著者
Byoung-Seob Ko Soo Bong Choi Seong Kyu Park Jin Sun Jang Yeong Eun Kim Sunmin Park
出版者
The Pharmaceutical Society of Japan
雑誌
Biological and Pharmaceutical Bulletin (ISSN:09186158)
巻号頁・発行日
vol.28, no.8, pp.1431-1437, 2005 (Released:2005-08-01)
参考文献数
30
被引用文献数
123 140

Our preliminary study demonstrated that 70% ethanol Cortidis Rhizoma extracts (CR) had a hypoglycemic action in diabetic animal models. We determined whether CR fractions acted as anti-diabetic agent, and a subsequent investigation of the action mechanism of the major compound, berberine ([C20H18NO4]+), was carried out in vitro. The 20, 40 and 60% methanol fractions from the XAD-4 column contained the most insulin sensitizing activities in 3T3-L1 adipocytes. The common major peak in these fractions was berberine. Treatment with 50 μM berberine plus differentiation inducers significantly reduced triglyceride accumulation by decreased differentiation of 3T3-L1 fibroblasts to adipocytes and triglyceride synthesis. Significant insulin sensitizing activity was observed in 3T3-L1 adipocytes which were given 50 μM berberine plus 0.2 nM insulin to reach a glucose uptake level increased by 10 nM of insulin alone. This was associated with increased glucose transporter-4 translocation into the plasma membrane via enhancing insulin signaling pathways and the insulin receptor substrate-1-phosphoinositide 3 Kinase-Akt. Berberine also increased glucose-stimulated insulin secretion and proliferation in Min6 cells via an enhanced insulin/insulin-like growth factor-1 signaling cascade. Data suggested that berberine can act as an effective insulin sensitizing and insulinotropic agent. Therefore, berberine can be used as anti-diabetic agent for obese diabetic patients.
著者
出山 諭司 金田 勝幸
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.178-182, 2022 (Released:2022-12-25)
参考文献数
24

「モノアミン仮説」に基づく既存の抗うつ薬は遅効性で,約3割のうつ病患者は治療抵抗性を示す。一方,NMDA受容体拮抗薬ケタミンは,治療抵抗性うつ病患者にも即効性かつ持続性の抗うつ作用を示すことから近年大きな注目を集めている。ケタミンの抗うつ作用には,内側前頭前野(mPFC)での脳由来神経栄養因子(BDNF)遊離を介した錐体ニューロンの可塑的変化が重要であることが知られている。筆者らは最近,mPFC錐体ニューロンにおける血管内皮増殖因子(VEGF)シグナルの亢進が,BDNFシグナルと同様にケタミンの抗うつ作用と,その基盤と考えられるケタミンによる錐体ニューロンの可塑的変化に重要であることを見いだした。さらに,mPFCにおけるBDNFシグナルとVEGFシグナルの相互作用が,ケタミン様の抗うつ作用発現に重要であることを発見した。本稿では,筆者らの最近の研究成果を中心にケタミンの抗うつ作用におけるBDNFおよびVEGFシグナルの役割について概説する。
著者
近藤 由香 京田 亜由美 塚越 徳子 瀬沼 麻衣子 二渡 玉江
出版者
国立大学法人 群馬大学大学院保健学研究科
雑誌
群馬保健学研究 (ISSN:13434179)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.1-10, 2022 (Released:2022-04-01)
参考文献数
34

本研究の目的はがん患者自身が抱える親に対する悩み事について文献検討より明らかにすることである。医学中央雑誌を用いて,「がん」「がん患者」「悩み」「思い」「家族への思い」「苦痛」「負担」「親」のキーワードで検索を行った。がん患者自身が抱える親に対する悩み事については,内容分析の手法を用いて,サブカテゴリ,カテゴリへと抽象化した。 分析対象文献は16件であった。がん患者自身が抱える親に対する悩み事は,60コード,19サブカテゴリ,【親に自身の心身のサポートを担わせる悩み】【親に余計な負担をかけないための苦慮】【親の介護や健康への心配】【親に病気のことを伝えなければならない重荷】【子としての役割が果たせない申し訳なさ】の5カテゴリが形成された。がん患者は,親に自身の心身のサポートを担わせる悩みを抱いているが,子どもとして親に甘えたい気持ちと,子どもとして親を支えないといけない気持ちの両側面があることが示唆された。看護師は他職種と連携して,患者が求める社会資源を活用できるよう支援していくことが必要である。
著者
多賀 太
出版者
国立女性教育会館
雑誌
国立女性教育会館研究紀要 = Journal of the National Women's Education Center of Japan
巻号頁・発行日
vol.9, pp.39-50, 2005-08-01

近年の社会経済的変化は、これまで女性に比べて安定し画一的だとされてきた男性のライフコースに、新たな「危機」と多様化をもたらした。第1に、雇用労働者の増加と長寿化が、定年後の「第二の人生」への再適応という課題を生じさせた。「現役」時代に企業社会へ過剰に適応してきたために、多くの高齢男性が、定年後の生活への適応に困難を抱えることとなった。第2に、女性の継続的な就労や政府の男女共同参画政策・少子化対策によって、父親により多くの育児責任が求められるようになった。長時間労働を強いられ、育児期の性別役割分業が経済的に合理的な選択になってしまうような雇用労働環境のもとで、多くの父親たちが、仕事と育児の両立をめぐる葛藤を経験するようになった。第3に、経済のグローバル化を背景とした雇用の二極化は、男性が仕事と家庭のバランスをとることを改めて難しくした。会社から「疎外」され、仕事も家族も得られない男性が増加する一方で、中核労働者の男性たちは、依然として企業に取り込まれ、家族と過ごす時間がもてないでいる。さらに、仕事や経済的な悩みでの自殺も増えている。男女平等を促進する立場からは、女性の社会的・経済的エンパワーメントを妨げない方向で、これらの男性の「危機」を克服することが求められる。公的政策と企業の努力によって、男性中核労働者に集中する労働量と賃金を他の人々に割り振ることが望まれる。男性たち自身も、近代の物質主義的=男性的価値を相対化し、家事や地域生活に必要なスキルを身につけ、柔軟な人生設計を行っておく必要がある。エンパワーメントのための生涯学習は、全体的な男性優位の構造と、より複雑で多様な個別の男女の関係性の両方を視野に入れながら進められる必要がある。
著者
劉 楠
出版者
山梨英和学院 山梨英和大学
雑誌
山梨英和大学紀要 (ISSN:1348575X)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.13-29, 2021 (Released:2021-04-01)

研究目的は、1960~1970年代生まれの父親を対象に、稼ぎ主責任とケアする男性性から父親像を掴むことと、男性性による男性問題を明かにすることである。中国山西省出身の父親13名を対象にインタビュー調査を行った。結果、以下の点が明かにされた。(1)父親役割は、子どもの「方向性を示す灯台のような存在」であること。中国現代社会の情勢、例えば、コネを使い地位向上を果たすこと、社会の両面性(プラス面とマイナス面「腐敗」)について、父親は子どもと冷静かつ客観的に議論することによって、子どもにより客観的な世界観を持たせることができた。父親が方向性を示す役割を持ち、母親は生活面での世話を担うという棲み分けがはっきりしている。(2)稼ぎ主責任は子どもの数が多いほどその思いが強い傾向にあること。長男の結婚などにより高額なお金が必要となるような時には親戚などから借りることが多い。なかには、生活費稼ぎのためギャンブル等に手を染める父親の事例もあった。よって、男性問題の解決を目指すには、女性、子どもがよりよい暮らしをするためにも、男性を含めたコンクルージョンサポート体制の構築が急務と示唆される。
著者
坂本 悠斗 松浦 秀哲 矢田 智規 根岸 巧 鈴木 良佳 松野 貴洋 杉浦 縁 三浦 康生
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.698-703, 2022-10-25 (Released:2022-10-25)
参考文献数
5

クリオプレシピテート(以下,クリオ)はフィブリノゲン(以下,Fib)等の凝固因子を高濃度に含むため,大量出血時に使用することで凝固能を早期に回復させ,出血量や輸血量の減少に繋がるとされている。当院でも心臓血管外科(以下,心外)からの要望でクリオの院内作製を開始したので導入経緯と使用実績及び課題について報告する。対象はクリオを使用した心外の手術51症例(以下,投与群)とクリオ未使用の心外の手術94症例として,術式を大血管手術とそれ以外(以下,非大血管手術)に分けて比較検討した。調査内容は出血量,赤血球液(RBC)・新鮮凍結血漿(FFP)の投与量,濃厚血小板(PC)投与量,RBCとFFPの投与比(R/F比),ICU在室日数とした。クリオ投与患者には投与前後のFib値を測定し,統計学的解析を行った。クリオ投与前後のFib値は有意な上昇を認めた。大血管・非大血管手術の両者ともに投与群の方が非投与群と比較して,出血量が多かった。RBCおよびFFPの投与量は大血管手術の投与群で低い傾向があるが,非大血管手術の投与群では有意に多かった。クリオ導入当初,クリオの投与により血液製剤の使用量が削減できると期待したが現状では明確な輸血量削減効果は得られていない。輸血量を削減するためには,クリオを使用できる環境を整えるだけではなく,クリオを効果的に投与するために使用者の意識を変える必要がある。
著者
井上 尊寛 松岡 宏高 吉田 政幸 蔵桝 利恵子
出版者
日本スポーツマネジメント学会
雑誌
スポーツマネジメント研究 (ISSN:18840094)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.41-58, 2018 (Released:2019-01-19)
参考文献数
53
被引用文献数
5

In sport management, there are few studies that have paid its attention to sport involvement among spectators. Thus, examining sport involvement to understand the sport consumption behavior of spectators is important. The purposes of this study are (1) to provide evidence of the reliability, construct validity, and hierarchical structure of the proposed spectator involvement scale and (2) to examine the relationships of spectator involvement with several outcome variables. We analyzed a sample of 892 spectators at professional soccer and baseball games in Japan. The results of confirmatory factor analysis indicated the reliability and validity of the spectator involvement scale which consisted of five factors. The findings of structural equation modeling supported the relationship between spectator involvement and the outcome variables.

1 0 0 0 OA 北辰 第157号

出版者
第四高等學校北辰會
巻号頁・発行日
no.157, 1948-01-30

表紙, 目次, 創作, 論文, 寄稿, 六十周年記念號特輯, 編輯後記
出版者
第四高等學校北辰會
巻号頁・発行日
no.92, 1921-12-24

表紙, 目次, 創作, 附錄(雑報, 各部報, 同人雑記, 決算書)
著者
フメリャク寒川 Kristina
出版者
日本語教育方法研究会
雑誌
日本語教育方法研究会誌 (ISSN:18813968)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.4-5, 2012

Readability assessment is a useful procedure when writing, editing or selecting texts for weak readers. Tools which have recently been developed for the assessment of Japanese text readability for native speakers are tested on a corpus of Japanese textbooks and found to be only partially applicable to readability assessment for foreign learners. Two factors are measured in the same corpus: average sentence length is found to be a reliable predictor of text difficulty, while character type-token ratio is not as successful.
著者
小野田 稔久 木下 雅子 田中 博之 井澤 香 浦野 敦 佐藤 直子 増田 雅行 石井 敏浩
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.142, no.11, pp.1267-1276, 2022-11-01 (Released:2022-11-01)
参考文献数
19

During the treatment of cardiogenic shock, various continuous infusion drugs are used simultaneously. However, administration from the same route may result in stability changes due to mixing of drugs. In addition, stability tests after mixing more than three types of drugs have hardly been conducted. In this study, noradrenaline, milrinone, dobutamine hydrochloride, and landiolol hydrochloride were used to evaluate the chemical stability of the mixture. Chemical stability was evaluated by measuring the change in each drug concentration over time and calculating the content. The concentration of each drug was measured using an optimized gradient elution method by HPLC. In a four-drug mixed sample, noradrenaline, milrinone, dobutamine hydrochloride, and landiolol hydrochloride had retention times of 2.1 min, 5.2 min, 9.3 min, and 11.9 min, respectively. The concentration immediately after mixing each drug was almost the same as the theoretical concentration at the time of mixing each drug. Furthermore, noradrenaline, milrinone, and dobutamine hydrochloride concentrations were maintained up to 99% in each drug mixture until 24 h after mixing all the samples. However, the content of landiolol hydrochloride was 90% or less 24 h after mixing, except for two types of mixed solutions with dobutamine hydrochloride. This result suggested that landiolol hydrochloride was being degraded owing to acidic conditions. The results of this study suggest that noradrenaline, milrinone, and dobutamine hydrochloride can be administered from one route, while it is recommended that landiolol hydrochloride be administered from another route.
著者
出口 晶子
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.223, pp.149-178, 2021-03-15

本論でとりあげる船漆喰とは、船の水密充填(caulking)に使う漆喰をさしている。木造船の板と板の接合面や釘頭に塗られる船漆喰には、水の浸入を防ぐため、石灰に麻縄等のほか、油を混ぜ合わせるのが常である。中国では油灰と呼ばれ、古代より現代にいたるまで広いエリアで使われている。油は、中国では桐油が主流であるのにたいし、日本では鱶油などの魚油が主流である。日本における船漆喰は、近世期の海外交易の拠点であった長崎と琉球を中心に、東シナ海の東部沿岸部の九州・沖縄地方に広がった文化であることが認められる。この分布特性について、本論では、主に一七~一八世紀の体験談や伝聞記録、博物知識に民俗学的知見をまじえて考察した。松脂を用いたチャン(瀝青bitumen)やタールなど、一七世紀ころに伝授したとみられる西洋船の技法との連関も考察した。用いた主な資料は、太平洋の無人島・鳥島に漂着した船乗りたちが自力で船漆喰を生産し、船を造って、無事帰還するまでの体験記録や、土佐に漂着した琉球人との問答記録、船や漆喰に関する和漢の百科全書、長崎にやってきた西洋人の旅行記録や日記、平戸・対馬藩士の聞書記録などである。その結果、長崎・琉球を拠点とする海外交易船に必要とされた船漆喰は、日本の木造船にも受容された技術であったが、その分布は九州・沖縄以外に大きく広がらなかった。また松脂と油を混ぜた西洋のチャンも取り入れられ、漆喰との融合もみられたが、それが全国的な船の水密充填として普及することはなかった。一方、近世日本の内航船で隆盛をみていたのは、マキハダ(Japanese oakum)である。日本における船漆喰の限定的な広がりは、近世日本の長崎・琉球を窓口とする限定的な対外交易政策が影響していた可能性を本論では指摘した。
著者
Kota Takaoka
出版者
Japan Epidemiological Association
雑誌
Journal of Epidemiology (ISSN:09175040)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.155-162, 2022-04-05 (Released:2022-04-05)
参考文献数
20
被引用文献数
3

The social implementation of knowledge and technologies that are effective in epidemiological and observational studies is essential for solving social issues. In particular, there have been few attempts to implement clinical practices and information communication technologies that utilize data in the field. We describe the four stages of social implementation: 1) redefining social issues as solvable problems, 2) finding technological solutions to solvable problems, 3) social implementation contributing to the solutions, and 4) horizontal deployment of effective methods for solving social issues. Introducing a use case of artificial intelligence (AI) social implementation in child-abuse response conducted by our team, we discuss pitfalls and tips as a frame of reference to demonstrate data utilization as social infrastructure for solving social issues and to consider practical solutions in a logical manner.
著者
西東 力 鈴木 誠
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.232-236, 1982-11-25 (Released:2009-02-12)
参考文献数
11
被引用文献数
11 9

1980∼1981年に静岡県伊豆地方でツバキシギゾウムシの生活史を調査した。成虫は5月下旬から7月下旬まで観察され,6月にツバキ種子内に産卵した。ふ化幼虫は種子を摂食し,約1ヵ月で4齢まで発育した。7月下旬から老熟幼虫は果実に穴をあけて脱出し,ツバキ樹下の土中で幼虫越冬した。本種は伊豆半島の東部と南部で多発生していた。幼虫は昆虫病原糸状菌Metarhizium anisopliaeおよびBeauveria tenellaに対して高い感受性を示した。土壌殺菌の有無は菌の病原性に影響を及ぼさず,いずれの菌も土中で増殖することが示唆された。以上のことから,これらの菌を土壌施用することによってツバキシギゾウムシの微生物的防除ができるものと考えられる。
著者
白山 靖彦 北村 美渚 伊賀上 舞 木戸 保秀
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.172-177, 2021-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
16

脳損傷により高次脳機能障害を呈した場合, 認知能力とともに, 意思決定能力も低下すると考えられている。意思決定能力とは, 自分の意思を伝えることができること, 関連する情報を理解していること, 選択した理由に合理性があることとされており, 医療同意能力や判断能力を包含する。しかし, 意思決定能力を定量・客観的に測定する指標は未だなく, 意思決定支援の定式化には及んでいない。したがって, 多職種による合意形成や, 質問方法の工夫といった支援者側のスキルが求められることになる。  本稿では, 高次脳機能障害者の医療と福祉における意思決定支援に関して, それぞれの立場におけるポイントを概説し, これまで行ってきた研究の一部を紹介する。
著者
利部 修
出版者
一般社団法人 日本考古学協会
雑誌
日本考古学 (ISSN:13408488)
巻号頁・発行日
vol.8, no.12, pp.109-121, 2001-10-06 (Released:2009-02-16)
参考文献数
35

東北・北海道を除く日本列島の長頸瓶には,7世紀から8世紀にかけてフラスコ形・有衝形・球胴形・釣り鐘形等様々な形態があり,それをA類からJ類まで分類し北日本(東北・北海道)の様相と比較した。これらは,大局的に8世紀後葉以降球胴形で高台をもつ形態に統一されていく。ところが,主として北日本の9世紀から10世紀にかけては,胴部と頸部に環状凸帯の付く環状凸帯付長頸瓶が広範囲に分布する。一方,城柵設置地域を含む秋田・岩手県から青森県・北海道西岸にかけての北域では,胴部調整にロクロを用いない東北北部型長頸瓶が濃厚に分布し,秋田・岩手県の城柵設置地域を含む郡制施行地域以南のロクロを用いる手法と対峙する。環状凸帯付長頸瓶を,前者のR1類・後者のR3類・両者併用のR2類に分けると,分布の大局は福島県域のR1類と,青森県・北海道西岸のR3類とが対峙し,城柵設置地域ではR1・R2・R3類が併存する。北日本の環状凸帯付長頸瓶は,9世紀前葉に会津大戸窯跡で発生し,城柵設置地域まで広がる。そして,城柵設置地域から北域にかけて東北北部型長頸瓶の特徴を備えながら更に分布域を拡大し,五所川原窯跡ではR3類が量産される。本来,蝦夷政策で採用された希少価値の高いR1類環状凸帯付長頸瓶が,形骸化して装飾性の痕跡を留めたR3類に変質したとみられる。
著者
関口 由彦 Yoshihiko Sekiguchi
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.467-494, 2005-02-23

本稿は,近代日本の「他者像」としての「アイヌ」像を検討し,アイヌ民族(とくにアイヌ言論人)自らがそれをどのように「自画像」として主体的に受容したかを明らかにする。そのことを通して,1920~30年代を中心とするアイヌの人々の言論活動が,支配者側が用いた「同化」概念を「流用」しながら,「滅び行く人種」言説に抗するものに他ならなかったことを主張する。支配者側の「同化」概念に対して,アイヌ言論人は二種類の「流用」をもってして対抗した。それは,支酉己者側の「同化」概念の「流用」に際しての主体性の発揮の仕方において区別され得るものであった。違星北斗は,「野蛮」/「文明」という価値づけ(序列)と結びつかない「血」に基づいて,「和人」と区別された「アイヌ」という「種的同一性」を設定し,それが上位カテゴリーとしての「日本人」に内包されることを「同化」として捉えた。他方で,平村幸雄は,「アイヌ」であることと「和人」であることが両立し得るとするアイデンティティ認識に基づいた「和人化」としての「同化」を主張した。かくして,二種類の「流用」を行うことで,アイヌ言論人は支配者側の「滅び行く人種」言説に対抗し,アイヌとしてのアイデンティティを保持する道を切り拓いたのであった。