著者
衛藤 久美 中西 明美 藤倉 純子 松下 佳代 田中 久子 香川 明夫 武見 ゆかり
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.252-266, 2019-05-15 (Released:2019-06-11)
参考文献数
17

目的 埼玉県坂戸市が2006年より女子栄養大学と協働して取り組んできた,坂戸市全小・中学校における「坂戸食育プログラム」(以下,食育プログラム)の評価を行い,これまでの成果と今後の課題を明らかにすることを目的とした。方法 本プログラムの対象は,小学5年生から中学2年生の全児童生徒である。本研究では,2006年度から2014年度に実施された児童生徒および教師対象の調査データを用い,経過評価および影響評価を行った。食育プログラムの授業実施状況および学習者の反応を把握するための調査(調査A),食育プログラム実施者のプログラムに対する反応として,小・中学校教員の食育プログラムへの関わりによる変化を確認するための調査(調査B)のデータを用いて経過評価を行った。4年間の児童生徒の学習効果を確認するための追跡調査(調査C),各学年の児童生徒の学習効果を確認するための前後比較調査(調査D),4年間の食育プログラム学習後の生徒の状況を把握するプログラム終了後調査(調査E)のデータを用いて影響評価を行った。活動内容 小学校の4年目ならびに中学校の2年目に教員が回答した授業実施状況について,授業が指導案通り「実施できた」クラスが7割以上,教材を「すべて使用した」クラスが8割以上,学習内容を児童生徒たちが「ほぼ理解できた」クラスも5割以上だった。小学校教員ならびに中学校男性教員は,研修会参加や授業実施経験がある者において「食育への関心が高くなった」と回答した者の割合が高かった。児童生徒の学習効果について,4年間の食育プログラムの学習効果はみられなかったが,各学年の食育プログラム学習前後に,具体目標②「健康を考え,バランスの良い食事をとろう」に関する食態度が改善した。終了後調査より,4年度すべて9割以上の中学2年生生徒が,食育プログラムを「学習してよかった」と回答した。結論 食育プログラムは,継続的に実施され,教員の食育への関心を高めることに役立っていると示唆された。児童生徒は,授業に多く含まれる目標「健康を考え,バランスの良い食事をとる」ことに関する食態度で有意な変化がみられた。今後は,学習内容の改善や,継続的な食育プログラムの実施体制の推進の他,学校を拠点とし,児童生徒の家族等他世代へも波及するような食育の検討が必要である。
著者
丸田 起大 市原 勇一 澤邉 紀生
出版者
公益財団法人 メルコ学術振興財団
雑誌
メルコ管理会計研究 (ISSN:18827225)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.95-106, 2018

<p>不動産再生事業を営むサンフロンティア不動産株式会社におけるアメーバ経営をとりあげ,業種の特性や経営者の考え方がアメーバ経営の仕組みや実践にどのように反映されているか紹介する。歩合給のようなインセンティブ報酬が支配的な不動産業において,「利他」の精神を基盤とする経営実践がアメーバ経営によってどう実現しているのかを示すことで,アメーバ経営の類型のバリエーション増大に貢献する。また,サンフロンティア不動産の部門別採算制度では,社内ファンドのような仕組みを活用して,努力せずとも得られる固定的な収益(埋没収益)を部門の業績評価から除外するような工夫が行われていることを紹介する。</p>
著者
角田 光弘
出版者
拓殖大学経営経理研究所
雑誌
拓殖大学経営経理研究 = Takushoku University, the researches in management and accounting (ISSN:13490281)
巻号頁・発行日
no.112, pp.235-256, 2018-03

かつてのロジスティクス企業とは異なり,現代ロジスティクス企業の中核人財としてのトラック・ドライバーは労働時間がかつてよりも減少する一方で,その報酬も減少しているのではないかと考えられ,人手不足や若手従業員不足などともあいまって,現代ロジスティクス企業の戦略的経営課題が質的に変化している。その原因が現代ロジスティクス企業に広く普及していると考えられる「歩合給」を伴う報酬制度にあると考えると,株式会社カワキタエクスプレスにおける「スキル給」を伴う報酬制度は,現代ロジスティクス企業の戦略的経営課題の質的変化に対する取り組みの1 つと考えられる。これらのことは,労働時間は減少しているものの報酬も減少しており,人手不足や若手のトラック・ドライバー離れを抱える現代ロジスティクス企業の今後の報酬制度のあり方に対して新たな示唆を与えるものであり,「歩合給」を伴う報酬制度を採用していて,かつ労働時間は減少しているものの報酬も減少しており,人手不足や若手従業員不足などの戦略的経営課題の質的変化に直面している他の業界の企業の報酬制度に対する示唆にもなりうると考える。
著者
谷口 和美 眞鍋 昇
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

味覚は従来、甘味、旨味、苦味、酸味、塩味の5つが基本味であるとされてきたが近年、脂肪にも味があるとされるようになってきた。甘味受容体、旨味受容体、苦味受容体といった味覚受容体は舌以外にも多くの臓器に存在することが知られている。一方で、近年になって見つけられた脂肪味に関しては、未だに全身臓器での正確な分布およびその作用は十分に解明されていない。そこで本研究は供試動物として雄のC57BL/6Jマウス15匹を用いて、長鎖脂肪酸に対する受容体、すなわちG-protein coupled receptor (GPR) 40、GPR 113、GPR 120およびCluster of differentiation 36 (CD36) のmRNA量の多臓器分布を、Real-Time PCRにより定量的に検索、GPR113とGPR120は免疫組織化学的に観察した。結果、PCRにおいて、これら4種類の脂肪酸受容体は、舌(有郭乳頭、茸状乳頭)、下顎腺、涙腺、網膜、十二指腸、結腸、膵臓、肝臓、腎臓(皮質、髄質)のうち多くの臓器で発現していた。GPr40は涙腺、網膜および有郭乳頭には発現が認められなかった。Gpr40は膵臓、Gpr113は有郭乳頭、Gpr120は結腸、Cd36は腎臓において他臓器よりも有意に高い発現量を示した。免疫組織化学的検索ではGPR113は盲腸、膵臓など、GPR120は十二指腸および結腸の基底顆粒細胞、網膜の杆体視細胞と錐体視細胞層、精巣上体、陰茎、涙腺や下顎腺の星状筋上皮細胞、腎臓などで陽性を示した。これらの結果より、これまで報告されている以外にも多くの組織に肪酸受容体が分布していることを明らかにした。また、GPR120が分布しているといった報告が無い腎臓、涙腺、下顎腺でも本研究では免疫組織化学的検索で陽性を示した。さらにqPCRの結果、Gpr120の存在を確認した。
著者
吉川 聡 よしかわ さとし Yoshikawa Satoshi
出版者
独立行政法人文化財研究所奈良文化財研究所
雑誌
奈良文化財研究所紀要 (ISSN:13471589)
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.46-47, 2006-06-20

先年当研究所が編集・出版した『興福寺典籍文書目録』第3巻には、第69函80号として、「有法差別本作法義」を収録した。その後皆川完一氏より、この史料に据えられた花押は、鎌倉時代に興福寺再建を進めた興福寺別当として著名な、信円の花押である旨のご教示を頂いた。重要な指摘であり、その結果新たな問題も生じるので、ここに報告したい。
著者
甲斐 福代 鵜養 恭介 江口 里美 西沢 茂樹 田中 勤 山口 清子 田沢 四男 杉 薫 村石 州啓
出版者
一般社団法人 国立医療学会
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.39, no.8, pp.698-702, 1985

急性心筋梗塞の合併により, 心機能の低下している関節症状の強い, 慢性関節リウマチ患者に対し, 血漿急速冷却を加えた血漿交換療法(Double Filtration Plasmapherasis: DFP)を行つた. 回路には, 2つのフィルターを用いた. 第1フィルターで分離した血漿は, 冷却槽で0°-4℃に冷却した後, 第2フィルター一に入り, ここでCryoproteinを除去し, 残りの血漿とPPF, 25%アルブミンを恒温槽で暖めてから, 血球成分と合流させ返血する方法をとつた.<br>DFPにより, 関節の運動痛, 腫脹は著しく軽減し, ベツド上で寝たきりの生活から, 歩行による外来通院が可能となつた. 検査データでは, 関節痛の消失と共にβ, γグロブリン(β-g, γ-g)が低下して, アルブミン(Alb)が上昇し, 高IgA血症が改善された. しかし, CRP, RA因子は陽性のままであつた. 本法の副作用は特にみられず, 薬物療法, 及び外科療法で, 治療効果の少なかつた慢性関節リウマチ患者に有効であつた.
著者
本田 敬
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集
巻号頁・発行日
vol.65, pp.308-309, 2018

本研究は、介助犬の訓練センターと共同でチャリティグッズの開発を行ない、デザイン教育との相互作用について考察したものである。チャリティグッズは、介助犬の広報イベント時や公式HPのサイトで販売され、センターの運営資金として寄付金以外の貴重な収入源となっている。しかしながら、現状では商品アイテム数も少なく、今後広く介助犬の存在を伝える上でも、拡販していくことが急務となっていた。そこで本学の学生に商品開発を実践的に学ばせる機会を兼ね、約8ヶ月に渡ってチャリティグッズ開発のプロジェクトを行った。現状の問題点と今後の展開など、ヒアリングと調査を行い、流通やコストなど、通常の授業では大きな制約にならない現実的な問題解決にも取り組み、10人の学生によって提案された14商品は順次販売を開始している。チャリティグッズという点から、通常の商品と原価率が大きく異なることや、デザイナーの報酬が発生しない等、一般の商品開発との差異も多く含まれてはいたが、安価で買える日用品であっても、デザインの業務が多岐にわたり、細かな検討を重ねて商品となることについて、学生自身が経験して理解する貴重な機会を創出できた。
著者
青野 篤子
雑誌
福山大学人間文化学部紀要 = Journal of the Faculty of Human Cultures and Sciences, Fukuyama University
巻号頁・発行日
vol.8, pp.19-34, 2008-03

本研究の目的は,子どものジェンダー化を推進する主要な担い手(エイジェント)として保育と幼児教育に焦点を当て,子どもをとりまく物的環境と人的環境に潜んでいる隠れたカリキュラムを明らかにすること,そして,保育者に対するフィードバックを通して,隠れたカリキュラムに対する意識化を促すとともに,それに対する態度を把握することであった。その結果,以下のことが見出された。物的環境として,衣服や持ち物,表示物における男女の色分け,人的環境として,保育者の働きかけや園児同士の相互作用における男女差が認められた。園関係者からは,性別を教える必要性,性差を把握する必要性も指摘されたが,単に習慣から行われている不必要な区別と言えるものもあった。次に,創作活動や遊びにおいて男女の興味関心にいくらかの差異が見られたが,保育者はそれを自然の姿として認める傾向があった。男性保育者の参入が進んでいる園でも,男性保育者の仕事・保育内容は女性保育者と異なり,乳児の世話は困難だと思われていた。このような結果をふまえ,黙示的な隠れたカリキュラムを是正するためのプログラムが必要であることが論じられた。
著者
武田 憲昭
出版者
Japan Society for Equilibrium Research
雑誌
Equilibrium Research (ISSN:03855716)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.335-342, 1996 (Released:2009-06-05)
参考文献数
10
被引用文献数
6 9

Neural mechanisms of gaze, vertical and rotatory nystagmus are reviewed. For all eye movements, eye velocity is an oculomotor parameter. Eye velocity signals are transformed by a neural integrator in the brain stem to obtain the eye position signal. A lesion of neural integrator leads to gaze-evoked nystagmus. Vertical nystagmus arises from a lesional or functional tone imbalance, which is due to disruption of the central vestibulo-ocular reflex pathway in the pitch plane. Downbeat nystagmus is caused by lesions between the vestibular nuclei or flocculus. Upbeat nystagmus is caused by lesions in the brachium conjunctivum, the ventral tegmental pathway and the prepositus hypoglossal nucleus. Rotatory nystagmus involves an epicodic ocular tilt reaction, which is a clinical sign of an imbalance of the central vestibulo-ocular reflex in the roll plane. Unilateral infarction of the brain stem leads to rotatory nystagmus.
著者
長広 仁蔵
出版者
農業食料工学会
雑誌
農業機械学会誌 (ISSN:02852543)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.257-267, 1982

本研究は, およそ10PS {7.5kW} ぐらいまでの小形汎用空冷ロータリ機関を基本設計する際に必須の (1) 正味平均有効圧, ガスシール類の最適スキマ, 主要部品の設計寸法比などの設計基準値, および (2) 主要部品の適正材質, ロータハウジングのトロコイド面の表面処理方法, 適正潤滑油などを明らかにする目的で行われたものである。<br>第1報では, 二つの試作機関に関し最終的に得られた全開出力性能とこれに関連する諸事項, および機関の負荷運転時における高温燃焼ガスの主吸気通路への漏れなどが主原因する体積効率の低下現象すなわち出力性能の向上限界などの諸問題を取扱った。<br>引続き第2報以下において, (1) 出力性能に影響を及ぼす諸因子の検討, (2) 低負荷域における不整燃焼とその対策, (3) 排気ガス組成および排気ガス温度低減対策, (4) 機関の冷却および (5) 耐久性などに関する諸問題を取扱う。
著者
横地 隆
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.6-18, 2005
参考文献数
11

イナズマチョウ属の1新種と6新亜種の記載を行い,同属における1タクソン,Euthalia occidentalisのレクトタイプ指定を行った.I.新種の記載 Euthalia(Limbusa)koharai sp.n.(図1-4) ♂.前翅長43-48mm.翅形:前翅,前縁は滑らかに湾曲し,翅頂はやや丸みを帯びる;外縁はわずかに内側に凹み,各翅脈端は突出する;後縁は直線状.後翅.外縁は各翅脈端で強く突出する.斑紋:前翅表面,地色は濃緑茶色;亜基部付近の本属特有の環状斑群は明瞭;外中央白紋列は淡黄色で1a室から第6室におよび,第3室の外側に黒色のくさび形の縁取りがある;前縁には白色鱗が侵入しない;亜翅端部は第6室と第8室に淡黄色紋がある;亜外縁部は第1b室から前縁部にかけて黒色帯があり,第3,4室で内側に偏位する;縁毛は白色で翅脈端は黒色.後翅表面,地色は前翅と同様;中室端の黒色だ円形紋は明瞭;黄白色の外中央紋列は第1b室から第7室におよび,その外側にはブーメラン型の黒紋列がある;外中央白紋列の外側には青白色域があり,外縁にむかって濃紺色に段階的に変色する;縁毛は白色で翅脈端は黒色.前翅裏面,地色は個体変異をみるが緑がかった黄茶色;亜外縁部は第1a室から前縁部に黒色帯があるが,第1b,2室を除いて痕跡的.後翅裏面,地色は前翅と同様;基部の不正形環状斑は明瞭;外中央白紋列の内側は黒条があり白紋の内側を縁どる;亜外縁部は第1b室より第7室まで緑青色帯があるが,第1b室では顕著な黒紋となる.翅脈:後翅中室端は開く.触角:表面は黒色,裏面は一様に褐色である.♂ゲニタリア(図9):Uncusは先端方向に一様に先細る;valvaはやや細長く,中央部がやや太く,先端部分は10数個の短い棘がある;valvaの先端は下方が外側に90度程度捻れる.♀.前翅長48-51mm.翅形:♂に同形だが全体に丸みを帯びる.斑紋:♂に類似する;裏面地色は前後翅の地色は個体変異をみるが,淡黄緑色.翅脈:♂と同様.触角:♂と同様.分布:中国雲南省,広西壮族自治区.新小名koharaiは,昆虫研究者の小原洋一氏(東京)に因む.本種は中国大陸を分布の中心にもつEuthalia属のLimbusa亜属に含まれる.Limbusa属には前後翅を貫くイチモンジ白帯をもつグループがあり,本種もこれに属する.これらは互いに類似した特徴のため,種間の鑑別は容易ではない.本種に最も類似する種は,thibetanaとalpherakyiであり,以下に鑑別点を列記する.なお,ここで言及する種thibetanaとは,従来より種undosaとして認知されているものを指す.筆者の調査で,undosaはthibetanaのシノニムとするのが正しいことが分かった.本件については,別の機会に詳細を報告する予定である.種thibetanaとの鑑別 1)Koharaiはthibetanaに比べ大型で,翅形はやや丸みを帯びる.2)Koharaiのイチモンジ帯は,前翅は淡黄色,後翅は黄白色であるが,thibetanaはさらに黄色味が強い.3)Koharaiの表面地色は濃緑青色であるが,thibetanaは茶色味が強い.種alpherakyiとの鑑別 1)Koharaiでは後翅中央白帯の外側に青白色が出現するが,alpherakyiでは認めない.2)Koharaiでは♂前翅第3室の白紋は外側に尖るが,alpherakyiではほぼ平坦.3)Koharaiでは♂ゲニタリアのvalva先端はほぼ90度に捻れるが,alpherakyiでは捻れは緩やか.II.新亜種の記載 1.Euthalia(Limbusa)pacifica masaokai ssp.n.(図5-8) ラオス北部・サムネアを基産地とするこの新亜種は,原名亜種pacificaに比べて次のような相違点がある.♂.表面の地色は深緑色を呈する(原名亜種は茶褐色);前翅第3室に黄色斑を認める;後翅黄色域が小さく,第1b室と第2室の一部に認める(原名亜種では第1b,2室の全てと第3,4,5室に及ぶ);裏面の地色は青緑色を呈する(原名亜種はウグイス色);後翅裏面の斑紋は明瞭に出現(原名亜種はぼやける).♀:表面の地色は深緑色を呈する(原名亜種はモスグリーン色);前翅の斜白帯は大きく出現;後翅亜外縁の斑列はやや不明瞭;裏面の地色は青緑色を呈する(原名亜種はウグイス色).分布:ラオス北部.新亜種名masaokaiは,名古屋市立大学名誉教授,正岡昭博士に献名した.2.Euthalia(Limbusa)duda bellula ssp.n.(図10-13) ラオス北部・サムネアを基産地とするこの新亜種は,原名亜種dudaに比べて,♂♀ともにはるかに大型.後翅の白帯外側は原亜種の紫色がかった青色とは異なり,濃青緑色を呈する.また裏面は明るい黄緑色となる.分布:ラオス北部,ベトナム北部.新亜種名belluiaは,ラテン語で「優しい,優雅な」の意.3.Euthalia(Limbusa)hebe tsuchiyai ssp.n.(図14-17) ラオス北部・サムネアを基産地とするこの新亜種は,原名亜種pacificaに比べて次のような相違点がある.♂:原亜種に比較して大きい;表面の地色は深緑色を呈する;中央帯は細く,クリームイエロー;裏面の地色は銀色がかった青緑色.♀:原亜種に比べ,大きい;表面の地色は深緑色を呈する;前翅斜帯は濃いクリームイエロー;裏面の地色は青緑色.分布:ラオス北部,ベトナム北部.新亜種名tsuchiyaiは,医療法人輝山会記念病院理事長,土屋隆博士に献名した.4.Euthalia(Limbusa)pulchella niwai ssp.n.(図18-21) ミャンマーのカチン州北部を基産地とするこの新亜種の♀は,亜種pulchellaに比べて大型.裏面の地色はpulchellaの青緑色に対して,本亜種は黄緑色.♂は未知.分布:ミャンマーカチン州北部。新亜種名niwaiは,岐阜県国保上矢作病院院長,丹羽傳博士に献名した.5.Euthalia(Limbusa)pyrrha ueharai ssp.n.(図22-25) ラオス北部・サムネアを基産地とするこの新亜種は,原名亜種pyrrhaに比べて,♂は地色が暗くなる.♀は地色が濃緑色でやや大型,前翅紋列は白色.分布:ラオス北部,ベトナム北部.新亜種名ueharaiは,神奈川県在住の昆虫研究者,上原二郎氏に献名した.6.Euthalia(Limbusa)aristides kobayashii ssp.n.(図26-29) 中国浙江省・麗水を基産地とするこの新亜種は,原名亜種aristidesに比べて,♂は翅表の地色がうすくなり,イチモンジ帯がやや太い.♀は大型で,翅表の地色は青緑色を帯び,イチモンジ帯は白色となる.裏面色調は全く異なり,原名亜種のような黄緑色ではなく青白色を帯びる.分布:中国浙江省,福建省.新亜種名kobayashiiは,三重県志摩町国保前島病院の元院長,小林端博士に献名した.III.レクトタイプの指定 Limbusa亜属のoccidentalisについて,レクトタイプの指定を行った.Euthlia occidentalis(図30,31) E.occidentalisは,3♂2♀をもとに,Ta-tsien-lou,Sialou,Tien-tsuen,Moupin(中国四川省)を基産地として記載されたが,BMNHには4♂(!)2♀がタイプシリーズとして保管されている.このうち1♂1♀がタイプ箱(No.4-5)に保管されている.2♀は別種のstrephonとnaraであるため,タイプ箱に保管されている1♂をレクトタイプに指定した.IV.Limbusa亜属に関する覚書 下記にaristides,formosanaのタイプ標本に関する覚え書きを記した.1.E.aristides(図32,33) Tien-tsuen,Siao-lou,Mou-pin,Ta-tsien-lou(中国四川省)を基産地とするaristidesは,原記載でタイプの個体数は明記されていない.BMNHには50♂がタイプとして保管されている.すべてOberthurコレクションのラベルが付され,内訳はMou-pin産7♂,Siao-lou産24♂,Tien-Tsuen産8♂,Ta-tsien-lou産11♂である.このうち,Mou-pin産のうちの2♂(タイプ箱No.17-218)は種aristidesではなく,別種のthibetanaである.タイプ箱に保管されている1♂は,タイプ指定のラベルが付されているが,原記載ではホロタイプ指定はされておらず,また以後の年代にもレクトタイプ指定は行われていない.2.Euthalia formosana E.formosanaはFruhstorferにより,1908年に6♂をタイプとして記載された.MNHNのFruhstorferコレクションに現存するformosanaの個体は6♂2♀である.このうち,5♀には"VI08"(June1908と推察)のラベルがあり,タイプシリーズと考えられる.1♀には"Type(red)"を示すラベルが付されているが,原記載ではタイプは全て♂であることから,記載時の♂♀誤同定の可能性もあろう.なお,残りの1♂1♀には,原記載発行年以後のラベルが付けられている.