著者
武藤 拓之
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.182-187, 2021-03-01 (Released:2021-03-15)
参考文献数
26
被引用文献数
2

観察可能な行動を手がかりにしてその背後にある情報処理の仕組みをモデル化し,人の心を理解しようと試みるのが認知心理学の基本的なスタンスである.認知心理学のこのような考え方は,確率モデルでデータの生成過程を表現し,その確率モデルをデータに当てはめることによって現象の理解と予測を促す統計モデリングの手法と非常に相性が良い.特に近年,Stan (Stan Development Team, 2020) やJAGS (Plummer, 2020) といったベイズ推定を実行するための確率的プログラミング言語が登場し,従来よりも容易かつ柔軟に統計モデリングを実施できる環境が整ってきたことは認知心理学にとっても追い風である.このような状況を踏まえ,本稿ではベイズ統計モデリングの強みを生かした最近の認知心理学研究を紹介するa. a  行為主体がベイズの定理に基づいて信念を更新するとみなす意思決定の認知モデル(e.g., 中村, 2009; 繁桝, 1995) については本稿では扱わない.
著者
HIDEAKI KANZAWA-KIRIYAMA TIMOTHY A. JINAM YOSUKE KAWAI TAKEHIRO SATO KAZUYOSHI HOSOMICHI ATSUSHI TAJIMA NOBORU ADACHI HIROFUMI MATSUMURA KIRILL KRYUKOV NARUYA SAITOU KEN-ICHI SHINODA
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (ISSN:09187960)
巻号頁・発行日
pp.190415, (Released:2019-05-29)
被引用文献数
3 60

The Funadomari Jomon people were hunter-gatherers living on Rebun Island, Hokkaido, Japan c. 3500–3800 years ago. In this study, we determined the high-depth and low-depth nuclear genome sequences from a Funadomari Jomon female (F23) and male (F5), respectively. We genotyped the nuclear DNA of F23 and determined the human leukocyte antigen (HLA) class-I genotypes and the phenotypic traits. Moreover, a pathogenic mutation in the CPT1A gene was identified in both F23 and F5. The mutation provides metabolic advantages for consumption of a high-fat diet, and its allele frequency is more than 70% in Arctic populations, but is absent elsewhere. This variant may be related to the lifestyle of the Funadomari Jomon people, who fished and hunted land and marine animals. We observed high homozygosity by descent (HBD) in F23, but HBD tracts longer than 10 cM were very limited, suggesting that the population size of Northern Jomon populations were small. Our analysis suggested that population size of the Jomon people started to decrease c. 50000 years ago. The phylogenetic relationship among F23, modern/ancient Eurasians, and Native Americans showed a deep divergence of F23 in East Eurasia, probably before the split of the ancestor of Native Americans from East Eurasians, but after the split of 40000-year-old Tianyuan, indicating that the Northern Jomon people were genetically isolated from continental East Eurasians for a long period. Intriguingly, we found that modern Japanese as well as Ulchi, Korean, aboriginal Taiwanese, and Philippine populations were genetically closer to F23 than to Han Chinese. Moreover, the Y chromosome of F5 belonged to haplogroup D1b2b, which is rare in modern Japanese populations. These findings provided insights into the history and reconstructions of the ancient human population structures in East Eurasia, and the F23 genome data can be considered as the Jomon Reference Genome for future studies.
著者
筒井 淳也
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.48-59, 2020 (Released:2021-05-29)
参考文献数
21

持続的な文系縮小圧力があるなか、社会科学の学問を「科学的」かどうかによって優劣判断するような言説が目立つようになっている。このような圧力を受けて、社会学の立ち位置をどのように考えたらいいのかについて考察するのが本稿の目的である。経済学のように科学に近似していくという戦略、科学概念を拡張してそのなかに社会学を入れるという戦略、「科学」とそうでない学問との境界線の揺らぎを指摘してそもそもの判断基準を相対化するといった戦略などがあるが、いずれも有効性に限界がある。社会学の独自性が狭い意味での科学とは異なるところにあるのなら、その立ち位置を外に向かって丁寧に説明することを続ける必要がある。
著者
上田 祥二 松井 亮治 針尾 大嗣
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.83-90, 2021 (Released:2021-11-17)
参考文献数
15

プレイステーション5 の購入者の転売活動を把握するために、発売日から12 月末までおよそ1 ヵ月半のヤフオクの落札に関する情報を収集し、取引に関するデータの分析を行った。発売日当日から4 日間の取引数が多い結果であり、1 日に600 件規模の取引が確認できた。出品者の取引回数を整理すると、取引頻度が1 回または2 回の出品者が全体の87% を占めているおり、オークションによる転売活動の大部分は取引頻度が1~2 回の出品者によるものであった。出品者の取引回数別にユーザをグループ化しプロファイルの具体化を行ったところ、「実店舗のWeb 販売」、「個人中上級取引者」、「個人初級取引者」の3 種類に分類できた。
著者
湯川 やよい
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.88, pp.163-184, 2011-06-10 (Released:2014-06-03)
参考文献数
25
被引用文献数
4 1 1

本研究は,高等教育・研究者養成における教員─学生関係の社会学研究として,アカデミック・ハラスメントの形成過程を明らかにする。そのため,医療系の女性大学院生を事例に,学生が「被害」を認識する契機となるエピソードに着目し,被害の背景にある教員─学生間の信頼関係の変遷を,対話的構築主義アプローチを用いたライフストーリーとして再構成する事例研究を行う。 考察の結果,学生が「被害」と認識した出来事は,それ単独として存在するのではなく,多忙化した教員の研究・教育関与の低下,研究室間の不文律システム,教員同士の確執等,日常に埋め込まれた諸文脈の累積により学生の教員への信頼が失われ,その結果初めて学生にとって不快で不当な「ハラスメント被害」が構築されるという過程が明らかになった。 また,対話的構築主義アプローチをとったことにより,上記のハラスメント形成過程は,従来のアカデミック・フェミニズムの中でのモデル・ストーリーとなってきた「ジェンダー要因を中核とするハラスメント体験」の語りに対してずれを含む新たな対抗言説として導出された。 研究室の教員─学生関係で生じる困難を,単に学生相談の臨床心理からのみ論じるのではなく,背景にあるジェンダー関与的文脈と非関与的文脈の総体について社会学的に検討し,政策・教育機能分析と指導の実践レベルの研究とを接続する必要があると考える。
著者
柿原 新 鳴重 寿人 佐野 裕規 田代 久宗 大谷 研文 柳澤 郁成 渡邉 雅治 山中 典子
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.e45-e50, 2023 (Released:2023-03-29)
参考文献数
21

2019年10月,肉用牛飼養施設において,黒毛和種繁殖雌牛10頭が元気消失,食欲低下及び下痢等の症状を呈し,その後約3週間で9頭が死亡した.血清生化学検査でBUNとCreが高度に上昇,腎臓の病理組織学的検査を実施した5頭全頭で急性尿細管壊死が認められた.放牧場の糞便及び死亡牛の第一胃内容物中からクヌギのドングリの果皮が見つかった.比色法により定量したところ,クヌギドングリには6.08%(乾燥重量%)と高濃度の総ポリフェノールが含まれていた.また,第一胃内容の検査を実施した死亡牛全4頭からもポリフェノールが検出された.以上の結果から,本事例をドングリ中毒の集団発生と診断した.牧草の少ない時期に,大型台風により大量のドングリが放牧地に落下しており,放牧牛が短期間に大量に摂取したことが,発生要因と推測された.
著者
佐藤 賢一
出版者
電気通信大学
雑誌
電気通信大学紀要 (ISSN:09150935)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.7-16, 2022-02-01

This paper once again introduces one traditional Japanese mathematical book, Kenki Sanpo (1683) by Katahiro Takebe (1664 - 1739). In this book Takebe solved a problem of area of segment utilizing the approximate formula for the length of arc reduced as a result of polynomial interpolation. The author poses the hypothesis to reconstruct Takebe’s formula, which the formula has close resemblance to the minimax approximation polynomial.
著者
逢見 憲一 丸井 英二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.58, no.10, pp.867-878, 2011 (Released:2014-06-06)
参考文献数
68

目的 わが国におけるインフルエンザによる健康被害を定量的に把握し,超過死亡と予防接種制度との関連を考察する。方法 人口動態統計を用い,1952~74年および1975~2009年の総死亡率の季節変動から,インフルエンザによる超過死亡率と死亡数を推計した。結果 1952–53年から2008–09年の超過死亡数の合計は687,279人,年平均12,058人であった。 アジアかぜ,香港かぜ,ソ連かぜを合わせたパンデミック期 6 期分の超過死亡数は95,904人,それ以外の非パンデミック期51期分は591,376人とパンデミック期の約 6 倍であった。超過死亡年あたりの平均超過死亡数は,パンデミック期が23,976人,非パンデミック期が23,655人とほぼ同規模であった。 アジアかぜ,香港かぜパンデミック開始時には,超過死亡に占める65歳未満の割合が増大していた。 わが国の予防接種制度に関する時期別のインフルエンザ年平均年齢調整死亡率(10万人あたり)は,1952–53~61–62年(勧奨接種前)42.47,1962–63~75–76年(勧奨接種期)19.97であったが,1976–77~86–87年(強制接種期)には6.17に低下し,1987–88~93–94年(意向配慮期)は3.10であったが,1994–95~2000–01年(任意接種期)には9.42に急上昇し,2001–02年以降(高齢者接種期)には2.04に急低下していた。5~14歳の学童では,任意接種期の超過死亡率は強制接種期の15倍以上となっていた。また,65歳未満の年齢階層では,強制接種期の方が高齢者接種期よりも超過死亡率が低かった。結論 インフルエンザによる超過死亡は,パンデミックの有無によらず継続的にみられていた。また,インフルエンザとは診断されない超過死亡がインフルエンザ超過死亡全体の 8~9 割を占めていた。 わが国において,1970~80年代の学童への予防接種,および2000年代の高齢者への予防接種がインフルエンザ超過死亡を抑制していたこと,また,学童強制接種による超過死亡抑制の効果が大きかったことが示唆された。 公衆衛生政策上,非パンデミックの時期にも一般的なインフルエンザ対策を継続することが重要である。学童への集団予防接種も含め,“社会防衛”の理念を再評価すべきである。
著者
花島 晃 平野 富之
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会構造系論文集 (ISSN:13404202)
巻号頁・発行日
vol.62, no.496, pp.53-58, 1997-06-30 (Released:2017-02-02)
参考文献数
3

In constructing a 256-m-high skyscraper on a reclaimed land, there are two problems awaiting solution; one is negative friction of piles due to consolidation settlement of alluvial clay layer under the reclaimed soil layer and settlement of diluvial clay layer locating deeper than the bearing stratum of the building. These were handled in conducting subsurface exploration, foundation design, study on construction methods and construction work at the site controlled by measurements. Land settlement due to construction of a building should be estimated not only by evaluating increase in load and volume compressibility but also by considering 1) changes with time in ground-water table during excavation work and 2) load re-distribution effect due to rigidity of superstructure as a whole