著者
佐々木 津 福島 淳 奥田 研爾
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.407-424, 1998-05-25 (Released:2009-02-19)
参考文献数
83
被引用文献数
1

この数年の間にワクチン研究の分野で新しいアプローチが確立された。微生物の抗原遺伝子を動物に接種すると生体内で抗原タンパクが合成され, 抗原特異的な液性・細胞性免疫を誘導することができ, かつ接種を受けた動物は微生物に対する防御的免疫を獲得するというものである。この新しいワクチンの手法はDNA vaccination, genetic immunization などと呼ばれ, 従来のワクチンにはない様々な特徴を備えていることから多くの研究者の関心を集め, 急速に知見が蓄積されつつある。この免疫法の邦語訳はまだ定まっていないようであるが, この総説ではDNAワクチンと呼ぶ。DNAワクチンの特徴としては強力な細胞性免疫の誘導能という生ワクチンの長所と, 生きた病原体を使用しないため安全性が確保されるというペプチドワクチンの長所を具備している点があげられる。合成が容易で保存性に優れ, 経済性, 長期にわたる免疫反応が持続するなどの面で従来のワクチンより優れており, 次世代のワクチンとして脚光を浴びている。本総説ではこの新しい免疫法に関する研究の最近の動向を総括し, われわれが進めているヒト免疫不全ウィルス (HIV) を対象としたDNAワクチンの研究にも触れながら今後の課題と展望について述べる。
著者
森 昭暢
出版者
日本有機農業学会
雑誌
有機農業研究 (ISSN:18845665)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.40-50, 2020-07-31 (Released:2020-11-30)
参考文献数
3
著者
森川 暢 松本 真一 本橋 伊織 竹本 文美
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.77-79, 2020-06-20 (Released:2020-06-23)
参考文献数
6
被引用文献数
1

東京城東病院に平成27年から総合診療科が設立された.総合診療科は全ての領域の内科病棟診療,内科初診外来,内科救急を担い院内の中心的存在となった.さらに,慢性疾患の管理,地域包括ケア病棟でのリハビリテーションや緩和ケア,退院支援など多種多様な役割を果たし同院にとって欠かせない存在となった.東京城東病院における総合診療科の歴史と活動の変遷を報告し小規模病院における総合診療科の有用性について論じる.
著者
金 基淑 藤木 澄子 吉松 藤子
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
家政学雑誌 (ISSN:04499069)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.172-177, 1984-03-20 (Released:2010-03-10)
参考文献数
11

1) 梨果汁はこれに肉を浸漬することにより肉の軟化効果をあらわすことが認められた.2) 肉軟化の要因はプロテアーゼの存在のためと推測し, その抽出を試み, 抽出した粗酵素について若干の性質を調べた。i) 粗酵素活性の至適pHは5.5で, 梨汁のpHとほぼ一致している.ii) 粗酵素の至適温度は50~55℃で55℃を越すと活性が急速に低下するから, 加熱調理の初期の段階で強く働くものと思われる.iii) 本酵素はHg2+, Ag+, Cu2+等の重金属イオンによって活性が強く阻害された.また, 活性の発現にはD.T.T.システイン, あるいはメルカプトエタノール等のSH基保護試薬を必要とすることから, パパイン, ファイシン, プロメリソ等の植物起源プロテアーゼと同様にSH酵素であろうと思われる.3) 肉軟化効果は梨汁の場合よりも梨抽出粗酵素溶液を用いた場合のほうがよりいっそう顕著であった.4) 粗酵素の筋原繊維タンパク質への影響を調べたところ, ミオシンが反応時間の経過とともに分解されていくことが認められた.これは肉軟化の大きな要因であると考えられる.5) 肉組織の観察の結果から, 粗酵素溶液の肉基質タンパク質への影響もみられた.6) 筋漿タンパク質についても粗酵素によるプロテオリシスがみられた.
著者
西 浩司 久保 雄広 北村 立実 松崎 慎一郎 松本 俊一 山野 博哉 幸福 智 菊地 心 吉村 奈緒子 福島 武彦
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.245-256, 2020-09-28 (Released:2020-11-30)
参考文献数
18
被引用文献数
1

本研究では,ベスト・ワースト・スケーリング手法(BWS)を用いて,霞ヶ浦が有する代表的な生態系サービス(農産物,水産物,飲料水等の供給サービス,気候の調整サービス,観光,景観等の文化的サービス,多様な動植物の育成等の基盤サービス)の重要度を明らかにすることを目的として,全国及び霞ヶ浦流域を対象にしたウェブアンケートを実施した.BWS では,霞ヶ浦の生態系サービス(恵み)の組み合わせを変えて選択肢として提示し,最も重要と思うもの(Best)と最も重要でないと思うもの(Worst)を選んでもらうことを複数回繰り返すという方法で実施し,Best と Worst の選択回数の比率を生態系サービスごとの重要度の評価の指標とした.霞ヶ浦については調整サービスの「水質の浄化」,供給サービスの「水の供給」,基盤サービスの「生物の生息場所」など,湖沼の水環境保全により維持される生態系サービスが重要と評価された.この結果を食料の供給(農産物,水産物)とのトレードオフの可能性も踏まえて,今後の施策の検討へ反映することが必要と考えられた. また,今後の観光振興策の検討に資する情報を得るために,同じ手法を用いて霞ヶ浦周辺の観光地を訪れている人に現地アンケートを行い,生態系サービスの重要度を評価した.「農産物」,「水産物」に加え「生きもの」が重要と評価されたされたことから,生きものの保全をブランド化した産物の創出等が振興策として有効ではないかと考えられた.
著者
幸福 智 久保 雄広 北村 立実 松崎 慎一郎 松本 俊一 山野 博哉 西 浩司 菊地 心 吉村 奈緒子 福島 武彦
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.235-243, 2020-09-28 (Released:2020-11-30)
参考文献数
27

本研究では,全国の一般市民及び霞ヶ浦流域の住民を対象にウェブアンケート調査を実施し,霞ヶ浦が有する生態系サービスについて,選択型実験(コンジョイント分析)を用いて経済価値評価を実施した.選択型実験では,漁獲量(供給サービス)・湖岸植生帯(調整サービス)・希少種(基盤サービス)及び水質(文化的サービス)の 4 つの属性からなる選択セットを提示し,望ましい案を選択してもらうようにした.調査の結果から,生態系サービスが劣化した状態,現状及び 2040 年の将来の値(良好な状態)の水準の値を設定し,値の変化に対する支払意思額(WTP)を求め,これに人口を乗じて生態系サービスの経済価値を求めた.霞ヶ浦の生態系サービスに対する経済価値は,現状は全国では 1 兆 302 億円,県では 253 億円,流域では 70 億円, 2040 年の将来(望ましい状態への改善)の場合は,全国では,1 兆 4,264 億円,県では 324 億円,流域では 89 億円という結果となった.
著者
小川 徹 中島 清 日野 竜太郎
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.340-345, 2015 (Released:2020-02-19)
参考文献数
12

福島第一原子力発電所事故では,少なくとも3つの原子炉建屋で水素爆発が発生した。号機ごとの事故の推移や事象の詳細を解明することは今後の課題として残されているが,軽水炉の事故時水素をめぐる様々な事象の連鎖について,異分野の専門家が共通の理解を持ち,共同でその知識を更新していくことが求められる。われわれは多くの専門家の協力により「原子力における水素対策安全高度化ハンドブック」を作成する作業を進めている。本稿ではハンドブック作成活動の方針,内容について簡単に紹介する。
著者
境 博成
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.102, no.8, pp.585-593, 2007-08-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
11

イギリス, フランスに引き続き, 今回はスペイン産のリンゴ酒について紹介していただいた。同じリンゴ酒でありながら日本市場においてはアストリアス地方のシドラもバスク地方のサガルドアも知名度が低い。スペイン産リンゴ酒の歴史的背景, 原料リンゴ果からリンゴ酒の醸造, 醸造場に併設されるレストラン, 飲酒文化についての話まで巾広い話題を提供していただいた。
著者
伊藤 大樹 纐纈 慎也 須賀 利雄
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4-5-6, pp.75-95, 2019-12-25 (Released:2020-01-13)
参考文献数
76

海洋前線やメソスケール現象に伴い全球海洋に遍在するとされるサブメソスケール現象は,エネルギー輸送や生態系,物質循環において重要な役割を果たす可能性があることから,理想化したモデル実験や現実的な条件下のシミュレーション等を用いた研究が近年活発である。数値研究により力学的・生物地球化学的重要性の理解が進む一方で,時空間スケールの小さな現象であるために,現場観測による研究は少ないのが現状である。本論文では,異なる形成発達過程により生じるサブメソスケールの流れを,形成の力学特性に応じて三つの主要なメカニズムに分類しまとめた。そして,この分類とこれまでの観測事例に基づいて,これからのサブメソスケール現象に対する現場観測からのアプローチの可能性を検討した。
著者
瀧川 真也 横光 健吾
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.49-58, 2019-08-31 (Released:2019-09-14)
参考文献数
31
被引用文献数
1

これまでの研究により,嗜好品の摂取には心理学的効果があることが確認されている.本研究は,嗜好品の自伝的記憶に着目し,嗜好品に関する回想機能の特性とその加齢の影響について検討を行った.日常的に嗜好品を摂取している20歳から79歳までの1,800名(平均年齢=49.49歳,SD=16.32)を対象にオンライン調査を行った.調査協力者は,コーヒー,茶,タバコ,酒のうち最も好んで摂取している嗜好品に関する記憶について回想機能尺度に回答した.分析の結果,年代間で,“アイデンティティ”や“辛い経験の再現”などの回想機能に差があることが確認された.また,“退屈の軽減”や“会話”などの回想機能では,嗜好品の種類により回想機能が異なることが明らかとなった.
著者
三浦 麻子
出版者
日本基礎心理学会
雑誌
基礎心理学研究 (ISSN:02877651)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.123-131, 2020-09-30 (Released:2020-11-18)
参考文献数
19

This article explains the basic features of survey, which is one of the major research methods in psychology, its pros and cons, and the points to be considered when conducting it. In particular, it focuses on Web surveys, which are becoming more common nowadays. It explains how the data obtained by Web surveys from broader generals are likely to be different from those obtained by conventional and convenient method, which inviting people close to the researcher, such as university students, to participate. The author hopes that this paper will provide the readers with a basic knowledge of web research and help them to select appropriate situations for survey data collection from among the various phases of psychological research.
著者
今村 佳代子 瀬上 綾 和田 みゆき 迫田 真貴子 瀬戸 梢 原口 美穂 松木田 恵美 丸山 千寿子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.277-287, 2012 (Released:2014-04-24)
参考文献数
35
被引用文献数
5

目的 母親の食生活に対する行動変容の準備性と子どもの朝食摂取の状況および家族の健康関連行動との関係を明らかにすることを目的とした。方法 調査に同意の得られた鹿児島県内の18小学校の児童1,949人と,7 校の保護者881世帯を対象として自記式調査法でアンケートを実施した。児童には,朝食の摂取状況やアンケート記入日の朝食の内容を回答させ,保護者には朝食の摂取状況と,Prochaska らのステージ理論に基づいて食生活に対する行動変容の準備性を 5 段階で回答してもらった。結果 回収率は児童が83.3%(1,624人),保護者が83.1%(732世帯)であった。朝食を毎日食べる児童は83.1%であり,15.1%の児童に欠食の習慣がみられた。アンケート記入日の朝食は98.6%の者が食べていたが,ごはんやパンなどの「主食」のみを食べていた者が15.1%おり,「主食」,「主菜」,「野菜•果物」をそろえて食べた児童は34.0%にとどまった。母親の食生活に対する行動変容の準備性は,「維持期」が28.1%,「実行期」が24.0%,「準備期」は6.9%,「関心期」は9.8%,「無関心期」は5.7%であった。そこで,既に食生活に対して何かを実行している「維持期」,「実行期」の者を『実行群』,現在食生活に対して何も実行していない「準備期」,「関心期」,「無関心期」を『非実行群』,質問に対して無回答の者を『無回答群』(25.5%)として 3 群間で比較した。母親が実行群の児童と比べて,無回答群では朝食を欠食する者が多かった(P=0.000)。調査日の朝食内容は,「野菜•果物」を食べた児童が,実行群と比べて非実行群では少なく(P=0.003),無回答群では(P=0.036)少ない傾向にあった。さらに実行群の母親に比べて非実行群と無回答群ではそれぞれ惣菜や市販弁当の利用頻度が高い傾向にあり(P=0.025, P=0.036),家族と食事や食べ物についての話し合いをしておらず(P=0.004, P=0.002),父親の喫煙率も高かった(P=0.000, P=0.000)。結論 母親の食生活に対する行動変容の準備性により児童の朝食摂取習慣や内容,および家族の健康関連行動が異なることが示唆された。今後,学童期の子どもと母親を対象とした食育を実施する際,母親の食生活に対する行動変容の準備性を考慮したアプローチをする意義は大きいと考えられた。
著者
Eberhard Zwicker Hugo Fastl Ulrich Widmann Kenji Kurakata Sonoko Kuwano Seiichiro Namba
出版者
Acoustical Society of Japan
雑誌
Journal of the Acoustical Society of Japan (E) (ISSN:03882861)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.39-42, 1991 (Released:2011-02-17)
参考文献数
12
被引用文献数
46 87

The method for calculating loudness level proposed by Zwicker is standardized in ISO 532B. This is a graphical procedure and it can be tedious to calculate loudness level by this procedure. Recently, DIN 45631 has been revised including a computer program for calculating loudness level in BASIC which runs on IBM-compatible PC's. Since the NEC PC-9801 series computers are popular in Japan, the program has been modified for the NEC PC-9801 series computers and is introduced in this paper.
著者
花室 孝広 梅田 浩司 高島 勲 根岸 義光
出版者
一般社団法人 日本鉱物科学会
雑誌
岩石鉱物科学 (ISSN:1345630X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.27-38, 2008 (Released:2008-05-15)
参考文献数
53
被引用文献数
1 2

The high temperature hot springs such as in Yunomine and Tosenji and the hydrothermal alteration zones of the Hongu area are distributed in the southern part of Kii peninsula, though Quaternary volcanoes which can be their potential heat sources are not distributed in the area. This research has aimed to understand the thermal history of the area by using several dating methods.     Thermoluminescence (TL) dating method was applied according to the distance from dykes or gushing out point of the hot springs which thought to be the center of alteration. The results show that the alteration age of Yunomine alteration zone is younger as it approaches the gushing out point of hot spring. No clear tendency was observed in other places. These results suggest that the alteration ages near Yunomine hot spring are controlled by the distance from the gushing out point. However, no clear tendency was observed at other hot springs between the alteration ages and the distance from the center of alteration when two or more activities of alteration have occurred.     The results of the TL, Fission Track (FT) and K-Ar dating show that after the high temperature hydrothermal alteration (until tens of millions of years ago), relatively low temperature alteration (from at least hundreds of thousands of to tens of thousands of years ago) occurred in Hongu and Totsukawa area.
著者
三浦 誠司 西岡 道人 野澤 慶次郎 藤田 正信 青木 久恭 和田 浩明 捨田利 外茂夫 三重野 寛治 小平 進
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.18-23, 1998 (Released:2009-06-05)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

22歳,男性.主訴は入工膣からのガス・便の排出.1年10か月前に海外で膣造設術を含む性転換手術を受けている.造影および内視鏡検査では瘻孔は高位にあり,直腸膣中隔の膣側上皮は広汎に欠損していた.手術は経仙骨的アプローチで施行し,直視下に瘻孔を切除して層々に縫合閉鎖した.術後3年以上経過した現在,再発はない,本症例は腹部や大腿部に創痕が残るような術式を拒んだため,瘻孔を閉鎖できたが,膣を安全に使用できるような術式ではなかった.男性性転換手術者に発生する直腸膣瘻の治療は困難で,その理由として発生原因が人工膣の萎縮防止用ステントを長期間使用したための圧迫壊死であること,および造膣手術時に広範囲に剥離が行われていて周囲組織を瘻孔閉鎖手術時の修復に利用できないことなどがあげられている.欧米の報告では本症の発生率は低いが,観察期間が短いものが多いことから過小評価されている可能性が考えられる.