著者
多和田 眞一郎
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

沖縄語の通時的研究は、その共時的研究に比して、遅れていると言わざるをえないという認識の下に、(音韻史に関して)その基盤構築・整備のための研究を進めてきた。その目標の八割ぐらいは実現できた。ハングル資料・漢字資料に関してはほぼ達成できたが、いくつかの仮名資料及びアルファベット資料に関しては、後日を期すものが生じた。作業は継続し、相応のまとめをする予定である。ハングル資料「語音翻訳」「漂海録」に関しては、影印・翻刻を初め、本文・語彙索引及び分析にいたるまで、今回の研究で最終的なものが示せた。漢字資料に関しては、『琉球譯』の分析が保留となったが、本文の検討と語彙索引の作成によってある程度の成果が得られた。その他の漢字資料「中山伝信録」「琉球入学見聞録」等については、ほぼ完成したものが得られた。仮名資料に関しては、辞令文書・碑文記を中心に研究の骨格となるものが示せた。が、本文入力は終了しながら語彙索引作成・分析にまで到れなかったものが、いくつか存在する。その最たるものが『沖縄對話』(1880)である。進行中の語彙索引が完成すれば、研究の進展に寄与すること大である。アルファベット資料に関して言えば、「クリフォード琉球語彙」を基に研究の基盤が整備された。「チェンバレン琉球語彙」と称して収録した「チヤンバレーン氏増訂琉球会話」の語彙索引は、有効な資料となろう。『ベッテルハイム琉球語文典』から抜粋した「ベッテルハイム琉球語彙」の語彙索引も今後作成されるので、合わせて利用すれば相当の効果が得られる。報告書(1)・(2)を基に、前述の保留資料も整備して、『沖縄語の歴史(音声・音韻)』としてまとめる構想を持っている。研究の更なる発展を目指す。
著者
板見 智 高安 進 園田 忠重
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

ヒトの毛の発育の男性ホルモン感受性の違いを分子レベルで解析するために毛組織の上皮系、間葉系それぞれの細胞を培養し、男性ホルモンレセプター、5α-リダクターゼについてmRNAレベルで解析した。手術時に得た皮膚より手術顕微鏡下に頭髪、髭、脇毛等の外毛根鞘、毛乳頭を単離し継代数4-6代に達した細胞を実験に用いた。I型、II型それぞれの5α-リダクターゼのmRNAの発現をRT-PCR法で調べたところ、I型5α-リダクターゼのmRNAはすべての外毛根鞘、毛乳頭細胞に認められたがII型の5α-リダクターゼは髭及び前頭部毛乳頭細胞で強く発現していた。男性ホルモン受容体mRNAの発現は腋毛の毛乳頭細胞で最も強く後頭部毛乳頭細胞ではわずかに認めるのみであった。男性ホルモン受容体に対するポリクローナル抗体を用いた免疫組織染色では、いずれの部位より得た毛包においても上皮系の細胞は陽性所見を示さず男性ホルモン受容体は毛乳頭細胞に局在していた。後頭部毛乳頭細胞には男性ホルモン受容体は認められなかった。以上の知見より髭、腋毛、男性型脱毛の前頭部毛の毛乳頭細胞はいずれも男性ホルモンの標的細胞であるが、II型の5α-リダクターゼは髭、男性型脱毛など強い男性化徴候を示すために必要と考えられた。毛乳頭細胞の分泌する男性ホルモン依存性の毛包上皮系細胞増殖因子について、in vitroで毛の発育作用が報告されているFGF、HGF、IGF-I等についてmRNAの発現を検討したところ、IGF-IのmRNAの発現のみが男性ホルモンにより促進されていた。また髭毛乳頭細胞と外毛根鞘細胞の混合培養では、男性ホルモンによる外毛根鞘細胞の増殖促進はIGF-Iに対する中和抗体により抑制された。これらの結果より髭組織においてはIGF-Iが毛乳頭細胞由来の男性ホルモン依存性の毛の増殖因子の一つであることが明らかとなった。
著者
小池 孝良 村上 正志 柴田 英昭 日浦 勉 高木 健太郎 田中 夕美子
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究(B)
巻号頁・発行日
1999

光合成速度のピークは6月下旬で8-16umol・m^<-2>s^<-1>低下は樹種に特徴的。CO2付加では針葉樹材の細胞内腔が増加した。成熟林の1998〜2000年の現存量成長量は0.44、0.60、0.48tC・ha^<-1>yr^<-1>であった。総胸高断面積は32322.8m^2、平均胸高断面積は14.4m^2・ha^<-1>であった。総現存量は59626.9tC、平均現存量は26.6tC・ha^<-1>であった。1999〜2001年の平均NEPは258 gC m^<-2> y^<-1>土壌から大気へ放出される炭素フラックスは平均580 gC m^<-2> y^<-1>でNEPの二倍以上を示した。GEPは838 gC m^<-2> y^<-1>でありGEPに占めるNEPの割合はおよそ30%であった。幹呼吸量は土壌呼吸速度の11〜20%に相当した。GEPの算出に幹呼吸を入れると929 gC m^<-2> y^<-1>となり、樹木葉(含枝呼吸)の総光合成速度に相当した。リタートラップによると土壌還元量は三年間平均で118 gC m^<-2> y^<-1>であり、GEP(929 gC m^<-2> y^<-1>)の約13%であった。枯死による炭素還元量は79 gC m^<-2> y^<-1>であった。地上から地下部への炭素転流量は549 gC m^<-2> y^<-1>であった。植生から土壌へ流入する炭素フラックスは533 gC m^<-2> y^<-1>であった。GEPの約57%の炭素が根系を経て土壌へと供給された。河川への炭素放出は溶存有機炭素(DOC)、溶存無機炭素(DIC)、粒状有機炭素(POC)に大別される。全溶存炭素濃度濃度は4.1±1.8 gC m^<-2> y^<-1>で、DICの占める割合は約67%でありDOCとPOCは同程度で、流域からの炭素流出量はNEPの1.6%で約254 gC m^<-2> y^<-1>炭素が蓄積された。このうち108 gC m^<-2> y^<-1>(43%)が植生に146 gC m^<-2> y^<-1>(57%)が土壌へ蓄積された。
著者
青砥 清一
出版者
神田外語大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、パラグアイ国チャコ地方のコンセプシオン市とフィラデルフィア市において、58の語彙項目、ならびにレ代用法(Leismo)、ボス法(Voseo)、アスペクト迂言形などの形態統語論的バリエーションに関する質問票調査を実施した。そのうえで、同国におけるスペイン語の語彙的・形態統語論的バリエーションに関する全国言語地図を作成し、言語変化の内的および外的な動機付けを探求した。言語地図は電子化し、ウェブページにおいて公開した(http://www.geocities.jp/pedro1aoto/index.html)。
著者
里見 進 末永 智一 藤盛 啓成 後藤 昌史
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究により、複数の微小組織サンプルの呼吸活性指数を15分以内に高精度で計測できる臨床応用可能なシステムを構築することに成功した。開発したシステムを活用することにより、糖負荷前後における分離膵島の呼吸活性の変動指数が移植後の膵島グラフト機能と有意に相関し、有用な移植前評価法となり得ることが判明した。さらに本システムは、新規膵島分離酵素剤や新規膵島培養デバイスの構築に極めて有用であることも明らかとなった。
著者
水越 允治
出版者
三重大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

18〜19世紀前半の近世小氷期末の気候特性を,近世文書の記録により復元し,19世紀後半もしくはそれ以後の気候特性との違いを明らかにした。またその様な差異を起こす原因について検討・考察を行った。主要な成果は次のとおりである。(1)冬の寒さは1820年代まで厳しく,30年代からは温暖化した。1860年代の寒さは近年と同程度。したがって近年の暖冬は決して未曽有のものではない。(2)冬の太平洋側の降水量は19世紀前半には少な目,後半に入って次第に増加する。(3)19世法前半には春先に冬型気圧配置の出現頻度が大で,春の到来が遅かったことがわかる。(4)梅雨明けは1780年代,1830年代に特に遅かった。梅雨期の降水量は19世紀初頃には少なく,1830年代から増加している。(5)1820年代までは空梅雨の年が折々現れているが,1830年代以後は梅雨末期の豪雨が頻発する。(6)年間台風襲来数は19世紀初には1〜2回程度,1820年代の後半から急増し年間3〜4回にも達する程になる。(7)夏の乾湿度(降水量の多少)は,1820年代までは乾燥傾向,30年代からは湿潤に向かい,40年代以後は湿潤年が目立つ。(8)以上から1820〜30年代付近を境として,これ以前には寒冬,暑夏で乾燥した気候条件が,それ以後には暖冬,冷夏で湿潤な気候条件が中部日本では卓越したと考えられる。19世紀初頃の気候条件をもって近世小氷期の特性とするまらば,この時代の大気大循環は東アジアの東西指数が冬は低く,夏は高い傾向にあったと推定できる。またこのような大気大循環型形成の背景には,大気と海との相互作用の存在がうかがわれ,例えば近世小氷期の時代にはエルニ-ニョ現象が比較的不明瞭ではなかったかと推測される。火山活動もまた近世小氷期の気候特性と係わることが,気候復元の結果と照合してみると推察される。現在これらの気候と対応関係の分析を進めている。
著者
河合 千恵子 佐々木 正宏
出版者
桜美林大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

「配偶者と死別した高齢者の長期縦断研究」の第4回目の調査を実施し、生存対象者のほとんどが悲嘆から回復していたことが確認された。9年間で初回調査時のおよそ30%が死亡しており、生命予後に関連する因子がコックス回帰分析により明らかにされた。配偶者との人生を語る介入プログラムが実施され、人間的成長を促進する効果が示された。このプログラムへの参加は配偶者との死別により変わってしまった世界の意味構造を再構成する機会となったかもしれない。
著者
佐々木 和也 清水 裕子
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

伝統染織の手仕事を取り入れた幼児教育の可能性を探る一方で,それら開発教材の感性評価指標の模索を試みた。結果として,衣生活文化の視点から伝統染織プログラムを多数実践し,現場型で改良を重ね,主観的には多くの成果を上げることができた。しかしながら,それらを客観的に評価する感性指標を十分に考究するには至らなかった。今回は,歩行解析を用いた足の評価を試み,日常の保育形態による足の発達が異なることを見出せたことから,保育内容の設定の重要性を示唆することができた。
著者
南部 鶴彦 花堂 靖仁 舟田 正之 阿波田 禾積 室田 武
出版者
学習院大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1990

本年度は昨年度に蒐集されたデ-タにもとずき,異なる性格を持つ事業所や会社の発電コストについて実証的な数量分析がなされた。これによって電力会社とコストの面でどれほどの乖離があるか,そしてそれが将来の競争についてどのような効果を持つかが検討できる。一方海外における電力事業の変化はめざましいものがあるので,これを特にDSM(Demand Side Management)に着目し,ヒアリングと調査を行った。アメリカでとられたこの制度を日本にそのまま移入することは難しいが,そのアイディアを生かすことができないかが検討された。またアメリカの発電部門ではますます規制緩和が進み,競争メカニズムの利が実現しようとしている.こうした発電部門の自由化は送配電部門に対してどのようなインパクトを与えることになるのかについて,ヒアリングを行うとともに,法制度・経済理論の両側面から研究を行った。わが国でみれば,コジェネレ-ションの進展が,発電部門の自由化に近い意味あいを持つことが考えられる.しかし現在のところ,コ-ジェネの発展に対する諸規制の存在が,これを簡単には実現させていない。そこでどのような法規制がコ-ジェネを阻んでいるか,そしてそれは経済学的に見ればどのような効果を持つことになるのがについて,分析がなされた。同時に,競争の発展とともに電気料金の構造は変らざるをえず,その基礎をなしている会計的枠組にも変化が求められている.この点について会計学の視点から検討が行われた。
著者
沼崎 一郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究の目的は、日本人男性とフィリピン人女性との国際結婚家庭を研究対象として、異なる文化を持つ夫婦が、それぞれの生まれ育った文化を持寄り、組み合わせて、どのような新しい日常生活文化(食生活、年中行事、親族関係など)を生み出しているのか、それをどのように子供たちに伝えているか、さらに、どのような影響を地域社会に与えているといった問題について、「モザイク文化」という視点から記述分析することである。本研究では、仙台在住のフィリピン人妻の会の女性たちが中心となって、仙台七夕祭「動く七夕」パレードに参加して演じている「フィリピン・ダンス」に注目し、これは、それ自体が複数の異なる文化要素を組み合わせた「モザイク文化」であると同時に、一つの新たなモザイク片として、仙台七夕祭を「モザイク化」し、さらに仙台と故郷とを結ぶフィリピン人親族ネットワーク文化をも「モザイク化」していることが明らかとなった。仙台という枠組のなかだけで考えるならば、「フィリピン・ダンス」は、フィリピン人妻たちにとってフィリピン人アイデンティティーの確認とフィリピン文化の呈示という目的のエスニシティの表出と捕らえることもできよう。しかし、それは一面的な把握に留まる。なぜならば、フィリピンと仙台とを結ぶ親族ネットワークの文脈においては、「同じ」ものが、国際結婚家庭というアイデンティティーの表示や日本文化の呈示という目的の二文化性・多文化性の表出でもあるからだ。「同じ」モザイク片が、異なる次元では、異なる意味を持ち、異なる役割を果たしているのである。
著者
浅川 学
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

最近,西日本を中心にハコフグ科魚類の喫食による食中毒が頻発している。本食中毒の症状はパリトキシン(Palytoxin: PTX)中毒の症状に酷似しており、食品衛生学上、大きな問題となっている。そこでPTXの起源生物であるOstreopsis属渦鞭毛藻の分布を調査するとともに、その培養株の毒産生能を調べた。宮崎県、徳島県、長崎県、高知県沿岸より大型海藻(約200g)を採取し、20-100μm画分の付着生物等を採取した。付着生物は、光学顕微鏡を用いて観察し、Ostreopsis属の有無を調べた。宮崎県および長崎県産Ostreopsis属の天然の単一株については、ESM培地を用い、培養温度20℃、光強度を40μmol photon/m^2/s^1、明暗周期を12時間明/12時間暗の条件下で培養を行った。次に、得られた培養藻体から調製した試験液をマウス毒性試験および溶血活性試験に供した。宮崎県産および長崎県産Ostreopsis属の培養藻体からマウス毒性(いずれも1.0×10^<-4>MU/cell)が検出された。さらに、Ostreopsis属の培養藻体はマウスおよびヒト赤血球に対して遅延性の溶血活性を引き起こすとともに、後者の活性は、g-ストロファンチンによりほぼ完全に抑制された。これら培養株の毒の性状は、既報のPTX様物質と類似しており、宮崎県産および長崎県産Ostreopsis属はPTX様物質産生能を有していることが確認された。各試料から予備精製した有毒成分を今回確立したPTX分析用LC/MSシステムで分析したところ、いずれもPTX類似物質であることが明らかとなった。また、食中毒を引き起こしたハコフグ科魚類とPTX様物質の産生能を持つOstreopsis属は同地域に存在しており、ハコフグ科魚類は,Ostreopsis属渦鞭毛藻を起源生物として食物連鎖により、PTX様物質を蓄積する可能性が示唆された。
著者
阿部 徹也
出版者
兵庫医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

口腔・顔面領域は皮膚領域と、粘膜領域とが入り組み、ラットへのホルマリンの注入刺激は顔面皮膚領域の方が口腔内の粘膜領域より多くの疼痛関連行動を起こす。その行動は脳内抑制性伝達物質であるGABA受容体を通して制御され、その制御効果も顔面の疼痛に対する方が大きい。口腔粘膜領域はC線維が顔面皮膚領域より少なく、そのことが中枢の制御機構にも差を生じさせている。ペプチド性のC線維に含まれるサブスタンスP(SP)の受容体であるニューロキニン1(NK-1)は三叉神経尾側亜核(Vc)のI層とIII層に分布し、侵害受容に関わっている。私たちは細胞質内に入って毒性を発揮するライボソーム非活性化毒素であるサポリンをSPに結合させたSP-サポリン(SP-Sap)を延髄の後角(Vc;三叉神経尾側亜核)に作用させ、I層やIII層に存在するSPの受容体であるニューロキニン1受容体(NK1)を持つニューロンを削除することに成功した。SP-Sapを小脳-延髄槽(大槽)に投与して2~4週間後のラットでは、VcのI層とIII層のNK-1受容体免疫陽性ニューロンの数が減少した。SP-Sap処置ラットではホルマリン誘導侵害受容反応Vcがコントロールラットに比べ減少した。コントロールラットではホルマリン注射の前にビククリンを全身投与すると侵害受容反応は減少するが、SP-Sap処置ラットでは逆に増加した。すなわちNK-1を持つニューロンが侵害刺激の受容だけでなく、上位脳のGABA_A受容体を介した制御系に関与することを示した。
著者
鈴木 隆介 西田 治文 小口 千明 田中 幸哉
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

蛇紋岩で構成される山地(以下,蛇紋岩山地と略称)は,一般にそれに隣接する非蛇紋岩山地に比べて,(1)相対高度が高く,(2)谷密度が著しく低く,(3)尾根が丸く,山地斜面が緩傾斜であり,(4)浅い滑り面をもつ地すべりが多い,といった特異な削剥地形を示す.蛇紋岩山地の,そのような特異な削剥地形の成因を解明するために,以下の研究をした.北海道敏音知周辺,北上山地宮守地域,京都府大江山を中心に,自然露頭および大規模な砕石場において,現地岩石物性試験(弾性波速度,貫入硬度,シュミットロックハンマー反発度,浸透能,節理密度),室内での新鮮岩および風化物質の岩石物性試験(圧縮・圧裂引張・剪断強度,密度,間隙率,間隙径分布,P波・S波速度,定水位透水係数)ならびに鉱物分析を行った.蛇紋岩の節理密度は,深部では節理の多い部分と少ない部分が複雑に混在しているが,地表に近いほど節理密度が大きくなる.また,日本の主要な蛇紋岩山地についての地形計測によると,蛇紋岩山地の平均高度は蛇紋岩体の面積が約10km^2より大きい場合には周囲の非蛇紋岩山地より高いが,それより小さい場合には逆に低い,ことが判明した.このような蛇紋岩山地の削剥地形の特徴は,蛇紋岩の特異な岩石物性を反映した,次のような削剥過程に起因すると考えた.蛇紋岩の強大な残留応力が削剥に伴う除荷作用によって解放されるために,蛇紋岩が膨張して,引っ張り割れ目が増加して節理密度が増加し,蛇紋岩は葉片状さらに塊状に破砕する.そのため,葉片状,塊状,礫状の蛇紋岩は高透水性を示すので,地表水が浸透しやすくなり,谷は浅く,谷密度が低くなる.一方,風化すると,蛇紋岩は吸水膨張するので,表層部に浅い地すべりを発生しやすくなるので,斜面は緩傾斜になる.その削剥過程における雪達磨効果のために,大規模な蛇紋岩体ほど高い山地を形成している.
著者
鈴木 晃仁 脇村 孝平 飯島 渉 橋本 明 杉田 聡 渡部 幹夫 山下 麻衣 渡部 幹夫 山下 麻衣 猪飼 修平 永島 剛
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

19世紀後半から20世紀前半にかけての日本における「健康転換」を、当時の先進国と日本の植民地を含めた広域の文脈で検討した。制度・行政的な側面と、社会的な側面の双方を分析し、日本の健康転換が、前近代社会としては疾病構造の点では比較的恵まれている状況で、市場が優越し公共の医療が未発達である状況において、欧米の制度を調整しながら受容したものであったことを明らかにした。
著者
平川 幸子 中山 修一 相原 玲二 永田 成文 NU Nu Wai
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、テレビ会議システムを日本の高等学校に設置し、環境問題などの地球的な課題に関する問題解決型の教材を開発し、外国の高等学校との間で実際に教材を用いた実験を行って、その効果を実証することを目的に、平成16年度から18年度までの3年間で研究を行った。日本では広島県立安芸府中高等学校が実験に協力し、その姉妹校であるハワイのメリノール高校とオーストラリアのベド・ポールディング高校がカウンターパートとして参加した。教材の開発と実験は、平成17年9月に地球温暖化(3年生中心)、18年1月に平和(2年生中心)、平成18年9月に地球温暖化(3年生中心)をテーマに3回行った。最初の交流では、手作りのタイムマシンなどを使って映像的には盛り上がったが、生徒の思考力を高める問題解決型の交流を行うことはできなかった。また、第2回の平和に関する交流では、フロアの生徒への準備が不足していたため、具体的にイラクでの戦争などの話になると十分に理解することができなかった。生徒の「英語能力を高めなければ」「世界の情勢を知らなければ」という意欲を高めることに役立ったことがアンケート調査から実証されたが、問題解決型の学習教材としては不十分であった。この反省を踏まえ、第3回の教材開発では、温暖化防止のためのサマータイムの導入の是非を、コスト、リスク、対費用効果などの基本概念を踏まえて代表チームがディベートを行い、フロアの生徒やオーストラリアの生徒にどちらの意見に賛成するかの意見を表明させる形式を取った。また、日本側の生徒にも十分な準備を行い、基礎知識と英語能力を身に付けさせた。その結果、既にサマータイムを導入しているオーストラリアの状況を質問してその答を自分の意見の理由に取り入れたり、コストや対費用効果などの考えを加味したりして、生徒の視野が広がり、思考が深まったことが実証できた。
著者
智原 江美
出版者
奈良佐保女学院短期大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

1853年に中産階級を対象にイギリスで出版された『Field』誌には、ローンテニスが考案された1847年から初期のゲーム形態が整ったと思われる1883年の10年間に、358のローンテニス関連記事が見られた。特に最初の6年間は多くの読者からのさまざまな投稿記事が見られ、その内容は、統一ルールが制定され改良されていくにつれ、次第にイギリス各地及び英領植民地等での試合日程と試合結果が殆どを占めるようになった。投稿記事の内容は、初期のころは、ウィングフィールドが考案したとされている新しいローンテニスのルール・用具に関する問い合わせ等が多く見られ、次にローンテニスは誰が最初に考案したかということをめぐっての論争が主流となる。また統一ルール制定へ向けてのさまざまな意見を述べた投稿、ルールを制定あるいは改定する過程における委員会等での討議の報告なども、制定又は改定の前後には著しく増加した。1877年には『Field』誌の編集長であるJ.H.ウォルシュが全英ローンテニス・クロッケ-協会の役員となり、第1回のウィンブルドン大会を開催する。この大会における出場者募集の案内及び大会で採用されたルール等の記事、試合結果の報告も誌面に掲載された。このように『Field』誌は、ローンテニスという新しいゲームが誕生し発展する過程において、さまざまな情報を中産階級の購読者に対して広く提供してきており、その存在は非常に大きい。考案者のウィングフィールドが『Field』誌に投稿したことから購読者にこのゲームの人気が高まり、ローンテニス愛好者は『Field』誌を講読し、また編集者もかかわって経済的な収益を見込んでのト-ナメント大会をも主催するというような図式が考えられる。このような商業資本との深い結び付きは、近代スポーツの発展における典型的な例といえよう。今回は発行部数や経営に関する記録等は入手できなかったが、上記の図式を裏づけるうえでの今後の課題としたい。
著者
白武 義治 甲斐 諭 宮崎 卓朗 細野 賢治
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究は次の諸課題を分析した。1.地域経済の担い手である中小規模食品製造業の存在構造2.伝統手延素麺製造業の展開条件-島原そうめん長崎県南高来郡手延素麺製造業を事例に-3.地域経済に寄与する焼酎製造業の展開条件-鹿児島県芋焼酎産業を事例に-4.韓国キムチ輸入後の日本におけるキムチ市場の動向と野菜漬物産業の構造変化5.地域農業再生と活性化に果たす農産物直売所一長崎県における農産物直売所を事例に-(補論)1.キムチ貿易と韓・日両国の野菜漬物産業の構造変化2.キムチ輸入量増加と日本野菜漬物産業の市場対応3.鹿児島県焼酎産業の成長要因と持続的発展条件-内発的発展論の視点から-これらの研究は中小食品製造業がアジア諸国の地域農業発展に寄与したことを明らかにした。
著者
唐川 亜希子
出版者
昭和大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

消炎鎮痛薬である非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は,破骨細胞の分化・骨吸収活性を調節する.本研究では破骨細胞の分化過程におけるシクロオキシゲナーゼ(cyclloxygenase ; COX)の動向を解明し, NSAIDsの骨代謝への作用機序を検討した.研究期間内に我々は,(1)破骨細胞分化前期から細胞内にCOX発現が認められること,(2)骨吸収時および炎症起因物質添加時の,成熟破骨細胞のCOX-2発現が増加すること,(3)細胞内のCOX活性上昇時に転写因子ERKが影響を受けることを確認した.現在, NF kappa B, I kappa B等の核内転写因子の関連性について,継続して解析中である.
著者
高橋 伸弥
出版者
福岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ニュース音声を音声認識した結果に含まれる単語をキーワードとして検索したウェブ上の文書から音声認識用言語モデルを学習することで音声認識処理を高精度化することを試みた。その際、検索結果の文書内に含まれる単語の出現頻度を用いて計算した文書間の類似度により分類した結果から、元々の認識結果の信頼度を推定する方法を提案した。更に口語文章に含まれる長単位での定型表現をモデル化するためにネットワーク文法を自動構築する方法について検討し、高精度化のための手法を考案した。