著者
武田 宏子 田村 哲樹 辻 由希 大倉 沙江 西山 真司 STEEL GILL
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究計画の主要な研究課題は、1990 年代以降に「男女共同参画」と「女性活躍」の政治が行われてきたにもかかわらず、なぜ日本ではいまだに高い程度のジェンダー不平等が観察されるのか明らかにし、それによりリベラル・フェミニズムが孕む問題を理論的に検討する一方で、日本においてジェンダー平等を実現するための政治過程を構想することを目指す。
著者
田中 翼
出版者
東京芸術大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

本研究の目的は、音楽において個々の作品よりも一段抽象化されたレベルの音楽理論的構造をコンピュータや計算を用いて生成し、新しい音楽スタイルを作り出すことである。25年度の成果は大まかに3つの項目に分けられる。1つ目は、旋法の生成に関するものである。旋法は感情の差異を表現するのに役立つが、その種類は数学的に膨大なため、感情と旋法の良い対応づけを得るのは困難である。そこで私は、固定された実験サンプルを評価する通常の心理実験ではなく、強化学習のアルゴリズムによって実験サンプル自体を評価者に適応変化させていく手法を案出した。そして、4つのタイプの感情をターゲットとした実験において、それらの感情を表現する旋法を得ることができた。この手法は、感情の表現力をもつ音楽スタイルを生み出す研究のプロトタイプとして大きな意義があると考える。2つ目は、旋法の研究から派生的に見いだした「音程スケール」という新しい音楽概念の研究である。これは、使用しうる音程の集合として定義される概念である。旋法や音階と異なり、音高ではなく音程の集合を使用することで、音高の制限がなされない無調音楽において通常の音階のような差異を生み出せる可能性がある。私はどのような音程スケールを選ぶべきか、無調の音楽が生成できる条件は何かなどを数学的に解明した。また、この理論を応用してピアノ作品を制作・発表しその有用性を示した。3つ目は「サウンドファイルの対位法」という私の考案した音楽理論に関係するものである。「サウンドファイルの対位法」とは、録音音源の内容を音響分析し、その情報を元にサウンドファイル断片の適切な同時的、経時的な組み合わせを自動決定する枠組みである。この研究は、コンピュータの探索能力を活かすことで、従来の録音された音素材を耳で聞いて配置する電子音楽の作曲に対して、新たな作曲のあり方の提示を意図するものである。本年度は1年目に構築したシステムを発展させ、使用する音源と音響分析の多様化を行い、美術館で展示を行った。
著者
阪本 久美子
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

舞台上の役者が登場人物を具現化する際、役者の性が登場人物の性と異なると、観客は性別の「ずれ」を認識することになる。これが、異性配役という趣向により生じる独特の効果として現れる。本研究では、シェイクスピア作品上演における観客側、つまり受容側を研究対象とし、受容における異性配役の効果を検証した。特に、異性配役が誘発する観客の「笑い」、異性配役が醸し出す「魅力」に着目し、基盤となる文献調査から始まり、ファンクラブへの調査、観客インタビューを含めた実地調査を実施した。その結果、異性配役に関する観客論を実証的な方向で発展させ、本来捉えどころがない観客の実態を把握する上での有意義な考察が行われた。
著者
井上 正純 竹内 裕也 松田 祐子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

食道扁平上皮癌切除例における癌組織中のIL-8とCXCR2の発現を検討したところ、IL-8/CXCR2共発現例で有意に術後無再発生存割合及び全生存割合が不良だったことからIL-8/CXCR2シグナルが食道扁平上皮癌細胞動態に関与していることが示唆された。食道扁平上皮癌細胞株を用いた実験ではin vitroにおいてIL-8/CXCR2シグナルを外因的・内因的に刺激すると細胞増殖は亢進し、外因的・内因的に抑制すると細胞増殖が抑制された。ヌードマウスを用いたin vivo実験でも同様の結果を得たことから、IL-8/CXCR2シグナル伝達が食道扁平上皮癌の細胞増殖に関与していることが示唆された。
著者
上畠 洋佑
出版者
新潟大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

看護系大学が急増する中で政府や看護系大学協議会は、看護系大学における教育の質保証をしようとカリキュラムの参照基準や看護学教育モデル・コア・カリキュラム等を設け、全看護系大学の自律的な教育の質保証を促している。このような拝見を踏まえて、本研究では看護系大学の教育効果と、数次改正された保健師助産師看護師学校養成所指定規則に定める看護師養成カリキュラムごとに得られた学生のコンピテンシーの差異を明らかにし、看護系大学教育の質保証検証モデルを構築することを目的とする。
著者
小川 誠司 明石 真言 鈴木 元 前川 和彦 牧 和宏
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2000

高線量の中性子線被爆がヒトの染色体および遺伝子におよぼす影響について、1999年9月30日茨城県東海村核燃料施設で発生した臨界事故において、中性子線を大量に含む放射線被爆を受けた患者2名を対象として以下の検討を行った。生物学的および物理学的な予測被爆線量は18Gy(Pt1)および8Gy(Pt2)であった。被爆後の末梢血および骨髄血の染色体分析においては、両名ともに著しい染色体の断片化と構造異常が観察された。被爆後両患者ともに造血幹細胞移植が施行され、一名については持続的な造血系が再構築された(Pt1)が、もう一名に関しては一時的に混合キメラの状態になったがもののDayに自己造血が回復し、移植片の拒絶が確認された。興味深いことに、理論的には二次被爆の影響は殆ど無視出来ると考えられる時期に移植が行われたにも関わらず、Pt1においては再構築された造血細胞においても染色体のランダムな異常が20分裂細胞中3細胞に観察され、大量の中性子線被爆後においては、直接的な放射線障害以外に染色体を障害する、細胞を隔てて作用するメカニズムが存在する可能性が示唆された。こ自己の造血が回復したPt2においては、染色体分析において、分裂細胞の60%ないし80%の細胞に細胞ごとに異なるランダムな染色体の異常が観察され、放射線被爆による染色体の異常が自己造血の回復ののちも再生した造血組織に維持されることが明らかとなった。しかし、これらの異常が最終的に造血器腫瘍を誘発するか否かについては、患者が被爆後早期に多臓器不全により死亡したため、検討不能であった。一方、剖検後に患者の遺族の同意を得て検討された被爆組織の遺伝子の突然変異をras遺伝子、p53遺伝子およびp16INK4A遺伝子について検討したが、これらの遺伝子における突然変異率の上昇は証明されなかった。
著者
中園 明信
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1984

本研究では、水産上重要魚種であるにもかかわらず、その雌雄同体性についてまったく研究の行われていない、マダイ,チダイ,キダイの3種について、性転換が行われるか否かを検討した。【I】マダイマダイは1才前後は卵巣様の生殖腺を持ち、明瞭な精巣組織は認められない。しかしながら、2才になるころに1部の個体で精巣組織が卵巣の腹側で顕著になり両性生殖腺となる。両性生殖腺が見られるのは主として2才魚で3才以上の個体ではほとんど見られなかった。しかし、3才以上の個体でも精巣には元の卵巣腔に相当する空所が認められ、精巣は両性生殖腺をへて分化してくると判断された。以上の結果から、マダイは幼時雌雄同体性で、機能的雌雄同体ではないと判断した。【II】チダイチダイの生殖腺の転換過程もマダイと良く類似していた。すなわち、卵巣から精巣への転換は、未成魚においてのみ観察され、満1才以上の成魚の生殖腺には両性のものは出現せず、精巣には卵巣腔に相当する空所のみが見られた。以上の結果より、チダイも幼時雌雄同体で、機能的な雌雄同体ではないと判断した。【III】キダイキダイは機能的な雌雄同体で、雌から雄への性転換を行うことが知られている。しかし、性成熟に達する満3才で、約20%の雌が存在することが知られている。そこで、本研究では性成熟時に出現する精巣の由来について調べた。その結果、これらの精巣は未熟な卵巣が精巣へと転換することによって生じることが分かった。すなわち、機能的な雌雄同体とされるキダイにおいても幼時雌雄同体性が見られる。
著者
阿由葉 司
出版者
千葉県立中央博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

三方を海に囲まれた房総地方では、古くから漁業が盛んで、特に江戸時代以降は九十九里地方でのイワシの地引網漁業や、東京湾での海苔養殖など特徴的な漁業が展開してきた。こうした房総地方の漁業は、江戸時代に紀伊半島を中心とした関西地方との密接なつながりが指摘されてきたが、それ以外に東北地方の三陸沿岸地域とのつながりも認められるところである。本研究は、こうした両地域の地域間交流の実態を、特に漁民の広域移動や漁民信仰の観点から捉えることを目的とし、平成12年度から研究をおこなってきたものである。研究最終年度である平成15年度については、これまでおこなってきた三陸地域での調査を総括、整理する作業を中心に実施したところである。こうした作業のなかで、岩手県釜石市およびそこに隣接する大槌町において三陸地方と房総半島との関係を推測させる事例の確認ができた。これは三陸沿岸地域に広範に分布している「鹿踊り」という伝統芸能のなかに「房州踊り」と俗称されるものが散見し、こうした地域がかつて漁労技術の継承を三陸と房総のあいだでおこなってきた地域であることも判明した。なお、歴史的に重要な関連を持つと思われる「前川家文書」(旧水産庁所蔵)について当初調査をおこなう計画であったが、現在同史料を所蔵する中央水産研究センターにおいて、継続的な整理が進行中であったため、本研究のなかで調査をすることは見合わせ、整理の完了をまつこととした。
著者
山岸 潤也
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

Periplaneta fuliginosa densovirus(PfDNV)は、1993年に中国武漢市郊外でクロゴキブリがら分離されたウイルスで、パルボウイルス科,デンソウイルス亜科,デンソウイルス属に分類される。デンソウイルスは約5000塩基の小さなゲノムを有する一本鎖DNAウイルスで、数個の遺伝子しかコードしないことから、昆虫におけるウイルス増殖を分子生物学的に解析する対象として、非常に適していると考えられる。また、これまで分離されているデンソウイルスの多くが、その感染により宿主を死に至らしめ、同時に強い宿主特異性をもつことから、ウイルス農薬として害虫駆除に利用することが期待できる。本研究では、特にウイルス増殖の基幹を成す遺伝子発現制御機構に注目して解析をおこない、ウイルスの宿主特異性や増殖機構を明らかにすることで、ウイルス農薬としての有効かつ安全な利用への応用を目指している。PfDNVが属するデンソウイルス属には、ハチミツ蛾を宿主とするGalleria mellonella densovirus(GmDNV)や、Junonia coenia densovirus(JcDNV)など、鱗翅目を宿主とするものが存在する。これらのゲノム構造は非常に類似していることが報告されているが、ウイルス構成タンパク質をコードするORFがGmDNVやJcDNVでは1つであることに対し、PfDNVでは2つに分断されているといった相違がある。また、そのmRNAも、GmDNVやJcDNVでは1種類であることに対し、PfDNVでは選択的スプライシングにより少なくとも9種類が生成することを我々は明らかにしている。これらは、PfDNVでは、GmDNVやJcDNVと異なり、選択的スプライシングがウイルス構成タンパク質の発現制御に関与することを示唆していた。今回我々は、5種類あるPfDNVの構成タンパク質について、そのN末端アミノ酸配列をエドマン法により解析することで、PfDNVの構成タンパク質の発現制御に選択的スプライシングが関与することを明らかにした。また、非構成タンパク質をコードするmRNAをRT-PCRによって解析した結果、PfDNVだけでなくGmDNVにおいても、選択的スプライシングの関与が認められた。これらは、昆虫のパルボウイルスであるデンソウイルスの遺伝子発現制御には選択的スプライシングが関与しないというこれまでの通説を覆す、新たな知見であった。また、本研究の結果から、デンソウイルス属は、構成タンパク質の発現に選択的スプライシングが関与するグループ(鱗翅目を宿主としないもの)と、しないグループ(鱗翅目を宿主とするもの)の2つに細分化されることが示唆された。(以上はjournal of general virologyに投稿中です。)
著者
竹原 明理
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

採用最終年度は、昨年度から継続している菊人形と人形芸術運動における生人形の調査が中心となった。研究実績として、論文二本(2012年4月以降刊行予定の一本を含む)、口頭発表二本、学会新聞への寄稿一本を行った。2011年は生人形師出身で後に人間国宝となった平田郷陽の没後三十年という節目の年であり、佐倉市立美術館と佐野美術館において展覧会・シンポジウムが開催された。また、日本人形玩具学会では平田郷陽と人形芸術運動が特集され、報告者も同学会第23回総会(於深川江戸資料館)で菊人形やマネキン人形などを製作した生人形師としての平田郷陽の姿について発表した。菊人形展については、二本松市、南陽市、笠間市、野田市、巣鴨、湯島のほか、吉野川市、枚方市、名古屋市、高浜市などを見学した。東日本大震災の影響が懸念されたが中止となった個所はなく、東京・愛知・大阪・大分の人形師からの聞き取り調査も行うことができた。また、枚方市の「ひらかた市民菊人形の会」への参加・調査も継続し、彼らの活動についての考察を日本民俗学会第63回年会(於滋賀県立大学)や研究会などで発表した。加えて、生人形の系譜を考察する上で重要な山車人形の見学を川越祭において行ったほか、2011年11月の見世物学会総会(於東京芸術大学)でも生人形が取り上げられたため、学会新聞へ短文を寄稿した。当初、本研究は明治・大正・昭和における博物館と百貨店の展示装置として用いられた生人形について調査を進めていたが、生人形師の系譜にある現役の人形師からの聞き取り調査を行う中で、菊人形や山車人形は重要な存在であること、昭和初期に展開された人形芸術運動における議論は人形の転換期として非常に興味深いものであったことなどが浮き彫りとなった。展示装置としての生人形製作に関わった人形師たちは、先行研究で記されてきた以上に幅広い分野で活動していたことが明らかとなり、今後もさらに多角的な視点から生人形研究を発展させていく上で、本研究は重要な意味を持っていたといえるだろう。
著者
河合 崇行
出版者
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

認知時間に差がある2種の味を混和した際の味変化について調べた。ヒト用の実験装置は精度が維持できなかったので、マウス行動学を利用して解析することにした。甘味と甘味を混合した場合は、認知時間差の大きい組み合わせほど大きな甘味増強が起きる現象が見られた。塩味と甘味を混合した場合は、甘味増強が見られたものの、認知時間の早いイオン性の甘味との組み合わせで大きな増強が見られた。
著者
宮下 英明
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

平成22年度は,昨年度に新たに発見した産地の1つ(産地Y)から,地権者の許可を得て「天狗の麦飯」を採取し,これまで研究に用いてきた産地Kのサンプルと,1)光学顕微鏡による微生物の形態多様性と主たる微生物の形態の比較,および2)真正細菌の16S rRNA遺伝子を標的としたクローンライブラリ法によって得られる真正細菌群集構造の比較を行うことにより,両サンプルに共通する特徴を調べ,主要な微生物の代謝情報から形成・維持機構について考察した。その結果,どちらの産地のサンプルにも,カプセル状の莢膜をもつ細菌が,微生物塊を構造的に維持する細菌として観察された。細菌群集構造解析では,両産地のライブラリのそれぞれ87.0%,74.7%が4つの系統群(Ktedonobacteria綱Ktedonobacterales目,γ-proteobacteria綱Ellin307/WD2124, α-proteobacteria綱Beijerinckiaceae/Methylocystaceae, Acidobacteria門subdiv.1)の生物で占められていた。この群集構造は,産地周囲の土壌にみられたものと全く異なっていたことから,「天狗の麦飯」の共通の特徴と考えられた。さらに,両産地に共通して検出されたKtedonobacteriaとγ-proteobacteriaの総計が,各ライブラリの43.0%,27.3%を占めた。このことから,この両生物群が主たる微生物である可能性が高くなった。これまで「天狗の麦飯」は独立栄養的生育をしている細菌を中心に増殖する微生物塊であると考えられてきが,本研究によって検出された真正細菌はほぼすべて従属栄養生育するものと考えられた。今後,「天狗の麦飯」に供給される物質の情報や,下層を含めた周囲の微生物群集構造の特徴について精査しすることによって形成・維持機構の解明がはかれるものと期待できる。
著者
杉原 隆 吉田 伊津美 森 司朗
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

日本全国の幼稚園・保育所109園の4〜6歳児、約12,000名を対象に運動能力測定および家庭と園の環境調査を行った。運動能力発達ならびに、運動能力と環境要因の関係について分析した結果の概要はおおよそ以下のようである。幼児の運動能力は1986年頃から1997年頃にかけて大きく低下し、1997年から2002年にかけては大きな変化はなく現在に至っていることが確認された。運動能力の発達に最も大きく関係していたのは、園と家庭での運動遊び時間や頻度などの運動経験要因であった。園環境としては、遊び友達の数、保育形態、担任の運動の得意不得意など心理社会的環境は運動発達と関係していたが、所在地や園舎園庭の広さや遊具の数など物理的環境との間にははっきりした関係が認められなかった。特に保育形態に関しては、一斉指導で運動指導をしている園より自由遊び中心の保育をしている園の方が運動能力が高いという注目すべき結果が得られた。家庭環境としては、遊び友達の数、家族構成、親の意識といった心理社会的環、遊び場の有無と運動遊具の数といった物理的環境の両者が運動発達と関係していたが、住宅形態や居住階層はほとんど関係していなかった。全体としてみると、運動発達との関係の強さは運動経験、心理社会的環境、物理的環境の順となり、分析の結果、環境(間接要因)⇒運動経験(直接要因)⇒運動発達という因果関係が認められた。
著者
辻 尚子
出版者
浜松医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

[目的]我々はマウス敗血症性急性腎障害(AKI)の早期にミトコンドリアDNA(mtDNA)が大量に全身循環し、腎障害を惹起していることを明らかにしたが敗血症患者における全身循環mtDNAの動態や意義は明らかではない。今回我々は、血中mtDNAの存在部位の違いに着目し、エンドトキシン吸着療法(PMX-DHP)を必要とした敗血症患者の循環mtDNAをエクソソーム(Ex)分画と遊離(Free)分画に分けて定量検討した。[方法]2013年~2016年に当院集中治療室で敗血症性ショックと診断されPMX-DHPを施行した20名を対象に、治療直前の血漿中mtDNAを超遠心法にてFree分画とEx分画に分けRT-PCRを用いて定量した。[結果]敗血症性ショックの患者は健常者と比較しEx-mtDNAが優位に増加していた(1.4±4.9 vs 0.002±0.003 ×10^3copies/μl, p<0.05)。院内死亡例では生存例と比較し、Ex-mtDNAが優位に増加し(5.3±9.4 vs 0.1±0.3 ×10^3copies/μl, p<0.01)、Ex-mtDNA量は血中乳酸値と正の相関を示した。また、AKI合併例では非AKI合併例と比較し、Ex-mtDNA(2.0±5.9 vs 0.03±0.06 ×10^3copies/μl, p<0.05)および遊離mtDNA(8.7±2.8 vs 0.08±0.12 ×10^3copies/μl, p<0.05)が増加しており、KDIGO分類で重症度が高い程増加する傾向であった。[結論]敗血症性ショックでは血中Ex-mtDNAが増量しており、Ex-mtDNA量は敗血症の重症度やAKI合併、死亡と関連を認めた。各分画のmtDNAの腎特異的役割や意義に関しては今後さらなる検証が必要である。
著者
藤原 晴彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2015-05-29

体表の紋様や体色により捕食者を撹乱する擬態は広範な生物種に認められるが、その形成メカニズムはよくわかっていない。擬態のような複雑な適応形質は1遺伝子の変異ではなく、染色体上の隣接遺伝子群「超遺伝子(supergene)」が制御しているという仮説がある。我々はシロオビアゲハのベイツ型擬態の原因が130kbに及ぶ染色体領域にあり、さらに染色体の逆位によってその領域が進化的に固定されていることを見出した。そこで、本研究では複数のアゲハ蝶をモデルとして(1)supergeneの構造と機能、(2)染色体上のsupergeneユニットの出現と安定化機構、(3)近縁種でのsupergeneの進化プロセスを解明する。転移因子の関与なども含め上記の結果を統合し、ゲノム再編成による擬態紋様形成機構を体系的に解明することを目的とした。本年度は、シロオビアゲハの擬態型dsx-Hが、非擬態型の淡黄色を擬態型雌に特有な淡黄色に切り替えるメカニズムを明らかにするために、両者の合成経路に関与する遺伝子の機能解析を行うとともに、紫外線に対する応答性の違いとそれに関与する遺伝子の働きを解析した。非擬態型淡黄色は紫外線を吸収して青い蛍光を発するのに対し、擬態型淡黄色は紫外線を反射するが、シロオビアゲハの擬態型翅で擬態型dsx-Hをノックダウンするとその領域において紫外線に対する応答性が擬態型から非擬態型に切り替わった。非擬態型の淡黄色papiliochromeIIを作るNBADとキヌレニン合成経路の各遺伝子をノックダウンしたところ、紫外線応答性が切り替わるとともに、鱗粉の電子顕微鏡像も変化したことから、色素合成のみならず物理的な性質もこれらの遺伝子によって制御されていることが明瞭となった。さらに、ナガサキアゲハの擬態型dsx-Hの機能解析を行い、シロオビアゲハの擬態型dsx-Hの機能との比較を行った。
著者
高島 明子
出版者
滋賀医科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、月経不順、卵巣の多嚢胞化、男性化の症状または血清中の男性ホルモンの増加などが認められる症候群である。近年になりPCOSにインスリン抵抗性が深く関わっているとの報告がなされて来ている。また、食酢には、インスリン抵抗性を改善効果が認められるとの報告がなされて来ている。そこで7人の患者を対象に600㎎酢酸含有りんご酢飲料の内服を一日一回3か月間行った。HOMA-Rは全例改善し、LH/FSH比も5人に改善が認められ、4人に月経周期の回復が認められた。現在、脂質マーカーなどの変化を調査中である。