著者
永島 剛
出版者
慶應義塾経済学会
雑誌
三田学会雑誌 (ISSN:00266760)
巻号頁・発行日
vol.97, no.4, pp.541-559, 2005-01

小特集 : 日本における生活水準の変化と生活危機への対応 : 1880年代-1980年代本稿は, 近代における生活環境とその変化を多面的に捉える試みの一環として, 水系感染症のひとつである腸チフスの罹患・死亡データが, 都市の衛生環境を検討する際に重要な手がかりとなることをしめす。事例として, 大正期東京市をとりあげる。とくに山手地域で腸チフスが多発していたことを指摘し, その要因として, 急速な都市化の過程で顕在化した給水, 下水処分の問題に注目する。As part of a project exploring historical changes in living environment, this study shows that morbidity and mortality data of water-borne infectious diseases, in particular typhoid fever, can be important indicators of urban hygienic environments. As a case study, this article considers the city of Tokyo during the Taisho era. It examines why uptown Tokyo had a higher incidence of typhoid, focusing on the problems relating to water-supply and sewage treatment which arose in the rapid urbanization process.
著者
坂東 慶太
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.43-49, 2017

<p>近年,OverleafやAuthoreaといったオンラインLaTeXエディターの登場が相次いでいる。これらは単なる論文執筆のためのツールではなく,研究者のライフサイクルにおいて現在大学図書館がカバーしきれていない論文執筆から投稿・出版のプロセスをサポートし,研究ワークフローのミッシングリンクを埋める可能性をもっている。従来のライティングツールの枠組みを超え,論文投稿プロセスを変革する可能性を秘めたこの「共同ライティングツール」は,学術情報流通にかかわる出版社・研究機関などにどのような影響を与えるのか。本稿では,共同ライティングツールにおける代表的なサービスOverleafに着目し,その概要,特徴的な機能そして導入事例の紹介を通じて,論文投稿プロセス変革の可能性や大学図書館における研究支援のあり方を展望する。</p>
著者
善教 将大 坂本 治也
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.74-89, 2013

本稿の目的は,日本維新の会への支持態度の特徴ならびにその背景にある有権者の論理を明らかにすることである。先行研究では,維新あるいは橋下への支持は,有権者の政治的・社会的疎外意識に基づく熱狂的なものであることが述べられてきた。これに対して本稿では有権者が抱く橋下イメージの違いという観点から,維新が支持される理由を説明する。実証分析の結果,明らかとなったのは次の3点である。第1に維新は多くの有権者に支持されているが,その支持強度は弱い。第2に政治的・社会的疎外意識等と維新支持に関連があるとはいえない。第3に橋下をリーダーシップの高い人物だと認識する人は維新を弱く支持し,保守的な人物だと認識する人は強く支持する傾向にある。つまり維新への支持が弱い理由は,彼のリーダーシップへの評価が弱い支持にしか結びつかないという点に求められる,というのが本稿の結論である。
出版者
小学館
雑誌
週刊ポスト
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.137-139, 2009-01-30
著者
中野 敬一
出版者
神戸女学院大学
雑誌
女性学評論 (ISSN:09136630)
巻号頁・発行日
no.28, pp.47-67, 2014-03

本論では聖書において「売春女性」がどう扱われているかを確認した。まず旧約聖書では「神殿娼婦」と「遊女」が登場する。神殿娼婦は異教の習慣であり、イスラエルの聖所においては厳しく禁じられていた(例:申命記23:18)。しかし実際にはイスラエルにおいても神殿娼婦との淫行がみられ、預言者は神の審判を予言したのである。(例 : ホセア記4:14)。一方、遊女に対しては神殿娼婦ほどの避難はなされていない。新約聖書には、旧約聖書における「遊女」の同義語である「娼婦」が登場する。彼女たちの社会的地位は低く、特に律法学者やファリサイ派などのユダヤ教指導者層から差別されていた。しかしイエスは「徴税人や娼婦たちの方が、あなたたちより先に神の国に入るだろう」(マタイ福音書21:31)と述べた。また「罪深い女」(ルカ 7:36)と呼ばれていた娼婦を受け入れた。イエスは彼女たちを救いに招いたのである。しかし、後のキリスト者やキリスト教会はイエスの姿勢を継承しなかったと言える。例えば、パウロはコリント教会における淫行を禁じ、そのような行いをなす人々を排除するよう命じた。彼はキリスト者が娼婦と一体となることを戒めており、「みだらな者は神の国を受け継ぐことができない」と述べた(Ⅰコリント 6:10)。パウロらの思想は後のキリスト教会に受け継がれた。教父時代においては禁欲が重視され、売春女性は教会から排除された。しかし、同時に「必要悪」として認められた。さらにこのような傾向は中世ヨーロッパのキリスト教会にも継続され、社会や教会の純潔が守られるために、売春は是認されるのである。宗教改革者たちも売春女性を厳しく差別したが、カトリック教会と同様「必要悪」として彼女たちを容認したのである。 In this paper, I explored how prostitutes are treated in the Bible. "Shrine prostitute" and "harlot" appear in the Old Testament. The shrine prostitute was a custom of paganism and was forbidden in Israeli holy places (ex. Deuteronomy 23:18). In fact, however, immoral sexual acts with shrine prostitutes were observed in Israel, and the prophets foretold the judgement of God (ex. Hosea 4:14). On the other hand, Israelis did not criticize harlots as shrine prostitutes. "Prostitute", which is a synonym of "harlot", appears in the New Testament. Their social status was low; they were discriminated against by the class of Jewish leaders such as the scribes and the Pharisees. However, Jesus said to them, "the tax collectors and the prostitutes are going into the kingdom of God ahead of you" (Matthew 21:31 ). In addition, he accepted "a sinful woman" (Luke 7:36 ) who was a prostitute. Jesus invited her to salvation. However, it may be said that the later Christian church and heritage did not follow this position of Jesus. For example, the apostle Paul forbade sexual immorality in the Corinth church and commanded that it remove people who performed such an act. Paul banned a Christian and a prostitute from becoming one body and stated, "fornicators will not inherit the kingdom of God" (I Corinthians 6:10). The thoughts of Paul were inherited by the later Christian churches. Abstinence was made much of in the Church Father era, and prostitutes were removed from churches. However, it was recognized as "a necessary evil" at the same time. Furthermore, this tendency continued in the Catholic Church of the Middle Ages, and the church approved prostitution to protect the purity of society and the church. Religious reformers also discriminated harshly against prostitutes, but accepted them as "a necessary evil" in the same way as the Catholic Church.
著者
増井 敦
出版者
京都産業大学法学会
雑誌
産大法学 (ISSN:02863782)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.285-260, 2006-11

Ⅰ.最高裁平成15年5月1日第一小法廷決定 1.認定事実 2.決定要旨 3.補足意見Ⅱ.検討 1.問題の所在 2.直接手を下さない者についての共同正犯の成立根拠 ⅰ) 共謀共同正犯を認めた最初の判例から練馬事件判決までの判例 ⅱ)練馬事件判決 3.直接手を下さない者についての共同正犯の成立要件 ⅰ)練馬事件判決以前の判例 ⅱ)練馬事件判決の先例的意義 ⅲ)練馬判決以後の判例 ⅳ)共謀形成行為と共同正犯成立要件との関係 4.本決定について ⅰ)各理由についての検討 (1)黙示的な意思連絡 (2)現場性 (3)指揮命令権限を有する地位―使役的立場 (4)直接的利益 ⅱ)本決定の意義
著者
三須 俊彦 高橋 正樹 合志 清一 蓼沼 眞 藤田 欣裕 八木 伸行
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D-II, 情報・システム, II-パターン処理 (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.88, no.8, pp.1681-1692, 2005-08-01
参考文献数
13
被引用文献数
12

実時間画像処理に基づくサッカー中継映像用のオフサイドライン可視化システムを開発した. 本システムは, 固定カメラ画像中の人物を抽出し, そのワールド座標を求める. 更に色情報に基づいてユニフォームを分類することでフォーメーション解析を行ってオフサイドライン位置を特定する. 中継用カメラのパン・ズーム操作をロータリエンコーダによって計測することで, ワールド座標を実写ハイビジョン映像上に変換し, パン・ズーム操作に連動したオフサイドラインを仮想表示することができる. 本論文では, システムのブロック構成を追いつつ画像処理手順について定式化を行う. また, 実際のJリーグ公式戦において実施したフィールド実験の結果を示す.
著者
戸張 敬介
出版者
慶應義塾大学法学研究会
雑誌
法学研究 (ISSN:03890538)
巻号頁・発行日
vol.87, no.9, pp.27-84, 2014-09

序論 一. 問題の所在 : 日中戦争下における党の成長 二. 本稿のアプローチ : 権力に対する人々の主体的行動としての「密輸」第一章 華中の日本軍占領地域における「密輸」 一. 日本軍占領下の戦時統制 二. 統制の実状と「密輸」の流れ 三. 日本軍を取り巻いていた中国社会の特徴(以上、八十七巻七号)第二章 国民政府の支配地域における「密輸」 一. 国民政府による戦時の貿易管理 二. 「敵貨」の流入と禁輸物品の流出 三. 国民政府を取り巻いていた中国社会の特徴(以上、八十七巻八号)第三章 共産党新四軍の根拠地周辺における「密輸」 一. 長江中下流域での新四軍の展開 二. 新四軍が直面した「密輸」 三. 新四軍を取り巻いていた中国社会の特徴結論 一. 「密輸」の全体像と発生原理 二. 様々な集団が様々な目的でせめぎあう空間 三. 不確実性と最終的な勝利とを結びつけるもの(以上、本号)論説
著者
並松 信久
出版者
京都産業大学日本文化研究所
雑誌
京都産業大学日本文化研究所紀要 = THE BULLETIN OF THE INSTITUTE OF JAPANESE CULTURE KYOTO SANGYO UNIVERSITY (ISSN:13417207)
巻号頁・発行日
no.26, pp.308-268, 2021-03-31

常食と菓子の区別は明確なものではない。和菓子は日常生活における常食という側面ももっていたからである。常食と菓子とを区別しようとすれば、生産者と消費者の認識の違いに依拠しなければならない。したがって、和菓子の歴史を明らかにしようとする場合、菓子自体の展開よりも、菓子屋の変遷を明らかにしなければならない。和菓子に関する先行研究では、和菓子の成り立ちや京菓子の特徴が詳細に考察された。歴史的な史料に基づいて実証的な研究が行なわれてきた。しかしながら、菓子屋とその歴史的背景との関連を記述した研究成果は少ない。本稿では、和菓子の成立過程とともに、和菓子と菓子屋との関係を明らかにした。歴史的には、菓子は西欧や中国から日本に伝来した後に、和菓子として独特の発展を遂げた。明治期になって洋菓子が普及し、「和菓子」という言葉が生まれ、洋菓子と和菓子が区別された。しかし、実際は和洋折衷菓子も多く、菓子も多くの食物と同様、文化的な融合化が進んだ。
著者
吉岡 徹 市原 茂
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.111-116, 2002-05-31
参考文献数
6

本研究では,江戸時代から使われはじめたという「粋」という言葉の持つイメージが現代の若い女性にどのように受け継がれているのかを探るとともに,九鬼周造の粋理論が彼らにも適用できるのか否かを検討した。粋についての九鬼の考察は,彼自身の注意深い観察と感性から洞察された深い意味を持つものと考えられるが,彼自身の仮説を客観的に検討するということは,あまり行われてこなかった。そこで今回は,粋な柄の代表とされる縦縞模様のワンピースと浴衣を着たモデルに様々なポーズをとらせ、それを写真にしたものをコンピュータ画面上に提示し,SD法を用いて女子学生に評価させることにより,彼の理論を検討してみた。九鬼周造によれば,「粋」は,価値の優劣を表現すると共に,媚態をも表現しているということであったが,実験の結果は彼の理論を概ね支持するものであった。一方,外来語の中では一番「粋」に近い語であると思われた「シックな」は,「粋」よりは,「渋み」に近い意味としてとらえられていることがわかった。
著者
水田 拓道 植屋 清見 日丸 哲也 永田 晟 山本 高司
出版者
日本体力医学会
雑誌
体力科學 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.100-107, 1975-09-01
被引用文献数
1

目的に応じたサウナ入浴をするための一つの条件として,サウナ入浴時間が生体におよぼす影響というかたちで,主に運動機能的な面からサウナ入浴前後,および入浴中の変化について比較検討した。本実験の結果からサウナの効果的利用法について次のような示唆が得られた。1. アンケート調査の結果,サウナ入浴時間においては5分単位の入浴を繰返している者が最とも多く60%余りをしめていた。また,95%の者がなんらかの形で冷水浴を併用していた。2. 全身反応時問,膝蓋腱反射閾値,垂直跳ぴにおけるジャンプパワー等,筋神経系の関係する機能においては,5分入浴,1分冷水浴で3回繰返し入浴法が,入浴前に比べてよい成緒を示し効果的であることがわかった。このことから,経験的に得た5分単位の入浴法が,疲労回復,気分転換等に効果的であることが裏付けられた。3. 血圧,心拍数,皮膚温の変化には設定パターンによる著明な差異は認められなかった。しかし,いずれのパターンにおいても循環機能への有効な刺激として考察され,長期にわたる利用によって環境温の変化に対する適応能を高める効果が期待される。4. サウナ入浴中の酸素摂取量は安静時に比して,パターン(1)が23.2%,パターン(2)が31.6%それぞれ増加した。エネルギー代謝促進の面からは少し長い入浴時間が必要と考えられる。
著者
Upchurch Paul Tomida Yukimitsu Barrett Paul M
出版者
国立科学博物館
雑誌
National Science Museum monographs (ISSN:13429574)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.i-118, 2004

1993年,アメリカ・ワイオミング州サーモポリス近郊に露出するモリソン層(ジュラ紀後期,キンメリジアン〜チトニアン)から,アパトサウルスのほぼ完全な骨格が発掘された.この標本は東京の国立科学博物館が入手し,組み立てられて展示標本として一般に公開されている.この新しい標本を詳細に記載することにより,属の再定義および種レベルの分類に有効な,新たな解剖学的データを得た.アパトサウルスに同定された標本を個体レベルで分岐解析した結果,これまでわかっていなかった系統関係が明らかとなり,あわせてA. ajax(模式種),A. excelsus, A. louisae, A. parvus(新組合せ)の4種が有効と認められた.A. parvusは,ワイオミング州シープクリークのモリソン層から産した'Elosaurus' parvusの標本をもとにした種である.分岐解析の結果,アパトサウルスの東京標本はA. ajaxに同定される. これまではアパトサウルス属の模式種であるA. ajaxにっいての詳しい記載がなかったため,本研究が本種についてのもっとも詳しい記載論文ということになる.また,改定された属および種の定義によって,これまでアパトサウルスに固定されてきたいろいろな標本(オクラホマ州産の幼体標本を含む)の再評価が可能となった.