著者
伊東 剛史
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

文化の制度化を論じるにあたり重要な課題は、多種多様な人々が文化的な体験や科学知識をいかに解釈し、それが彼らの社会生活のなかでどんな意味を持ったのかを理解することである。具体的に、今年度は、人工的に構築された動物園の「自然」が、どのように文化的な資源として整備され、利用されたのかを分析し、その成果を積極的に国内外で発表してきた。まず、動物の収集活動がイギリス帝国のネットワークに依存していたことを明らかにする一方、動物園を帝国的な制度として一面的に分析する研究を批判した。近年、帝国史研究に関連して、動物園は植民地を「他者」として差異化したり、植民地支配を正当化したりする帝国的制度であると論じる研究がある。しかし、申請者は、見物客の日記などの一次史料を体系的に分析し、このような解釈は還元論的であり、動物園のもつ多面性を捉えることはできないと主張した。さらに帝国のイデオロギーよりも、自然神学的な世界観の方が影響力を持っていたことを明らかにした。「自然」の状態に置かれた動物を観察することで、それぞれの種固有の特徴が理解され、創造主に対する畏敬の念とともに、理性の力が高まると考えられたのである。こうした教育理念は、動物学者、教育家、教師らが作成した教科書や参考書によって具体化し、広められた。しかし、当時の子供の日記や手紙からは、彼らが与えられた知識を自由に活用しながら、子供独自の様々な楽しみを生み出し、自然を理解していたことがわかった。これは、動物園の教育理念が失敗に終わったということではなく、むしろ、動物園が文化的制度として整備され、様々な目的のために利用されるようになったことを示している。また、動物園を介して科学知識が日常生活に組み込まれていく過程には、科学者だけでなく、様々な人々の主体的な関わりがあったことも明らかにした。
著者
上田 佳代
出版者
独立行政法人国立環境研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、黄砂の健康に対する急性影響を評価するために、長崎において、越境汚染の指標である黄砂飛来と救急外来受診との関連について明らかにすることを目的とした。予備調査として、文献レビューおよび、福岡における呼吸器疾患のデータを用いた解析を行い、それらの結果を論文として学術雑誌に投稿した。文献レビューにおいては、黄砂の健康影響に関するエビデンスが十分でなく、今後の課題として論じた。本調査として、平成22年度には、長崎市救急実態調査の救急搬送データ、長崎市内の5か所から得た大気汚染物質濃度データ、を用いた解析を行ったところ、SPM濃度上昇により、呼吸器疾患による救急搬送との間に有意な正の関連を認めた。一方、黄砂の健康影響評価にあたり、黄砂日について異なる指標を用いた解析を行った。目視による黄砂判定を用いた解析では、救急搬送の前日、2日前、3日前が黄砂日であった場合のリスクは上昇し、救急搬送当日から3日前までの間いずれかの日に黄砂日があった場合の救急搬送リスク変化率は、4.3%(95%CI : -0.7,9.5)であった。ライダー観測による黄砂消散係数に基づいて判定された黄砂日における救急搬送リスクを評価するために、高度120mにおける黄砂消散係数の値が閾値(0.13/km)を越えた日を黄砂日とし、非黄砂日に比較した黄砂日の救急搬送リスクの変化率を算出したところ、黄砂曝露による救急リスクは10.2%(95%CI : 0.6,20.6)上昇したことを見出し、黄砂消散係数を用いた黄砂判定による健康影響評価の有用性を明らかにした。さらに、後方流跡線解析の結果により黄砂日を分類し、救急搬送リスクの大きさについて比較したところ、工業地帯を通過した黄砂粒子の曝露により、救急搬送リスクが上昇する可能性を示した。
著者
福島 甫
出版者
東海大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

本研究申請時に比べ物質輸送モデルの研究が進み、黄砂降下量が一定精度で推定できるようになったこと、また衛星データが蓄積され、「年々変動の解析」がやりやすくなったことを勘案し、研究の重点を「鉄供給源と見なされている黄砂の沈着量と植物プランクトン量(衛星によるクロロフィル濃度推定値)」の関係の解析に移した。併せて東アジア域における大気汚染に関連する指標として、過去12年間にわたる日本近海におけるサブミクロン粒子の増減傾向に関する衛星データ解析を行った。(1)北太平洋における黄砂沈着量分布とクロロフィル濃度の関係に関する解析九大・竹村俊彦らのエアロゾル放射伝達モデルSPRINTARSによる最近13年間の北太平洋黄砂沈着量データと、MODIS・SeaWiFSデータによるクロロフィル濃度データの比較解析を北緯20~69°における北太平洋域の各小海域(緯度・経度各4°幅)について行った。黄砂沈着量とクロロフィル濃度については月間平均値・週間平均値(1・2週間の時間遅れ含む)どうしの直接的な相関を見いだすことはできず、年度内に成果としてまとめることはできなかった。しかし解析を通じて新たな着想が得られたので、引き続き解析を続ける予定である。(2)日本近海における小粒径エアロゾル増加傾向の解析1998~2009の期間の日本近海におけるSeaWiFSデータの独自再解析を行い、Aqua/MODISデータと重複する期間については両者の解析結果がよく一致すること、さらにこの間の小粒径粒子の割合が2006年頃を境に増加から減少に転じることを確認した。SPRINTARSによるモデル計算結果および「立山におけるサブミクロン粒子の体積濃度」の時系列データとの比較検討に関して本特定領域研究のA01班内の九大・鵜野および名大・長田と討論し、共同の成果としてとりまとめつつある。
著者
江口 弘久 谷原 真一 中村 好一 柳川 洋
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

(1)各県ごとの患者把握率Gは、疾病の種類に関係がない。(2)小児人口あたり突発性湿疹発生には地域変動がない。以上の仮定を設定し、小児あたり定点数地域格差および年末年始、連休などの受診への影響を調整した患者報告数の都道府県格差を比較するモデルを構築した。このとき、サーベイランスで報告されている定点あたりの患者数をPとすると、その県での小児人口あたり患者数T1とのあいだには、P×(定点数)=(小児人口)×T1×Gの関係が成り立つ。よって定点あたり患者数Pは、P=(小児人口)×T1×G÷(定点数)と表すことができる。突発性湿疹の定点当たりの患者数をESとすると、小児人口あたり患者数T2について、同様に、ES×(定点数)=(小児人口)×T2×Gであるから、ES=(小児人口)×T2×G÷(定点数)と表すことができる。よって、各都道府県についてP/ES=T1/T2となる。仮定から、突発性発疹の発生率T2は地域差がない定数としたので、P/ESの値を比較することで、地域格差を検討することが可能になる。実際に突発性発疹の定点あたり患者数を分母に用いた数値による検討では、麻疹の場合、1995年の北海道東北地域では第5週〜20週にかけてほぼ一定の値を示し、特続的な麻疹患者発生が考えられた。1996年では近畿、四国地域に前後の週と比較して著しく高い値が観察された週が存在し、サーベイランスシステムにおけるデータ入力ミスの可能性が考えられた。九州地域では福岡県で定点あたりの患者報告数では他の県と比較して高くなっていたが、この指標では大きな格差は認められなかった。各都道府県の小児あたり定点数の地域格差が是正されたために地域格差が観察されなかった可能性がある。
著者
胎中 千鶴
出版者
目白大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、近代における「国技としての相撲」をめぐる現象と言説について、これまで相撲史において言及されることが少なかった植民地・占領地など、いわゆる「外地」との関係性という視点から考察を試みた。その結果、「国技」成立の歴史的・政治的背景や帝国ナショナリズム分析、外地における「国技相撲」の実態解明について、多くの点が明らかになり、一定の成果を得た。
著者
川野 徳幸 大瀧 慈 原田 結花 小池 聖一 大瀧 慈 小池 聖一 原田 結花 原田 浩徳
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

(1)セミパラチンスク核実験場近郊住民を対象にアンケート調査及び証言収集調査を実施した。3年間で計459件のアンケート及び252点の証言を回収した。(2)従来収集したアンケート回答結果を用い、地区住民の核実験体験及び体験と被曝線量・爆心地からの距離との相関を検討した。同地区住民の核実験体験の有無は、爆心地からの距離に左右されている可能性が極めて高いことを明らかにした。(3)セミパラチンスク地区在住骨髄異形成症候群(MDS)患者の遺伝子変異を解析し、AML1変異が被曝線量依存性に高頻度であることを明らかにした。
著者
佐藤 彰一
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

研究着手の出発点であるトゥールのサン・マルタン修道院長アゲリクスのみならず、12月30日の聖人として5世紀のトゥール司教ペルペトゥスについての記述が含まれていることを明らかにした。中世の聖人祝日暦の系統を大きく二分するものとして、「アドン祝日暦」(860年)と「ウズアルドゥス祝日暦」(865-870年)がある。より広く参照されたウズアルドゥスの聖人祝日暦では、ペルペトゥスは4月8日が祝日とされているから、本写本がアドンの聖人祝日暦の系統に属する蓋然性が極めて高いことが明らかになった。
著者
佐藤 亨 奥田 良二 稲垣 伸一 佐藤 郁
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は19世紀におけるアイルランド移民について、大西洋をはさんだ4地域(南北アイルランド、アメリカ合衆国、カナダ)を取り上げ、多くの移民を送り出した「移民大国」アイルランドの移民前夜の状況、そして多くの移民を受け入れた「移民国家」カナダとアメリカ合衆国両国におけるアイルランド移民の影響を、さらには移民たちが外国に定住した後に祖国アイルランドに与えた影響を、歴史的・文化的・宗教的に検証し、「移民大国」と「移民国家」の内実を相互関係のうちに探求したものである。具体的には次の3点において明らかにした。(1)南北アイルランドにおける移民排出の歴史的背景についての考察(2)北米大陸にアイルランド移民が及ぼした社会的・文化的影響についての考察(3)移民を通してみたアイルランドと北米大陸の両地域の相互関連性についての考察。本研究の対象は大西洋をはさむ4地域であり、下記のように4人の研究者がそれぞれ一つの地域を担当する。南アイルランドからの移民(奥田良二)、北アイルランドからの移民(佐藤亨)、アメリカ合衆国への移民(稲垣伸一)、カナダへの移民(佐藤郁)。以上が担当地域であるが、研究方法や一次資料として用いたテキストは、統計(数値)をもとにした分析もあれば、詩や小説などの文学テキスト、あるいはソングなど多岐にわたる。なお、各研究者によって地域分担が決まっているものの、地域を横断するものが移民であるゆえ、南・北アイルランド担当者が北米大陸について、そして北米大陸担当者が南・北アイルランドについて言及した場合もある。また、本研究の成否は、各地域の研究を有機的に関連付けられるかどうかにかかっており、次の3点の具体的な作業を前提としたものである。(1)各地域についての先行研究(二次資料)の収集・読解(2)各地域における現地調査、及び一次資料の収集・読解・データベース化(3)研究者間の日常的な情報交換と定期的な研究会の実施。
著者
森 勝義 高橋 計介 尾定 誠 松谷 武成
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

1.マガキ液性因子の同定マガキの生体防御機構に関わると推測される液性因子を生化学的に特定した。まず、血リンパから210kDaのサブユニットからなるホモ二量体の420kDaのフィブロネクチンの精製に成功した。また、血リンパに少なくとも3種類存在すると考えられたレクチンのうち、約630kDa(22kDaと23kDaのサブユニットからなるヘテロポリマー)のEレクチンと約660kDa(21.5kDaと22.5kDaのサブユニットからなるヘテロポリマー)のHレクチンを精製した。さらに、殺菌因子として消化盲襄から17kDaのリゾチーム分子を精製し、食細胞による食菌後の殺菌に強く関与するミエロペルオキシダーゼがマガキ血球で初めて同定された。2.各因子の特性と細胞性因子との関係マガキフィブロネクチンはヒト、ニジマスフィブロネクチンとは血清学的に交差性はなかったものの、共通の細胞認識領域を持つことから、創傷部への細胞の誘導接着への積極的関与が推察された。Eレクチン、Hレクチンを含むそれぞれの活性画分に細菌に対する強い凝集作用が認められると同時に、凝集活性の見られない他の多くの細菌への結合も確認され、レクチンの幅広い異物認識機能が明らかになった。しかし、細菌への結合とそれに続く食作用のこう亢進との関連で期待された、オプソニン効果は見られなかった。精製された消化盲襄由来のリゾチームは、その特性からこれまで報告してきたリゾチーム活性を示した分子であり、外套膜由来リゾチームも同一成分であると考えられた。一方、至適pHが異なり、従来のリゾチームが示したのとは異なる細菌に対しても細菌活性を示す成分が消化盲襄に局在し、リゾチームとの関係に興味がもたれた。リゾチーム活性は血球には認められていないが、食菌後の殺菌を担う次亜塩素酸合成を仲介するミエロペルオキシダーゼの存在が証明され、細胞性の殺菌機構の一端が明らかとなった。
著者
岩崎 貢三 康 峪梅 田中 壮太 櫻井 克年 金 哲史 相川 良雄 加藤 伸一郎 NGUYEN VAN Noi LE THANH Son BANG NGUYEN Dinh VENECIO ULTRA Jr. Uy. TRAN KHANH Van ZONGHUI Chen NGUYEN MINH Phuong CHU NGOC Kien 小郷 みつ子 福井 貴博 中山 敦 濱田 朋江 杉原 幸 瀬田川 正之
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では, (1)ハノイ近郊の鉱山周辺土壌における重金属汚染, (2)紅河流域畑土壌における有害金属・農薬残留に関する調査を実施し, 特に有害金属に関し, 工場・鉱山を点源とする汚染と地質に由来する広域汚染が存在することを明らかにした. また, これら金属汚染土壌の植物を用いた浄化技術について検討するため, 現地鉱山周辺で集積植物の探索を行ない, Blechnum orientale L.やBidens pilosa L.を候補植物として見出した.
著者
津村 建四朗
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

地震活動の研究には、信頼できる地震カタログが不可欠である。我が国の全国的な地震調査事業は、明治17年に、内務省地理局(後の中央気象台)によって開始された。初期段階の約25年間は、主として測候所、郡役所等からの震度報告に基づいて震央が推定されていた。しかしそれら原報告及び解析結果のかなりの部分は既に散逸しているため、明治時代の地震活動の研究は進んでいない。本研究は残存する地震資料を収集・整理し、新たな地震カタログをつくり、データベース化することを目的としている。平成7年度には、1885-92の7年間についてミルンが作成したカタログをファイル化するとともに、気象庁に残存する原報告、中央気象台による調査結果を整理し、震度観測データファイルを作成した。平成8年度には、1904-10の7年間について「中央気象台年報(地震の部)」所載の地震観測表から震度観測データファイルを作成した。また、当時の震度観測地点約1500点の位置を特定し、観測地点データファイルを作成した。さらに、これらのデータファイルを用いて震度分布図をパソコンに表示させるとともに、第一近似の震央を自動推定し、これをマニュアルで修正するプログラムを開発した。これによって震度データに基づく震央再決定が効率的におこなえるようになった。中部地方以西については、震度分布からの震央決定が可能であるが、東日本については、異常震域の現象のため困難な場合が多い。このため目的とした地震カタログの完成には、さらに地震計記録の活用が必要である。平成9年度には、国立天文台水沢観測センターに保存されている地震計記録の調査を行った。
著者
新谷 尚紀
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究は、高齢化社会における老人と社会の問題に対して、近畿地方の伝統的な農村社会の典型例として奈良市大柳生、伝統的な都市社会の典型例として京都市東山区祇園弥栄地区をそれぞれフィールドとして民俗誌的研究を実施したものである。奈良市大柳生は宮座と両墓制のみられる村落で、その民俗調査研究の結果、以下の諸点が明らかになった。宮座の頂点に立つ長老衆に対しては特別な権威と敬意が村人たちから寄せられている。それは神社祭祀という特別な時間と場所に集中しているが、長老の存在はその妻や子供、孫までも含めて村落生活の様々な場で、その長寿の価値が村落内で暗黙の内に認められている。また、氏神の祭祀を重視する村落生活が背景となって、日常においても死の穢れを極端に忌避する生活が維持され、死体を埋葬する墓地を集落から遠く離れた山中に設営し、一方、石塔を建てる墓地は集落に比較的近い場所に設ける両墓制の形式が採用されており、死穢忌避の観念を背景とする宮座祭祀と両墓制との相関関係が推定された。京都市東山区祇園弥栄地区は、祇園八坂神社の門前におよそ正徳年間(1711-16)以降に開発されてきた繁華街の典型例であるが、この調査により以下の諸点が明らかになった。このような商業地域の場合、商家の定着率が低く人物の交流も家を単位とするよりも職業上の関係による部分が大きい。したがって、地元の祇園八坂神社の祭礼においても老舗としての商家の自覚と才覚とで一定の役割を担う老人がある一方では、他出したり移入したりした老人たちが多く、地域のすべての老人が活躍できるわけではない。むしろ、行政関与の老人福祉施策に対応した老人会の活動を通してその生きがいの確保をめざす老後の生活、自分の職業歴において獲得した人間関係を基本とした個人的な価値観に基づく生きがいの追及を試みる老後の生活など、多様な老後生活の充実への工夫がみられた。
著者
野町 素己
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本年度は、昨年まで行ってきた研究理論および研究材料の収集から、具体的な言語材料や言語研究を基にした記述・分析を行い、まとめる段階に入った。具体的には、主に(1)カシュブ語研究、(2)スロヴェニア語研究、(3)ブルゲンラシド・クロアチア語研究を行ったが、中でも広い意味での「所有文」からの派生構文としての「間接受動文」の類型的研究において成果を挙げた。当該構文の研究は、上記3言語において、これまで記述・分析が全く行われていなかった部分なので、個々の言語研究への貢献と同時に、スラヴ語類型論への貢献になったといえる。この成果は、3月末に行われるロシアおよびイギリスの国際学会で発表される。また、これまでの研究成果を踏まえて、新刊のロシア語文法書への書評論文(Russkijjazyk za rubezhom 210,No.5,pp.98-101)、アレクサンデル・ラブダによる未刊のカシュブ語文法の紹介と批評も行った(2009年1月10日の地域研究コンソーシアム次世代ワークショップにて)。その他、本研究の国際的な意義についても述べる必要がある。本年度の成果を出すにあたり交流を続けできた海外の研究者(アメリカ、デンマーク、ポーランド、オーストリア、セルビア、クロアチア、マケドニアなど)とともに、ICCEES(International Council for Central and East European Studies)の全国大会に向けて、パネル組織を視野に入れた共同研究を進めており、個人研究から国際共同研究という新たな段階に進んでいる。
著者
福留 邦洋
出版者
新潟大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、災害時における中山間地域の脆弱性を明らかにしながら、どのような点に考慮すれば持続的な復興につながるのか考察することを目的とした。具体的には、新潟県中越地震における被害傾向、復興過程を整理、分析しながら、集落移転や復興基金、義援金など地域再建のためのしくみに着目した。そして復興の概念、策定方法等について考察し、地域特性に応じた復興計画について検討を行った。
著者
藤井 博信 梅尾 和則 鈴木 孝至 桜井 醇児 藤田 敏三 高畠 敏郎 溶野 稔一
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

セリウム(Ce)やウラン(U)を含む一連の金属間化合物において、f-電子は配位子のs,p,d-電子との混成効果によって強い電子相関を保ちながら結晶中を偏歴し、低温で重い電子状態を形成する。それと同時に近藤格子型相互作用によって極めて異常な基底状態が出現する。本研究では、基底状態で示す種々の特異な物性が異方的混成効果に起源する現象であると考え、純良単結晶を育成し、それを用いた系統的な物性研究を計画した。まずトリ・アーク溶解炉、赤外線集中加熱炉、高周波溶解炉を整備しチョコラルスキー法による単結晶の育成法の確立に着手した。良質なCeNiSn,CeNi_2Sn_2CePt _2Sn_2,Upd_2などを含め7種類の単結晶の育成に成攻した。これら結晶を用いて、電気抵抗、帯磁率、熱電能、ホール係数、比熱および超音波による弾性定数などの異方性の測定を行った。主な成果を要約すると、(1)CeNiSnは斜方晶(ε-TiNiSi型)のa軸に沿って磁場(H>13T)を印加すると、V字型のギャップが潰れ半導体から金属へ転移し重い電子状態が複活する又圧力(P≧20kbar)を作用することによってギャップが異方的に潰れる、一方同じ結晶構造を示すCePtSnは0.3Kまで金属として振舞う。(2)CePdInとUPdInは同じ結晶構造(ZrNiAl-型六方晶)をとるが、それらが示す物性は極めて対照的な振まい(Pa>Pc:波数ベクトルQ=(0.25,0,0)forCe系とPa<PcQ=(0,0,0.40)forU系)を示し、異方的混成効果がCePdInでは結晶場効果と逆方向へ作用(帯磁率へ対して)し、UPdInでは結晶場効果と増強する方向へ作用する、(3)CeNi_2Sn_2Cept D22 D2 SnD22D2は異常に重い電子状態(γ〜5J/mole)を形成し、極めて異方的な物性を示す。その解析より、結晶場励起エネルギーが低く、近藤効果とRKKY相互作用が競合した新しいタイプの重い電子状態であることなどが明らかにされた。今後は、更に純良な単結晶育成法を確立し、詳細で多面的な研究を行う予定である。
著者
金子 仁子 坂本 道子
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

保健婦が実施してきた、住民とともに保健活動を推進し施策化へ至る方法論つまり保健婦活動におけるヘルスプロモーションを推進する方法を明確にしたい。ヘルスプロモーションをめざした活動を行った効果として、住民の健康意識・保健行動・健康度への影響についても明かにしたい。1 保健婦活動におけるヘルスプロモーション推進方法探求のための事例検討文献から選んだ地域(福祉活動由来のもの保健活動由来のもの)に、実際に現地に赴き、関係者から活動の発展プロセス、施策化への住民のかかわりの現状を調査し、活動促進要因を抽出した。、福祉活動と保健婦活動の相違点では、保健婦活動由来ではセルフケアの概念が取り入れられていることが明らかになり、活動推進要因は民主的な話しあいや民主的なリーダーの存在、タイムリーな学習であった。2 ヘルスプロモーション推進のための健康学習グループ活動支援の効果一般住民に比べ健康康学習グループ活動に参加している住民のセルフケア行動や、地域の健康問題への関心は、塩分を控えるなど保健行動は望ましい状況になり、地域保健活動も関心が高くなっていることが明らかになった。3 ヘルスプロモーション推進のためのコミュニテイ・ミーテイングの成果と課題2年間に渡り練馬区において、住民主体による施策関与方法の1方法として行われたコミュニテイ・ミーテイングについての効果は、住民がその方法を活動に取り込むなどがあり、課題は行政側と住民側のパートナーシップであった。
著者
小沢 朝江 池田 忍 水沼 淑子
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

(1)近世内裏における天皇常御殿と女御常御殿を比較すると、同じ用途の部屋でも天皇御殿の方が天井が高く、仕様も高い。また本途(1坪当たりの大工工数)は、天皇常御殿の御学問所など表向の御殿に次いで高いのに対し、女御常御殿は若宮御殿よりも低い。したがって両常御殿の寸法の差異は、女性の身体寸法に合わせたものではなく、天皇と女御の「格」の差を表現したものと判断される。(2)女御御里御殿は、女御の御産に用いる御殿であり、延宝度以降南東隅を上段、上段の西室を二の間、北室を寝所兼産所とする平面を踏襲したが、寛政度以前が上段・寝所を中心とする内向きの御殿であるのに対し、寛政度は、上・下段から成る儀式空間に変化した。この寛政度上段・二の間の「錦花鳥」「子の日の小松引き」の障壁画は、一見異なる画題ながら「根引きの小松」のモチーフで連続する。小松は、江戸時代中期以降定着した「内着帯」に用いられる道具のひとつで、寛政度の障壁画は御里御殿が「内着帯」の儀式空間に変化したことを視覚的に表現したと考えられる。(3)旧東宮御所(明治42年竣工、現:迎賓館)は、従来欧州の宮殿建築を参考にしたと指摘されていたが、洋館でありながら明治宮殿(明治21年竣工)や近世内裏の配置を参考に設計され、特に1階の寝室や居間は、東宮が東宮妃側を訪れるという近世以来の用法を前提に計画されたことが判明した。一方、東宮妃側にも政務を行う御学問所や内謁見所を設けた点は近世と大きく異なり、東宮妃の公務への関与が想定された。また、各室を東宮・東宮妃側で同型同大で設け、意匠にも大きな格差をつけないこと、東宮妃側のみ子ども用の椅子やフットレスト(足台)を配置したことは、東宮妃が東宮と「一対」であり、東宮妃が理想の妻・母であることを強調したと考えられ、明治天皇以前とは異なる「理想の家族」という新たな天皇・皇后像の表現が意図された。
著者
今西 和俊
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

大地震の発生過程を理解するためには、絶対値まで含めた応力場の情報が欠かせない。そこで、余震のメカニズム解と本震断層のすべり量分布を用いて震源域における絶対応力場を推定する方法を提案し、それを4つの地震(1995年兵庫県南部地震、2007年新潟県中越沖地震、2007年能登半島地震、2009年駿河湾の地震)に適用した。推定結果は色々な観測事例とも調和的であり、手法の有効性も確認できた。
著者
矢野 裕俊 岡本 洋之 田中 圭治郎 石附 実 添田 晴雄 碓井 知鶴子
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、日本の教育において常識とされる問題や事象を諸外国との比較によって、あらためて常識-非常識の対抗軸の中でとらえ直し、そうした常識が世界では必ずしも常識ではないという例が少なくないことを明らかにした。1)異文化理解と国家へのアイデンティティ形成を両立させるという課題は世界各国の教育において重要な関心事とされてきたが、日本では一方において国家を介在させない異文化理解教育の推進と、他方において教育のナショナリズムに対する相反するとらえ方がそれぞれ別個の問題として議論されてきた。2)入学式に代表される学校行事は、集団への帰属意識の形成と結びついて日本の学校では行事の文化が格別に発達した。日本の学校のもつ集団性をこの点から解明する試みが重要である。3)教員研修の文化においても、アメリカでは個々の教員の教育的力量形成、キャリア向上が研修の目的であるが、日本では、教員の集団による学校全体の改善に重きが置かれ、研修は学校単位で行われる。4)歴史教育は、その国の歴史の「影の部分」にどのように触れるのかという問題を避けて通れない。イギリスと日本を比較すると、前者では異なる歴史認識が交錯する中で、共通認識形成と妥協の努力が見られるのに対して、日本では異なる歴史認識に基づいて体系的に記述された異なる教科書が出され、共通認識形成の努力が必ずしも教科書に反映していない。5)戦後日本の大学における「大学の自治」の問題も大学の非軍事化、非ナチ化が不徹底に終わったドイツの大学の例と関連づけて考えてみることによって新たな視点が得られる。
著者
進藤 兵
出版者
都留文科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.本研究は、石原都政に関して、都市政治学的アプローチに拠りながら、大ロンドン行政庁(GLA)との比較を行うことを通して、その現代的特質を解明することを目的としていた。当初の研究計画においては、初年次(2005年度)には先進諸国の地方自治体における現代都市政治に関する理論研究を進め、第2年次(2006年度)には、東京都およびGLAにおけるいくつかの政策分野についての比較研究を行い、第3年次(2007年度)には東京都知事選挙の分析と行うとともに、全体の総括を行う予定であった。2.研究の成果について、理論面と東京・ロンドンの具体的な都市政治に関する実証面とに分けて述べる。 まず理論面に関してであるが、(1)現代先進諸国における1970年代までと1990年代以降とのそれぞれの経済-社会-政治をトータルに捉えれば、「国民経済の枠内でのフォード主義経済」から「グローバル化しつつある知識集約型経済」へ-「国民社会の統合」から「多文化主義/新保守主義の拮抗」へ-「ケインズ主義型福祉重視国民国家」から「シュムペーター主義型就労重視脱国民的脱国家化」へ、と要約できること、(2)この図式は、地方自治体でありながら世界都市として国民国家やグローバル経済の動向と密接不可分である東京やロンドンのような都市における政治には、おおむね妥当すること、(3)ただし上記の構造変動にはいくつかのヴァリエーションがあること、すなわち現代都市政治には少なくとも2つのタイプの公共性が並存していること、(4)具体的には、石原・東京都政に現れているような「新自由主義プラス新保守主義型」とリヴィングストン・GLA政治に現れているような「維持可能性のある福祉国家型」という2つのタイプの都市政治が存在すること、を明らかにした。次に実証面であるが、(1)2007年4月の東京都知事選挙について分析を行うことが出来たこと、(2)GLAについては4年に一度の市長選挙・議会選挙は本研究の終了直後である2008年5月1日に行われたが、本研究によって購入することが出来た文献・機材や行うことが出来たロンドン現地での調査(2007年3月)によって、この2つの選挙についても分析行うことが出来たこと(その内容については、研究成果報告書の中に収録する予定である)、(3)具体的な政策分野としては、本研究に着手した後に教育改革の分野が重要であることが次第に明らかになったことから、教育政策についても検討したこと、が成果であった。3.上記の点いずれについても、石原都政についてはジャーナリスティックな取り上げ方がなお多数を占め、GLAについては具体的な研究が日本ではあまり進んでいない中、比較的ユニークな成果を上げることが出来たと考えており、現代日本の地方自治および都市政治の将来像について学界に一定の貢献をなしえたと思料する。