著者
石黒 圭 佐野 彩子 吉 甜
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.5-20, 2023-09-30 (Released:2023-10-31)
参考文献数
7

日本語学習者の多くが,スマホやタブレット,PCを用いて辞書アプリやインターネット上の辞書を利用している.本研究では,世界各地域の日本語学習者110名を対象に,日常生活において語彙検索行動を行う際に使用したデバイスの画面録画機能を用いて,語彙検索行動を記録してもらうことを試みた.また,この調査記録を,入力言語,入力方法,検索に使用するリソース,検索過程,および検索行動の成否の観点から分析した.その結果,日本語学習者は既習の知識を組み合わせたり応用したりしながら,工夫して語彙検索を行う一方,日本語の誤りや検索方法の誤りのために検索に時間を要したり求める情報にたどりつけなかったりする状況も少なくないことが明らかになった.日進月歩で発展を遂げるテクノロジーによって,日本語学習者の語彙検索の環境も大きく変容している.このような個別事例の分析の蓄積を生かし,今後は語彙検索行動にかんする新たな支援の可能性を探りたい.
著者
柴田 悠
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.116-133, 2014 (Released:2015-07-04)
参考文献数
30
被引用文献数
2

日本では, 1998年以降, 貧困や孤立といった社会的状況によって自殺に追い込まれる人々が増えた. 憲法第13条において「国民の生命の権利を最大限尊重すべき」とされている日本政府には, 社会政策によってそのような状況を改善し, 不本意な自殺を予防する責務がある. では, どのような社会政策が自殺の予防に有効なのか.本稿では, 公的な職業訓練・就職支援・雇用助成を実施する「積極的労働市場政策 (ALMP)」に着目した. ALMPは, 「孤立した貧困者」を他者 (支援スタッフや訓練参加者) や労働市場へと繋ぎとめ, 社会経済的に包摂する機能をもつ. 自殺にもっとも追い込まれやすいのが「孤立した貧困者」であるならば, 日本においてALMPは彼らの自殺を予防できるのだろうか. あるいは逆に, 彼らを自殺へとますます追い込んでしまうのだろうか. そこで本稿は, この問いに対して実証的に答えることを目的とした.先行研究よりも広範なデータと比較的精緻な推定モデルで分析した結果, 自殺率の増減の一部は, 失業率上昇率の増減 (貧困者の増減) と, 離婚率の増減と新規結婚率の減増 (孤立者の増減), ALMP支出の減増 (孤立した貧困者の放置/包摂) によって説明できた. またそれらの要因は, 日本での1991~2006年の自殺率変動 (前年値からの変化) のおよそ10~32%を説明した. 他方でALMP以外の社会政策は, 有意な自殺予防効果を示さなかった.
著者
永田 大輔
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.21-37, 2015-02-28 (Released:2019-05-24)
参考文献数
16

This paper discussed the process of creating “otaku originality” within the context of their consumption. Otaku considered their culture original and distinct from that of normal anime consumers in the 1980s. In prior studies, people called otaku were those committed to worthless culture. Though people regarded otaku culture as worthless, we should observe its formation process. Otaku made it a culture of worth for their community, turning it into a high context culture. Becoming a high context culture meant it achieved interactions with people other than anime fans, but how was this happen?This paper focuses on anime fan culture, and discusses the video environment and active television viewing. The VCR diffusion rate increased from 2.2% to 66.8% during the 1980s. Otaku started to watch videos with their friends. They wanted to show their videos to their friends. However, this was considered an unnatural behavior. This paper mainly analyzes community with video consumption among anime fans and discusses their motivations. They wanted to show off the VCRs “Slowmotioning” meant “unique watching”. Originally, anime meant “animation”, but their activity enabled anime fans to enjoy “pictures”. Consumers could attain “creators literacy”. However, this literacy was marketed by the creators. Anime magazines evaluated this marketing. The culture of editing by anime fans formed a frame. They consumed the unique experience of watching anime together as consumers who had a specific literacy. Otakus’ high contextual culture, including their knowledge and literacy, was created by interactions between creators and consumers of anime magazines.
著者
田中 健夫
出版者
東京女子大学
雑誌
東京女子大学紀要論集 (ISSN:04934350)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.119-134, 2021-03-30

It is an important practical issue to understand and intervene in the minds of perpetrators in clinical psychological support for those who have committed harmful acts. It is important to distinguish between the perpetrator’s own past experiences of victimization, such as being abused, and their sense of victimhood. One of the origins of victimhood is identification with the aggressor’s guilt that was internalized through the experience of being abused. This paper discusses the importance of the client’s development of guilt, intervening to understand the client’s train of thought, and sharing the psychological circumstances that compel the client to become dissociative.臨床心理学的な支援において、加害行為に至った者の心の中にある被害体験と被害者意識をいかに理解し取り扱っていくのかは重要な実践的課題である。加害者が実際に経験をした過去の被虐待などの被害体験と、被害者意識とを識別することがまずは重要である。被害者意識は、被虐待経験を通して内面化された攻撃者の罪悪感への同一化にひとつの起源がある。罪悪感を発達させること、クライエントの思考の筋道を把握するための介入、解離的にならざるをえない心的状況を共有していくことの大切さについて考察した。
著者
吉田 航
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.314-330, 2020 (Released:2021-09-30)
参考文献数
32

雇用をめぐるジェンダー不平等の生成メカニズムを明らかにする上で,企業側の要因に着目する重要性が指摘されている.先行研究の多くは,企業組織の制度や権力関係に着目し,これらが不平等に与える影響を検討してきた.本稿では,この視点をさらに発展させ,こうした組織的要因の効果が,組織が置かれた環境の変化と連動して,どのように変化しているかを検討した.とくに本稿では企業の経営状況に着目し,組織の制度や権力関係が,企業の経営状況に応じてどのような影響をジェンダー不平等に与えているかについて,国内大企業の新卒採用を対象に分析した. 分析から,組織的要因がジェンダー不平等に与える効果は,必ずしも企業の経営状況から独立に発揮されるわけではなく,一部の組織的要因については,その効果が経営状況によって変化していることが示された.ワークライフバランス改善に向けた企業内施策は,基本的には新卒女性採用比率に影響しないものの,業績が悪いと,施策が充実している企業ほど女性採用比率が低くなる傾向にあった.一方で,女性管理職比率の高さは,新卒女性採用比率を高める効果を持ち,この効果は業績の良し悪しによらず確認された.先行研究で検討されてきた組織の制度・権力関係の効果について,企業の経営状況との関連を検討した本稿は,こうした要因が雇用の不平等に影響するメカニズムの精緻化に貢献するものである.
著者
小澤 正直
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.157-165, 2004-03-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
39

古典力学は,過去の状態を完全に知れば,それ以後の物理量の値を完全に知りうるという決定論的世界観を導いたが,量子力学は,測定行為自体が対象を乱してしまい,対象の状態を完全に知ることはできないことを示した.ハイゼンベルクは,不確定性原理により,このことを端的にかつ数量的に示すことに成功したといわれてきたが,測定がどのように対象を乱すのかという点について,これまでの関係式は十分に一般的ではなかった.最近の研究により,この難点を解消した新しい関係式が発見され,これまで個別に得られてきた量子測定の精度や量子情報処理の効率の量子限界を統一的に導く第一原理の役割を果たすことが明らかになってきた.
著者
松井 亮太
出版者
日本経営倫理学会
雑誌
日本経営倫理学会誌 (ISSN:13436627)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.117-133, 2019-02-28 (Released:2019-05-27)

This paper conducted a comparative analysis about the falsification scandal uncovered at the nuclear department of the Tokyo Electric Power Company(TEPCO)in the 2000s and the insufficient tsunami risk assumption prior to the Fukushima nuclear accident which occurred in 2011 from a behavioral ethics standpoint. For the information source, I used the external lawyer investigation reports of the falsification scandal and the official investigation reports of the Fukushima nuclear accident. This paper also used the testimonies of the government investigation committee on the Fukushima nuclear accident which were publicly disclosed in 2014. As a result of the analysis, the common factors for the falsification scandal and the insufficient tsunami risk assumption were egocentric bias, loss framing, and moral licensing. In order to prevent unethical behavior and risk neglect, I made two recommendations based on the previous researches of behavioral ethics.
著者
高橋 麻衣子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.95-111, 2013 (Released:2013-09-18)
参考文献数
108
被引用文献数
3 2

書き言葉を読んで理解する能力は活字媒体から情報を取得するために必要な能力であり, これを効果的に育成することは学校教育の大きな目標の一つである。読解活動の形態には大きく分けて音読と黙読が存在するが, 読解指導の場面では最終的に黙読での読解能力を習得させることを目的としている。本論文では, 読解能力の発達段階によって音読が読解過程に及ぼす影響はどのように異なるのか, そして, 黙読での読解能力を習得する上で音読はどのような役割を担うのかを考察することを目的とした。まず, 成人と児童それぞれにおける音読の有用性を検討し, 読み能力によって音読の役割が異なることを示した。特に児童においては, 読解中に利用可能な認知資源の量が少なくても, 構音運動や音声情報のフィードバックによって音韻表象を生成し利用できることが, 音読の利点として挙げられた。そして, 読解中の音韻表象の生成と眼球運動のコントロールに着目して, 音読から黙読への移行についての仮説的モデルとこれに即した指導法を提案し, 今後の課題を述べた。
著者
吉田 寛
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

相互作用付リンデンマイヤ・システム上で多細胞の発展モデルを構築した。記号計算を用いて、細胞タイプの多様性とタイプ比の関係式を導出し、それが楕円曲線とフィボナッチ数に関係する曲線で表現されることが分かった。更に、より分子レベルに立脚したDachsous : Fatヘテロダイマーモデルを構築して、素イデアル分解を用いて、細胞鎖が再生する条件を導出した。これらの事から、多細胞の成立する条件:多様性と再生の条件が得られた。
著者
松澤 孝明
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.156-165, 2013-06-01 (Released:2013-06-01)
参考文献数
6
被引用文献数
6 13 3

本報告は,研究不正に対する関心の高まりを受け,その低減を図る観点から,わが国の研究不正についてマクロ分析を行ったものである。筆者は,データの捏造,改ざんおよび盗用を含む科学における不正行為について公開情報を収集し,必要に応じて,不正行為の発覚から,調査,確定までのプロセスを整理することにより,わが国の研究不正の特徴について考察を行った。
著者
高砂 美樹
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.128-134, 2019-02-10 (Released:2020-02-10)
参考文献数
16

John B. Watsonの条件性情動反応の研究(Watson & Rayner, 1920)に出てくるAlbert B.として知られるLittle Albertは本当は誰だったのだろうか。この9か月齢の子どものことは心理学史ではよく知られてきたが、Albertは実験の後に生後ずっと暮らしていた大学病院から連れていかれ、その後どうなったかについては何の手掛かりもなかった。近年になって、Beck et al. (2009)は、Little Albertは実際にはDouglas Merritteという名前の子どもで、1922年に水頭症を患い、1925年に亡くなっていると主張した。さらに2012年の研究でBeckのグループはAlbertの神経学的障害の徴候を見落としていたと報告し、もしそれが事実であったならばWatsonがこの子どもを虐待していたことになることを示唆した。しかしながら、2014年になると、もう一つのグループの心理学者らがAlbert Bargerという別の子どもをより適切なAlbert B.の候補として同定した。本論ではLittle Albertを探す一連の論争について概観する。
著者
平原 達也 大谷 真 戸嶋 巌樹
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.4_68-4_85, 2009-04-01 (Released:2011-05-01)
参考文献数
109
被引用文献数
5 5

音源信号に頭部伝達関数が畳みこまれたバイノーラル信号によって立体音像空間を再現する場合に,頭部伝達関数やバイノーラル信号再生系の音響的な厳密さが重要視されている.しかし,受聴者の頭部運動に追従する動的バイノーラル信号を用いると,頭部伝達関数やバイノーラル信号再生系に要求される音響的厳密性を緩和できる.本解説では,複数箇所で多数回計測した実頭とダミーヘッドの頭部伝達関数を精査し,頭部伝達関数の音響計測の問題点,頭部形状の変形に伴う頭部伝達関数の変化,および,頭部伝達関数の比較尺度について論じる.また,様々なバイノーラル信号を用いた一連の音像定位実験の結果に基づいて,静的バイノーラル信号と動的バイノーラル信号が再現する立体音像空間の差異についても論じる.これらを通じて,頭部伝達関数の計測とバイノーラル信号の再生にかかわる諸問題について論考する.