著者
佐藤 想一朗 新原 寿志
出版者
一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
雑誌
日本東洋医学系物理療法学会誌 (ISSN:21875316)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.93-100, 2022 (Released:2023-06-28)
参考文献数
7

【目的】鍼灸が広く国民の健康に寄与するためには、その安全性が担保されなければならない。今 回我々は、消費者庁と独立行政法人国民生活センターが管理運営を行っている事故情報データバ ンクシステムに登録された鍼灸とその関連療法に関する有害事象ついて調査し、事故情報データ バンクシステムの有用性について検討した。 【方法】事故情報データバンクシステムの運用開始(2009 年 9 月)から 2020 年 12 月 31 日までに 登録された事故情報を対象に、フリーワード検索を行った(鍼、針、ハリ、はり、バリ、ばり、粒、灸、 キュウ、やいと、ヤイト、艾、モグサ、もぐさ、経穴、ツボ、つぼ)。該当した事故情報を、鍼灸 とその関連療法に関する有害事象とその原因療法について分類・集計した。 【結果】有害事象では熱傷が 149 件と最も多く、痛み 79 件、体調悪化・症状悪化 42 件、気胸 36 件、 体調不良・気分不良 33 件、皮膚障害 29 件、鍼の抜き忘れ 28 件、内出血 26 件、感覚障害 24 件、 腫脹 21 件と続いた。灸療法、艾蒸療法、他の温熱療法、電気療法、光線療法、吸角療法の有害事 象では熱傷が最も多く、各々 95 件、20 件、4 件、4 件、2 件、2 件であった。鍼療法では痛みが 43 件、 耳鍼療法では皮膚障害 9 件が最も多かった。 有害事象の重症度では、「医者にかからず」が 101 件と最も多く、治療期間が 1 ヶ月以上 82 件、 1 週間未満 48 件、1 ~ 2 週間 47 件、3 週間~ 1 ヶ月 40 件と続いた。 【結論】事故情報データバンクシステムには、気胸などの重症例から、論文や会議録に発表されな い鍼灸やその関連療法に関するマイナーな有害事象(熱傷、痛み、体調悪化・症状悪化など)や 軽症例まで多数登録されていた。本調査の結果、事故情報データバンクは、文献調査に比較して 情報量・信憑性・正確性については劣るものの、鍼灸やその関連療法に関する有害事象の把握や リスクマネジメントを考える上で、有用かつ貴重な情報源であることが示された。
著者
井畑 真太朗 山口 智 菊池 友和 小内 愛 堀部 豪 伊藤 彰紀
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.53-58, 2021 (Released:2021-10-28)
参考文献数
12

【目的】突発性難聴(以下SSNHL)は原因不明の感音性難聴である。高齢者で眩暈を伴う重度SSNHLでは、発症2週間以内に症状が改善しないと予後不良と言われている。今回、耳鼻科で予後不良と診断され発症約1ヶ月後より鍼治療を開始し聴力回復が認められた症例を経験したので報告する。 【症例】74歳女性、主訴:左難聴、既往歴:18年前右聴神経腫瘍の手術により右重度難聴、現病歴:X年10月4日から特に誘因なく左難聴を自覚、両側難聴になり、対話不能。同日耳鼻科を受診、左SSNHLと診断。鼓室内ステロイド注射を施行。X年10月13日より回転性眩暈出現、左SSNHLも改善せず、X年10月21日より当院神経耳科にて入院。重度感音難聴(grade4)を認め、同日から薬物療法、星状神経節ブロックを連日開始。X年10月30日、経過不良、また頸肩部の張り感を自覚した為、神経耳科より鍼治療の診療依頼。神経学的所見は左右難聴を認める以外は全て正常。板状筋、肩甲挙筋、僧帽筋に筋緊張。鍼治療方針は内耳の血流改善、頸肩部筋群緊張緩和を目的に天柱、風池、肩井及び左翳風に40mm16号鍼置鍼10分を入院中週3回、退院後週2回実施。評価はオージオグラムで測定。 【結果】初診時左91.3dB、右96.3dBの為、筆談で医療面接。1週間後左82.5dB右92.5dBと回復が認められ対話が可能となり、4ヶ月後の鍼治療終診時左68.8dB右86.3dBと回復した。聴力回復判定では回復(10-30dB未満改善)の値、重症度分類ではgrade4→grade3に回復した。 【考察および結語】本症例は、頸肩部の鍼治療で、内耳動脈を介して蝸牛の血流及び有毛細胞に何らかの影響を及ぼしたものと考える。以上より、今後、予後不良の重度SSNHL患者に対して西洋医学的治療に追加する治療オプションとして鍼治療は有用性が高い可能性が示唆された。
著者
秋山 吉寛 黒岩 寛 山内 都江 岡田 知也
出版者
日本沿岸域学会
雑誌
沿岸域学会誌 (ISSN:13496123)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.91-102, 2017-12-31 (Released:2023-04-17)
参考文献数
21

要旨:精神的恩恵をもたらす海の力を,神社に存在する神霊として捉え,海の精神的恩恵の大きさを定量的に評価する方法を考案した。この方法を用いて,現代の大阪湾流域および東京湾流域における神社と関連する海の精神的恩恵の豊かさを相対的に比較した。海と神社との関わりの有無を示す3つの指標(海と関連する神事あるいは祭礼の有無,御祭神の種類,および,神社の本殿から海岸までの距離)を用いて,海と関わりのある神社を抽出した。神社と関連する海の精神的恩恵の豊かさは,海と神社との関わりの深さと,神社利用者の多寡を表す三が日初詣者数との積で得点化された。この方法を用いて,大阪湾流域および東京湾流域の神社を分析した結果,神社と関連する海の精神的恩恵の得点は,大阪湾流域の方が高かった。神社と関連する海の精神的恩恵の豊かさは,1)海と多くの人々とを長年繋いできた神社,および,2)海とその周辺の環境の状況の影響を受けて変化すると考えられる。
著者
保仙 直毅
出版者
一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会
雑誌
日本造血・免疫細胞療法学会雑誌 (ISSN:2436455X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.208-212, 2023 (Released:2023-10-16)
参考文献数
14

CD19キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法は,B細胞白血病およびリンパ腫に有効であることが示された。現在,多くの研究者がさまざまな種類の癌のためにCAR-T細胞を開発しようとしている。多発性骨髄腫(MM)に対しては,B細胞成熟抗原(BCMA)が優れた標的であることが示された。ただし,MMの治療は依然として困難であり,さらなる標的分子の同定を多くの研究者が試みている。最近GRPC5を標的としたCAR-T細胞の有効性が報告された。また,我々は,活性化型インテグリンβ7がMMに対する非常に優れたCAR-T細胞の標的であることを報告し,現在治験を実施中である。
著者
向所 賢一
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.179-183, 2016-06-25 (Released:2017-08-10)
参考文献数
16
被引用文献数
3

本誌でのプロフェッショナリズム特集において, 武士道が日本人医師のプロフェッショナリズムのモデルとなり得るか否かの論文が掲載され, その後, 岩田論文でこの問題が検討された. 私見では, 日本人医師のプロフェッショナリズムは錦織論文が推奨する武士道そのものではなく, 武士道の基礎となる儒学, 特に孔子の教えにあると考える. 一方, 野村論文にて商人道として紹介された三方よしは, 家族利益主義を基本とするものであり, "利" を追及しない日本人医師のプロフェッショナリズムとは相異なる. "医は仁術" の "仁" について論語を用いて学ぶ事が, 本邦におけるプロフェッショナリズム教育の基盤となると思われる.
著者
花 大洵 新谷 祐貴 竹信 敦充 寺岡 暉
出版者
日本脳神経外科漢方医学会
雑誌
脳神経外科と漢方 (ISSN:21895562)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.47-52, 2016-09-30 (Released:2023-07-31)
参考文献数
24

我々は補中益気湯による意識障害の改善作用を検討した。方法:Glasgow Coma Scale 8点以下が1週間以上続いた入院患者7例に対し補中益気湯を連日投与し種々の評価尺度で意識の改善を評価,統計学的解析を行った。結果:全例で補中益気湯開始後に著明な意識改善を認め,特に投与1週間以内で効果を認める症例が多かった(71~86%)。また,亜急性期~慢性期に投与を開始した症例の方が,急性期に投与を開始した症例より最終的な意識改善度が高い傾向があったが,統計学的な有意差はなかった。本研究は,渉猟し得た限り補中益気湯の意識改善作用を示唆した最初の報告である。
著者
福永 正明 大西 英雄 松友 紀和 山本 浩之
出版者
公益社団法人 日本放射線技術学会
雑誌
日本放射線技術学会雑誌 (ISSN:03694305)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.489-495, 2016 (Released:2016-06-20)
参考文献数
12
被引用文献数
1

Purpose: The purpose of this study was to evaluate the effects of target diameter and display-field of view (D-FOV) in modulation transfer function (MTF) by circular edge strategy using the computed tomography (CT) image measurement program “CTmeasure”. Methods: We calculated the MTF (MTFedge) using the circular edge strategy applied to cylindrical phantom (200 mmφ) that inserted with cylinders have 10, 20, 30, and 40 mm diameters. The phantom images were reconstructed using filtered back projection method varied with D-FOV (240, 320, 400, and 500 mm). The study compared both MTFedge and MTFwire at MTF50% and MTF10% for target diameter and D-FOV, respectively. Results: The MTFedge by the different of target diameter indicated in rough compatibility. However, MTFedge of D-FOV diameters (320, 400, and 500 mm) decreased in the high frequency range. Conclusions: The circular edge strategy for MTF depended on the D-FOV, however, it was little dependent on target diameter using the CT image measurement program “CTmeasure”.
著者
浅枝 隆 田中 規夫 谷本 勝利 Tilak PRIYADARSHANA Jagath MANATUNGE
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:02897806)
巻号頁・発行日
vol.2001, no.670, pp.73-82, 2001-02-21 (Released:2010-08-24)
参考文献数
23

水生植物は被捕食者に対し捕食者からの隠れ場を提供し, 捕食者の行動に影響を与えるため, 動物プランクトン食魚 (モツゴ) の捕食ならびに遊泳行動を, 餌 (ミジンコ) の密度変化 (0.5, 1, 2, 5, 10, 25 prey・1-1) と沈水型人工植生の密度変化 (350, 700, 1400, 2100, 2800 stems・m-2) のもとで, 実験により調べた. 遊泳速度は抱腹の程度に大きく関係し, かつ餌の密度が増えると減少する, 最大捕食率は平均餌間隔に大きく依存し, それとともに変化する. 植生密度が徐々に増加すると, 植生がない場合に比べて捕食者の捕食効率が減少する. 捕食率と遊泳速度は平均植生間隔と魚の体長の比で良く表現できる. 捕食ならびに遊泳活動は, 魚の1回の移動距離である体長の0.7倍付近で急激に減少することが判明した.
著者
田村 直子
出版者
言語文化教育研究学会:ALCE
雑誌
言語文化教育研究 (ISSN:21889600)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.63-83, 2018-12-31 (Released:2019-05-12)

毎年,大学院の授業で被爆者の証言ビデオのスクリプトを翻訳しているが,学生は非常に熱心に授業活動に取り組む。この学生の熱意は証言に内在する共感を呼ぶ力に起因すると思われる。本稿では被爆者を「歴史の証人」の一種と位置づけ,次の三つの側面を踏まえ,被爆者証言を証言というよりは,語りと捉える。被爆者証言とは,歴史学上は原爆投下に関する社会的・歴史的出来事について述べたものである。心理学的には,原爆の記憶を再構築し新たな自己を形成するという個々の被爆者の心的過程の結果である。社会学的には,自分の存在意義に関わる語りであり,当人の社会行動の前提となるものである。語りについて文学分析で提案されているナラティブ共感論で指摘されている特徴を被爆者証言の構成要素と翻訳過程の内部に検証したところ,被爆者証言にも証言の受け取り手の共感を呼ぶ力があることが分かった。語りの共感力には大きな可能性があるが,限界もある。語りに傾聴し,語りを深く理解し,受けとめた語りを自分の語りとして語り継ぐサイクルを促すべきだ。
著者
八瀬 順也
出版者
日本農薬学会
雑誌
日本農薬学会誌 (ISSN:21870365)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.121-126, 2020-08-20 (Released:2021-02-20)
参考文献数
19
被引用文献数
1
著者
安達 雄裕 山田 大樹 中村 智 徐 哲俊 内藤 英樹 秋山 充良
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
AI・データサイエンス論文集 (ISSN:24359262)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.10-19, 2023 (Released:2023-11-14)
参考文献数
21

近接目視に代わり,ドローンを用いた撮影に基づく点検が可能になった.一方,現状はひび割れの確認に留まっており,その画像を用いた対象部材の健全性,特に耐荷力の評価には至っていない.塩害環境下の鉄筋コンクリート(RC)構造物は,鉄筋腐食に伴い部材表面に腐食ひび割れが生じるため,これをドローンにより撮影し,RC部材内部で生じている鉄筋腐食量を推定できれば,劣化RC部材の耐荷力評価が可能となる.本研究では,有限要素解析,確率場理論,および機械学習に加えて,ドローン撮影により取得した腐食ひび割れ幅の情報を用いることで,劣化RCはり部材の耐荷力の確率論的評価を可能にした.また,ドローンを用いて撮影した画像では,近接撮影したものよりも腐食ひび割れの同定が難しく,それがRC部材の耐荷力の推定結果に及ぼす影響を検証した.
著者
宇田川 拓雄 松本 美奈 白鳥 成彦 田尻 慎太郎
出版者
嘉悦大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2023-04-01

現代では高学歴は有利な職業と豊かな生活へのパスポートである。大学に入学しても不本意に退学することは本人、家族、社会、大学に痛手である。大学の退学リスクの情報は大学ガイド(大学案内)の最重要項目である。「大学の実力」(読売新聞社)は従来、大学が公表していなかった退学率を調査し公表した。本研究ではその2008年と2018年のデータで大学を「改善」「悪化」「停滞」「順調」の4タイプに分け、タイプ別に退学率と教育改善策の関係を分析する。米国では1982年にニューヨークタイムス誌が大学ガイドを発表するなど大学情報の公開が進んでいる。日米の大学ガイドを比較し退学リスクの低い大学の特徴を明らかにする。
著者
Masashi Nagai Setsuya Nakada
出版者
Fuji Technology Press Ltd.
雑誌
Journal of Disaster Research (ISSN:18812473)
巻号頁・発行日
vol.17, no.5, pp.829-838, 2022-08-01 (Released:2022-08-01)
参考文献数
30

A hydrovolcanic eruption in the early hours of October 8, 2016 triggered a power outage of about 29,000 houses (∼50,000 habitants) in the Aso caldera area, Kyushu, Japan. Although it was recovered naturally by the early morning of that day, the power outage occurred again in the evening following rainfall that began in the afternoon. The power supply in the caldera area had been temporarily maintained despite the heavy landslide damage due to strong earthquakes in April 2016, without the supplemental transmission lines for the normal standard. The power outage is considered to have been due to the insulator flashover in the power substation, Ichinomiya, Aso, around which the mass of volcanic ash was about 3,000 g/m2 or less (≤3 mm thick). This outage resulted from high electric conductivity of the volcanic ash that was wetted with strongly acidic water dammed in the crater before the eruption. This may be one example of the power outage incident due to thin ash fall.