著者
生地 正人 井上 雄二 末次 綾 奥村 朋子 出濱 和弥 多川 正 中矢 雄二
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.145-153, 2014
被引用文献数
2

傾斜土槽法は,低エネルギ-消費型の好気性浄化法である。この浄化機構を解明するためにスポンジ担体の傾斜土槽で実験を行った。本実験は,20~50分の水理学的滞留時間で有機性汚濁物質と総窒素(T-N)・総リン(T-P)が同時に浄化されることを示した。排水が傾斜土槽を浸透流下すると,水と有機性汚濁物質は分離される。溶解性の有機性汚濁物質は,生物学的吸着作用で分離され,これに要する時間が20~50分である。冬季を除けば槽内の生物学的浄化活性は高く,槽内部に捕捉された有機物は,土壌にみられる生物群によって分解される。槽重量は冬季に増加し,春季に減少した。T-N・T-P浄化は,生物学的な資化による。さらに,T-Nは硝化・脱窒反応で浄化され,T-Pはリンを含む生成土壌が槽内に残留することで浄化される。本法では,水と汚濁物質の分離,有機物の分解,汚泥の減量化,T-NとT-Pの浄化が同じ槽内で同時進行する。
著者
岩間 絹世 小野寺 淳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

享保2(1717)年,長久保赤水は常陸国多賀郡赤浜村(現,高萩市)の農家に生まれた。本年は赤水生誕300年を迎える。赤水は「改正日本輿地路程全図」をはじめ,「大清廣輿図」などの中国図,本研究で扱う世界図「地球萬国山海輿地全図説」を刊行し,江戸時代中後期を代表する地図製作者として広く知られる。長久保赤水作製の地図については,すでに数多くの優れた研究がある。この中で,赤水作製の世界図は赤水のオリジナルではあるものの,参照した世界図が古典的であるとの評価がある。さらに,世界図の刊行は赤水主導か否か,むしろ板元の浅野弥兵衛から持ちかけられて出版したのではないかとの見解もある(金田・上杉2012),本研究では,これらの評価に対する検討を意図するものではなく,科研によって見出された長久保赤水の子孫宅や長久保赤水顕彰会収集の資料群から得た「地球萬国山海輿地全図説」に関する知見を報告する。 「地球萬国山海輿地全図説」は,寛政7(1795)年ころに刊行されたとされる(金田・上杉,2012)。当初は無刊記で発行され,板元の記載も無く,現在この初板の無刊記板は神戸市立博物館,国立歴史民俗博物館,長久保和良家(子孫の一家)所蔵(写真参照)の3鋪の現存が確認されている。その後,大坂の浅野弥兵衛より刊行され(一軒板)や,浅野弥兵衛を含む5つの書肆より刊行された五軒板があり,これらはいずれも大型版である(表1)。すでに蘭学系世界図が刊行される一方で,赤水没後には,長久保赤水閲とされる天保15(1844)年の中型版や小型版が嘉永3(1850)年まで刊行された。 ところで,享保5(1720)年,原目貞清「輿地図」が江戸の書肆出雲寺より刊行された。本図は最初のマテオ・リッチ系世界図の刊行とされ,赤水の「地球萬国山海輿地全図説」は本図を参照し,実際赤水の書き込みが残る「輿地図」(明治大学図書館蘆田文庫)が残されている。本報告では,長久保和良本と蘆田文庫本の比較,長久保赤水の子孫宅や長久保赤水顕彰会収集の資料群の検討を行った結果を報告する。 なお,本研究は科学研究費基盤研究(C)「長久保赤水地図作製過程に関する研究」(代表者:小野寺淳)の成果の一部である。
著者
根木 秀佳 吉田 紀生 廣田 俊 東 雅大
出版者
日本コンピュータ化学会
雑誌
Journal of Computer Chemistry, Japan
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.8-13, 2018

<p>シトクロム<i>c</i>は,ミトコンドリア内の呼吸に関わる反応において電子を伝達する役割を担うヘムタンパク質である.シトクロム<i>c</i>は,互いのC末端ヘリックスを交換するドメインスワッピングにより多量体を形成し,電子伝達の機能を失うことが知られているが,多量体形成のメカニズムは未だはっきりしていない.この多量体形成メカニズムの解明を目指して,我々は分子動力学シミュレーションと液体の積分方程式理論を用いてシトクロム<i>c</i>の単量体と二量体の熱力学安定性の解析を行ってきた.本稿では,これまでの研究成果について紹介する.</p>
著者
神田 康行 福本 功
出版者
一般社団法人 日本計算工学会
雑誌
日本計算工学会論文集
巻号頁・発行日
vol.2018, pp.20180004-20180004, 2018

近年, 地球環境保護の高い社会的要請により, ウッドセラミックスのような植物に由来したカーボンセラミックス複合材料の研究開発がなされている. 著者らは, 植物由来カーボンセラミックス複合材料の高強度化と産業副産物であるサトウキビバガスの有効利用を目的に, バガス灰と炭化バガス繊維の植物繊維強化カーボンセラミックス複合材料を放電プラズマ焼結法により作製している. その結果, 不均一な長さの炭化バガス繊維の界面接着状態は, 溶融固化したバガス灰のバインダー効果により焼結保持時間および炭化バガス繊維が長くなると向上することを明らかにした. <br>植物繊維強化カーボンセラミックス複合材料では, 不均一な長さの強化繊維が母材内を分散することで幾何学的には複雑な内部構造を形成する. このような複合材料の内部構造に対して均質化法は, 周期性の仮定が難しいことから不向きと考えられる. そのため, 三角形要素による要素分割の適用が望ましいが, セラミックス複合材料の強度評価には曲げ試験が適用される. 三節点一次要素を用いたFEM解析は, 曲げ変形の解析精度が不十分である. また, FEM解析に母材と強化繊維間の界面接着を取り入れる方法に界面要素の適用があるが, 要素分割時には界面上に二重節点の作成という煩雑な処理が必要になる. <br>以上のことから, 本研究では, 植物繊維強化カーボンセラミックス複合材料の曲げ変形解析に対する高精度化と要素分割時の効率化を目的とし, 曲げ変形の解析精度を高めた回転自由度を有する三節点三角形要素 (以降, RGNTri3と称す) に拡張有限要素 (以降, XFEMと称す) のヘビサイド関数を界面節点に適用することで, 回転自由度を有する三角形界面要素 (以降, RGNTri3Xと称す)を開発した. RGNTri3Xは, 二重節点の作成が不要であり, その要素剛性マトリックスは三角形要素と界面要素から構成されている. そのため, 本研究ではRGNTri3Xを「三角形界面要素」と呼んでいる. 本論文では, まず, RGNTri3を用いた界面要素の剛性マトリックスをペナルティ法により導出している. 次に, RGNTri3の変位関数にXFEMのヘビサイド関数を適用し, RGNTri3Xの三角形要素と界面要素の剛性マトリックスを定式化している. その後, 本研究で適用したき裂進展解析法について述べている. そして, 基礎的な数値解析例として, RGNTri3Xのペナルティ数を変化させた際の片持ち梁の変位解に対する誤差と曲げ試験における単一材料のき裂進展挙動の解析精度を検討している. 最後に, 提案法の植物繊維強化カーボンセラミックス複合材料に対する適用性として, バガス灰と不均一な長さの炭化バガス繊維を用いた複合材料のき裂進展解析を行った. すなわち, FEM解析モデルを試験片観察および三点曲げ試験結果より作成し, 強化繊維の界面接着状態と分散状態を変化させたFEM解析より得られた三点曲げ試験における最大主応力, 曲げ強度およびき裂進展挙動を議論した. 本論文で得られた結論は以下のとおりである. <br>(1)RGNTri3Xにおける界面要素は, 従来の界面要素とほぼ同等の解析性能であるため, 要素分割時に界面の二重節点の作成が不要であることが示された. <br>(2)バガス灰と炭化バガス繊維を用いた複合材料の最大主応力は, 強い界面接着では界面の強化繊維側, 弱い界面接着では界面の母材側に発生した. このことから, 母材のバインダー効果に起因する界面接着状態の変化を反映した母材と強化繊維間の応力伝達が解析可能であると認められた. <br>(3)バガス灰と炭化バガス繊維を用いた複合材料の曲げ強度は, 強い界面接着では実験結果と良く一致し, 弱い界面接着では実験結果よりも低くなり, いずれの場合も母材内の強化繊維の分散状態の変化に伴い変動した. このことから, 強化繊維の界面接着状態と母材内への分散状態の変化に伴い, 曲げ強度が変動する解析結果が得られた. <br>(4)バガス灰と炭化バガス繊維を用いた複合材料のき裂進展挙動として, き裂発生は, 母材と強化繊維間における応力伝達の差異により, 強い界面接着状態では界面の炭化バガス繊維側, 弱い界面接着状態では界面の母材側から発生した. その後, 両状態におけるき裂は, 炭化バガス繊維を貫通しながら試験片内部を進展する力学挙動が解析された. <br>以上のことから, RGNTri3Xを用いることで, 要素の頂点節点のみで曲げ変形に対して高精度な解析性能を有し, 要素分割時に二重節点の作成が不要な界面要素を取り入れたFEM解析が可能になり, 植物繊維強化カーボンセラミックス複合材料の曲げ変形解析に対する有効性が明らかになった.
著者
藤川 正毅 山辺 純一郎 小石 正隆
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
計算力学講演会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

Industrial rubber, commonly used in the fabrication of tires and engine mounts, exhibits nonlinear viscoelastic behavior. In the design of these rubber products, it is important to capture the stress–strain responses under arbitrary loading conditions. However, the stress–strain responses exhibit complicated behavior, which depends on strain rate, strain history, strain amplitude, etc. The main purpose of this study is to develop a new constitutive model that captures the nonlinear viscoelastic stress–strain response of carbon-black-filled styrene-butadiene rubber vulcanizates (SBR-CB). In the assumed micro-mechanical network structure, we decomposed the isochoric free energy into the elastic equilibrium and the viscoelastic overstress response. Based on the results of our performance evaluation of various hyperplastic material models, we used an eight-chain model for the equilibrium network. For the nonlinear viscoelastic network, we used the micro-sphere model. The micro-stress/strain equation was assumed to be in simple phenomenological form, as reported by Miehe. For the revolution equation of the micro-inelastic strain, the Rendek and Lion model was employed. In addition, to reproduce the stress-strain relationship under from infinitesimal to 50% strain amplitude, the relaxation time depending on the strain amplitude of the free dangling chains was proposed as a new metric. The proposed model was able to practically and precisely reproduce the dynamic responses of SBR-CB25 under a wide range of applied strains and strain rates, was thermodynamically consistent for arbitrary deformation, could be implemented in commercial FEM software (Abaqus), and reproduced the stress-strain relationship under various experimental loading conditions.
著者
米須 清一郎 松田 昇一 加藤 純郎
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
年次大会
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

<p>Impingement jets are often used for the cooling and heating of a surface or a body because a high heat transfer coefficient is obtained near the stagnation point of an impingement surface. Recently, as equipment becomes smaller, impingement jets have been utilized in narrow spaces. In such a case, the nozzle diameters and Reynolds number which based on the nozzle exit velocity also become tinier as a matter of course. Generally, in the case of measuring the heat transfer coefficient by using a thin heat transfer surface, heat loss, <i>q</i><sub>e</sub> due to heat conduction in the in-plane direction in the heating surface occurs. However, <i>q</i><sub>e</sub> has been considered inconsequential in the case of the common impinging jets having large diameters and with large Reynolds number. However, <i>q</i><sub>e</sub> may not be negligible in the case of impinging jets having a small diameter and with low Reynolds number. In this research, heat transfer characteristics using rows of impinging jets with small diameters and with low Reynolds number were investigated experimentally. The jet holes with the diameters <i>D</i> of 1, 2 and 3 mm were used. The experiments were performed with the relatively low Reynolds number range of 170~1460. The surface temperature of the impingement plate was measured using an infrared camera, from which heat transfer coefficients on the surface were obtained. It was found that the <i>q</i><sub>e</sub> needs to be considered in the case of impinging jets having small diameters and with low Reynolds number.</p>

1 0 0 0 OA 百鳥図

著者
石顛道人<増山雪斎>//〔画〕
出版者
巻号頁・発行日
vol.3,
著者
田口 真奈 寺嶋 浩介 中橋 雄 加藤 友香 水越 敏行
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.13-25, 2000-03-20

本研究では、同じテーマで構造の異なる2つの番組を続けて視聴したとき、先行する番組におけるテーマの取り扱い方の違いが後に視聴する番組の視聴や概念形成にどのような影響を与えるのかを検証した。NHK一般番組『クローズアップ現代』とCTW制作の小学生向け教育番組『3-2-1 CONTACT』とから、「ゴミ」を扱った番組を選定し、調査の題材とした。小学生と大学生という発達段階の大きく異なる被験者137名を対象とした質問紙調査を行った結果、先行する番組の視聴は、後に視聴する番組の見方そのものには影響を及ぼさないが、視聴後の概念形成には影響を与えることが明らかとなった。
著者
速水 敏彦 丹羽 智美
出版者
名古屋大学
雑誌
名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要. 心理発達科学 (ISSN:13461729)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.197-206, 2002-12-27

The purpose of this study is to examine the changes in the emotions that took place in the pupils nowadays as compared to the pupils more than 10 years ago, the causes for such changes and future educational implications. Data were collected through interviews with veteran teachers. Subjects were 68 teachers from six elementary schools and six high schools, most of whom had over 15 years of experience in instructing and caring for pupils. Firstly, a simple questionnaire was administered on the subjects to determine the changes in the emotions between the pupils nowadays and the pupils in the past. The following six aspects of emotions were examined, anger, sadness, joy, fear, surprise and fun. Next, Several teachers in each school were interviewed as a group by the first author. They were asked to respond to the following questions: (1). What are the characteristics found in the emotions expressed by pupils nowadays? (2). What contribute to such characteristics? (3). In terms of educating the pupils, what should the schools do to help pupils better develop their emotions? From the interviews, basing on the teachers' daily observations of pupils, we could conclude the characteristics of the pupils' emotions as follows. (1) Pupils nowadays were more likely to feel angry than pupils in the past, whereas the former were less likely to have and express sadness, joy, fear, surprise and fun than the latter, (2) The characteristics of the emotions among pupils were mainly determined by parents and culture, (3) Group activities, such as, field study and athletic club, would have a positive impact on the pupils' emotional growth.国立情報学研究所で電子化したコンテンツを使用している。
著者
海老原 修
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.67-82, 2014

社会科学による質的なデータの数量化は主に同じ土俵上での相対的な重みづけを志向しており、変換されたダミー変数は説明変数であって被説明変数にはなりにくい。量的研究が質的現象を説明するのか、質的研究が量的現象を説明するのか。はたして、両者は対称的な位置づけなのか、もしかすると非対称ではないだろうか。このスタンスに基づき、体育・スポーツ研究領域で長い間、普遍的なデータを提供している内閣府「体力・スポーツに関する世論調査」に質的研究事例を、文部科学省「体力・運動能力調査報告書」に量的研究事例を求めて、それぞれの解釈と課題を提供した。 質的なデータが示す時系列分析は当事者のみならず社会の変容を理解する好材料を呈示する。一方で、量的データはウソをつくかもしれない。平均値の表示は作為的か不作為か判然としないが、体力低下がまやかしである可能性を教えてくれる。2人の得点が50点ならば平均値は50点であるが、2回目に1人が0点となってしまった。したがって平均点50を維持するには残る1人が100点を取らねばならない。3人の平均値が50点であるが、2回目には2人が0点となってしまったので、残る1人は150点を獲得しなければならない。平均点を表示する体力・運動能力の年次推移の背後には、運動やスポーツを行なったりやめたりする子どもたちの運動習慣の変動があり、運動実施状況別にたどると体力・運動能力そのものは不変である可能性が浮かび上がる。このような錯誤を指弾する姿勢は肉感的なフィールドワークによってかたちづくられる、ほんとかしらん、なぜなのかしらん、といった不思議の開陳である。聞き取りや参与観察、インタビューなど質的なアプローチが、研究対象にたいして多元的・多段階的な昆虫の複眼と単眼による量的な分析を刺激し続けている。