著者
日野 阿斗務 細田 進 勝部 健 椎川 彰
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.47-50, 2019
被引用文献数
1

<p>症例は45歳女性.僧帽弁後尖逸脱による中等度僧帽弁逆流症の診断で,定期的な外来経過観察をされていた.二週間前発症した蜂窩織炎を契機に呼吸苦を認め,来院した.来院時の心電図にてV4,V5,V6にST上昇と血中クレアチニンキナーゼの上昇を認め,胸部レントゲンでは肺うっ血像を,経胸壁心臓超音波検査にて大動脈弁および僧帽弁に高度逆流と両弁尖に複数の可動性を有する疣贅を認め,さらに前壁の壁運動低下を認めた.頭部MRIおよび全身造影CTで右前頭葉脳梗塞像,脾臓梗塞,右腎臓梗塞を認めた.感染性心内膜炎による大動脈弁と僧帽弁の高度逆流による急性心不全および心筋梗塞を含めた全身塞栓症と診断し,緊急手術の方針とした.全身麻酔導入後,カテコラミン不応の著明な血圧低下を認め,持続性心室頻拍へ移行し,ショック状態に陥った.電気的除細動無効のため,胸骨圧迫を開始し,急遽経皮的心肺補助装置を装着した.血行動態安定後,手術を開始した.術中所見では,大動脈弁,僧帽弁および左房壁に疣贅の付着と僧帽弁後尖の広範囲の腱索断裂を認めた.疣贅郭清後,僧帽弁および大動脈弁置換術,および三尖弁形成術を施行し,手術を終了した.術後高度肺水腫と循環不全が長期化したが,徐々に回復傾向を示し,第52病日に独歩にて退院となった.9カ月後の現在も感染再燃を認めずに経過している.冠動脈塞栓を伴う感染性心内膜炎は重篤で死亡率も高いとされるが,その報告は稀で,文献的考察を加えて報告する.</p>
著者
宮城県総務部広報課
出版者
宮城県
巻号頁・発行日
no.(489), 2010-12-01
著者
伊藤 成朗
出版者
The Health Care Science Institute
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.5-48, 2008

インドでは,貧困家計が質の高い医療サービスを利用しづらいのが大きな保健問題である。広大で多様な国土によって農村・遠隔地に公立医療施設が未だに不足しているためである。公立医療施設があっても,医師や看護師の欠員や無断欠勤でサービスをいつ受けられるか予測できなかったり,無料薬の在庫切れ,長い待ち時間,接見態度,賄賂などの問題もある。貧困家計は医療保険を持たないので,多大な出費を要する私立病院は最終手段である。このため,貧困家計を中心に医学知識を持たない無免許医を利用する傾向がある。データによる検証でも,貧困層の利用は質が低いとされる公立病院が主で,利用日数も富裕層より少ない。公的医療サービスの質が低いのは,職員に適切な職務環境とインセンティブを政府が供与できていないためである。よって,施設を拡充しつつ,成果を人事評価に反映させる必要がある。最低限の医療の質を確保する人事評価制度の運営は容易であるが,同時に病院経営の独立性を確保し,市町村自治体に監視を委ねる必要がある。こうした改革は州政府がすべての権限を持つ現体制では不可能であり,分権化が要請される。分権化は中央政府が数十年間標榜しているが,既得権益に反するために大多数の州で停滞している。公立だけでなく,私立病院を利用しやすくするために,マイクロインシュアランスなどを通じた医療保険も整備すべきである。民選された州議会のイニシアティブを仰ぎつつ,革新的な人事評価制度の試行,分権化の促進,マイクロインシュアランスの試行などは,外国ドナーが政策対話を通じて働きかけてよいであろう。
著者
井上 昌幸
出版者
社団法人日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科學會雜誌 (ISSN:03895386)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.1127-1138, 1993-12-01
被引用文献数
12 8

今年度から本誌に「依頼論文」欄を新設しました.そのために編集委員会の中に「企画小委員会」を設け,本学会で以前発表されたシンポジウムなどから特に1.トピック的なテーマ,2.総説的で系統的なテーマを決定し,代表執筆者に原稿のご執筆をお願いして本誌に順次掲載することになりました.したがって,本論文は,いわばこれらの企画の第一号であり,以前井上先生により報告された宿題講演の主旨をまとめられたものであります.金属アレルギー問題はタイムリーなテーマであり,本論文には日常の補綴臨床にたずさわるわれわれ臨床家にとってきわめて有意義な情報が提示されています.本研究の代表者である井上先生ならびに共同研究者の諸先生方のご努力に対して改めて敬意をします.
著者
鈴木 充 阮 儀三 徐 民蘇 丸茂 弘幸 三浦 正幸 呉 凝
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.241-250, 1990 (Released:2018-05-01)

中国の住宅建築は明清時代を通じて大きな変化をみせなかったといわれている。蘇州市は前514年に建設され,それ以後城市の輪郭線を変えずに現在まで続いてきている都市である。特に1130年に兵火に遭い,再興されてからはほとんど都市構造を変えないまま,近代を迎えたといわれている。本研究はそのような蘇州市を文献資料と民居遺構の両面から解析して,中国都市住宅の歴史的背景を解明しようとするものである。研究は,まず,文献と1239年ごろ刻まれた〈平江図〉を資料にして,現地形に1229年時点の蘇州の市街を再現し,前街后河といわれる水郷都市としての特徴ある敷地割が,宋時代に始まったという推論を得た。従って唐時代以前の住宅地は現在大規模住宅の敷地になっている部分に集約されることになる。遺構面での追及は,民国時代に書かれた建築書〈営造法原〉の分析から,殿庭と呼ばれる富豪達の住宅も基本的には民居の構成方法と変らないことを確かめた。また,実際の住宅建築遺構では,しょう門西北の山塘街揚安浜で明初期から中末期にかけての遺構3棟と,清時代の遺構7棟を発見し,明時代から堂と天井(中庭)と廂防を組み合わせる三合院を基本単位(進)にして,その単位を奥行方向に繰返すことにより,第宅を形成していることがはっきりした。また,これら一串の住宅を落と呼び,主落の両脇に2落3落と並べ1屋を形成することによって大宅が形成され,各落は年代的に異なっているものもあり,周囲の住宅を買取することによって大宅が形成されて行くものと考えられる。山塘街は主として2進程度の小宅からなり,街路空間の構成は,十数メートルおきに道幅の狭広による節づけが成されており,その南に続く揚安浜には明清建築からなる5進3落の大宅があり,更に5進1落系の密集地もあり,前街后河の山塘街と合わせ,水郷都市蘇州の民居を代表する建築空間を有する地区であることが判明し,保存の措置が講ぜられることになった。
著者
上野 雄史
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.638, pp.638_107-638_124, 2017-09-30 (Released:2018-05-22)
参考文献数
10
被引用文献数
2

本稿では,2017年5月に公表されたIFRS17「保険契約」適用後の保険会社のディスクロージャーのあり方について論じる。IFRS17は保険負債に関する詳細な情報が提供される枠組みを提示し,投資家の意思決定に有用な情報を提供することが期待されている。一方で,IFRS17は,割引率の変動に関する損益計上などに選択肢が与えられ,かつ多くの測定要素において具体的な手法が示されていない。このため,IFRS17に基づく情報が投資家の意思決定に有用であるかどうかは未知数であろう。近年では,形式的な会計情報以外の重要性が高まっており,会計処理の複雑化や妥協的な基準設定は情報の有用性を喪失させることになる。一方で,保険会社(保険者)の法的責任に基づいて開示された情報は,利害関係者にファンダメンタル(基礎的な情報)を提供することに繋がり,保険契約者を含む利害関係者間の利害調整を円滑化することが期待される。
著者
伊藤 泰典 高橋 公也 宮本 真孝 高見 利也 小林 泰三 西田 晃 青柳 睦
雑誌
研究報告 音楽情報科学(MUS)
巻号頁・発行日
vol.2011-MUS-89, no.17, pp.1-6, 2011-02-04

圧縮流体の解析ツールである Large Eddy Simulation(LES) を用いて、2 次元、および 3 次元エッジトーンのシミュレーションを行った。Lighthill の音源分布を計算し、渦度分布と音源の関係を考察した。
著者
及川 和美 荒金 圭太 倉藤 利早 斎藤 辰哉 松本 希 高木 祐介 河野 寛 藤原 有子 白 優覧 小野寺 昇 Oikawa Kazumi Arakane Keita Kurato Risa Saito Tatsuya Matsumoto Nozomi Takagi Yusuke Kawano Hiroshi Fujiwara Yuko Baik Wooram Onodera Sho
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.453-456, 2011

本研究は,「水中だるまさんがころんだ」運動時の心拍数と酸素摂取量の変化から水中運動としての「だるまさんがころんだ」の特性を明らかにすることを目的とした.被験者は,健康成人男性8名(年齢 : 21±2歳,)とした.被験者は,鬼が「だるまさんがころんだ」と発声している時に最大努力で水中を移動し,声が止んだ時に静止した.鬼までの距離を20mとした.鬼に到着するまでを1セットとし,3セット繰り返した.セット間には,3分間水中立位安静を行った.測定項目は,心拍数と酸素摂取量とした.運動後の心拍数および酸素摂取量は,1セット目の運動時と比較して,1セット目以降の運動時が,同等あるいはそれ以上の値を示した.水中でも陸上の「だるまさんがころんだ」と同様にインターバルトレーニング様の心拍数と酸素摂取量変化を示した.運動生理学的な分析から「水中だるまさんがころんだ」が身体トレーニングの要素を持つことが明らかになった.
著者
唐 方 中西 由香 中野 厚 阿部 博子
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.7-15, 1997-07-20
参考文献数
11

加齢に伴う小腸粘膜形態の変化に対する六君子湯, 補中益気湯, 人参養栄湯, 半夏瀉心湯の影響を検討した。その結果, 36週齢ラットの小腸粘膜の変化には六君子湯, 補中益気湯のような補気健脾剤が有効で, 特に絨毛と微絨毛の吸収面積の改善には濃度依存性が認められた。ところが, 50週齢. 70週齢のより高齢のマウスに対しては人参養栄湯のような気血双補剤が有効で, 小腸の形態及び吸収機能が著明に改善されることが明らかになった。
著者
細谷 和海 西井 啓太
出版者
近畿大学農学部
雑誌
近畿大学農学部紀要 = Memoirs of the Faculty of Agriculture of Kinki University (ISSN:04538889)
巻号頁・発行日
no.36, pp.73-130, 2003-01-01

Biological articles about so-called black basses, viz., the largemouth bass Micropterus salmoides and smallmouth bass M dolomieu, were compiled in a bibliography. Black basses are typical invasive alien fishes transplanted from North America, and constitute a serious biohazard in Japanese freshwaters. The bibliography lists approximately 500 articles including scientific papers, reports, and other miscellaneous printed materials, which are classified into seventeen specifically ordered subjects both in English and Japanese. This bibliography aims to provide necessary information to the persons such as scientists, conervation officers, and volunteers concerned about the bass problem, to help them to understand it the problem objectively, and to promote the eradication or control of alien basses in Japan.
著者
石崎 安洋 仲江川 敏之 高藪 出
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B1(水工学) (ISSN:2185467X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.I_433-I_438, 2011 (Released:2012-03-14)
参考文献数
16

We analyzed results of three Regional Climate Models (RCMs) for 1984 to 2004 performed at 20-km horizontal grid spacing over Japan and the results of Japanese reanalysis data (JRA), and compared them with ground observations. Although JRA underestimated precipitation in Kochi Prefecture in the summer and in Niigata Prefecture in the winter, all the RCMs improved the underestimated precipitation in both prefectures. In addition, the skills of interannual variations in the three RCMs are superior to those in JRA. Futhermore, the skills of multi-model ensemble means, in particular, weighted multi-model ensemble means are distinctly superior to those of JRA on an interannual timescale. Thus, RCMs and their multi-model ensemble means are powerful tools for investigating interannual variations of future projections and seasonal predictions over Japan.
著者
芦原 評 清水 謙多郎
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.38, no.7, pp.1379-1388, 1997-07-15
参考文献数
9

特定の故障箇所が存在しないにもかかわらずシステムの永久停止をもたらすデッドロックは計算機システムにおける重要な問題である.デッドロック検出問題は,排他的に使用可能な資源群とそれを要求するプロセス群からなる一般資源システムの状態グラフ還元問題としてモデル化されるが,使用すると消滅する消費資源を含むシステムでのデッドロック検出問題は一般にはNP完全であり,その重要性にもかかわらず注目されることが少なかった.本論文では,消費資源を含むシステムに一定の制限を加えることで,3つのクラスにおいて多項式時間内でのデッドロック検出が可能であることを示す.Deadlock detection in computer systems can be modeled as a graph reduction problem of general resource systems,which consist of processes,reusable resources and consumable resources.Deadlock detection in reusable resource systems is well known.If all resources in the system are released after use,the problem has polynomial-time solutions.However,the problem is NP-complete in general resource systems with consumable resources,units of which vanish after use.This paper provides three special cases of systmes with consumable resources for which polynomial-time deadlock detection algorithms exist.It is shown that those three factors,(1) consumable resources with non-trivial selections in the allocation of currently available units,(2) processes which request more than one unit and (3) resources which wait for more than one process,are all necessary for the problem to be NP-complete.
著者
粟津 光世
出版者
京都産業大学法学会
雑誌
産大法学 (ISSN:02863782)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.478-455, 2008-11

はじめにケース13件 ①~⑬1.刑事附帯民事訴訟2.訴提起の期間、方式、審理3.原告と被告の人的範囲4.請求の範囲―(特に慰謝料、謝罪、形成権) (以上42巻2号)5.刑事附帯民事訴訟中の調停と量刑斟酌 (以下本号)6.無罪・免訴・公訴/自訴棄却と刑事附帯民事訴訟7.刑事の抗訴・上訴と附帯民事の上訴8.押収贓物の還付と刑事附帯民事訴訟9.自訴と刑事附帯民事訴訟10.検察院による刑事附帯民事訴訟11 .中国の「刑事附帯民事訴訟」と日本の「犯罪被害者権利保護法」12.まとめ
著者
中戸川 早苗 出口 禎子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.70-79, 2009-05-31 (Released:2017-07-01)
参考文献数
9

本研究の目的は、精神障害者の働く動機を支える想いを明らかにし、「働くこと」に向きあう精神障害者を支えるために、必要な支援について示唆を得ることである。地域共同作業所での参加観察およびインタビューを行い、精神障害者の働く動機を支える想いについて収集したデータを質的に分析したところ、5カテゴリーが抽出された。研究参加者は、皆【今の状態から抜け出したい】という想いから「働くこと」に向き合っていた。また、趣味や楽しみを求める【生活の張り・生活の保持】により楽しく生きられる力を獲得していた。仕事を通して成功感を感じながら【自信や誇りを得る】、【人との繋がりを取り戻したい】、【自分が変わることへの期待】で自分も人の役に立つことを再認識し、周囲の人に支えられていると感じることによって、アイデンティティの揺らぎから生じる不安を抑えていた。それらは働く動機と繋がっていた。このことからアイデンティティの揺らぎを受け止め、自己へ挑戦する気持ちに繋がる経験ができるように支援する必要性が示唆された。