著者
板野 直樹
出版者
信州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

骨髄や腫瘍におけるストローマはニッチとして造血幹細胞の支持や動員に働く"場"を提供しているとされる。そこで、本研究では、Hasヒアルロン酸合成酵素の遺伝子改変マウスを駆使して、ストローマの形成するヒアルロン酸細胞外マトリックスが、ケモカインと連携して造血幹細胞の動員に働く分子機序について検討し、以下の結果を得た。1) ヒアルロン酸産生腫瘍における造血幹細胞の動員増加ヒアルロン酸合成酵素2(Has2)のコンディショナルトランスジェニックマウス(Has2 cTg)の解析から、乳がんにおけるヒアルロン酸の増加が、造血幹細胞と考えられるKSL(c-Kit^+Sca-1^+Lin^-)の乳がん組織への動員を増加することを明らかにした。2) ストローマヒアルロン酸の欠損による造血幹細胞動員の抑制Has2のコンディショナルノックアウトマウス(Has2 cKO)からヒアルロン酸欠損線維芽細胞を樹立して、乳がん細胞との共移植実験を施行し、ストローマヒアルロン酸の欠損により、KSL細胞のポピュレーションが移植がんにおいて有意に減少することを明らかにした。3) ヒアルロン酸欠損によるケモカイン産生の抑制線維芽細胞におけるヒアルロン酸合成の欠損がケモカイン産生に与える影響を抗体アレイにより検討し、ピアルロン酸合成の欠損により線維芽細胞のCXCL12産生が減少することを明らかにした。以上の結果は、間質ヒアルロン酸がケモカインの産生を増加して、腫瘍内への造血幹細胞の動員にニッチとして働くことを示唆している。
著者
古屋 成人 土屋 健一 高木 正見
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

日本原産のイタドリが欧米諸国で大繁殖し、その被害拡大が深刻化している。そこで我が国のイタドリ群落に生息している植食性昆虫や植物病原菌類を利用した伝統的生物的防除法の開発を展開した。これまでに得られた研究成果に基づき、イタドリマダラキジラミの野外放飼実験が英国で開始された。しかしながら期待された防除効果は得られておらず、斑点病菌の撒布計画が立案されている。本研究では、斑点病についての生態学的知見を得る目的で、本病の発生状況、病原菌の接種条件の検討と分子追跡の手法の開発並びに発病に密接に関与した内生菌の探索などを行い、本病原菌を英国に導入させるための基盤を確立した
著者
有働 眞理子 高野 美由紀
出版者
兵庫教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

特別支援学校の授業で教師が発話するオノマトペ表現においては、運用時の韻律とリズムが身振りや動作と連動することが発信効果を高め、教育的発話意図が効果的に知的障害児童に伝わり、教師-児童間の対話が促進されることがわかった。
著者
諸葛 宗男 城山 英明 交告 尚史 寿楽 浩太 鈴木 達治郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

巨大化技術の安全システムは現代社会が抱える大きな課題である。本研究では巨大化技術の代表例として原子力を取り上げ、その安全法システムの問題点を摘出しその解決方策を検討した。本研究の半ばの2011年3月11日に東京電力福島第一発電所事故が発生したため、事故で露呈した原子力法システムの問題点の検討を追加した。解決策の検討ではしたがって、事故前の研究で抽出した問題点と併せ、包括的に解決する解決方策を検討した。
著者
小林 哲夫 森 牧人 長 裕幸 荒木 卓哉 安武 大輔 北野 雅治
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

半乾燥地の黄河上流域(甘粛,中国)に実験圃場を設置し,また日本における室内実験を併用して,二種類の塩類化土壌の改良技術,すなわち灌漑畑地の塩類化プロットから塩類を除去する有効な技術として著者によって提案されたPSW-Well法と,土壌からの塩類吸収能力が高い作物(クリーニングクロップ)の栽培に基づく生物学的改良法,についての実験を行った.その結果,両方法が有効に機能するための必要条件が示された:(1)PSW-Well法は,流域内の帯水層系が均質で,宙水面が発達しないことが有効に機能するための必要条件である.(2)クリーニングクロップは,塩類をよく吸収するだけでなく,水要求度が低いことが必要である.
著者
山本 睦
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、初期国家成立以前のアンデス文明形成期(B.C.2500-50)における権力の生成過程を動態的に捉え、これを理論化したモデルの構築である。本研究では、当該社会の統合の中心とされる祭祀建造物を対象とし、17年度からペルー・ハエン郡にて遺跡分布調査と発掘調査を実施してきた。調査では、長期の建設活動を確認し、コンテクストの確かな土器などの人工遺物と生物依存体(獣骨、貝)などの自然遺物といった充実したデータを獲得した。そして20年度は、前年度までの成果を受けて出土資料の整理・分析作業に重点的に取り組んだ。建築については、作成した図面と測量データを組み合わせ、時期ごとの建設プロセスを明らかにした。また、人工遺物については地点・層位ごとに整理・分析をすすめ、建設活動との対応を明確にした。特に、土器と石器は、先行研究をふまえて分類し、周辺地域との比較分析の基礎を築き、土器編年を打ち立てた。自然遺物は、専門家に種の同定を依頼し、その結果、海岸部より遠隔地にある調査地で、海産種の貝が特に装身具として多く利用されたことがわかった。また、魚類や獣骨の種の同定を通じて当該地域の生業の一端もうかがえた。さらに、土器内壁の依存体の分析ではトウモロコシが検出され、儀礼活動との関連が強く示唆されるなど、物資の流通ルートといった先史アンデス形成期に関する多くの具体的なデータが得られた。これらは、調査地の社会動態と祭祀建造物を中心として展開した地域間交流の実態を実証データから明らかにしつつあるという点において、アンデス先史学のボトムアップに貢献するだけではなく、アンデス文明形成期における権力の生成メカニズムの実証的な解明作業の手がかりとなるものであり、特に重要である。また、日本では主に研究関連文献を収集、渉猟し、今後の研究の基礎を築いた。
著者
小林 淳二 野原 淳
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

脂質代謝を制御する酵素であるLPLとHTGLの活性を測定する簡便な系を確立し、その臨床意義を検討した。LPL活性はTG、RLP-TG,sdLDLと逆相関、HDL-Cと正相関したしたが、ANGPTL3と相関なし。一方、HTGL活性はTG、RLP-TG、sdLDLと相関せず、HDL-C、ANGPTL3と逆相関した。ANGPTL3によるHTGL活性抑制は見られなかった。以上から、ANGPTL3とHTGL両者の上流にそれらの制御にかかわる因子が存在し、それぞれを逆方向に制御する可能性が示唆された。
著者
木村 實 松本 直幸
出版者
玉川大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

ドーパミン細胞が長期的な報酬予測を表現するかどうかを調べた。3択によって3回の報酬を得る課題を日本ザルに行わせた。予測的な舌の運動から、動物は各試行での報酬価値ではなく、長期的報酬(強化学習の価値関数)を予測していることが判明した。ドーパミン細胞は、動物の行動と同様に長期的報酬予測を表現することが分かった。将来のゴールに向けて長期的な予測と誤差を表現し、線条体などの標的部位での価値のアップデートや意志決定に必須の役割を担うと考えられる。
著者
大坪 嘉行
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

二種のお互いに近縁の土壌細菌を対象としてカタボライト調節メカニズムの解明を目的に研究を行った。その結果、抑制炭素源の存在が認識されるには抑制炭素源が細胞内である程度代謝される必要があることを示す結果を得た。またPTS システムがカタボライト調節に関与することを示す結果を得るとともに、二成分調節系のBphPQに関して、BphQが標的プロモーターを活性化するにはBphPが必要であること、また、BphPのC末端ドメインには構成的なBphQ活性化能があることが示された。
著者
堀内 隆彦 富永 昌二
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,HDRからLDRへの適切なトーンマッピング手法の開発によって,LDRデバイスでの映像表現の限界の解決を行った.このとき,視覚の明暗順応および色順応特性を考慮する方法を考案した.また,主観評価と測色値との関係を考察し,適切な評価規範を検討した.さらに,ディジタルハーフトーニングの技術をディスプレイデバイスへ展開することによって,低明度部分の階調が粗くなるという問題点の解決に取り組んだ.
著者
南 暁彦
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

構造相転移において、ある温度領域で秩序相と無秩序相が共存する効果に付いて、弾性効果を考慮に入れたモデルを構築し、それによって安定状態として秩序相と無秩序相が共存するミニマルなモデルを提示することに成功した。これは昨年から行っている中間状態の研究の3次元版であり、これによって3次元系でも中間状態が発生し、2次元と同じ手法で相図を解析することが可能となった。
著者
前川 俊一
出版者
明海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

研究において、不動産市場においてどのような市場(サーチ市場(登録市場と交渉市場)、オークション)が形成され、どのような価格形成が行われるかを検討する。また、不動産市場のシステムの国際比較(日本、米国、英国)を行うことを通じて日本における問題を明らかにしたうえで、住宅流通市場を例として売り手の戦略を理論的に検討し、米国と日本について実証分析により登録価格が市場滞留期間と取引価格に与える影響の実証分析を行った。また、仲介業者と買い手または売り手の間のエージェンシー問題を理論的に明らかにし、次善の策としての仲介業者と買い手または売り手の間の最適な報酬契約を理論的に検討して、報酬契約の在り方を提案した。最後にこれらの分析を踏まえて、日本の不動産政策、不動産評価の在り方を検討した。研究の成果は雑誌論文4本、図書1本、学会発表10 本の形で公表した。また、投稿予定の論文も2本ある。今後これら研究成果をさらに進展させてゆきたい。
著者
池邨 清美 中野 茂 堀内 ゆかり KAZUKO Behrens
出版者
北海道医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、ビデオ育児支援法(Video-feedback Intervention to promote Positive Parentingand Sensitive Discipline: VIPP-SD)のわが国での適応可能性を実証することを目的として行われ、親子で遊んだり、日常活動を行っている場面の母親に対するビデオフィードバックが、親子関係改善の介入効果をもつための条件を明らかにした。
著者
一ノ谷 清美
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、ヘンリー・フィールディングの政治的パンフレット、および自身が編集した新聞の論説記事をプレス史の観点から包括的に分析し、18世紀英国における政治文化形成過程の諸相を明らかにしようとするものであった。特に、1745年のジャコバイトの乱に際しての政治的議論に焦点をあてて、彼が政体と宗教に関するホイッグの思想をどのように発展させたのか、また、プレスはジャコバイトの大義をどのように扱ったのかについて論証した。
著者
菅井 清美
出版者
新潟県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

抗がん剤の副作用による足部の抹消神経障害軽減のために、足圧測定と足趾筋力測定、足の動態測定が有用であるか否かを検討した。足圧や重心動揺測定結果を抗がん剤服用前後で比較することで、副作用による二次障害の発生を防ぎ、生活の質を保つことができることがわかった。足趾筋力の強化が足趾圧の増加にはそれほど影響を与えない結果となったが、さらなる立位時の身体保持の要因の検討を追求していきたい。
著者
一之瀬 貴
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

【研究の目的】ファットローディング法は高脂肪を摂取して筋内に脂肪を貯蔵し、その脂肪を運動時のエネルギーとして有効利用する方法である。筋内への脂肪の貯蔵には筋のリポプロテインリパーゼが重要な役割を担っており、その活性は運動後に高まるが、糖質の摂取によって低下することが知られている。一方、スポーツの現揚では運動中に使われたグリコーゲンを速やかに回復することが重要なので、運動直後に糖質を摂取することは不可欠である。本研究では運動直後に糖質を摂取する条件の下、どのようなタイミングで高脂肪を摂取すれば運動時の脂質利用を効果的に高めることができるのかを検証した。【研究の方法】6名の若年成人男性を対象として、運動と食事を2日間統制した後、3日目に自転車エルゴメータを用いて運動試験を行い、疲労困憊までの運動時間と糖質・脂質の酸化量を評価した。食事統制は無作為な順序で、1週間以上間を空けて3回行った:1)運動直後に糖質を中心とした基本食のみを摂取する、2)運動直後に基本食と高脂肪食を同時に摂取する、および3)運動直後に基本食を摂取して、3時間後に高脂肪食を摂取する。運動後以外の食事は全て同じとした。【研究の成果】疲労困憊までの運動時間は基本食と比較して高脂肪食を摂取した場合に延長した。疲労困憊までの脂質酸化量は基本食より高脂肪食を摂取したときに高かったが、糖質酸化量は同じであった。したがって、高脂肪食摂取による運動時間の延長は脂質利用の増加による糖質利用の節約に起因したと推察される。一方、運動時の脂質酸化量は運動直後または運動3時間後に高脂肪食を摂取した揚合で同じであった。以上の結果から、運動後の食事では糖質だけでなく、高脂肪を積極的に摂取することの重要性が示唆された。また、運動後3時間以内の高脂肪摂取による脂質酸化量の増加は、糖質摂取の影響の変動に関係がないことが明らかになった。
著者
一之瀬 真志
出版者
明治大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2010

本研究では,1)ヒトの動的運動時における筋代謝受容器反射の特性を定量化する実験手法を確立した.また,2)筋代謝受容器刺激時には,動脈圧受容器反射による血管収縮反応が顕著に高まることを明らかにし,このような末梢反射の相互作用が運動時の循環調節に大きく貢献する可能性をみいだした.これらの研究成果は,運動時の循環調節メカニズムの解明を進め,運動の安全性や健康増進の効果を考える上で有意義な学問的基盤となると考えられる.
著者
伊藤 驍 山崎 宣悦 矢野 勝俊 佐藤 幸三郎 長谷川 武司
出版者
秋田工業高等専門学校
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1987

本研は雪害防災対策上、不可欠な降雪・積雪の性状情報を安価で即時的に入手できる高性能な機器を開発し、雪害防除の指針を得るために行われたものである。本研究で行われた主な項目を挙げると1)既存の降雪検知器で沿岸および豪雪山間部で降雪現象の比較観測を行いその性能を調べ、併せて積雪の物理試験を行って地域特性を整理した。2)既存の観測装置はまず高価で精度に問題点がある。本研究ではこの点を検討し、低廉で測定簡易なセンサ赤外線発光ダイオ-ドを素材とする次の4つの方式による装置を作製した。(1)スリット方式(2)複数スリット方式(3)シルエット方式(4)受雪板反射方式これらはそれぞれで特徴をもつがそれを総括すると、従来式の降雪有無の確認に留まらず粒度分布や形状も認識し吹雪の降雪片も捕捉できるように開発した。その性能は従来の機器より優れ安く作製できる見通しを得た。3)上とは別に、情報工学的方法としてビデオカメラ、イメ-ジプロセッサ及び演算処理高速コンピュ-タ-を使って降雪片の性状を分析できるシステムを確立した。4)降積雪の観測から雪害発生の予測に関する指標を提案した。以上の詳細は研究成果報告書して一冊にまとめ印刷製本し、関連研究機関に郵送配布した。
著者
青木 亮 中村 彰宏 大西 靖 轟 朝幸 松本 修一
出版者
東京経済大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

路上駐車対策の実態調査および路上駐車の配置が旅行時間に与える影響や、路上駐車と実交通流の関係をモデル化することで、環境負荷を含めた路上駐車の社会的費用を計測した。シミュレーターを用いた社会的費用のモデル化については、理論仮説の成果にLIME などの手法を組み込み、路上駐車配置が交通流に与える影響を明らかにした。また実交通流をもとにモデル化することで、バス停付近における路上駐車が交通流および公共交通に与える社会的費用を、浦安駅周辺を事例に推計した。さらに表明選好法の一つであるコンジョイント型のアンケート調査データを用いて、違法路上駐車の利用傾向を分析した。これら成果をもとに、交通政策への適応可能性の検討に関する議論を行った。
著者
秋山 壽一郎 重枝 未玲
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

任意の降雨外力から、流域・都市域の諸特性と各種治水施設の特性・機能を的確に考慮した上で、内外水が複合した浸水・排水プロセス、被害の状況、治水システムのバランスなどを評価・検討できる(1)「浸水減災シミュレータ」を開発した。また、(2)実流域・都市域での実績データに基づき、降雨流出、洪水特性、都市域における氾濫特性の再現性などを検証した上で、(4)そこでの治水対策の被害軽減効果と、仮想的な外力に対する浸水被害の評価・検討などを行い、同シミュレータの有用性・実用性を実証した。(5)併せて、環境にやさしい減災施設である樹林帯・水防林の工学的評価と樹林帯整備のあり方について検討を加え、整備計画のための検討ツールを開発した。