著者
高橋 伸夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

この研究計画では、協調的な経営行動に対してさまざまな角度から分析を試みた。経営理論や経営の実践の現場で見られる現象をAxelrod流の協調行動の進化の観点から描いてみたのである。そのために、まずはAxelrodの進化理論のエッセンスを抽出して未来傾斜原理として定式化して使い易くする必要がある。単純化して言えば、現在の損得勘定や過去への復讐にこだわることなく、より良き未来をこそ選ぶべきだというのが未来傾斜原理である。このことによって、経営理論や経営の実践における協調行動の出現を説明することが容易になる。未来係数が高い場合には、未来への期待に寄り掛かる形で、苦しいても現在をなんとか凌いでいく行動につながるが、このことは日本企業でも、利益を分配したり使ってしまったりせずに、こつこつと内部留保して、将来の拡大投資のためにとっておこうとする強い成長志向として観察できる。さらに、このことを応用して、組織均衡を説明するための有望な二つの指標、見通し指数、未来傾斜指数を開発した。これらの二つの指数はAxelrodの未来係数の代替的指標として作られており、見通し指数は、その人の会社における将来への重みづけを表し、未来傾斜指数は将来に対する心理的な未来係数を表している。そして、この二つの指数が高い値をとるとき、職務満足を感じ、参加の意思決定が行われるという仮説の検証が行われた。見通し指数については、日本の大企業21社の2600人以上のホワイトカラーのデータによって支持され、見通し指数と職務満足比率との間には決定係数0.9989、参加比率との間には決定係数0.9980の非常に強い線形の関係があった。未来傾斜指数については、日本の大企業67社の約23万3千人のデータによって支持され、未来傾斜指数と職務満足比率との間には決定係数0.9970、参加比率との間には決定係数0.9678の強い線形の関係がやはりあった。
著者
梁 洪淵 斎藤 一郎 森戸 光彦 美島 健二 井上 祐子
出版者
鶴見大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

目的:口腔の老化度指標を確立することを目的に抗加齢医学に基づいた全身と口腔の老化度検査を行い両者の比較検討をする。背景:「健康と若さを保ちながら年を重ねることを可能にする医学」として抗加齢医学の確立が望まれ、健康増進のための指導や療法は「健康日本21」を実現させるための新たな予防法としての取り組みであることから、歯科領域においても抗加齢歯科医学の実践が急務である。一方、本学ドライマウス外来を受診した2600人の統計解析の結果より、ドライマウスの大半は生活習慣病や服用薬剤の副作用等により発症していることが明らかとなり、さらに唾液分泌障害の要因の一つに酸化ストレスが関与している事も判明した。これらのことを背景に本研究では口腔と全身の老化度の関係を検討する。対象:本学アンチエイジング外来を受診した30名を対象に下記の検査を実施した。方法:検査項目口腔の老化度検査 1.唾液分泌量 2.現在歯数 3.カンジダ菌検査 4.歯周組織検査 5.咬合力 6.反復唾液嚥下テスト 7.唾液CoQ10検査全身の老化度検査 1.血液検査(酸化ストレス、ホルモン等) 2.脈波伝播速度 3.体組成検査 4.骨密度 5.握力 6.脳機能検査 7.毛髪検査評価:過去の文献より口腔の老化度に関する項目を設定し、口腔と全身の老化度を測定することにより両者の老化度の関連を評価した。結果:全身ならびに口腔の検査を実施した結果、次の項目に相関が認められた。握力と安静時唾液分泌量(r=0.5770 p=0.03)、総テストステロンと安静時唾液分泌量(r=0.6607 p=0.05)、BMIと安静時唾液分泌量(r=-0.5752 r=0.03)、ウエスト/ヒップ比と安静時唾液分泌量(r=-0.5933 p=0.03)、PWVと現在歯数(r=-0.4958 p=0.005)、骨密度と現在歯数(r=0.4011 p=0.02)以上の結果から、口腔の老化度検査は全身の老化度を把握する一つの指標となる可能性が示唆された。
著者
塚原 康子
出版者
東京芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、近代日本の音楽家(本研究でいう「音楽家」とは、洋楽・邦楽をふくめ音楽の種類を問わず、職業的に音楽の演奏・教育に携わる人々をさす)の人材養成と就業の実態を、二つの方法によって明らかにすることを目的とする。第一は、人材養成と就業の基盤が民間にあった邦楽(雅楽をのぞく)の音楽家の変化を、複数の名簿・統計資料によって数量的に明らかにした。具体的には、地域を東京に限定し、『諸芸人名録』(明治8年刊)、『明治41年東京市市勢調査』(明治44年刊)、『警視庁統計書』(明治25年縲恟コ和11年)から邦楽各ジャンルの専門家数を抽出し、1870年代〜1930年代の変化(年代差、地域差、男女差、関東大震災の影響)を跡づけた。第二は、官制の中に人材養成と就業の基盤を有した雅楽と洋楽の音楽家の全体像を明らかにするために、諸名簿にもとづき4種のデータベースを作成した。その結果、明治期から昭和戦前期までの在籍者総数は、宮内省楽部で約240名、陸軍軍楽隊・海軍軍楽隊で約4,400名、東京音楽学校では約13,400名に上ることがわかった。このうち、宮内省楽部と軍楽隊は、音楽演奏を主たる職務とする専門機関で人材養成機能ももつが、その養成期間は楽部の7年に対して軍楽隊が1〜2年と対照的である。また、楽部は在職期間がきわめて長く中途退部者も少ないのに対し、軍楽隊員の多くは在職期間よりも退役後の民間での就業期間が長い。もともと教育機関である東京音楽学校は、正規コースである本科・師範科のほかに、実技のみを履修できる非正規コースの選科をもち、全在籍者の約3分の2が選科に在籍した経験を有していた。また、女性や留学生にも門戸を開くなど、多様な教育機会を提供し、在籍者の多くを教職に送り出していたことが明らかになった。
著者
竹濱 朝美
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、日本とドイツの太陽光発電の普及政策について、費用と効果を比較分析した。(1)ドイツの太陽光発電に対するフィード・イン・タリフ(FIT)の買取価格は、システム価格の10%程度の売電収入を実現している。ドイツのFIT制度の普及促進効果は、日本政府補助金よりも6倍も高い。1kWh当たりのFIT分担金は小額である。ドイツの電力集中型企業に対するFIT分担金減免は、非特恵電力消費者のFIT分担金を0.17セント/kWh押し上げている(2009年)。分担金減免を受ける企業は、鉄鋼、金属、化学産業および中小企業である。 (2)日本の住宅用太陽光発電の累積設備容量を2020年までに18.5GW、2030年までに31.6GWにするシナリオを検討した。ドイツのFIT制度の検討から、システム価格に対する年間売電収入比率で10%を実現する買取価格が必要である。原油価格が80ドル/バレルの水準から年3%で上昇する場合、原油輸入費用節約により、FIT買取費用の30~40%を回収できる。購入電力費用が大規模になる電力集中型企業に対して、FIT分担金の減免が必要である。
著者
榧根 勇 嶋田 純 田中 正
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

1)東京都内の湧水を分類し、崖線タイプの代表として深大寺湧水を、谷地形タイプの代表として善福寺池を選定し、湧出機構の解析を行い、以下の結論を得た。(1)崖線タイプの湧水は、武蔵野礫層中をほぼ水平に流下する地下水が、礫層の露頭面で湧出するものである。(2)崖線タイプの湧水の集水面積は10^5〜10^6m^2のオーダーで、その涵養域は水流側200〜2000mの範囲である。(3)谷地形タイプの湧水は、武蔵野台地全域にわたる地下水位の低下によって枯渇している。(4)谷地形タイプの湧水の復活には、武蔵野礫層中の地下水位を約2m上昇させることが必要である。2)東京都の台地部及び平地部を対象に、既存のボーリング柱状図及び東京都地盤沈下観測井水位資料を整理し、1970、1980、1987の3年について南北6断面、東西6断面、深さ600mまでの鉛直二次元地下水ポテンシャル分布図を作成し、地下水の開発と揚水規制に対して、東京都の帯水層・加圧層システムがどのように応答したかを明らかにした。3)ボーリング孔内の地下水ポテンシャルを測定するためのダブルパッカー式地下水圧測定装置を試作し、1992年5月及び10月に100m深の花崗岩中のボーリング孔を利用した性能確認試験を実施した。25mから95mの間の孔内6ヶ所の約5m区間において、各々20〜40分間の測定時間にて、平衡地下水圧に到達することが確認できた。また、フィールド用データロガーを利用しているため、1日間程度は無電源で使用できる。更に、上下パッカーの膨張に伴う水圧上昇とその後の区間地下水圧と平衡状態に至る迄の圧力の時間変化データを利用して、非定常単一パルス透水試験の解析を適応した結果、地下水圧測定区間岩盤の透水係数(10^<-6>〜10^<-8>cm/sec)の測定も可能であることが明らかになった。
著者
武藤 三千夫 鹿島 享 水野 敬三郎 山川 武 稲次 敏郎 角倉 一朗
出版者
東京芸術大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1987

おしなべて美や芸術の現象を顧みるとき、その問題へのアプロ-チの切り口はきわめて多様であるが、我々は、《品質》という共通テ-マによってア-チストや公衆をも含めた芸術的な現象関係性に注目して、二年間にわたる各分野での実地調査を踏まえた理論的・歴史的研究を遂行した。そしてその研究成果としてそれぞれ以下のような知見をえた。すなわち、(1) 原理論的研究ー芸術と美的品質ーとして、ー武藤「美的質の開かれ」。(2) 比較文化論的研究として、ー稲次「都市景観における美的品質の評価要因」、松島「古代メソポタミヤの神像とその〈美〉について」、鹿島「文化形成体と美的品質ー楽器を画題とする絵についての一考察」、井村「趣味判断におけるアプリオリとハビトウスー美的構えの制度化をめぐってー」、佐藤「イギリスのチンツとウイリアム・モリス」。(3) 比較芸術学的個別研究ー各ジャンルにおける表現と美的品質ーとして、西洋音楽のばあいの角倉「音楽作品の受容における響きの質的趣味の変遷」(仮題)、西洋美術のばあいの永井「西洋美術における品質問題の諸相」、日本美術のばあいの山川「化政期江戸画壇の成立をめぐっての作品における質的差異」(仮題)、東洋美術のばあいの水野「関西方面諸寺に蔵する木彫仏のX線透過撮影などによる素材と表現」(仮題)。以上のように、各分担者の研究はそれぞれの立場からなされた多彩な研究となったが、それも文化が共通に有する質的なものの現れが歴史的・地理的にきわめて多様な差異として映るからであろう。しかし各立論は、根本において総合研究としての一貫性を十分に維持しえたと確信する。
著者
坪郷 英彦
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

山地・丘陵地・台地の竹籠の生産と使用について調査分析を行った。秩父・多摩地域の竹籠職人5名の製作技術の調査、博物館及び資料館10カ所の収蔵資料370点の資料収集を行った。成果として、論文発表とともに収集資料目録の作成、2職人の製作工程映像の編集を行った。研究は次のようにまとめられる。1、対象地域の竹籠は地域の自然環境(山地・台地)と、これにともなう生業の形態(雑穀畑作)に大きく関連している。雑穀の保管及び傾斜地での運搬のために竹籠は必要とされた。2、多様に展開した竹籠の種類・形状の基本形は畑作における落葉を活用した堆肥づくりの用具である。斜め網代編みの底に笊目編みの胴の技法と底胴とも六つ目編みの技法が基本である。3、竹籠の多様な展開は明治以降の養蚕、都市近郊の野菜作り、製茶など副業の多様さを反映したものである。いずれの場合も収穫、運搬、保管の役割を担っていた。4、山地では馬での運搬、背負板での運搬に適した独特の籠が使用され、形状や使い方に一定の型が生み出されていた。5、職人には専業と非専業の2つの営業形態があり、非専業は農家副業として行われていた。大正期のデータでは非専業の比率が専業を上回っていた。6、専業と非専業の職人は異なった職人意識を形成していた。多様な竹籠を生み出していったのは専業の職人であり、「何でも出来て一人前」という意識が根底にあった。非専業の職人は基本的な種類に限って生産しており、地域で了解された、実用的な形を作り出すことを心がけていた。
著者
松本 郁代
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

今年の実績は、(1)立命館大学21世紀COEプログラム主催×ロンドン大学SOAS日本宗教研究センター共催の国際シンポジウム「The Power of Ritual:儀礼の力-学際的視座から見た中世宗教の実践世界-」で、研究発表「入洛する神輿・神木と「神威」」を行った。(2)仏教的世界観の構築に関わった中世日本の職能民に関する研究発表として、慶応義塾大学巡礼記研究会研究集会にて「室町期京都の「霊場」と職能民-聖俗の相克をめぐって-」を発表。(3)宗教を文化史研究の対象にする際の研究手法の追究として、論文「中世日本文化研究の覚え書き-「歴史叙述」における文化の位相を中心に-」を発表。(4)立命館大学オープン・リサーチセンター主催、風俗画研究会にて、研究発表「描かれた神輿・神木-都市に対する示威イメージ-」を発表した。(1)では、中世に頻発した仏教による「神威」の発動のメカニズムを「神輿入洛」という行為に捉え、これを宗教的な一連の動き=儀礼として解釈した。これによって、中世の政治システムだけでは割り切れない「神威」の存在を史料に表された表現や絵画史料によって明らかにした。(2)は、宗教技能を持つ中世職能民を中世社会に位置づけるための研究。中世に存在した「仏教的世界観」や「宗教景観」を創ったと考えられる職能民の宗教技能を捉えながら、その歴史的位置づけを試みた。(3)は、海外の日本研究手法に鑑みながら日本文化史研究の手法を論じたもの。海外における日本研究は、歴史や文学にかかわらず、「日本学」や「アジア学」の枠組みで解釈されているため、巨視的な視点から日本を捉えることに成功しているが、視覚的なものだけを文化の対象として捉える研究手法が根強く存在しているため、一部、日本の歴史的文脈が無視されたままの偏った文化研究が流通している現状に対し、本論文では、これらの方法論を経験的に踏まえ批判を行った。
著者
門田 修平 野呂 忠司 長谷 尚弥 島本 たい子 越智 徹
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では「コンピュータ版英語語彙処理テスト開発に関する研究を、その中心的な成果として報告し、大規模なテストの妥当性の検証を行った。その結果、英語の語彙処理能力において、日本人英語学習者の場合には、「語彙知識量(語彙知識の正確さ)」と「語彙知識運用度(語彙アクセスの流暢性)」の間に乖離があり、この乖離の程度が、ある個人(被験者)内でも、どのようなプライム語の後で、どのターゲット語にアクセスするかによって大いに変わってくるという結論に達した。
著者
早崎 芳夫 田北 啓洋
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では, ホログラムを用いたガラスのフェムト秒レーザー加工において, レーザー照射において起こる高速な現象の動的な変化をポンプ・プローブ干渉顕微鏡により観測した. 特に, レーザーパルスを同時並列に照射した時に起こる特有な現象として, マイクロプラズマの衝突や衝撃波の合波・反射を発見できた. さらに, ライン状に成形したパルスによる回折格子の作製や計算機ホログラムの2光子吸収最適化法の開発に成功した.
著者
徳安 健 廣近 洋彦
出版者
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

イネの二次壁セルロース生合成に係る酵素遺伝子を部分的に改変したものを導入し、遺伝子組換えイネを作出することにより、茎葉の細胞壁のセルロース構造を部分的に改変し、酵素糖化性が向上した植物体とする可能性を検討することを目的として、本萌芽研究を実施した。イネ二次細胞壁セルロースの生合成に関与する三種類のセルロース合成酵素(OsCesA4,OsCesA7及びOsCesA9)をコードする遺伝子に対して、部位特異的変異が導入された配列をもつ3種類のベクターをイネに導入し、形質転換株を得た。その結果、表現型として、カマイラズ形質の株やそうでない株が混在することとなった。大量発現により、遺伝子発現そのものが抑制されている株が存在する可能性が示唆された。今回の実験では、ノーザンブロット法によりセルロース合成酵素遺伝子の発現量が多い株を選抜することとした。選抜株の茎葉を回収したのち、亜塩素酸処理と水酸化カリウム処理により粗セルロースを精製し、その酵素糖化特性を評価した結果、コントロールイネの茎葉と比較して、有意な効率化は観察されなかった。その一方で、組み換えイネ由来セルロースのX線散乱データでは、結晶化度には差は見られなかったものの、セルロースミクロフィブリル繊維の配向性には差が観察された。細胞や細胞壁構造の構築速度やバランスが異なっているものと推察された。予備的検討としての本研究では、結晶構造そのものが破壊されたことを示すデータは得られなかったが、プロモータの検討、セルロース合成酵素遺伝子の部位突然変異導入場所、セルロース合成酵素複合体形成の有無の確認手法の開発、選抜基準の確定などの各要素を検討することにより、研究を着実に前進させることが可能となる。また、酢酸菌のセルロース合成系等を活用した低次元の実験モデルで、その戦略の妥当性を確証し、植物へ活用することが望ましいと考える。
著者
横山 真貴子
出版者
奈良教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

幼児の「ことばの力」と絵本とのかかわりの関連を検討した結果、家庭での絵本体験が豊かな幼児は、保育の場での絵本とのかかわりも多く、発揮される「ことばの力」も概して高かった。一方、家庭での絵本体験があまり豊かでない幼児の場合、両者との関連は見られなかった。また園での絵本体験は、家庭での絵本体験量を増やし、多様に変化させており、家庭の経験を補い、幼児と絵本との出会いを創り出す保育者の役割の大きさが指摘された。
著者
宮川 葉子 MIYAKAWA Yoko
出版者
淑徳大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

柳沢家の文芸、特に和歌における公家と武家の文化交流の実際を探った。1.東京駒込の六義園の造園意図を知るために、柳沢文庫蔵「楽只堂年録」収載の「六義園記」及び、吉保作自筆の巻子本「六義園記」の二本を翻刻。結果、吉保は和歌の浦と玉津嶋、対岸の藤代峠一帯までもを射程距離に入れた大規模な構想で六義園を造り上げていたこと、京都の新玉津嶋社を園内に勧請していたこと、黄檗山万福寺住持悦峰和尚の提案で西湖孤山の放鶴亭を真似た東屋を妹背山に建てていたことなどが明らかになった。2.大和郡山市社会教育課保管の類題和歌集「続明題和歌集」について調査研究した。新出史料である。吉保息男吉里の編纂と思われる該本は、約7000首の和歌を春・夏・秋・冬・恋・雑に分類したかなり大部な典型的類題和歌集。霊元院と東山院を筆頭に、おもには当代の公家と武家の和歌を収録する。江戸期における公家と武家の和歌文化の接点の実際を知ることのできる貴重な資料である。当該研究期間内には、「詠者目録」「題名目録」「春」「夏」「秋」「冬」の翻刻を終えたので、引き続き「恋」「雑」の翻刻及び全貌の調査研究を行いたい。3.吉保側室正親町町子の出自は不明であったが、父は正親町公通、母は水無瀬氏信女で、江戸城大奥総取締役に至った右衛門佐であることを証明できた。町子は正統な三條西実隆の子孫であったのである。彼女が『松陰日記』に多く『源氏物語』を引くのも三條西家の源氏学の学統に連なっていたからであった。『松陰日記』の本格的研究は是非なされなくてはならない。
著者
阿部 彰
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究の萌芽的特性を発展させ、次年度以降の本格的な調査研究への取り組みを目指して、本年度は、第一にこれまでの研究成果をまとめ、第二に、研究方法の改善のため活動を継続発展させ、第三に、総合研究体勢の確立のための事前調査、連絡調整を行った。各作業項目の研究概要と成果は、下記のとおりである。1. 関連文献資料および映画フィルム等の補充調査と整理文学作品、学校沿革史から運動会に関する記事を選び、時代における特色をとらえるとともに過去および現在の運動会プログラム、運動会の場面を描写した既存の映画フィルムを全国規模で収集し、整理した。2. 映像収録の継続と分析方法の改善本年度は、従来の豊中市内の小中学校2校(豊中市立庄内小学校、豊中市立第四中学校)のほか、大阪府下2校(大阪府南河内郡太子町立山田小学校、大阪府南河内郡美原町立みはら大地幼稚園)をあらたに収録対象とし、9月下旬から10月初旬にかけて収録を行った。いずれも、3台のカメラによる同時撮影を行いそれぞれ分析・編集業務(解説字幕を挿入)を経て、ダイジェスト版を制作した。収録映像の分析を通じて、視点と分析枠組みを吟味し、次年度以降に予定している本格調査に備えた。3. 総合的研究体勢の確立のための準備次期計画による本格調査研究に備えて、全国の研究者と共同研究を進めるための連絡、調整を深めると共に、調査・収録対象地域設定のための事前調査と関係情報の収集を積極的に行った。(以上、約800字)
著者
市川 哲 三浦 敏弘
出版者
明治鍼灸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

京都府中部に位置する船井郡6町(八木町、園部町、日吉町、丹波町、和知町、瑞穂町)の生涯スポーツ事業の行政評価と参加者による評価について調査を行った(「生涯スポーツ事業に関する行政担当者の意識」調査:平成9年度実施。「生涯スポーツの実施とその評価に関する住民意識調査」:平成10年度実施)。これらの調査とその分析によって得られたいくつかの知見には以下のようなものがある。1. 6町で生涯スポーツ事業として56事業が実施されていた。そのうち53事業が継続事業、2事業が新規事業、1事業が単年度事業であり、8割近い44事業が行政担当者により「問題がなかった」と評価されていた。2. 行政担当者はこれらの事業を行政評価する必要を自覚していたが、その客観的な評価基準をもっていなかった。3. したがって、行政評価は担当者の主観にゆだねられているが、こうした状況のもとでは、参加者や関係団体の声を聴くことがその客観性を保証していると考えられる。4. 生涯スポーツを(1)一人で行うスポーツ、(2)少人数で行うスポーツ、(3)地域の運動会、(4)町や体育振興会等が行う事業、の4種に区別したが、それらのスポーツに参加する住民は参加しない住民よりも生涯スポーツを地域づくりとの関係でとらえる傾向が強かった。5. 運動会参加者と事業参加者の90%以上がそれらのスポーツに満足しており、また80%以上がそれらのスポーツが近隣の人々との親睦を深める上で有効であると考えていた。
著者
江崎 光男 奥田 隆明 岡本 由美子 長田 博 金城 盛彦 伊藤 正一
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

当該研究期間である平成12〜14年度の3年間、北京、上海、甘粛省を中心に、中国のマクロ経済発展、地域開発および持続的発展に関連する諸問題について現地調査を実施し、名古屋において3回のワークショップを開催した。これまでの3回のワークショップで報告された研究成果を中心に、『21世紀中国における持続的成長の課題-数量的評価』という標題の4部25章および付論(資料データ)よりなる最終報告書が作成される。第1部は「地域経済発展の課題」であり、中国の地域開発(特に西部大開発)における比較優位構造、労働移動、物流政策、中小企業・農村工業発展、WTO加盟に伴う課題に関する計量モデル分析および定量的実証分析が提示される。第2部は「持続的発展の課題」であり、中国西部地域における生態環境、水資源管理、SO2排出の問題および中国全体の都市問題、日中環境協力の課題が数量的に展望・検討される。第3部は「甘粛省の事例研究」であり、甘粛省の開発計画、開発戦略、労働市場、持続可能な発展が定量的実証的に分析される。第4部は「マクロ経済社会発展の課題」であり、中国の社会保障、教育投資、WTO加盟と貿易、直接投資、生産性、観光発展、失業問題に関する制度分析、計量分析が提示される。報告書は、全体として、中国の経済・社会・地域発展の現状と将来(2010年まで)に関する数量的評価・分析を主たる内容とする。
著者
中西 新太郎
出版者
横浜市立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

研究実施期間の5ケ月間、a東京オリンピックのナショナルな統合に関する検討、b植民地朝鮮におけるスポーツを通した統制・同和動向の検証、c朝鮮人の運動会、体育・スポーツイベントを通した抵抗ナショナリズムの検討を行ってきた。課題aに関しては、高度成長期のただ中で開催された東京オリンピックが、国民統合の強力な装置であったことを検証し、戦後日本のナショナルな民国統合にとってオリンピックという国際的スポーツイベントがきわめて重要な役割を果たしていたことを、当時の資料検討にもとづいてあきらかにすることができた。課題b,cに関しては、朝鮮総督府学務局などの史料にもとづき、同化政策が謳われていたにもかかわらず、現実には植民地朝鮮における体育政策が兵式体操を中心とし、日本人と朝鮮人との競技が禁止されていたこと、「教練」が抵抗の温床になるとして行われなかったことなど、植民地統制の一環としての性格を帯びていたことを確認した。また、そうした統制政策に抵抗して植民地下においても民族主義体育の運動が継続していたこともあわせてあきらかになった。戦前と戦後のスポーツ・ナショナリズムには言うまでもなく性格の相違が看取されるが、スポーツ史にそくした検証をつうじ、スポーツイベントを手段とする国民統合の継承・連続と断絶という両様の位相をあきらかにする展望が開けてくる。上記の研究をつうじて、日本における近現代スポーツ・ナショナリズムのそうした位相を解明する有益な手がかりをえることができた。
著者
近藤 勲 木原 俊行 長畑 秀和 山本 秀樹
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本研究は、平成6、7、8年度の3カ年にわたり、情報教育普及をめざし現職教員向け研修プログラムの開発を目的に実施された。開発理念としては、"情報教育=コンピュータ教育または情報処理教育"という図式から脱却して、情報教育を教員の基礎教養と見なした。つまり、市販のコンピュータソフトの利用技術の習得だけでなく、情報の概念・性質などの他、情報教育の必要性が理解できるよう意図した内容と構成とした。以下に3カ年の研究の経過並びに成果を整理する。1)中学校技術・家庭科の「情報基礎」の学習内容をFCAIにより自作CAI教材化し、中学生に試行させ学習効果を見た。つまり、中学2年生と3年生を対象に、自作CAI教材の学習効果を測定し、プリ・ポストテストの得点をもとに学習効果を測定したところ、顕著な学習効果が見られた。この結果をもとに、あわせて教師による自作教材の必要性の可否を検討し、操作技術・制作技術・企画構成技術は、調和を持って習得することが不可欠であるとの結論を得た。2)中学校教員及び中学生を対象にインターネットを含むコンピュータへの関心の程度及び現状の意識を質問紙法によってアンケート調査した。この調査結果を分析した結果から、教師及び生徒のパーソナルコンピュータへの期待や意識の実情を把握し、研修用プログラムパッケージ作成に反映させた3)自作CAIソフト作成のため、市販ソフト、例えば、「ハイパーカード」、「ディレクター」による学習ソフトの自作に必要な解説書とビデオソフトを制作した。4)自作した解説書並びにビデオソフトを学生並びに現職教員を含む大学院生に試用させ、その有用性・改良点について、口頭または記述によって回答を求めた。
著者
石川 雅章 小野 博志 王 歓 でん 輝 DENG Hui WANG Huan 石川 雅章 でんぐ 輝
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

日本人と中国人は、文化を背景とする民族は異なるものの人種的にはモンゴロイドに属し、極めて近縁とされる。顎・顔面頭蓋の成長発育には、遺伝的要因に加え環境的要因が少なからず関与し、部位によってその程度が異なる。本研究は北京医科大学口腔医学院小児歯科と協同して、中国人双生児の歯列咬合や顎・顔面頭蓋の遺伝的成長発育様式を調査し、日本人小児と比較することにより、モンゴロイドの顎・顔面頭蓋の形態変異について考察を深めようとするものである。平成6年度は北京市内で双生児を収集し予備調査を行ったところ、女児が男児よりも多く応募し、費用の観点から、調査対象を中国人女児双生児に限定することとした。また平成6年度と8年度では、顎・顔面頭蓋の成長発育にとっての環境的要因につながる中国人小児の生活習慣や食習慣を各地で調査した。都市化の進んだ地域とそうでない地域の間で、さらに、都市化した地域でも両親の職域によってこれらの習慣に比較的差異がみられた。あらかじめ、DNAフィンガープリント法により中国人女児双生児の卵性診断を済ませておき、平成7年から9月と12月に、計約90組の双生児資料採得を2年間にわたり行った。その内容は問診表記入、身長体重測定、口腔内診査、側貌および正貌頭部X線規格写真撮影、パノラマX線写真撮影、印象採得などである。平成9年2月現在、歯列模型と側貌頭部X線規格写真の分析を中心に研究が進行中である。歯列模型では口蓋の三次元形状分析を、顕著な不正咬合がなく側方歯群が安定し、かつ歯の欠損のない17組について行った。口蓋の計測には、格子パターン投影法による非接触高速三次元曲面形状計測システム(テクノアーツ、GRASP)を使用した。1卵性双生児群と2卵性双生児群での分散比から(双生児法)、歯頚部最下点間距離では左右第1大臼歯間においてのみ遺伝的に安定する傾向がみられ(p<0.05)、乳犬歯間、第1乳臼歯間、第2乳臼歯間では両群間に有意差は認められなかった。また、それぞれの口蓋の深さについても両群間で有意差は認められなかった。一方、口蓋の容積については、全体および左右乳犬歯より後方の容積が遺伝的に安定する傾向にあったが(p<0.01)、左右乳犬歯より前方の容積は、両群間に有意差が認められなかった。すなわち、混合歯列期の口蓋は遺伝的に制限された一定の容積のもとに、その構成成分である幅や深さは変異しやすいことが示唆された。側貌頭部X線規格写真上には、日本小児歯科学会による「日本人小児の頭部X線規格写真基準値に関する研究」と同様の計測点計測項目を設定し、当教室の頭部X線規格写真自動解析システムにて入力分析した。各双生児組の一人を用いた半縦断的な角度的および量的計測結果を、上記基準値と年齢幅が近似するよう三つのステージに分類し、日本人小児の成長発育様式と比較検討した。さらに双生児法により、各計測項目とその年間変化量などについて遺伝力を算出した。角度的分析から、混合歯列期中国人双生児の顎顔面頭蓋概形は日本人小児とおおむね近似していたが、前脳頭蓋底に対する上下顎歯槽骨前方限界は中国人小児が僅かに近心位にあり、上下顎中切歯歯軸傾斜はやや小さかった。また混合歯列前期のみであったが、前脳頭蓋底に対する下顎枝後縁角は中国人小児が有意に大きく、下顎角は有意に小さかった。一方、量的計測項目は全体的に中国人双生児の方が小さめであったが、日本人小児との身長差を反映していることも考えられる。量的計測項目の遺伝力は混合歯列中、後期と増加する傾向にあり、前脳頭蓋底で70%弱、鼻上顎複号体と下顎骨は70〜80%台であった。これら遺伝力は、男児や男女児双方を扱った他の双生児研究よりもやや大きく、本研究が、男児よりもネオテニ-的である女児のみを対象としたことと関連しているかもしれない。下顎骨のなかでは、下顎骨長が下顎骨の前後の高さよりも、遺伝的要因の占める割合が高くなると推定された。下顎骨構成成分間での遺伝力の差は、下顎骨が遺伝的に制限された一定の長さのもとに形態形成しやすいことを示唆していると考えられた。今後は、当教室に保管されている日本人双生児や北米白人双生児資料との比較研究を鋭意進めていく予定である。
著者
和田 明 吉田 秀司 境 晶子
出版者
大阪医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

プロテオミクスにおいて現在最もよく普及しているのはO'Farrellが考案した等電点2次元電気泳動法にもとづくIPG法である。しかし最近、このIPG法の深刻な弱点がプロテオミクスの蛋白分離の段階に困難を齎している。一つは塩基性蛋白質の分離が不十分であること、もう一つは蛋白スポットが人為的に分裂することである。こうした弱点が等電点法の本質そのものに由来するため、これを克服するには分離原理のことなる新しい方法が必要であるが、われわれが開発したRFHR 2D PAGEは等電点法を採用せず、等速電気泳動に基づくため、この要請にこたえることが出来る。本研究の目的はRFHR法の分離能をさらに向上させ、極微量の蛋白質の検出・同定を可能にすることと、改良されたRFHR法による大腸菌と真核生物のプロテオーム解析を推進することである。先ずRFHR法の分離能向上について1.水冷方式の装置を考案し、厳密な温度制御を可能にした。その結果、4℃、1次元500V、2次元300Vの泳動では分離能の大幅な向上が見られ、大腸菌全蛋白質に対してIPG法の2倍を超える568の蛋白遺伝子を同定した。これはCBB染色で検出できた700スポットの80%を超える高い同定率である。分画をさらにきめ細かくすれば、極微量の蛋白質の検出・同定を実現できる。2.0次元ゲルを廃止し、蛋白質を1次元ゲルに直接濃縮させるように0次元濃縮過程を改良した。これによって、今後装置の自動化に取り組むことが容易になった。次いで真核生物のプロテオミクスについて1.ラット肝プロテオミクスを進める上で、懸案である蛋白の可溶化を促進するため、2Mチオウレアの導入を試み、難溶性のより大きい蛋白質や膜結合性蛋白質の分離能を向上させた。2.第3年度からヒトcell lineのプロテオミクスへの取り組みを開始した。引き続き取り組んでいく。