準の基礎として使うべきであろう。
著者
橋本 聡子 棚橋 祐輔 山仲 勇二郎
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

身体運動はヒト生物時計の同調因子かどうか、同調因子とすればその機序は何かを明らかにする目的で、時間隔離実験室において睡眠位相を強制的に8時間前進させる脱同調プロトコールを用いて検討した。健常男性成人を対象とし、自転車エルゴメーターによる身体運動を一日の一定時刻に休憩をはさんで2時間のトライアルを2回負荷して、概日時計(中枢時計)の支配を受ける血中メラトニンリズムや深部体温リズムと、末梢時計の支配を受けていると考えられる睡眠覚醒リズムを以下の条件下で同時測定した。その結果、約10ルックスの低照度下では、睡眠覚醒リズムの再同調は身体運動により促進されたが、血中メラトニンリズムは位相後退し、身体運動には影響されなかった。一方、約5,000ルックスの高照度下では、睡眠覚醒リズムは身体運動の有無にかかわらず再同調した。、また血中メラトニンリズムは位相前進したが完全には再同調せず、身体運動は位相前進に影響しなかった。以上の結果から、身体運動は睡眠覚醒リズムに同調促進効果をもつが、その効果は高照度下では隠蔽(マスキング)されることが示された。
著者
田中 朋之 KHAN NADAR KHAN Nadar
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

コメは全世界の約半数以上の人々が主食とする重要な食糧であり、特にアジアの発展途上国では貴重なタンパク源でもある。そこで、パキスタンで収集された約300種類のイネ在来品種・系統における種子貯蔵タンパク質の種内変異を評価した。その結果、主要な貯蔵タンパク質グルテリンのα鎖に関して、ポリペプチドの数と蓄積量に関し大きな変異があることが認められた。特に、リジン含有率の高いグルテリンサブユニットGluB4を認識するanti-B4(No.4b)抗体に対する反応性が品種・系統ごとに大きく異なり、その反応性の違いから、3つのグループに分類できた。その変異パターンと収集地域(N.W.F.P,Punjab,Balochistan,Sind,Azad Jamu Kashmir)ごとに特徴的な農業生態系との間には関連性は認められなかった。一方、グルテリンα鎖における変異の他に、グルテリン前駆体を高蓄積する品種・系統が多く見出された。グルテリン前駆体を高蓄積する品種・系統の出現頻度は、5つの農業生態系により異なり、Punjab由来の品種・系統で最も出現頻度が高く(22%)、次いでSind由来の品種・系統(13%)、Balochistan由来の品種・系統(3%)であり、N.W.F.PとAzad Jammu Kashmir由来の品種・系統には認められなかった。パキスタン由来のイネ遺伝資源におけるそれらの出現頻度は、世界のイネ・コアコレクション約60種類の中で見出された頻度に比べ著しく高かった。世界のイネ・コアコレクションで見出されたグルテリン前駆体を高蓄積する品種・系統が、インド由来の良食味系統local basmati(collection number 40)であったことから、南アジア地域における良食味系統の分布と、グルテリン前駆体を高蓄積する系統の分布との間に関連があることが推察された。