著者
渡辺 啓 大村 孝之 池田 智子 三木 絢子 勅使河原 喬史
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.185-191, 2009-09-20 (Released:2011-12-09)
参考文献数
11
被引用文献数
2 3

W/O乳化は油性の成分を皮膚に展開しやすく,高いエモリエント性などの特徴がある重要な基剤である。このような機能性の一方で,W/O乳化には技術的に改善すべき課題が存在する。本研究では,乳化剤として複数の水酸基を有する親油性の界面活性剤であり,水との共存系で二分子膜が立方晶型に充填した特異なバイコンティニュアスキュービック液晶を形成することが知られているフィタントリオール(3, 7, 11, 15 -tetramethyl- 1, 2, 3 -hexadecanetriol)に着目した。その結果,非極性油,極性油,シリコーン油などさまざまな油分系において,97%もの高内水相比でありながら安定なW/Oクリームを調製することに成功した。乳化メカニズムを解明するため,水,油,フィタントリオール3成分系における相平衡を詳細に検討した。この結果,本乳化系においては,バイコンティニュアスキュービック液晶と構造的な相関性の高いバイコンティニュアスマイクロエマルション相を外相として有するという興味深い乳化メカニズムが明らかになった。さらに,皮膚に塗布時の溶媒の揮発に伴う組成変化により,薄い液晶膜が皮膚上に展開し,さまざまな機能が付与されることが明らかになった。本技術により,重要な機能であるエモリエント性,オクルーション効果がありながら,べたつき,油っぽさがない,極めてさっぱりとした良好な使用感触のクリームが初めて調製可能となった。
著者
清水 聡
雑誌
玉川大学経営学部紀要
巻号頁・発行日
no.31, pp.17-31, 2020-03-20

本稿は,1950 年代における極東情勢と欧州情勢に対するソ連外交の決定過程を取り上げる。1950 年,朝鮮半島において朝鮮戦争が勃発し,極東において「冷戦」は「熱戦」へと転化した。アメリカは朝鮮戦争に迅速に介入し,ソ連に対して攻勢を強めた。その上,西側連合国(米英仏)は,ソ連が西欧を攻撃するというシナリオを防ぐために西ドイツの再軍備を決定した。1950 年,西ドイツの再軍備問題は欧州防衛共同体(EDC)として計画された。 この時期,ソ連は西側連合国に対して中立を基礎にドイツを再統一することを目的としてスターリン・ノートを提案した。しかしながら西側連合国は,スターリン・ノートをEDC 条約の調印を妨げることを目的とした危険な提案と見なして拒否した。 アメリカがソ連に対する強硬な政策を採用したことに直面して,スターリンは極東情勢と欧州情勢のグローバルな連関を再考しなければならなくなった。スターリンは東西ドイツ間の境界線を危険な地帯として,防衛することを東ドイツ指導部に命令した。朝鮮戦争とスターリン・ノートの失敗は冷戦に強い衝撃を与えた。 冷戦史研究に取り組む研究者にとって,極東情勢と欧州情勢とのグローバルな連関は,重要な主題であり,この研究モデルは冷戦の真相を解き明かす可能性を秘めている。
著者
Ushio JIMBO Junji YAMADA Ryota SHIOYA Masahiro GOSHIMA
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
IEICE TRANSACTIONS on Electronics (ISSN:09168516)
巻号頁・発行日
vol.E100-C, no.3, pp.245-258, 2017-03-01
被引用文献数
1

Timing fault detection techniques address the problems caused by increased variations on a chip, especially with dynamic voltage and frequency scaling (DVFS). The Razor flip-flop (FF) is a timing fault detection technique that employs double sampling by the main and shadow FFs. In order for the Razor FF to correctly detect a timing fault, not the main FF but the shadow FF must sample the correct value. The application of Razor FFs to static logic relaxes the timing constraints; however, the naive application of Razor FFs to dynamic precharged logic such as SRAM read circuits is not effective. This is because the SRAM precharge cannot start before the shadow FF samples the value; otherwise, the transition of the bitline of the SRAM stops and the value sampled by the shadow FF will be incorrect. Therefore, the detect period cannot overlap the precharge period. This paper proposes a novel application of Razor FFs to SRAM read circuits. Our proposal employs a conditional precharge according to the value of a bitline sampled by the main FF. This enables the detect period to overlap the precharge period, thereby relaxing the timing constraints. The additional circuit required by this method is simple and only needed around the sense amplifier, and there is no need for a clock delayed from the system clock. Consequently, the area overhead of the proposed circuit is negligible. This paper presents SPICE simulations of the proposed circuit. Our proposal reduces the minimum cycle time by 51.5% at a supply voltage of 1.1 V and the minimum voltage by 31.8% at cycle time of 412.5 ps.
著者
秋間 弘貴 後藤 春彦 山村 崇
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.644-649, 2015

本研究では、わが国の代表的なアニメ産業集積地である東京西郊を分析の対象地として、アニメ制作企業における立地選好の変化をデジタルに伴う作業工程の変化に着目して分析を行う。具体的には次の2点を明らかにする。(1)デジタル化に伴う作業工程の変化 。(2)デジタル化前後における立地要因の変化。近年、コンテンツ産業はその高い成長性から注目されている。その中でも、アニメ産業地域経済の牽引役として期待されている。デジタル化に伴うアニメ産業の立地要因とその変化を分析することは、産業集積の展開を推定する事になるほか、ポスト工業化時代における地域経済の牽引役として重要性を高めつつある、コンテンツ産業の立地特性を理解するためにも重要である。
著者
西野 春雄
出版者
野上記念法政大学能楽研究所
雑誌
能楽研究 (ISSN:03899616)
巻号頁・発行日
no.18, pp.p173-190, 1994-03

ここ数年、能楽界は催しの数も格段に増え、全国各地での薪能も頂点に達した感があった。各地の薪能の開催日・演者や番組・その他の内容について『観世』編集部が一冊にまとた『今年の薪能』が出版される程であるが、近年はバブルが弾けたためか、地方公共団体主催による薪能・野外能は、ひところよりは減少してきており、催会過密の解消にはむしろ歓迎すべき現象かもしれない。薪能ばかりが能の普及や観客層拡大の手段ではないはずで、これまでの成果を踏まえつつ、さらに工夫してもらいたいと思う。また近年の特筆すべき動きとして、横浜・名古屋・大津など地方都市に続々と能楽堂の建設が進んでいることである。国立能楽堂をはじめ各地の既存の能楽堂の長所を積極的に取り入れながら、その地域の特色や立地条件を生かした能楽堂の建設に期待したい。そして、ハードの面もさることながら、ソフトの面での清新な発想を望みたい。多目的がいつのまにか無目的になった例もあるから、慎重に進めてもらいたい。ところで、以前も本欄で取り上げたことがあるが、年間を通じての各流各派の常の会はいうまでもないが、昭和62年から始まった国立能楽堂の研究公演(武文・舞車・当願暮頭)をはじめ、梅若六郎・大槻文蔵などによる活発な廃絶曲の復曲活動や、古演出の復活上演などが、近年積極的に行われている。本研究所でも創立40周年を記念し「鐘巻」を復曲した(彙報参照)。一方、心臓移植の問題を取り上げた多田富雄作「無明の井」、W・B・イエーツ原作・高橋睦郎作「鷹井」などの新作能も盛んで、話題を呼んだ。今後とも、能の精神や技法に基づきつつも、類型にこだわることなく、誤り訛誤を正し、古典に新たな生命を吹き込んでもらいたい。現代と相渉る創作活動は、能が現代の演劇の一翼を担う芸術であるかぎり、将来も積極的に続けられるであろうし、そうあってほしい。ところで、国際化の波はあちこちに現れているが、国立能楽堂主催の外国人のための能楽鑑賞会もそのひとつであろう。年一回の公演ながら、着実な動きを見せつつある。概要を記した英語・中国語・ドイツ語・フランス語・朝鮮語・スペイン語によるパンフレットも有難く、演能に先立ちリチャード・エマート氏による英語の解説もある。さらに有料ながら、モニカ・ベーテ氏とリチャード・エマート氏、及びロイヤル・タィラー氏による戯曲構造に留意し対訳その他にいろいろと工夫が施された解説書も有益で(これまで「松風」「藤戸」「三井寺」の三冊を刊行)、これからも末長く継続してほしい。とくに技法面にも言及した解説書は、類書もあまりなく、これまでの英訳書の水準を抜いており、年一冊づつでも刊行されれば、将来の良き資料となるだろう。あまり知られていないが、国立能楽堂ならではの仕事である。このように能楽界は未曾有の盛況を呈しているが、一方で、シテ方・ワキ方・狂言方・囃子方ともに、それぞれかけがえのない人物を失った。明治の気骨を示した近藤乾三氏・柿本豊次氏をはじめ、激動の時代を支えて来られた方々を見送らねばならなかった。詳しくは物故者の欄を見ていただきたいが、能楽界も新旧交代が進んでいる。しかし、それ以上に、現今の催し物の増大と超多忙な状況が寿命を縮める一要因となっている点も否めない。特に福岡で「砧」を演じ終えてのち数時間後に亡くなられた観世左近氏の急逝は、氏が六十代の働き盛りであっただけに、哀惜の念をいっそう強くする。ところで、昭和五十九年度から始まった国立能楽堂による能楽(三役)研修事業も第一期(一期三年)・二期・三期と進み、第一期生・二期生はすでに舞台に出ている。選考試験に合格し、研修を受けても、途中で辞めていく生徒が出て来るのはやむを得ないとしても、指導に当たった先生方の努力の割りには、歩留まり率がいいとはいえない実情は、早急に検討すべき問題であろう。これまでの成果を踏まえつつ、研修制度の見直しと、遠い将来をも視野に入れた方策を根本的に考える時期に来ていると思う。以下、近年盛んな国際交流を象徴するかのように十年ぶりに開かれた能をめぐる国際シンポジウムの話題、栄誉・受賞、日本能楽会の増員と日本能楽会・能楽協会関係の記事、物故者などの記録を中心に記述する。
著者
久野 能弘
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.42-49, 1979-01-31 (Released:2019-04-06)

In the previous volume of this journal, Mr. Sakuma and I reported a paper entitled "Motivation in operant therapy with autistic children". I completely agreed with the effectiveness of Sakuma's "Onbu-Dakko mettod", which made use of physical contact stimuli such as holding the child in the arms or carring the child on the back. But lacking the detailed quantitative analysis, the evidence for the effectiveness of his method was not convincing. In the present paper, I had two objectives : one was to reanalyze his data from quantitative point of view. The other was to make clear the difference of my standpoint from his. After the preyions article was written the difference in our approach to behavior therepy has gradually become evident. I have been keeping a narrow-band standpoint but he has changed his standpoint from the narrow-band to the broad-spectrum one. In this paper, I took a critical attitude toward Sakuma's way of using the concept of motivation in that he tended to use various motive-names in his therapy of autistic children. What seems to me the most important thing to do in behavior therapy practice is to clarify the methods to operate the drive or emotional states of the children rather than to list the names of motives.
著者
佐久間 徹 久野 能弘
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.68-74, 1978-03-30 (Released:2019-04-06)

In operant therapy with autistic children, chocolate or juice is usually used as a reinforcer. Using physical contact stimuli, such as holding the child in one's arms or carrying the child on one's back, we were able to get good results. We will discuss the strengths and weaknesses of such procedures.
著者
東 晴美
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.305-332, 2011-10

近代の歌舞伎研究については、明治以降に新作された作品、得に局外者と呼ばれる文学者が手がけた新歌舞伎に注目されることが多い。しかし、前近代に初演された純歌舞伎狂言も、近代を経て現代に伝えられている。本稿では、江戸時代に初演され、現代においても中学生や高校生の歌舞伎鑑賞教室などでも上演される機会の多い「鳴神」をとりあげる。「鳴神」は明治期に二代目市川左団次によって復活上演された。左団次は小山内薫とともに自由劇場をたちあげ、近代劇にも深く関与した。本稿は、左団次が渡欧した一九〇七年から一九一〇年の「鳴神」の復活上演までの活動を検証し、前近代の作品が現代に継承される過程で、近代の知識がどのように関わったのかを明らかにする。これまでの二代目市川左団次の評価は、新歌舞伎や翻訳物を手がけ、小山内薫と自由劇場を立ち上げたことから、「近代的」とされることが多い。しかし、左団次の近代性がどのようなものなのか、明らかにされてこなかった。本稿では、松居松葉と二代目市川左団次の一九〇七年における渡欧体験を分析し、左団次の近代性は一九〇七年のヨーロッパの演劇の動向と深く関わっていることを指摘した。また、左団次が復活上演した「鳴神」は、劇評や左団次の芸談が「自然主義」に触れているため、近代の自然主義を取り入れたものと指摘されてきた。しかし、日本における自然主義は近年の研究で、十九世紀末二十世紀初頭においては極めて多義的で象徴主義や表現主義にも連なっていくことが明らかにされてきた。本稿は、このような研究成果を踏まえて、復活上演された「鳴神」にみられる自然主義が同時代の文芸思潮と密接に関係するものであったことを検証した。
著者
ミラボー レイク
出版者
一般社団法人 レーザー学会
雑誌
レーザー研究 (ISSN:03870200)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.423-428, 2006-06-15 (Released:2014-03-26)
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

On 2 October 2000, a 12.2-cm diameter, 50.6-gram laser-boosted rocket Lightcraft flew to a new altitude record of 71-meters (233-ft) at White Sands Missile Range (WSMR) in New Mexico. The PLVTS 10-kW pulsed carbon dioxide laser, located on the High Energy Laser Systems Test Facility (HELSTF) powered the record flight, as well as six others-two of which reached 48.4-m (159-ft) and 56-m (184-ft). These were the first outdoor vertical, spin-stabilized flights of laser Lightcraft. Besides nearly doubling the previous altitude record of 39 meters (128-ft) set on 9 July '99, the Model #200 Lightcraft simultaneously demonstrated the longest laser-powered free-flight, and the greatest ‘air time’ (i.e., launch-to-landing/recovery). With a modest investment of under a million dollars, a string of ever-increasing Lightcraft altitude records have been set over the past four years-since the first flight on 23 April 1997. This embryonic, propulsion concept embodies “disruptive technology” that promises to radically transform our ideas about global flight transportation and space launch systems, over the next 15 to 25 years.
著者
櫻井 洋 藤田 広峰 水谷 孝明 相川 潔 澤田 典孝 藤本 克博 櫻井 恒久
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.53, no.12, pp.639-647, 2020 (Released:2020-12-28)
参考文献数
23

ポリウレタン製AVGの開存成績とそれに関わる因子を後ろ向き検討した. 1次開存と2次開存の他に外科的修正術をアウトカムとした修正1次開存を定義した. 対象は2002年1月から2016年3月までの540例で, 1次開存率は1年35.7%, 2年20.0%, 5年7.5%, 修正1次開存率は1年78.8%, 2年70.4%, 5年55.7%, 2次開存率は1年92.6%, 2年86.0%, 5年74.3%であった. 次に年間平均PTA回数によりPTA未施行群215例, 低頻度群163例, 高頻度群162例に分けた. 低頻度群は高頻度群 (p=0.002) とPTA未施行群 (p=0.002) よりも2次開存率が有意に高かった. 多変量COX比例ハザードモデルで, 2次開存率のハザード比は吻合静脈径が大きいほど有意に低かった (HR=0.626, 95%CI: 0.482-0.813, p<0.001). 当院のポリウレタン製AVGの開存成績を報告したが, それはPTA回数やAVG作製の条件により異なる. 今後もより適正なAVG作製や管理方法の発展が望まれる.
著者
津川 定之
出版者
一般社団法人 電気学会
雑誌
電気学会誌 (ISSN:13405551)
巻号頁・発行日
vol.135, no.7, pp.417-420, 2015
被引用文献数
2

1.はじめに 自動車の自動運転<sup>(1) (2)</sup> の目的は,自動車交通へのオートメーションの導入による,事故,渋滞,エネルギー消費,環境負荷という自動車交通問題の解決とドライバへの快適性と利便性の提供にある。オートメーションの導入によって機械による早期の認知,判断,遅れのない操作,ヒュー
著者
二川 清
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.37, no.8, pp.19-29, 1988

江戸期を通じ明治の中頃まで、盛んに上演された歌舞伎の小栗判官ものは、明治中期以後約半世紀以上の間忘れ去られてしまい、近年復活上演されるようになった。説経節の小栗を母体とする歌舞伎の小栗判官ものは、浄瑠璃から移入されやがて歌舞伎独自の形を造り上げて行き、天保頃に一貫したストーリーをもった通し狂言として成立したと考えられるが、この成立過程における読本や、近松の浄瑠璃の影響を考察し、読本や浄瑠璃から取り入れられた新たな諸要素の持つ意味、及びそれと原説経の精神との関連を探ってみた。