著者
和田 浩一
出版者
神戸松蔭女子学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、西洋中心の文明史観から生まれたオリンピズムの日本的な解釈を、その源流に焦点を当てて論じる。主な成果として、1)オリンピズムの日本的受容を書誌学的に整理したこと、2)ピエール・ド・クーベルタンの日本に関する言説のオリンピズムへの影響について検討したこと、3)IOC委員として嘉納治五郎をクーベルタンに推薦したオーギュスト・ジェラールのオリンピズム理解について考察したこと、が挙げられる。
著者
榊原 寛
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

二年目の平成21年度は,前年度の成果に加えて3つの研九行よっこ.一つ目は、PBNゲートウェイ間のネットワークを、首藤らによるOverlayWeaverというDHTベースの実装を採用した.昨年度のプロトタイプ実装では、10台程度までしかスケールしない設計であったのに対し、今年度は数万台単位でのPBNゲートウェイの接続も可能としている.今後は、PBNの想定する環境に最も適したDHTアルゴリズムの選定を行なって行く予定である.二つ目は、異種ネットワークノードにより構成されるオーバレイの管理APIの整備である.前年度は単一のオーバレイの利用のみ可能であったが、今年度のAPI整備により、任意の名前を持つ任意個数のオーバレイの作成が可能となった.異種ネットワークノードは、任意の数のオーバレイに参加可能である.今後は異なるオーバレイを結合させる際、どのようにアドレスやルーティングを変更するべきかについて研究を進めて行く予定である.最後は、仮想アドレスに関してである.昨年度のプロトタイプ実装では、仮想アドレスはスタティックなアドレス空間しか利用できなかったが、本年度の実装では、任意のアドレス空間を指定し、オーバレイネットワークのアドレスとして利用可能にした.また、異なるオーバレイが結合した際に発生しうる、アドレスの衝突の回避アルゴリズムについて考案した.
著者
川又 啓子 和田 充夫 澁谷 覚 小野 譲司
出版者
京都産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

産業としては脇役的な存在であったマンガ、アニメ、映画、ゲーム、音楽などのいわゆる「コンテンツ」に、次代を担う産業としての注目が集まっている。経済産業省が2004年5月にとりまとめた「新産業創造戦略」の報告書の中では、「先端的な新産業4分野」の一つとして「コンテンツ産業」が取り上げられているものの、実際には、1990年代後半以降下降線をたどっているものも多い。このような現状を踏まえて、コンテンツ産業の競争優位の源泉とは何かと考えてみると、最終的にはコンテンツを創造する力にあるのではないだろうか。創造力の中でも、特に初期段階のコンセプトやストーリーの創造が重要であるといわれており、コンテンツ産業の競争優位の源泉はストーリーを産み出す力にあるともいえるのである。このような問題意識の下に、本研究では、コンテンツの創造プロセスに関する研究を行った。まず平成16年度にはコンテンツの供給側(劇団四季)に関する事例研究を実施し、地域におけるコンテンツ供給のプロセスを分析した。並行して需要側の研究として、音楽のヘビーユーザーである大学生(慶應義塾大学、新潟大学、京都産業大学)を対象とした音楽消費に関するアンケート調査を実施した。続く平成17年度には、コンテンツの創造プロセスの中でも、初期のアイデア創出段階におけるクリエーター(少女マンガ家)の認知戦略に焦点を当て、創造的認知の「ジェネプロアモデル(Geneplore model)」の枠組みを用いて分析を行った。分析対象としては、ストーリー展開に優れているといわれ、映画やドラマなどの原作として利用されるマンガを取り上げた。
著者
福嶋 路
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、地域における企業家的活動とそれをサポートする地域に存在するネットワークの特質を調査したものである。いくつかの企業者ネットワークを取り扱った研究はこれまでにもいくつかあったが(例えば金井(1994)、サクセニアン(1991)など)、これらは既存のネットワークを静態的に捉え、性質の異なるネットワーク間の比較という視点からその特質を捉えてきた。本研究ではこれらネットワークがいかに生成され成長し地域企業家を支援するにいたったのかという動態視点を採用することが目指された。また企業者ネットワークの国際比較も試みられた。本研究にあたって、岩手県とテキサス州オースティンの事例が取り上げられた。両者とも、20年前までは必ずしも経済的に発展している地域とはいえなかったが、両地域において大学を中心とした企業家活動を支援する地域ネットワークを形成してきた。この間、これら地域にはインキュベーター、リエゾン・オフィス、企業家教育、企業者ネットワークなどといった仕組みがほぼ平行して出現し、これらが一つのシステムを形成し有機的に一体化し地域の企業家活動を促進してきたことが明らかになった。さらに本研究では日米といった異なる国の地域を取り上げたことによって、国際比較が可能となった。具体的にいうと岩手県のINSと、オースティンにおける複数のビジネスネットワーク(TBN,ASCなど)との比較が試みられている。現在、オースティンのビジネスネットワークは調査中ではあるが、日米におけるネットワーク形成方法の違い、つまりプロセス志向の日本とシステム志向のアメリカという対比が仮説として提示された。
著者
渡邉 光一 岡田 正大 田中 雅子 北居 明
出版者
関東学院大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

経営理念と企業パフォーマンスとの関係を考える上で、経営理念とその浸透・実践・実現プロセス(マネジメントプロセス)の相互作用に踏み込み、「経営理念・マネジメントプロセス・企業パフォーマンスを統合した因果関係モデル」を構築していくため、本研究では以下のような研究目的を掲げた。[1]経営理念のグループ分類とそのキーワード・該当企業の同定(経営理念の言説への数理的分析)。[2]マネジメントプロセスの測定指標及びグループ分類の同定(実務家向けアンケートの設計・分析)。[3]「経営理念とマネジメントプロセスの相互作用が企業パフォーマンスに影響を与える因果関係モデル」の解明(企業理念キーワード・アンケートデータ・財務データの総合分析)平成18年度にマネジメントプロセスの構成要素の体系化と測定指標の同定を行い、それらについて約250社の調査データを収集した。今年度は、該当する企業の経営理念のテキストデータを最新のものに更新し、それらを活用して以下の研究を進捗させた。上記[1]については、収集・検分した企業の経営理念のテキストデータを、最先端のテキストマイニング技術を活用して分析し、経営理念のグループ分類とそのキーワード及び該当する具体的企業の同定を行なった。上記[2]については、マネジメントプロセスについての調査データを説明変数とし、また財務データや測定指標のうちのモチベーション指標を被説明とした分析を行う。分析手法としては、共分散構造分析などの線形的な解析と、非線形解析の双方を実施し、理論構築におけるそれぞれのメリットとデメリットを実データに基づいて明らかにした。上記[3]については、前年度に検討した上記[1][2]のデータを統合する分析枠組みにより、「経営理念とマネジメントプロセスの相互作用が企業パフォーマンスに影響を与える因果関係モデル」の解明を行なった。
著者
竹井 祥郎 安藤 正昭 坂本 竜哉
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本研究において、グアニリン、アドレノメデュリン、リラキシンなどのイオン排出・降圧ホルモンが魚類で多様化しており、それらが魚類の浸透圧調節に重要であることを明らかにした。また、飲水を抑制するナトリウム利尿ペプチドと促進するアンジオテンシンが、延髄の最後野に作用して嚥下による反射的な飲水を調節していることを明らかにした。この結果は、前脳に作用して「渇き」という動機づけにより飲水する陸上動物と異なる。
著者
井上 光弘 山本 定博 猪迫 耕二 森 也寸志 取手 伸夫 東 直子
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

除塩のため,リーチングに伴う下方浸透量の正確な計測技術の開発が必要である。研究結果をまとめると,次のようになる。1.誘電率水分計と4極塩分センサーによる測定精度を検討し,水分と塩分の同時測定の新たな校正手法を提案し,灌漑農地の水収支・塩収支を明らかにした。また,塩の影響が少ないTDRセンサーを開発し,塩水点滴灌漑における不撹乱状態の水分・塩分濃度変化の測定から根群域内の塩分動態の特徴を明らかにした。2.圃場の不撹乱土壌カラム採集器を開発した。団粒構造を持つ黒ボクのコアサンプルを対象に,飽和流および不飽和流の溶質分散長を測定した結果,不撹乱土の飽和分散長は,撹乱土と比べて格段に大きいことを明らかにし,土の構造に基づく水分と溶質流れの特徴を明らかにした。3.砂丘ラッキョ畑でモノリスライシメータを用いて硝酸態窒素の溶脱試験を行い,圃場の不撹乱状態の土壌構造の違いによる硝酸溶脱の影響を明らかにした。4.根群域からの下方浸透量をリアルタイムに計測するために,ウィックライシメータと下方浸透水採取装置を開発した。砂地圃場に埋設して,下方への浸透水量と溶液の電気伝導度を測定した結果,浸透水の電気伝導度を自動記録できる下方浸透水採取装置は高い採水効率と有用性を確認した。5.砂丘圃場でウィックサンプラーの採水試験を行い,採水量,水収支,土壌水分環境に関する長期測定データを解析して,先行降雨,土壌水分プロファイルの初期状態,降雨強度が,ウィックサンプラーの採取に与える影響について検討し,過剰採水の原因と対策を明らかにした。6.多機能熱パルスセンサーで土壌水分量,電気伝導度,浸透速度を測定して,その適用範囲や限界を明らかにし,有用な土壌環境モニタリング技術を構築した。
著者
植村 立
出版者
国立極地研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本研究は、アイスコアの水同位体比を水蒸気から雪に至るまでの循環の視点で捉え、特にアイスコアの雪の起源(初期値)としての海洋上での水蒸気に注目して同位体比分析を行う。さらに、その結果を世界的にも数少ない極域深層アイスコアである南極ドームふじアイスコアのd-excess記録の解析に利用し、気候変動メカニズムに関する新たな知見を得ることを目的としている。本年度は、以下の研究を実施した。1)本計画で実施した水蒸気の水安定同位体比試料の解析南極海航海で採取した水蒸気試料について、得られたデータの解析を実施した。(本研究のために開発した少量試料の質量分析の改良については、昨年度に国際誌に論文として発表済み)。観測結果はd-excessが相対湿度、海面水温と有意な相関があることを示している。また、近年開発された同位体大気大循環モデルの結果との比較を行った結果、絶対値としてはモデルがやや過小評価であることがわかった。この結果は、国際誌に投稿済みである(査読中)。2)南極アイスコアの解析南極ドームふじ氷床コアについて、d-excessから復元した水蒸気起源変動を考慮した正確な気温復元を行った。大気のN2/02変動から決められた年代軸を用いて南極の気温と北半球日射量変動のタイミングと整合的であることを見出した(論文公表済み)。また、第二期ドームふじ氷床コアの水同位体比の測定を実施した。
著者
久保 英也 酒井 泰弘 前田 祐治
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

大数の法則で事故率を安定させその平均値から保険料を計算するという伝統的な保険料の算出方法ではなく、モンテカルロ・シミュレーションにより、保険市場と資本市場の狭間にある生命保険の買取制度の取引価格やキャプティブ保険会社の損害保険料、ファイナイトの保険料などを算出することができた。保険機能のすべてを資本市場が代替することはないが、資本市場が保険リスクを引受けることで保険市場自体も拡大する分野がある。ただし、生命保険の資本市場化は人の命を市場で売買することでもあり、その倫理性の担保が求められる。
著者
高橋 劭 T Takahashi (1990) 安井 元昭
出版者
九州大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1988

ハワイのレインバンドは雲頂高度が3kmと低く、温かく氷晶は形成されないが降水強度が100mmh^<-1>以上の強い雨を降らせる。このレインバンドは早朝ハワイ島の風上海上にア-ク状に発達し、降雨の開始と同時に動きはじめ陸上に強いシャワ-をもたらす。レインバンドの通過に伴いスコ-ルラインと同様、風は急変するがスコ-ルラインと異なり気圧変化は殆どない。スコ-ルラインと異なる強力な雨を降らせる機構が考えられる。研究は1985年、研究代表者も参加したハワイ島でのキングエア機による観測デ-タの解析から始めた。観測機は種々の高度でレインバンドに垂直及び平行に飛行し、その航路にそって6秒毎に温位、気温、水蒸気量、雲粒、キリ粒、雨滴の含水量、降水粒子の粒度分布、雲粒空間濃度が図示された。解析の結果強力なレインバンドでは下層に強い収束帯が形成されていること、下層の湿った空気が上層に傾斜しながら上昇(sloped updraft)すること、キリ粒のRecycleで下層での降水粒子が急速に成長すること、従って研究代表者が先に見い出したように雲頂ですでに雨滴が多く観測された。雲底が低く、貿易風帯は高湿なので雨滴の蒸発は少なく、従って“cold dome"の形成は弱い。しかし下層(数百米以下)で温度の不連続帯が観測され、レインバンドはこの帯にそって発達していた。この温度不連続帯は海陸風による場合と、海流に起因するものとの2つが考えられた。更にレ-ダ観測との比較で、強く長続きする雨を降らせるレインバンドは垂直方向の風が飽物線型の時形成されることが分かった。3次元数値モデルとの比較の結果、風のジェットが雨で下層に輸送され、強い下層収束帯が形成されるためと結論された。この時雨の集積が風のジェットの高度で行われることがレインバンドの強弱を支配し、降雨機構が強力なレインバンド形成に密接に関連していることが分った。更にハワイのレインバンドの特徴を明らかにするために1990年ハワイ島で再び大規模な研究が行われた。エレクトラ機の他、ドップラ-レ-ダ2台、地上ネットワ-ク50台が持ち込まれ、観測は2ケ月に渡り膨大なデ-タが得られた。解析はこれからである。ハワイから更に南下すると逆転層高度が高くなり、又弱くなる。雲はこの逆転層を突き抜き圏界面まで達する。雲はバンド雲に発達、強力な雨を降らせる。圏界面温度は-80℃と低く、雲内には氷晶の成長が考えられる。ミクロネシア・ポナペ島で新しく開発したラジオゾンデを飛揚した。これは内にテレビカメラがあり、降水粒子が入るとフラッシュがたかれ、映像が地上に伝送される。驚いたことに霰や雹が観測され、氷晶の数も0.1/ccと多く南洋の雲は氷晶を多量成長させていることが分かった。この雲は雲底から0℃層までの雲の厚さが4kmと厚いので氷晶がなくとも雨滴成長は行われる。降水への氷晶の役割を3次元数値モデルで研究を行った。南洋の雲で氷晶が成長しないと雨はシャワ-性となり短時間で止む、一方水滴が凍って雹が成長すると、雨は雲のライフの後半から降りはじめるが雨は長続きする。もし氷晶が成長すると飽和水蒸気圧が水より氷で低いこと及び雪は2次元的に成長することから氷晶成長が雨滴成長より著しく早く、過冷却雲粒を捕捉して霰を作る。このため雨は早くはじまり、強く、長続きする。霰成長を通しての過程の方がWarm Rain型より大きい雨滴が作れる。氷晶はWarm Rain型の雨滴形成より高い高度で成長する。従って、風があると降水粒子の落下位置が異なり風が飽物線型の時Warm Rain型の場合、下層収束帯を弱めるように降るが、氷晶成長を通しての霰は逆に下層収束帯を強めるように降る。このため雲は強力に成長、強い降雨が長時間続く。このように南洋の雲でも氷晶があれば降水能率が著しく増加することが分かった。氷晶の西太平洋南洋でのスコ-ルラインへの寄与に関する研究は今後の大きな研究課題である。
著者
坂上 博隆
出版者
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は感圧センサ(Pressure Sensitive Paint, PSP)を用いた圧力の面分布計測で大きな問題となる、PSPの温度依存性を解消する研究である。PSPは、概して圧力感度と同時に温度依存性を持つ。このため、温度補完が不要なPSPの開発が求められてきた。また、PSPの適用分野においては、非定常計測のための時間応答性が求められる。本研究においては、発光波長帯の異なる二色素を陽極酸化皮膜に吸着させることによる、温度依存性を持たない高速応答PSPの開発を目指した。このPSPは作製時の工程(ディッピング法)における条件(二色素におけるディッピング順序、感圧色素・ディッピング時の溶媒の種類、ディッピング温度・時間・濃度)によって、その性能(発光強度・圧力感度・温度依存性)を制御できるものと考えられる。本研究においては、感圧色素としてfluoresceinとbathophen ruthenium、ディッピング溶媒としてクロロフォルムを用いた。実験の結果、二色素が溶解した溶液を用い、一度でディッピングする方法により、良好な発光スペクトルが得られることがわかった。さらに、ディッピング時間によってfluorescein側の発光ピークを制御できる可能性が示された。また、実験の再現性についても確認することができた。最後に、30分ディッピングしたサンプルについて、圧力・温度依存性、時間応答性を調べた。特に発光波長帯:590nm付近においては、通常の高速応答PSPにくらべ圧力感度が損なわれたものの、温度依存性をほとんど示さないことがわかった。また応答性試験により、二色素による感圧塗料が従来の高速応答PSPと同程度の時間応答性を有することが分かった。
著者
佐藤 節子
出版者
岐阜大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

私は1994年度、液全体が半透明の糊状に固化するという状況が示される硫酸水素テトラメチルアンモニウムと水の二成分系で、共融点以下の温度で存在しているガラス状態あるいは凍っていない液体状態について、さらに詳しくこの系の特徴付けを行なうために、示差熱解析により上記の塩と重水の二成分系の相図を調べた。これにより、重水との二成分系では、軽水との二成分系と異なり、ガラス転移とそれに引き続き起こる低温結晶化を示す熱異常は現われず、明らかな重水素効果が存在することを突き止めた。これについては、さらに軽水素と重水素の割合を変えた場合についての結果とともに、分子構造総合討論会(1994年9月、東京)で報告している。以上のように、軽水との二成分系において状態の変化が起こる場合の、ミクロな内部の動的構造に関わっている水分子とH^+イオンの運動と、中に溶けているテトラメチルアンモニウムイオンの再配向運動の励起過程について、また、重水との二成分系の場合のそれらの運動の在り方を調べるために、^1HNMRのスピン-格子緩和時間、スピン-スピン緩和時間の測定を行なった。その結果、軽水との二成分系では、共晶点以下でも、中に溶けている陽イオンと共にプロトンはかなり動いており、"液体的"とも言える状態であるのに反し、重水との二成分系では、その様な挙動とはなっていないことが明らかになった。これらの結果については、近々、投稿する予定である。本研究により、生体内部に存在する水の動的構造への重水素の影響に関して、手掛かりが得られた。
著者
須鎗 弘樹
出版者
千葉大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

(1)最も基本的な線形微分方程式を最も単純に非線形化した非線形微分方程式を解くことによって,q-指数関数、q-積、q-多項係数を導き,q-多項係数のq-対数にq-スターリングの公式を適用することにより,Tsallisエントロピーを導くことができる.それは,加法的双対性と言われる数理構造の表現であるが,q-多項係数をさらに一般化した(μ,υ)-多項係数を導入することにより,加法的双対性に加え,乗法的双対性,q-triplet,マルチフラクタル-tripletの構造も導くことができた。これら4つの数理構造は,Tsallis統計力学に典型的に現れ,それらを特殊な場合として含む統一的な表現を得ることができた.(2)(1)で導いた(μ,υ)-多項係数から,ドモアブルラプラスの定理の拡張として,ロングテール構造をもつ裾野の広い分布(q-ガウス分布)が導けるかを数値的に検証した.特に,q-ガウス分布に分布収束するときの3つのパラメータμ,υ,qの関係を数値計算により調べた.(3)Tsallisエントロピーを平均符号長の下限にもつ符号木を導いた。この導出方法は,ある性質をもつ一般化エントロピーにも応用できる.さらに,ここで導いた符号木は,マルチフラクタル構造をもつこともわかった.(4)Tsallisエントロピーのパラメータqの意味は分かっていなかったが,マルチフラクタルの理論に現れる一般化次元のqと同じであることがわかった.さらに,Tsallisエントロピーと一般化次元との一意な関係式を導き,これが1910年のEinsteinの論文で主張された式の一般化になっていることを発見した.
著者
下川 隆
出版者
金沢医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

有尾両生類の一種であるアホロートルを用いて、切断された四肢骨格筋の再生メカニズムの分子機構を解明することを試みてきた。本研究では、マウスやニワトリの四肢発生過程で、前/後肢の決定に関与するPitx1に着目し、アホロートルにおいてPitx1のクローニングを行い,四肢再生過程ならびに発生過程における発現パターンについて、解析を行った。Pitx1の切断四肢再生過程における発現様式について,RT-PCRにて解析を行ったところ,前肢および後肢のいずれにおいても発現が認められた。前・後肢の部位による発現パターンの変化は認められず、全体的に一様に発現することが明かとなった。Pitx1の四肢再生過程における発現レベルは、前・後肢いずれにおいても,再生初期において発現レベルの増加が認められ、再生過程が進むに従い漸減していた。このことから、四肢再生過程でPitx1は、再生組織のパターン決定には関与せず、主に再生組織の増殖に関与しているものと考えられた。Pitx1の再生四肢における機能を解析するために,再生芽にアンチセンスオリゴDNAをエレクトロポレーションで導入したところ,再生芽の形成・伸長の遅延が認められたところから、四肢再生過程では再生組織の増殖に関与していることが確認された。さらに,成体のアホロートルにおいては、Pitx1が再生していない通常状態の四肢において発現していることが明らかとなった.このことは、マウス等の従来の報告とは異なっており、四肢再性能になんらかの関与を示すと考えられた。Pitx1について、発生過程における発現パターンをホールマウントin situ hybridizationで解析したところ、後肢にのみ発現が認められたところから、四肢発生過程では、前/後肢の決定に関与していると考えられた。
著者
青山 和夫
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

古典期後期(後600~830年)のアグアテカ都市中心部では、自らが支配層に属し書記を兼ねる工芸家が、王をはじめとする世帯外の他の支配層のために美術品と実用品の両方を半専業で生産した.アグアテカの古典期マヤ社会では、「真の専業工人」は存在しなかった.支配層を構成したアグアテカの男性と女性の工芸家は、異なった状況や必要性に柔軟に対応して複数の社会的役割を果たしたのである.
著者
梅本 順子 平川 祐弘 牧野 陽子 河島 弘美 遠田 勝 劉 岸偉
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

今年度は3年間のまとめの年であり、それぞれが書物や論文にまとめると同時に、これまでの資料を補完するべく、アメリカに出張した。昨年のハーン没後百年のシンポジウムに見られるように、ハーンの再評価が目覚しい。当プロジェクトも、異文化理解が進むと文学も雑種化の道を辿るということを前提にハーン他の作家を取り扱った。ハーンは日本に帰化したこともあって、この視点からはその先駆者として位置づけられる。ハーンは英文学やフランス文学にも造詣が深かったが、マルティニークをはじめとした西インド諸島滞在や晩年をすごした日本での経験から、その文学は世界文学とも呼べるほど多くの要素を取り入れたものになった。とりわけ、日本の伝説や昔話を受容して、彼なりの解釈を付け加え、それを英語で書き直したのだった。その視点からは、新しいハーン像が窺われる。西洋近代文明の名の下に、アジアやアフリカの独自の文化が押しやられそうになっていた百年あまり前に、西洋人でありながら、その優位性に押し流されることなく、いわゆる異文化に関心を示した人物がいたことに着目した。ハーン以降、この視点で異文化理解を積極的に行ったものとして、ストープスと周作人が挙げられる。アーサー・ウェイリーより先に日本の能に目を向けたストープスの活動と、日本留学でハーンの存在を知り、「日本は自国文化のよき理解者であり伝達者である人物を得た」と評価した周作人の中国での対応を追った。このように、数こそ多くはないが、異文化理解に積極的に携わり、同化に関わった人物がいたことを再確認し、彼らの努力が現在とどのように結びついているのか、また彼らの足跡をどのように理解すればよいのか、という視点に立ってこれらの人物の日本文化への貢献を定義することに努めた。また、ハーンの足跡を辿るとき、ハーンの友人たちが著した伝記や、公開に同意した書簡、ならびにそれを基にした書簡集の存在が大きな役割を果たしてきたことから、ハーンと直接交渉があった人々を調査した。さらに、直接の交渉こそなかったが、ハーンの遺族と文通し、後世のハーン研究者の伝記執筆の際にアドバイスしてきた、ハーン研究家のドロシー・マクレランド(1897-1995)の未発表の資料についても調査した。
著者
久保 成隆 大里 耕司
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本科学研究補助金による4ケ年間の研究を通じて、下記の各項について以下の様な成果が得られている。先ず、(1)user friendlyな非定常流シミュレーションモデルに関しては、陰差分法をベースとしたモデルの開発に成功した。そのモデルをベトナム紅河デルタでの排水解析に適用しその有効性を実証した。同時に非定常流モデルを水文解析のタンクモデルとしても使えることを示した。次いで、(2)広域な低平地における排水解析に関しては、タイ国のチャオプラヤデルタの浮稲地域を研究対象として、水収支計算により、デルタの浮稲地帯の持つ遊水能力を検討した。その結果、雨季における洪水問題と乾季における水不足問題を軽減する遊水地と調整池の設置構想を提案して、それによって二つの問題をある程度解決することが可能であることを示した。(3)感潮河川における堰の建設がもたらす異常潮位の解析に関しては、摩擦項の非線形性を考慮した理論解析に成功した。その結果、堰の河口からの位置によって異常潮位の振幅を予測する近似的な理論式を提案することができた。(4)水位観測による用水路の流量推定に関しては、村高用水での現地観測と実験室における模型実験によってその可能性を検討した。その結果、水位観測データによる非定常流解析が、流量を推定する上で非常に有効であることが実証された。しかし、同時に、模型実験においては縮尺比率が大きい場合、摩擦項の取り扱いに関して疑問点が指摘され、それに関しては今後の課題となった。(5)用水路系では水理操作は定常から次の定常を目指して行われるわけであるが、それの遷移過程に関しては、その理論解析に成功した。その結果、水路の長短は支配方程式の無次元化によって分類でき、短い水路での定常への遷移過程は波の往復によって、一方、長い水路で定常への遷移過程は拡散現象によって実現されることが判明した。
著者
倉鋪 桂子 末次 聖子 平井 由佳
出版者
鳥取大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

平成17年度の実施事項1.研究の対象および方法二ケ所の介護老人福祉施設から軽度の認知症でアクティビティへの意思を表明できる者10名を選び、研究の承認を得た。研究者二人で8月〜12月の間、週2回施設を訪問した。対象者一人について1回1〜1.5時間を用いた。2.研究経過および結果第1期(8月-9月)「対象者の意思表出がない」時期「今最もしてみたいこと」について話し合ったが利用者の意志表示はなかった。「施設のスタッフは忙しい」とか、「叱られる」などの発言があった。第2期(10月-11月)具体的な意思表出された時期A:ソ連の捕虜収容者の生活を懐かしみ、写真集や記録書を頼りに言語障害があるがロシア語を思い出したり、当時を生き生きと話す。B:「定期的に外出したい」に対し、利用者の日課と人材(職員やボランティア)、健康状態から実行可能な計画をたてて外出ができた。C利用者:「揚げたてのテンプラ」「自分用のコーヒー缶」など食に対する興味が強い。嚥下困難があるためSTの介助でてんぷら、すし、あんぱん等を摂取できた。第3期(12月)積極的な行動が現れた時期C:家族関係が複雑で、妻・息子とも交流は無かったが「孫に会いたい」と言われ、関係者の努力で孫の面会を得られ、それにより家族との関係回復も出来た。D:クリスマス会の最後に利用者代表で感謝の言葉を述べた。それまでは催し物に受動的であった。3.男性利用者のアクティビティ・ケア男性は団体行動より個別の行動を好んだ。男性利用者のアクティビティには、本人の施設入所に対する「肯定感」「施設生活への存在感」を確認する必要がある。それには、彼らが施設の生活にどれだけ主体的に行動をしているかが重要であった。一方施設のスタッフも食事・入浴等個人の好みには気遣うが全体生活にアクティビティとしての主体的な行動の理解が乏しかった。今後、男性利用者自身が生活の企画や自らの組織つくりへの参画が必要と考える。
著者
水越 允治 吉村 稔
出版者
三重大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

1.中部・近畿両地方の歴史時代の気候復元を、古記録に記された日々の天候記録をもとにして行った。古記録の収集地点数は約35地点、対象年代は主として17世紀以後とした。ただし京都・奈良については、15世紀まで溯って収集を行った。2.収集資料を日ごとに整理し、天気の推移から年々の季節の進み遅れ、季節の特徴を明らかにする作業を進めた。3.梅雨の季節については、入・出梅日の推定を15世紀以後の約500年間、梅雨期間降水量の推定を17世紀末以後の約300年間に関して行なった。(1)出梅日の長期変動には70年程度の周期が検出された。(2)梅雨期間降水量には10年平均値を対象にした場合、約120年の周期が認められる。(3)1771〜1870年の100年間について、毎年の梅雨の経過を詳細に検討したところ、集中豪雨型の梅雨は1771〜1790年と1821〜1870年の期間に多発しているのに対し、空梅雨型の梅雨は1791〜1810年の間に多発していること。4.台風の動向について、1781〜1860年の間を対象に、襲来数、襲来の時期の変動傾向を調査した。(1)襲来数には時代による増減が見られ、1810〜1820年代には比較的少なく、1830年代以後に著しく増加していること。(2)襲来の時期については現在と大きな差は認められないこと。5.冬の寒さについて、小氷期の頂点といわれる1820年代を対象に調査を行った。(1)厳寒の冬は連続して発生せず、数年おきに出現していること。(2)寒さの程度は現在に比べれば顕著であるが、気象観測時代に経験された範囲を出るものではないこと。
著者
桝永 一宏
出版者
滋賀県立琵琶湖博物館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

淡水から海水にいたる様々な水辺環境への進出に成功した数少ない昆虫である双翅目昆虫のアシナガバエ科Hydrophorinae亜科について、このグループにおけるND5遺伝子の分子時計(0.01D=285万年)を算出した。さらに、海洋性アシナガバエHydrophorinae亜科の海水適応のグループが単系統であり、北大西洋地域に分布するAphrosylus属が一番最初に分化したグループであり、その起原が最も古いことが示唆された。