著者
小林 憲正 奈良岡 浩 三田 肇 橋本 博文 金子 竹男 高野 淑識 VLADIMIR A. Tsarev
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

模擬星間物質に重粒子線などを照射して合成した「模擬星間有機物」と、炭素質コンドライト中の有機物を分析し、両者と生命起源の関連について考察した。模擬星間環境実験では分子量数千の複雑態アミノ酸前駆体が生成する。これが星間や隕石母天体中での放射線・紫外線・熱などでの変性により隕石有機物となったことが示唆された。原始地球へは宇宙塵の形で有機物が供給された可能性が高く、その分析が必要である。宇宙ステーション上で宇宙塵を捕集する条件を検討中である。
著者
荒井 朋子
出版者
国立極地研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

2007年から砂漠産月隕石Dhofar489とそのペア隕石の岩石鉱物研究により、月裏側地殻の鉱物分布の特定を進めてきた。その結果、アポロ試料からわかっている月表側地殻とは異なる鉱物分布及び組成を持つことを明らかにした。このデータをもとに、月表側裏側地殻組成の二分性モデルを発表し、月マグマオーシャンの結晶化二分性の結果地殻組成の二分性が生じたという仮説を提唱した。また、国立極地研の三澤啓司博士、海田博博士及び吉竹美和研究員との共同研究により、NWA4485の岩石鉱物特性の分析及びSHRIMPを用いたジルコン・バデリアイトのウラン鉛年代決定を行い、その結果を2009年3月の第40回月惑星科学会議で発表した。分析の結果、この隕石中に含まれるジルコン・バデリアイトの結晶化年代は43.5億年前から39.4億年前まで幅広い年代分布を示した。この年代は、マグマからの結晶化のみならず、その後の隕石衝突により同位体系列のリセットの双方の事象を記録したものだと考えられる。かぐや探査機に搭載された紫外・可視・近赤外波長域の反射スペクトルデータを用いて、月の全球地殻の鉱物分布を解析した結果、斜長石100%の純粋な斜長岩が深さ10-20kmにわたり存在することを突き止めた。この結果、月上部地殻組成はこれまで以上にアルミに富むこと、また全球マグマオーシャンから極めて純度の高い斜長岩が均質に結晶化したことを明らかした。
著者
小川 眞里子 片倉 望 山岡 悦郎 伊東 祐之 久間 泰賢 遠山 敦 秋元 ひろと 斎藤 明
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は平成11年度から13年度の3年間のプログラムによって、「物語としての思想-東西の思想を物語の観点から読み直す-」をテーマに総勢10名を超えるメンバーの参加をもって始められた。参加者の専門は西洋、日本、インド、中国の思想分野にわたり、比較思想的探求を行う際の共通の切り口として「物語」という切り口は面白いのではないかと考えた。たしかに、物語は文字をもつ以前から口承の形で受け継がれてきており、人間存在と切り離しがたく普遍的に存在する。それにもかかわらず従来の哲学からは「物語」への取り組みの糸口が見出しにくく分担者は苦闘を強いられた。そうした中で、東北大学の野家啓一氏を招き講演会を開き、その成果を文字に起こして研究分担者がきちんと共有できたことは、各自の研究を進める上で大きな助けとなった。とくに今回の講演で示された科学的実在と物語の関係は大変示唆的であった。また東洋思想の観点からお話をしていただいた田辺和子氏の「原始仏教聖典の中の物語」は、先に述べたごとく「物語」がいかに本質的に人間存在と結び合ってきたものであるかを納得させるものであった。こうした経緯をへて各自が報告の作成に取り掛かり、桑原は野家氏の中心的テーマであった歴史の反実在論から説き起こしそれとキリスト教徒の問題に切り込み、武村は物語と哲学との比較という非常に興味深いテーマに行き着ついた。その他各自がこのユニークな研究の端緒をいかに完結させるかが今後の課題である。
著者
牛山 素行
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

豪雨災害においては外出中の遭難者が全体の6割,自ら危険に近づいたことによる犠牲者が1/4を占めるなど,情報を公開・伝達すれば被害軽減が図れるといった単純な構造ではない.どのような情報を理解してもらえば被害軽減行動に結びつくかの検証が必要であり,その一端として本研究では,地形(標高)を認識している者は防災行動が積極的であることを示唆した.
著者
宮田 伸一
出版者
独立行政法人農業技術研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

昨年までに,カンキツグリーニング病を罹病させたニチニチソウの主脈を用いて、Cα. L. asiaticusの濃縮画分からの抽出DNAを用い,ゲノムDNA増幅キットによってゲノムDNAの増幅の後,プラスミドベクターにショットガンクローニングして塩基配列決定を行った。今年度は本クローニング手法を繰り返し実行し,その結果,第1段階スクリーニングによってα-プロテオバクテリア由来の配列に分類されるクローンを選抜し,さらにPCRによる第2段階スクリーニングを行って陽性クローンについては全塩基配列を改めて決定した。これらの陽性クローンの塩基配列情報を元に疎水性領域をもつものを探索したが,膜タンパク質のようにトランスメンブレンドメイン(疎水性領域と親水性領域が咬互に存在する)を持つものは見つからなかった。またドメインデータベースに対して検索を行ったところ、細胞外にSecシステムやABCトランスポーターによって輸送されるようなシグナルドメインをもつものも存在しなかった。しかし細胞外からの熱・浸透圧・イオン濃度などの刺激を受容して遺伝子発現制御を行うシグナル伝達系である二成分制御系因子の受容体であるSensor Kinase候補が存在したため,今後は全長配列の決定に向けてTail-PCR法やGenomic Walker Kitなどによる隣接領域の取得を試み、さらにペアとなるReceiver Domainの候補遺伝子の探索に取り組む。
著者
植村 隆文
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究課題では、単一分子の発光現象の観測・制御を目標として研究を行った。走査トンネル顕微鏡を用いて単一分子を観測しながら、単一分子からの非常に微弱な発光を検出可能にするために、プラズモン増強効果による発光増幅効果を応用し、単一分子からの発光現象の観測に成功した。また、この結果を応用し、将来のディスプレイ・照明デバイスとして期待される有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率の向上に成功した。
著者
井上 英夫
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

6年度は、政治参加の実態について、主として東京の参政権保障連絡会(準)のメンバーを中心に調査した。その結果は、参政権保障連絡会ニュースにまとめてきたが、7年6月に『私たちの参政権-障害をもつ人々の立場から』として発行した。障害をもつ人々の参政権保障の問題点と改善点が、障害をもつ人々自身の声で語られているところが貴重であり、2年間にわたる実態調査と議論の成果である。とくに、従来ほとんど取り上げられなかった精神障害をもつ人に関する参政権保障の実態を患者自らの訴えとして、さらに知的障害をもつ人の「せんきょ たのしい がんばるよ」という声を掲載できたことは、大きな意義をもつ。6年度は、政治改革とりわけ選挙制度改革が障害をもつ人々の参政権に与える影響を検討してきた。とくに、6年6月20日に発表された、政見放送研究会報告書を検討し、その意義と限界、問題点について全日本ろうあ連盟機関誌『月刊みみ』、および日本手話通訳士協会機関誌に発表した。さらに、参政権保障の意義と現状について高齢者にまで拡大して検討した。7年度に、以上の成果を、研究成果報告書『「障害者」の参政権保障に関する総合的調査研究』としてまとめた。今後、「障害をもつひと」の政治参加と参政権保障制度の実態、さらには福祉制度とのかかわりをふくめた総合的調査を課題としたい。
著者
大久保 晋
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

スピンフラストレーション系では、相互作用が競合するためマイナーな作用が支配的である場合がある。スピンJahn-Tellerではスピン-格子相互作用により格子を歪ませることになる。本研究ではフラストレーション効果の解明のため、カゴメ格子やパイロクロア格子をもつ反強磁性体におけるスピンフラストレーション効果を、強磁場ESRを用いることで緩和の速いスピンダイナミクスを調べ、格子を変えてもスピンの揺らぎが強く残ることを明らかにした。
著者
時得 紀子 田中 博之 村川 雅弘 無籐 隆
出版者
上越教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

日米小・中学校の研究先進校から抽出した優れた授業実践に、独自に設けた評価観点などを尺度として質的な分析を加えた。その結果、音楽と言語と身体の各活動がバランスよくかかわり合うことで、表現活動が活発化する傾向が見られた。また、音楽と言語が相互に作用することで双方の活動の質が高まることから、この往来の活性化をはかる手立てとして、言語が関わる演劇的表現や音楽と関わる身体表現活動などを関連させた活用型の学習が有効であることがわかった。
著者
田ヶ谷 浩邦
出版者
国立精神・神経センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

慢性不眠症における睡眠状態誤認のメカニズムを明らかにするため、睡眠圧の高い条件(高睡眠圧)と睡眠圧の低い条件(低睡眠圧)において、主観的睡眠時間について検討した。被験者は若年健常男性7人(21-23歳)で、実験は室温・湿度・照度・騒音レベルを厳密に統制して4日間に渡って行った。被験者は、第1日目の夕刻に来所し、0時より7時まで適応睡眠をとったあと、第2日朝から第3日昼にかけて28時間の断眠を行った。断眠中は室内の照度は150luxに保ち、運動は控えさせた。第3日の12時より21時まで、高睡眠圧条件での睡眠をとり、第4日の12時より21時まで低睡眠圧条件での睡眠をとった。高睡眠圧および低睡眠圧条件における9時間の睡眠ポリグラフ記録(PSG)を90分ごとの6睡眠区間に分割し、それぞれの区間で睡眠段階2の時に覚醒させ、構造化面接を行い、主観的睡眠時間、主観的時刻、主観的入眠潜時を聴取した。それぞれの面接は照度5lux以下で行い、2分以内に終了させ、直ちに消灯した。PSGは国際判定基準に従って判定し、客観的睡眠時間、入眠潜時を求めた。統計解析には分散分析、Spearman順位相関を用いた。合計84の睡眠区間のうち、高睡眠圧条件の41区間、低睡眠圧条件の38区間で、1エポック以上の睡眠が記録され、この79区間を解析した。主観的睡眠時間は両条件下で客観的睡眠時間より有意に長かった。その他の客観的睡眠指標は条件による違いがなかった.主観的睡眠時間は低睡眠圧条件で高睡眠圧条件より有意に短かかった。主観的睡眠時間は客観的覚醒時間(分)、客観的覚醒時間(%)、面接施行時刻と有意な負の相関を示した。しかし、客観的睡眠時間(分)とは相関を示さなかった。主観的睡眠時間は低睡眠圧条件において高睡眠圧条件より短く、客観的睡眠時間ではなく、客観的覚醒時間と相関を示した。
著者
室 雅巳 庄野 秀明 庄野 真由美
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

(1).正期単胎妊娠の胎児心拍数基線における周期性を明らかにする目的で、合併症のない37〜39週の正常妊娠9症例を対象に3日間の連続胎児心拍数(FHR)収録を行った。得られたFHRデータから10分間の区画毎に胎児心拍数基線(FHRB)を同定、各症例毎に最大エントロピー法によって得られたピークスペクトルからFHRBの時系列データに内在するリズムの周期を抽出し、あてはめ曲線を描出した。得られた曲線の日内変動最低点および最高点を示す時刻を各症例毎に求め各々の分布について検討した。その結果、正常正期妊娠におけるFHRBの日内変動は約24時間と約12時間の周期のリズムをベースに持ち、更に各個体の状況や環境因子に伴う種々のリズムが複合され、その表現型が形成されていると考えられた。(2).双胎間の胎児基準心拍数(BFHR)の日内変動位相の同期性と位相差を解析し、一絨毛膜二羊膜性双胎(MD)と二絨毛膜二羊膜性双胎(DD)の特徴を抽出する目的で、妊娠35〜37週の双胎妊娠15例(MD7例、DD8例)に対して24時間双胎心拍数同時収録を施行。収録したデータから症例毎に各々の双胎のBFHRを5分毎に同定し1時間毎の平均値を算出、各胎児のBFHRの日内変動の有無を検定した(ANOVA)。各症例で双胎間のBFHR日内変動位相差を求めるために第1子のBFHR日内変動に対して第2子の日内変動位相を-3〜+3時間の間で1時間づつ移動させた場合の両者間の相関係数をそれぞれ算出。最大Rを示す位相差を症例毎に求め、膜性による特徴を比較した。その結果全ての双胎両児のBFHRに有意な日内変動を認めた(p<0.01)。双胎BFHR間に全症例で有意な相関が認められ、MD、DDの平均最大Rの間に有意差は認められなかった。DDでは8例全てでBFHR日内変動の位相が完全に同期していた。一方、MDでは7例中3例でBFHR日内変動位相は同期していたが3例で第2子が1時間先進、1例で第1子が3時間先進しており日内変動に位相差を示す症例が認められた。以上より双胎間のBFHR日内変動はMD、DD共に高い相関を示すが、DDでは完全に位相が同期しているのに対してMDでは位相差が認められる症例が存在する。MDでは胎盤内血管吻合等による双胎間の循環動態の差異から胎児日内変動に関連する母体因子の移行に不均衡が生じる可能性があると考えられた。
著者
小椋 たみ子 松尾 雅文 松嶋 隆二 常石 秀一 竹島 泰弘
出版者
神戸大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

1.Duchenne型筋ジストロフィー児165名に対して知能、発達評価を行なった。(1)IQ69以下の精神発達遅滞は25,6%、IQ 70-89が39.6%、IQ 90-109が28.7%、IQ 110以上が6.1%で精神遅滞が1/4であった。知能(IQ, DQ)の平均は80.2であった。(2)PIQとVIQの差はWISC(94名)、新版K式(26名)においては有意差なし、WPPSI(45名)においてはPIQIQ(84.8)がVIQ(74.2)より有意に高かった。(3)下位検査の評価点はWISCでは類似問題が最低点(7.0)、迷路が最高点(11.0)、WPPSIでは理解問題が最低点(5.2)、迷路が最高点(9.1)であった。言語概念化能力と言語表出能力が低かった。(4)32名の1年以上後の再検査(平均26.6ヶ月間隔)でFIQ, PIQ, VIQとも有意差はなかった。進行に伴う知能の低下はないと考えられる。2.Duchenne型筋ジストロフィー児43名(平均7.1歳)にITPA言語学習能力検査を実施した。「ことばの表現」「ことばの類推」の評価点が低かった。3.サザンプロット法、PCR法、RT-PCR法、直接塩基配列解析法により遺伝子異常を同定した症例について、遺伝子異常と知能との関連を検討した。欠失・重複例(97名)と微小変異例(53名)で、IQの平均値の差はなかった。欠失・重複例と微小変異例について大脳、脊髄をコントロールするエクソン44と45の間にあるdp140のプロモーターと知能の関係をみると、両例とも遺伝子異常がイントロン44より上流にとどまる群はイントロン45より下流に及ぶ群に比べ、IQ、VIQ、PIQとも有意に得点が高かった。なお、欠失・重複例はイントロン45より下流に及ぶ群(65.4%)、微小例はイントロン44より上流にとどまる群(74.1%)で出現率に有意差があった。ITPAにおいてはdp140のプロモーターとの関係は見出されなかった。4.筋ジス児の言語音の有標性を検討するために構音検査を実施したが、誤構音は少なかった。
著者
平丸 大介
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

生体内では、現在の技術では作製することが不可能である複雑な機能を有した微小構造体である生体組織が多数存在しており、それらの工学的応用が期待されている。本研究ではそのような生体組織の代表的なものの一つである毛細血管に着目し、人工的に作製した微小流路構造と自己組織化により作製された血管構造を機能的に結合するμ-TASデバイスを提案した。このデバイス上の微小構造は、平面上に配置されたオリフィスを複数有する埋込流路であり、厚膜ネガレジストであるSU-8内部に形成されている。このような微小構造は通常の露光方法では作製することが困難であり、我々が提案した傾斜露光法を用いることで簡便に作製することが可能となった。そして、埋込流路に接続したオリフィスが配置されたデバイス平面上でヒト由来の内皮細胞の一種であるHUVECを特定条件下で培養することで自己組織化により毛細血管構造を形成し、平面上のオリフィスへと誘導することで毛細血管と埋込流路を、オリフィスを介して機能的に結合する。ランダムに配置される脈管構造の誘導において、昨年度は内皮細胞の誘引因子であるVEGFを含有したゲルビーズをオリフィスに配置することで脈管構造をオリフィスへ誘導を行ったが、ゲルビーズの除去が問題となっており、オリフィスからVEGFを拡散させる手法を検討している。また、毛細血管の形成期間を短縮するために特異な環境下での培養を行っていたため、本年度では一般的な医学分野で用いられる条件下での実験を行うための培養システムの構築を行い、一週間以上の長期培養下での毛細血管構造の誘導と埋込流路との結合を試みた。
著者
小竹 武 新井 仁之 板東 重稔 伊藤 秀一 高木 泉 加藤 順二 小野 薫
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

多様体上の解析学としての大域解析が包括する研究対象は多岐にわたる。本研究では、種々の偏微分方程式の解構造の研究、力学系、関数微分方程式の摂動と安定性の研究、非線型解析の微分幾何学、数理物理学への応用等、解析学と幾何学、数理物理学との境界領域での研究の進展をはかるとともに、これら研究における解折手段として重要な調和解析および作用素の理論等の深化につとめた。以下、本研究において得られた新たな知見、成果の概要を記す。1. 偏微分方程式論に関するものとして、一般な正値ポテンシャルをもつシュレディンガ-作用素に対する固有値の漸近分布についての結果、およびリ-マン多様体上の熱方程式に対するヴィダ-型一意性定理の証明、更に、楕円型作円用素論の幾何学への対用として、ディラック作用素族の芸変指数についての研究、正則ベクトル束の除去可能特異点についての研究等が挙げられる。2. 力学系の分野では、可積分なハミルトン正準方程式系の特異点近傍での標準型への還元に関する研究、一方、遅れをともなう関数微分方程式に対する大域解の存在、安定性についての研究等がある。3. 非線型解析に関しては、拡散・反応方程式系について解の詳しい幾何学的研究がなされ、パタ-ン形成や将異点発生等について興味ある結界が得られた。4. 調和解析では、強擬凸領域上の〓〓調和関数の境界挙動に関するファトゥ型定理の証明がある。 2、作用素環の順序構造と正則完備化の構造との関係について新しい知見が得られた。5. バ-クマン核の研究では、領域がラインハルト領域のとき、核のトレ-スと境界のチャ-ン・モ-ザ-不変多項式との関係が明確化され、その応用として、複素球の大域的特徴づけが示された。
著者
森田 規之
出版者
京都府立医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

バーグマングリアの分化過程を、S-100β遺伝子プロモーター活性の可視化によって追跡するために以下の検討を行った。分与されたマウスS-100β遺伝子の5′上流領域からプロモーター領域の欠失系列を作製し、これらをプロモーターアッセイのためのレトロウイルスベクタープラスミドであるpIP300plusにサブクローニングした。同種指向性パッケージング細胞Ψ2にトランスフェクトしてウイルス産生細胞株を樹立し、細胞培養上清から組み換えレトロウイルスを調製した。プロモーター活性の可視化のために効率の高いプロモーター領域を、S-100βを常時発現する株化細胞ラットC6グリオーマを標的として検索を試みた。しかしながらプロモーター可視化の効率が極めて低く解析に困難を伴ったことから、プラスミドの再構築、パッケージング細胞への遺伝子導入方法の変更等を行い、最終的に異種指向性のパッケージング細胞PA317を用いて組み換えウイルスを調製して、解析を可能とした。現在、明らかとなったプロモーター領域の活性を初代培養バ-クマングリアおよび小脳培養スライスで解析中である。さらに、マウス成獣の小脳において、バーグマングリアがグルココルチコイド受容体免疫陽性であることを見いだした。用いた抗血清はラットグルココルチコイド受容体cDNAからGST-fusion法によって調製した抗原蛋白質に対するものである。この抗原はグルココルチコイド受容体の転写調節ドメインの一部、マウス配列と92%のホモロジーを有する領域である。イムノブロット解析からマウスにおいても単一のバンドを与え、また、胎生14日の小脳原基において既に発現していることを明らかにした。今後、バーグマングリアの起源、分化との関連性を分子形態学的に追求する。
著者
古屋 秀樹
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

本研究では,対象地域として土浦・つくば周辺地域を取り上げ,TDM施策の1つであるコードンプライシングが実施された場合の影響を交通流動ならびに環境影響の観点から明らかにすることを目的とする.土浦・つくば地域の人口は以前増加が続いており,平成7年現在約29万人となっている一方,公共交通機関への依存度が低く,自動車分担率の比較的高い地域といえる.特に,土浦中心部では茨城南部の中心都市としての機能を有することや南北と東西を結ぶ道路ネットワークの結節点であることから,通過・進入する車両の増加で交通渋滞が深刻化している.その対応策として,土浦・つくば地域に流入する車両に対して課金するプライシングを取り上げ、その影響を把握した.プライシング実施にともなう交通抵抗の増加によって,コードンで囲まれる地域の集中交通量やこれら地域を目的地とする分布交通量の減少が予測される.しかしながら,特に分布交通量のモデルを用いた推計精度が十分高くないことなどから,プライシングが交通機関選択行動,経路選択行動に影響を与えるものと仮定して,プライシング実施前後における交通流動の変化を明らかにした.その結果,プライシング前後で自動車による汚染物質の排出量が改善され,交通渋滞の解消に加え,環境改善に効果があることが分かった.今後の課題として,発生・集中,分布交通量の変化を考慮した分析,道路交通流・排出原単位に対する検証,ドライバー・プライシング実施主体を含めた包括的な費用便益の把握,徴収料金の合理的支出に関する考え方の整理があげられる.
著者
齋藤 学
出版者
山形大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

名作椅子を用いた"体感型"鑑賞教育プログラムは、一般的な"見る"鑑賞に比べ、生活におけるデザインの働き(形状・素材・色・機能など造形の諸要素の関係性)について理解が得やすく、その学習効果の優れた特性が認められた。また、本プログラムをシステム化し効果的に運用(教材の管理とアウトリーチ)していくためには、地域における学校間の連携と、自治体、公共施設、非営利団体、企業等の支援体制の整備が不可欠となる。
著者
稲葉 哲郎
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

今回の研究においては,1995年の参議院選挙の選挙運動期間中に大学生639名を対象に調査をおこなった。調査票は政治的知識,法定選挙媒体への接触,候補者のテレビ広告の利点と欠点の評価,デモグラフィック要因などの項目からなっていた。接触については,「偶然見た」「自分から進んでみた」という回答を合計したものを接触率とした。候補者の新聞広告への接触率は30%であり,また政党の新聞広告では29%であった。候補者のテレビ政見放送への接触率35%と比べるとやや低いが,政党のテレビ政見放送の接触率24%と比べるとやや高いものであった。今回は単なる接触だけでなく,その媒体についてどれだけ注意を払ったかを尋ねたが,いずれの媒体についても「一応注意をはらった」「かなり注意をはらった」を合計しても回答者の1割ほどにしかならなかった。政治的知識との関連をみたところ,政治的知識の高い層がいずれの媒体にもよく接触をしていた。テレビ広告の利点と欠点については,「ますます選挙にお金がかかるのでよくない」(53%)「お金のある候補者が有利になるのでよくない」(50%)と選挙にお金がかかることへの懸念が多く見られたが,アメリカで話題になっているような対立候補の欠点をあげつらうような広告が放映されることへの不安はあまりみられなかった。一方,利点としては「候補者がどんなひとかよくわかってよい」(39%)「政治に関心を向ける機会が増えるので望ましい」(38%)という意見が多く,候補者をよく知るための手段として評価されていた。評価の規定因としては政治的知識をあらかじめ想定していたが,テレビ広告にお金がかかることについて,政治的知識の高い層で懸念が特に多かった。
著者
渡部 幹
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

社会的交換ネットワークの変容とその規定要因となる心理的特性--公正感と信頼感--に焦点を当てた実験研究を行った。社会的交換状況において不公正分配をされた者が、その状況から脱出しようとする傾向を持つこと、そしてそれによりネットワーク構造全体が変容しうることを確かめるための実験を行った。20名程度の実験参加者がコンピュータを介して、資源の取引を行うという状況を作る。この実験では、すべての参加者が相手に対して不利になるようにあらかじめ設定されており、参加は必然的に、取引相手から搾取され、不公正な分配を受け入れなくてはならない状況におかれる。実験では、このような状況にいる参加者が、公平な分配を受けている場合に比べ、コストをかけてでも取引相手からの離脱を望むかどうかを検討した。予測通り、不公正な分配を受けた参加者は、公正な分配を受けた参加者よりも、交換状況から脱出する傾向の強いことが示された。この結果は、2002年12月に米国で行われた研究会にて発表され、その際の議論をもとに、現在、結果のより詳しい分析を進めている。また、不公正・公正な分配そのものを左右する心理的要因を探るために、最後通牒ゲームと独裁ゲームを用いた研究を行った。これらのゲームは、見知らぬ他者と自分との報酬分配に関するもので、公正な報酬分配を行う者に特徴的な感情や行動傾向との関連性を調べるために、日本人被験者を用いた実験が行われた。この結果、「他者一般への共感能力」の高い者が自発的な公正分配を行う傾向の高いことが見出された。この結果は、2001年8月のアメリカ社会学会、2001年10月の日本社会心理学会にて報告された。この他にネットワーク変容に影響を及ぼすもうひとつの規定要因である信頼感について、その醸成に関する実験研究も行われた。この理論的概要と結果は、土木学会誌および2002年の日本社会心理学会にて報告されている。
著者
今井 知正 村田 純一 黒住 真 門脇 俊介 信原 幸弘 野矢 茂樹 宮本 久雄 山本 巍
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

自然主義をめぐる哲学的思考の歴史的遺産を再検討したうえで、現代の哲学的自然主義をめぐる論争状況を直接に主題化し、根本的な論点について、各研究者がそれぞれの立場から検証作業を行なった。その結果、現代的な自然主義と反自然主義の対立を一挙に解消することはできないとしても、いくつかの重要な成果が得られた。(1)認識論的自然主義はアプリオリな知識を説明し得ないとされてきたが、暗黙的概念了解と想像による概念連結を根拠として、自然主義的立場においてもそうした知識が説明可能であるという見解が得られた。(2)色彩概念は長らく物理的説明に委ねられ哲学的アプローチに乏しかったが、現象学やウィトゲンシュタインの知見を参照することで、色彩概念が自然主義的還元を許さない多次元性をもつことが示された。(3)自然主義批判の立場はまた、哲学の基礎付け主義や強い意味での正当化要求と、極端な自然主義や懐疑論が裏腹の関係にあり、それらのいずれもが、人間の実践的世界における自由や合理性、真理や正・不正の経験の「内在性」に基づくことを示すことによっても展開できる。(4)ウィトゲンシュタインの後期哲学にも、通常の自然主義とは異なる、人間の「自然誌的」過程における実践に意味や規範の前提を求める「超越論的自然主義」が見られる。(5)日本思想史における「倫理」の位置づけ、現代世界における「公共哲学」の可能性などを問う中で、自然主義の限界を明らかにする作業も行なった。