著者
山崎 克明 篠田 徹 村上 芳夫 久塚 純一 斉藤 貞之 藪野 祐三
出版者
北九州大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

北九州市のネットワ-クの形成について特筆すべきは伝統の根強い残存である。このことは、ネットワ-クの主体、対象、そのあり方等において極めて特徴的である。近年、新たな試みがなされてはいるが、伝統型の残存から、「ネジレ」を生じていることも指摘しうる。具体的に述べれば(1)「企業間ネットワ-ク」については、中小企業における組織技術の鉄依存とタテのネットワ-クの残存(2)「まちづくりネットワ-ク」についてはKEPCのような新たなネットワ-ク形成がみられるものの、北九州市の不況のありようの把握の不正確さ→活性化策のミスマッチ(3)「市民と行政のネットワ-ク」については、伝統型自治会による新しい動きへの阻害(4)「助けるネットワ-ク」については、年長者いこいの家をめぐって高齢者個人の単発的ネットワ-クは形成されはするが、例えば、他の福祉施設との間の社会的ネットワ-クが形成されていない点(5)「女性のネットワ-ク」については、伝統型グル-プが中心を占めていることから、今日的課題の具体的扱い方も伝統的なものとならざるを得ない点(6)従って「雇用をめぐるネットワ-ク」も、雇用の構造にみられる数値以上の課題をかかえている点、等々となる。他方、新興の地域では、区長の役割の変化やキメ細かい行政も展開されつつあることも指摘できる。構造の変容、都像の変容という一般的課題とその担い手、より正確には、それへの参加を許される担い手の意識の「ネジレ」が問題点をより明確にしており、今後は、大都市を構成するより幅広い要素を社会的に組み込んだネットワ-クが追求されることが北九州市におけるネットワ-クの方向性を定めることになろう。都市のかかえる課題は、その課題の正しい認識と把握が基礎をなすのであり、一般化された解決手法は余り有効であるとは感じられない。
著者
久塚 純一
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

地域で、実際に計画策定を担当している者が、計画策定や地域特性に対してのアイデンティティーを持てる条件が備わっていることが「策定された計画についての満足度」と深く関わり、したがって、「マニュアル」や「指針」の存在や国からの指導は、かえって、地域特性を反映した計画に結実しないとの仮説のもとに、「福岡県」・「佐賀県」・「熊本県」・「兵庫県」・「神奈川県」と五県内の全市町村、および関係団体について、アンケート調査とヒアリングを実施した。アンケート調査の結果については、(1)策定された計画についての満足度と、(2)アンケートに回答した担当者が、評価を下す際に「自己責任」という観点から回答を導き出したか、「他者責任」という観点から回答を導き出したかをクロスさせ解析した。その理由は、コミュニティーケア自体が、「普遍性」と「個別性=地域特性」という二つの価値軸を持っているからである。仮説の通り、(1)「策定された計画についての満足度」と(2)「地域に対してのアイデンティティー」や「実感としての主体性発揮」の有無が密接に関係していることが分かった。地域を比較すると、「福岡県」と「兵庫県」に類似した傾向が見られる。同様のことは、介護保険導入後の市町村の実施計画作成についても想像できることから、今後とも、計画作りの「マニュアル」や「指針」と、計画作りにおける「自由度」や「地域特性の重視」との関係は大きな課題となろう。いずれにしろ、地域で、具体的に計画策定を担当する市町村職員の「ローカルなものに対するアイデンティティーの確保」が重要な鍵を握っているものと考えられる。
著者
鈴木 裕太郎
出版者
一般社団法人 国立医療学会
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.33, no.12, pp.1191-1198, 1979-12-20 (Released:2011-12-02)
参考文献数
30

甲状腺機能低下症では呼吸困難, 動悸, 全身の浮腫, 腹水, 心陰影の拡大, 心電図の異常所見など心臓病を疑わせる症状や臨床所見を主徴として発症することがある. このような場合, 甲状腺機能低下症が根底にあることが解るまでに年月を要することが多い. ここに6症例を報告し考察を行つた. 心不全との鑑別は最も困難なものの一つであり重要である. 心陰影の拡大は多くの場合心嚢水腫によるものであるが, 心筋の異常による心拡大もあるようである. 心嚢液が高蛋白, リバルタ反応陽性であることは炎症または悪性腫瘍転移によるものと誤られやすいので注意を要する. 6例のうちの1例はSick Sinus Syndromeを主徴として発症したもので今までに報告例を見ない. このような心臓循環器系の症状を主徴とした甲状腺機能低下症の診断にはまずその存在を疑うことが重要である. 病気がカモフラージされているのでmasked hypothyroidismとも呼ばれるが, 臨床医にとつて日常の診療に際し注意すべきことと考える.
著者
横井 由利
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 = JOURNAL OF ATOMI UNIVERSITY FACULTY OF MANAGEMENT (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
no.27, pp.69-92, 2019-01

壮麗なヴェルサイユ宮殿を作り太陽王と称されフランスに君臨したルイ14世の時代、お洒落の達人としてヨーロッパからロシアまで名を馳せたマリー・アントワネットの時代を経て、「モードの都」パリのイメージは確立していった。19世紀に入ると、イギリスより移り住んだシャルル・フレデリック・ウォルトは現在のオートクチュールのシステムを考案し、その後登場するデザイナーによってオートクチュールビジネスは多様化し発展するが、70年代以降は、時代の変化に伴い衰退と再生を繰り返すことになる。本稿では、オートクチュールのビジネスシステムと文化的な側面を紐解き、スピードと量が問われるデジタル時代にあって、多くの職人の手と時間をかけて完成するオートクチュールの服は、モード界に必要か否か、またそのあり方について論じていく。
著者
小野 理恵 髙山 真 有田 龍太郎
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.429-435, 2021-09-01 (Released:2021-09-01)
参考文献数
38

要約:昨今の新興ウイルスによる呼吸器感染症では,病原体の変異,多臓器不全をきたす病態管理の困難さや医療資源の枯渇化が問題となっている。漢方治療では病原体にかかわらず,感染症の病態を感染経過や宿主の状態から6つの病期ステージに分類し,独自の病態把握によって漢方薬を適用してきた。過去の繰り返されるパンデミックにおいて,漢方薬は炎症と急激な病態悪化に対応できるよう工夫された。漢方薬は多成分系薬剤でありその作用機序は複雑であるが,基礎研究において非特異的抗ウイルス作用,サイトカイン調整作用,臓器保護作用を有することが示唆されている。集中治療においても宿主の恒常性を調整する概念と漢方薬の特徴を活かしたアプローチが治療選択の一つとなる可能性がある。
著者
白銀 夏樹
出版者
教育思想史学会
雑誌
近代教育フォーラム (ISSN:09196560)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.211-223, 2003-09-27 (Released:2017-08-10)

近年の教育学理論では、発達的な時間意識や客観的な時間意識に対する反省から、経験の瞬間性に注目を集めるものが少なからず登場している。だがその一方で、発達的でもなければ客観的でもない自己形成の時間的連続性について論じられることは必ずしも多くない。本論文では、自己形成の時間的連続性を考える手がかりとしてアドルノのいう「叙事詩的時間」に注目し、音楽をモデルとしたこの時間意識に基づくことで、自己の時間的連続性を開かれたものとしてとらえる人間形成観を提起する。ひとことでいうなら、現在までの意識と無意識をあわせた人間形成の歩みを、統一的な論理ではとらえることのできない錯綜した諸経験の布置関係によって構成されているものとみなしつつ、忘却された先行の経験を喚起し新たな布置関係の要素となるものとして、後続の経験を位置づける人間形成観である。こうした一連の運動のダイナミズムとして、人間形成における「叙事詩的」連続性を論じる。
著者
Masao UMEGAKI Takanori FUKUNAGA Koshi NINOMIYA Katsumi MATSUMOTO Manabu SASAKI
出版者
The Japan Neurosurgical Society
雑誌
NMC Case Report Journal (ISSN:21884226)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.401-405, 2022-12-31 (Released:2022-12-01)
参考文献数
17

Diffuse idiopathic skeletal hyperostosis (DISH) is a condition in which minor trauma can cause extremely unstable vertebral fractures. Spinal fractures associated with DISH are prone to instability due to the large moment of lever arm and secondary neurological deterioration; hence, surgical internal fixation is considered necessary. On the other hand, some reports suggest that patients with DISH have a high osteogenic potential. In this report, we describe three patients with DISH. These patients had spinal injuries that resulted in a large gap, for which anterior fixation with bone graft would generally be considered due to comminuted fractures. However, we achieved good bony fusion with posterior fixation alone, without forcible correction.
著者
稲水 伸行 牧島 満 島田 祐一朗
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.17-32, 2022-09-20 (Released:2022-12-02)
参考文献数
27

ハイブリッド・ワークではどの場所にどのように時間を配分すべきかが問われる.本研究では,ある企業から取得したオフィス内の位置情報とオンラインチャットのデータ,質問紙調査のデータを分析した.その結果,オフィス内利用場所の多様性が中程度であるとクリエイティビティが高いことが明らかとなった.このことは,場所と時間の配分に関する制約がなくなる中,主体的にそれらの配分を選択できていることの重要性を示唆するものであった.

1 0 0 0 OA 鸚鵡の唄

著者
川路柳虹 著
出版者
新潮社
巻号頁・発行日
1926
著者
北原 克宣
出版者
立正大学経済学会
雑誌
経済学季報 (ISSN:02883457)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3/4, pp.61-94, 2011-03-20

本論文は,戦前から戦後にかけての日本の食料需給政策の背景と性格に関する分析および考察を通じて,戦後日本資本主義の展開の中で食料自給に対する認識がどのように変遷してきたのかを明らかにすることを課題としたものである.この課題を明らかにするため,本論文では,まず近年における食料自給をめぐる議論について,浅川芳裕氏の近著を取り上げ批判的に検討した.そのうえで,戦前の食糧需給政策について整理し,戦前日本において食料(糧)自給が追求されたのは第二次世界大戦前と戦後の一時期に過ぎず,しかも,これが実際に達成されたのは植民地からの移入米を含めてようやく「自給」を達成した戦前の一時期に過ぎないものであることを明らかにした.戦後における食料(糧)需給政策については,当初,食糧増産政策はとられるものの,MSA協定などを通じてアメリカ余剰農産物の受け入れ体制が構築されることにより,日本は米を除く食糧の自給は放棄する方向へと進むことになった.これを決定づけたのが農業基本法であり,これ以降,日本の土地利用型畑作は壊滅的状況となり,麦類や大豆の自給率は大きく低下させることになった.その後,1980年代半ばまでは,食管制度を通じて農業・農村もかろうじて維持され,これが米過剰をもたらす要因ともなるのであるが,1985年以降,新自由主義的政策への転換の中で,さらに自給率を低める方向へ作用していった.本論文では,この段階を食糧自給放棄から食料自給放棄への転換点と捉えた.さらに,食料・農業・農村基本法の制定以降,食料・農業・農村基本計画の策定にともない食料自給率目標が設定されることになったが,それを実現できる政策が構想されているかどうかという点では疑問の残る内容にとどまっている.以上を踏まえ,本論文では,これからの食料自給のあり方について,グローバル段階における広域的再生産構造を前提としたうえで基礎的食糧の自給は目指しつつ,東アジア圏での貿易による補完的関係を構築していくなかで食料自給を達成する方向性を提起した.
著者
笠木 実央子 大友 康裕 河原 和夫
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.7, pp.349-360, 2009-07-15 (Released:2009-09-04)
参考文献数
11
被引用文献数
6 4

【目的】標準的な北米ER型救急医療施設と日本の現行の救急医療施設との診療システム比較を行い,本邦における救急医療の現状を把握する。【方法】関東近郊10の救急医療施設で働く医師へのインタビュー調査(各施設の診療体制に関する11項目,自施設の診療体制,日本の救急医療体制全体の問題点について)。【結果】(1)各施設の多様性および共通点:8施設で,重症度あるいは救急車/独歩来院によらず全ての救急患者の初期診療を救急部門で担当していた(24時間であるのは 6 施設)。 4 施設では初期診療を行うスタッフが原則全て救急専従医であり, 2 施設では救急部門は三次救急対応の患者のみを担当し,残り 4 施設では救急専従医と各科医師が共同で行っていた。救急部門で医師の交代勤務制が確立しているのは 3 施設,経過観察用のovernight bedを有するのは 3 施設,トリアージナースが常駐しその制度が確立しているのは 2 施設であった。また10施設全てで,救急部門で独立した入院病床が存在し,各診療科に振り分けられない病態の場合救急部門で入院後の管理を行っていた。(2)自施設の問題点:人員不足,混雑,入院依頼時における専門各科との調整,連携が難しいことなどが挙げられた。(3)救急医療体制全体の問題点:救急部門/各専門科双方の慢性的な人員不足,財政難,患者側の意識の変化による医療者の萎縮などが挙げられた。【結語】日本の各救急医療施設における診療体制はそれぞれ様々な点で異なっており,担当医療圏や施設の事情により多様な運営がなされていることが推察された。本邦においては北米型システムをそのままの形で導入/運用していくことは難しく,救急部門と各診療科との連携を強化し,地域や施設ごとに最適なデザインを考え運用していく必要がある。
著者
後藤 誠也 高森 裕子
出版者
奈良教育大学
雑誌
奈良教育大学紀要. 人文・社会科学 (ISSN:05472393)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.119-134, 1994-11-25

The discussion of sexuality education has been the most controversial issue since 1990. The revision of the Course of Study has led to teach sexuality in the subjects of natural science and health education. There are many problems to solve what should be the content of sexuality education, how to teach and what extent we are supposed to teach to. Teaching sexual intercourse, as a matter of course, is the most embarrassing question for every teachers in primary schools. Now in Japan, sex-educationists' views of teaching of sexual intercourse are divided into two groups. Both groups agree that sexuality education is not only illustrating genitals and teaching their function, but respectively showing their own ideas about content and the way how to teach that. One group insists that they need not teach genitals because the mere teaching of genitals could not be sexuality education, while the others assert that without to teach genitals they could not give the true recognition of sexuality. According to those separate standpoints, the former asserts that we should not include the sexual intercourse in sexuality education, but the latter asserts that we must include the sexual intercourse as the essential item of sexuality education. Here we take the stand of the latter opinion. In the case of primary school children, we might sometimes feel embarrassed in teaching the sexual intercourse, but considering the circumstance around children, the harmful effects were instilled by mass media, of which we are afraid they can often be inadequate or unnecessary sorts of imformation. So we should throw a new light on the sex or sexuality and lead children to the right direction. We inquired into the prevailing state in primary schools in Nara Prefecture about the sexuality education (their teaching plans, method and content etc.). We knew the following facts. In 90% or more of schools inquired sexuality education is under way, and they refer to the teaching of sexual intercourse, 36% of the whole schools actually introduced it into their class, and 37% think about translating their plans into practice at an early stage. The teachers of such schools have tried to answer to childrens' questions correctly. However there are many ptoblems awaiting solution with our efforts. We have to press for the sexuality education including the item of sexual intercourse as the key matters. For that purpose we must research many problems; such as teachers' concern about sexuality, the decision upon more specified content of sexuality education, increasing the opportunity of teachers in-service training, the development of teaching materials or tools, the negotiation with parents about sexuality education, and all that.